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ぶどう膜炎

ぶどう膜炎仮面症候群(Uveitis Masquerade Syndromes)

ぶどう膜炎仮面症候群(Uveitis Masquerade Syndromes; UMS)は、免疫介在性または感染性のプロセスによらない眼内浸潤細胞を呈する疾患群の総称である。1967 年に Theodore が慢性結膜炎として発症した結膜癌の症例に対して初めて「仮面症候群」の用語を使用した。ステロイド治療に不応、または一時改善後に再燃する場合に本症を疑う。

UMS は大きく腫瘍性非腫瘍性の 2 群に分類される。腫瘍性 UMS の代表は眼内リンパ腫であり、非腫瘍性 UMS には眼内異物・色素散布症候群・網膜剥離などが含まれる。

三次ぶどう膜炎クリニックにおける UMS の頻度は 2.5〜5% と報告されている5, 9)ぶどう膜炎診療ガイドライン 2019 における疫学統計でも眼内悪性リンパ腫は 1.0%、仮面症候群は 2.5% を占める5)。Rothova(2001)は 828 人中 40 人(5%)が UMS と診断され、うち 48% に眼内悪性腫瘍を認めたと報告した9)

Q 仮面症候群はどのような疾患と間違えやすいか
A

サルコイドーシス、トキソプラズマ症、梅毒、結核、中間部ぶどう膜炎急性網膜壊死、バードショット網膜脈絡膜炎など、一般的な眼炎症性疾患を模倣する。特にステロイドに一時的に反応することが診断の遅れにつながる9)。高齢者・悪性腫瘍の既往・免疫抑制状態では積極的に UMS を鑑別する。

UMS の症状は原因疾患により多様であるが、一般にぶどう膜炎と区別がつかない。

  • 霧視硝子体混濁網膜下浸潤による。最も頻度が高い
  • 飛蚊症硝子体内の細胞浸潤による。PVRL で顕著である
  • 視力低下:緩徐に進行する無痛性の視力低下が PVRL の特徴
  • 眼痛:転移性虹彩腫瘍では続発緑内障による強い眼痛を呈する1)PVRL の眼内再発時にも眼圧上昇を伴う眼痛がみられることがある2)
  • 充血:前眼部の浸潤や続発緑内障に伴う

腫瘍性 UMS の主要な原因別臨床所見を以下に示す。

PVRL

硝子体混濁:ベール状のびまん性混濁が特徴。リンパ腫細胞が末梢硝子体線維に沿って帯状・索状に配列し、後極から周辺に放射状に広がる独特なパターンを示す2, 12)

網膜下浸潤:クリーム色〜黄白色の浸潤がサルコイドーシスやホワイトドット症候群に類似する。

角膜後面沈着物:眼内再発時には初発時より高頻度(47.4% vs 29.4%)にみられる2)。星状または mutton fat 様の形態を呈する。

前房内細胞:前部ぶどう膜炎を模倣する。

転移性腫瘍・白血病

脈絡膜腫瘤網膜下液を伴うクリーム白色〜淡黄色の腫瘤。最も一般的な眼転移の形態。

虹彩結節虹彩表面に散在する小結節。続発緑内障を伴う1)

前房蓄膿:白血病に特徴的。両側性で粘稠、しばしば血性である。

隅角腫瘤隅角鏡で小腫瘤や周辺虹彩前癒着を認める1)

眼内悪性リンパ腫では比較的軽度の虹彩炎に強い硝子体混濁という特徴的な組み合わせを示し、ベール状の硝子体混濁真菌性眼内炎の塊状硝子体混濁と鑑別点となる。

Q 白血病の眼症状にはどのようなものがあるか
A

白血病患者の最大 90% に眼病変が報告されている。前眼部では偽前房蓄膿虹彩浸潤、後眼部では綿花状白斑・ロス斑様の白芯網膜出血・網膜静脈の蛇行拡張が認められる。漿液性網膜剥離をきたし Vogt-小柳-原田病や後部強膜炎を模倣することもある。成人 T 細胞白血病/リンパ腫(ATL)では HTLV-1 感染と関連した独特のぶどう膜炎様病態が知られている5)

