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腫瘍・病理

眼内悪性リンパ腫(PIOL)

1. 眼内悪性リンパ腫(PIOL)とは

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全身にリンパ腫がなく眼内に悪性リンパ腫が初発した場合を、原発眼内リンパ腫(primary intraocular lymphoma; PIOL)とよぶ。多くは網膜硝子体に病巣を形成することから、最近は硝子体網膜リンパ腫(vitreo-retinal lymphoma; VRL)と称することもある。腫瘍化したリンパ球が眼内に浸潤してぶどう膜炎様の眼所見を呈するため、代表的な仮面症候群(masquerade syndrome)の一つとして知られる。多くの症例が中枢神経系リンパ腫(PCNSL)を合併し、致命的な経過をたどることが多い。

眼内に原発するリンパ腫のほとんどは、組織学的にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma; DLBCL)に相当する。きわめて悪性度が高く、眼付属器に多い低悪性度のMALTリンパ腫とは病態・予後ともに大きく異なる。なお、眼科領域の悪性リンパ腫の多くは非ホジキンリンパ腫であり、PIOLもこの範疇に含まれる。

Q ステロイドが効かないぶどう膜炎の場合、何を疑うべきか?
A

ステロイド治療(点眼・内服)に対して反応が不良な場合、眼内悪性リンパ腫(PIOL)を代表的な鑑別疾患として必ず考慮する必要があります。PIOLは「仮面症候群」とも称され、炎症性ぶどう膜炎に酷似した所見を呈します。さらに、ステロイドによってリンパ腫細胞が一時的に溶解して症状が改善することがあり、その後の生検での偽陰性につながります。硝子体混濁が強いのに視力が良好である場合は特に疑います。IL-10/IL-6比の測定と硝子体生検による確定診断が必須です。

眼内リンパ腫は発生部位に応じて4型に分類される。

病型特徴
眼+中枢神経系型最多(全体の約60%)。PCNSLとの密接な関連
眼内のみ(狭義眼内リンパ腫)限局型。孤立性PVRL
眼+他臓器型CNS以外の臓器に播種
眼+他臓器+CNS型最も広汎な病変

眼と中枢神経系に生じる型が最も多く、全体の約60%を占める。

眼内リンパ腫の蛍光眼底造影・OCT・硝子体所見(aurora borealis パターン)
眼内リンパ腫の蛍光眼底造影・OCT・硝子体所見(aurora borealis パターン)
Naia L, et al. Primary vitreoretinal lymphoma masquerading as refractory uveitis. Porto Biomed J. 2024;9(5):268. Figure 1. PMCID: PMC11469907. License: CC BY 4.0.
右眼・左眼それぞれの蛍光眼底造影(A・B)および光干渉断層計(C・D)で中等度の硝子体炎を示し、硝子体切除時の標本(第4列)では均質な大型細胞のシート状集簇が「オーロラ・ボレアリス」パターンを呈している。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う帯状・索状硝子体混濁に対応する。

代表的な自覚症状を以下に示す。

  • 霧視硝子体混濁による視野全体のかすみ)
  • 飛蚊症硝子体内のリンパ腫細胞浸潤による)
  • 緩徐に進行する無痛性の視力低下
  • 硝子体混濁が強いにもかかわらず視力が比較的良好に保たれる(特徴的所見)

霧視は最も頻度の高い自覚症状である。硝子体混濁の強さに不釣り合いな良好な視力は、本疾患を疑う重要な手がかりとなる。

硝子体混濁の特徴

帯状・索状パターン:後極から周辺に放射状に広がる独特なパターンを示す。

オーロラ状混濁:細胞密度が高く、動的に観察すると「オーロラ状」と形容される硝子体混濁が確認できる。

大小不揃いの細胞:高密度のリンパ腫細胞が大小不揃いに存在する。

視力温存との乖離:混濁の強さに比べて視力が良好なことが本疾患を疑う鍵となる。

網膜・RPE所見

黄白色斑状病巣網膜色素上皮RPE)下・Bruch膜下にリンパ腫細胞が浸潤し、黄白色の点状〜斑状病巣を形成する。

病巣の癒合拡大:小さな点状病巣が癒合して大型病巣へと拡大する。

乳頭炎様所見:乳頭周囲の網膜下への腫瘍細胞浸潤によって乳頭炎様所見を呈することがある(まれ)。

白鞘形成網膜血管炎を思わせる血管白鞘形成がみられることもある。

眼内再発時には角膜後面沈着物(KP)の頻度が初発時より増加する傾向が報告されている2)

Q PIOLはどうやって診断するか?
A

PIOLの確定診断には硝子体手術に準じた硝子体生検が必要です。採取した硝子体液を用いて、細胞診・IL-10/IL-6比の測定・PCRによるIgH遺伝子再構成検索・フローサイトメトリーを組み合わせて診断します。細胞診単独では陽性率が50%程度と低く、IL-10/IL-6比>1(感度89.4%)やフローサイトメトリー(感度88.0%)、PCR(感度85.1%)の組み合わせが有用です1)。診断前にステロイドを使用している場合は偽陰性リスクがあるため、可能な限りステロイドを中止したうえで生検を施行します。

