自覚症状
無症状(多くの場合):偶発的発見が主体。全身疾患の加療中に眼科検査を勧められて発見。
視野異常:黄斑部に出血が生じると視野の異常を自覚する。
視力低下:中心窩に出血が及ぶ場合や網膜浮腫を生じた場合に出現。
貧血に伴う眼底出血(貧血網膜症、anemic retinopathy)は、全身性の貧血が原因で網膜に両眼性に出血が起こる病態である。
貧血網膜症では血液検査上、貧血が認められる。WHOの定義では貧血をヘモグロビン(Hb)濃度が成人男性で13 g/dL以下、成人女性で12 g/dL以下、ヘマトクリット(Ht)値が成人男性で39%以下、成人女性で36%以下としている。
貧血網膜症の有病率に関しては、Carraroらの横断研究で貧血または血小板減少を有する患者の約28.3%に網膜症が認められたと報告されている1。多くの場合、全身性貧血の加療中に眼科検査を依頼されて発見される。自覚症状に乏しいことが多く、偶発的発見が主体である。
主な原因疾患として以下が挙げられる。
これらの疾患では貧血に加えて血小板減少や凝固異常を伴うことが多く、出血傾向がさらに増悪する。
軽度の貧血では眼底出血は起こりにくい。重症の貧血(特にHbが著しく低下した場合)や、血小板減少・凝固異常を伴う血液疾患(白血病・再生不良性貧血など)では眼底出血が出現しやすい。貧血の程度と眼底変化の有無を確認するためには、定期的な眼底検査と血液検査の組み合わせが重要である。
貧血網膜症は多くの場合無症状である。全身疾患に対して加療中に眼科的検査を依頼され、発見されることが多い。
ただし以下の状況では自覚症状が出現する。
自覚症状
無症状(多くの場合):偶発的発見が主体。全身疾患の加療中に眼科検査を勧められて発見。
視野異常:黄斑部に出血が生じると視野の異常を自覚する。
視力低下:中心窩に出血が及ぶ場合や網膜浮腫を生じた場合に出現。
眼底所見
後極部優位・両眼性の網膜出血:しみ状・円形・楕円形の出血が大小さまざまな大きさで散在する。
Roth斑:白色中心を持つ出血斑。重症貧血で特徴的にみられる。
視神経乳頭・網膜の蒼白:貧血が重症の場合に観察される。
眼底検査または眼底写真撮影で判明する。網膜全体、主に後極部に両眼性に、しみ状・円形・楕円形の出血が大小さまざまな大きさで散在している。出血を生じる深さも様々で、網膜内が多いが、網膜下や網膜前出血もみられることがある。
典型例では網膜や視神経乳頭の色調蒼白、網膜出血、Roth斑、硬性白斑、軟性白斑、網膜動脈の狭窄、静脈拡張・蛇行などが認められる。糖尿病網膜症と比較し、より後極部に病変がみられる。
Roth斑は白色中心を持つ出血斑であり、重症貧血だけでなく感染性心内膜炎や白血病でも出現する。白色中心は白血球凝集または線維素塊と考えられている。
Roth斑(Roth spot)は白色中心を持つ網膜出血斑である。感染性心内膜炎・重症貧血・白血病の三疾患で特徴的にみられる。白色中心の本体は白血球凝集または線維素塊とされる。感染性心内膜炎では敗血症性塞栓が、貧血・白血病では血管壁破綻や血小板減少が機序となる。Roth斑の存在は全身的な重症疾患の存在を示唆するため、発見した場合には全身精査が必要である。
貧血網膜症の原因疾患は多岐にわたる。
骨髄産生障害
血液腫瘍
溶血性貧血
血液粘性亢進
欠乏性貧血
貧血による網膜組織への酸素供給の低下が血管壁の破綻の原因と考えられている。
貧血網膜症の診断には、血液検査による貧血の確認と眼底検査による網膜出血の確認の両方が必要である。
1. 血液検査(全身的評価)
2. 眼底検査・眼底写真撮影(第一選択)
3. その他の検査
網膜出血をきたす両眼性の疾患との鑑別が重要である。
| 疾患 | 主な所見 | 鑑別のポイント |
|---|---|---|
| 貧血網膜症 | しみ状・円形出血、後極部優位、Roth斑 | 血液検査でHb低下 |
| 糖尿病網膜症 | 綿花状白斑・硬性白斑を伴う出血 | 出血以外の所見(白斑)が多い |
| 高血圧網膜症 | 線状出血が主体 | しみ状より線状の出血が優位 |
| 感染性心内膜炎 | Roth斑 | 発熱・心雑音などの全身症状 |
| 白血病網膜症 | 白血病の確定診断で鑑別 | 血液検査・骨髄検査 |
糖尿病網膜症は綿花状白斑・硬性白斑など出血以外の所見が見られることが多い。高血圧網膜症はしみ状出血よりも線状の出血が主体であることから鑑別できる。
眼底検査が基本だが、黄斑部に出血が及んで視力に影響している場合はOCTが有用である。OCTにより網膜出血の深さ(網膜内・網膜下・網膜前)や黄斑浮腫の程度を評価できる。実臨床では視力低下がある場合に活用される。
貧血に伴う眼底出血に対して、眼科的治療で有効なものはない。原因である貧血に対する内科的治療が重要である。
鉄欠乏性貧血
再生不良性貧血
白血病
多発性骨髄腫
鎌状赤血球症
内科的治療の効果を眼底検査で追跡する。貧血が改善されると網膜出血は徐々に消退する。消退には数か月かかる。黄斑部出血がある場合は、出血の消退と視力回復の経過を定期的に確認する。
眼科医は以下の役割を担う。
貧血網膜症に対して有効な眼科的治療(点眼・注射・レーザーなど)はない。眼底出血を直接治療する手段がないため、原因疾患である貧血の内科的治療が唯一の対処法となる。眼科は定期的な眼底検査によって出血の経過を観察し、黄斑部出血による視力低下の程度を評価する役割を担う。
