角膜・前房所見
角膜後面沈着物(KP): 肉芽腫性・非肉芽腫性・星状のいずれも呈しうる。豚脂様KPの局在に一致した局所性角膜浮腫(角膜内皮炎)が特徴的。
樹枝状角膜炎合併: 合併例では臨床診断が容易になる。
前房細胞・フレア: 前房内の炎症反応。前部硝子体に炎症細胞を認めることがあるが、眼底に病変はない。
単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus; HSV)の眼内感染により生じる前部ぶどう膜炎(角膜内皮炎・虹彩毛様体炎)である。後部ぶどう膜炎(急性網膜壊死・ARN等の網膜炎)については別疾患項目として記載されており、本項では前部ぶどう膜炎を中心に述べる。
眼感染に関連する最も一般的なサブタイプはHSV-1で、三叉神経節(trigeminal ganglion)に潜伏する。HSV-1はほぼ全人口が幼小児期に不顕性感染し、再活性化時に眼内に播種されて発症する。発症は前部ぶどう膜炎の形をとることが多く、ぶどう膜炎全体の約5〜10%を占める1)。
炎症の局在による分類:
疫学:
コンタクトレンズ使用は単純ヘルペスぶどう膜炎の特異的なリスク要因ではない。主な誘因はHSVの三叉神経節からの再活性化であり、発熱・ストレス・免疫低下・紫外線曝露などが契機となる。コンタクトレンズ使用者でも非使用者でも発症リスクに差はないと考えられている。
充血・眼痛・霧視・羞明などで発症する。眼圧上昇が著しい場合(50〜60mmHgに達することがある2))には頭痛・悪心を伴う。過去のHSVエピソードにより三叉神経が高度障害されている場合、疼痛が軽減または欠如することがある。
片眼性の豚脂様角膜後面沈着物(keratic precipitates; KP)と前房炎症細胞を主徴とする。多くで眼圧上昇を伴う。時に樹枝状角膜炎を合併し、豚脂様KPの局在に一致した角膜実質浮腫(角膜内皮炎)や虹彩・隅角の結節形成が生じる。前部硝子体に炎症細胞を認めることがあるが、眼底に病変はない。
角膜・前房所見
角膜後面沈着物(KP): 肉芽腫性・非肉芽腫性・星状のいずれも呈しうる。豚脂様KPの局在に一致した局所性角膜浮腫(角膜内皮炎)が特徴的。
樹枝状角膜炎合併: 合併例では臨床診断が容易になる。
前房細胞・フレア: 前房内の炎症反応。前部硝子体に炎症細胞を認めることがあるが、眼底に病変はない。
虹彩・眼圧所見
眼圧上昇: 50〜60mmHgに達することがある。線維柱帯炎(trabeculitis)や炎症細胞による目詰まりが原因2)。
限局性・扇状の虹彩萎縮: 約50〜59%の症例で認められる1)。病初期には存在せず、慢性化に伴い出現する。
虹彩後癒着: 再発・慢性化例で形成される。
合併症:
急性虹彩炎エピソード中に眼圧が50〜60mmHgに達することがある。通常は炎症がコントロールされれば眼圧は正常化し、継続的な抗緑内障治療は不要になる。ただし長期化・再発例では周辺虹彩前癒着による慢性二次緑内障に移行するため注意が必要である2)。
HSVは二本鎖DNAウイルスであり、初感染後に三叉神経節(眼HSVではV1分布)に潜伏感染する。眼内に潜伏感染したHSV-1の再活性化により発症する。
再活性化の誘因として以下が知られる:
HSV-1はMHC-I発現を低下させ、Fas介在アポトーシスに対する耐性を持ち、TGF-β1を分泌してIFN-γ誘導性MHC-II発現を低下させることで免疫回避を図る2)。この機序により感染眼組織でのCD4+ T細胞による免疫排除が不十分となり、慢性炎症サイクルが持続する。
COVID-19ワクチン接種後のHSV再活性化事例が報告されており、ワクチン誘導性の免疫調節(CD8+ T細胞活性化)が潜伏感染ウイルスの制御バランスを変化させる可能性が指摘されている3)。
典型的な樹枝状角膜炎が併存すれば臨床診断が可能である。そのほか以下の組み合わせでHSV性ぶどう膜炎を強く疑う:
HEDS(Herpetic Eye Disease Study)が示した診断基準が参照されている1)。
| 検査 | 特徴・留意点 |
|---|---|
| 前房水PCR(HSV DNA) | 感度91.3%・特異度98.8%2)。確定診断に有用。慢性期・治療開始後は偽陰性に注意1) |
