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小児眼科・斜視

小児の近視と進行抑制治療

近視(myopia)は、無限遠からの平行光線が網膜手前で焦点を結ぶ屈折異常である。眼の屈折力が眼軸長に対して過剰な状態を指し、遠方視力の低下を特徴とする。

小児の近視の診断基準は「調節麻痺下屈折検査における等価球面度数での近視度数が-0.5Dもしくは-0.5Dを超える状態」である。4)

仮性近視(偽近視)は、調節けいれんによる一時的な近視状態で、調節麻痺薬の投与で消失する。近見作業の持続で仮性近視が起こり、これが真性近視に移行するという学説は昭和15年頃にわが国で提唱されたものである。

近視は発症機序・重症度・発症時期・病因によって以下のように分類される。

屈折近視と軸性近視屈折近視水晶体屈折力増加が原因。軸性近視眼軸長の延長が原因で、近視の大多数はこれに属する。

病的近視病的近視:非病的近視(生理的・単純・学校近視)は6D未満で、学童期から思春期に発症し20代前半に安定する。病的近視は等価球面度数>6D・眼軸長>26.5mmを呈し、進行性の眼底変化を伴う。

日本における重症度分類(庄司分類):弱度(-3D以下)・中等度(-3D超〜-6D以下)・強度(-6D超〜-10D以下)・最強度(-10D超)の4段階に分類される。

先天近視と後天近視:先天近視は遺伝性で生後すぐに発症する。後天近視(学校近視)は近業作業を契機に学齢期に発症する。

日本における病的近視の診断基準は年齢により異なる。

年齢等価球面度数矯正視力
5歳以下>-4.0D0.4以下
6〜8歳>-6.0D0.6以下
9歳以上>-8.0D0.6以下

病的近視近視全体の約5%を占める。

乳幼児は屈折異常による視力低下を自覚して訴えることはまずない。幼小児における正常屈折値(1%サイクロジール調節麻痺下)の目安を以下に示す。

年齢正常屈折眼鏡処方を要する屈折
3カ月S+4DS+6D以上
1歳S+2DS+4D以上
2歳S+1DS+3D以上
3歳S+1DS+3D以上

近視は必ず焦点の合う世界があるため、幼小児でも弱視のおそれはない。中等度までの近視では眼鏡装用を急がなくてよい。中等度以上(-3Dよりも強度)の近視は、子どもなりの世界を広げるために眼鏡装用のメリットを保護者に説明する。

世界人口の1/5以上が近視を有し、2050年には約半数に達すると予測されている。2) 生産性損失は年間2,500億ドル、近視黄斑変性による損失は60億ドルと試算される。2)

世界的な小児の近視有病率は1990年24.32%から2023年35.81%、2050年には39.80%への増加が予測されている。3) 強度近視人口は2000年の1.6億人から2050年には9.4億人(5.8倍)に急増すると見込まれる。5)

裸眼視力1.0未満の小児の割合は増加傾向にある(高校生:S55年55.5%→H26年62.9%、中学生:S55年38.1%→H26年53.0%、小学生:S55年19.7%→H26年30.2%)。中学生の強度近視(≤-6.0D)有病率は11.3%と高い。5) 久山町研究では近視黄斑症の有病率増加と長眼軸長との関連が確認されている。4)

Q 近視はどのくらい一般的ですか?
A

世界人口の1/5以上が近視を有し、2050年には約半数が近視になると予測されている。2) アジア地域では特に有病率が高く、台湾の子供では約80%に認められる。世界的な小児の近視有病率は1990年の24.32%から2050年には39.80%への増加が見込まれ、強度近視人口は2050年に9.4億人(2000年比5.8倍)に達すると予測される。5)

  • 遠方視力のぼやけ:最も特徴的な症状。近くは比較的よく見えるが、遠方がかすんで見える。
  • 目を細める:ピンホール効果で視力改善を試みるための行動。
  • 変視症病的近視網膜病変を合併した場合に出現する。

乳幼児は屈折異常による視力低下を自覚して訴えることはまずない。近視が急速に進行する場合、乳頭は耳側が発赤して辺縁不明瞭になり後極へ傾斜するとともに、乳頭近傍の網脈絡膜に出血が起こることがある。後部ぶどう腫は通常成人以降にみられ、小児期に網脈絡膜に萎縮が起こることはまれである。

