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角膜・外眼部疾患

アカントアメーバ角膜炎

1. アカントアメーバ角膜炎とは

Section titled “1. アカントアメーバ角膜炎とは”

アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoeba keratitis; AK)は、土壌・淡水・水道水に広く生息する自由生活アメーバであるアカントアメーバが角膜に感染して発症する疾患である。1973〜74年にNagingtonらにより初めて報告され、本邦では1988年に石橋らによる最初の症例報告がある。当初は外傷によるものを除けばきわめてまれな疾患であったが、2000年代以降、コンタクトレンズ(CL)装用の普及とともに症例数が増加し、現在ではCL装用者を中心に世界的に重要な課題となっている10)

原因となるのは主に Acanthamoeba castellaniiA. polyphaga の2種で、遺伝子型ではT4型が全症例の94.3%を占める4)。アカントアメーバには栄養体(trophozoite)とシスト(cyst)の2つの形態があり、生育条件が悪化するとシスト化して種々の薬物治療に抵抗するという特性を持つ10)。微生物角膜炎全体に占めるアカントアメーバ角膜炎の割合は約1.5%、発生率は100万人あたり約2.3眼と推定される。英国・オランダの2015年データでは年間発生率が約0.31〜0.48/1万CL装用者と報告され、その約半数が視力障害に至る1)

アカントアメーバ角膜炎は重症のコンタクトレンズ関連角膜炎の主要原因の一つであり、患者の85〜90%がCL装用者である。本邦のCL装用者重症角膜感染症の調査では、アカントアメーバ角膜炎は緑膿菌角膜潰瘍に次ぐ第2位の頻度を占めることが報告されている。治療開始が遅れると角膜穿孔や失明に至ることもあり、若年・健康な社会活動世代に不可逆的視機能障害を生じうる疾患である。

Carntら(2023)の症例対照研究では、再利用可能なデイリーケアレンズの使用はワンデーレンズに比べてアカントアメーバ角膜炎発症リスクが約3.8倍高いことが示された(OR 3.84; 95% CI 1.75–8.43)1)。また重症炎症性合併症の頻度も高く、Carntら(2018)の194例コホートでは強膜炎が約20%、実質輪状浸潤が約15%に認められ、最終視力0.1以下・穿孔・角膜移植などの不良転帰が全体の48%に及んだ2)。コンタクトレンズ使用者における重篤な角膜感染症として公衆衛生上の課題となっている。

Q コンタクトレンズを使っていなくても発症するか?
A

CL装用者が大多数を占めるが、外傷や汚染された水への曝露を契機に非CL装用者でも発症する。インドなどでは外傷関連の症例が多い11)

アカントアメーバ角膜炎の細隙灯写真。角膜に輪状の実質浸潤と混濁を認める。
Zhong J, et al. Associated factors, diagnosis and management of Acanthamoeba keratitis in a referral Center in Southern China. BMC Ophthalmol. 2017. Figure 1. PMCID: PMC5625641. License: CC BY.
4枚の細隙灯写真で、角膜に灰白色の実質浸潤と混濁がみられる。特に上段ではアカントアメーバ角膜炎に特徴的な輪状浸潤が視認でき、主な臨床所見の説明に適している。

アカントアメーバ角膜炎の最も特徴的な症状は、臨床所見に不相応な激しい眼痛である。病変がごく軽度の段階から強い痛みを訴えるため、受診時の角膜所見が軽微であっても本疾患を除外してはならない。

  • 眼痛:初期は軽度の異物感にとどまるが、徐々に激しい疼痛へと変化する。角膜神経への侵襲(放射状角膜神経炎)が痛みの原因と考えられる。
  • 充血:強い毛様充血を伴い、初期から認められる。
  • 流涙・眼瞼腫脹:激痛に伴い高度の流涙を生じ、しばしば眼瞼腫脹を伴う。眼脂を訴えることは少ない。
  • 羞明まぶしさ:炎症の進行とともに増強する。
  • 視力低下:病変が角膜中央に進展すると顕著になる。瞳孔領に及ぶ混濁では視力0.1以下まで低下することも少なくない。

