この疾患の要点
ロス斑は白色中心を持つ網膜 出血であり、1872年にMoritz Rothが初めて報告した。
感染性心内膜炎患者でのみられる頻度は約2%と低く、単独での診断的価値は限定的である。
白血病では約90%の症例に出現し、血液疾患のなかで最も高頻度である。
通常は無症状だが、黄斑部 に生じた場合は視力 低下を来す。
基礎疾患の治療が最優先であり、ロス斑自体への直接治療は通常不要である。
全身疾患の眼症状として認識し、原因検索(血液検査・心エコー等)を速やかに行う必要がある。
ロス斑(Roth spots)は、白色または淡黄色の中心部を持つ網膜 出血である。1872年、スイスの病理医Moritz Rothが感染性心内膜炎患者の眼底所見として初めて記載した。
感染性心内膜炎における出現頻度は約2%にとどまる1) 。しかし血液疾患ではより高頻度に出現し、白血病では約90%の症例で認められる。多彩な全身疾患に伴って出現する非特異的眼底所見であり、出現した場合には原因疾患の精査が必要となる。
以下の疾患でロス斑の出現が報告されている4) 。
Q
ロス斑が見つかったら何の病気を疑うべきか?
A
ロス斑は多くの全身疾患に伴う非特異的な所見である。感染性心内膜炎や血液疾患(白血病・貧血・Evans症候群など)が代表的な原因であり、全身の精査が必要となる。詳細は「原因とリスク要因」の項 を参照。
ロス斑は通常無症状 である。病変が黄斑部 から離れた部位にある場合、患者は自覚症状を訴えないことがほとんどである。
視力 低下 :黄斑部 または乳頭近傍に病変が及んだ場合に生じる。
視野欠損 :病変部位に対応した暗点が生じることがある。
眼底検査 で白色中心を持つ炎炎出血巣として観察される。各種の補助検査で以下の所見が得られる。
細隙灯顕微鏡・眼底検査 :後極部に白色中心を持つ楕円形〜不整形の出血。白色部はフィブリン血栓または白血球浸潤による。
SD-OCT (光干渉断層計 ) :神経線維層(NF L)に一致した高反射領域として検出される4) 。
蛍光眼底造影 (FA ) :出血による遮蔽効果を認める。Evans症候群では黄斑部 に花弁状(petaloid)漏出を認めた例がある5) 。
感染性心内膜炎症例 :血圧70/42 mmHgという重篤な全身状態を呈した症例でロス斑が観察されている1) 。
Q
ロス斑の白色中心は何からできているのか?
A
白色中心の組織学的成分は原因疾患によって異なる。感染性心内膜炎では細菌塞栓を取り囲むフィブリン血栓、血液疾患では白血球(白血病細胞を含む)の集積が主体となる。詳細は「病態生理学」の項 を参照。
ロス斑の主な原因疾患を以下に示す。
感染症
感染性心内膜炎 :古典的な原因疾患。出現頻度は約2%と低い1) 。発熱・菌血症を背景に敗血性塞栓が網膜 血管を閉塞する。
その他の感染症 :HIV感染症、サイトメガロウイルス網膜炎 、敗血症でも報告される。
血液疾患
白血病 :最も高頻度で約90%に出現。白血病細胞の血管浸潤と血小板減少が関与する。
貧血 :鉄欠乏性貧血・悪性貧血で出現。Hb 6 g/dL未満で発症しやすい4) 。貧血と血小板減少が合併すると出現率は44%に上昇する5) 。
鎌状赤血球症 (SCD) :血管閉塞と慢性貧血が関与する2) 。
Evans症候群 :自己免疫性溶血性貧血と免疫性血小板減少症の合併。眼症状が初発症状となる例がある5) 。
その他
高血圧性・糖尿病性網膜症 :血管壁脆弱性と出血傾向が関与。
外傷・Terson症候群 :頭蓋内圧上昇に伴う網膜 出血としてロス斑類似所見が報告される3) 。
膠原病 :SLE など血管炎を伴う疾患。
受診のタイミング
健診や他疾患の眼科受診で偶然ロス斑を指摘された場合は、放置せず内科・血液内科への紹介を検討してください。
発熱・動悸・疲労感が続く際は眼底検査 を含めた全身精査を受けましょう。
ロス斑は眼底所見であり、その診断よりも基礎疾患の同定 が重要である。以下の検査を組み合わせて原因を精査する。
下表に主要な推奨検査を示す。
臨床的疑い 検査 目的 感染性心内膜炎 血液培養・心エコー 菌血症・疣贅の確認 血液疾患全般 CBC・末梢血塗抹 貧血・血小板・芽球の評価 鉄欠乏性貧血 血清鉄・フェリチン・TIBC 鉄動態の評価4) Evans症候群 直接クームス試験(DAT) 自己抗体の確認5)
眼底検査 ・OCT :ロス斑の位置・数・形態を評価。黄斑 への関与を確認する。
全血球計算(CBC) :貧血・血小板減少・白血球異常を検出する。
血液培養 :感染性心内膜炎が疑われる場合に必須。
心エコー :疣贅(vegetations)の有無を確認。
骨髄検査 :白血病・骨髄異形成症候群が疑われる場合に施行する。
ロス斑自体への直接的な介入は通常不要である。基礎疾患の治療 が最優先となる。
感染性心内膜炎 :静脈内抗菌薬投与(バンコマイシン+ゲンタマイシン等)を行う1) 。起因菌の同定後に感受性に基づく治療を継続する。
鉄欠乏性貧血 :フェリカルボキシマルトースなどの鉄補充療法を行う4) 。基礎疾患(出血源など)の精査と治療を並行する。
鎌状赤血球症 (SCD) :輸血によるHb Sの希釈とヒドロキシウレア(HU)投与が主体となる2) 。
Evans症候群 :コルチコステロイド を第一選択とし、難治例にはリツキシマブ を用いる5) 。
病変が黄斑部 に及んで視力 低下を来す例では、以下の介入が検討される場合がある2) 。
組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)硝子体内注射 :黄斑下出血 の溶解を目的とする。
YAGレーザー :黄斑前膜 状出血への照射。
硝子体手術 (PPV ) :出血が広範で吸収が見込めない場合。
治療における注意点
ロス斑を認めた際、眼科的介入より先に全身疾患の精査を優先する。
感染性心内膜炎を見落とすと生命に関わる。発熱・心雑音を伴う場合は循環器科への緊急コンサルトを行う。
黄斑部 出血に対する外科的介入は侵襲を伴うため、出血量・視力 障害の程度・全身状態を慎重に評価したうえで適応を判断する。
Q
ロス斑は自然に消えるか?