原因疾患特徴
PVRL最多。悪性 UMS の 75%9)
白血病・ATL前房蓄膿、両側性
転移性固形腫瘍脈絡膜転移が最多(乳癌・肺癌)
原発性ぶどう膜リンパ腫低悪性度 MALT リンパ腫。稀
  • PVRL:年間発生率は人口 10 万人あたり約 1 人。診断確定時の年齢は平均 63 歳で、やや女性に多い。免疫不全・免疫抑制がリスク因子である。組織学的にはほぼすべて(98%)が非ホジキン B 細胞リンパ腫であり、びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫(DLBCL)に相当する。病型は (1) 眼と中枢神経系、(2) 眼内のみ、(3) 眼+他臓器、(4) 眼+他臓器+中枢神経系の 4 型に分類される。最多は (1) で全体の 6 割程度を占める。中枢神経系リンパ腫の 15〜20% に眼症状がみられ、眼病変のみで発症した患者の大多数が後に CNS リンパ腫を発症する10, 12)
  • 成人 T 細胞白血病/リンパ腫(ATL):HTLV-1 ウイルス感染に起因する T 細胞性血液腫瘍で、ぶどう膜炎様の眼浸潤を呈し仮面症候群の一因となる5)。九州・沖縄地方など HTLV-1 感染率の高い地域で比較的多く認められる。
  • 転移性固形腫瘍:転移性疾患患者の約 8〜10% に眼病変を認める。約 30% で眼転移が全身腫瘍播種の最初の徴候となる。虹彩転移は全転移性ぶどう膜腫瘍の 8% を占める1)。原発巣は乳癌・肺癌が多い。
  • 眼内異物IOFB穿通性眼外傷の 17〜40% に認める。残留した鉄・銅は網膜変性と視力喪失を引き起こす
  • 色素散布症候群(PDS:発生率は人口 10 万人あたり約 4.8 人。虹彩後面とチン小帯の摩擦による色素放出が前房内炎症を模倣する
  • 網膜色素変性症RP:4,000 人に 1 人。硝子体細胞や嚢胞状黄斑浮腫中間部ぶどう膜炎と誤診されうる
  • 眼虚血症候群(OIS):頸動脈狭窄・閉塞による眼低灌流。約 20% に前房内炎症細胞を認める
  • 網膜剥離:慢性裂孔原性網膜剥離が炎症・低眼圧増殖硝子体網膜症を伴って仮面症候群を呈する
Q 成人 T 細胞白血病/リンパ腫でも仮面症候群は起こるか
A

ATL(adult T-cell leukemia/lymphoma)は HTLV-1 感染に起因する T 細胞性腫瘍で、眼内へのリンパ腫細胞浸潤によりぶどう膜炎様の病態(前房炎症・硝子体混濁網膜浸潤)を呈し、仮面症候群の一因となる5)PVRL とは組織学的に異なり(T 細胞性)、治療反応性や予後も異なる。HTLV-1 高感染地域では鑑別対象として念頭に置く必要がある。

UMS の診断には高い臨床的疑いが不可欠である。特に初めてぶどう膜炎を発症した高齢患者、ステロイドに一時的に反応したが再燃した症例、悪性腫瘍の既往がある患者では積極的に鑑別する。ぶどう膜炎診療ガイドライン 2019 に基づくスクリーニング検査を実施する5)

  • 悪性腫瘍(特に乳癌・肺癌)や血液腫瘍の既往
  • ステロイド治療への反応パターン(一時的改善後の再燃)
  • 眼外傷の既往(IOFB の可能性)
  • 免疫不全・免疫抑制状態
  • HTLV-1 感染の有無・出身地(ATL 鑑別)
  • 細隙灯顕微鏡検査前房内細胞・フレア、角膜後面沈着物、偽前房蓄膿虹彩結節の有無を評価する
  • 隅角鏡検査隅角結節・周辺虹彩前癒着・腫瘤の有無を確認する
  • 眼底検査硝子体混濁の性状(ベール状 vs 塊状 vs 雪玉状)、網膜下浸潤、脈絡膜腫瘤を評価する
  • 蛍光眼底造影網膜血管の透過性亢進・新生血管嚢胞様黄斑浮腫を検出する

PVRL の確定診断には硝子体生検が重要である5, 10)