症状の経過は緩徐であり、初発から完成期まで数週間から1〜2か月を要することが多い。しかし痛みは比較的早期から目立ち、患者は我慢できずに繰り返し受診することが多い。Carntら(2018)の報告では、予後不良例における症状持続期間の中央値は37日超であり、長引く痛みを伴うCL装用者の角膜炎では本疾患を常に疑うべきである2)

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

アカントアメーバ角膜炎は緩徐に進行し、病期によって特徴的な臨床所見を呈する。角膜所見の特徴により初期・移行期・完成期の3期に分類されており、感染性角膜炎診療ガイドライン第3版でも最も特徴的な「初期」と「完成期」の所見が明示されている10)

初期

放射状角膜神経炎輪部から角膜中央へ向かう神経に沿った線状浸潤。アカントアメーバ角膜炎にきわめて特異的な所見である。

上皮・上皮下浸潤:点状・斑状・線状の混濁が集簇する。

偽樹枝状病変フルオレセイン染色で辺縁がギザギザした不整な線状病変を認める。ヘルペスの樹枝状病変(terminal bulbあり)との鑑別が重要。

毛様充血輪部浮腫角膜病変が軽くても認められる。

完成期

輪状浸潤角膜中央を中心とした横長楕円形の実質混濁。角膜上皮欠損を伴い輪状潰瘍となることもある。

円板状浸潤角膜中央に大きな横長楕円形の浮腫と混濁を呈する。

豚脂様KP・前房蓄膿:眼内に炎症が波及し、角膜後面に脂肪様沈着物を生じる。

角膜穿孔・強膜炎:最重症例で認められ、続発緑内障を併発することもある。

なお、初期と完成期の中間にあたる移行期では、上皮下から実質浅層への進展が始まり、線状・斑状混濁が連なって不整な輪を形成し始める。経過中、炎症反応は一貫して高度であり、病変は緩徐に進行する。初期から完成期に至る期間は通常1〜2か月程度であり、この間に正確な診断と治療開始ができるかどうかが予後を大きく左右する。

この3期分類のほか、「Stage 1:epitheliopathyのみ」「Stage 2:上皮欠損・神経周囲浸潤・実質浸潤を加えたもの」「Stage 3:実質輪状浸潤を伴うもの」の3段階分類も用いられており、Carntら(2018)はStage 3のring infiltrateが重症炎症性合併症(SIC)の定義の一部として予後不良と独立に関連することを示している2)。いずれの分類でも実質輪状浸潤出現前の早期診断が予後改善の鍵という点で一致する。

アカントアメーバは土壌、淡水、水道水、プール、シャワー水など至る所に存在する自由生活アメーバである。栄養体(活動形態)とシスト(二重壁を持つ休眠形態)の2つの形態をとり、シストは冷凍・加熱・放射線照射・各種薬剤に対して強い耐性を持つ。

CL装用に関連する修正可能なリスク要因は以下の通りである1)

  • 再利用可能ソフトレンズの使用:ワンデーレンズに比べ OR 3.84(95% CI 1.75–8.43)
  • ハードレンズ(RGP含む)の使用:OR 4.56(95% CI 1.03–20.19)
  • レンズの再利用(ワンデーレンズを使い回す):OR 5.41(95% CI 1.55–18.89)
  • レンズ装用中のシャワー:OR 3.29(95% CI 1.17–9.23)
  • オーバーナイト(終夜)装用:OR 3.93(95% CI 1.15–13.46)
  • 定期受診頻度の低さ:OR 10.12(95% CI 5.01–20.46)
  • 水道水でのレンズ・ケース洗浄オルソケラトロジーレンズ関連アカントアメーバ角膜炎で最も多いリスク因子3)

Carntらは、再利用ソフトレンズからワンデーレンズへ切り替えるだけでアカントアメーバ角膜炎症例の30〜62%が予防可能と推算している1)

多目的溶剤(multi-purpose solution; MPS)は最も広く使用されているCLケア用品であるが、アカントアメーバに対する消毒試験は製品の承認過程で課されておらず、その消毒効果は商品によって多少の差はあるとはいえきわめて低い。アカントアメーバの増殖には餌となる細菌が必要であるため、こすり洗いの徹底による細菌汚染の予防が感染予防の鍵となる。煮沸消毒はアカントアメーバを死滅させうるが、現代の頻回交換ソフトレンズやワンデーレンズでは実施されない。

