この疾患の要点
超音波Bモード検査(眼Bエコー)は超音波の反射強度を二次元画像化し、眼内・眼窩 病変を評価する検査である。
角膜 混濁・高度白内障 ・硝子体出血 など透光体混濁眼では眼底観察が不能となるため、Bエコーが必須の代替手段となる。
走査方式にはリニアスキャン(電子走査)とセクタスキャン(機械走査)があり、目的に応じて選択する。
前眼部には30 MHz以上、後眼部・硝子体 網膜 には5〜20 MHz、眼窩 内病変には5〜10 MHzの探触子を使用する。
網膜剥離 と硝子体 膜の鑑別には形態的・定量的(ゲイン減衰法)・動態的(眼球運動)の3つの評価法を組み合わせる。
閉瞼上からプローブを当てる方法(経瞼アプローチ)が一般的で、点眼麻酔は不要 である。開瞼して角膜 上に直接プローブを当てる場合のみ点眼麻酔(0.4%オキシブプロカインなど)を使用する。
眼内腫瘍(脈絡膜 黒色腫疑い)・眼内異物 ・術前評価・術後経過観察など幅広い臨床場面で活用される。
超音波Bモード検査(眼Bエコー)は、超音波の反射強度を二次元画像として表示する画像診断検査である。プローブから発射した超音波が組織界面で反射し、その反射強度(輝度)と反射時間(組織深度)を二次元マップ化することで眼内・眼窩 の断面像を得る。
眼科領域では、透光体混濁眼で眼内が観察できないときと眼窩 内病変の診断に使用する検査として確立されている。角膜 混濁・高度白内障 ・高度な硝子体出血 など透光体混濁が存在すると、細隙灯顕微鏡や眼底鏡による眼内観察が不可能になる。そのような状況においてBエコーは眼内の構造情報を得る唯一の画像検査となる。
1956年にMundt & Hughesが眼科への超音波応用を報告し、その後AモードおよびBモードとして発展を遂げた。現在では硝子体 ・網膜 ・脈絡膜 ・眼窩 内構造の評価に幅広く用いられており、眼科外来・手術前後の管理において欠かせない検査手段となっている。
高度硝子体出血 での眼内・眼底評価(術前の網膜剥離 ・眼内腫瘍の有無確認)
高度白内障 の術前眼底評価(網膜剥離 ・硝子体混濁 の把握)
眼内異物 の局在確認と材質推定(金属・非金属・木片の鑑別)
眼内腫瘍(脈絡膜 黒色腫・転移性腫瘍・脈絡膜 血管腫等)の診断と経過観察
眼窩腫瘍 ・眼窩 炎症のスクリーニング
裂孔原性網膜剥離 ・牽引性網膜剥離 の術前評価と鑑別
硝子体手術 前の術前計画(牽引膜の範囲・形状把握)
術後の硝子体 ・網膜 変化のモニタリング
Q
超音波Bモード検査はどのような場合に必要ですか?
A
主に透光体(角膜 ・水晶体 ・硝子体 )に混濁があって眼内が直視できないとき、またはBエコーでしか評価できない病変がある場合に必要となる。高度硝子体出血 ・成熟白内障 ・角膜 混濁例での網膜剥離 や腫瘍の有無確認、眼内異物 の局在確認、眼窩腫瘍 の診断などが代表的な適応である。眼内が直視できる場合でも、眼窩 内病変の精密評価には有用である。
検査は原則として以下の手順で実施する。
経瞼アプローチ :閉瞼させた上眼瞼にスコピゾール等のカプリングジェルを十分に塗布する(点眼麻酔は不要)
角膜 直接アプローチ を選ぶ場合のみ、開瞼して点眼麻酔(0.4%オキシブプロカインなど)を使用する
プローブを眼瞼上からそっと密着させる(眼球を圧迫しない)
頭部を固定し、プローブの位置・角度を変えながら全周スキャンを行う
眼球運動をさせながら硝子体 膜・網膜 の動態を観察する(kinetic echography)
ゲイン(増幅感度)を高く始めて徐々に下げ、病変の輝度変化を確認する1)
経瞼アプローチが標準的で、患者侵襲が少なく多くの場面で第一選択となる。プローブで眼球を圧迫しないことが基本であり、頭部の固定が重要である。仰臥位では枕で頭部を安定させることが望ましく、坐位で検査する場合は後方からの介助者による頭部固定が不可欠である。
走査方式 特徴 利点 欠点 リニアスキャン(電子走査) 多数の振動子を電子的に切り換えて超音波ビームを移動させる 欠損のない均一な画像が得られる プローブが幅広く高価 セクタスキャン(機械走査) 振動子を機械的に高速で走査させる プローブ先が小さく走査性がよく安価 前眼部周辺側に画像の欠損が生じる
眼球後部・眼窩 の評価にはセクタスキャンが日常的に用いられることが多く、前眼部の詳細評価にはリニアスキャンが適している。
Q
検査に痛みはありますか?