  • 細胞診:大きな過染色核と乏しい好塩基性細胞質を持つ多形性細胞を確認する。ステロイド投与後はリンパ腫細胞が溶解し偽陰性となる可能性があるため、ステロイド中止後に実施する3)
  • フローサイトメトリー:B 細胞(CD19+/CD20+)や T 細胞の比率を評価し、単クローン性増殖を確認する6)
  • IL-10/IL-6 比房水または硝子体液中の IL-10 が IL-6 より高値の場合、PVRL を強く示唆する。IL-10 測定の感度は 85.7%、特異度は 81.1% と報告されている2, 13)
  • MYD88 変異検出:cell-free DNA を用いた MYD88 L265P 変異検出が注目されている。細胞 DNA より検出率が約 30% 高いと報告されている3)
  • PCR 免疫グロブリン遺伝子再構成:クローナリティの確認に用いる5)
  • 腫瘍マーカー(房水中):転移性眼内腫瘍では原発腫瘍に対応する腫瘍マーカー(CEA 等)の房水中測定が補助診断に有用である。ある症例では房水中 CEA 値(75.6 ng/mL)が血清値(17.3 ng/mL)の 4 倍以上であった1)
  • 虹彩生検:転移性虹彩腫瘍が疑われる場合。免疫染色(TTF-1、Napsin A など)を併用する1)
  • ガドリニウム頭部造影 MRI:中枢神経系リンパ腫の検索
  • 全身 PET/CT:全身の腫瘍病変の検索
疾患鑑別のポイント
サルコイドーシス硝子体混濁ステロイド反応性。血清 ACE 高値、胸部 CT
Behçet 病一過性前房蓄膿、口腔・陰部潰瘍
急性網膜壊死周辺部黄白色病変が数日単位で円周性拡大
CMV 網膜網膜出血伴う、日和見感染、PCR 陽性
トキソプラズマ症特徴的 FA 所見、IgG 抗体
真菌性眼内炎塊状(ベール状でない)硝子体混濁、IVH 歴
Q なぜ PVRL の診断は遅れやすいのか
A

PVRL はステロイドに一時的に反応するため、ぶどう膜炎と診断されてステロイド治療が継続されることが多い3)。また硝子体生検の細胞診陽性率が低く(30〜50%)、ステロイド前投与によりリンパ腫細胞が溶解して検出されにくくなることも原因である。IL-10/IL-6 比測定や MYD88 変異検出などの補助検査が診断精度向上に寄与する13)

UMS の治療は原因疾患の同定と治療が原則である。腫瘍性 UMS では原疾患に対する化学療法・放射線療法が主体となる。

従来は外照射放射線療法が第一選択であったが、重篤な副作用のため現在は両側病変・高齢者・頻回注射が困難な患者に限られる3)

眼局所治療

  • 硝子体内 MTX 注射(第一選択)3, 7)
    • 投与プロトコル:400μg/0.1mL を 週 2 回×4 週 → 週 1 回×8 週 → 月 1 回×9 ヶ月
    • 10 年間の経験に基づく Frenkel 2008 のレジメンが広く参照される7)
    • 毒性:MTX 角膜症(点状表層角膜炎)が出現することがある
  • 硝子体リツキシマブ注射:1 mg/0.1 mL で投与5)
    • MTX 無効例や B 細胞性リンパ腫に対して有効性が報告されている
  • 放射線療法:両眼に総量 30 Gy 程度の放射線照射5)

硝子体手術

  • 診断目的の硝子体切除術に加え、治療的意義も報告されている
  • ある研究では硝子体切除術のみで 75%(8 眼中 6 眼)に完全奏効が得られた3)
  • 硝子体の足場を除去することでリンパ球増殖が抑制される可能性がある

全身化学療法

  • 高用量 MTX 点滴:1 回 100〜200 mg/kg(成人 1 回 5〜10 g)点滴静注
  • 翌日から 3 日間:ロイコボリン(ホリナートカルシウム)5 アンプル/生理食塩液 100 mL を 4 時間毎 4 回点滴静注
  • CNS 病変合併:高用量 MTX ± 全脳照射
  • 全身化学療法と硝子体内化学療法の併用が眼内再発リスクを低減させる可能性がある2)
  • 全身治療:原発腫瘍に対する化学療法・分子標的薬が基本。分子標的薬(オシメルチニブなど)の進歩により生存期間が延長している1)
  • 放射線療法虹彩転移に対しては外照射放射線療法(41%)やプラーク放射線療法(24%)1)
  • 手術療法虹彩転移に対する外科的切除は全体の 5% にとどまる1)

