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白内障・前眼部

落下水晶体核の処理(Dropped Nucleus)

白内障手術中に水晶体核が硝子体腔に落下した状態である。Zinn小帯断裂に伴って水晶体囊ごと外れて落下する場合は術前から予測できることがある。手術中に後囊破損が起きた場合、連続前囊切開(CCC)に亀裂が入って後囊まで回った場合、あるいはZinn小帯断裂が術中に拡大した場合は、水晶体のみが落下する。水晶体囊が破損している場合、水晶体蛋白質が硝子体腔内で炎症反応を惹起するため早急な対応が必要である。

核落下の発生率1)

研究発生率(%)
Cataract PORT 19940.28
Schein et al 1994<1
NEON 20000.1
Zaidi et al 20070.18
Jaycock et al 20090.2
Greenberg et al 20110.16

後囊破損・チン小帯断裂の発生率は1.5〜3.5%であり、破嚢症例の一部が核落下に至る1)。再手術を要する残存核片は0.18%と報告されている1)。全体の重篤合併症(眼内炎脈絡膜上出血・網膜剥離)は0.5%とされ、小切開手術の普及により経年的に低下している1)

Q 核落下は白内障手術でどのくらいの頻度で起こるのか?
A

複数の大規模研究によると0.1〜0.28%の発生率が報告されている。後囊破損の発生率(1.5〜3.5%)と比べると低く、後囊破損例の一部が核落下に至る。小切開・無縫合手術の普及により、術中の眼圧管理が改善され、発生率は経年的に低下している。

  • 核片が術野から消失(硝子体腔へ落下)
  • 後囊破損のサイン: 瞳孔領に透明部分が出現、前房が急に深くなり核が傾く、核片が突然大きく傾く・沈む、吸引力の急激な低下
  • 硝子体脱出の可能性
  • 飛蚊症(小さい核片の場合)
  • 炎症(水晶体蛋白質による水晶体起因性眼内炎
  • 眼圧上昇(炎症による線維柱帯閉塞、核による機械的閉塞)
  • 視力低下
  • 硝子体混濁(炎症・出血による)
  • 硝子体腔への落下: 水晶体起因性眼内炎と炎症に付随する眼圧上昇
  • 前房への脱臼: 瞳孔ブロック→続発閉塞隅角緑内障前房出血毛様体炎症、水晶体融解、角膜への直接接触によるDescemet膜剥離・角膜浮腫角膜内皮障害
Q 核落下が起きたかどうかは術中にどう判断するのか?
A

核片が術野から消失し前房が急に深くなる、核が急に傾く・沈む、吸引力が急激に低下するなどの所見が典型的な術中サインである。瞳孔領に透明部分が出現した場合も後囊破損を示唆する。これらの徴候を認めた場合は速やかに操作を中止し、顕微鏡下で後囊の状態と核の位置を確認する。

核落下は大きく術前から予測可能な落下と術中に発生する落下に分類される。

術前予測可能な落下: Zinn小帯断裂(水晶体亜脱臼)に伴い水晶体囊ごと落下するもの。術前の細隙灯検査での水晶体振盪の有無を確認することが重要である。

術中発生する落下: 後囊破損、CCCの亀裂が後囊へ波及、Zinn小帯断裂の術中拡大が原因となる。

術者・手技側リスク因子

術者の経験: 術者経験は後囊破損の重要なリスク因子であり、経験の浅い術者では高リスク症例の選択と上級医支援が重要である2)

手術操作: CCC不成功(亀裂の後囊への波及)、過剰な超音波エネルギー・灌流による後囊破損

術前評価不足: Zinn小帯脆弱化の見落とし、核硬化度の過小評価

Q 核落下を予防するために術前に注意すべきことは何か?
A

術前に細隙灯検査で水晶体振盪の有無・落屑物質の有無・前房深度を確認し、Zinn小帯の状態を評価することが重要である。散瞳下での白内障硬度評価(Emery-Little分類)も行う。Zinn小帯脆弱が疑われる場合はCTR(囊支持リング)やカプセルエキスパンダーを準備し、硝子体手術が必要となった際に対応できる施設・体制を整えておく。

評価項目確認内容
病歴眼外傷歴、手術歴(硝子体手術後・網膜剥離手術後)、α1遮断薬使用
細隙灯検査角膜透明度、前房深度、落屑物質の有無、水晶体振盪
Zinn小帯評価坐位・仰臥位での水晶体振盪の有無、前房深度の左右差
散瞳下検査白内障の硬度評価(Emery-Little分類)、後極白内障の鑑別
角膜内皮スペキュラーマイクロスコピーで内皮細胞密度確認

顕微鏡下での直接観察によって核片が後囊を通過して落下したことを確認する。術中に核片が視野から消失し前房が急に深くなる・吸引力が急激に低下するなどのサインを認めた場合は本症を疑う。

  • 細隙灯顕微鏡検査: 前房の炎症所見(フレア・セル)の評価
  • 眼圧測定: 眼圧上昇(炎症・核による機械的閉塞)の確認
  • 眼底検査・Bモード超音波検査: 落下核の位置・大きさ・網膜状態の評価
Q 核が落下したことはどのように確認するのか?
A

術中は顕微鏡下で直接観察する。術後は細隙灯検査で炎症の程度を評価し、眼底検査または眼部Bモード超音波検査で核の位置と大きさを確認する。網膜の状態(網膜裂孔網膜剥離の有無)も同時に評価する。落下核の硬度と位置が硝子体手術の術式選択に直結するため、術前に正確な評価を行う。

術中に核落下が確認されたら、まず前部硝子体切除を行い IOL固定を完了させ、安全に手術を終了させる。硝子体手術が必要な場合は、硝子体手術可能な施設への速やかな紹介が必要である。前房側から硝子体カッターで核を吸引しようとしてはならない(網膜牽引のリスク)。

保存的治療としてステロイド点眼・必要に応じてステロイド内服で経過観察する。小さい核片は飛蚊症を訴えるが自然吸収することもある。炎症により眼圧が上昇する場合は核の除去が必要である。

A. 前部硝子体腔にとどまる核

27G注射針を強膜側から毛様体扁平部に刺入し、水晶体瞳孔領まで持ち上げてから摘出のための切開創を作製する。最初から大きな切開創を作製すると多量の硝子体脱出をきたすため危険である。

B-1. 硝子体カッター法(軟らかい核)

3ポートを作製し3ポート硝子体手術を行う。硝子体カッターのカットレートを200〜500 cpmに落とし、ライトガイドで挟みながら網膜を傷つけないよう吸引する。25・27G硝子体手術でも可能だが、Emery-Little分類 grade 4超では硝子体カッターでの切除吸引は効率が悪くなる。

B-2. USフラグマトーム法(中程度の硬さの核)

硝子体腔で使用できる専用の超音波チップ(フラグマトーム)で乳化吸引を行う。従来のpars plana lensectomy-vitrectomyでは超音波破砕を併用できる。USチップの吸引口で核を引きつけ、網膜面に接触しない位置まで持ち上げながら破砕吸引する7)

B-3. PFCL(液体パーフルオロカーボン)浮上法(硬い核)

硬い核に有効な術式である3)4)5)硝子体腔にPFCLを注入し、落下水晶体虹彩裏面まで浮上させる。浮上後、粘弾性物質OVD)で角膜内皮を保護し、PEA超音波乳化吸引術)で乳化吸引するか、強角膜切開創から輪匙にて全摘する。すでに網膜剥離がある場合にもPFCLは適用可能である。

B-4. ケバブ法(わたあめ法)(硬い核にも対応)6)

PFCLを使用せずにペンシル型バイポーラとフェイコハンドピースで落下核を除去する手法である。手順は①コアビトレクトミー(非接触型広角観察システム推奨)→②バイポーラ先端を落下水晶体に当て電流を流し接着(出力50%程度、1秒程度×数回)→水晶体虹彩面まで持ち上げ→③フェイコハンドピースでPEA(吸引圧70 mmHg、吸引流量30 mL/分)の順に行う。

硬い核(Emery-Little分類 grade 4〜5)にも対応可能で、小切開・無縫合で施行できる。日本大学板橋病院での6例8眼の成績は、視力 1.67±0.09 logMAR→術1か月後 1.14±0.40 logMAR に改善、眼圧 24.5±16.8 mmHg→11.0±2.8 mmHg、角膜内皮細胞密度 2,600±323→2,387±431 cells/mm²(軽度減少のみ)であり、全例に術後合併症はなく2.4mm切開創から落下水晶体を摘出した6)

落下水晶体除去後にIOLの二次固定が必要となる。現在は強膜内固定術(フランジ法)の普及により、水晶体囊のない症例でも短時間でIOL固定が可能である。ケバブ法と強膜内固定手術を併施することで、すべての工程を小切開・無縫合で行える。

Zinn小帯断裂の程度と術式選択

Zinn小帯断裂の範囲囊の温存術式
〜1/4まで可能CTR使用白内障手術(囊内固定)
1/4〜1/2ケースバイケース前部硝子体カッター使用囊外固定 or 強膜縫着 or 硝子体手術+強膜内固定
1/2以上困難ケバブ法(硝子体手術+強膜内固定)
Q 核落下後の硝子体手術はいつ行うべきか?
A

白内障手術中に核落下が確認された場合は、まず前部硝子体切除とIOL固定を完了させ安全に初回手術を終了する。その後、速やかに硝子体手術可能な施設に紹介する。術中即日に硝子体手術を行う場合と数日後に行う場合があるが、水晶体蛋白による炎症と眼圧上昇が持続する場合は早期手術が望ましい。核硬化度・落下部位・合併所見(網膜裂孔など)を考慮して術式を選択する。

  1. 水晶体蛋白による炎症(水晶体起因性眼内炎: 硝子体腔内の水晶体蛋白が免疫反応を惹起する。囊が破損している場合にリスクが高い
  2. 眼圧上昇: 炎症による線維柱帯閉塞、または核による機械的閉塞。前房への脱臼では瞳孔ブロック→続発閉塞隅角緑内障
  3. 網膜障害リスク: 核が網膜上に落下した場合の機械的・化学的障害。網膜裂孔網膜剥離のリスクがある1)
  4. 角膜障害: 前房内脱臼例で角膜に直接接触→Descemet膜剥離・角膜浮腫角膜内皮障害
  5. 硝子体混濁: 炎症・出血による混濁
  • 硝子体手術中の網膜裂孔(特にIOL縫着時に毛様溝縫着部位の硝子体が絡むリスク)
  • 網膜裂孔が手術中に発見された場合はレーザー光凝固術を施行する
  • 網膜出血、脈絡膜出血、駆逐性出血1)
  • 小さい核片で自然吸収: 予後良好
  • 硝子体手術を要する大核落下: 適切な手術で一定程度の視力確保が可能
  • 処置の遅延: 網膜障害・視力予後不良のリスクが増大する
  • ケバブ法の成績: 視力 1.67→1.14 logMAR(術1か月)、角膜内皮の深刻な減少なし6)

網膜剥離のリスク: 落下核に対するPPV後の網膜剥離発生率について複数の報告がある8)9)。Moore らは落下核に対するPPVを受けた眼での網膜剥離発生を報告しており8)、Meraniらはpars plana vitrectomyによる残存核片処置後の成績を解析している9)

Q 核落下後の視力はどの程度回復するか?
A

小さい核片で自然吸収した場合は視力予後良好である。大きい核が落下した場合は硝子体手術による除去が必要で、処置が適切かつ速やかであれば一定程度の視力回復が期待できる。処置が遅れた場合や網膜障害・眼内炎を合併した場合は予後不良となる。ケバブ法での報告では術1か月後に視力が1.67→1.14 logMAR(改善)であり、角膜内皮への深刻な影響もなかった。

  • ケバブ法(朝生ら 2021): PFCLを使用しない新しい落下核除去法として報告された6)。硬い核にも対応可能で、小切開・無縫合の低侵襲性が特徴である。症例数が限られており、多施設での検証が待たれる
  • 25・27G小切開硝子体手術の課題: 小口径システムではフラグマトーム設定がなく、小切開システムでの落下核処理法の開発が今後の課題である
  • IOL強膜内固定術(フランジ法)の普及: 無縫合でのIOL二次固定が可能となり、落下核処置後のIOL固定の選択肢が広がっている
  1. American Academy of Ophthalmology Preferred Practice Pattern Cataract and Anterior Segment Committee. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126.

  2. European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS Recommendations for Cataract Surgery. 2023. https://www.escrs.org/escrs-guideline-for-cataract-surgery/

  3. Chang S. Low viscosity liquid fluorochemicals in vitreous surgery. Am J Ophthalmol. 1987;103(1):38-43.

  4. Shapiro MJ, Resnick KI, Kim SH, et al. Management of the dislocated crystalline lens with a perfluorocarbon liquid. Am J Ophthalmol. 1991;112(4):401-405.

  5. Lewis H, Blumenkranz MS, Chang S. Treatment of dislocated crystalline lens and retinal detachment with perfluorocarbon liquids. Retina. 1992;12(4):299-304.

  6. Aso H, Yokota H, Hanazaki H, et al. The kebab technique uses a bipolar pencil to retrieve a dropped nucleus of the lens via a small incision. Sci Rep. 2021;11(1):7897.

  7. Girard LJ, Canizales R, Esnaola N. Subluxated (ectopic) lenses in adults. Long-term results of pars plana lensectomy-vitrectomy by ultrasonic fragmentation with and without a phacoprosthesis. Ophthalmology. 1990;97(4):462-465. PMID: 2326024. doi:10.1016/S0161-6420(90)32560-5.

  8. Moore JK, Scott IU, Flynn HW Jr, Smiddy WE, Murray TG, Kim JE, et al. Retinal detachment in eyes undergoing pars plana vitrectomy for removal of retained lens fragments. Ophthalmology. 2003;110(4):709-713; discussion 713-714. PMID: 12689890. doi:10.1016/S0161-6420(03)00020-4.

  9. Merani R, Hunyor AP, Playfair TJ, et al. Pars plana vitrectomy for the management of retained lens material after cataract surgery. Am J Ophthalmol. 2007;144(3):364-370.

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