糸状菌
羽毛状潰瘍(hyphate ulcer):境界不明瞭で毛羽立った灰白色の浸潤を呈する。糸状菌感染に特徴的な所見である。
隆起性病巣:擦過すると硬い。
衛星病巣:主病巣周囲に小浸潤が散在する。
Endothelial plaque:角膜後面に円板状に付着する白色沈着物を形成する。デスメ膜を越えて前房内に進展した菌糸、あるいは深層の菌糸に対する強い免疫反応として生じる。
前房蓄膿:前房内への炎症波及を示す重症所見である。
真菌性角膜炎は、角膜に真菌が感染して生じる角膜炎の総称である。炎症を伴わず角膜内で真菌が増殖する病態も含めて「角膜真菌症(keratomycosis)」とも呼ばれるが、日本の感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では炎症を伴う通常の病態を念頭に「真菌性角膜炎」で用語を統一している1)。
真菌は形態学的に以下の2つに大別される。両者は臨床像・リスク因子・治療戦略が大きく異なる。
疫学的には、糸状菌感染は植物の表面や土壌に生息する真菌による外傷で発症するため「農村型」、酵母菌感染は眼表面疾患やステロイド点眼に関連するため「都市型」と対比される。
井上らによる多施設共同前向き観察研究(2016年、日眼会誌)は真菌性角膜炎の患者背景・臨床所見・治療・予後の現況を報告している8)。世界的には温暖な地域ほど頻度が高く、熱帯・亜熱帯地域では年間100万人以上が罹患すると推定されている7)。アジア温帯域ではアルテルナリア属が糸状菌の中でカンジダ属・フザリウム属に次ぐ第3位の分離頻度を示す1)。温帯地域ではフザリウム属以外にも Curvularia 属など希少な起炎菌が散発的に報告されている6)。
まったくリスク因子のない健常眼に真菌性角膜炎が生じることは稀で、外傷・ステロイド点眼・コンタクトレンズ装用・眼表面疾患などの契機が存在することが多い1)。
真菌性角膜炎は細菌性角膜炎に比べて進行が緩徐で、痛みが比較的軽く、広域抗菌薬に反応しないのが特徴である。糸状菌では羽毛状の境界不明瞭な浸潤を呈し、衛星病巣や endothelial plaque を認めることがある。確定診断には塗抹検鏡や培養による真菌の証明が必要で、治療には抗真菌薬を使用する。

患者が訴える症状は以下である。細菌性角膜炎に比べ進行が緩徐で、初期は自覚症状が軽いため診断の遅れにつながりやすい1)。
ごく初期には自覚症状が軽微で、わずかな上皮障害のみの場合もある。痛みが比較的軽く経過が緩徐であることは真菌性角膜炎に特徴的であり、細菌性角膜炎との鑑別の手がかりとなる1)。
糸状菌と酵母菌では細隙灯顕微鏡で観察される臨床像が大きく異なる。
糸状菌
羽毛状潰瘍(hyphate ulcer):境界不明瞭で毛羽立った灰白色の浸潤を呈する。糸状菌感染に特徴的な所見である。
隆起性病巣:擦過すると硬い。
衛星病巣:主病巣周囲に小浸潤が散在する。
Endothelial plaque:角膜後面に円板状に付着する白色沈着物を形成する。デスメ膜を越えて前房内に進展した菌糸、あるいは深層の菌糸に対する強い免疫反応として生じる。
前房蓄膿:前房内への炎症波及を示す重症所見である。
酵母菌
限局性膿瘍:境界が比較的明瞭なカラーボタン状・類円形の浸潤を呈する。
浅層限局:角膜実質浅層に限局することが多い。
融解傾向:病巣周辺に角膜実質の融解を認める。擦過すると軟らかい。
細菌性角膜炎との類似:ブドウ球菌感染と臨床的に区別しにくく、塗抹検鏡・培養による鑑別が不可欠である。
糸状菌は角膜深層に向かって進行しやすく、感染が拡大すると最終的に強い実質融解を生じて角膜穿孔に至る。一方、アルテルナリア属など低温で増殖しやすい菌種は角膜表面で面状に広がる傾向がある。ステロイド点眼が投与されていると典型的な所見が修飾され、診断が困難となるため注意を要する1)。
