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網膜・硝子体

糖尿病黄斑虚血

糖尿病黄斑虚血(diabetic macular ischemia; DMI)は、糖尿病患者において黄斑部の網膜毛細血管が閉塞・萎縮・消失し、毛細血管前細動脈の狭窄・閉塞を呈する状態である。FA(蛍光眼底造影)またはOCTA(光干渉断層血管造影)で、FAZ(中心窩無血管領域)の拡大・不整および黄斑部の非連続的無血管領域の拡大として描出される。

歴史的には、Norman Ashtonが死後眼の周辺虹彩前癒着染色・墨汁注入法による研究で、糖尿病網膜症における動脈・毛細血管の関与を初めて詳細に記述した。病理学的には、終末細動脈・毛細血管前血管の硝子様変性→管腔閉塞→動脈・毛細血管床消失→静脈側新生血管形成という経過をたどる。

糖尿病黄斑症は黄斑浮腫・虚血性黄斑症・RPE症の3型に分類されるが、DMIは虚血性黄斑症に相当する。

有病率は糖尿病網膜症の重症度と密接に関連する。

DMI重症度発生率
なし39.7%
疑い18.4%
軽度25.2%
中等度11.0%
重度5.6%

CSME(臨床的に意義のある黄斑浮腫)症例の29.4%にDMIが併発し、うち19.4%が中等度〜重度である。また増殖糖尿病網膜症(PDR)の77.2%、重症非増殖糖尿病網膜症(NPDR)の59.7%にDMIが認められる。

  • 視力低下:中心窩浸潤型DMEがないにもかかわらず視力不良な場合、DMIを疑う
  • 霧視:視界全体の不鮮明感
  • 中心暗点:中心視野の欠損
  • 視野欠損:虚血領域に対応した局所的な視野の欠け
  • 進行性または安定性の視力低下:進行したDR既往を有する患者に多い

DMIの所見は「特徴のない網膜(featureless retina)」として特徴づけられることがある。中心窩反射が不良となり、出血・微小血管瘤・滲出物・軟性白斑・新生血管が消失または軽度にとどまる。

自覚症状

視力低下:DMEなしでも視力不良となる。

霧視・中心暗点:黄斑部虚血に伴う機能低下。

視野欠損:虚血領域に対応した局所欠損。

臨床所見

featureless retina:中心窩反射不良、出血・滲出物の消失・軽度化。

ゴースト血管:灌流を失った毛細血管の残影。

細動脈狭小化:中等度〜重度DMIでは平均細動脈径が狭小化。

機能検査

マイクロペリメトリ:DCP非灌流領域で網膜感度が著しく低下。1)

AO-OCT:DCP非灌流領域で視細胞シグナル密度(IS/OS・COST)が約40%低下。1)

DMI重症度と視力の相関については、中等度〜重度DMIで有意な視力低下が認められる。VA-FAZ相関はR²=0.41〜0.51と報告されており、視神経乳頭黄斑間虚血は視力低下と独立して関連する。

Datlingerら(2021)はAO-OCTとマイクロペリメトリを用いた研究で、DCP非灌流領域において視細胞シグナル密度(IS/OSおよびCOST)が約40%低下し、同領域の網膜感度も著しく低下していることを示した。1)

Q 糖尿病黄斑虚血があると必ず視力が低下しますか?
A

軽度DMIでは視力への有意な影響が生じない場合がある。中等度〜重度になると視力低下との有意な相関が認められ(VA-FAZ相関R²=0.41〜0.51)、視神経乳頭黄斑間虚血も視力低下と独立して関連する。DMEを伴わないにもかかわらず視力不良な場合は、「診断と検査方法」の項の検査によるDMI評価が重要となる。

DMIのリスク因子は糖尿病網膜症全般のリスク因子を反映している。

  • DM罹患期間:罹病期間が長いほどDMIリスクが高まる
  • HbA1c(血糖コントロール):高血糖の持続が毛細血管障害を促進する
  • 高血圧:網膜血流の調節障害をきたす
  • 脂質異常症:網膜血管の動脈硬化を促進する
  • 年齢・民族:高齢者および特定の民族(アジア・アフリカ系など)でリスクが高い
  • 貧血・腎疾患などの全身因子が周辺部虚血を促進する可能性がある

DMIの存在はDMEおよびDRの重症度増加と関連する。内科的加療(血糖・血圧・脂質の管理)が網膜症進行抑制に有効である。

なお、良好な血糖コントロール(HbA1c 6.1%→5.6%への改善)によって毛細血管非灌流領域(NPA)の自然再灌流が生じた症例も報告されている。2)

