コンテンツにスキップ
網膜・硝子体

デキサメタゾン硝子体内インプラント

1. デキサメタゾン硝子体内インプラントとは

Section titled “1. デキサメタゾン硝子体内インプラントとは”

デキサメタゾン硝子体内インプラント(商品名:Ozurdex、Allergan/AbbVie)は、デキサメタゾン0.7mgを含有する生分解性の硝子体内インプラントである。

Novadur薬物送達システムと呼ばれるPLGA(ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド))マトリックスを採用している。PLGAは体内で乳酸とグリコール酸へと生分解され、最長6ヶ月間にわたりデキサメタゾンを徐放する。効果のピークは投与後60〜90日であり、インプラント自体は3〜4ヶ月で生分解される。4)

FDA承認の経緯は以下の通りである。

  • 2009年6月網膜静脈分枝閉塞症網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して承認(GENEVA試験に基づく)
  • 2010年9月:後眼部非感染性ぶどう膜炎に承認
  • 2014年6月糖尿病黄斑浮腫(DME)に承認(MEAD試験に基づく)

硝子体切除後の眼でも有効性が維持されることが知られている。

糖尿病黄斑浮腫

適応糖尿病黄斑浮腫

位置づけ抗VEGF薬無効例への二次治療。有水晶体眼では副作用のため慎重投与。

根拠試験:MEAD試験で3年間の有効性を証明。

非感染性ぶどう膜炎

適応:後眼部の中間部・後部ぶどう膜炎

位置づけ:全身免疫抑制療法との併用。2010年承認。

特徴:局所投与により全身副作用を回避。

Q 効果はどれくらい続くのか?
A

投与後60〜90日が効果のピークであり、最長6ヶ月間持続する。インプラント自体は3〜4ヶ月で生分解される。4) GENEVA試験ではRVOに対して30日から効果が発現し、90日でピークに達し、6ヶ月で消失することが確認されている。効果消失後に再発した場合は再投与が検討される。

本インプラントの適応疾患に共通する主な自覚症状を以下に示す。

  • 視力低下:DME・RVOぶどう膜炎のいずれでも最も頻度の高い症状
  • 霧視黄斑浮腫に伴う中心視野の霞み
  • 飛蚊症ぶどう膜炎では硝子体混濁による浮遊物の自覚
  • 充血ぶどう膜炎では眼の発赤を伴うことがある
  • 中心暗点・急性霧視癌関連網膜症(CAR)では両眼性に出現する2)

適応疾患ごとの主な臨床所見を示す。

  • 糖尿病黄斑浮腫OCTで中心網膜厚(CRT)300μm以上の黄斑浮腫
  • RVO網膜出血・静脈拡張・黄斑浮腫
  • ぶどう膜炎硝子体混濁・血管炎・乳頭漏出(FA2)
  • CAR網膜電図異常(b/a比低下)・OCTで外顆粒層の乱れ2)
  • DMEのリスク:糖尿病コントロール不良・高血圧
  • RVOのリスク:高血圧73%・糖尿病23%6)

インプラント関連の合併症リスク

Section titled “インプラント関連の合併症リスク”
  • 前房移動硝子体切除眼で4.8%、全体では1.6%5)
  • 水晶体内誤注入(lens implantation):不正確な針の方向・術者の経験不足・患者の動きが原因1)
Q 白内障手術を受けた眼にも投与できるか?
A

投与可能だが、後嚢欠損がある場合はインプラントが前房へ移動するリスクが4.8%と上昇する。5) 後嚢欠損の有無を事前に確認し、患者に前房移動のリスクと早期受診の必要性を説明した上で投与する。完全な後嚢がある偽水晶体眼では白内障の懸念がなく、DMEに対する良好な適応となる。

適応疾患の診断および投与後のモニタリングに用いる主な検査を示す。

  • OCT光干渉断層計黄斑浮腫の定量的評価(CRT測定)。投与後のインプラント位置確認にも有用3), 4)
  • 前眼部OCTAS-OCT:嚢内迷入(intracapsular migration)の確認に有用4)
  • FA蛍光眼底造影:血管炎・乳頭漏出の評価2)
  • 網膜電図ERG:CARの治療効果評価および網膜毒性の確認2), 3)
  • 細隙灯顕微鏡検査:インプラントの位置確認・前房移動の検出1), 4), 5)
  • 眼圧測定IOP上昇のモニタリング。投与後4〜6週から定期的に実施
Dexamethasone Intravitreal Implant image
Jae Hyung Lee; Jae Yong Park; Jae Suk Kim; Je Hyung Hwang. Rapid progression of cataract to mature stage after intravitreal dexamethasone implant injection: a case report. BMC Ophthalmol. 2019 Jan 3; 19:1. Figure 1. PMCID: PMC6318997. License: CC BY.
Fundus photograph of a 59-year-old man with branch retinal vein occlusion in the left eye