糸状菌で最も頻度が高く重症化しやすいのはフザリウム属であり、Fusarium solani が代表菌種である。ほかに Aspergillus 属、Alternaria 属、Paecilomyces 属(現 Purpureocillium lilacinum)、Curvularia 属などが角膜感染を起こす1)。
酵母菌では Candida 属が圧倒的に多く、Candida albicans が代表的である。近年は C. parapsilosis の分離頻度が増加しており、C. glabrata や C. krusei はフルコナゾールに感受性が低いため注意を要する1)。
糸状菌と酵母菌に共通する真菌性角膜炎のリスク因子として、発症前のステロイド点眼の使用が指摘されている1)。
植物による突き目や土壌による眼外傷は、糸状菌性角膜炎の最大のリスク因子である。初期には自覚症状が軽いため放置されやすく、診断が遅れると角膜穿孔に至ることもある。受傷後に充血・異物感・視力低下などが続く場合は早期に眼科を受診する。
広域抗菌薬に反応しない角膜潰瘍、衛星病巣の存在、大きな潰瘍に対して分泌物が少ないことは、真菌感染を疑うべき重要な所見である1)。角膜所見から糸状菌感染か酵母菌感染かを臨床的に推定し、患者背景(外傷歴・ステロイド使用歴・コンタクトレンズ装用歴・眼手術歴)を鑑別診断の参考とする。
確定診断には病巣部からの真菌の証明が必要である1)。真菌は増殖に時間を要するため、臨床的に本症が疑われた時点で培養結果を待たずに治療を開始する1)。
真菌性角膜炎は他の感染性角膜炎と鑑別を要する。特に酵母菌による病巣はブドウ球菌感染と類似するため微生物学的検査による鑑別が重要である1)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 細菌性角膜炎 | 急速な進行、膿性分泌物、広域抗菌薬に反応 |
| アカントアメーバ角膜炎 | CL装用歴、放射状角膜神経炎、輪状浸潤 |
| 角膜ヘルペス | 樹枝状病変、再発歴、角膜知覚低下 |
確定診断には角膜病巣部の擦過物から真菌を証明する必要がある。ファンギフローラY染色やGram染色による塗抹検鏡で菌糸を確認し、サブロー寒天培地などで培養する。培養には少なくとも2週間を要するため、臨床所見から疑われたら培養結果を待たずに治療を開始する。
真菌性角膜炎の治療は細菌感染に比較して反応が悪く、治療が長期にわたる。日本の感染性角膜炎診療ガイドライン第3版に基づき、抗真菌薬の局所投与・全身投与・病巣掻爬を組み合わせた多角的アプローチが推奨される1)。原因菌が確定されるまでには少なくとも1週間、発育の遅い真菌なら4週間かかることがあるため、臨床所見から本症が疑われたら直ちに治療を開始する必要がある1)。
3系統の抗真菌薬を菌種に応じて使い分ける。眼局所用の医療用医薬品として保険適用があるのはポリエン系のピマリシン(5%点眼液・1%眼軟膏)のみで、他はすべて自家調整剤が臨床に用いられている1)。
感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では、酵母様真菌(Candida 属)・Fusarium 属・Fusarium 属以外の糸状菌に分けて治療戦略を立てることが推奨されている1)。
酵母菌(カンジダ属)
第一選択:アゾール系の単独または複数薬の併用。
併用療法:アゾール系とキャンディン系の併用も推奨される。
注意点:フルコナゾール耐性株(C. glabrata、C. krusei)の増加に注意する。1%ピマリシン眼軟膏も使用可能だが、薬剤毒性による角膜上皮障害に注意する。
糸状菌
Fusarium属:ポリエン系ピマリシンが第一選択。分離頻度の高さを考慮し、当初からピマリシンを加えた処方を考慮すべきである。
Fusarium以外:ボリコナゾール1%点眼が推奨される。特にアスペルギルス属、ペシロマイセス属、スケドスポリウム属で使用を検討する。