A
標準的な経瞼アプローチ(閉じたまぶたの上からプローブを当てる方法)では点眼麻酔は不要で、痛みはほとんどない。角膜 上に直接プローブを当てる方法を選択した場合のみ、0.4%オキシブプロカインなどの点眼麻酔を施行する。検査時間は数分程度である。カプリングジェルを使用するが、検査後に拭き取ることができる。
正常眼では、眼内は水晶体 ・網膜 ・脈絡膜 ・強膜 が一層の組織として描出される。眼外は比較的均一な組織像を示し、視神経 は低輝度の管状構造として確認される。
超音波の輝度は組織の音響インピーダンス差を反映する。高輝度エコーは音響インピーダンス差が大きい界面(強膜 ・石灰化・眼内異物 等)に由来し、低輝度エコーは液体(正常硝子体 ・前房 液・嚢胞液等)に由来する。
眼Bエコーを読影する際には以下の5点に着目する。
眼窩 内スペースの有無 : 眼窩 内の低輝度・高輝度領域の存在は腫瘍や炎症の指標となる
視神経乳頭 の描出 : 視神経乳頭 の位置を確認し、病変との位置関係を把握する
隆起病変の性状 : 充実性か嚢胞性かを輝度と形状から判断する(腫瘍鑑別に重要)
硝子体 内高輝度病変の有無 : 出血・炎症・増殖膜 などの存在を確認する
網膜剥離 の有無 : 膜状エコーの形態・連続性・動態から剥離網膜 を同定する
眼Bエコー:裂孔原性網膜剥離のV字状膜エコー(視神経乳頭に連続する両葉)
CheckDO. Ultrasound of a retinal detachment in a patient presenting with complete vision loss and light perception only. Wikimedia Commons. 2022. Figure 1. Source ID: commons.wikimedia.org/wiki/File:Retinal_Detachment.jpg. License: CC BY-SA 4.0.
視神経乳頭 を頂点とするV字状の高輝度膜エコーが
硝子体 腔内に認められ、
裂孔原性網膜剥離 に特徴的な形態を示す。本文「
網膜剥離 と
硝子体 膜の鑑別」の項で扱う形態的診断(
視神経乳頭 との連続性)に対応する。
硝子体出血 を伴う眼では、Bエコー上に膜状の高輝度エコーが出現する。これが剥離網膜 か硝子体 膜(後部硝子体剥離 に伴う線維膜等)かの鑑別は治療方針を大きく左右する。動的Bスキャンは急性後部硝子体剥離 症例の網膜裂孔 検出において感度約96%・特異度約98%と報告されている2) 。以下の3種類の診断法を組み合わせて評価する。
形態的診断
評価内容 :膜エコーが視神経乳頭 とつながっているかどうかを確認する
剥離網膜 の特徴 :視神経乳頭 に連続している。膜エコーの連続性・平滑性があり、曲線を描く。膜の厚さが一定
硝子体 膜の特徴 :視神経乳頭 とのつながりが不明瞭。断続的で不規則な形態を示すことがある
定量的診断(ゲイン減衰法)
評価内容 :増幅感度調整ダイヤル(ゲイン)を徐々に下げながら膜エコーの消失順序を観察する
剥離網膜 の特徴 :強い反射を示すためゲインを下げてもエコーが残存する
硝子体 膜の特徴 :反射が弱いため、ゲインを下げると網膜 エコーよりも先に消失する
動態的診断(眼球運動)
評価内容 :患者に眼球運動をさせながら膜エコーの動き方を観察する
剥離網膜 の特徴 :眼球運動に伴い規則的・平滑・連続的な動きを示す。眼球運動停止とともに動きが止まる
硝子体 膜の特徴 :眼球運動に伴い不規則・粗雑・非連続的な動きを示す。眼球運動停止後もゆっくりと波打つような動きが残る(アフターモーション)
Q
網膜剥離と硝子体膜はどうやって区別しますか?
