この疾患の要点
硝子体 切除術(PPV )後に白内障 が進行する頻度は高く、術後5年で約85%が白内障手術を要する。
白内障の進行は主に核硬化型であり、硝子体除去後の酸化ストレス 上昇が一因と考えられている。
硝子体切除術既往眼の白内障手術は通常の手術より難易度が高く、前房 不安定・チン氏帯脆弱 ・逆瞳孔ブロック などに注意を要する。
白内障硝子体同時手術(phacovitrectomy)は単回の手術・麻酔で済み、視力 回復が早い利点がある。
同時手術と段階的手術で長期視力予後に有意差はないが、同時手術では後嚢破損 リスクが低いとの報告がある。
眼内レンズ (IOL)度数計算では近視 化シフトに注意が必要であり、最新の計算式の使用が推奨される。
硝子体切除術(pars plana vitrectomy; PPV)は後眼部疾患に対する標準的手術であるが、術後に白内障が進行することが最も頻度の高い合併症である。英国の大規模登録研究では、硝子体切除術後の白内障手術リスクは約40%であり、術後1年で50%、3年で75%、5年で85%が白内障手術を要した。
硝子体切除術後の白内障は主に核硬化型(nuclear sclerotic cataract)として発症する。51の研究を対象としたメタ解析では、硝子体切除術後の白内障発生率は6〜100%と報告されており、原疾患や経過観察期間により大きく変動する。
白内障硝子体同時手術(phacovitrectomy)は、水晶体 乳化吸引術と硝子体切除術を同時に行う術式である。単回の手術と麻酔で済み、回復時間の短縮やコスト効率の利点がある4) 。硝子体出血 、糖尿病網膜症 、黄斑上膜 、黄斑円孔 、網膜剥離 など多様な硝子体網膜 疾患に適応される4) 。
特に60歳以上や長時間作用型ガスを使用する黄斑円孔手術では、術後1年以内にほぼ全例で視機能に影響する白内障が生じるため、同時手術が広く採用されている5) 。
Q 硝子体手術後にどのくらいの確率で白内障が進行するか?
A 硝子体切除術後の白内障進行率は原疾患や年齢により異なるが、50歳以上ではガスタンポナーデ 併用硝子体切除術後2年で80%に白内障が生じたとの報告がある。5年では約85%が手術を要する。50歳未満では7%と低い。
硝子体切除術後に進行する白内障では以下の症状が生じる。
霧視 (かすみ目) :核硬化の進行に伴い徐々に増強する。
視力低下 :中心視力の低下が主訴となることが多い。
近視化 :核硬化に伴い屈折 が近視方向にシフトする。
コントラスト感度 の低下 :視力が比較的保たれていても自覚されることがある。
硝子体切除術後の白内障は特徴的な所見を呈することがある。
核硬化(NS型白内障) :最も一般的な病型である。硝子体切除術既往眼の白内障は加齢性白内障 よりも核密度が高いことが多い4) 。
後嚢下白内障(PSC) :ガスタンポナーデやシリコーンオイル 使用後に見られることがある。
後嚢プラーク :硝子体切除術中の水晶体接触による後嚢の線状不整や混濁4) 。
ガス白内障 :硝子体ガス置換後の翌日から後嚢混濁を生じるが、可逆性でありガスの減少とともに消失する。
水晶体震盪(phacodenesis) :チン氏帯脆弱を示唆する所見。
硝子体切除術後に白内障が進行する正確なメカニズムは未解明であるが、以下の因子が関与する。
酸化ストレスの上昇 :硝子体除去後に硝子体腔の酸素分圧が上昇し、水晶体タンパク質の酸化損傷を引き起こす。
光曝露 :手術顕微鏡やファイバーオプティックプローブからの光エネルギーが水晶体に酸化ストレスを与える。
水晶体接触(lens touch) :眼内操作中の不慮の水晶体接触は術後の急速な白内障発症と関連する。1,400眼の有水晶体眼を対象とした研究で、3.7%に水晶体接触があり、そのうち94%で白内障が発症した。
タンポナーデ物質の使用 :シリコーンオイルは水晶体嚢の透過性を変化させ、前方水晶体細胞の浮腫とアポトーシス を誘導する。ガスタンポナーデも白内障進行を促進する。
白内障進行のリスク因子は以下の通りである。
高齢 :50歳以上で白内障進行が有意に加速する。
タンポナーデの使用 :シリコーンオイル、ガスいずれも寄与する。
複雑で長時間の硝子体切除術 :手術侵襲が大きいほどリスクが上昇する。
高度近視 :強膜 ・脈絡膜 の菲薄化やチン氏帯弛緩を伴い手術難度が上がる1) 。
予防・日常のケア
硝子体手術 を受けた後は、白内障が進行する可能性が高いことを認識しておきましょう。
定期的な眼科受診で白内障の進行度をチェックしてもらいましょう。
視力低下やかすみを感じたら、早めに担当医に相談してください。
硝子体切除術既往眼の白内障手術に先立ち、以下の評価が重要である。
詳細な病歴聴取 :既往手術歴、硝子体注入歴、外傷歴を確認する。
細隙灯顕微鏡検査 :後嚢の状態を入念に観察し、硝子体切除術時の水晶体接触の有無やチン氏帯不安定の兆候を評価する。後嚢の膨らみや線状の不整は硝子体切除術時の嚢外傷を示唆する。
Bモード超音波検査 :直接の可視化が困難な場合に後嚢を観察する。白内障が進行し眼底透見が不可能な場合にも有用である。
光学式眼軸長 測定 :超音波測定よりも正確である。白内障が進行しすぎて光学式測定が不可能な場合は浸漬法(immersion)による超音波検査を利用する。
IOL度数計算 式 :同時手術では系統的な近視化シフトが生じるとのエビデンスがある。Kane式が術後屈折誤差±0.25D以内に入る割合が最も高いとされる。
シリコーンオイル充填眼 :Barrett UII、Hill-RBF、Kaneなどの最新式が予測性に優れる。
強度近視 眼では遠視 化シフトと度数予測誤差が生じやすい。Fanらの超強度近視(-30D超)3例の報告では、平均遠視化シフトが1.41〜2.0Dであった1) 。
計測項目 推奨法 眼軸長 光学式測定(第一選択) IOL度数計算 Kane式が最も精度が高い
Q 同時手術では眼内レンズ度数のずれが起きやすいか?
A 同時手術では近視化シフトが生じる傾向がある。ただし最新のIOL計算式(Kane式など)を使用すれば良好な屈折矯正結果が得られる。シリコーンオイル充填眼や強度近視眼ではさらに精度が落ちるため、慎重な度数設計が必要である1) 。
白内障と硝子体網膜疾患を合併する場合、以下の2つの戦略がある。
同時手術
白内障硝子体同時手術(phacovitrectomy) :水晶体乳化吸引術と硝子体切除術を1回の手術で行う。
利点 :手術・麻酔が1回で済む。視力回復が早い。コスト効率が良い4) 。
適応 :高齢者。有意な白内障を伴う硝子体網膜疾患。長時間作用型ガス使用予定例5) 。
段階的手術
逐次手術 :硝子体切除術の前後に白内障手術を別個に行う。
利点 :各手術を最適な条件で施行できる。手術時間が短い。
注意 :硝子体切除術後の白内障手術はチン氏帯断裂リスクが約2倍(1.3% vs 0.6%)となる。
同時手術と段階的手術の長期視力予後に有意差は報告されていない。ただし、ガイドラインのシステマティックレビューでは、同時手術のほうが後嚢破損の発生頻度が有意に低い(リスク比0.43; 95% CI 0.25–0.73)と報告されている5) 。
全体的な推奨として、同時手術は段階的手術と比較して早期の視力回復に利点があり、合併症リスクや屈折予後に有意差はないとされる5) 。
同時手術の適応は患者の年齢、術式、疾患によって決定される。一般に高齢者には適応となるが、調節力が十分に保持されている若年者では術後の調節力喪失を考慮する必要がある。
IOLの選択も重要である。
タンポナーデ使用時は支持部がしっかりした安定性の高いIOLを選択する。
周辺部まで術後眼底観察を要する疾患では7.0mm径の光学径が大きなIOLが有用である。
シリコーンやハイドロフィリックアクリルの光学部はシリコーンオイル・ガスとの接触でIOL石灰化のリスクがあるため避ける4) 。
硝子体切除術既往眼はIOLの傾斜・偏位リスクが高いため、多焦点レンズなど光学的に高度なIOLの選択は極めて慎重に行う。
多くの症例は点眼麻酔や局所麻酔で施行される。球後麻酔 やテノン嚢下麻酔 は後方圧を提供し前房深度の安定に寄与する場合がある。
硝子体切除術既往の有無にかかわらず推奨される標準術式である4) 。以下の手術パラメータが推奨される。
超音波パワー:30%削減
還流率:20〜25 cc/min
還流ボトル高:80 cm
超音波乳化吸引 術が不可能な場合(極めて硬い核など)や医療資源が限られた環境で適応となる。硝子体切除術既往眼は前房が深く硬化核の摘出が困難になる場合がある。
硝子体切除術既往眼では以下の術中問題に対応する必要がある。
前房深度の不安定 :硝子体の後方支持がないため前房が異常に深くなることがある。還流圧を下げて対応する。
逆瞳孔ブロック(LIRDS) :瞳孔 縁が前嚢に密着し、還流液が虹彩 前方に閉じ込められ前房圧が劇的に上昇する。チョッパーなどの鈍的器具で虹彩を前嚢から持ち上げて解除する。解除後の瞳孔収縮にも注意する。
連続環状嚢切開(CCC )の困難 :深い前房と後方支持の欠如により難易度が上がる。前嚢に強い圧力が必要となる。赤色反射不良例ではトリパンブルーの使用を検討する。
チン氏帯断裂の可能性 :フラップ開始が困難な場合に疑う。嚢拡張リング (CTR)の準備が必要である1) 。
ハイドロダイセクション :後嚢損傷が疑われる場合は避け、ハイドロデリネーションやビスコダイセクションを選択する。
後嚢破損時の対応 :粘弾性物質 で水晶体を嚢外前方へ移動させる。核破砕片落下防止にレンズスキャフォールド法を採用することもある。
治療における注意点・副作用
硝子体切除術既往眼ではチン氏帯断裂リスクが約2倍に上昇する。
逆瞳孔ブロック(LIRDS)は術中の房水 迷入症候群や術後炎症のリスクを高める。
粘弾性物質の不完全な除去は術後急性眼圧 上昇の原因となる。必要に応じてアセタゾラミド 内服を検討する。
同時手術後のNSAID点眼(特にジクロフェナク)は角膜 融解のリスクがあり、関節リウマチなどの自己免疫疾患患者では使用を避けるべきである2) 。
硝子体切除術既往眼はIOLの傾斜・偏位リスクが高いため、多焦点IOLの適応は慎重に判断する。
Q 硝子体手術を受けた眼でも白内障手術は安全にできるか?
A 一般に良好な視力予後が得られる。白内障手術を受けた硝子体切除術既往眼の約3分の2が0.5以上の視力を達成する。ただし、チン氏帯断裂リスクの上昇や前房不安定などの術中困難があるため、経験のある術者による慎重な手術計画が重要である。
硝子体は水晶体の後方から支持を提供し、正常な前房深度の維持に寄与している。硝子体除去後に白内障が進行する主な機序として以下が考えられている。
酸素分圧の上昇 :最も有力な仮説である。硝子体は低酸素環境を維持し水晶体を酸化ストレスから保護する役割を担う。硝子体除去後、硝子体腔の酸素分圧が上昇し、水晶体タンパク質の酸化損傷が促進される。
光酸化ダメージ :硝子体の除去は自然な防御メカニズムの一つを破壊し、光感受性の高い水晶体に酸化ストレスをもたらす。
眼内環境の変化 :硝子体除去後の環境変化が水晶体代謝に影響を及ぼす。
シリコーンオイルタンポナーデ接触下の有水晶体眼は大部分が白内障を発症する。
シリコーンオイルは後嚢を介した代謝交換を妨げ、水晶体の萎縮と混濁を招く。
分子電荷バリアの変化を通じて水晶体嚢の透過性が増加する。
前方の水晶体細胞に浮腫とアポトーシスが生じ、線維性偽化生(fibrous pseudo-metaplasia)に至る。
ガスタンポナーデ(SF6、C3F8)でも可逆性のガス白内障が生じる。術翌日より後嚢混濁を認めるが、ガスの減少とともに消失する。
同時手術では系統的な近視化シフト(myopic shift)が報告されている。これは術後の前房深度変化やIOL位置の変動が原因と考えられる。黄斑円孔に対するガイドラインでは、同時手術と段階的手術で屈折予後に有意差はないとされている5) 。
強度近視眼ではむしろ遠視化シフトが問題となる。低度数IOLほど遠視化が生じやすく、予測誤差は1〜4Dに達するとされる1) 。
3Dデジタル可視化システム(DAVS)を用いた手術が近年注目されている。従来の顕微鏡と比較し、術者のエルゴノミクス改善、被写界深度の拡大、倍率向上といった利点を有する。
Rios-Nequisら(2021)は、強直性脊椎炎による重度後弯症の患者に対し、トレンデレンブルグ体位でのテンポラルアプローチ・DAVS併用phacovitrectomyを報告した3) 。25Gバルブシステムとコンステレーションプラットフォームを使用し、手術時間40分で合併症なく完了。術後12ヶ月のBCVAは20/40であった。
従来の体位では手術が困難であった症例にも対応可能となる新たなアプローチである。
FLACSはリアルタイムの術中画像診断を用い、嚢切開の精度向上と有効超音波エネルギーの削減が期待される。ただし、硝子体切除術既往眼において従来の超音波手技よりFLACSが優れるというエビデンスは乏しく、費用対効果も不明確である。強度近視眼ではチン氏帯保護目的でFLACSが選択されることがある1) 。
近年、小切開・低侵襲化の進展により、トーリックIOLや多焦点IOLが硝子体トリプル手術(白内障+硝子体+IOL挿入)に用いられるようになった。ワイドビューイングシステムでは術中眼底観察への影響が少ないことも一因である。ただし、トーリックIOLは術後の回転、多焦点IOLは黄斑部 観察の困難化という問題点がある。
Fan H, Zhang M, Tzekov R, et al. Postoperative outcome of combined phacovitrectomy in eyes with excessive myopia (>-30D). Case Rep Ophthalmol Med. 2023;2023:7367922.
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Rios-Nequis G, Ramírez-Estudillo JA, Gutiérrez-García LD, et al. Temporal approach, digitally assisted phacovitrectomy in a patient with severe kyphosis due to axial spondyloarthritis. Case Rep Ophthalmol Med. 2021;2021:5582760.
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