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腫瘍・病理

網膜海綿状血管腫

網膜海綿状血管腫(retinal cavernous hemangioma)は、低流量の拡張した静脈が集簇して形成される網膜の血管奇形である。通常は非遺伝性・片眼性・非進行性で、周辺網膜に孤発性に発生する。視神経乳頭上や黄斑部に病変がある例、常染色体優性遺伝形式を示し皮膚・中枢神経・肝血管腫を合併する例も報告されている。

本疾患は厳密には腫瘍ではなく血管奇形に分類される。血管内皮細胞・平滑筋細胞・間質細胞などから構成される血管の集塊であり、単一細胞の増殖ではない。国際血管奇形学会(ISSVA)の分類では低流量静脈奇形(venous malformation)に位置づけられ、血管腫・血管奇形診療ガイドラインの対象疾患でもある。

孤発性(最多)

遺伝形式:非遺伝性(散発性)

病変分布:片眼性・周辺網膜

臨床経過:通常は非進行性、無症状

全身合併症:なし

家族性(常染色体優性遺伝)

遺伝形式:常染色体優性

病変分布:単眼または両眼・多発性

臨床経過:脳・皮膚・肝合併症あり

全身合併症:脳海綿状血管腫(CCM)・皮膚血管腫・肝血管腫

網膜海綿状血管腫のブドウの房様眼底所見(眼底写真)
網膜海綿状血管腫のブドウの房様眼底所見(眼底写真)
Lyu S, Zhang M, Wang RK, et al. Analysis of the characteristics of optical coherence tomography angiography for retinal cavernous hemangioma: A case report. Medicine (Baltimore). 2018;97(7):e9940. Figure 1. PMCID: PMC5839856. License: CC BY 4.0.
右眼眼底写真で、網膜表面からドーム状に隆起する黄白色不均一な腫瘤が、ブドウの房(cluster of grapes)様の多嚢状外観を呈している。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱うcluster of grapes様眼底所見に対応する。

周辺部に病変が限局する場合は通常無症状であり、眼底検査で偶発的に発見されることが多い。視神経乳頭上あるいは黄斑部に病変が及んだ例では、視力障害・視野欠損が生じうる。線維増殖膜が腫瘤上に形成され、牽引により滲出や出血をきたすと視機能への影響が顕在化する。

  • 無症状:周辺部病変では視機能への影響はほとんどない
  • 視力低下視神経乳頭上・黄斑部病変または牽引性合併症による
  • 視野欠損:病変部位に対応した視野障害
  • 硝子体出血:線維増殖膜の牽引によって生じることがある

眼底所見は本疾患の診断において最も重要である。特徴的な所見を以下に示す。

  • cluster of grapes(ブドウの房)様所見:嚢状に拡張した静脈瘤が集簇した多嚢状の暗赤色腫瘤
  • 線維性被膜(gliotic cap):腫瘤上に白色の線維増殖膜を伴うことがある
  • 出血・滲出:牽引に伴う硝子体出血・滲出が生じる例がある

蛍光眼底造影は鑑別診断に最も有用な検査である。特徴的な所見を以下に示す。

  • 緩徐な静脈性充填:動脈相では造影されず、静脈充満相になって緩徐に充填される
  • fluorescent cap sign(蛍光キャップ徴候):嚢状拡張腔内で血漿と赤血球が分離し、上層の血漿成分が蛍光造影剤とともに上方に貯留することで、下半部が低蛍光・上半部が高蛍光のキャップ状パターンを呈する。本疾患に特徴的な所見である
  • 後期蛍光漏出が乏しい毛細血管腫VHL病)とは異なり、後期でも蛍光漏出は少ない

光干渉断層計OCT)では網膜内層から突出する嚢状の隆起性高反射腫瘤として描出される。OCT血管造影(OCT-A)では内部血流が乏しく、低流量血管奇形としての特性が確認できる。

網膜海綿状血管腫の正確な発生機序は完全には解明されていない。胎生期の血管発生の異常、すなわち静脈系の局所的な過誤腫性変化が原因と考えられている。孤発例の環境的リスク因子は現時点では特定されていない。

家族性例(常染色体優性遺伝)では、脳海綿状血管腫(cerebral cavernous malformation, CCM)との共通の遺伝的背景が存在する。脳海綿状血管腫の原因遺伝子として以下の3つが同定されており、眼病変を含む全身性血管奇形との関連が報告されている1)

遺伝子別名コードするタンパク質主な機能
CCM1KRIT1Krev interaction trapped 1細胞接着・血管内皮恒常性
CCM2MGC4607MalcaverninCCM1との結合・シグナル伝達
CCM3PDCD10Programmed cell death 10アポトーシス・血管透過性制御

これらの遺伝子変異は血管内皮細胞の細胞接着・シグナル伝達・透過性制御に関与し、静脈拡張・血管壁の脆弱化をきたす2)

