軽症
限局した出血性脈絡膜剝離:出血が脈絡膜下に限局し、互いに接着していない状態。
眼内収束型:出血が眼球内にとどまり、創口からの脱出はない。10〜14日後の二期的手術で視力確保が期待できる。
駆出性出血(expulsive hemorrhage)は、脈絡膜の血管破綻により上脈絡膜腔(suprachoroidal space)に急峻な血液成分の異常な蓄積が起こった病態である。「駆逐性出血」とも表記され、脈絡膜上出血(suprachoroidal hemorrhage, SCH)とも呼ばれる。
眼内手術や眼外傷によって起こる。長または短後毛様体動脈からの動脈性の出血であり、脈絡膜外腔に出血が貯留する。硝子体腔をすべて出血で満たしてしまうこともある。
白内障手術での発症頻度は約0.04〜0.1%と報告されている。英国の疫学調査では推定発症率0.04%が記録された1)。大切開白内障手術(水晶体嚢外摘出術)での歴史的発生率は0.15〜0.19%と高かった2)。米国のMedicare受給者を対象とした大規模研究では、術後1年以内の脈絡膜上出血発生率は0.06%とされた3)。
水晶体嚢外摘出術は超音波乳化吸引術(PEA)より発症頻度が高い。極小切開白内障手術では眼圧上昇に伴い自然に創口が閉鎖するため、発症件数は減少傾向にある。
白内障手術全体では0.04〜0.1%と稀な合併症である。大切開の嚢外摘出術では超音波乳化吸引術より頻度が高く、歴史的には0.15〜0.19%の報告もある。極小切開手術の普及により現在の発症率は低下している。
局所麻酔下での手術では、発症時に患者が中等度ないし高度の眼痛を訴えることが多い。全身麻酔下では患者の訴えが得られないため、術野の変化のみが手がかりとなる。
術中に生じる急激な変化として以下の徴候が現れる。
重症例では創口からの眼球内容の脱出が起こる。
軽症
限局した出血性脈絡膜剝離:出血が脈絡膜下に限局し、互いに接着していない状態。
眼内収束型:出血が眼球内にとどまり、創口からの脱出はない。10〜14日後の二期的手術で視力確保が期待できる。
重症
脈絡膜剝離の相互接着:出血性脈絡膜剝離が中央で互いに接着した状態(kissing choroidal detachment)。
眼球内容の脱出:強角膜切開創から眼球内容が脱出する駆出性出血の完成型。失明に至るリスクが極めて高い。
Bモード超音波検査では、大きなドーム状の隆起が中央で接着しているのが確認できる。発症当初は脈絡膜下に高輝度の濃密な凝血塊を認めるが、約2週間で凝血塊が溶解し低輝度に変化する。Bモード超音波は凝血塊の大きさ・性状の経過を追い、排液時期を決定するのに有用である。
駆出性出血の危険因子は患者因子・全身因子・術中因子に分類される。
| リスク因子 | 分類 |
|---|---|
| 高齢 | 患者因子 |
| 緑内障(既往) | 眼因子 |
| 強度近視 | 眼因子 |
| 無水晶体眼 | 眼因子 |
| 動脈硬化性心血管疾患 | 全身因子 |
| 高血圧 | 全身因子 |
| 糖尿病 | 全身因子 |
| 術中の持続的低眼圧 | 術中因子 |
| 術中の高脈拍 | 術中因子 |
術中の持続的低眼圧が主要な誘因とされている4)。眼圧上昇と後毛様体動脈または渦静脈の破綻が病態として考えられている5)。
ワルファリン内服はSCHの発生頻度を有意に増加させないとの報告がある4)。多くの研究が白内障手術時の抗凝固薬・抗血小板薬の継続を支持している4)。アスピリン単独使用では出血性合併症の増加は認めない4)。術前管理においては血栓リスクも勘案した上で継続・中止を個別に判断することが重要である。
ワルファリン内服はSCH頻度を有意に増加させないとの報告があり、多くの研究で術中継続が支持されている。ただし高血圧・動脈硬化など他のリスク因子を複合的に有する患者では、総合的なリスク評価が必要である。
急激な眼痛・浅前房・急激な硝子体圧上昇を認めたら本症を強く疑う。術中の急速な前房消失や網膜表面の隆起を認めた場合も同様である。眼底透見可能であれば脈絡膜剝離様の隆起が確認できる。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 脈絡膜渗出 | 眼底の脈絡膜皺襞の有無(渗出では皺襞を伴う)。出血を伴わない |
| IMS(灌流液誤誘導症候群) | 灌流液の誤誘導による前房消失。出血性変化がない |
| 後嚢破損に伴う硝子体脱出 | 眼痛を通常伴わない。後嚢破損の術中所見が先行する |
脈絡膜渗出との鑑別では眼底の脈絡膜皺襞の有無が重要である。眼底が透見可能であれば皺襞の観察が駆出性出血(出血性)と渗出性との鑑別に有用となる。
術後はBモード超音波検査を繰り返し施行する。凝血塊の大きさ・性状・経過の変化を記録し、液化のタイミングを見極めることが二期的手術の時期決定に直結する。
治療は術中即時対応・待機期間・二期的手術の段階的フローからなる。
発症を認めたら直ちにすべての白内障手術操作を中止する。創口の閉鎖に努め、なるべく太めの糸で切開創を縫合する。極小切開白内障手術では眼圧上昇に伴い自然に創口が閉鎖するため、自然に落ち着く可能性が高い。
眼外への出血が激しい場合は強膜穿刺を行い脈絡膜出血を排除する方法もある。ただし全例に行うものではなく、出血の程度に応じて判断する。
小切開手術は自己閉鎖創の利点があり、SCH発生時にも安全性が高い4)。術中低眼圧の回避がリスク軽減に重要とされている5)。
血液が溶解し排液しやすくなるまで7〜14日待つことを勧める術者が多い。Bモード超音波で凝血塊の性状を経過観察し、液化のタイミングを見極める。
凝血塊が液化した後(概ね10〜14日後)、以下の手術を行う。
片眼で駆出性出血を起こした場合、対側眼も同様のリスクが高い。可能であれば全身麻酔で手術を行うか、全身麻酔が可能な施設への転送を考慮する。
出血が眼内で収まっている場合は、10〜14日後の二期的硝子体手術で網膜が復位すればある程度の視力確保が期待できる。一方、眼球内容組織が眼外へ脱出してしまったケースでは失明に至ることが多い。早期の創口閉鎖と適切な時期の二期的手術が予後を左右する。
駆出性出血の原因は脈絡膜渗出と同様に完全には解明されていないが、以下の連鎖が病態として提唱されている。
大切開手術ほど低眼圧が持続しやすく発症リスクが高い。超音波乳化吸引術は手術時間が短く低眼圧時間が短縮されるためリスクが低い4)。フェムトセカンドレーザー補助白内障手術(FLACS)中にも脈絡膜上出血の発生が報告されており4)、術式の違いによらずリスク管理が重要である。
体系的な術前リスクスコアリングシステムは現時点では確立されておらず、既知の危険因子を個別に評価するアプローチが現実的とされる。
予後は出血の範囲と眼球内容の脱出の有無に大きく左右される。
| 予後 | 条件 |
|---|---|
| 比較的良好 | 出血が眼内に収まっている / 二期的手術で網膜復位が得られた場合 |
| 不良 | 眼球内容組織が眼外へ脱出した場合(失明が多い) |
| 特に不良 | 裂孔原性網膜剝離を合併した場合 |
| 特に不良 | 2象限以上のSCHを有する場合 |
出血が眼内で収まっている場合、脈絡膜下の出血が液化する10〜14日後に強膜穿刺を考慮に入れた硝子体手術を行い、網膜が復位すればある程度の視力は確保できる。眼外へ眼球内容組織が出てしまったケースでは失明に至ることが多い。裂孔原性網膜剝離や2象限以上の駆出性出血は予後不良と報告されている。