タイプ1・2
タイプ1:後嚢下白内障(PSC)を伴う後極白内障。最も軽微な形態。
タイプ2:玉ねぎ状のリング構造を持つ円形〜楕円形の円盤状混濁。縁に灰白色斑を伴うこともある。
後極白内障(Posterior Polar Cataract; PPC)は、水晶体後嚢直下の後極部(瞳孔領中央付近の鼻側寄り)に、円盤状の境界明瞭な濃い白色混濁を生じる先天性白内障の亜型である。
遺伝形式は常染色体優性遺伝(autosomal dominant inheritance)が主体であり、複数の遺伝子座が同定されている。孤発例(散発例)も報告されている。混濁は硝子体動脈(hyaloid artery)の残遺物の末端に生じることが多く、良性の「ミッテンドルフ点(Mittendorf dot)」から視機能を障害する重篤な白内障に至るまで、幅広い病態を呈する。
発症率は他の白内障亜型に比べて低い。症例の65〜80%が両眼性であり、片眼性の場合は弱視の合併に注意が必要である。混濁は若年期に形成されるが、加齢とともに臨床的重要性が増すことがある。
混濁の直径は1.8〜3.0 mmと報告されている。後嚢が脆弱・菲薄化していることが多く、術前にスリット検査で後嚢の状態を正確に把握することは困難である。
主に常染色体優性遺伝の形式をとる。片親が罹患している場合、子どもへの遺伝確率は約50%である。孤発例も存在するため、家族歴がない場合にも発症しうる。
後極白内障の症状は、混濁が瞳孔中央に位置するため小さな白内障でも視機能への影響が大きい点が特徴である。
スリット検査で水晶体後嚢下の後極部に円盤状の白色混濁を認める。混濁は境界が明瞭であり、Daljit Singh分類によって以下の4タイプに分類される。
タイプ1・2
タイプ1:後嚢下白内障(PSC)を伴う後極白内障。最も軽微な形態。
タイプ2:玉ねぎ状のリング構造を持つ円形〜楕円形の円盤状混濁。縁に灰白色斑を伴うこともある。
タイプ3・4
また、病態の時間的経過から、中央混濁と標的状リングを呈する**静止型(Stationary)と、放射状混濁が時間経過とともに拡大する進行型(Progressive)**に分類する方式もある。
前眼部OCT(AS-OCT)では後嚢の形態評価が可能であり、後嚢欠損の形態として「円錐型(conical)」「虫食い型(moth-eaten)」「拡張型(ectatic)」の3カテゴリーが記載されている。後嚢の輪郭が不規則であったり、局所的な前方突出(円錐徴候)を認めたりする場合は既存の後嚢裂孔を示唆する。
後極白内障の主な原因は遺伝的素因である。前眼部間葉系異形成(anterior segment mesenchymal dysgenesis)や永存原始硝子体増殖症(PHPV;persistent hyperplastic primary vitreous)などの全眼球的疾患に関連する遺伝子座が、後極白内障にも関与することが報告されている。
混濁は硝子体動脈の残遺物の末端に生じることが多い。これは胎生期に硝子体動脈が後嚢付近で退縮する際に、水晶体後極部に瘢痕様変化を残すためと考えられている。
環境的リスク因子は現時点では明確に同定されていない。加齢とともに混濁が進行したり、核硬化を合併したりすることがある(タイプ4)。
診断は混濁部位・形状・両眼性の有無・家族歴・年齢などを総合して行う。
| 診断項目 | 特徴 |
|---|---|
| 混濁の部位 | 後嚢下・瞳孔領中央付近・鼻側寄り |
| 混濁の形状 | 円盤状・境界明瞭・濃い白色 |
| 混濁の直径 | 1.8〜3.0 mm |
| 患眼 | 両側性(65〜80%)または片側性 |
| 遺伝形式 | 常染色体優性遺伝 |
術前の後嚢状態の把握が重要である。
スリット検査のみでは後嚢の脆弱度を正確に評価するのは難しい。前眼部OCTで後嚢の輪郭の乱れや局所的突出(円錐徴候)が認められた場合、既存の後嚢裂孔を示唆するため注意が必要である。詳細なインフォームドコンセントを術前に行うことが重要である。
視力低下・羞明・ハローなど視機能への影響がある場合に手術を選択する。後嚢の脆弱性により術中合併症リスクが高く、術式の選択と手技の習熟が重要である。
通常の白内障手術より時間を要することが多い。点眼麻酔を基本とするが、手術時間が長くなる場合はTenon囊下麻酔または球後麻酔が必要となることがある。
後嚢への操作を最小限に留め、前房を常に安定させながら、あせらず慎重に手術を行うことが最重要である。
前嚢連続円形切嚢術(CCC)を施行する。サイズは約5 mmが目安であるが、核の大きさや術中の必要性に応じて調整する1)。大きめの連続環状切嚢は核の分割・摘出を容易にし、後嚢破損時の核排出に有利である。
後嚢を傷つけないよう多様な手技が報告されている。
Two-Y Crushing Technique(新規手技)1): 核硬度が中等度〜硬度の後極白内障に対し、ハイドロデリネーションで核とエピヌクレウスを十分に分離した後、Y型ローテーター2本を用いて核を前房内に脱臼させ、用手的に4分割以上に砕いてから超音波乳化を行う方法。核の回転が一切不要であり、累積超音波エネルギー(CDE)を最小化できる(右眼1.80、左眼1.66と低値を達成)1)。前房の安定性が高く、後嚢破嚢リスクを低減できる。
チップを抜去する際、前房圧が低下して後嚢が挙上し破嚢することがある。OVD(粘弾性物質)で前房を置換してからチップを引き抜くことで破嚢を防ぐ。
エピヌクレウスと皮質は周辺から丁寧に吸引除去する。中央の白色混濁は最後に、最大限の注意を払って処理する。後嚢研磨は破嚢リスクがあるため原則として行わない。
後極白内障の形成は、胎生期の硝子体動脈の退縮過程と密接に関連している。硝子体動脈は通常、出生前に完全に退縮するが、その末端が後嚢付近に残遺物を残すことで後極部に瘢痕様変化をもたらす。このため、軽微な残遺物は「ミッテンドルフ点」として観察されるにとどまるが、より顕著な場合は臨床的後極白内障を形成する。
後極白内障の混濁部およびその周辺では、後嚢が脆弱・菲薄化していることが多い。混濁と後嚢の癒着も生じ得るが、その程度を術前のスリット検査で正確に評価することは困難である。一部の症例では手術以前から後嚢の自然破損が生じている。
後嚢に欠損がある症例では、前眼部OCTで以下の形態が確認される:
後極白内障に関連する遺伝子は、前眼部間葉系異形成やPHPVに関与する遺伝子座と重複している。常染色体優性遺伝の高い浸透率を示すが、同一家系内でも表現型の多様性がある。
後極白内障では後嚢が混濁と癒着しているため、核を回転させると後嚢への牽引が生じ、直接的な後嚢破嚢のトリガーとなる1)。また、超音波エネルギーの振動やサージ(急激な吸引圧変動)も後嚢に作用して破嚢を誘発しうる。これが「回転なし・低吸引圧・低流量」という手術方針の病態生理的根拠となっている。
Ramatchandirane et al.(2024)が報告した新規手技「Two-Y Crushing Technique」は、PPCにおける超音波乳化手術において核回転を完全に回避し、累積超音波エネルギーを低減できる点で注目される1)。
本手技を施行した1症例では、右眼累積超音波エネルギー 1.80、左眼累積超音波エネルギー 1.66という低値を達成し、術後1日目に両眼とも最良矯正視力6/6(IOL良好設置)を確認した1)。ハイドロデリネーションが良好に行われ、核とエピヌクレウスの境界線が明瞭に確認できた症例に限り安全に実施できる手技であるとされる。
ただし、本報告は症例数が1例(両眼)の症例報告であり、エビデンスレベルは低い。今後の多症例での検証が必要である。
Primary posterior capsulorrhexis(一次後嚢切嚢術)を組み合わせることで、後嚢破損が生じた場合の対処を計画的に行う手技も研究されている。また、後嚢破損後のビトレクターを用いた前部硝子体切除と組み合わせたIOL固定戦略も複数の施設で検討されている。