Konno ら(2024)は、肺腺癌からの転移性虹彩腫瘍による仮面症候群の 1 例を報告した1)線維柱帯切除術ベバシズマブ硝子体内注射 1 回、およびオシメルチニブの継続投与により虹彩腫瘍は消退し、眼圧は 8〜10 mmHg に制御された。初診から 2 年 9 ヶ月間 QOL が維持された。

原因疾患の除去・治療が基本となる。

  • 眼内異物:異物除去手術。鉄・銅などの重金属は早期除去が必要
  • 色素散布症候群眼圧管理。色素緑内障への移行に注意する
  • 網膜剥離:外科的網膜復位術
Q PVRL の治療後に再発することはあるか
A

PVRL は眼内再発の頻度が高い。ある研究では平均 42.5 ヶ月の追跡期間中に 51 例中 14 例(27.5%)に眼内再発を認めた2)。再発時の最も多い所見は硝子体混濁(84%)である。定期的な眼科経過観察と IL-10 測定が再発早期発見に推奨される2, 5)硝子体内化学療法の既往がないことが眼内再発の独立した危険因子(OR 7.72; 95% CI 1.37-43.6)として同定されている2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

PVRL は稀な中枢神経系リンパ腫の一型であり、眼内に初発する。最終的に約 80% が CNS 病変を発症する4)。腫瘍細胞の形質転換は CNS 外で生じ、その後免疫特権を有する眼内へ移行すると考えられている4)

血液眼関門(blood-retinal barrier; BRB)の存在が PVRL の病態に重要な役割を果たす。BRB は全身化学療法の眼内移行を制限するため、眼内病変の制御が困難となる2, 4)。これが硝子体内化学療法の必要性の根拠である。

眼内リンパ腫細胞はほとんどが DLBCL で、きわめて悪性度が高く、中枢神経系に発症した際の予後は厳しいことが多い。視機能の予後は黄斑部視神経への腫瘍細胞浸潤がなく、放射線による網膜症・視神経症をきたさなければ比較的良好に保たれる。一方、網膜病変が広範囲に及んだ場合や黄斑萎縮・視神経萎縮が生じた場合は視機能が著しく低下する。MYD88 L265P 変異(Toll 様受容体シグナルの恒常的活性化)が腫瘍細胞の増殖・生存維持に関与する3)

眼転移は血管が豊富なぶどう膜、特に脈絡膜に好発する。虹彩転移はぶどう膜転移全体の 8% と稀であるが、特にぶどう膜炎仮面症候群として現れやすい1)。転移性虹彩腫瘍による続発緑内障の機序は、腫瘍細胞の隅角浸潤や周辺虹彩前癒着による房水流出路の閉塞である1)。高用量 MTX を中心とした化学療法により以前より生命予後の改善がみられるが、高齢発症例では依然として予後不良となる例が多い。

  • 色素散布症候群虹彩後面と水晶体チン小帯の摩擦により虹彩色素上皮から色素が遊離し、前房内に放出される
  • 眼虚血症候群:慢性低灌流による VEGF レベルの上昇が血管透過性を亢進させ、前房内炎症を惹起する
  • 網膜色素変性症:光受容体・網膜色素上皮細胞の変性に伴う二次的な炎症反応が硝子体内細胞として観察される

液体バイオプシーによる診断精度の向上

Section titled “液体バイオプシーによる診断精度の向上”

PVRL の診断において、硝子体液中の cell-free DNA を用いた MYD88 変異検出が注目されている3)。cell-free DNA による MYD88 変異検出率は細胞 DNA に比べ約 30% 高く、高度に希釈(100 倍以上)された硝子体検体でも有効であった。房水検体での検出も可能であり、低侵襲な診断手段として期待される。

Kimura ら(2012)による 217 例の眼内リンパ腫患者を対象とした研究では、IL-10 高値・IL-6 低値・細胞診陽性・遺伝子再構成検査陽性の組み合わせによる診断精度が系統的に評価された13)

イブルチニブ(Bruton 型チロシンキナーゼ阻害薬)が再発・難治性 PCNSL(原発性中枢神経系リンパ腫)および PVRL に対して有効性を示した8, 11)。MYD88 変異が NF-κB 経路の活性化を介して BTK 依存的な生存シグナルを維持することが作用機序の根拠となっている。

CAR-T(キメラ抗原受容体 T 細胞)療法の CNS リンパ腫への臨床試験が進行中である。中枢神経系への移行と眼内への効果についての検討が続いている。眼内病変に対する局所 CAR-T 投与の実現には血液眼関門の克服が課題となる。

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