非病的近視

眼底所見:軽度の近視性円弧(視神経乳頭周囲の萎縮弧)が認められることがある。初期は網膜色素上皮の萎縮により紋理眼底となり、乳頭耳側にコーヌスが形成される。

眼軸長:26.5mm未満が多い。

矯正視力:良好に保たれる。

OCT眼軸近視の増加に伴う黄斑体積減少の検出に有用である。

Q 病的近視ではどのような眼底変化が起こりますか?
A

病的近視では眼軸延長に伴い、後部ぶどう腫・Fuchs斑・脈絡膜新生血管網膜裂孔・剥離・視神経乳頭傾斜などの眼底変化が生じる。黄斑分離症(MRS)は後部ぶどう腫を有する病的近視眼の9〜34%に認められ、硝子体手術の適応となる場合がある。1)

近視の病因は多因子的で、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与する。

  • 遺伝形式:非症候群性強度近視常染色体優性遺伝が最多で、遺伝的異質性がある。中等度近視は常染色体劣性・優性・多因子性。
  • 双生児研究:一卵性双生児の一致率は二卵性を大きく上回り、遺伝の寄与を示す。
  • 家族歴:両親が近視の場合に子供のリスクが増加する。4)
  • 民族差:中国系の子供で、シドニー在住(3.3%)よりシンガポール在住(29.1%)での有病率が高く、同一民族でも環境が大きく影響する。

屋外活動は近視発症を最大50%低減する最重要予防因子である。3) 1日76分の屋外時間増加で発症を50%低減するとのメタ解析があり、1日2時間以上の屋外活動が推奨されている。3)

  • 広州RCT:40分/日の屋外活動追加→3年間で発症率23%低減(30.4% vs 39.5%)3)
  • 台湾RCT:80分/日の屋外活動→1年間で発症率52%低減(8.41% vs 17.65%)3)
  • 少なくとも2000 luxの光強度で15分以上の連続的屋外暴露が有意とされる3)
  • ドーパミン仮説:屋外の高輝度光→網膜ドーパミン放出→眼軸延長抑制3)
  • COVID-19パンデミック中の屋外活動減少・近業増加により、小児近視進行が加速した3)

近業作業との関連も報告されている。暗い部屋での読書回避、画面への過度な近づきすぎ回避が推奨される。30cm以上の距離の確保、30分ごとの休憩が有用とされる。3) 学校近視の予防として、1時間に5分程度の近業休憩を指導する。

近視のリスク因子として以下が挙げられる。4)

  • 両親が近視である
  • 屋外活動時間が少ない
  • 近業時間が長く対象物を見る距離が短い
  • 低年齢での近視発症(将来の近視度数が強くなることが示唆される)
Q 屋外活動で本当に近視予防できますか?
A

屋外活動の増加は近視の発症を最大50%低減するとの報告がある。3) 1日76分の屋外時間増加で発症50%低減とのメタ解析があり、台湾のRCTでは80分/日の屋外活動により1年間で発症率が52%低減した。3) 屋外の明るい光(少なくとも2000 lux)が網膜ドーパミンの放出を促し、眼軸延長を抑制すると考えられている。近視進行抑制の中でも最も簡便かつ副作用のない介入である。

学校健診での視力検査が最初の検出機会となる。フォトスクリーニングやオートレフラクトメーターによる検出は可能だが、定量的な屈折度数の確定には不十分である。

米国の学校ベース視力プログラム(SBVP)の410校データでは、スクリーニング不合格率の中央値は38.4%、眼鏡処方率は25.2%であった。8) 高校では小学校より不合格率・処方率が有意に高く、低所得層の学校ほど眼科的ケア需要が高い傾向が確認されている。8)

確定診断:調節麻痺下屈折検査

Section titled “確定診断:調節麻痺下屈折検査”

調節麻痺下屈折検査が小児のゴールドスタンダードである。調節の影響を排除しないと、調節力の強い小児では過剰なマイナス処方(over-minusing)が生じやすい。

