コンテンツにスキップ
網膜・硝子体

裂孔原性網膜剥離(Rhegmatogenous Retinal Detachment)

裂孔原性網膜剥離(Rhegmatogenous Retinal Detachment; RRD)は、網膜に裂孔が形成されて液化硝子体網膜下腔に侵入し、神経網膜(感覚網膜)が網膜色素上皮RPE)層から剥離する病態である。rhegmatogenousはギリシャ語の「裂け目」に由来する。

網膜剥離には3つの型がある。裂孔原性(RRD)は最も頻度が高く、牽引性(TRD:増殖膜による機械的牽引)および滲出性(ERD:脈絡膜網膜血管からの滲出液貯留)と区別される。本記事では裂孔原性を中心に解説する。

滲出性網膜剥離は裂孔を伴わず、体位変換で剥離部位が移動するshifting fluidが特徴的である。治療は原因疾患の治療が主体であり、裂孔原性とは根本的に異なる。

裂孔閉鎖による修復の概念は1920年代にJules Goninによって確立された。それ以前の治癒率は5%未満であったが、Goninのイグニパンクチャー(熱凝固)により30〜60%へと向上した。その後の発展は以下のとおりである。

  • 1949年:Ernst Custodisがポリビオール製バックルを報告
  • 1950年代:Charles Schepensがシリコーンゴム素材・倒像検眼鏡・冷凍凝固術を普及させ、強膜バックリング術の基礎を確立
  • Harvey Lincoff:裂孔位置推定のLincoffの法則を確立
  • 1960年代後半:Robert Machemerが閉鎖系硝子体切除術(PPV)を開発
  • 2002年〜:25G微小切開硝子体手術(MIVS)が登場し、近年は27Gへの超小切開化も進む

現在では初回手術復位率90%超、複数回手術で98%に達している。

  • 発症率:人口1万人当たり年間1〜1.5人(0.01〜0.015%)2)
  • 両眼性:約10%
  • 家族内発症:約20%
  • 年齢分布:2峰性。20歳代ピーク(格子状変性内の萎縮円孔による扁平な剥離)と50歳代ピーク(急性後部硝子体剥離に伴う弁状裂孔による丈の高い剥離)がある
  • 近視との関連:原因の40〜80%を近視が占める
  • 発症率の増加傾向:ドイツのレジストリデータでは年間発症率が15.6から24.8/10万人へと増加傾向にあり、2) 高齢化・近視人口増加・白内障手術件数増大が背景として挙げられる
  • 白内障手術後のリスク:RRD症例の20〜40%に白内障手術歴がある。術後RRDリスクは約0.21%(約1/500)であり、術式改善に伴い低下傾向にある2)
  • 外傷性:RRD全体の約10%を占め、若年男性に多い2)
  • 黄斑円孔網膜剥離強度近視の女性に多く、全網膜剥離症例の約5%を占める(欧米の0.5〜2.0%と比べて高い)
Q 裂孔原性網膜剥離はどのくらい珍しいのか?
A

人口1万人あたり年間1〜1.5人の発症率であり、比較的まれな疾患である。ただし近視人口が多い地域・集団では発症数が増加傾向にある。約10%は両眼に発症するため、片眼に手術を受けた患者では対側眼の定期的な観察が重要である。