診断確定時の年齢は平均63歳で、やや女性に多い。発生頻度は大学病院におけるぶどう膜炎の1〜2%程度とされる。中枢神経系リンパ腫の15〜20%に眼症状がみられる。

香港における10例17眼の症例シリーズでは、中央値59歳、女性70%、両側性70%であった1)。上海における51例の後方視的研究では、両側性78.4%が報告されている2)。両側性が多い疾患であることが示されており、片眼性で発症した場合にも対側眼の精査と経過観察が重要である。

発症から診断確定までに遅延を生じやすい(仮面症候群のため平均12〜18か月ともされる3))。免疫不全(HIV感染症など)や免疫抑制状態(臓器移植後・免疫抑制薬使用中)がリスク因子とされる。

眼内リンパ腫のOCT像(RPE下高反射塊)と眼底写真(黄白色輪状病巣)
眼内リンパ腫のOCT像(RPE下高反射塊)と眼底写真(黄白色輪状病巣)
Wang SY, et al. Primary vitreoretinal lymphoma: diagnosis, treatment, and prognosis. Blood Sci. 2025;7(2):e00233. Figure 1. PMCID: PMC12047895. License: CC BY 4.0.
75歳女性の多モーダル画像で、Bスキャン超音波(左上)は後部硝子体の広汎な混濁を示し、OCT(左下)は黄斑耳側に癒合したRPE剥離と均質な高反射塊をRPE下に捉えており、眼底写真(右)では黄斑耳側に色素小斑を伴う輪状の黄白色隆起病巣が確認できる。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱うOCT高反射RPE下浸潤と黄白色網膜下病巣に対応する。

確定診断には硝子体手術に準じた硝子体生検を行う。細胞診のみでは診断を確定できるとは限らず、PCRによる免疫グロブリン遺伝子再構成の検索やサイトカイン測定を組み合わせることが必須である。

  • ステロイド治療(点眼・内服)への不応(最重要)
  • 硝子体混濁が強いのに視力が良好
  • 中年以降に発症するぶどう膜炎様所見
  • 片眼または両眼の特徴的な帯状・索状硝子体混濁
検査法特徴・感度臨床的意義
細胞診陽性率50%(香港シリーズ)1)基本検査。偽陰性に注意
IL-10/IL-6比>1で感度89.4%1)最重要バイオマーカー
IL-10絶対値≥50 pg/mLが有用再発時は比>1より信頼性高い2)
フローサイトメトリーCD20+ B細胞。感度88.0%5)単クローン性増殖の評価
PCR(IgH遺伝子再構成)感度85.1%5)B細胞クローン増殖の証明
MYD88変異解析感度70%6)分子病態の診断にも有用
cell-free DNAによるMYD88検出細胞DNAより検出率約30%向上1)低侵襲診断。房水でも可能9, 10)
6項目診断フレームワーク感度97.5%・特異度100%8)複合指標による高精度診断

眼内液中のIL-10が高値となる一方、炎症性疾患で高値となるIL-6はIL-10より低値となり、IL-10/IL-6比>1が診断的価値を持つ。ただし再発時にはこの比が低下する場合(43.8%のみ>1)があり、IL-10絶対値≥50 pg/mLがより信頼性の高い指標となる2)

眼内リンパ腫の診断が確定した後は、以下を定期的に施行して中枢神経系リンパ腫の早期発見に努める。

  • ガドリニウム造影頭部MRI:無症候性CNS病変の検出に必須
  • 全身PET検査:全身腫瘍病変の分布把握に有用

PIOLの治療は眼局所治療と全身化学療法の組み合わせが基本となる。血液眼関門(blood-retinal barrier; BRB)が全身化学療法の眼内移行を制限するため、眼内病変の制御には局所治療が必須である。

硝子体内メトトレキサート(MTX)注射(第一選択)

Section titled “硝子体内メトトレキサート(MTX)注射(第一選択)”

メトトレキサート(メソトレキセート注射液200 mg)を400 μg/0.1 mLで硝子体内注入する。標準プロトコルは以下のとおりである。

  • 誘導期:週2回×4週間
  • 強化期:週1回×8週間
  • 維持期:月1回×9か月間

香港シリーズでは中央値5回の注射で完全寛解率77.8%が報告された1)。また400 μg/0.05 mLの低容量でも使用される。20年間の経験を集積した大規模報告では、完全寛解率97%が示されている6)

主な副作用角膜症(33〜100%)。保存剤フリー点眼・バンドコンタクトレンズ(BCL)・葉酸内服で管理する1)

総量30 Gy程度の眼局所照射が有効である。両側性・高齢・MTX不耐・通院困難例に適用される。ただし放射線網膜症視神経症白内障などの副作用リスクがあり、MTX注射が可能であれば優先される傾向がある4)