再生不良性貧血では、赤血球の減少による貧血と血小板減少による出血傾向が重なる。Jiangらは小児例で多層性の重症網膜出血と漿液性網膜剥離を来した症例を報告しており、網膜萎縮・浮腫まで進展しうる重篤な合併症であることを示している2。眼底では以下の所見が認められる。
白血病では骨髄での正常造血が障害され、貧血・血小板減少・凝固異常が重なることで出血傾向が著しく増加する。
鎌状赤血球症(SCD)では、鎌状化した赤血球が網膜血管内で閉塞を引き起こす。
これらの疾患では異常タンパクによる血液粘性亢進(血液粘性亢進症候群)が網膜変化の主な原因となる。
貧血網膜症では出血が網膜の複数の層に生じる。出血の形態は出血した網膜層の深さを反映しており、予後の評価にも参考となる。
網膜内出血(多層性)
網膜前出血(硝子体下出血)
網膜下出血
網膜全体・主に後極部に両眼性に、しみ状・円形・楕円形の出血が大小さまざまな大きさで散在する。出血を生じる深さも様々で、網膜内が多いが、網膜下や網膜前出血もみられることがある。
Roth斑は白色中心を持つ出血斑であり、網膜内層に生じた出血の中心部に白血球凝集や線維素塊が形成されたものと考えられている。
貧血による網膜組織への酸素供給の低下が血管壁の破綻を引き起こす。赤血球は酸素の運搬を担っており、貧血ではその能力が低下する。
白血病・再生不良性貧血などでは、貧血に加えて血小板減少が出血傾向を著しく増悪させる。通常の止血機構が機能しないため、軽微な血管壁の損傷でも出血が生じやすい。
貧血の重症度と眼底変化の出現には一定の関係がある。Venkateshらの解析では、Hb<8.95 g/dLが感度85.8%・特異度68.9%で貧血網膜症を予測する閾値とされている3。Carraroらの研究でも、Hb<8 g/dLで眼底変化の頻度が顕著に増加し、貧血と血小板減少(<50×10⁹/L)を併発した重症例ではほぼ全例に網膜出血が認められたと報告されている1。すなわち、軽度の貧血では眼底変化は出現しにくいが、重症貧血や血小板減少を伴う症例では出血が高率に出現する。
Roth斑の白色中心は、近年の組織学的研究ではフィブリン・血小板凝集塊と炎症細胞の集積であることが明らかになっている45。かつては細菌性塞栓や白血球凝集と考えられていたが、現在では感染性心内膜炎に特異的ではなく、貧血・白血病・糖尿病・SLEなど多様な微小血管障害で出現する非特異的所見と位置付けられている4。貧血・白血病では、毛細血管内皮の破綻部に血小板とフィブリンが集積することで白色中心が形成されると考えられる。
再生不良性貧血は骨髄の造血機能が低下する重篤な血液疾患である。眼底出血は血小板減少と貧血の両方が関与して発生する。
眼底管理のポイント:
血液悪性腫瘍では眼底出血に加えて、腫瘍細胞の眼内浸潤が起こる場合がある。
白血病網膜症の特徴:
眼内浸潤の鑑別:
多発性骨髄腫・マクログロブリン血症(Waldenström病)などでは異常タンパク(Mタンパク)による血液粘性亢進が主な病態となる。
血液粘性亢進網膜症の特徴:
貧血網膜症は全身性血液疾患の眼症状であることを常に念頭に置く必要がある。血液内科・内科との密な連携が重要である。
貧血が改善されると、網膜出血も徐々に消退する。消退には数か月かかって消失していく。
貧血が改善されることが前提となるが、改善後に網膜出血は数か月かけて徐々に消退していく。小さな出血は比較的早期に消えることが多いが、大きな出血や網膜前出血は消退に時間がかかる。黄斑部の出血が中心窩に及んでいた場合は、出血が消えた後も視力が完全には回復しないことがある。定期的な眼底検査で出血の消退経過を確認することが重要である。
Carraro MC, Rossetti L, Gerli GC. Prevalence of retinopathy in patients with anemia or thrombocytopenia. European Journal of Haematology. 2001;67(4):238-244. PMID: 11860445. DOI: 10.1034/j.1600-0609.2001.00539.x
Venkatesh R, Reddy NG, Jayadev C, Chhablani J. Determinants for Anemic Retinopathy. Beyoglu Eye Journal. 2023;8(2):116-121. PMID: 37521879. DOI: 10.14744/bej.2023.05658
Gurnani B, Tivakaran VS. Roth Spots. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025. PMID: 29494053. Bookshelf ID: NBK482446.
Ling R, James B. White-centred retinal haemorrhages (Roth spots). Postgraduate Medical Journal. 1998;74(876):581-582. PMID: 10211348. DOI: 10.1136/pgmj.74.876.581
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