水道水はアカントアメーバの主要供給源の一つであり、水道水でのレンズやレンズケースの洗浄は世界各国のCL関連アカントアメーバ角膜炎で共通して最大のリスクとして挙げられている。シャワー・温泉・プール・海・河川などで水に曝露された状態での装用も同様の機序で感染リスクを高める。オーストラリアや英国の症例対照研究では、「レンズを装用したままシャワーを浴びる」行為の関連OR値が一貫して上昇しており、レンズ装用者への基本的な生活指導として重要である1)

非CL装用者におけるアカントアメーバ角膜炎の発症機序は主に外傷と関連する。植物片・砂・泥・農作業時の異物など、汚染された自然環境由来の異物による角膜上皮損傷後に発症するケースがインドなど熱帯・発展途上国で報告されている。本邦でも外傷・眼異物後のアカントアメーバ角膜炎の報告は散発的にあるが、現在の主流はあくまでCL関連である。

Q ワンデーレンズなら安全か?
A

ワンデーレンズは再利用レンズに比べリスクは低い。しかし、シャワー中の装用やレンズの再利用といった行為があればリスクは上昇する1)。正しい使用法の遵守が不可欠である。

アカントアメーバ角膜炎の診断は困難であり、しばしば遅れる。ドイツのレジストリによれば、アカントアメーバ角膜炎症例の47.6%がヘルペス角膜炎と誤診されていた4)。正確な診断には臨床所見の正しい読み取りと微生物学的検査の組み合わせが不可欠である。

CL装用者で治療抵抗性の角膜炎を呈する症例では、本疾患を必ず鑑別に挙げる。問診で以下を必ず確認する。

  • コンタクトレンズの装用歴と種類:再利用ソフト・オルソケラトロジー・RGPの別、装用期間、装用時間
  • レンズケアの方法:使用ケア用品、こすり洗いの有無、ケース交換頻度
  • 水道水・水曝露歴:水道水でのレンズ洗浄、装用時のシャワー・入浴・温泉、プール・海・河川での装用
  • 症状の経過:発症時期、痛みの程度と所見との不一致、ステロイド点眼の使用歴

細隙灯顕微鏡所見による診断が重要である。病期に応じた特徴的所見(「臨床所見」の項参照)を把握し、CL装用歴や水への曝露歴と合わせて臨床的に疑うことが第一歩となる。

フルオレセイン染色所見は鑑別に有用であり、ヘルペスの樹枝状病変ではterminal bulb(末端の丸み)を形成するのに対し、アカントアメーバ角膜炎の偽樹枝状病変ではこれを欠き、隆起せず不整な線の集簇として観察される。

細隙灯顕微鏡では、病期の進行に応じて所見が時間軸で変化するため、初診時だけでなく数日〜1週間単位で繰り返し詳細に観察することが重要である。特に初期にフルオレセイン染色・ブライトライト観察・角膜知覚検査を組み合わせると診断精度が向上する。角膜知覚は放射状角膜神経炎の進行とともに低下するが、ヘルペス角膜炎と異なり病変が強い痛みを伴う点で臨床的には区別される。

主な検査法の特性を以下に示す。

検査法感度特異度
培養(大腸菌塗布非栄養寒天培地)33〜50%100%(ゴールドスタンダード)
共焦点顕微鏡(IVCM)約90%91.1〜100%
PCR(18S rRNA遺伝子)71〜84%100%
  • 培養角膜擦過検体を大腸菌(E. coli)を塗布した非栄養寒天培地に接種する。通常の細菌培地では発育しないため、専用培地の準備が必須である。確定診断のゴールドスタンダードであるが、感度は33〜50%と低い3)
  • 塗抹検鏡:きわめて有用な検査である。ファンギフローラY®染色でシスト壁を蛍光染色できる。ディフクイック™(簡易迅速染色)やグラム染色も使用される。二重壁を持つシストの確認が診断の鍵となる。
  • 共焦点顕微鏡(IVCM):非侵襲的で迅速な検査であり、高輝度の二重壁シストを直接観察できる。感度は約90%と培養を上回る3)。専門的な機器と訓練された検者を要する。
  • PCR:アカントアメーバ18S rRNA遺伝子を標的とする。アカントアメーバは通常は眼表面に存在しないため、陽性であれば病因である可能性がきわめて高い。
  • 角膜生検:培養やPCRが陰性で、病変が主に実質内にあり上皮化している場合に検討する。

専用培地や塗抹検鏡用染色は一般診療所には常備されていないことが多いため、本疾患を疑った時点で速やかに専門施設に紹介することが望ましい。

  • 単純ヘルペス角膜炎:初期の偽樹枝状病変との鑑別が最重要。ヘルペスの樹枝状潰瘍は末端に丸みを帯びたterminal bulbを形成し、境界が明瞭な隆起性病変として観察される。アカントアメーバ角膜炎の偽樹枝状病変は隆起せず、不整な線の集簇として見える。完成期の円板状角膜炎もヘルペスでは正円・境界明瞭、アカントアメーバ角膜炎では横長楕円・境界粗糙という特徴がある。
  • 真菌性角膜炎:完成期の実質病変では鑑別が難しいが、真菌症は菌糸による羽毛状の辺縁(feathery edges)衛星病巣を呈し、膿瘍形成が強いことが特徴である。アカントアメーバ角膜炎では辺縁が”ふわふわした”斑状混濁の集簇として見える。
  • 細菌性角膜炎:通常は進行が速く、48時間以内に急速悪化する点でアカントアメーバ角膜炎の緩徐な進行と異なる。CL装用者では緑膿菌・肺炎球菌などの細菌性角膜炎との混合感染も念頭に置く。
  • 帯状ヘルペス角膜三叉神経第一枝領域の皮疹の有無と既往歴で鑑別する。

複数病原体の混合感染も稀ではなく、特にCL装用者では緑膿菌などの細菌性感染とアカントアメーバの同時感染の報告がある。塗抹検鏡・培養・PCRを総合的に実施して原因微生物を特定することが重要である。臨床像がヘルペス類似でありながら抗ウイルス薬に反応しない症例、あるいは細菌性として治療開始したが改善しない症例では、速やかにアカントアメーバを含めた再評価を行う。

Q なぜ診断が遅れやすいのか?
A

初期の臨床所見がヘルペス角膜炎に類似し、偽樹枝状病変が樹枝状潰瘍と誤認されやすい。実際にアカントアメーバ角膜炎症例の約半数がヘルペスと誤診されたとの報告がある4)。CL装用者の治療抵抗性角膜炎ではアカントアメーバ角膜炎を積極的に疑い、早期に培養や共焦点顕微鏡を実施すべきである。

アカントアメーバ角膜炎の治療は困難であり、長期間を要する。アカントアメーバに保険適用のある薬剤は存在せず、治療には自家調整点眼液を使用する必要がある。日本の感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では、CQ-7「アカントアメーバ角膜炎の治療に自家調整剤点眼は推奨できるか?」に対し、**「自家調整剤点眼を強く推奨する(エビデンスレベルB)」**との推奨が示されている10)

日本における標準治療:三者併用療法

Section titled “日本における標準治療:三者併用療法”

わが国では、病巣掻爬・抗アカントアメーバ薬の局所投与・抗真菌薬の全身投与を組み合わせた三者併用療法が基本である10)。早期診断・早期治療の開始が成功の鍵とされる。

治療において最も重要な手技である。日本の感染性角膜炎ガイドラインでも、その意義が以下のように整理されている10)

  • 直接的治療効果:アカントアメーバを物理的に除去する。
  • 診断への寄与:掻爬物を検鏡・培養・PCRに供することで診断が可能になる。
  • 薬剤浸透の改善角膜上皮を除去することで点眼薬の浸透性が向上する。
  • 治療効果の判定:継続的に掻爬物を検査することで経過を評価できる。

アカントアメーバが寄生する角膜上皮は基底膜との接着が脆弱であり、一見健常に見える上皮も軽く擦過するだけで剥がれる。そのような上皮はすべて除去するのが原則である10)。掻爬の頻度は病期と所見に応じて週1〜2回程度を目安とする。

第一選択薬はビグアナイド系消毒薬であり、以下のいずれかを自家調整して使用する。これらは栄養体だけでなくシストにも効果を有する点が大きな利点であるが、組織移行性は不良であるため頻回点眼が必要となる。

  • クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)点眼 0.02〜0.05%:外用殺菌消毒剤のうち、効能・効果に「結膜囊の洗浄・消毒」を有する製品を使用する。消毒用エタノールを含有する製品は絶対に使用してはならない10)
  • PHMB(polyhexamethylene biguanide)点眼 0.02%:高品位の原液入手が困難であり、自家調整が現実的に難しい施設もある10)