診断的硝子体切除後に完全寛解が得られる症例がある(香港シリーズ: 75%1)、別報告: 19.7%7))。リンパ腫細胞増殖の足場除去と腫瘍量減少が機序と考えられており、MTX不耐・拒否例の選択肢となる。

全身化学療法(中枢神経系リンパ腫合併時)

Section titled “全身化学療法(中枢神経系リンパ腫合併時)”

大量MTX全身投与が基本となる。

  • 大量MTX療法:メソトレキセート 100〜200 mg/kg(成人で1回5〜10 g)点滴静注
  • ロイコポリンレスキュー:翌日より3日間、ロイコポリン注5アンプル/生理食塩液100 mLを4時間ごと4回点滴静注
  • 厳密な輸液・尿量・尿pH管理のもと、プロトコールに則って施行する必要がある

必要に応じて全脳照射(WBRT)を加える場合もあるが、白質脳症をはじめとする副作用リスクがあるため、特に高齢者では適応を慎重に決定する。

病態推奨治療
眼内病変のみMTX硝子体内注射 ± 眼局所放射線(30 Gy)
CNS合併大量MTX全身投与 ± 全脳照射 + 眼局所治療
眼内再発時MTX硝子体注射(完全寛解55.6%・部分寛解33.3%)2)

全身化学療法と硝子体内化学療法の併用が眼内再発リスクを低減させる可能性がある。硝子体内化学療法の既往がないことが眼内再発の独立したリスク因子として報告されており2)、積極的な眼局所治療の重要性が示されている。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

眼内に原発するリンパ腫のほとんど(95%以上)はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に相当する。リンパ球系細胞の単クローン性増殖による悪性腫瘍であり、眼付属器に多い低悪性度のMALTリンパ腫とは対照的にきわめて悪性度が高い。

MYD88 L265P変異PVRL/PCNSLに高頻度に検出される。この変異はToll様受容体シグナルの恒常的活性化をもたらし、NF-κB経路を持続的に活性化させて腫瘍細胞の増殖・生存を維持する6)。BTK(ブルトン型チロシンキナーゼ)もこの経路の下流に位置し、治療標的として注目されている。

VEGFおよびIL-10の高発現が腫瘍細胞の免疫逃避に寄与する。IL-10は腫瘍細胞自身が産生するサイトカインであり、免疫抑制環境の形成に関与する。

腫瘍細胞の形質転換はCNS外で生じ、その後、免疫特権を有する眼内に移行すると考えられている3)。血液眼関門(BRB)が全身化学療法の眼内移行を制限するため、眼内病変の制御には硝子体内注射や眼局所放射線などの局所治療が必須となる。

主な浸潤部位:

  • 硝子体腔(リンパ腫細胞の主要な増殖の場)
  • 網膜色素上皮RPE)(網膜下浸潤の起点)
  • Bruch膜下(RPEとBruch膜の間に病巣形成)

硝子体混濁は帯状・索状を呈し、後極から周辺に放射状に広がる独特なパターンを示す。網膜へ浸潤したリンパ腫細胞は次第に黄白色の斑状病巣を形成し、癒合拡大することもある。

PIOLとPCNSLは遺伝子発現プロファイルに共通点が多く、両者は同一疾患スペクトラムに属すると理解されている3)。これがPIOL患者において高頻度にCNS病変が発症する背景となっている。

液体バイオプシーによる低侵襲診断

Section titled “液体バイオプシーによる低侵襲診断”

硝子体液・房水中のcell-free DNAを用いたMYD88変異検出が注目されている。細胞DNAより検出率が約30%高く1)、高度に希釈された検体でも有効である。房水での検出(超高感度ddPCRを用いたMYD88 L265P変異検出)が報告されており9, 10)硝子体生検が困難な症例への応用が期待される。

  • リツキシマブ(抗CD20抗体)硝子体内投与:PIOLへの応用として検討されているが現時点では研究段階である
  • BTK阻害薬(イブルチニブ):再発・難治性PCNSLに対する有効性が示されており、MYD88変異陽性PIOLへの展開が研究されている
  • CAR-T細胞療法:血液悪性腫瘍における探索的研究が進行中

全身・眼局所併用療法の最適化

Section titled “全身・眼局所併用療法の最適化”

51例を対象とした後方視的研究では、全身化学療法と硝子体内化学療法の併用が眼内再発リスクを低減させる可能性が示されている2)。最適な投与スケジュールについてはさらなる前向き研究が必要である。

Q 中枢神経系リンパ腫に進展するリスクはどの程度か?
A

PIOLでは最終的に相当数の症例がCNS病変を発症します。孤立性PVRL(眼のみ)の55.6%が新規CNSL(中枢神経系リンパ腫)を発症し、その中央値は35.1か月でした2)。香港シリーズでは10例中7例(70%)にCNS病変が認められ、57.1%では眼病変がCNS病変に先行していました1)。このため眼内病変が確認された後も、ガドリニウム造影頭部MRIによる定期的なCNS精査が不可欠です。眼内再発はCNS再発率や全生存には直接影響しないことが報告されていますが2)、CNS病変発症後の予後は依然として厳しい場合が多いです。

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