正確な罹患率のデータは限られているが、網膜海綿状血管腫はまれな疾患とされる3)。脳海綿状血管腫の人口ベース有病率は0.1〜0.5%とされているが、眼病変を有する割合はさらに少ない。好発年齢・性差に関する明確なデータは乏しい。家族性例はまれだが、脳・皮膚・肝血管腫との合併例の家系が複数報告されている。

網膜海綿状血管腫の蛍光眼底造影静脈相(血漿-赤血球分離・蛍光キャップ徴候)
網膜海綿状血管腫の蛍光眼底造影静脈相(血漿-赤血球分離・蛍光キャップ徴候)
Lyu S, Zhang M, Wang RK, et al. Analysis of the characteristics of optical coherence tomography angiography for retinal cavernous hemangioma: A case report. Medicine (Baltimore). 2018;97(7):e9940. Figure 4. PMCID: PMC5839856. License: CC BY 4.0.
蛍光眼底造影静脈相で、腫瘤内に蛍光造影剤が緩徐に充填され、フレーク状・ブドウ房状の充填パターンとともに嚢の上方に強蛍光のキャップ状集積(fluorescent cap sign)が認められる。本文「4. 診断と検査方法」の項で扱う蛍光眼底造影のfluorescent cap signおよび血漿-赤血球分離に対応する。

診断は主として特徴的な眼底所見(cluster of grapes様の多嚢状暗赤色腫瘤)および蛍光眼底造影所見(fluorescent cap sign、蛍光漏出の乏しい静脈性充填パターン)に基づく。典型例では生検を要さず、臨床診断が可能である。

  • 眼底検査:cluster of grapes様の多嚢状暗赤色腫瘤の確認
  • 蛍光眼底造影FA:fluorescent cap sign・静脈性充填パターンの確認。鑑別診断に最も有用
  • 光干渉断層計OCT:嚢状隆起性高反射腫瘤、内部低反射腔の確認。線維増殖膜の評価
  • 超音波検査(Bモード):眼内腫瘤の確認、脈絡膜腫瘤との鑑別
  • 造影MRI(脳):家族性発症例では必須。脳海綿状血管腫の有無を確認する
  • 遺伝子検査:家族性例ではCCM1(KRIT1)・CCM2・CCM3遺伝子変異を検索する
Q 脳の血管腫と関係があるか?
A

家族性(常染色体優性遺伝)の網膜海綿状血管腫では、脳海綿状血管腫(CCM)との遺伝的関連がある。CCM1・CCM2・CCM3遺伝子変異が共通の原因となり、網膜・脳・皮膚・肝に多発性の血管奇形を生じる。家族性例では脳造影MRI検査が必須であり、未発見の脳病変(てんかん・脳出血の原因となりうる)を除外することが重要となる。孤発性例では脳病変との関連は示されていない。

網膜海綿状血管腫の鑑別として最も重要なのは網膜毛細血管腫VHL病)である。蛍光眼底造影所見が両疾患を区別する最重要ポイントとなる。

疾患眼底所見FA所見全身合併症治療
網膜海綿状血管腫多嚢状暗赤色腫瘤(ブドウの房様)緩徐な静脈性充填、fluorescent cap sign、漏出乏しいCCM(家族性)通常経過観察
網膜毛細血管腫VHL病橙赤色半透明腫瘍+拡張した流入・流出血管動脈相で速やかな充填、旺盛な蛍光漏出VHL腫瘍(腎細胞癌等)レーザー・手術・抗VEGF
Coats病滲出性網膜剥離毛細血管瘤毛細血管瘤から旺盛な漏出なし(小児多い)レーザー・手術
網膜血管増殖性腫瘍周辺部黄白色腫瘤漸増性充填・漏出なしレーザー・PDT
Q 網膜毛細血管腫(VHL病)との違いは?
A

両疾患はいずれも網膜の血管性病変だが、蛍光眼底造影所見で明確に区別できる。網膜毛細血管腫VHL病)では拡張した流入・流出血管を伴う橙赤色の腫瘍が特徴で、FAでは動脈相から速やかに充填され旺盛な蛍光漏出が認められる。一方、網膜海綿状血管腫は静脈充満相での緩徐な充填とfluorescent cap signが特徴であり、後期でも蛍光漏出は乏しい。眼底所見でも網膜海綿状血管腫はブドウの房様の多嚢状暗赤色腫瘤として認められ、鑑別は通常可能である。

網膜海綿状血管腫は非進行性であり、通常は治療を要さない。病変上には線維増殖膜が形成されることがあり、牽引による滲出や出血をきたすことがある。無症状で合併症がない例では、定期的な眼底検査による経過観察を行う。

  • 3〜6か月ごとの定期眼底検査
  • OCTによる線維増殖膜網膜牽引の評価
  • 家族性例では脳造影MRIの定期的なフォローアップ

以下の合併症が生じた場合に治療を検討する。

硝子体手術: 線維増殖膜による牽引性網膜剥離、または牽引に伴う硝子体出血が生じた場合に硝子体手術を考慮する。血管奇形であり低流量のため、術中・術後の出血リスクは一般的な網膜手術と同程度とされている。手術成績は症例報告レベルの文献が多く、大規模なエビデンスは乏しい4)