A
基礎疾患の治療が奏効すれば、数週〜数ヶ月でロス斑は自然吸収されることが多い。ただし黄斑部 に病変が及んだ場合は視力 回復が不完全に終わる場合もある。
ロス斑の形成は、以下のような共通の病態連鎖によって説明される。
毛細血管破裂→出血→フィブリン血栓形成という共通経路 を経て病変が形成される2) 5) 。
血管壁への傷害 :感染性塞栓(心内膜炎)、白血病細胞の浸潤、または赤血球の変形・凝集(SCD)などが網膜 毛細血管を障害する。
出血と一次止血 :毛細血管が破裂し、血小板が集積して出血巣が形成される。
フィブリン血栓の析出 :凝固カスケードが活性化され、出血中心部にフィブリン血栓が形成される。これが白色中心として観察される。
白血球の浸潤 :白血病では白血球が血栓中心部に集積し、白色中心を形成する。
貧血・低酸素経路 では、Hb濃度の著明な低下(特に6 g/dL未満)が網膜 の慢性低酸素状態を引き起こし、虚血性毛細血管障害→出血傾向が生じる4) 。貧血単独より血小板減少を合併した場合に出現頻度が有意に高い(44%)5) 。
以下の表に代表的な症例の比較を示す。
疾患 白色中心の成分 Hb/血小板 出現頻度 心内膜炎 菌塊+フィブリン 可変 約2%1) 白血病 白血病細胞 低下 約90% 鉄欠乏性貧血 フィブリン Hb<6 g/dL4) 不明 Evans症候群 フィブリン+血小板 両低下5) 高頻度
Alsalemら(2025)は、35歳女性に生じた一側性ロス斑の症例を報告した4) 。子宮平滑筋腫に伴う慢性失血から鉄欠乏性貧血(Hb 5.7 g/dL)・血小板増多が生じ、眼底に出血と白色中心が出現した。フェリカルボキシマルトースによる鉄補充とミレーナ挿入後に貧血が改善し、ロス斑は消退した。婦人科疾患がロス斑の原因となりうることを示す稀な報告である。
Makriら(2024)は、くも膜下出血後のTerson症候群にロス斑類似所見を伴った症例を報告した3) 。頭蓋内圧上昇による網膜 内出血とフィブリン析出が病態として考察されており、神経眼科的文脈でのロス斑出現機序の理解に貢献する知見である。
Mazharuddinら(2022)は、Evans症候群患者において眼症状(ロス斑・petaloid macular leakage)が全身診断に先行した複数の症例を報告した5) 。蛍光眼底造影 で黄斑部 花弁状漏出が認められ、眼所見が血液疾患発見の端緒となりうることが示された。
Q
ロス斑が眼科受診のきっかけとなることはあるか?
A
ある。Evans症候群では視力 低下や眼底異常を主訴として眼科を最初に受診し、精査で血液疾患が発見された症例が報告されている5) 。眼科医が全身疾患の発見に貢献する例として重要である。
Q
ロス斑は再発するか?
A
基礎疾患が完全に制御されれば再発は少ないが、白血病の再燃や慢性貧血の再増悪により再出現することがある。定期的な眼底観察が推奨される。
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Kothari M, Chiwhane A, Kumar S, Wanjari A, Reddy H. Roth Spots: A Rare Finding in Sickle Cell Anemia. Cureus. 2024;16(4):e59047. doi:10.7759/cureus.59047. PMID:38800292; PMCI D:PMC11128069.
Makri OE, Tsekouras IK , Mastronikolis SN, Panagiotopoulos VE, Constantoyannis C, Georgakopoulos CD. Terson’s Syndrome with Roth Spot-Resembling Features and Third Nerve Palsy without Radiologically Diagnosed Subarachnoid Haemorrhage. Vision (Basel, Switzerland). 2024;8(4). doi:10.3390/vision8040061. PMID:39449394; PMCI D:PMC11503416.
Alsalem N, Al-Ali A. Unilateral Roth spots secondary to uterine leiomyoma. BMJ case reports. 2025;18(7). doi:10.1136/bcr-2025-266496. PMID:40681178; PMCI D:PMC12272332.
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