裂孔原性網膜剥離の眼底写真。広範な剥離網膜とPVRによるstar foldsを認める。
裂孔原性網膜剥離の眼底写真。広範な剥離網膜とPVRによるstar foldsを認める。
Xiong J, et al. A review of rhegmatogenous retinal detachment: past, present and future. Wien Med Wochenschr. 2025. Figure 3. PMCID: PMC12031774. License: CC BY.
右眼のカラー眼底写真であり、増殖性硝子体網膜症グレードCの網膜剥離網膜の星状固定襞を認める。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う増殖性硝子体網膜症に伴う網膜固定襞に対応する。
  • 飛蚊症:裂孔形成に伴う出血や後部硝子体剥離による硝子体混濁飛蚊症の約6%に網膜裂孔が認められる。急激な増加・新たな形状の出現は要注意。
  • 光視症網膜硝子体で牽引されることで生じる。暗所で増強し、閉瞼時でもみられ、眼球運動で誘発される。光視症は裂孔の反対側に生じるため、発生部位の問診が原因裂孔の位置推定に役立つ。
  • 視野欠損:剥離の対側に生じる。「カーテンが降りてきた」「真ん中の端がみえない」「瞼が下がってきた」と訴える場合があり、緑内障の進行や眼瞼下垂と誤りやすい。
  • 視力低下・変視症網膜剥離黄斑部に及ぶと出現する。
  • 眼圧:一般に低下。脈絡膜剥離を伴うとより顕著に低下する。
  • Schwartz症候群眼圧上昇を伴う網膜剥離。剥離網膜から脱落した視細胞外節が線維柱帯に詰まって生じる。
  • Shafer’s sign:前部硝子体に浮遊するtobacco dust様色素(網膜色素上皮細胞由来)。裂孔発症を強く示唆する重要所見。
  • 前房所見:正常かわずかの細胞・フレア上昇にとどまる(炎症性疾患との鑑別に有用)。

弁状裂孔(馬蹄形裂孔)

硝子体牽引により網膜が引き裂かれた孔。網膜フラップが馬蹄形を呈する。

中高年の後部硝子体剥離に伴い**耳側上方60%**に好発する。丈の高い剥離を起こしやすい。

operculum伴う円孔

硝子体牽引により裂孔フラップが完全に外れて形成。外れたフラップ(operculum)が硝子体内に浮遊する。

牽引が解除されるため進行は遅め。ただし開大した孔から液化硝子体が流入しやすい。

萎縮円孔

格子状変性内の網膜の萎縮性変化で生じる。蓋(operculum)を伴わない。

若年者・女性・高度近視に多い。硝子体牽引を伴わないため進行が緩徐なことが多い。

裂孔の好発部位は網膜周辺部であり全体の2/3を占める。象限別では耳側上方60%、耳側下方15%、鼻側上方15%、鼻側下方10%である。

Q 光視症が出たらすぐ受診すべきか?
A

光視症後部硝子体剥離に伴う網膜牽引の徴候であり、裂孔形成の前駆症状となりうる。特に飛蚊症と同時に出現した場合や、視野欠損が加わった場合は当日受診が望ましい。急性PVD症状で受診した患者の5.4〜8%に網膜裂孔が認められ、硝子体出血を伴う場合は2/3に裂孔が発見される。2)

裂孔原性網膜剥離の発症には(1)網膜に孔的存在があること、(2)硝子体の液化の2つが絶対条件である。網膜に孔が生じるには、網膜に菲薄化した変性巣があるか、硝子体牽引や強い外力が眼球に及ぶ必要がある。

  • 近視:全RRDの40〜80%に関与する最大のリスク因子。軽度近視(-1〜-3D)で約4倍、-3D超で約10倍のリスク上昇が報告されている。2) 眼軸延長に伴う周辺網膜の菲薄化が主な機序である。
  • 格子状変性(lattice degeneration):一般人口の約8%、網膜剥離患者の眼の約30%に認められる。2) RRD全体の20〜30%に関与する。有症状馬蹄形裂孔は未治療で少なくとも半数がRRDに進行するが、レーザー光凝固で5%未満に抑制できる。無症状馬蹄形裂孔の自然経過でのRRD移行率は約5%である。2)
  • 後部硝子体剥離PVD:急性PVDに伴う硝子体牽引が弁状裂孔形成の主要機序。高齢者では生理的変化として生じる。硝子体出血を伴う患者の約88%では上方象限に裂孔が認められる。2)
  • 白内障手術歴:RRD症例の20〜40%に白内障手術歴がある。2) 術後RRDリスクは約0.21%であり、後嚢Nd:YAGレーザー切開後は約4倍に上昇する。2)
  • 外傷:RRD全体の約10%を占める。2) 若年男性に多く、鋸状縁断裂・巨大裂孔の主要原因となる。
  • 対側眼の既往:約10%に両眼性発症がある。
  • 遺伝性結合組織疾患:Stickler症候群・Marfan症候群・Ehlers-Danlos症候群では早期発症・重篤化に注意する。Stickler症候群では360°予防的レーザー光凝固が推奨される。2)

