非病的近視
眼底所見:軽度の近視性円弧(視神経乳頭周囲の萎縮弧)が認められることがある。初期は網膜色素上皮の萎縮により紋理眼底となり、乳頭耳側にコーヌスが形成される。
眼軸長:26.5mm未満が多い。
矯正視力:良好に保たれる。
近視(myopia)は、無限遠からの平行光線が網膜手前で焦点を結ぶ屈折異常である。眼の屈折力が眼軸長に対して過剰な状態を指し、遠方視力の低下を特徴とする。
小児の近視の診断基準は「調節麻痺下屈折検査における等価球面度数での近視度数が-0.5Dもしくは-0.5Dを超える状態」である。4)
仮性近視(偽近視)は、調節けいれんによる一時的な近視状態で、調節麻痺薬の投与で消失する。近見作業の持続で仮性近視が起こり、これが真性近視に移行するという学説は昭和15年頃にわが国で提唱されたものである。
近視は発症機序・重症度・発症時期・病因によって以下のように分類される。
屈折性近視と軸性近視:屈折性近視は水晶体の屈折力増加が原因。軸性近視は眼軸長の延長が原因で、近視の大多数はこれに属する。
非病的近視と病的近視:非病的近視(生理的・単純・学校近視)は6D未満で、学童期から思春期に発症し20代前半に安定する。病的近視は等価球面度数>6D・眼軸長>26.5mmを呈し、進行性の眼底変化を伴う。
日本における重症度分類(庄司分類):弱度(-3D以下)・中等度(-3D超〜-6D以下)・強度(-6D超〜-10D以下)・最強度(-10D超)の4段階に分類される。
先天近視と後天近視:先天近視は遺伝性で生後すぐに発症する。後天近視(学校近視)は近業作業を契機に学齢期に発症する。
日本における病的近視の診断基準は年齢により異なる。
| 年齢 | 等価球面度数 | 矯正視力 |
|---|---|---|
| 5歳以下 | >-4.0D | 0.4以下 |
| 6〜8歳 | >-6.0D | 0.6以下 |
| 9歳以上 | >-8.0D | 0.6以下 |
乳幼児は屈折異常による視力低下を自覚して訴えることはまずない。幼小児における正常屈折値(1%サイクロジール調節麻痺下)の目安を以下に示す。
| 年齢 | 正常屈折値 | 眼鏡処方を要する屈折値 |
|---|---|---|
| 3カ月 | S+4D | S+6D以上 |
| 1歳 | S+2D | S+4D以上 |
| 2歳 | S+1D | S+3D以上 |
| 3歳 | S+1D | S+3D以上 |
近視は必ず焦点の合う世界があるため、幼小児でも弱視のおそれはない。中等度までの近視では眼鏡装用を急がなくてよい。中等度以上(-3Dよりも強度)の近視は、子どもなりの世界を広げるために眼鏡装用のメリットを保護者に説明する。
世界人口の1/5以上が近視を有し、2050年には約半数に達すると予測されている。2) 生産性損失は年間2,500億ドル、近視性黄斑変性による損失は60億ドルと試算される。2)
世界的な小児の近視有病率は1990年24.32%から2023年35.81%、2050年には39.80%への増加が予測されている。3) 強度近視人口は2000年の1.6億人から2050年には9.4億人(5.8倍)に急増すると見込まれる。5)
裸眼視力1.0未満の小児の割合は増加傾向にある(高校生:S55年55.5%→H26年62.9%、中学生:S55年38.1%→H26年53.0%、小学生:S55年19.7%→H26年30.2%)。中学生の強度近視(≤-6.0D)有病率は11.3%と高い。5) 久山町研究では近視性黄斑症の有病率増加と長眼軸長との関連が確認されている。4)
乳幼児は屈折異常による視力低下を自覚して訴えることはまずない。近視が急速に進行する場合、乳頭は耳側が発赤して辺縁不明瞭になり後極へ傾斜するとともに、乳頭近傍の網脈絡膜に出血が起こることがある。後部ぶどう腫は通常成人以降にみられ、小児期に網脈絡膜に萎縮が起こることはまれである。
非病的近視
眼底所見:軽度の近視性円弧(視神経乳頭周囲の萎縮弧)が認められることがある。初期は網膜色素上皮の萎縮により紋理眼底となり、乳頭耳側にコーヌスが形成される。
眼軸長:26.5mm未満が多い。
矯正視力:良好に保たれる。
病的近視
OCTは眼軸性近視の増加に伴う黄斑体積減少の検出に有用である。
近視の病因は多因子的で、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与する。
屋外活動は近視発症を最大50%低減する最重要予防因子である。3) 1日76分の屋外時間増加で発症を50%低減するとのメタ解析があり、1日2時間以上の屋外活動が推奨されている。3)
近業作業との関連も報告されている。暗い部屋での読書回避、画面への過度な近づきすぎ回避が推奨される。30cm以上の距離の確保、30分ごとの休憩が有用とされる。3) 学校近視の予防として、1時間に5分程度の近業休憩を指導する。
近視のリスク因子として以下が挙げられる。4)
学校健診での視力検査が最初の検出機会となる。フォトスクリーニングやオートレフラクトメーターによる検出は可能だが、定量的な屈折度数の確定には不十分である。
米国の学校ベース視力プログラム(SBVP)の410校データでは、スクリーニング不合格率の中央値は38.4%、眼鏡処方率は25.2%であった。8) 高校では小学校より不合格率・処方率が有意に高く、低所得層の学校ほど眼科的ケア需要が高い傾向が確認されている。8)
調節麻痺下屈折検査が小児のゴールドスタンダードである。調節の影響を排除しないと、調節力の強い小児では過剰なマイナス処方(over-minusing)が生じやすい。
幼小児では遠方に正しく焦点を維持する集中力に欠けるため、屈折検査には調節麻痺薬の点眼が欠かせない。手技:シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン®1%)を10分おきに2回点眼し、初回点眼から45〜60分後に自動レフラクトメータを実施する。4) 困難な場合は非調節麻痺下の検影法によるオーバーレフラクションも選択肢となる。4) アトロピン(1%液・1日2回×7日間)はより確実な調節麻痺が得られるが、検査期間が長い。
弱視除外のため、年齢相応の視力発達を確認する。4) 低年齢で近視が強い小児では、続発性近視(先天性夜盲症、網膜色素変性症等)の除外も必要である。4)
眼軸長測定は近視進行の正確な評価と管理に有用である。4) レーザー光干渉計が推奨される。5) 無治療時の年間進行速度との比較や、パーセンタイル曲線を用いた管理が可能である。4)
近視の治療は、①屈折矯正による視力の確保、②近視進行の抑制、の2つに大別される。
眼鏡(凹レンズ)は小児近視の第一選択矯正法である。調節麻痺下の屈折度数をもとに処方する。中等度までの近視では眼鏡装用を急がなくてよい。中等度以上(-3Dよりも強度)の近視は、子どもなりの世界を広げるために眼鏡装用のメリットを保護者に伝える。処方後のフォローアップは近視例では3〜4カ月後を目安とする。
コンタクトレンズ(CL)は10代前半以降が一般的な適応年齢である。矯正は可能だが、小児には管理面での注意が必要である。
近視進行抑制治療の目的は以下のとおりである。4)
| 介入 | 屈折抑制効果 | 眼軸抑制効果 | 主要根拠 |
|---|---|---|---|
| 低濃度アトロピン0.05% | 最大67%3) | — | LAMP study |
| 低濃度アトロピン0.025%(リジュセア®ミニ) | 国内承認薬4) | — | 国内臨床試験 |
| オルソケラトロジー | — | 32〜59%3) | 複数RCT |
| MiSight 1 day(+2.00D) | 59%2) | 52%2) | Chamberlain 2019 |
| DIMS眼鏡レンズ(MiYOSMART®) | 52%5) | 62%5) | Lam 2020 |
| HAL眼鏡レンズ(Stellest®) | 55〜67%5) | 51〜60%5) | Bao 2022 |
| 多焦点ソフトCL(全般) | SE -0.22〜-0.81D vs -0.50〜-1.45D6) | AL 0.05〜0.39mm vs 0.17〜0.67mm6) | AAO OTA 12研究 |
低濃度アトロピン点眼は、近視進行抑制において最もエビデンスが蓄積された薬物療法である。3)
承認情報:リジュセア®ミニ点眼液0.025%(参天製薬)が2024年12月27日に近視の進行抑制を効能・効果として国内初承認された。4) 日本近視学会が治療手引き(2025年)を策定している。
作用機序:ムスカリン受容体(M1/M4受容体が主候補)を介して強膜リモデリングに関与し眼軸延長を抑制するとされるが、詳細な機序は研究中である。4)
濃度と効果の比較:LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が最も有効で、最大67%の進行抑制効果が示された。3) 0.01%(ATOM2試験, Chia 2012)は単独では効果が限定的な場合がある。3)
処方手順:4)
経過観察:4)
副作用:4)
リバウンドと治療終了:4)
近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版)が近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会から策定されている。5)
対象レンズ:
適応:5)
処方者条件:小児の視機能発達・眼光学に精通した眼科医。5)
禁忌・慎重処方:5)
処方上の留意点:5)
経過観察と治療終了:5)
インフォームドコンセント:近視を治癒・軽減するものではなく、進行速度を抑制するのみ。終日装用・長期間の適切使用が必要。現時点で副作用の報告なし。5)
AAO OTAレポート(Cavuoto 2024)はLevel I エビデンス11研究+Level II 1研究の系統的レビューである。6)
主要レンズ:
安全性(小児のCL合併症リスク):7)
就寝中に特殊なリジッドレンズを装用し、角膜中央部を一時的に平坦化する手法。効果は一時的であり、矯正を継続するには毎日夜間の装用を必要とする。日中は裸眼で過ごせるため活発な小児に適する。
効果:2年間で眼軸伸展を32〜59%抑制。3)
「オルソケラトロジー・ガイドライン」では適応年齢20歳以上と明記されている。しかし小学生CL使用者中19.2%がオルソKを使用しており年々増加している。夜間視力の低下、角膜高次収差の増加、アカントアメーバ角膜炎などの重篤な角膜感染症リスクが懸念される。就寝時装用による角膜酸素不足や角膜内皮細胞減少などの影響も危惧される。
安全性:日本多施設研究(1,438名)でのMK(微生物性角膜炎)発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3) 米国FDA委託研究では小児でのMK発生率14/10,000 patient-yearsが報告されている。7) 長期予後は不明で慎重な対応が必要である。
PRK・LASIK・LASEKなどの屈折矯正手術は、眼球の成長が停止した後(10代後半〜20代前半)にのみ適応となる。小児・思春期には原則として行わない。
LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が最も有効で、最大67%の進行抑制効果が示された。3) リジュセア®ミニ点眼液0.025%が2024年12月に近視進行抑制の効能で国内初承認されており、現時点での標準的な処方用量となっている。4) 0.01%(ATOM2試験)は単独では効果が限られる可能性がある。3) 最適濃度の選択は効果と副作用(羞明・近見障害)のバランスを考慮して個別に判断する。
日本の多施設研究(1,438名)でのMK発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3) 米国FDA委託研究では14/10,000 patient-yearsが報告されている。7) 適切なケアを遵守すれば比較的安全な治療法である。ただし、水道水によるレンズ洗浄はアカントアメーバ角膜炎のリスクを高めるため厳禁である。長期予後は不明のため慎重な対応が必要である。
近視の主な病態は眼軸の延長であり、正視眼平均値から標準偏差3倍以上の延長が病的近視の基準とされる。
眼軸延長は網膜から送られる光学的シグナルにより制御されると考えられている。
1D当たりの近視進行に伴うリスク増加は以下のとおりである。7)
1D抑制により防止できる視覚障害年数は、-3D眼で0.74年/人、-8D眼で1.22年/人と試算されている。7) NNT(5年間の視覚障害を1例防ぐための必要治療数)は4.1〜6.8人、CL関連MKのNNH(有害事象が1例生じるまでの治療数)は38〜945人と推計されており、近視進行抑制のベネフィットはリスクを大幅に上回る。7)
眼軸延長が高度に進行すると、脈絡膜・網膜・強膜に機械的伸展が加わる。
Gopalakrishnanら(2024)は、病的近視に伴う黄斑新生血管に対してアフリベルセプト硝子体内注射(IVA)を施行した後にMRSが進行した症例を報告した。1) 症例は49歳女性(右眼 -16D・眼軸28.16mm、左眼 -13D・眼軸27.35mm)で、IVA後のMRS悪化に対して25G PPV+内境界膜剥離+SF6ガスタンポナーデにより良好な転帰が得られた。抗VEGF注射後のMRS悪化には注意が必要である。
650nmの赤色光を用いたRLRL療法は、脈絡膜厚の増加を介して眼軸延長を抑制する新規介入法である。3)
PLARI・NLARI・CARE・DOT・MYOGEN・MyoCareなど、新しい光学設計の眼鏡レンズが開発・検討されている。3)
単独療法を超える近視抑制効果を目指した併用療法の研究が進んでいる。3) 急速進行例に対する個別化アプローチの確立が課題である。
米国の学校ベース視力プログラム(SBVP)は410校でスクリーニング不合格率38.4%・眼鏡処方率25.2%と報告され、低所得層の学校でより高い眼科的ケア需要が確認されている。8) 台湾・シンガポール・中国では学校での屋外活動プログラムの大規模展開が成功しており、屋外学習環境の整備が提案されている。3)
飽和脂肪・コレステロール摂取と眼軸長の相関が報告されており、栄養介入による近視抑制の可能性が検討されている。3)
Gopalakrishnan N, et al. Progression of macular retinoschisis following intravitreal aflibercept injection for myopic macular neovascularization. BMC Ophthalmology. 2024;24:224.
OTA Committee. Multifocal soft contact lenses for the treatment of myopia progression in children. Ophthalmology. 2024.
Yam JC, et al. Interventions for slowing the onset and progression of myopia. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101410.
低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の治療指針作成委員会. 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の手引き. 日眼会誌. 2025;129:851-854.
近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会. 近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2025;129:855-860.
Cavuoto KM, et al. Multifocal soft contact lenses for the treatment of myopia progression in children: a report by the American Academy of Ophthalmology. Ophthalmology. 2024.
Bullimore MA, et al. The risks and benefits of myopia control. Ophthalmology. 2021;128:1561-1579.
Kallem M, et al. Associations between school-based vision program outcomes and school characteristics in 410 schools. Ophthalmology. 2025;132:452-460.