英国で行われたRCT(51眼)では、0.02% PHMB単剤群(23眼中18眼=78%)と0.02% CHG単剤群(28眼中24眼=85.7%)の2週以内臨床改善率に有意差はなく、両者は同等の有効性を持つと報告されている9)10)。Cochraneレビューでも両薬剤の単剤・併用が現時点での最良のエビデンスとして整理されている13)

補助的薬剤として以下が併用されることがある。

  • プロパミジンイセチオン酸塩(Brolene®):海外から個人輸入して使用する。
  • 抗真菌薬点眼:ピマリシン5%、フルコナゾール0.2%、ミコナゾール、ボリコナゾール1%。栄養体には効果があるがシストには効果がないため、ビグアナイド系の補助として併用される10)
  • 1%ボリコナゾール点眼:インドで行われた小規模RCT(18眼)では、1%ボリコナゾール単剤と0.02% PHMB+0.02% CHG併用療法を比較し、角膜潰瘍サイズ・視力改善・治癒期間で有意差を認めなかった11)。Musayevaらの観察研究(独, 26例)では、PHMB+CHGに1%ボリコナゾールを追加した結果、全例で感染が沈静化し、補助療法として有用であったと報告されている12)

代表的な処方例は次のとおりである。

  • ヘキザック水W(0.02% CHG):1時間ごと点眼(保険適用外)
  • アトロピン点眼液 1%:1日1〜3回点眼(消炎・調節麻痺)
  • クラビット点眼液 1.5%:1日3回点眼(細菌混合感染対策)

初期の集中治療では1時間ごと(夜間も含む)の頻回点眼を行い、臨床反応に応じて段階的に減量する。典型的には、1週間程度で1時間ごとから2時間ごと、以後1か月単位で3時間ごと・4時間ごとと段階的に減量する。治療期間は数か月から半年以上にわたることがほとんどであり、急激な減量は再発を招くため避ける。

感染性角膜炎診療ガイドライン第3版のCQ-7「アカントアメーバ角膜炎の治療に自家調整剤点眼は推奨できるか?」に対するシステマティックレビューでは、保険適用のある薬物療法が存在しないことを踏まえ、益が害を上回ると判断され、「強く推奨する」(エビデンスレベルB)の結論が提示されている10)。CHG点眼は比較的安価であるが、自家調整が可能な医療機関は限られる点にも留意する必要がある。

三者併用療法を実施する際には、合併する感染症・炎症への対応も必要となる。細菌混合感染予防にはニューキノロン系点眼(レボフロキサシン1.5%等)を併用し、虹彩毛様体炎には散瞳薬(アトロピン1%)を併用する。ステロイドは原則使用しないが、どうしても強い炎症所見が持続し抗アメーバ治療が十分奏効している場合に限り、専門医判断で短期・低用量のステロイド点眼を限定的に併用することがある。ただしその適応は限定的であり、初診時や治療早期には禁忌である。

自家調整点眼液は各施設の薬剤部で院内調製されることが多く、施設ごとに濃度や保存期間のプロトコルが異なる。0.02% CHGはおよそ4週間、0.02% PHMBは2週間程度を使用期限とするのが一般的である。患者には冷所保存と使用前の振盪、使用期限厳守を説明する。

抗真菌薬の全身投与(イトラコナゾール内服など)を併用することがある。日本ガイドラインは「全身投与の有効性は明らかになっていない」としており、その効果は補助的な位置づけにとどまる10)

治療効果の判定には、病巣掻爬物の定期的な検鏡・培養・PCR、細隙灯所見による浸潤範囲の縮小、自覚症状(特に疼痛)の軽減を総合的に用いる。IVCMを定期施行することで、角膜内のシスト残存を非侵襲的に評価できる施設もある。有効治療を行えば、初期の症例では軽微な瘢痕のみで透明治癒が期待できる。逆にかなり進行した症例でも、時間をかけて治療すれば混濁を軽減でき、角膜形状変化は意外に少ないことがアカントアメーバ角膜炎の特徴である。そのため、ゆっくりでも治療効果が認められていると判断できれば、慌てて角膜移植を行う必要はない。

一方で、治療が全く奏功しない場合は、周辺にアカントアメーバが広がる前に治療的角膜移植を行わないと、最悪の場合眼球摘出を余儀なくされる可能性もある。治療開始後の重要な経過指標として、①疼痛の改善、②浸潤範囲の縮小、③角膜上皮化の進行、④炎症性合併症(前房蓄膿強膜炎・ring infiltrate)の消退、が挙げられる。これらの所見が3〜4週間経過しても改善を認めない場合は薬剤変更・外科的介入を検討する必要がある。

薬物治療に抵抗する症例や角膜穿孔を生じた症例では、外科的治療を検討する10)

  • 表層角膜切除:薬物治療に反応の悪い症例で、病巣掻爬による効果が不確実な場合に病原体ごと病巣部を除去する目的で行う。
  • 治療的角膜移植全層角膜移植術; PKP:薬物療法無効例や角膜穿孔例に対して施行する。適応・手技・術後管理は施設により異なりコンセンサスは得られていない。可能であれば炎症が沈静化した後に施行するのが望ましく、活動性感染が残存する場合は術後に抗アメーバ治療を継続する必要がある。角膜移植後の再発リスクは高く、移植片不全も報告されている8)

Carntら(2018)は194例の後方視的研究で、抗アメーバ治療開始前のステロイド使用が予後不良リスクを約4倍に高めることを報告した2)。予後不良例の25%は外来受診55回以上、経過観察58か月以上を要した。さらに34歳超、症状持続37日超、強膜炎・実質輪状浸潤の存在も独立した予後不良因子であった2)

Q ステロイド点眼は使ってよいか?
A

日本の感染性角膜炎診療ガイドライン第3版ではアカントアメーバ角膜炎に対するステロイド点眼は推奨されていない10)。治療前のステロイド使用は予後不良因子である2)。ただし、強い炎症が遷延する一部の症例では、抗アメーバ治療を十分に行った後に専門医の判断で限定的に使用される場合がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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アカントアメーバのライフサイクルには栄養体とシストの2段階がある。栄養体 trophozoite(体長20〜40μm)は偽足を持ち運動性を有し、細菌や酵母を餌として二分裂で増殖する。栄養体は角膜上皮表面のマンノシル化糖タンパクに接着して侵入を開始する。シスト cyst(直径10〜20μm)は内外二重のシスト壁を持ち、悪条件下で形成される。シストは耐乾性・耐熱性・耐薬品性を示し、冷凍・加熱・放射線照射・多くの薬物に対して強い耐性を持つ。このシストの耐性がアカントアメーバ角膜炎治療を困難にしている最大の要因である。

CL装用による角膜上皮の微小外傷がアメーバの接着・侵入を促進する。CLケア用品(多目的溶剤; MPS)には現在アカントアメーバに対する試験は課されておらず、その消毒効果はきわめて低い。ただしアカントアメーバの増殖には餌となる細菌が必要であるため、こすり洗いを徹底して一般的な細菌汚染を防ぐことが現実的な予防策となる。

感染の進行過程は以下の通りである。

  • 上皮への定着:CL装用中に生じた角膜上皮障害部位にアメーバが付着する。
  • 上皮内での増殖・移動:栄養体が上皮内を移動しながら感染巣を形成する。角膜中央部表層から感染が始まり、徐々に周辺へ拡大する。
  • 神経への侵襲角膜神経に沿って浸潤し、放射状角膜神経炎を引き起こす。サイトカイン(インターロイキン-1など)や侵害受容器の関与が示唆されている4)
  • 実質への深達:感染の進行はきわめて緩徐であり、角膜深層への進展には時間を要する。一方で炎症反応は経過を通じて一貫して高度である。

Kurbanyanらの共焦点顕微鏡を用いた研究では、活動性アカントアメーバ角膜炎において角膜神経の密度・長さ・分岐が有意に低下していることが報告されている4)。この神経変化が無痛性アカントアメーバ角膜炎の一因となる可能性がある。

オルソケラトロジー(OK)レンズに関しては、通常のRGPレンズよりもアカントアメーバ角膜炎発症リスクが高い。OKレンズ特有のリバースジオメトリーデザインが角膜上皮菲薄化と表面細胞障害を惹起し、夜間装用による角膜低酸素とリバースカーブ下の涙液プーリングが病原体のコロニー形成を促進すると考えられている3)。加えてOKレンズは装用者の多くが学童・若年者であり、水道水でのレンズ洗浄やすすぎが頻発することもリスク上昇の背景にある。