Diabetic Macular Ischemia image
Julien Gozlan; Pierre Ingrand; Olivier Lichtwitz; Agathe Cazet-Supervielle; Léa Benoudis; Michele Boissonnot; Samy Hadjadj; Nicolas Leveziel. Retinal microvascular alterations related to diabetes assessed by optical coherence tomography angiography: A cross-sectional analysis. Medicine (Baltimore). 2017 Apr 14; 96(15):e6427. Figure 1. PMCID: PMC5403069. License: CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
中等度の非増殖糖尿病黄斑症を有する右眼の表層毛細血管層OCTアンギオグラフィ画像。中心窩無血管域(FAZ)は拡大し、中心黄斑周囲に毛細血管脱落を認める。対応する各パネルでは、無血管域と隣接する無灌流領域が輪郭表示されている。

FAはDMI診断のゴールドスタンダードである。

  • FA所見:FAZの拡大(大きな低蛍光パッチ)、毛細血管拡張、毛細血管間隙拡大
  • 正常FAZ径:平均0.53〜0.73mm。糖尿病眼では平均0.79mm(範囲0.66〜0.91mm)
  • 診断の目安:臨床的にFAZ径0.5mm超でDMIを疑う

FAの欠点として、侵襲性(静脈内造影剤投与)、合併症リスク(死亡リスク約1/20万)、所要時間20分以上が挙げられる。

OCTAは非侵襲的・高解像度の検査で、SCP(表層毛細血管網)・DCP(深層毛細血管網)・CC(脈絡毛細血管層)の層別解析が可能である。

  • 利点:染料漏出なしでFAZ境界が可視化可能。NPA(非灌流領域)をFAより広範に検出可能2)
  • 欠点:アーチファクト、低血流速度での検出限界
  • NPA分類:2種類のNPAが存在する。(1)網膜菲薄化を伴うNPA(FFA検出可)、(2)網膜菲薄化のないNPA(OCTAのみ検出可)2)
  • OCTA黄斑非灌流定量化はDR重症度と相関し、前臨床的微小血管変化も検出可能3)
  • OCT:中心窩の内網膜層菲薄化・消失が視力低下と関連する3)
  • AO-OCT(adaptive optics-OCT):単一錐体視細胞の3次元的可視化が可能で、視細胞レベルのDMI評価を実現する1)

FAとOCTAの特性比較を以下に示す。

特徴FAOCTA
侵襲性ありなし
層別解析不可可能
NPA検出範囲限定的広範

FA

ゴールドスタンダード:FAZ拡大・毛細血管消失を描出。

侵襲的:造影剤静注が必要。死亡リスク約1/20万。

所要時間:20分以上を要する。

OCTA

非侵襲的・高解像度:SCP/DCP/CCの層別解析が可能。

NPA定量化:DR重症度と相関。前臨床的変化も検出。3)

2種類のNPA検出:菲薄化の有無でFAとの検出範囲が異なる。2)

Q OCTAとFAのどちらがDMI診断に優れていますか?
A

FAがゴールドスタンダードだが侵襲的である。OCTAは非侵襲的で、FAよりも広範なNPAを検出できる利点がある。2) 特に網膜菲薄化を伴わない早期NPA(菲薄化なしNPA)はOCTAのみで検出可能である。両者の特性は相補的であり、臨床状況に応じて使い分けることが望ましい。

DMIに対する確立された特異的治療法は現時点で存在しない。DMEを伴わない黄斑虚血に対する直接的な治療法はなく、全身管理が基本となる。

良好な血糖管理がNPA自然再灌流に寄与する可能性が報告されており、2) 内科的加療(血糖・血圧・脂質)が網膜症進行抑制の基本戦略である。

severe NPDR以降の段階では、PRP(汎網膜光凝固術)または抗VEGF療法の検討が推奨される。3)

DMIにDMEが併発する場合、以下の治療が行われる。

  • 抗VEGF薬(第一選択):ラニビズマブ(ルセンティス)1回0.5mg/0.05mL、アフリベルセプト(アイリーア)1回2mg/0.05mL。効果は一時的であり、頻回投与が必要となることがある
  • トリアムシノロン硝子体内投与:マキュエイド1回4mg/0.1mL。白内障進行・眼圧上昇の可能性がある
  • 局所/格子状光凝固:DMEに対する補助的治療
Q 糖尿病黄斑虚血は治療で改善できますか?
A

DMIに対する確立された特異的治療法は現時点でない。全身管理(血糖・血圧・脂質)が基本であり、良好な血糖コントロールによってNPAが自然再灌流した症例報告がある。2) DMEを合併している場合は抗VEGF薬等で浮腫を治療するが、虚血自体を直接改善することはできない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

初期変化:周細胞と内皮細胞の障害

Section titled “初期変化:周細胞と内皮細胞の障害”