以下のリスクが高い網膜裂孔は予防的レーザー網膜光凝固術の積極的対象となる。

  1. 飛蚊症光視症などの自覚症状がある網膜裂孔
  2. 網膜剥離の僚眼に発症した網膜裂孔
  3. 水晶体眼や眼内レンズ挿入眼・白内障手術前の網膜裂孔
  4. 網膜剥離の家族歴がある網膜裂孔

格子状変性に対する予防的治療の危険因子:①僚眼の網膜剥離の既往、②無水晶体眼または眼内レンズ挿入眼、③高度の格子状変性を伴った強度近視眼、④網膜剥離の家族歴、⑤Marfan症候群・Stickler症候群・Ehlers-Danlos症候群の合併。

レーザー光凝固の条件:0.2秒、150 mW、200 μmから少しずつパワーを上げ、厚白色程度の凝固斑とする。格子状変性に対しては三面鏡または広角倒像コンタクトレンズを用いて病巣部を隙間のない2〜3列の凝固斑で囲む(凝固サイズ400〜500 μm)。

Q 近視の人は全員網膜剥離になるのか?
A

近視はRRDの最大リスク因子だが、発症率は人口の0.01〜0.015%であり、近視があっても大半は発症しない。ただし強度近視(-6D以上)では格子状変性の合併率が高く、格子状変性内の萎縮円孔からRRDに至るのは0.3〜0.5%と報告されている。定期的な眼底検査が特に重要となる。

診断は倒像鏡および前置レンズや三面鏡を用いた細隙灯顕微鏡による眼底検査を行い、剥離した網膜と原因裂孔を確認する。細隙灯顕微鏡では硝子体の観察も同時に行い、後部硝子体剥離の有無・裂孔への硝子体牽引を評価する。黄斑部に剥離が及んでいるかどうかは術後の視力予後に影響するため、必ず確認する。

外来診察では双眼倒像鏡による強膜圧迫併用検査が最も有用であり、裂孔と偽裂孔の鑑別・裂孔周囲の網膜下液の有無・剥離範囲の評価が方針決定において極めて重要である。

問診では以下の情報が診断と治療方針決定に重要である:2)

  • 光視症飛蚊症の有無と発症時期
  • 視野欠損の有無と範囲(カーテン感の方向)
  • 近視の有無と程度
  • 眼手術歴(白内障手術・Nd:YAGレーザー後嚢切開)
  • 外傷歴
  • 家族歴(RRD・Stickler症候群)
  • OCT光干渉断層計黄斑部の微細な剥離を検出する。網膜分離症との鑑別・黄斑下液の有無の確認に有用。2) 術後視力予後の予測にも活用される。
  • Bスキャン超音波硝子体出血などの混濁媒体が存在する場合に必須。剥離範囲・形態・増殖膜の評価が可能。2)

剥離の形態から原因裂孔の位置を推定する実用的な法則である。

剥離の形態予測される裂孔位置的中率
耳側または鼻側の上方剥離高い方の境界から1.5時計時間以内98%
12時を越えて両側に下降する上方剥離12時頂点の三角形内93%
下方剥離高い境界側に裂孔95%
下方水疱性剥離上方裂孔に由来する
  • 網膜分離症(Retinoschisis)網膜層間の分離。OCTで内層・外層の2葉構造を確認。外層に穿孔がなければ剥離は生じない。
  • 滲出性網膜剥離:裂孔なし。体位変換で液体が移動するshifting fluid陽性が特徴的。原因(Vogt-小柳-原田病脈絡膜腫瘍等)の同定が重要。
  • 牽引性網膜剥離:テント状で可動性が乏しい。増殖糖尿病網膜症等で生じる。
  • 脈絡膜剥離眼圧低下時に生じる。超音波で厚みのある脈絡膜剥離を確認。
Q 眼底検査だけで診断できるか?
A

倒像鏡による散瞳眼底検査が診断の基本であるが、硝子体出血などで眼底透見が不良な場合はBスキャン超音波が必須となる。また黄斑部の微細な剥離はOCTによる補助が有用である。裂孔の完全な同定のために強膜圧迫法を組み合わせた全周検査が推奨される。