シストが多種の薬剤に耐性を持つことはすでに述べたが、その耐性は内外二重のシスト壁構造によるところが大きい。シスト壁のうち外壁(エクトシスト)は不定形タンパク質主体、内壁(エンドシスト)はセルロース様多糖を多く含み、親水性・疎水性両方の薬剤の浸透を阻害する。この構造的耐性のため、抗真菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬はシストに対しほぼ無効であり、シストにも効果を示すビグアナイド系消毒薬(CHG・PHMB)が治療の中心となる。一方でビグアナイド系消毒薬も組織浸透性が悪いため、病巣掻爬により上皮バリアを除去することが必須となる。これが日本の三者併用療法において病巣掻爬が最重要視される理論的背景である。

ホスト側の免疫応答はアカントアメーバ角膜炎の臨床像に大きく関与する。実質輪状浸潤はアカントアメーバ抗原に対する遅延型過敏反応による好中球・T細胞浸潤と考えられており、強膜炎は交感性炎症に類似した機序でアメーバ抗原あるいはT細胞クローンの強膜播種により生じると推定されている2)。Carntら(2018)はこれらの重症炎症性合併症が34歳超の年齢・治療前ステロイド使用・事前のヘルペス治療歴と独立して関連することを示しており、免疫応答の個人差が予後を左右する因子の一つであると指摘している2)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

従来の0.02% PHMBに対し、4倍濃度の0.08% PHMBを用いた単剤療法の検討が進んでいる。

Di Zazzoら(2024)は、0.02% PHMB+プロパミジン0.1%の標準療法に4〜6週間抵抗した2例に対し、0.08% PHMB単剤を世界で初めて臨床使用した5)。プロトコールは、最初の5日間は1時間ごと(日中のみ16滴/日)、以後段階的に減量する方式である。いずれの症例も15〜30日で感染が消退し、7か月以上再発は認められなかった。

ODAK試験(Dartら2024)では、PHMB 0.08%単剤療法とPHMB 0.02%+プロパミジン0.1%併用療法の治癒率がいずれも約86%であったことが報告されている5)

PACK-CXL(光線活性化クロモフォア角膜コラーゲンクロスリンキング)

Section titled “PACK-CXL(光線活性化クロモフォア角膜コラーゲンクロスリンキング)”

リボフラビンと紫外線A(UVA)を用いたクロスリンキングを感染性角膜炎に応用する手法である。

Watsonら(2022)は、最大限の薬物治療(ミルテフォシン、ボリコナゾール、PHMB、クロルヘキシジンを含む)に抵抗した難治性アカントアメーバ角膜炎の1例にPACK-CXLを施行し、4週間で疼痛が完全に消失し、10週間にわたり浸潤が縮小したことを報告した6)

ただし、in vitro・in vivo実験ではリボフラビン/UVA照射のアメーバ・シスト殺傷効果は確認されていない6)。コラーゲン安定化による組織保護やアメーバ増殖抑制、上皮デブリドマンによるアメーバ量の減少、角膜神経密度低下による除痛効果などの間接的機序が推察されている。

アルキルフォスフォコリンに分類される薬剤で、栄養体とシストの双方に活性を有する。2016年に米国FDAからアカントアメーバ角膜炎治療の孤児薬指定を受けた。標準治療に4〜6週間抵抗した難治例に対する補助療法として位置づけられている6)7)

Smithら(2022)の4症例シリーズでは、ミルテフォシンを含む多剤併用療法と角膜移植を組み合わせ、いずれの症例も最終的に病勢コントロールが得られた7)。しかし忍容性の問題(消化器症状)により途中で中止を要した症例もあった。

ミルテフォシンの主な副作用は消化器症状(悪心、嘔吐)、催奇形性、腎毒性であり、まれにStevens-Johnson症候群や重篤な血小板減少が報告されている7)。投与中は肝機能の定期的なモニタリングが必要とされる。本邦では未承認であり、個人輸入か臨床研究としての使用に限定される。今後の開発動向が注目される治療選択肢の一つである。


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