抵抗例:ピマリシンで改善がない場合、ボリコナゾール点眼の追加を検討する。
重症例では以下の薬剤を併用する処方例が参考とされる。角膜所見により結膜下注射(項目4)を追加する。
点眼だけでなく抗真菌薬の全身投与を併用する。重症例では結膜下注射や実質内注射を併用する。消炎にはアトロピンを用い、ステロイド点眼は使用しない。細菌混合感染対策として抗菌点眼薬を併用する。
感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では、CQ-6 において「真菌性角膜炎の治療にボリコナゾール自家調整剤点眼を条件付きで推奨する」としており、推奨の強さは「弱く推奨」、エビデンスの強さは「B」である1)。
ボリコナゾール点眼の根拠となるRCTはいずれも海外(インド)で実施されており、主に糸状菌性角膜炎を対象としている1)。
これらのエビデンスより、1%ボリコナゾール点眼はFusarium属以外の糸状菌による真菌性角膜炎で治療選択肢となることが示されている。特にピマリシン不応例、特にAspergillus属の場合に使用を検討する価値がある1)。
抗真菌薬の全身投与の有効性については、明確なエビデンスがない1)。ポリエン系ピマリシンは水に溶けにくく分子量が大きいため角膜深層への移行が不良で、角膜新生血管を伴う Fusarium 属重症例ではリポソーマル化アムホテリシンBの点滴投与が薬剤移行不良を補う可能性がある1)。アゾール系であるボリコナゾールは全身投与により前房内へ薬剤が移行する1)。全身投与は副作用が多いため、起炎真菌が同定されターゲットが明確になっていることが望ましい1)。
病巣掻爬は点眼薬の組織移行を高め、菌量を物理的に減少させる効果がある1)。真菌の種類によって薬物療法の効果が異なるため、治療効果を増強させるために積極的に併用すべきである。処方例では週2回程度の掻爬が示されている。角膜の菲薄化がある場合は穿孔に注意する。アルテルナリア属のような表層型では、病巣掻爬の延長としての表層角膜切除も有効である1)。
真菌性角膜炎の治療は数週間から数か月に及ぶことがある。細菌性角膜炎に比べて薬剤に対する反応が遅く、点眼薬の角膜深層への移行が不良であるため、長期間の治療継続が必要となる。治療中は定期的な経過観察が不可欠であり、原因菌が同定された場合は薬剤感受性試験の結果に基づく処方見直しも有用である。
角膜上皮の完全性が外傷や眼表面疾患によって損なわれると、付着した真菌が組織内で増殖して感染が成立する1)。外傷以外に、糖尿病やステロイド点眼長期使用など眼表面の易感染性が存在する場合には、結膜嚢や皮膚に常在する酵母様真菌(カンジダなど)が原因となる。コンタクトレンズ装用者ではレンズケース内に増殖した環境真菌が原因となる。
角膜上皮に真菌が付着・増殖して感染が成立すると、好中球が病巣に遊走・集簇して白色の浸潤巣を形成する。組織破壊が進行して膿瘍となり、ボウマン膜を越えて潰瘍を形成する。前房内にも好中球の遊走が起こり、炎症細胞が多数となれば前房蓄膿を形成する。真菌が産生するタンパク質分解酵素・抗原・毒素が角膜内に放出され、壊死と組織構造の損傷が生じる。
糸状菌(特にフザリウム属)は菌糸が角膜深層に向かって進展しやすく、デスメ膜を破って角膜後面で拡大すると endothelial plaque を形成する。必ずしもデスメ膜を破らなくても、深層に浸潤した糸状菌に対する強い免疫反応として endothelial plaque が生じることもある。感染が拡大すると最後は強い融解を生じ、角膜穿孔に至ることもある。
一方、酵母菌は糸状菌よりも炎症を伴わない角膜真菌症の形態をとりやすい。病巣は角膜実質浅層に限局し、境界明瞭な膿瘍を形成して融解傾向を示す。