22ゲージ針アプリケーターを使用する。角膜縁から4mmの位置で、角膜縁に平行にベベル上向きで保持し、針先1mm刺入後に眼中心方向へ向ける。白内障手術との同時施行も安全に実施できる。3)

適応疾患別の治療上の位置づけ

Section titled “適応疾患別の治療上の位置づけ”

DME(糖尿病黄斑浮腫

抗VEGF薬が第一選択であり、本インプラントは二次治療薬として位置づけられる。有水晶体眼では白内障眼圧上昇の副作用リスクから慎重な投与判断が求められる。6) DRCR.net第2相試験では抗VEGF薬との併用でCRT減少効果は認められたが、視力改善への追加効果は示されなかった。6)

RVO網膜静脈閉塞症

GENEVA試験(1,131例)では、投与30日から効果が発現し、90日でピークに達し、6ヶ月で消失した。1年時点でIOP≥25mmHgとなった例は16%に達した。6)

COBALT試験では網膜静脈分枝閉塞症に対して6ヶ月時点で平均+18.6文字、12ヶ月時点で+15.3文字の改善が示された。6)

メタ解析では、RVO視力改善において抗VEGF薬ステロイド製剤より優位であることが示されている。6)

白内障術後黄斑浮腫CME

メタ解析では、本インプラント投与群で1ヶ月時点のCMTが−127.60μm低下した。ただし視力改善は抗VEGF群が優位との報告もある。7)

以下に主要な臨床試験の結果を示す。

試験名対象疾患主な結果
MEADDME視力改善・3年4〜5回投与
GENEVARVO90日でピーク・6ヶ月消失
COBALT網膜静脈分枝閉塞症6ヶ月+18.6文字改善

前房移動

発生率硝子体切除眼4.8%、全体1.6%5)

リスク角膜内皮障害。15例中14例に角膜浮腫、10例未回復、6例が角膜移植に至った報告あり。5)

対処:早期除去が重要。除去遅延(5.5日)vs早期(0.5日)で予後に有意差(P=0.04)。5)

眼圧上昇

発生率:約1/3で治療介入要6)

特徴:GENEVA試験1年時点でIOP≥25mmHgが16%。6)

対処:事前に緑内障の既往・リスクをスクリーニング。点眼降圧薬で管理。

白内障

発生率:有水晶体眼で67.9%(MEAD試験)6)

シャム群比較:プラセボ群20.4%と比較して有意に高頻度。6)

対処:偽水晶体眼では問題なし。有水晶体眼では白内障手術の必要性を事前に説明。

各副作用の発生頻度を以下に示す。

副作用発生頻度備考
白内障67.9%(有水晶体眼)シャム群20.4%
IOP上昇約33%で要治療
前房移動1.6%(全体)硝子体切除眼4.8%
Q 抗VEGF薬が効かない場合に使えるか?
A

使用可能である。DMEでは抗VEGF薬無効例への二次治療として位置づけられている。6) 慢性黄斑浮腫や炎症成分が強い症例でより反応しやすいとされる。ただし有水晶体眼では白内障眼圧上昇の副作用が高率であるため、偽水晶体眼や頻回通院困難例が特に良い適応となる。

Q 前房に移動した場合はどうすればよいか?
A

速やかな除去が推奨される。除去が早期(約0.5日)であれば、遅延(約5.5日)と比較して角膜浮腫リスクが有意に低下する(P=0.04)。5) 19ゲージの曲がり針を用いた除去手技が報告されており、1分以内に完了できる。前房移動を発見した際は直ちに眼科を受診することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

デキサメタゾンの抗炎症作用機序

Section titled “デキサメタゾンの抗炎症作用機序”