幼小児では遠方に正しく焦点を維持する集中力に欠けるため、屈折検査には調節麻痺薬の点眼が欠かせない。手技:シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン®1%)を10分おきに2回点眼し、初回点眼から45〜60分後に自動レフラクトメータを実施する。4) 困難な場合は非調節麻痺下の検影法によるオーバーレフラクションも選択肢となる。4) アトロピン(1%液・1日2回×7日間)はより確実な調節麻痺が得られるが、検査期間が長い。

弱視除外のため、年齢相応の視力発達を確認する。4) 低年齢で近視が強い小児では、続発性近視(先天性夜盲症、網膜色素変性症等)の除外も必要である。4)

眼軸長測定は近視進行の正確な評価と管理に有用である。4) レーザー光干渉計が推奨される。5) 無治療時の年間進行速度との比較や、パーセンタイル曲線を用いた管理が可能である。4)

近視の治療は、①屈折矯正による視力の確保、②近視進行の抑制、の2つに大別される。

眼鏡(凹レンズ)は小児近視の第一選択矯正法である。調節麻痺下の屈折度数をもとに処方する。中等度までの近視では眼鏡装用を急がなくてよい。中等度以上(-3Dよりも強度)の近視は、子どもなりの世界を広げるために眼鏡装用のメリットを保護者に伝える。処方後のフォローアップは近視例では3〜4カ月後を目安とする。

コンタクトレンズ(CL)は10代前半以降が一般的な適応年齢である。矯正は可能だが、小児には管理面での注意が必要である。

近視進行抑制治療の目的は以下のとおりである。4)

  • 近視度数の過度な進行を抑え、裸眼視力・生活の質を維持する
  • 眼合併症(緑内障網膜剥離近視黄斑症・白内障)の発症リスクを軽減する
  • 生涯にわたる目の健康を維持する
介入屈折抑制効果眼軸抑制効果主要根拠
低濃度アトロピン0.05%最大67%3)LAMP study
低濃度アトロピン0.025%(リジュセア®ミニ)国内承認薬4)国内臨床試験
オルソケラトロジー32〜59%3)複数RCT
MiSight 1 day(+2.00D)59%2)52%2)Chamberlain 2019
DIMS眼鏡レンズ(MiYOSMART®)52%5)62%5)Lam 2020
HAL眼鏡レンズ(Stellest®)55〜67%5)51〜60%5)Bao 2022
多焦点ソフトCL(全般)SE -0.22〜-0.81D vs -0.50〜-1.45D6)AL 0.05〜0.39mm vs 0.17〜0.67mm6)AAO OTA 12研究

5-4. 薬物療法:低濃度アトロピン点眼

Section titled “5-4. 薬物療法:低濃度アトロピン点眼”

低濃度アトロピン点眼は、近視進行抑制において最もエビデンスが蓄積された薬物療法である。3)

承認情報:リジュセア®ミニ点眼液0.025%(参天製薬)が2024年12月27日に近視の進行抑制を効能・効果として国内初承認された。4) 日本近視学会が治療手引き(2025年)を策定している。

作用機序:ムスカリン受容体(M1/M4受容体が主候補)を介して強膜リモデリングに関与し眼軸延長を抑制するとされるが、詳細な機序は研究中である。4)

濃度と効果の比較:LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が最も有効で、最大67%の進行抑制効果が示された。3) 0.01%(ATOM2試験, Chia 2012)は単独では効果が限定的な場合がある。3)

処方手順4)

  • 処方は眼科医に限定される
  • 近視発症早期、特に進行が速い10代前半までに治療を開始することが重要
  • 5歳未満は臨床試験未実施のため慎重に検討する
  • 初診時に調節麻痺下屈折検査で近視診断を確認し、弱視・続発性近視を除外する

経過観察4)

  • 初回処方の1週〜1か月後:点眼の遵守状況と安全性を確認
  • 以降3〜6か月ごとに定期観察
  • 調節麻痺下屈折検査は年1回が目安
  • 眼軸長パーセンタイル曲線等の近視進行管理ツールで効果を可視化

副作用4)

  • 主な副作用は散瞳による羞明霧視。就寝前の点眼により影響を軽減できる
  • 点眼開始後数週間で軽減する可能性が高い
  • 必要に応じてサングラス・調光レンズ・遮光眼鏡を検討する
  • 両眼視機能悪化・調節障害に留意する

リバウンドと治療終了4)