レーザー光凝固: 低流量の血管奇形であることから、光凝固への反応は乏しい。現時点では積極的に推奨されない。

家族性例では眼病変の管理だけでなく、脳海綿状血管腫に対する神経内科的管理が重要となる。脳病変に対しては、無症状であれば経過観察が基本となるが、てんかん発作や神経症状が出現した場合は薬物療法・外科的介入を検討する5)

Q 網膜海綿状血管腫は治療が必要か?
A

通常は治療を必要としない。非進行性の血管奇形であり、無症状例では定期的な眼底検査による経過観察が基本方針となる。線維増殖膜による牽引性合併症(牽引性網膜剥離硝子体出血)が発生した場合にはじめて硝子体手術が適応となる。レーザー光凝固は低流量のため有効性が乏しく、一般的には行われない。家族性例では眼科的フォローに加えて脳血管腫の全身管理が必要となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

網膜海綿状血管腫は腫瘍ではなく血管奇形である。血管内皮細胞・平滑筋細胞・間質細胞などから構成される血管の集塊であり、単一細胞の増殖(=腫瘍性増殖)ではない点が本質的な特徴である。ISSVA(国際血管奇形学会)の2018年改訂分類では低流量静脈奇形(venous malformation)に分類されており、動静脈奇形(高流量)とは区別される6)

家族性(常染色体優性遺伝)例の分子機序として、CCM遺伝子群の機能喪失変異が中心的な役割を果たす。CCM1(KRIT1)は細胞間接着に関与するインテグリン経路を制御し、CCM2(malcavernin)はCCM1の足場タンパク質として機能する。CCM3(PDCD10)はアポトーシス制御・血管透過性の調節に関与する2)。これらの変異は血管内皮細胞の細胞間接着の崩壊→内皮間葉転換(endothelial-to-mesenchymal transition)→血管拡張・透過性亢進という病態を引き起こす。

孤発例(非遺伝性)では体細胞変異(somatic mutation)による局所的な血管発生異常が示唆されている。胎生期の網膜血管発生過程での異常が、cluster of grapes様の多嚢状静脈拡張を形成すると考えられているが、詳細な機序は未解明の部分が多い。

低流量の静脈性血管奇形であることが本疾患の臨床的特性を規定する。血流量が少ないため以下の特性が生じる。

  • 動脈相での造影が見られず、静脈充満相での緩徐な充填
  • 内腔での血漿・赤血球分離(fluorescent cap sign の成因)
  • 後期での蛍光漏出が乏しい
  • レーザー光凝固への反応が乏しい

血管奇形の表面(ガラス体側)には神経膠増殖(gliotic cap)や線維増殖膜が形成されることがある。この膜が収縮すると牽引性の網膜剥離硝子体出血の原因となる。線維増殖膜は腫瘍性ではなく、二次的な反応性増殖である。

CCM遺伝子変異による分子機序の解明が進んでいる。動物実験ではRho/ROCKシグナル伝達阻害薬、PI3K/Akt/mTOR経路阻害薬などが脳海綿状血管腫モデルで有望な結果を示している7)。眼病変への応用については今後の研究が必要である。

次世代シークエンシング(NGS)による多遺伝子パネル検査が普及し、家族性例の確定診断・保因者診断・家族への遺伝カウンセリングに活用されるようになっている。CCM遺伝子変異の病的バリアントの解釈も蓄積されつつある1)

硝子体手術による牽引性合併症の管理については、症例報告・症例シリーズレベルの文献が蓄積されつつある4,8)。大規模なランダム化比較試験は存在せず、今後の前向き研究が望まれる。

  1. Fischer A, Zalvide J, Faurobert E, et al. Cerebral cavernous malformations: from CCM genes to endothelial cell homeostasis. Trends Mol Med. 2013;19(5):302-308.

  2. Couteulx SL, Jung HH, Labauge P, et al. Truncating mutations in CCM1, encoding KRIT1, cause hereditary cavernous angiomas. Nat Genet. 1999;23(2):189-193.

  3. Gass JDM. Cavernous hemangioma of the retina. A neuro-oculocutaneous syndrome. Am J Ophthalmol. 1971;71(4):799-814.

  4. Messmer EP, Font RL, Laqua H, et al. Cavernous hemangioma of the retina. Immunohistochemical and ultrastructural observations. Arch Ophthalmol. 1984;102(3):413-418.

  5. Haller JA Jr, Dortz J, Goldberg MF. Familial retinal cavernous hemangiomas. Arch Ophthalmol. 1979;97(5):879-883.

  6. ISSVA Classification of Vascular Anomalies. International Society for the Study of Vascular Anomalies. 2018 update. Available at: https://www.issva.org.

  7. Lewis RA, Cohen BH, Wise GN. Cavernous haemangioma of the retina and optic disc. A report of three cases and a review of the literature. Br J Ophthalmol. 1975;59(8):422-434.

  8. Shields JA, Shields CL, Timmers E, et al. Spectrum of vitreoretinal surgery. Retina. 1992;12(1):1-11.

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