網膜剥離は緊急的な手術治療が原則である。治療の必須条件は裂孔の完全閉塞であり、裂孔が残存すると再剥離を生じる。初回手術で90%以上が、複数回の手術で98%が復位する。

術後視力は術前の黄斑部剥離の有無・剥離期間に大きく左右される。黄斑部が既に剥離している症例では可及的速やかに手術を予定する。適切な時期に手術を行えば95%以上が治癒するが、網膜復位後の視力は約半数が0.5以下であり、視野欠損や歪視症が残ることも多い。

Cochrane系統的レビューおよびメタ解析では、硝子体手術PPV)と強膜バックリング術(SB)の解剖学的・視力転帰に有意差はなく(低〜極めて低いエビデンス)、術式選択は個々の症例の特性に基づいて判断する。2)

黄斑非剥離型(macula-on)RRDの緊急性

Section titled “黄斑非剥離型(macula-on)RRDの緊急性”

黄斑が剥離すると視細胞の不可逆的変性が始まる。黄斑非剥離型では術後2ヶ月で73%が矯正視力0.5以上を達成する。黄斑剥離型では約半数の視力が0.5以下にとどまる。

術前の体位保持が黄斑への液流入を抑制しうる:

  • 上方の胞状剥離がある場合 → 仰臥位(トレンデレンブルグ体位)
  • 下方剥離の場合 → 座位

年齢・後部硝子体剥離の有無・裂孔の位置と大きさなどで術式選択を行う。

  • 若年者の萎縮性円孔強膜バックリング術強膜アプローチ)が第一選択
  • 中高年の弁状裂孔硝子体手術硝子体アプローチ)が主体
  • 難治性PVR合併シリコーンオイルタンポナーデが必要
  • 限局した上方裂孔:外来での気体網膜復位術も選択肢となる

眼球外側の強膜にシリコン素材のバックルを縫合固定し、眼球壁を内側へ圧迫陥凹させて裂孔を閉鎖する眼外手術である。

適応

  • 若年者・有水晶体眼・単純なRRD
  • 裂孔が周辺部に限局
  • 水晶体温存が可能な症例

手技の流れ

  1. 結膜切開・外眼筋の露出
  2. 冷凍凝固(cryotherapy):裂孔辺縁と変性部位に最小限の凝固を加える。過剰凝固はPVR促進の要因となるため回避する
  3. バックルの選択と設置:局所バックル(単一裂孔)または輪状締結(多発裂孔・PVR合併例)
バックル材料形状主な用途
シリコンスポンジ局所隆起型単一・局所裂孔
シリコンバンド帯状・輪状輪状締結・360°バックル
シリコンタイヤ幅広の帯状広範囲裂孔・格子状変性
  1. 網膜下液の排液(必要時):高い網膜下液貯留がある場合に強膜部分切開で排液する。非排液法(non-drainage technique)も選択可能で合併症リスクが低い
  2. ガス注入(必要時):SF₆・C₃F₈による内方タンポナーデを追加

成績:初回解剖学的復位率90%以上。有水晶体眼では硝子体手術と比べて視力転帰が優れる可能性があり、5, 6) 黄斑非剥離型に限ればSBが有意に良好な転帰を示すとの報告がある。6)

主な合併症:再剥離、PVR、SINS(バックル誘発性の感染・壊死・皮膚露出)、4) 屈折変化(近視化)、眼球運動障害複視


適応

  • 複数裂孔・下方裂孔
  • 増殖硝子体網膜症PVR)合併
  • 混濁媒体・後極部病変
  • 中高年の弁状裂孔

方法硝子体切除後に裂孔を封鎖し、ガス(20% SF₆・14% C₃F₈)またはシリコーンオイルによる内タンポナーデを行う。

成績:初回解剖学的復位率は強膜バックリング術と同等。2) 白内障促進が短所であり、有水晶体眼の若年者では慎重な適応が必要である。

黄斑非剥離型の術中黄斑保護黄斑が剥離していない症例では術中の黄斑保護が特に重要である。

  • バルブ付きカニューレによる術中眼圧変動の防止
  • 大きな開放裂孔を通じた灌流液の網膜下流入の回避
  • 胞状剥離がある場合には先に排液用網膜切開でSRFを減少させる
  • 後極部にパーフルオロカーボン液(PFCL)を配置し中心窩下への液移動を防止
  • 完全な液ガス置換前にSRFを十分排液(不十分な場合に黄斑剥離を惹起することがある)

スチームローラー法黄斑近傍の胞状剥離で、ガスを黄斑を越えて転がすことで医原性黄斑剥離を防止する手技。黄斑非剥離型RRDにおける独自の術中管理法として知られる。


5-3. 気体網膜復位術(Pneumatic Retinopexy; PR)

Section titled “5-3. 気体網膜復位術(Pneumatic Retinopexy; PR)”

膨張性ガスを硝子体内に注入し、ガスの浮力で裂孔を閉鎖した後、冷凍凝固または光凝固で裂孔周囲を瘢痕化させる外来処置である。

適応

  • 上方(10時〜2時方向)120〜180°の範囲内に裂孔が収まるRRD
  • 弁状裂孔(1つまたは近接した集簇裂孔)
  • PVR B以下
  • 術後の体位保持が可能な患者

ガスの種類と特性

ガス注入量膨張倍率眼内滞留期間
SF₆(六フッ化硫黄)0.5〜0.6 mL約2倍約2週間
C₃F₈(八フッ化プロパン)0.3 mL約4倍約8週間

手技の流れ

  1. 散瞳・点眼麻酔(または球後麻酔
  2. 凝固処置(冷凍凝固先行または光凝固をガス注入後に施行)
  3. 前房穿刺:27〜30G針で房水0.2〜0.4 mLを排出
  4. ガス注入:耳側毛様体扁平部(有水晶体眼では輪部後方4mm)より注入
  5. 眼圧・血流確認:中心網膜動脈の血流を確認。拍動消失が数分続く場合は再減圧
  6. 体位指導:5〜8日間の裂孔部位へのガス位置保持

PIVOT試験(PRとPPVの無作為化比較試験)の結果

評価項目気体網膜復位術(PR)群硝子体切除術(PPV)群
初回復位率80.8%93.2%
最終復位率98.7%98.6%
術後視力(6ヶ月)78.4±12.3文字68.5±17.8文字
白内障手術(12ヶ月・有水晶体眼)16%65%

最終復位率はほぼ同等であり、術後視力変視症の少なさはPR群が優位であった。

主な合併症網膜下ガス迷入(フィッシュエッグ現象)、10) 新裂孔形成、中心網膜動脈閉塞、白内障進行。


5-4. 最小侵襲強膜バックリング術(Lincoff-Kreissig法)

Section titled “5-4. 最小侵襲強膜バックリング術(Lincoff-Kreissig法)”

排液を行わない分節的強膜バックリング術であり、裂孔原性網膜剥離の約90%に適用可能とされる。初回復位率91%、再手術後97.4%、PVR発生率0.9%と良好な成績が報告されている。

適応外となるのは以下の場合である:

  • 異なる緯度に存在する複数裂孔
  • 後方裂孔
  • 70°超の広範囲剥離
  • 巨大裂孔
  • C2超のPVR

術式主な適応初回復位率特徴
強膜バックリング若年・萎縮円孔・単純RRD90%以上水晶体温存・眼外手術
硝子体手術複雑・多裂孔・PVR90%前後広範囲対応・白内障促進
気体網膜復位術上方限局裂孔80.8%外来・体位制限・視力良好
Lincoff-Kreissig法RRDの約90%91%非排液・最小侵襲

増殖性硝子体網膜症PVR)の重症度に応じて術式を選択する。

  • Grade A・B・軽度C強膜バックリング術で治療可能なことが多い
  • 網膜固定皺襞が裂孔近傍・後極に位置する症例、深部裂孔硝子体手術を選択
  • タンポナーデ材料:20% SF₆、14% C₃F₈、またはシリコーンオイル
Q 手術後の視力はどの程度回復するか?
A

初回手術で90%以上が解剖学的に復位するが、術後視力は約半数が0.5以下であり、視野欠損や歪視症が残ることも多い。視力予後を決定する最大因子は黄斑部剥離の有無と持続期間である。黄斑剥離前の早期手術では視力予後が良好だが、黄斑剥離後でも早期手術ほど良好な転帰が期待できる。

Q 硝子体手術とバックリング術はどちらが良いか?
A

水晶体眼の単純なRRD(特に若年者)では強膜バックリング術視力転帰が優れる可能性がある。2, 5, 6) PVRが高度な場合・後極に裂孔がある複雑なRRDでは硝子体手術が選択される。術式の選択は裂孔の性状・位置・PVR重症度・患者背景・術者の習熟度を総合して判断する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

裂孔原性網膜剥離の発症条件は(1)網膜の「孔」的存在と(2)硝子体液化の2つである。

弁状裂孔の形成後部硝子体剥離による硝子体牽引が格子状変性硝子体強付着部に集中する。格子状変性硝子体強付着部位が存在すると裂孔形成に至る。耳側上方60%に好発する。

萎縮円孔の形成硝子体牽引を伴わず、格子状変性内の網膜菲薄化・壊死から形成される。若年者・女性・高度近視に多い。後部硝子体剥離前に生じるため硝子体が残存しており、進行が緩徐なことが多い。

網膜剥離が生じると視細胞網膜色素上皮細胞は分断され、脈絡膜からの酸素と栄養供給が阻害される。発症早期から視細胞外節の変性と脱落が生じ、次第に不可逆性変性に至る。

網膜下液黄斑部へ進展する主な要因を以下に示す。

  • 重力:上方裂孔からの液は重力によって黄斑部に向かいやすい。下方剥離では重力が黄斑到達を遅らせる
  • 眼球運動の慣性力:サッカード(急速眼球運動)が裂孔縁に牽引力を加え、液の流入を促進する。術前の安静が有効とされる理論的根拠である
  • 硝子体液化の程度:中年以降は完全液化した硝子体が流入しやすく胞状剥離として急速に進行する。若年者では硝子体がゲル状のため、流入が緩徐で扁平な剥離になることが多い

非排液法(Lincoff-Kreissig法)の機序

Section titled “非排液法(Lincoff-Kreissig法)の機序”

排液を行わず強膜バックリングのみで網膜を復位させる機序は以下のとおりである。

  • 眼壁と網膜の中央移動による硝子体網膜牽引の減少
  • バックル位置からの網膜下液の移動(眼底周辺部への再分布)
  • 術後のバックル高さの増加による更なる効果
  • 裂孔と隣接する硝子体ゲルの接近
  • 裂孔を通過する流体流に対する抵抗増加

PVR(増殖性硝子体網膜症)の機序

Section titled “PVR(増殖性硝子体網膜症)の機序”

PVRはRRD術後の最大の合併症であり、網膜前・網膜下の増殖膜形成による牽引性再剥離として定義される。

機序:網膜剥離血液網膜関門の破綻→RPE細胞・グリア細胞・マクロファージが硝子体腔に流出→TGF-βなどのサイトカイン刺激→細胞の上皮間葉転換と増殖→収縮性膜形成→再剥離。

RPEは線維芽細胞様に形質転換してコラーゲンを産生し、膜状・索状の増殖組織を形成する。旧分類(Retina Society 1983)によるPVR重症度分類は以下のとおりである。

  • Grade A硝子体混濁硝子体中の色素塊、網膜上の色素塊
  • Grade B網膜表層皺襞の形成、網膜血管の蛇行、裂孔縁の立ち上がり、硝子体の可動性低下
  • Grade C網膜全層皺襞(C-1: 1象限、C-2: 2象限、C-3: 3象限)
  • Grade D:4象限にわたる網膜全層皺襞(D-1: 広い漏斗、D-2: 狭い漏斗、D-3: 閉鎖漏斗)

