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腫瘍・病理

限局性脈絡膜血管腫

限局性脈絡膜血管腫(孤立性脈絡膜血管腫)は、脈絡膜に生じる散発性の良性血管腫瘍である。境界明瞭で孤立性に発生し、Sturge-Weber症候群に伴うびまん性血管腫とは明確に区別される。全く無症状のこともあれば、視力低下や視野障害をきたすこともある。

まれな良性腫瘍であり、中年以降の成人に好発する。腫瘍は後極部(眼の奥の中心部)、とくに黄斑部付近に多く発生する。遺伝性はなく、散発性に出現する。Sturge-Weber症候群に伴う脈絡膜血管腫はびまん性で境界不明瞭であるのに対し、限局性(孤立性)脈絡膜血管腫は境界明瞭な単発病変として認められる点が特徴である。

脈絡膜に生じる腫瘍として、以下の3疾患との鑑別が重要となる。

疾患色調形状・高さ特徴
限局性脈絡膜血管腫橙赤色類円形・比較的低い良性、漿液性網膜剥離を伴うことがある
脈絡膜悪性黒色腫黒〜褐色ドーム状〜キノコ状・丈が高い悪性、血行性転移あり
転移性脈絡膜腫瘍黄白色扁平・板状著明な網膜剥離、全身悪性腫瘍の既往
脈絡膜母斑灰黒色〜褐色小型・扁平増大なし、通常無症状
Q 限局性脈絡膜血管腫は悪性腫瘍か?
A

良性の血管腫瘍であり、転移は生じない。ただし、腫瘍の増大や腫瘍上・周囲への漿液性網膜剥離により視力低下・視野欠損をきたすことがあるため、視機能が低下した場合には治療が必要となる。経過観察中も視力変化・変視症・視野異常が生じた際は速やかに眼科を受診することが望ましい。

限局性脈絡膜血管腫は眼底後極部に生じることが多い。腫瘍上または周囲に漿液性網膜剥離を生じると、視野障害の原因となるほか、剥離が黄斑部に及んだ場合には視力低下をきたす。また、腫瘍が黄斑部に生じると、腫瘍の増大に伴い眼軸の短縮による遠視化がみられることがある。主な自覚症状は以下のとおりである。

  • 視力低下漿液性網膜剥離黄斑部に及んだ場合、または腫瘍が直接黄斑を浸潤した場合に生じる
  • 視野欠損:腫瘍上・周囲の網膜剥離が拡大するにつれて出現
  • 変視症(ゆがんで見える)黄斑部網膜剥離・浮腫による
  • 遠視:腫瘍による眼軸短縮が生じると、従来の度数では合わなくなることがある
  • 無症状:後極部外縁や中間周辺部に生じた小型病変では全く症状がないこともある

眼底検査では、脈絡膜内の血管の異常増殖により橙赤色を呈する限局性の、わずかな隆起性を伴った病変として認められる。典型的な眼底所見を以下に示す。

  • 色調:橙赤色〜赤色の境界明瞭な病変(網膜色素上皮の萎縮程度により色調・外観は一様でない)
  • 形状:類円形の隆起性病変
  • 超音波検査(Bモード):断面が紡錘形であり、高さは最大直径の1/3以下であることが多い
  • 漿液性網膜剥離:腫瘍上または腫瘍周囲に高頻度に認める
  • 網膜色素上皮変化:慢性化した病変ではRPEの萎縮・色素沈着を伴うことがある

限局性脈絡膜血管腫は胎生期の神経堤細胞の異所性増殖により形成されると考えられている。脈絡膜内に血管の異常増殖が生じ、良性腫瘍を形成する。腫瘍からの浸出液が網膜下腔に貯留することで漿液性網膜剥離をきたす。

明確なリスク因子は確立されておらず、遺伝性もない。Sturge-Weber症候群に伴うびまん性血管腫とは発症機序が異なり、全身疾患との関連もない。紫外線・生活習慣・食事などとの関連も示されていない。

限局性脈絡膜血管腫のOCT像:ドーム状RPE隆起と網膜下液
限局性脈絡膜血管腫のOCT像:ドーム状RPE隆起と網膜下液
Chhablani J, Motulsky A, Calmettes C, et al. New insights on circumscribed choroidal hemangioma: “bench to bedside”. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2024;262(4):1093-1110. Figure 2. PMCID: PMC10995022. License: CC BY.
限局性脈絡膜血管腫(CCH)のOCT像3断面:A)水平断で黄斑耳側に網膜神経感覚層剥離と中心窩浸潤、B)垂直断で「ドーム状」網膜色素上皮RPE)隆起と中心窩周囲の網膜下液貯留、C)腫瘍頂点部で広範なRPE異常・光受容体層消失・網膜下高反射物質を認める。本文「診断と検査方法」の項で扱うOCTによる限局性脈絡膜血管腫の診断所見および網膜下液評価に対応する。

限局性脈絡膜血管腫は検眼鏡的所見(眼底検査)から診断可能なことが多い。しかし、網膜色素上皮の萎縮の程度により腫瘍の色調や外観は一様でなく、鑑別に複数の検査を組み合わせることが重要である。

  • 眼底検査:橙赤色の境界明瞭な類円形隆起病変を確認。後極部に多い
  • 蛍光眼底造影FA)/インドシアニングリーン造影(ICGA:造影初期(動脈相)の時点で腫瘍に一致した網目状の過蛍光がみられる。これが診断の決め手となる
  • 超音波検査(Bモード):断面が紡錘形、高さは最大直径の1/3以下。高輝度エコーを呈する
  • 光干渉断層計OCT:腫瘍の高さ・範囲の定量、網膜下液の評価に用いる。治療効果のモニタリングにも有用
  • CT・MRI:診断に必ずしも必要ではないが、造影剤によりびまん性で均一な造影効果が確認される。眼外病変の除外にも役立つ
疾患FA/ICGA所見超音波所見その他の特徴
限局性脈絡膜血管腫動脈相で網目状過蛍光紡錘形、高さ≤直径の1/3橙赤色、境界明瞭
脈絡膜悪性黒色腫二重循環パターンドーム状〜キノコ状、高さが大きい黒〜褐色、音響的空虚帯
転移性脈絡膜腫瘍腫瘍に一致した過蛍光扁平・低い黄白色、著明な網膜剥離、全身悪性腫瘍歴
脈絡膜母斑低蛍光(ブロッキング)扁平・薄い灰黒色、小型、増大なし
Q どのような検査で脈絡膜血管腫と診断されるか?
A

眼底検査で橙赤色の境界明瞭な隆起病変を確認し、蛍光眼底造影FA/ICGA)で動脈相の網目状過蛍光を確認することが診断の決め手となる。超音波検査では断面が紡錘形で、高さが最大直径の1/3以下という特徴的な所見が得られる。OCTは腫瘍の高さや網膜下液の評価に用いられ、治療効果のモニタリングにも活用される。

限局性脈絡膜血管腫の治療方針は、症状の有無と視機能障害の程度によって決定する。

漿液性網膜剥離がなく無症状の場合は、特に治療を必要としない。定期的な眼底検査OCTによる経過観察を継続する。腫瘍が増大し、漿液性網膜剥離が出現した場合に治療適応を再評価する。

漿液性網膜剥離・視機能低下例:積極的治療

Section titled “漿液性網膜剥離・視機能低下例:積極的治療”

漿液性網膜剥離による視機能低下が認められる場合、以下の治療が適応となる。

光線力学療法(PDT: 現在最も広く用いられる治療法。ベルテポルフィン(6 mg/m²)を静脈内投与し、腫瘍に対して波長690 nmのレーザーを照射する。いずれの治療法も照射後に強い瘢痕が生じることがあるが、PDTは隣接する網膜組織への障害を最小限に抑えられるため、現在第一選択として用いられることが多い。保険適用外。

瞳孔温熱療法(TTT:Transpupillary Thermotherapy): 810 nm赤外線レーザーによる温熱療法。腫瘍の凝固・縮小を目的として施行する。PDT同様、照射後に強い瘢痕が生じることがある。

光凝固: ヘモグロビンに吸収される長波長(590 nm等)のレーザーを使用する。腫瘍表面に凝固斑が出る程度の出力に設定し、数回に分けて凝固を行う。照射後の瘢痕形成があるため、最近はPDTが優先されることが多い。

β遮断薬(プロプラノロール内服): 腫瘍を縮小させる可能性が報告されているが、保険適用外であり、エビデンスは症例報告レベルにとどまる。

Q 治療は必ず必要か?
A

無症状で漿液性網膜剥離がない場合は、経過観察で問題ない。漿液性網膜剥離により視機能(視力・視野)が低下した場合にPDTレーザー治療が適応となる。レーザー治療への反応は良好なことが多く、腫瘍の瘢痕化と網膜下液の吸収が期待できる。ただし、治療抵抗例や黄斑障害例では視機能低下が残ることもある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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限局性脈絡膜血管腫は胎生期の神経堤細胞の異所性増殖により形成される。脈絡膜内の血管の異常増殖が良性腫瘍を形成し、橙赤色の隆起病変として眼底に現れる。Sturge-Weber症候群に伴うびまん性血管腫とは発症機序が異なり、全身的な神経皮膚症候群との関連はない。

腫瘍からの浸出液が網膜下腔に貯留することで漿液性網膜剥離を生じる。浸出液の産生機序として、腫瘍の血管壁透過性の亢進が関与していると考えられている。網膜剥離黄斑部に及ぶと視力低下をきたし、慢性化すると光受容体細胞の変性により視機能が不可逆的に障害されることがある。

腫瘍自体の急速な増大は稀であり、緩徐な経過をたどることが多い。腫瘍増大に伴い眼軸が短縮すると遠視化が生じる。网膜色素上皮の慢性的な障害が蓄積すると、たとえ漿液性網膜剥離が吸収されても視機能回復が不完全となる場合がある。

PDT:光増感剤(ベルテポルフィン)が腫瘍血管に選択的に集積し、レーザー照射により腫瘍血管内で活性酸素が産生され、血管閉塞・腫瘍の退縮が生じる。周囲の正常網膜への障害を最小限に抑えられることが利点である。

TTT・光凝固:レーザーの熱エネルギーにより腫瘍組織を直接凝固・瘢痕化させる。瘢痕形成が強いため、周囲正常組織への影響に注意が必要である。

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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PDTは現在、漿液性網膜剥離を伴う限局性脈絡膜血管腫の主要な治療として位置づけられている。治療後の腫瘍退縮・網膜下液の吸収は多くの症例で良好とされているが、再発例や再治療を要する症例も報告されている。最適な照射条件(光量、スポットサイズ、照射時間)の標準化については引き続き検討が続けられている。

腫瘍からの浸出液産生に血管内皮増殖因子(VEGF)が関与している可能性から、抗VEGF薬硝子体内注射漿液性網膜剥離の制御に有効であるとする症例報告がある。ただし、限局性脈絡膜血管腫に対する抗VEGF療法のエビデンスは症例報告レベルにとどまり、保険適用外である。

β遮断薬であるプロプラノロールが腫瘍血管の縮小に寄与する可能性が報告されている。小児眼科領域のいちご状血管腫(表在性血管腫)に対するプロプラノロールの有効性から着想を得た治療法であり、脈絡膜血管腫においても腫瘍縮小効果の症例報告が蓄積されつつある。具体的な用量・投与期間・長期的な有効性については、さらなる研究が必要な段階である。

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  2. Blasi MA, Tiberti AC, Valente P, et al. Intralesional bevacizumab for choroidal hemangioma with exudative retinal detachment: an optical coherence tomography evaluation. Ophthalmology. 2010;117(8):1606-1611.
  3. Boixadera A, García-Arumí J, Martínez-Castillo V, et al. Prospective clinical trial evaluating the efficacy of photodynamic therapy for symptomatic circumscribed choroidal hemangioma. Ophthalmology. 2009;116(1):100-105.
  4. Anand R. Transpupillary thermotherapy for circumscribed choroidal hemangioma. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 2003;40(1):43-44.

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