デキサメタゾンはグルcocorticoid受容体に結合し、核内での転写調節を通じて広範な抗炎症作用を発揮する。

  • ホスホリパーゼA2阻害:アラキドン酸経路の上流を遮断する
  • 炎症性メディエーター抑制:トロンボキサン・ロイコトリエン・プロスタグランジンの合成を減少させる
  • 血管透過性低下網膜毛細血管の密着結合(tight junction)を安定化し、血液網膜関門を強化する
  • 免疫抑制作用:強力な抗炎症・免疫抑制作用を有し、ミネラルコルチコイド作用は少ない

PLGA(ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド))は加水分解によって乳酸とグリコール酸に分解される。この分解速度が薬物放出速度を規定する。インプラントは最長6ヶ月間薬物を放出し、3〜4ヶ月でほぼ生分解される。4)

Mudriら(2021)は、CARに対してデキサメタゾン硝子体内インプラントを初回治療として使用した症例を報告した。急性両眼霧視中心暗点を呈し、FA網膜電図で異常を認めた患者に投与したところ、視力網膜電図所見の改善が得られた。2)

CARへの初回治療としての有効性は単一症例報告の段階であり、標準治療としての確立には更なる検証が必要である。

網膜色素変性(RP)への応用可能性

Section titled “網膜色素変性(RP)への応用可能性”

Napoliら(2025)のレビューでは、rd10マウスモデルにおいて眼内デキサメタゾンが錐体視細胞RPEを保護しうる前臨床知見が整理された。炎症応答が錐体変性の進行に関与することが、RPへの応用(リパーパシング)の根拠として提示されている。8)

現時点では動物モデルでの知見であり、ヒトへの適用には臨床試験が必要である。

嚢内迷入(intracapsular migration)の新たな合併症が2026年に報告された。Vermaらは保存的管理で合併症なく経過した症例を示し、後嚢欠損眼でのリスクを改めて示した。4)

前房移動に対する19ゲージ曲がり針を用いた簡便な除去手技がDeplaらによって報告されており、1分以内に完了できる安全な手技とされる。5)

また、黄斑との16週間の長時間接触でも網膜毒性を生じなかった症例が報告されており、インプラントの長期安全性を支持する知見として注目される。3)


  1. Maria Ludovica Ruggeri, Alberto Quarta, Rossella D’Aloisio, Lisa Toto, Rodolfo Mastropasqua. A case of accidental into-the-lens dexamethasone implant: watching or removing?. BMC Ophthalmol. 2024;24(1). doi:10.1186/s12886-024-03538-y.

  2. Mudri J, Phagura RS, Lam WS, Wu XN. Intravitreal dexamethasone implant use as first-line therapy for cancer-associated retinopathy. BMJ case reports. 2021;14(11). doi:10.1136/bcr-2021-245527. PMID:34764094; PMCID:PMC8587697.

  3. Kelkar AS, Kelkar JA, Agarwal AA, Mehta HM, Kelkar SB. PROLONGED OZURDEX-MACULAR CONTACT FOLLOWING VITRECTOMY FOR MACULAR HOLE. Retinal cases & brief reports. 2022;16(2):168-169. doi:10.1097/ICB.0000000000000951. PMID:31842045; PMCID:PMC8860207.

  4. Verma L, Priya B, Lakhlan P, Thoumungkan BR, Gupta A. Ozurdex® Implant Inside the Capsular Bag: A Report of a Rare Case. Cureus. 2026;18(1):e101142. doi:10.7759/cureus.101142. PMID:41664769; PMCID:PMC12883051.

  5. Depla JAM, van der Linden CMC, Braaf B, Wijnans J, Bijlsma WR, Missotten TOAR. Active removal of anterior segment-migrated dexamethasone implant (Ozurdex). GMS Ophthalmol Cases. 2022;12:Doc08.

  6. Lim JI, Kim SJ, Bailey ST, et al. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2025 Apr;132(4):P75-P162. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.020. PMID:39918521.

  7. European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS cataract guideline extended document: appendix and evidence tables. ESCRS; 2024. https://www.escrs.org/media/cllciqah/appendix-1_final2.pdf

  8. Napoli D, Di Marco B, Salamone G, Orsini N, Mazziotti R, Strettoi E. Keeping the lights on: a new role for an old drug to support cone survival in Retinitis Pigmentosa. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101403. doi:10.1016/j.preteyeres.2025.101403.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます