黄斑疾患
硝子体手術の解説(Pars Plana Vitrectomy)
1. 硝子体手術の解説とは
Section titled “1. 硝子体手術の解説とは”経毛様体扁平部硝子体切除術(pars plana vitrectomy; PPV)は、網膜および硝子体にある病変に対して眼内で行う手術である。硝子体手術とも呼ばれる。一般的に経毛様体扁平部に硝子体カッターを挿入して硝子体を切除し、疾患に合わせて膜剥離・光凝固・ガスタンポナーデなどを行い網膜疾患を治療する。
Three Port System
Section titled “Three Port System”硝子体手術は3つの独立した器具による Three Port System で構成される。
- 灌流(インフュージョン)カニューラ:眼圧を維持しながら眼内を灌流する
- 硝子体カッター:硝子体を吸引・切除する
- 眼内照明:ライトガイドプローブまたはシャンデリア照明で術野を照射する
近代的な硝子体手術は1970年代にMachemerが行った電動硝子体カッターによる経毛様体扁平部硝子体切除術から始まる。日本ではMachemerの弟子である田野・樋田らが精力的に硝子体手術の普及に取り組んだ。
1969年にKasnerが「開放性硝子体切除術」として報告したのが起源であり、1974年にO’Malleyが20ゲージ(G)の経結膜的アプローチを確立した。その後、25G、23G、27Gへと器具の細径化が進み、最小侵襲硝子体手術(minimally invasive vitrectomy surgery; MIVS)が現在の主流となっている6)。
手術の目的は以下の8項目に大別される。
- 硝子体混濁の除去:炎症・出血による混濁で視機能低下・診断治療に支障がある場合
- 硝子体牽引の除去:VMT・網膜剥離・増殖糖尿病網膜症・ROPなど
- サイトカインの除去:増殖糖尿病網膜症・血管新生緑内障・RVO・ぶどう膜炎でVEGF・炎症性サイトカインが高濃度に存在する場合
- 網膜下病変の除去:加齢黄斑変性出血・細動脈瘤破裂出血・PVR網膜下索状物など
- 眼圧のコントロール:悪性緑内障・急性緑内障発作での硝子体圧亢進
- 眼内異物の除去:外傷性異物・IOL落下
- 感染巣の洗浄:眼内炎での細菌・エンドトキシン除去
- 生検:悪性リンパ腫疑いでの硝子体生検・細胞診・サイトカイン測定
主な適応疾患
Section titled “主な適応疾患”- 裂孔原性網膜剥離(RRD):後部硝子体剥離(PVD)既発・深部裂孔・多発裂孔が適応。PVD未発の若年者にはバックリング手術が適応となる場合がある。
- 増殖糖尿病網膜症(PDR):硝子体出血・牽引性網膜剥離が手術適応
- 全層黄斑円孔(FTMH):Stage 2〜4。Stage Iで視力低下がなければ経過観察する。
- 網膜前膜(ERM)/硝子体黄斑牽引(VMT):歪視・視力低下があれば手術適応
- 硝子体出血:各種原因による混濁の除去
- 眼内炎:病原体除去と薬剤注入
- 眼内異物:異物摘出
- 未熟児網膜症(ROP):光凝固後も増殖組織による牽引性網膜剥離が生じる場合。網膜全剥離前の早期手術が原則
- 巨大裂孔を伴う網膜剥離:PPV後にシリコーンオイル充填を要することがある2)
- 眼内悪性リンパ腫:生検目的(細胞診・サイトカイン濃度測定)
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”経毛様体扁平部硝子体切除術の適応疾患に共通する自覚症状を以下に示す。
- 視力低下:硝子体出血・黄斑病変・網膜剥離の進行とともに出現する。全層黄斑円孔では中心視力が著しく低下する。4)
- 飛蚊症:硝子体混濁・出血・後部硝子体剥離(PVD)に伴う光学的遮断を感じる。
- 変視症(ゆがみ):網膜前膜や硝子体黄斑牽引による黄斑牽引で生じる。格子(アムスラー)チャートで確認できる。
- 視野欠損・光視症:網膜剥離では対応部位に一致した視野欠損が生じる。裂孔形成時の光視症が前駆症状となる。
細隙灯顕微鏡・眼底検査・OCTで以下の所見を確認する。
網膜・硝子体疾患
全層黄斑円孔では黄斑に病変が及ぶ前の早期介入が視力予後を左右する。4)
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”適応疾患の主な原因とリスク
Section titled “適応疾患の主な原因とリスク”- 裂孔原性網膜剥離:後部硝子体剥離(PVD)・高度近視・眼外傷・格子状変性・白内障術後が主な原因。PVD既発・深部裂孔・多発裂孔がPPV適応の目安となる。
- 増殖糖尿病網膜症:長期の血糖コントロール不良による網膜新生血管からの出血・増殖膜形成。
- 全層黄斑円孔:特発性の後部硝子体皮質の接線方向牽引が主因。僚眼での全層黄斑円孔発症率は10〜15%とされる。4)
- 網膜前膜:特発性(加齢に伴う後部硝子体剥離)と続発性(網膜剥離術後・ぶどう膜炎など)に分類される。
ガスタンポナーデ後の航空旅行リスク
Section titled “ガスタンポナーデ後の航空旅行リスク”経毛様体扁平部硝子体切除術後にガスタンポナーデを施行した眼では、航空旅行による気圧低下がガスの膨張を招き、眼圧が急激に上昇する。
Foulshamら(2021)は、C₃F₈(パーフルオロプロパン)50%充填のガス眼が航空機に搭乗した場合、高度1000フィートあたり眼圧が10.8 mmHg上昇し、最大42 mmHgに達することをボイルの法則に基づき試算・報告した。1)
この眼圧上昇は視神経や網膜血管の虚血を引き起こしうる。ガスが完全に消退するまで航空旅行は禁忌である。1)
黄斑円孔のガスタンポナーデ後は、ガスが浮力によって黄斑部を上から圧迫し円孔の閉鎖を促すため、うつ伏せ(フェイスダウン)体位が必要となる。体位保持期間は術式・ガスの種類・円孔サイズにより異なり、担当医の指示に従う。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”経毛様体扁平部硝子体切除術の手術適応判断には以下の検査を組み合わせて用いる。
光干渉断層計(OCT)
Section titled “光干渉断層計(OCT)”黄斑疾患の診断・術前評価の中心的検査である。
- 全層黄斑円孔:円孔径・牽引の有無・硝子体黄斑接着の評価。Gass分類に基づく病期決定。
- 網膜前膜/硝子体黄斑牽引:網膜内層の歪み・厚み増加・嚢胞様変化の評価。ILM(内境界膜)の状態確認。
- 術後評価:円孔閉鎖・網膜前膜再発・黄斑浮腫の経過観察。
蛍光眼底造影(FA)・OCTA・Bモード超音波・ERG
Section titled “蛍光眼底造影(FA)・OCTA・Bモード超音波・ERG”- FA/OCTA:増殖糖尿病網膜症の新生血管評価・網膜虚血領域の同定・血管病変・無灌流領域の評価・術後合併症の確認
- Bモード超音波:硝子体出血や高度混濁で眼底透見不能の場合に網膜剥離の有無を評価
- ERG:眼底透見不能例で網膜機能を評価。波形の消失は高度の網膜機能障害を示す。
主な鑑別診断
Section titled “主な鑑別診断”| 疾患 | 特徴的所見 | 要点 |
|---|---|---|
| 黄斑偽円孔 | OCTで全層欠損なし | 網膜前膜による牽引 |
| 硝子体黄斑牽引 | OCTで後部硝子体皮質接着 | 自然消退例もあり |
| 中心性漿液性脈絡網膜症 | OCTで網膜下液 | 手術適応外が多い |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”
手術器具のゲージと特徴
Section titled “手術器具のゲージと特徴”小切開硝子体手術(MIVS)では結膜切開なしにカニューラ経由で器具を挿入する。現在ではほとんどすべての症例がMIVSで行われており、多くの場合は縫合なしで手術を終えられる。6) MIVSは結膜を切開せずに結膜上から硝子体腔へ設置したカニューラを通して眼内照明や硝子体カッターなどの器具を挿入できる点で、従来の20G手術と大きく異なる。
| ゲージ | 切開径 | 特徴 |
|---|---|---|
| 20G | 約0.9 mm | 旧来標準。強膜縫合要。現在はほぼ不使用 |
| 23G | 約0.6 mm | MIVS普及型。縫合不要が多い |
| 25G | 約0.5 mm | 2002年登場。現在の主流。低侵襲 |
| 27G | 約0.4 mm | 最細径。近年普及 |
基本手技の手順
Section titled “基本手技の手順”硝子体手術は以下の順序で行われる。
- トロカールカニューラ挿入(3ポート):角膜輪部から3.5〜4 mmの位置に刺入する(有水晶体眼4 mm、無水晶体/IOL眼3.5 mm)。強膜から30度の角度で刺入することで強膜創が自己閉鎖しやすくなる。
- 硝子体切除:後部硝子体剥離(PVD)を作成し、基底部まで切除する。トリアムシノロンアセトニドを用いると硝子体の視認性が向上する。
- 膜剥離:インドシアニングリーン(ICG)またはブリリアントブルーG(BBG)で内境界膜を染色して剥離する。
- 止血:灌流圧を40 mmHg以上に上げて吸引し、出血点をジアテルミー凝固する。
- 網膜復位(網膜剥離例):液空気置換で剥離網膜を復位させる。
- 光凝固:網膜裂孔周囲に2〜3列施行する(200 mW未満、1,000発程度まで)。
- タンポナーデ:SF₆ガス(20%以下希釈)・C₃F₈ガス(12%以下希釈)・シリコーンオイル(巨大裂孔網膜剥離・PVR)から選択する。
- カニューラ抜去・創閉鎖確認:自己閉鎖を確認し、必要に応じて8-0吸収糸で縫合する。
手術補助剤(染色剤)
Section titled “手術補助剤(染色剤)”| 補助剤 | 用途 |
|---|---|
| トリアムシノロンアセトニド | 硝子体の可視化 |
| インドシアニングリーン(ICG) | 内境界膜(ILM)染色 |
| ブリリアントブルーG(BBG) | 内境界膜染色(ICGより安全性高い) |
| 液体パーフルオロカーボン(PFCL) | 剥離網膜の復位(巨大裂孔・PVR) |
広角観察システム(非接触型レンズ)と接触型レンズを用途に応じて使用する。広角観察は周辺網膜の処理に有利だが、光学的な死角が存在することがある。3)
網膜剥離修復・膜剥離
Section titled “網膜剥離修復・膜剥離”裂孔部の光凝固・冷凍凝固後にタンポナーデを行い、網膜を復位させる。網膜前膜の手術ではILM(内境界膜)の同時除去が網膜前膜再発率を低下させる。網膜前膜の約80%には残存グリア要素が含まれており、ILM除去によってこれを除く効果がある。5)
タンポナーデ
Section titled “タンポナーデ”手術終了時に眼内腔をガスまたは液体で充填し、網膜・黄斑を圧迫・支持する。
| タンポナーデ | 持続期間 | 主な適応 |
|---|---|---|
| SF₆(六フッ化硫黄) | 約2週間 | 小裂孔・硝子体黄斑牽引 |
| C₃F₈(パーフルオロプロパン) | 約8週間 | 大裂孔・全層黄斑円孔 |
| シリコーンオイル | 無期限(要抜去) | 難治例・巨大裂孔2) |
ガスは眼内で希釈されると膨張する。高高度環境ではボイルの法則に従い膨張し眼圧上昇を招くため、ガス消退前の航空旅行は禁忌である。1)
眼内ガス(SF₆・C₃F₈等)が残存している状態で亜酸化窒素(笑気)を使用すると、気泡が膨張して眼圧が急上昇し、最悪の場合は失明に至る。4) 他科での手術を受ける際は必ず担当眼科医と麻酔科医に眼内ガスの残存を伝え、笑気の使用を避けてもらう必要がある。警告リストバンドの装着が推奨される。4, 8)
麻酔法の選択
Section titled “麻酔法の選択”硝子体手術の大部分は監視下麻酔管理(MAC)+局所麻酔で実施可能である。4, 7) 通常、球後麻酔またはテノン嚢下麻酔を選択し、2%リドカイン3〜4 mLで疼痛緩和と眼球運動停止を図る。
テノン嚢下麻酔
手技:下鼻側結膜を切開し、テノン嚢下に27G鈍針で麻酔薬を注入する。
投与量:硝子体手術では3〜4 mL。
特徴:球後麻酔と同等の鎮痛効果を持ちながら、眼球穿孔などの重篤合併症が少なく手技が容易。8)
薬剤:2%リドカイン+0.5%ブピバカイン(マーカイン)または0.75%ロピバカイン(アナペイン)等量混合。ロピバカインは低毒性・防腐剤不含でアレルギーが起こりにくい。8)
球後麻酔
球周囲麻酔
手技:筋円錐外に5〜10 mL投与。球後ブロックより緩徐だが同様の効果。
有効性:疼痛スコア・無動化において球後麻酔と有意差なし。7)
合併症:穿孔頻度1/16,000(球後より低い)。結膜浮腫は球周囲で多く、眼瞼血腫は球後で多い。7)
その他の局所麻酔法:
- 点眼麻酔:4%リドカイン点眼で発現約16秒、持続約14分。角膜・結膜・強膜の痛覚抑制のみで、虹彩・毛様体・眼球運動の抑制効果はない。
- 前房内麻酔:1%防腐剤無添加リドカイン0.5 mLを前房内投与。作用は約10分。点眼麻酔との併用で疼痛制御が向上する。7)
- 結膜下麻酔:結膜・強膜に作用する浸潤麻酔。単純小切開手術で有効な場合がある。
針ブロック合併症:7)
後部ブドウ腫・強膜バックル術既往眼・長眼軸(>26 mm)では穿孔リスクが増加する。その他重篤合併症として斜視・血管内注射・くも膜下注射・黄斑梗塞がある。局所麻酔薬中毒は初期の刺激症状・血圧上昇から、進行期の全身けいれん、末期の血圧低下・心停止へと段階的に進行する。早期認識と対応が重要である。
全身麻酔の適応:乳幼児・小児・精神疾患・認知症・不随意運動・閉所恐怖症・長時間手術・強膜バックル手術・眼球破裂症例では全身麻酔を選択する。全身麻酔に局所麻酔ブロックを併用することで眼球心臓反射(OCR)の予防と血行動態の安定化が図れる。
鎮静(MAC):プロポフォール・オピオイド・ベンゾジアゼピンが選択肢。静脈内鎮静はメタアナリシスで疼痛を有意に低下させることが示されている。7) 不安の強い患者ではヒドロキシジン+ペンタゾシンの術前筋注を考慮する。過度な鎮静は脱抑制をきたし逆効果となる(“Local is Vocal”の原則)。
術中視覚体験:光・色・動きの知覚は3〜18%の症例で不快感を伴う。術前の説明で患者の不安を軽減することが推奨される。7)
麻酔法の運動制御比較:
| 麻酔法 | 運動制御 | 手技容易さ |
|---|---|---|
| 球後麻酔 | 最良 | 難 |
| テノン嚢下麻酔 | 中等度 | 容易 |
| 点眼麻酔 | なし | 最も容易 |
視力・視機能・合併症・患者満足度は麻酔法間で有意差がなく、術者の経験と患者条件で選択する。7)
局所麻酔のみでは角膜・結膜・強膜の体性痛覚は抑制されるが、虹彩・毛様体由来の内臓痛覚は完全には抑制できないことがある。7) 痛みを感じた場合は術者に申し出れば追加麻酔や鎮静薬の投与が可能である。また3〜18%の患者で光・色・動きの視覚体験が不快感を伴うが、術前の説明によって不安を軽減できる。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”経毛様体扁平部硝子体切除術の作用機序
Section titled “経毛様体扁平部硝子体切除術の作用機序”硝子体混濁の除去:炎症性滲出物・出血・感染性微生物を含む濁った硝子体を物理的に除去し、光路を回復する。
機械的牽引の解除:網膜前膜や増殖膜による接線方向牽引を除去することで黄斑の構造変形が改善する。ILM除去は網膜前膜再発を防ぐとともに、黄斑浮腫に対する内境界膜剥離術の効果をもたらす。5)
サイトカイン・増殖因子の除去:眼内炎・糖尿病網膜症では硝子体腔にVEGFや炎症性サイトカインが蓄積する。経毛様体扁平部硝子体切除術によってこれらの液性因子が除去され、新生血管増殖や浮腫が抑制される。
タンポナーデの物理的支持作用:ガス・シリコーンオイルは浮力によって網膜・黄斑を支持し、剥離網膜の復位・円孔の閉鎖を補助する。
MIVSの臨床的意義
Section titled “MIVSの臨床的意義”- 結膜切開不要:手術侵襲の軽減
- 自己閉鎖創:縫合不要(多くの場合)
- 術後炎症・回復期間の短縮
- 広角観察システム+シャンデリア照明による手術視野の飛躍的改善
ボイルの法則とガス眼圧上昇
Section titled “ボイルの法則とガス眼圧上昇”眼内ガスの体積と圧力の関係はボイルの法則(P × V = 一定)に従う。気圧が低下すると体積が増加し、密閉された眼球内ではこれが眼圧上昇として現れる。1)
Foulshamら(2021)の試算では、C₃F₈ 50%充填眼において高度1000フィートあたり眼圧が10.8 mmHg上昇し、一般的な航空機の巡航高度では最大42 mmHgに達することが示された。1) この眼圧は視神経・網膜血管の虚血閾値を超えうる。
ガスタンポナーデと高度・低地移動
Section titled “ガスタンポナーデと高度・低地移動”高地移動(航空機を含む)では気圧低下によりガスが膨張し、眼圧上昇・動脈閉塞・創離開のリスクがある。1) 一方、低地移動でも眼内圧の変動により低眼圧・網膜剥離のリスクが生じうる。1) ガス消退まではいずれの方向の気圧変化にも注意が必要である。
眼球心臓反射(OCR)
Section titled “眼球心臓反射(OCR)”眼球心臓反射は、三叉神経(求心路)→迷走神経(遠心路)を介した心拍数の低下(20%以上)を引き起こす反射である。外眼筋の操作・牽引により誘発され、斜視手術・強膜バックル手術で頻度が高い。テノン嚢下麻酔は求心路をブロックすることでOCRを予防できる。硫酸アトロピンの投与でも発生を抑制できるが、完全な予防は不可能である。
眼内ガスと亜酸化窒素の相互作用
Section titled “眼内ガスと亜酸化窒素の相互作用”笑気(亜酸化窒素)は眼内気泡に流入して気泡を膨張させ、眼圧を急激に上昇させる。これにより網膜中心動脈閉塞・失明が生じる危険がある。液空気置換の20分前には笑気を中止することが必須とされる。4) 眼内ガスは使用可能な麻酔薬を制限する重要な因子であり、他科受診時の笑気使用禁忌の徹底が求められる。
バルサルバ誘発脈絡膜上出血
Section titled “バルサルバ誘発脈絡膜上出血”全身麻酔が浅い状態での咳・バッキングにより眼圧が急上昇し、脈絡膜上出血(駆逐性出血)が生じることがある。予防のために深麻酔の維持・局所麻酔の併用・強膜切開部の縫合が推奨される。
痛覚の解剖学的分類
Section titled “痛覚の解剖学的分類”- 体性痛覚:角膜・結膜・強膜由来。点眼麻酔・局所浸潤で対応可能。
- 内臓痛覚:虹彩・毛様体由来。点眼麻酔のみでは抑制不可能であり、ブロック麻酔または全身麻酔が必要となる。
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”MIVSの進歩と眼内炎リスクの低減
Section titled “MIVSの進歩と眼内炎リスクの低減”英国眼科医学会(RCOphth)の2023年ガイドラインは、20G手術から27G MIVSへの移行を歴史的転換と位置づけている。6)
RCOphth FTMH Guideline(2023)によれば、術後眼内炎の発生率は20G手術で0.021%、MIVS(23G/25G/27G)では0.005%と有意に低い。6) また術後1日目の再介入率は4.7%と報告された。
この感染リスク低減がMIVSの普及を後押しし、日帰り手術や局所麻酔での施行を可能にした大きな要因となっている。6)
航空旅行と眼圧上昇の定量的評価
Section titled “航空旅行と眼圧上昇の定量的評価”Foulshamら(2021)は従来定性的にのみ知られていた「ガス眼と航空旅行の危険性」を定量的に評価し、C₃F₈ 50%充填時の眼圧上昇量(1000フィートあたり10.8 mmHg)を初めて体系的に報告した。1) この知見は術前インフォームドコンセントの重要な根拠となる。
シリコーンオイル充填後の視機能リスク
Section titled “シリコーンオイル充填後の視機能リスク”Barthら(2023)は、中心窩温存裂孔原性網膜剥離に対するPPV+シリコーンオイル充填後、22例中11例で原因不明の3段階以上の視力低下を認めたと報告した2)。シリコーンオイルは難治例で有用だが、必要性を慎重に判断し、可能な範囲で早期抜去を検討する。
眼内まつ毛迷入の予防
Section titled “眼内まつ毛迷入の予防”Itohら(2023)は25G MIVS施行後にトロカール経由で眼内にまつ毛が迷入した症例を報告した。3) 広角観察システムの死角となる領域での見落としが原因であり、術中の適切な観察と術前のまつ毛処理が重要であることが示された。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”-
Foulsham W, Bhatt U, Pasquale LR, et al. Intraocular pressure changes with gas-filled eyes during air travel: a prospective study. Retin Cases Brief Rep. 2021;15(5):564-567.
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Barth T, Helbig H, Maerker D, Gamulescu MA, Radeck V. Unexplained visual loss after primary pars-plana-vitrectomy with silicone oil tamponade in fovea-sparing retinal detachment. BMC Ophthalmol. 2023;23:82. doi:10.1186/s12886-023-02823-6. PMID:36829157; PMCID:PMC9951486.
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