A
3つの方法を組み合わせて鑑別する。①形態的診断:剥離網膜 は視神経乳頭 とつながり、平滑で厚みが均一な連続性のある膜として描出される。②ゲイン減衰法:ゲインを徐々に下げると硝子体 膜のほうが先に消えるため、最後まで残るエコーが網膜 に相当する。③眼球運動:剥離網膜 は規則的・滑らかに動き、眼球静止とともに止まる。硝子体 膜は眼球停止後もゆらゆらと波打つ残余運動(アフターモーション)を示す。
眼Bエコー:眼球後方の眼窩内占拠病変(13.6 mm計測)
Nevit Dilmen. Eye ultrasound — orbital mass with caliper measurement (6.6 MHz, D1 13.6 mm). Wikimedia Commons. 2010. Figure 2. Source ID: commons.wikimedia.org/wiki/File:Eye_ultrasound_110318153108_1539230.jpg. License: CC BY-SA 3.0.
6.6 MHzセクタスキャンで撮像した眼球後方の
眼窩 内占拠病変。キャリパー計測値D1 13.6 mmが表示され、充実性腫瘤の大きさ評価が行われている。本文「臨床的意義と適応疾患」の項で扱う
眼窩腫瘍 スクリーニングおよび眼内腫瘍の精密検査に対応する。
Bエコーは透光体混濁眼のみならず、眼底鏡が困難な状況でも眼内・眼窩 の構造情報を提供する重要な検査法として、以下の臨床場面で活用される。
硝子体手術 前の術前計画 : 牽引膜の範囲・形状・網膜 との位置関係を把握し、手術アプローチを計画する。硝子体出血 合併例での網膜剥離 の有無確認が特に重要である
裂孔原性網膜剥離 の術前評価 : 剥離範囲・高さ・新鮮度・牽引の有無を評価し、バックリング か硝子体手術 かの選択に役立てる
牽引性網膜剥離 (糖尿病網膜症 )の術前評価 : 牽引膜の広がり・黄斑部 への牽引の有無を評価する
眼内腫瘍の精密検査 : 脈絡膜 黒色腫は前縁の高輝度反射と内部の低反射性(acoustic hollowness)、脈絡膜 陥凹(choroidal excavation)、しばしばマッシュルーム状(collar-stud)の形態を示し、A・Bスキャン併用での診断精度は3mm以上の腫瘍で95%と報告されている3)
眼窩腫瘍 のスクリーニング : 眼窩 内占拠病変の存在を確認し、MRIやCTによる精査の適応を判断する1)
眼内異物 の検出 : 金属・ガラス・木片等の異物はそれぞれ異なる超音波反射パターンを示す。金属は強い高輝度エコーと後方の音響陰影を呈し、木片は初期には低輝度、炎症後に高輝度化することがある。開放性眼外傷例における網膜剥離 ・硝子体出血 の検出感度は概ね高いが網膜裂孔 の検出には限界があると報告されている4)
術後経過観察 : 硝子体手術 後のガス・シリコーンオイル の充填状態、網膜 復位の確認、増殖性変化のモニタリング
Bエコーで確認された所見に応じて、以下の治療・精査を選択する。
Bエコー所見 対応する治療・精査 裂孔原性網膜剥離 硝子体手術 (硝子体 切除・レーザー・SF6等ガスタンポナーデ )またはバックリング 術牽引性網膜剥離 (糖尿病)硝子体手術 (牽引膜除去・シリコーンオイル タンポナーデ等)眼内腫瘍(脈絡膜 黒色腫疑い) 精密検査(蛍光眼底造影 ・MRI・エコー詳細)→ 放射線治療(陽子線・ブラキセラピー)または眼球摘出 眼窩腫瘍 疑いMRI・CT精査、生検の要否を検討 眼内異物 異物の位置・材質確認の上で摘出術を検討(磁性体か非磁性体かで術式が異なる) 硝子体出血 のみ(網膜剥離 なし)原因検索・経過観察、出血吸収しない場合に硝子体手術
超音波Bモード検査の原理は以下のとおりである。
プローブに内蔵された圧電素子から超音波パルスを発射し、眼組織の界面(音響インピーダンスの不連続面)で反射した超音波を受信する
受信した反射波の強度(輝度)が高いほど点の輝度を高くし、反射時間(伝播時間)から深度を算出して二次元画像を構成する
輝度が高い(高輝度):音響インピーダンス差が大きい界面(強膜 ・石灰化・眼内異物 など)
輝度が低い(低輝度):均質な液体(正常硝子体 ・前房 液・囊胞など)
周波数帯域 分解能 深達性 主な用途 30 MHz以上 高い 浅い 前眼部(角膜 ・虹彩 ・水晶体 )の精細観察 10〜20 MHz 中程度 中程度 後眼部(硝子体 ・網膜 ・脈絡膜 )の標準観察 5〜10 MHz やや低い 深い 眼窩 内病変の評価
周波数が高いほど波長が短くなるため分解能が上がるが、組織内での減衰が大きくなり深部までの超音波到達性(深達性)が下がる。10 MHzの探触子であれば分解能は計算上約0.2 mmである。後眼部の標準評価には10 MHz前後の探触子が広く用いられ、前眼部超音波生体顕微鏡 (UBM )では50〜80 MHz帯の高周波探触子が使用される。
カラードプラ超音波は通常のBモード像に血流速度情報を色分けして重畳する技術である。眼窩 内血管(眼動脈・中心網膜 動脈・短後毛様動脈・眼静脈)の血流速度・抵抗指数(RI)を定量評価できる。緑内障 では眼動脈ドプラ波形パラメータの変化が緑内障 性視神経 障害の重症度と相関するとの報告があり、虚血性視神経症 や眼窩 内血管病変の評価への応用が研究されている。
硝子体手術 中に超音波Bモードをリアルタイムで使用することで、牽引膜の剥離状況・シリコーンオイル 充填状態の確認・眼内異物 の追跡に活用できる。顕微鏡下での眼底観察が困難な開放性眼外傷症例などで補助的手段として注目されている。
超音波Bモード画像の自動解析への深層学習の応用が進んでおり、InceptionV3-Xception融合モデルでは網膜剥離 ・硝子体出血 ・眼内腫瘍などの分類で精度0.97、AUC 0.999が報告されている5) 。将来的には検査者依存性の低減と診断均質化が期待される。
Aironi VD, Gandage SG. Pictorial essay: B-scan ultrasonography in ocular abnormalities. Indian J Radiol Imaging. 2009;19(2):109-115.
Lorenzo-Carrero J, Perez-Flores I, Cid-Galano M, et al. B-scan ultrasonography to screen for retinal tears in acute symptomatic age-related posterior vitreous detachment. Ophthalmology. 2009;116(1):94-99.
Soliman N, Mamdouh D, Elkordi A. Choroidal melanoma: a mini review. Medicines (Basel). 2023;10(1):11.
Mansoor M, Hunt MS , Binkley EM, et al. Diagnostic accuracy of B-scan ultrasonography in detecting vitreoretinal pathology after open-globe injury. Ophthalmol Retina. 2025;9(5):453-459.
Li Z, Yang J, Wang X, Zhou S. Establishment and evaluation of intelligent diagnostic model for ophthalmic ultrasound images based on deep learning. Ultrasound Med Biol. 2023;49(8):1760-1767.
記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます
下のAIを開いて、チャット欄に貼り付け(ペースト)してください