  • 近視の進行安定化前に中止すると、無治療と比べ進行が速まる(LAMP study Phase 3)
  • 低年齢での中止で進行加速リスクが指摘されている
  • 10代後半まで少なくとも継続することが望ましい
  • 近視の進行は10代後半から20代前半に安定(15歳48%→18歳77%→21歳90%→24歳96%)
  • 終了後も6か月ごとの屈折検査・眼軸長測定を推奨し、進行再開時は早期治療再開を検討する

5-5. 光学的介入:近視管理用眼鏡

Section titled “5-5. 光学的介入:近視管理用眼鏡”

近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版)が近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会から策定されている。5)

対象レンズ

  • MiYOSMART®(HOYA社):DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments)理論。2年間で屈折52%・眼軸62%抑制(Lam 2020)。5)
  • Essilor® Stellest®(Nikon-Essilor社):HAL(Highly Aspherical Lenslet)理論。2年間で55〜67%抑制(Bao 2022)。5)

適応5)

  • 調節麻痺下等価球面度数で-0.5D以上の近視
  • MiYOSMART®:5〜18歳、Stellest®:7〜18歳
  • 5歳未満は非推奨
  • 近視進行が確認された時点、または強度近視の家族歴がある場合

処方者条件:小児の視機能発達・眼光学に精通した眼科医。5)

禁忌・慎重処方5)

処方上の留意点5)

  • 調節麻痺下のオートレフ値を基準に完全矯正で処方
  • MiYOSMART®:S -10.00D〜0.00D、C -4.00D〜0.00D
  • Stellest®:S -12.00D〜+2.00D、C -4.00D〜0.00D
  • レンズセンタリング許容範囲:水平・垂直とも1mm以下

経過観察と治療終了5)

  • 装用開始2週後:遠見矯正視力・フィッティング・質問票評価
  • 6か月ごとフォローアップ:調節麻痺下屈折検査+眼軸長測定
  • 等価球面で-0.50D超の進行時はレンズ交換を検討
  • 近視進行は目安として18歳±2歳で停止(15歳48%安定→18歳77%→21歳90%→24歳96%)
  • リバウンドなしが眼鏡レンズの利点

インフォームドコンセント近視を治癒・軽減するものではなく、進行速度を抑制するのみ。終日装用・長期間の適切使用が必要。現時点で副作用の報告なし。5)

5-6. 光学的介入:多焦点ソフトコンタクトレンズ(SMCL)

Section titled “5-6. 光学的介入:多焦点ソフトコンタクトレンズ(SMCL)”

AAO OTAレポート(Cavuoto 2024)はLevel I エビデンス11研究+Level II 1研究の系統的レビューである。6)

  • SE変化:治療群 -0.22〜-0.81D vs 対照群 -0.50〜-1.45D6)
  • 眼軸延長:治療群 0.05〜0.39mm vs 対照群 0.17〜0.67mm6)
  • 重篤な有害事象の報告なし6)

主要レンズ

  • MiSight 1 day(+2.00D加入):3年間RCTで屈折59%・眼軸52%の抑制効果(Chamberlain 2019)2)
  • +2.50D加入レンズ:3年間で屈折43%・眼軸36%の抑制3)
  • EDOF型(MYLO):2年間でSE -0.62D vs -1.12D6)

安全性(小児のCL合併症リスク)7)

  • 8〜12歳のCL関連角膜浸潤性イベント発生率:97/10,000 patient-years
  • 13〜17歳:335/10,000 patient-years
  • 8〜12歳での微生物性角膜炎:0/10,000 patient-years(95%CI 0〜70)
  • デイリーディスポーザブルCLによりリスク軽減

5-7. 光学的介入:オルソケラトロジー

Section titled “5-7. 光学的介入:オルソケラトロジー”

就寝中に特殊なリジッドレンズを装用し、角膜中央部を一時的に平坦化する手法。効果は一時的であり、矯正を継続するには毎日夜間の装用を必要とする。日中は裸眼で過ごせるため活発な小児に適する。

効果:2年間で眼軸伸展を32〜59%抑制。3)

オルソケラトロジー・ガイドライン」では適応年齢20歳以上と明記されている。しかし小学生CL使用者中19.2%がオルソKを使用しており年々増加している。夜間視力の低下、角膜高次収差の増加、アカントアメーバ角膜炎などの重篤な角膜感染症リスクが懸念される。就寝時装用による角膜酸素不足や角膜内皮細胞減少などの影響も危惧される。

安全性:日本多施設研究(1,438名)でのMK(微生物性角膜炎)発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3) 米国FDA委託研究では小児でのMK発生率14/10,000 patient-yearsが報告されている。7) 長期予後は不明で慎重な対応が必要である。

  • Ortho-K+0.01%アトロピン:最もエビデンスが蓄積されている(Kinoshita 2020 2年RCT)3)4)
  • DIMS+アトロピン:抑制効果向上の報告(Nucci 2023、Kaymak 2022)5)
  • DIMS+0.025%アトロピンASPECT試験12カ月結果5)
  • 2025年4月時点で低濃度アトロピン以外の近視進行抑制治療は国内未承認4)
  • 治療強化が必要な場合:コンプライアンス確認→生活指導→治療切替・併用を検討4)

PRK・LASIK・LASEKなどの屈折矯正手術は、眼球の成長が停止した後(10代後半〜20代前半)にのみ適応となる。小児・思春期には原則として行わない。

Q 低濃度アトロピン点眼の最適濃度はどれですか?
A

LAMP試験(Yam 2019)では0.05%が最も有効で、最大67%の進行抑制効果が示された。3) リジュセア®ミニ点眼液0.025%が2024年12月に近視進行抑制の効能で国内初承認されており、現時点での標準的な処方用量となっている。4) 0.01%(ATOM2試験)は単独では効果が限られる可能性がある。3) 最適濃度の選択は効果と副作用(羞明・近見障害)のバランスを考慮して個別に判断する。

Q オルソケラトロジーは子供に安全ですか?
A

日本の多施設研究(1,438名)でのMK発生率は5.4/10,000 patient-yearsであった。3) 米国FDA委託研究では14/10,000 patient-yearsが報告されている。7) 適切なケアを遵守すれば比較的安全な治療法である。ただし、水道水によるレンズ洗浄はアカントアメーバ角膜炎のリスクを高めるため厳禁である。長期予後は不明のため慎重な対応が必要である。

Q 近視管理用眼鏡はいつから使えますか?
A

近視管理用眼鏡ガイドライン(第1版)では、MiYOSMART®は5〜18歳、Stellest®は7〜18歳を適応年齢としている。5) 5歳未満は非推奨である。適応の条件は調節麻痺下等価球面度数で-0.5D以上の近視であり、近視進行が確認された時点または強度近視の家族歴がある場合に特に検討する。斜視弱視眼振・頭位異常等の両眼視機能異常がある場合は禁忌または慎重処方となる。5)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

近視の主な病態は眼軸の延長であり、正視眼平均値から標準偏差3倍以上の延長が病的近視の基準とされる。

眼軸延長は網膜から送られる光学的シグナルにより制御されると考えられている。

  • 周辺遠視性デフォーカス網膜周辺部に遠視性のぼやけが生じると、眼球はそれを補正しようとして眼軸を延長させる。多焦点CLや近視抑制眼鏡レンズはこの周辺デフォーカスを軽減することで眼軸延長を抑制する。2)
  • ドーパミン仮説網膜のドーパミン放出が眼軸延長を抑制する。屋外の高輝度光がドーパミン分泌を促進するため、屋外活動が近視予防に有効と考えられる。3)
  • 低濃度アトロピンの機序:ムスカリン受容体(M1/M4受容体が主候補)を介して眼軸延長を抑制するとされるが、詳細な機序は研究中である。3)
  • RLRL療法の機序:650nmの赤色光照射が脈絡膜厚を増加させ、眼軸延長を抑制するとされる。3)

1D当たりの近視進行に伴うリスク増加は以下のとおりである。7)

1D抑制により防止できる視覚障害年数は、-3D眼で0.74年/人、-8D眼で1.22年/人と試算されている。7) NNT(5年間の視覚障害を1例防ぐための必要治療数)は4.1〜6.8人、CL関連MKのNNH(有害事象が1例生じるまでの治療数)は38〜945人と推計されており、近視進行抑制のベネフィットはリスクを大幅に上回る。7)

眼軸延長が高度に進行すると、脈絡膜網膜強膜に機械的伸展が加わる。

  • 後部ぶどう腫形成強膜の局所的な外方膨出。硝子体牽引を介して黄斑分離症(MRS)を引き起こす。MRSは後部ぶどう腫を有する病的近視眼の9〜34%に認められる。1)
  • 脈絡膜萎縮・CNV形成脈絡膜の菲薄化が進み、Bruch膜亀裂から脈絡膜新生血管が侵入する。Fuchs斑はCNVの瘢痕化した状態である。

Gopalakrishnanら(2024)は、病的近視に伴う黄斑新生血管に対してアフリベルセプト硝子体内注射(IVA)を施行した後にMRSが進行した症例を報告した。1) 症例は49歳女性(右眼 -16D・眼軸28.16mm、左眼 -13D・眼軸27.35mm)で、IVA後のMRS悪化に対して25G PPV内境界膜剥離+SF6ガスタンポナーデにより良好な転帰が得られた。抗VEGF注射後のMRS悪化には注意が必要である。

Q 近視進行を抑制するとどのくらいメリットがありますか?
A

1Dの近視進行抑制により、近視黄斑症リスクが37%低減し、視覚障害年数を0.74〜1.22年防止できるとの試算がある。7) NNT(5年間の視覚障害を1例防ぐための必要治療数)は4.1〜6.8人と推計されており、効率的な介入といえる。CL関連MKのNNH(38〜945人)と比較しても、近視進行抑制のベネフィットはリスクを大幅に上回る。7)


650nmの赤色光を用いたRLRL療法は、脈絡膜厚の増加を介して眼軸延長を抑制する新規介入法である。3)

  • 近視発症予防への応用も検討されており、約50%の発症低減効果が示唆されている3)
  • 長期安全性データが不十分であり、今後の検証が必要である3)
  • Ortho-KとのRLRL併用は急速進行例に対する選択肢として研究されている3)

PLARI・NLARI・CARE・DOT・MYOGEN・MyoCareなど、新しい光学設計の眼鏡レンズが開発・検討されている。3)

単独療法を超える近視抑制効果を目指した併用療法の研究が進んでいる。3) 急速進行例に対する個別化アプローチの確立が課題である。

学校ベース視力プログラムの展開

Section titled “学校ベース視力プログラムの展開”

米国の学校ベース視力プログラム(SBVP)は410校でスクリーニング不合格率38.4%・眼鏡処方率25.2%と報告され、低所得層の学校でより高い眼科的ケア需要が確認されている。8) 台湾・シンガポール・中国では学校での屋外活動プログラムの大規模展開が成功しており、屋外学習環境の整備が提案されている。3)

近視予防の環境・社会的アプローチ

Section titled “近視予防の環境・社会的アプローチ”
  • COVID-19の影響:パンデミックによる近業増加・屋外活動減少が小児近視の進行加速と関連した3)
  • 環境要因研究:都市計画・学校照明環境・緑地へのアクセスが近視有病率に与える影響が研究されている3)
  • グローバル研究の必要性:現行データの多くは東アジアに偏っており、他地域でのデータ蓄積が求められる3)

飽和脂肪・コレステロール摂取と眼軸長の相関が報告されており、栄養介入による近視抑制の可能性が検討されている。3)


  1. Gopalakrishnan N, et al. Progression of macular retinoschisis following intravitreal aflibercept injection for myopic macular neovascularization. BMC Ophthalmology. 2024;24:224.

  2. OTA Committee. Multifocal soft contact lenses for the treatment of myopia progression in children. Ophthalmology. 2024.

  3. Yam JC, et al. Interventions for slowing the onset and progression of myopia. Prog Retin Eye Res. 2025;109:101410.

  4. 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の治療指針作成委員会. 低濃度アトロピン点眼液を用いた近視進行抑制治療の手引き. 日眼会誌. 2025;129:851-854.

  5. 近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会. 近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版). 日眼会誌. 2025;129:855-860.

  6. Cavuoto KM, et al. Multifocal soft contact lenses for the treatment of myopia progression in children: a report by the American Academy of Ophthalmology. Ophthalmology. 2024.

  7. Bullimore MA, et al. The risks and benefits of myopia control. Ophthalmology. 2021;128:1561-1579.

  8. Kallem M, et al. Associations between school-based vision program outcomes and school characteristics in 410 schools. Ophthalmology. 2025;132:452-460.

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