1991年のMachemer新分類は前部PVRおよび網膜下病変を考慮し、病変範囲を時計の時間で表記する。

Arndtら(2023)は非糖尿病RRD73名とERD64名を対象とした研究で、RD眼の硝子体内グルコース濃度(2.28 mmol/L)がERM眼(1.60 mmol/L)より有意に高値(p<0.0001)であることを報告した。1) 硝子体内グルコースはマクロファージ密度と有意に相関し(p=0.002)、RD範囲とも相関した(r=0.38)。術後中心窩厚(MFT)とは逆相関(r=-0.51)を示し、上皮細胞密度とPVR-Cグレードの間に有意な相関(p=0.002)が認められた。1) 終末糖化産物(AGE)によるコラーゲン架橋が硝子体の硬直化に関与するという仮説も提唱されている。1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

Arndtら(2023)のデータはインスリンが錐体の保護的役割を果たす可能性を示唆する。1) RD眼の高グルコース環境が光受容体障害を増悪させるという仮説に基づき、代謝介入による視力予後改善が研究課題となっている。

ドイツのレジストリデータでは年間発症率が15.6から24.8/10万人へと増加しており、高齢化・近視人口の増加・白内障手術件数の増大が背景要因として挙げられている。2) 白内障術後RRDリスクは術式改善に伴い0.21%まで低下している。2)

未治療ROP既往眼の若年・成人期RD

Section titled “未治療ROP既往眼の若年・成人期RD”

未治療ROP既往眼の長期観察では、18歳以下の18.4%、19〜30歳の35.1%に裂孔が認められた。3) 後部硝子体剥離前の強い硝子体網膜付着が主な機序であり、網膜剥離例では再手術率が36%と高い。小児・若年成人の背景疾患に応じた手術戦略の最適化が課題となっている。3)

シャンデリア照明併用強膜バックリング術(CSB)

Section titled “シャンデリア照明併用強膜バックリング術(CSB)”

広角観察システムとシャンデリア照明を組み合わせ、従来術式の視認性の制限を補う手技である。7) メタ解析では従来法と視力・解剖学的成功率は同等で、手術時間の短縮が示されている。9)

術後の光受容体再整列は機能的転帰に関わる可能性があり、強膜バックリング術硝子体手術の術後視機能差を説明する要素として研究されている。6)

RRD修復後に発生する嚢胞様黄斑浮腫CME)に対して、デキサメタゾン徐放性インプラントなどの新規治療が検討されている。8)

Ahmed Iら(2025)は、RRD修復後にドルーゼンが消失した83歳女性の1例を報告した。11) 機序として網膜下液の溶解および局所炎症応答の関与が示唆されている。

Pneumatic Vitreolysis(気体硝子体融解術)

Section titled “Pneumatic Vitreolysis(気体硝子体融解術)”

ガス注入による硝子体黄斑牽引(VMT)や黄斑円孔の非手術的解除を目指す研究段階の手技である。

RCOphth iFTMH Guideline(2025年版)では、pneumatic vitreolysisによる黄斑円孔閉鎖率は47.8%、黄斑円孔の新規発生率は5.3%と報告されている。12)

AAO ERM/VMT PPP(2019)が引用するDRCR無作為化比較試験では、C₃F₈による硝子体黄斑牽引解除率が78% vs 9%(偽手術群)であったが、安全性上の懸念により試験は早期中止となっている。13) 現時点では適応が限定的であり、標準治療には至っていない。

外傷性macula-sparing RRDへの気体網膜復位術

Section titled “外傷性macula-sparing RRDへの気体網膜復位術”

Al-Salehら(2025)は、外傷性の黄斑非剥離RRDに対してSF₆ガスを用いた気体網膜復位術を施行し、24時間以内に復位達成・最終視力20/40を報告した。14) 適切な症例選択のもとで外傷性RRDにも本術式が有効な可能性を示す。

Deanら(2023)は、硝子体手術強膜バックリング術後2〜3週で悪化する炎症・角膜後面沈着物・硝子体混濁を呈した症例を報告した。15) ステロイド増量とNSAIDs全身投与で改善し、術後遷延炎症の鑑別にHLA-B27検査が有用であることを示した。

特発性黄斑円孔とmacula-on RRDの同時手術

Section titled “特発性黄斑円孔とmacula-on RRDの同時手術”

Au Eongら(2024)は、写真記録で30年持続した特発性黄斑円孔と急性macula-on RRDの併存例に対してPPVILM剥離+C₃F₈タンポナーデで復位と円孔閉鎖を同時に達成した。16) 長期の視細胞障害により視力改善は限定的(6/45のまま)であったが、同時手術の可能性を示した報告として注目される。

  • 3D手術用顕微鏡:術者の姿勢負担軽減・視野共有・画像記録の容易さが利点
  • 27Gシステム(外径0.36mm):術後乱視誘発・創口閉鎖問題の減少
  • 眼内内視鏡角膜混濁・瞳孔散大不良例への適応拡大

  1. Arndt C, Hubault B, Hayate F, et al. Increased intravitreal glucose in rhegmatogenous retinal detachment. Eye (Lond). 2023;37(4):638-643. doi:10.1038/s41433-022-01968-w.
  2. American Academy of Ophthalmology. Posterior Vitreous Detachment, Retinal Breaks, and Lattice Degeneration Preferred Practice Pattern. San Francisco, CA: American Academy of Ophthalmology; 2024.
  3. Hamad AE, Moinuddin O, Blair MP, et al. Late-Onset Retinal Findings and Complications in Untreated Retinopathy of Prematurity. Ophthalmol Retina. 2020;4(6):602-612. doi:10.1016/j.oret.2019.12.015.
  4. Jayallan B, Goswami P, Bhakat A. Rhegmatogenous retinal detachment in anterior scleritis associated with ulcerative colitis: a case report. Cureus. 2024;16(6):e61819.
  5. Ferro Desideri L, Bonfiglio V, Russo A, et al. Scleral buckling: a review of clinical aspects and current concepts. J Clin Med. 2022;11(2):314.
  6. Cruz-Pimentel M, Huang CY, Wu L. Scleral buckling: a look at the past, present and future in view of recent findings on the importance of photoreceptor re-alignment following retinal re-attachment. Clin Ophthalmol. 2022;16:1971-1984.
  7. Genovese L, Crisafulli C, Mancuso S, et al. Chandelier-assisted scleral buckling: a literature review. Vision (Basel). 2023;7(3):47.
  8. Bernardi E, Shah N, Ferro Desideri L, et al. Cystoid macular edema following rhegmatogenous retinal detachment repair surgery: incidence, pathogenesis, risk factors and treatment. Clin Ophthalmol. 2025;19:629-639.
  9. Ziafati M, Mirshahi R, Sanadgol N, et al. Functional outcome of chandelier-assisted scleral buckling in rhegmatogenous retinal detachment: a systematic review and meta-analysis. J Curr Ophthalmol. 2025;37:172-182.
  10. Wang JC, Tang WM, Eliott D. Management of large subretinal gas bubble after pneumatic retinopexy with head-positioning maneuver. J VitreoRetin Dis. 2022;6(2):167-170.
  11. Ahmed I, Wu DM. Drusen Disappearance After Retinal Detachment Repair. J VitreoRetin Dis. 2025;9(1):109-112. doi:10.1177/24741264241276603.
  12. Royal College of Ophthalmologists. Idiopathic Full Thickness Macular Holes. Clinical Guideline. London: RCOphth; 2025. Available from: https://www.rcophth.ac.uk/resources-listing/idiopathic-full-thickness-macular-holes/
  13. American Academy of Ophthalmology. Epiretinal Membrane and Vitreomacular Traction Preferred Practice Pattern. San Francisco, CA: American Academy of Ophthalmology; 2019.
  14. Al-Saleh A, Al-Otabi A, Al-Shammari Y, et al. Successful management of macula-sparing retinal detachment following blunt ocular trauma using pneumatic retinopexy. Cureus. 2025;17(6):e85709.
  15. Dean J, McTavish S, Feng Y, et al. Persistent inflammation associated with HLA-B27 after pars plana vitrectomy with scleral buckle placement. J VitreoRetinal Dis. 2023;7(6):557-561.
  16. Au Eong JTW, Lim JHM, George SM, et al. Successful anatomical closure of a photographically documented 30-year-old idiopathic full-thickness macular hole following surgery for concurrent repair of an acute macula-on rhegmatogenous retinal detachment. J Surg Case Rep. 2024;4:rjae231.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます