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光学式眼軸長測定(バイオメータ)

1. 光学式眼軸長測定(バイオメータ)とは

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光学式眼軸長測定(光学バイオメトリー)は、光干渉現象を利用して眼軸長角膜曲率・前房深度・水晶体厚等を測定し、眼の生体計測データを非侵襲的に取得する検査である。

SS-OCT(スウェプトソース光干渉断層計)が搭載された機種がほとんどであり、高精度で再現性ある測定が容易にできる。主な用途はIOL度数計算だけでなく、超眼軸長眼の緑内障OCT解析における眼軸補正入力値の取得・屈折矯正手術前検査・低濃度アトロピンによる近視抑制治療での経過観察など多岐にわたる。

1949年にHarold Ridleyが初めてIOL移植を行った際、患者は約20Dの屈折誤差を生じた。1960年代後半にバージェンス式を用いたIOL度数推定が行われ、現代計算法の出発点となった1)。1970年代に超音波Aモード法が確立し、その後部分コヒーレンス干渉法(PCI)を採用したIOLマスターが登場して光学式測定の標準化が進んだ。近年はSS-OCTを搭載した第3世代装置が普及し、さらなる精度向上が実現している。

Q バイオメトリーで何を測るのか?
A

眼軸長(AL)・角膜屈折力(K値)・前房深度(ACD)・水晶体厚(LT)・角膜直径(白色輪部径:WTW)を測定する。これらのパラメータから有効レンズ位置(ELP)を予測し、必要なIOL度数を算出する。機種によっては中心角膜厚(CCT)も測定できる。

眼科医がケラトメーターを使って患者の角膜曲率を測定し、白内障術後に必要なIOL度数を決定している
眼科医がケラトメーターを使って患者の角膜曲率を測定し、白内障術後に必要なIOL度数を決定している
Blyth M. Eye specialist Dr. Ahmedu examining a patient with a keratometer. Figure 1. Source ID: Wikimedia Commons / Eye_doctor_examining_Nigerian_patient_with_keratometer.jpg. 2007. License: CC BY-SA 3.0.
眼科医がケラトメーターで患者の角膜曲率を計測し、白内障手術後に必要となるIOL度数を決定する場面である。本文「2. 測定項目と装置」の項で扱う角膜曲率(K値)測定に対応する。
パラメータ略称正常値の目安IOL計算における意義
眼軸長AL22〜25mm(正視平均約24mm)最重要。1mm誤差で約2.5〜3D影響
角膜曲率K値前面平均7.5mm(約44D)2番目に重要。1D誤差がほぼ1:1で反映
前房深度ACD正視3〜4mmELP予測に必要
水晶体LT約4〜5mm新世代計算式の追加変数
角膜直径WTW約11〜12mmELP予測・IOLサイズ選定に使用
中心角膜CCT約530〜550μm機種による(緑内障評価等に活用)

IOLマスター700(Carl Zeiss Meditec社)

測定方式:SS-OCT(波長1,050nm帯)

特徴白内障手術支援システム「CALLISTO eye」と連携。トーリックIOL・多焦点IOLのセンタリングガイダンスを提供。

強み:高度白内障・後部ぶどう膜炎例への対応性。Swept Source技術で前世代PCIより多くの白内障眼で測定可能3)

ARGOS(日本アルコン社)

測定方式:SS-OCT搭載

特徴乱視軸合わせシステム「VERION」との連携。セグメント式眼軸長測定を実装(各セグメントに個別屈折率を適用)。

強み:長眼・短眼でのセグメント式補正により計算精度向上が期待される。VERION連携で術中乱視軸管理が向上。

  • OLCR(第1世代): 部分コヒーレンス干渉法(PCI)を採用したIOLマスター500。眼軸長・K値・前房深度を測定。
  • SS-OCT搭載型(第2〜3世代): IOLマスター700・ARGOSが代表。波長1,050〜1,310nmの掃引光源レーザーを使用。深達性が高く、前世代では困難だった高度白内障例にも対応。
  1. 散瞳不要(多くの機種で非散瞳での測定が可能)
  2. 被検者は正面の固視灯を注視する
  3. 自動アライメント(装置が自動的に位置を調整)
  4. 複数回測定(通常5〜10回)を行い、標準偏差(SD)が小さい良質なデータを採用する
  5. 測定後、参照画像(前眼部画像)を手術室システム(CALLISTO eye/VERION)へ転送する

光学式バイオメトリーはAモード超音波法に比べ有意に高精度かつユーザー非依存の測定結果をもたらすことが示されている3)

  • 光学式AL誤差:0.01〜0.02mm
  • 超音波法AL誤差:0.1〜0.2mm

IOLMaster使用時は信号対雑音比(SNR)≥5の測定値を採用すること。光学式バイオメーターを使用する場合は光学式専用のIOL定数を用いること。IOLメーカーが提供するA定数はあくまで推奨値であり、術者実績に基づく最適化またはULIBデータベース(User Group for Laser Interference Biometry)の活用が有益である3)。両眼の眼軸長を測定・比較することで、測定誤差の早期発見に役立つ。

以下の症例では信号が十分に得られないため、光学式測定が困難または不能となる。

これらの症例ではAモード超音波バイオメトリーを使用する。ESCRSガイドラインは「成熟・高度白内障で光学式が適用できない場合は超音波バイオメトリーを使用すること」を推奨している1)

Q 光学式バイオメーターで測定できない場合はどうするか?
A

濃い白内障や固視困難眼では光学式での測定が難しい場合がある。代替手段はAモード超音波バイオメトリーであり、浸漬式(immersion)法が接触式(applanation)法より圧迫誤差が少なく推奨される。熟練した術者が行う浸漬式A-scanでは、光学式との間に統計的有意差は認められないとの報告もある1)

項目光学式(SS-OCT/PCI超音波Aモード法(浸漬式)超音波Aモード法(接触式)
原理光干渉(波長1,050〜1,310nm)音波の伝播時間計測音波の伝播時間計測
接触非接触非接触(浸漬プローブ)接触(角膜圧迫)
AL誤差0.01〜0.02mm光学式と同等(熟練者)0.1〜0.2mm(圧迫誤差あり)
ユーザー依存性低い中程度高い
成熟白内障対応困難〜不能可能可能
感染リスクなし低い(消毒で対応)あり(接触)

強み:

  • 非接触・非侵襲で感染リスクがない
  • 精度が高くユーザー非依存
  • 黄斑部後部ぶどう腫の傾斜壁上に位置する場合でも「屈折眼軸長」を測定できる点で超音波Aモード法より正確3)
  • シリコーンオイル充填眼でも光学式が最も正確1)

限界:

  • 全体眼に一律の屈折率(1.3549)を適用するため、高度近視眼では眼軸長を過大評価しやすい
  • 眼軸長25mm超の眼では過大評価により計算式にトレンドエラーが生じうる(Wang-Koch補正を検討)3)
  • 高度混濁眼での測定不能

超音波法では媒質の音速が測定精度に直結する。

  • 水晶体角膜:約1,641 m/s
  • 房水硝子体:1,532 m/s
  • 正常有水晶体眼平均:1,555 m/s

接触式(applanation)は角膜を圧迫するため眼軸長が人工的に短縮される。浸漬式(immersion)ではプローブが角膜に直接触れないため圧迫誤差を回避できるが、位置合わせの制御が必要となる。熟練した術者の浸漬式は光学式と統計的有意差がないとの報告がある1)

IOL度数計算式は世代を重ねて進化しており、現在はBarrett Universal II・Kane・Hill-RBFなどの新世代式が高い予測精度を示す。各計算式の主な特性は以下のとおりである3)

計算式分類代表式追加変数適応
第3世代(旧世代)SRK/T・Holladay I・Hoffer Qなし/ACD通常眼(現在は新世代推奨)
第4世代Barrett Universal II・HaigisACD・LT・WTW眼軸長域で良好
AI・回帰複合Kane・Hill-RBF・Pearl-DGSACD・LT・WTW特に異常眼軸長眼で精度向上

旧世代の回帰式(SRK-II・SRK・Binkhorst等)はもはや使用すべきでないとされている5)。新世代式(Barrett Universal IIなど)は特に異常眼軸長眼での精度向上が報告されている4)

屈折矯正手術後眼では角膜前後面曲率比が変化するため、通常の計算式が系統的誤差を生じる。ASCRSオンライン計算機・Barrett True-K式・Haigis-L式などの専用計算法が必要である1)

乱視矯正IOLの適応は角膜乱視が直乱視2D以上・倒乱視1.5D以上を目安とする。計算にはHaigis-T式・Barrett Toric式・Kane Toric式の使用が推奨される3)

シリコーンオイル充填眼では光学式バイオメトリーが最も正確であり、シリコーンオイルはマイナスレンズとして機能するためIOL度数を3〜5D調整する必要がある1)

Q 屈折矯正手術を受けた目の白内障手術でなぜIOL計算が難しいのか?
A

屈折矯正手術(LASIK・PRK・RK)は角膜前後面の曲率比を変化させる。ケラトメーターは前面曲率のみから後面を推定するため、術後眼では角膜屈折力を過大評価する。また多くのIOL計算式はELPを眼軸長角膜屈折力から予測するが、矯正手術後はこの関係が変化するため計算式にも誤差が生じる。専用計算法(ASCRSオンライン計算機等)の使用が推奨される1)

SS-OCT(スウェプトソース光干渉断層計)は以下の原理で眼の各界面を高精度に計測する。

  1. 光源:波長1,050〜1,310nmの掃引光源(スウェプトソース)レーザーを使用
  2. 干渉:眼内の各界面(角膜前後面・水晶体前後面・網膜)からの反射光を参照光と干渉させる
  3. 計算:フーリエ変換により各界面の深さを高精度で算出
  4. 出力眼軸長・ACD・LT・AL等のパラメータが同時に取得される

PCI(部分コヒーレンス干渉法)

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IOLマスター500が採用した第1世代の光学式測定原理。二重ビームの干渉パターンを利用して眼軸長を測定する。SS-OCTに比べると深達性が低く、高度白内障眼では測定不能となりやすい。

セグメント式眼軸長測定(ARGOS)

Section titled “セグメント式眼軸長測定(ARGOS)”

従来の光学式は眼全体に一律の屈折率を適用するため、高度近視眼(AL≥25mm)では過大評価が生じやすい。ARGOSが実装する「セグメント式眼軸長測定」は各セグメント(房水水晶体硝子体)に個別の屈折率を適用する方法である。長眼では従来法比約0.50mm小さく表示され、多くの計算式でMAE(平均絶対誤差)の改善が報告されている。ただし本方式のエビデンスは蓄積段階であり、今後の臨床検討が待たれる。

Hill-RBF法(人工知能によるパターン認識)・Kane式・Pearl-DGS式などのAIベース計算式が精度向上を示している4)。Suzukiら(2025年)は眼軸長30.0mm以上の極端な軸性近視80眼を対象に後方視的評価を行い、Kane式とHill-RBF式が従来のSRK/T式に比べ有意に低い平均絶対誤差(MAE)を示すことを報告した7)

±0.5D以内の割合はSRK/T 26.3%・Barrett Universal II 45.0%・Hill-RBF 55.0%・Kane 65.0%であり、眼軸長32mm以上のサブグループではHill-RBF MAEが0.49D・Kane MAEが0.44Dと最も良好であった7)

前眼部OCTのデータに基づく光線追跡(Anterion-OKULIX)は、近視LVC後眼においてBarrett True K no-history式と比較して算術的予測誤差が有意に低い(−0.13D vs −0.32D)との報告がある6)角膜全面の形状データを直接利用する点で屈折矯正手術後眼への適用においても理論的優位性が期待される。

術中収差測定(Intraoperative Aberrometry)

Section titled “術中収差測定(Intraoperative Aberrometry)”

Optiwave refractive analyzerなどを用いた術中波面収差測定は、術前バイオメトリーを補完する手段として注目されている。成人の通常白内障手術において従来のバイオメトリーと同等の術後成績が得られるとの報告があり、術中の屈折誤差補正を可能にする可能性がある2)

近視進行モニタリングへの応用

Section titled “近視進行モニタリングへの応用”

低濃度アトロピン点眼オルソケラトロジーによる近視抑制治療の効果判定に、光学バイオメーターによる定期的な眼軸長測定が応用されている。6か月〜1年ごとの眼軸長モニタリングにより治療効果の客観的評価が可能となる。具体的な測定間隔・閾値については今後のガイドライン整備が待たれる。

  1. ESCRS Clinical Guidelines. Cataract Surgery Guidelines. European Society of Cataract and Refractive Surgeons; 2023.
  2. Rathod A, Khokhar S, Rani D. Pediatric intraocular lens power calculation: Factors and considerations. Indian J Ophthalmol. 2025;73:312-319.
  3. American Academy of Ophthalmology. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern. San Francisco: AAO; 2021.
  4. Abbondanza M, Stifani G, Abbondanza D, Leuzzi M. Artificial intelligence applications and cataract surgery. J Clin Med. 2022;11:3899.
  5. European Society of Cataract and Refractive Surgeons. ESCRS Clinical Guidelines for Cataract Surgery. 2024. Available at: https://www.escrs.org/
  6. Wang L, Koch DD. Intraocular lens power calculations in eyes with previous corneal refractive surgery: review. In: ESCRS Guidelines on Prevention, Investigation, and Management of Post-operative Endophthalmitis and Cataract Surgery. 2024. (ESCRS Cataract Guideline, Section 6.3)
  7. Suzuki Y, Kamoi K, Uramoto K, Ohno-Matsui K. Artificial intelligence driven intraocular lens power calculation in extreme axial myopia. Sci Rep. 2025;15:36921.

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