周細胞消失と内皮細胞損傷がDR血管変化の最も初期の兆候である。

  • 周細胞:血管緊張の調節、基底膜・細胞外マトリックス成分産生を担う
  • 内皮細胞:密着結合により血液眼関門を形成する

III型・IV型コラーゲン沈着による毛細血管基底膜肥厚が進行すると、管腔が狭小化する。白血球停滞(leukostasis)も生じ、異常内皮細胞が誘発することで血管閉塞を悪化させる。

酸素・微量栄養素供給の低下がVEGF発現を刺激し、毛細血管網の段階的萎縮→毛細血管間隙拡大→長期低酸素→視細胞損傷へと進展する。DRの進行に伴い静脈異常・IRMA・重症の出血・滲出が出現する。3)

黄斑部の血管層と視細胞への影響

Section titled “黄斑部の血管層と視細胞への影響”

黄斑部には3層の網膜血管層(SCP・ICP/MCP・DCP)が存在する。DCPは視細胞の酸素供給に10〜15%寄与しており、1) その閉塞が直接的な視細胞障害につながる。

ミュラー細胞(MC)は灌流障害下で視細胞に乳酸を供給するエネルギー源として機能する。1) MC障害が生じると、錐体・桿体・MC機能低下に加え、視細胞外節のパッチ状消失と毛細血管脱落の共局在が認められる。1)

虚血パターンは以下の4型に分類される(Takashiらの分類)。

虚血タイプ頻度
周辺部型2.6%
中間周辺部型61.2%
中心部型26.3%
広範型9.9%
Q なぜ視細胞が障害されるのですか?
A

DCP(深層毛細血管網)の非灌流により、視細胞への酸素供給が低下する(DCPは視細胞酸素供給に10〜15%寄与)。1) ミュラー細胞障害も視細胞へのエネルギー供給を阻害する。AO-OCTを用いた研究では、DCP非灌流領域でIS/OS・COSTの視細胞シグナル密度が約40%低下することが確認されている。1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

先進的イメージングによる評価

Section titled “先進的イメージングによる評価”

Datlingerら(2021)は、AO-OCTとOCTAの組み合わせにより単一錐体視細胞レベルのDMI評価が可能となることを示した。マイクロペリメトリとOCTAを統合した研究アプローチが、DMIの時間経過の理解に寄与すると述べ、これらの先進的イメージングパラメータが将来の治療研究でバイオマーカーとなる可能性を指摘した。1)

毛細血管閉塞の可逆性と自然再灌流

Section titled “毛細血管閉塞の可逆性と自然再灌流”

従来、毛細血管閉塞は不可逆と考えられてきたが、自然再灌流の症例が報告されている。

Houら(2022)は、HbA1cが6.1%から5.6%に改善した糖尿病患者において、NPAの自然再灌流を観察した。IRMAがNPA内に侵入して新たな毛細血管網を形成する過程をOCTAで経時的に記録した。2)

この報告から、NPAには2種類の性質が示唆されている。2)

  • 菲薄化を伴うNPA(後期変化):再灌流が遅い傾向
  • 菲薄化のないNPA(早期変化):2か月以内に再灌流しやすい。治療介入の「窓」となる可能性

定量的バイオマーカーと予後予測

Section titled “定量的バイオマーカーと予後予測”

1年間のOCTA追跡研究では、ベースライン非灌流とDR進行のオッズ比(OR)=8.73、深層非灌流と治療介入のOR=3.39が報告されており、OCTA非灌流指標が予後予測バイオマーカーとなる可能性が示されている。FAZのベースライン面積は既知のDMI眼で年間5〜10%拡大する傾向がある。AIのOCTA画像解析への応用も研究が進められている。3)

Q 閉塞した毛細血管は再び開通することがありますか?
A

まれながら自然再灌流の報告がある。Houら(2022)はIRMAがNPA領域に侵入し新たな毛細血管網を形成する過程を報告した。2) 特に菲薄化を伴わないNPA(早期変化)は2か月以内に再灌流しやすい傾向がある。良好な血糖コントロールが再灌流を促進する可能性も示されている。


  1. Datlinger F, Wassermann L, Reumueller A, Hajdu D, Steiner I, Salas M, et al. Assessment of Detailed Photoreceptor Structure and Retinal Sensitivity in Diabetic Macular Ischemia Using Adaptive Optics-OCT and Microperimetry. Investigative ophthalmology & visual science. 2021;62(13):1. doi:10.1167/iovs.62.13.1. PMID:34605880; PMCID:PMC8496411.

  2. Hou S, Chen L, Shan K, et al. Spontaneous retinal reperfusion of capillary nonperfusion areas in diabetic retinopathy. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:818-824.

  3. Lim JI, Kim SJ, Bailey ST, et al. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2025 Apr;132(4):P75-P162. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.020. PMID:39918521.

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