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白内障・前眼部

膨隆白内障

膨隆白内障(intumescent cataract)は、白内障が進行する過程で水晶体皮質が液化・膨化し、水晶体全体が腫脹した状態である。白内障の重症度分類では、初発期→未熟期→膨隆期→成熟期→過熟(モルガニー)期の順に進行する。

米国では白内障の多くが未熟期に手術される。一方、医療アクセスが限られた地域では進行してから受診する例が多い。そのため膨隆白内障の摘出術は困難になりやすい。

加齢白内障の有病率は50歳代で約45%、60歳代で75%、70歳代で85%、80歳以上でほぼ100%に達する。このうち治療が遅れた症例が膨隆白内障へと進行する。

Q 膨隆白内障と成熟白内障は同じか?
A

異なる概念である。成熟白内障水晶体全体が混濁した状態を指す。膨隆白内障は皮質の液化により水晶体が腫脹し、水晶体内圧が上昇した状態である。成熟白内障が膨隆白内障を伴うことはあるが、すべての成熟白内障が膨隆を呈するわけではない。

Q 膨隆白内障と過熟モルガニー白内障はどう違うのか?
A

膨隆白内障は前皮質の扇状紋理を特徴とし、水晶体核は液状化せずに残存していることが多い。一方、過熟モルガニー白内障は核が液状化した皮質の底部に沈下した状態であり、嚢内での核の移動がみられる。膨隆白内障は未熟皮質白内障と成熟皮質核白内障の中間型に位置づけられる。

膨隆白内障は進行した白内障であり、以下の症状を呈する。

  • 視力低下(霧視水晶体全体の混濁により高度の視力障害を生じる。
  • 羞明まぶしさ水晶体内の光散乱が増強する。
  • 片眼性複視水晶体の不均一な混濁に伴う屈折異常による。
  • 眼精疲労屈折変化に伴い生じることがある。

細隙灯顕微鏡検査での最初の所見は空胞と皮質スポークの形成である。

  • 緊張した前嚢水晶体内圧の上昇により前嚢が膨隆し、表面に光沢を帯びた緊張感がみられる。
  • 水晶体の白色混濁:皮質が液化し、水晶体全体が白色を呈する。
  • 前皮質の扇状紋理(sectorial markings):過熟モルガニー白内障との鑑別に重要な所見である。過熟白内障と同様に白色の外観を呈するが、膨隆白内障では前皮質に顕著な扇状の紋理が認められる点で異なる。
  • 水晶体の腫脹前房が浅くなることがある。
  • 前嚢下の液体貯留:液化した皮質が前嚢直下に貯留する。スリットランプで確認可能。
  • 前房浅前化:膨隆した水晶体虹彩を前方へ押し出し、前房が狭小化する2)
  • 眼底透見不能水晶体混濁が高度であり、徹照反射(red reflex)が減弱・消失する。
  • 外傷例の特徴:外傷性の膨隆白内障では、水晶体嚢の亀裂や前嚢上の色素沈着を伴うことがある。

膨隆白内障は未熟皮質白内障と成熟皮質核白内障の中間型に位置づけられ、過熟モルガニー白内障とは水晶体核・水晶体嚢の性状が異なる。

項目膨隆白内障過熟モルガニー白内障
前皮質紋理扇状紋理ありなし
核の状態固形または軟化(残存)核は固形のまま底部に沈下
嚢の状態膨隆・緊張菲薄化
赤色反射消失消失

膨隆白内障の本質は未治療の白内障の進行である。

主な原因・リスク要因は以下の通りである。

  • 加齢:最も多い原因。水晶体タンパク質の酸化・変性が進行する。
  • 紫外線曝露:長期の紫外線(UV)曝露が白内障進行を促進する。
  • 赤外線・放射線曝露:職業性または医療上の曝露歴。
  • 長期ステロイド使用ステロイド白内障からの進行。
  • 外傷(外傷性白内障:鈍的外傷は炎症後プラークを伴う膨隆を引き起こすことがある。小さな穿孔では局所的な混濁に留まる場合もある。外傷性白内障は全眼外傷の5〜10%に生じる。
  • 硝子体切除術(PPV)既往:術後変化として膨隆白内障が生じうる。
  • 糖尿病:血糖コントロール不良状態が水晶体の代謝障害を介して膨隆への進行を促進する。
  • 若年患者の特性水晶体核が軟化しており、嚢が過度に伸展しやすく破綻しやすい。
  • 過度のアルコール摂取・喫煙白内障進行のリスク因子。
  • 医療アクセスの制限:手術を受ける機会が得られず進行する。

なお、チン小帯の脆弱性は高齢者や外傷性白内障患者で多く、術中の眼内レンズ固定を困難にする要因となる。

膨隆白内障の診断は細隙灯顕微鏡検査で行う。眼底が透見不能なため、超音波検査による後眼部評価が術前に必須となる。

水晶体の白色混濁・腫脹・前嚢下の液体貯留を確認する。核硬度の推定にはEmery-Little分類が用いられる。

分類色調核硬度
Grade 1〜2透明〜黄白色軟〜やや軟
Grade 3〜4黄色〜黄土色中等度〜硬い
Grade 5茶色極めて硬い

膨隆白内障では眼底が透見不能であるため、Bスキャン超音波検査で網膜剥離硝子体出血などの後眼部疾患を除外する必要がある1)

Nayakら(2024)は、Bスキャン上のAスキャンオーバーレイで後嚢と核後面に対応する2本の高反射スパイク(反射率80〜90%)を同定し、「ダブルピークサイン」と命名した1)。2つのスパイクの間の低エコー領域は液化した皮質に対応する。このサインが陽性の場合、後方にも液化皮質が存在し水晶体内圧が高いことを示唆する。

ダブルピークサインが認められる場合は前嚢切開時の合併症リスクが高い。術者はすべての予防措置を講じる必要がある1)。一方、スパイクが1本のみの場合は後方の皮質液化が少なく、合併症リスクは低い1)

前房深度の定量評価や水晶体の膨隆度の評価に有用である。水晶体厚5.36mm以上かつ球状形態は膨隆白内障を示唆するとの報告があり、液体貯留部位の同定にも活用できる。術中の前嚢切開が放射状に伸展するリスクが高い部位を事前に把握でき、嚢切開の開始位置や手技の計画に役立つ。掃引光源型の光干渉断層計(SS-OCT)では水晶体内部の多重エコーから皮質液化を検出可能であるが、機器コストが普及の障壁となっている1)

シャインプルーフ撮影による水晶体濃度測定では、高密度所見が大きな(硬い)核の存在を示唆する。核硬度の術前推定に補助的な情報を提供する。

Q ダブルピークサインが陰性なら安全に手術できるか?
A

ダブルピークサインが陰性であれば後方の水晶体内圧は低く、前嚢切開のリスクは相対的に小さい1)。ただし前方の皮質液化は存在しうるため、標準的な術前準備は必要である。

膨隆白内障の治療は手術による水晶体摘出である。超音波乳化吸引術(PEA)と眼内レンズIOL)挿入術が標準術式であるが、膨隆白内障では通常の白内障手術と比較して多くの術中対策を要する2)

  • マンニトール静脈内投与硝子体の脱水により後方圧を減じ、前房深度を確保する3)
  • 術前超音波検査:ダブルピークサインの有無を確認し、リスクを評価する1)
  • 粘弾性物質(ophthalmic viscosurgical device, OVD)の準備:高分子ヒアルロン酸ナトリウム(Healon GVなど)を用いて前房を維持する2)3)

成熟・膨隆白内障では眼底からの徹照が得られないため、前嚢の染色は必須である。トリパンブルーまたはブリリアントブルーG(BBG)を用いて前嚢を可視化する。

染色液の大量注入は硝子体への回り込みを生じ、術中の視認性を低下させるため注意が必要である。

水晶体内圧の減圧は安全な前嚢切開に不可欠な手技である。

1mLシリンジに27ゲージ針を装着し、前嚢を穿刺して液化皮質を吸引する。粘弾性物質水晶体に下向きの圧力をかけながら行う。

Nayakら(2024)によれば、前方の液化皮質を吸引しても後方にダブルピークサインに対応する液化皮質が存在する場合、水晶体内圧は十分に低下せず、前嚢切開の放射状進展リスクが持続する1)

連続円形前嚢切開(CCC)が推奨される。推奨径は5〜5.5mmである。缶切り状嚢切開は合併症リスクが高いため避けるべきである。

膨隆白内障で用いられる連続円形前嚢切開の手法は以下の通りである。

二段階連続環状切嚢

手技概要:まず小さな連続円形前嚢切開を作成し、水晶体材料を除去して減圧する。次に小さな開口部をより大きな連続円形前嚢切開へ拡大する。

利点:最初の小開口で連続したエッジを確保し、放射状裂傷を防止する。

フェイコカプスロトミー

手技概要:超音波チップで前嚢を穿刺し、液化皮質と核材料を同時に除去しながら減圧する。高い灌流圧と低流量設定で行う。

利点:嚢切開が外側へ裂ける力を術中に除去できる。

真空吸引による嚢切開(vacuum rhexis)

手技概要:24ゲージ針と10mLシリンジによる吸引を利用した嚢切開手技。

利点:連続円形前嚢切開が困難な症例への代替法として報告されている。

フェムトセカンドレーザー白内障手術

Section titled “フェムトセカンドレーザー白内障手術”

フェムトセカンドレーザーによる連続円形前嚢切開は前房を閉鎖した状態で施行できるため、膨隆白内障における放射状裂傷のリスクを軽減しうる3)白色白内障では前嚢切開距離の調整(前嚢前の距離を短縮し、前嚢後の距離を延長)が有用とされる3)。レーザーによる核分割は超音波エネルギーの使用量を削減する。

核分割法の選択も重要である。ディバイド・アンド・コンカー法は水晶体の大きな回転を要するため、チン小帯断裂のリスクが高い。フェイコチョップ法など回転と超音波エネルギーを最小限に抑える手技が推奨される。

核硬度が極めて高い場合は、計画的嚢外摘出術が選択されることもある。

膨隆白内障では核後方の保護的なエピニュークリアスが欠如していることが多い。超音波乳化吸引中に核の後方へ分散型粘弾性物質を注入して人工的なエピニュークリアスを作成すると、菲薄化・伸展した後嚢を保護できる。

膨隆白内障では3ピースの眼内レンズが好まれることがある。3ピースの支持部(ハプティクス)は水晶体嚢赤道部に強い張力を及ぼし、チン小帯の安定性を高める。毛様体溝への固定も可能であり、術中の判断に柔軟性を提供する。

進行した白内障にはチン小帯の不安定性が伴うことが多い2)。カプセルテンションリング、カプセルリトラクター、Ahmedセグメント等の準備が必要である2)チン小帯の不安定性がより高度な場合は強膜縫着カプセルテンションリングや強膜内固定が選択される2)

Q 膨隆白内障の手術を受ける際に注意すべきことは?
A

膨隆白内障の手術は通常の白内障手術より高い技術を要する。経験豊富な術者に執刀してもらうことが重要である。術前の超音波検査でリスク評価を行い、十分な準備のもとで手術に臨む。

膨隆白内障の手術は高難度であるが、適切な術前評価と手術戦略のもとでは良好な視機能回復が見込まれ、多くの症例で良好な視力が得られる。一方、後嚢破損硝子体脱出・チン小帯断裂・核落下角膜内皮障害・手術時間の延長などの合併症リスクを伴うため、専門的な技術を要する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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膨隆白内障の病態は水晶体上皮細胞の機能不全に基づく。

誘因となるのは水晶体上皮細胞の機能不全である。これにより上皮細胞のNa-Kポンプに遺伝子・タンパク質レベルの変化が生じる。ポンプ機能の障害は水晶体内への浸透圧勾配を生み出し、上皮の腫脹を引き起こす。

この浸透圧変化が膨隆白内障と核白内障を分ける決定的な違いである。核白内障では主にタンパク質の凝集と不溶化が進行するのに対し、膨隆白内障では上皮のNa-Kポンプ障害による水分流入が主病態となる。

水晶体内圧の上昇はイオンポンプ(陽イオンポンプ)と代謝バリアの障害により生じる3)。バリア機能の破綻は液体の水晶体核内への流入を許容し、皮質の水和(hydration)を引き起こす。その結果、水晶体が膨化し嚢内圧が上昇する。

組織学的には以下の特徴がみられる。

  • 基底膜・上皮境界部の突出:細胞がデブリを排除しようとする反応である。
  • 空胞形成:上皮細胞に空胞を生じるが、アポトーシスは認めない。この点が核白内障と異なる。
  • デブリの蓄積アポトーシスを欠くため、核白内障より高度のデブリが存在する。
  • 新生細胞層の形成:損傷層の上に新たな細胞層を形成し、間隙の発生を防ぐ。
  • フィラメント形成と層状化:基底膜・上皮間の構造変化である。

膨隆白内障

主病態:Na-Kポンプ障害による水分流入と皮質液化

組織変化:空胞形成あり、アポトーシスなし、高度デブリ

水晶体内圧:上昇(手術リスク因子)

核白内障

主病態:タンパク質の酸化・凝集・不溶化

組織変化:核硬化、黄褐色化が進行

水晶体内圧:通常は上昇しない

膨隆白内障・過熟白内障では、露出・漏出した水晶体タンパク質を介して以下の続発症を生じやすい。

  • 水晶体溶解性緑内障水晶体タンパク質を貪食したマクロファージが隅角線維柱帯を直接閉塞することで眼圧上昇を引き起こす。
  • 水晶体抗原性ぶどう膜炎:露出した水晶体タンパク質が免疫反応を誘発し、眼圧上昇の有無にかかわらず炎症を生じる。

若年患者では水晶体核が軟化し皮質が混濁する一方、嚢が過度に伸展して可動性が高く破綻しやすい傾向がある。超音波エネルギーは少量で済み、ハイドロダイセクションやハイドロデリニエーションが不要な場合もある。高齢患者では核が肥大・硬化する傾向があり、チン小帯脆弱のリスクも高い。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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超音波ダブルピークサインの臨床応用

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Nayakら(2024)は、Bスキャン上のAスキャンオーバーレイにおけるダブルピークサインが後方皮質液化と高水晶体内圧の予測マーカーとなることを報告した1)。ダブルピークサイン陽性例では前嚢切開の進展リスクが高く、陰性例では問題なく手術が完了した。術前ルーチンでのスクリーニングにより合併症の予防が期待される。

Zepto®プレシジョン・パルス嚢切開デバイス

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コンソールと使い捨てハンドピースで構成される新しい嚢切開デバイスである。前房内に挿入して前嚢にエネルギーを供給し、瞬時に円形の嚢切開を作成する。嚢切開が即時に完了するため、膨隆白内障における放射状進展のリスクが低い。困難な症例における有用性が報告されている。

掃引光源型光干渉断層計水晶体内部の多重エコーを検出し、皮質液化の程度を非侵襲的に評価できる1)。従来の超音波検査を補完する術前評価法として注目されるが、機器コストが課題である。


  1. Nayak B, Lalitha CS, Moharana B, Panda BB. Double peak sign on ultrasonography: A new prognostic marker before surgery for white cataract. Indian journal of ophthalmology. 2024;72(Suppl 4):S712-S714. doi:10.4103/IJO.IJO_2418_23. PMID:38324632; PMCID:PMC11338405.
  2. Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, Carter K, Lee BS, Lin S, et al. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2022;129(1):P1-P126. doi:10.1016/j.ophtha.2021.10.006. PMID:34780842.
  3. European Society of Cataract and Refractive Surgeons (ESCRS). ESCRS Cataract Surgery Guidelines. 2024.

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