Dong らは、局所抗真菌薬に抵抗性を示す深部角膜真菌感染の2例に対し、前房内アムホテリシンB(10μg/0.1mL)の単回注射を行い、両例とも最終矯正視力20/20を達成したことを報告した2)。局所投与や全身投与では到達困難な角膜深層・前房に直接薬剤を送達できる利点がある。
抗真菌点眼薬は分子量が大きく角膜実質深層への移行が不良であるため、難治性の深層病変に対して薬剤を直接注入する角膜実質内注射が試みられている。
使用される薬剤はボリコナゾール(50μg/0.1mL)およびアムホテリシンB(5〜10μg/0.1mL)であり、手術顕微鏡下に針のベベルを下向きにして病変のない部位から斜めに刺入し、膿瘍周囲5か所に分割注射して薬剤の障壁(バラージ)を形成する手技が報告されている。実質内に注入された薬剤はデポとして貯留し、有効濃度を約7日間維持できるとされる。動物実験ではアムホテリシンBの20μg/0.1mLを超える濃度は角膜浮腫・上皮びらん・新生血管を引き起こすと報告されており、濃度管理に注意が必要である。
Ler らは、深部糸状菌感染(Penicillium属)に対し、ボリコナゾール50μg/0.1mLの実質内注射を病巣周囲に環状に行い、5日間隔で3回繰り返して治療に成功した症例を報告した3)。
ナタマイシンおよびボリコナゾール点眼に反応しなかった25例を対象とした研究では、72%がボリコナゾール実質内注射に反応した。反応しなかった症例の大部分はフザリウム属培養陽性例であった。20例を対象とした別の研究では14例が注射に反応し、平均2.65回の注射を要した。
5%ピマリシン点眼に反応しない真菌性角膜炎40例を対象としたRCTでは、1%ボリコナゾール点眼追加群とボリコナゾール実質内注射追加群を比較した結果、治癒率に有意差はなかったが、3か月後の矯正視力は点眼追加群のほうが良好であった1)。このRCTは症例数が限られるものの、実質内注射の点眼に対する優位性は示されなかった。
実質内注射は点眼・全身投与に対する補助療法であり、単独治療ではない。今後の課題として、最適な注射回数・間隔の確立、菌種別の有効性の検証(特にフザリウム属に対する効果)、他の補助療法との併用効果の検討が挙げられる。
PACK-CXL(Photoactivated Chromophore for Keratitis-Corneal Cross-linking)は、リボフラビンと紫外線A照射により角膜実質を安定化し、同時に病原体を不活化する治療法である7)。角膜架橋療法は元来円錐角膜の治療(Dresden プロトコル)として開発されたが、2008年より感染性角膜炎に対して臨床応用され、2013年に PACK-CXL の名称が採用された7)。抗生物質に依存しない作用機序を持ち、薬剤耐性菌の増加に対する新たな治療選択肢として期待されている。真菌感染に対する前臨床研究も多数報告されているが、フザリウム属など難治性真菌に対する最適なプロトコルは確立途上である7)。
Todokoro らは、Mooren 潰瘍に合併したアルテルナリア・アルテルナータ角膜炎を DNA 配列解析により菌種同定し、薬剤感受性試験でボリコナゾールの MIC が0.5μg/mLであることを確認した上で治療に成功した4)。ボリコナゾール点眼とステロイド点眼の併用下で3か月後に視力0.7に回復した。分子診断と薬剤感受性試験の併用により、個別化治療の精度が向上する可能性が示唆される。
Chen らは、羊膜移植後10日以内にフザリウム角膜炎および Sistotrema biggsiae 角膜炎を発症した2例を報告した5)。Sistotrema biggsiae のヒト感染は文献上初の報告である。羊膜移植後の感染性角膜炎の発症間隔は通常28〜347日とされており、早期発症例への注意喚起がなされた5)。
井上らは真菌性角膜炎の患者背景・臨床所見・治療・予後について多施設共同前向き観察研究を行い、日本における本症の実態を日眼会誌で報告している8)。日本における真菌性角膜炎の起炎菌分布や治療成績を示す基礎データとして重要である。