| Goldmann-Witmer係数(Q値) | Q<1: 眼内感染なし / 1≤Q<6: 眼内感染疑い / 6≤Q: 眼内感染あり4)。発症10日以内は偽陰性に注意 |
| 多項目PCR(先進医療) | ヘルペス性角膜内皮炎・虹彩炎、ARN、CMV網膜炎、PORN疑いが対象4) |
| 血清HSV抗体 | 陰性なら原因を除外可。陽性は既感染を示すのみで診断に直接の根拠とならない |
| 眼圧測定 | 高眼圧の確認と経過観察に必須 |
Goldmann-Witmer係数(Q値)は眼内液と血清の抗体価比により眼内感染を定量的に評価する指標で、慢性期やPCR陰性例で特に有用である。算出式: Q = [眼内液中の病原体抗体価/眼内液IgG濃度] ÷ [血清中の病原体抗体価/血清IgG濃度]4)。
鑑別すべき疾患:
慢性期や抗ウイルス薬投与開始後は、ウイルスDNA量が検出限界以下になり偽陰性が生じやすい。PCR陰性の場合はGoldmann-Witmer係数(Q値)による眼内抗体率算出を追加することで診断精度が高まる。発症から10日以内は眼内での抗体産生が不十分なため、Q値も偽陰性になりやすい点に注意する。
抗ウイルス薬の局所または全身投与にステロイド点眼薬の併用を原則とする。
| 薬剤 | 用法・用量 |
|---|---|
| アシクロビル眼軟膏(ソビラックス眼軟膏 3%) | 1日5回 塗布(局所。通常は眼軟膏から開始) |
| アシクロビル(内服) | 400mg 1日5回 |
| バラシクロビル(内服) | 1,000mg 1日3回 |
| ファムシクロビル(内服) | 250mg 1日3回 |
通常は眼軟膏から開始する。眼軟膏と内服の同時保険請求は不可であり、注意が必要。内服への切り替えは効果不十分な場合に検討する。
処方例(急性期):
ベタメタゾン0.1%またはプレドニゾロン酢酸塩1%を1日4〜8回(炎症程度に応じて調整)。全身ステロイドはHSV再活性化リスクがあり、前部ぶどう膜炎単独では通常推奨されない。炎症消退後のステロイド漸減は緩やかに行い、慢性例では長期低用量維持が必要になることがある。
βブロッカー・炭酸脱水酵素阻害薬点眼を用いる。プロスタグランジン関連薬はHSV再活性化リスクがあり、角膜上皮炎合併例では慎重な経過観察が必要。眼圧上昇が著明な場合は炭酸脱水酵素阻害薬の内服も考慮する。
HEDS試験ではアシクロビルの予防内服が12か月間のHSV眼疾患再発率をほぼ半減させることを報告した1)。推奨用量:
ぶどう膜炎エピソード後少なくとも2年間、場合により生涯の予防内服を推奨する報告がある1)。再発を繰り返す症例では特に予防療法の継続が重要となる。
長期ステロイド使用後の不可逆的眼圧上昇例には、十分な抗ウイルス治療・ステロイド治療ののちに線維柱帯切除術を行う。
軽症の場合は局所ステロイドと散瞳薬で管理できることがあるが、高眼圧を伴う中等症〜重症例では全身抗ウイルス薬の追加が推奨される。全身ステロイドはHSVを活性化させるリスクがあるため、前部ぶどう膜炎単独での使用は慎重に判断する。
眼内に潜伏感染したHSV-1の再活性化により生じる。HSV-1は三叉神経節に潜伏感染し、感覚神経枝(三叉神経第1枝)に沿って眼組織へ移行する。
再活性化の際、ウイルスはMHC-I発現を低下させ、Fas介在アポトーシスへの耐性を発揮し、TGF-β1を分泌してIFN-γ誘導性MHC-II発現を抑制する。これによりCD4+ T細胞の活性化が減少し、免疫回避が促進される2)。
炎症メカニズムの分類:
眼圧上昇の機序:
線維柱帯炎(trabeculitis)と炎症細胞による線維柱帯の目詰まりが主要機序。ウイルスが線維柱帯細胞に直接感染し、房水排出路の機能障害を生じさせる可能性もある。急性期の高眼圧は通常炎症消退とともに改善する。
房水中のサイトカイン・ケモカインプロファイル:
高眼圧性前部ぶどう膜炎の慢性期(炎症活動期)の房水では、IL-1RA(IL-1受容体拮抗物質)が最も高値を示し(約1,000pg/mL)、MCP-1・IP-10も持続して高値であった2)。MCP-1は単球走化性タンパクで炎症性疾患の病態に重要な役割を担い、そのレベルは増殖性硝子体網膜症など続発合併症のリスクとも関連する2)。またIL-8・IL-18も上昇が認められ、多様なサイトカインが複合的に炎症持続に関与している。
予後:
多くは抗ウイルス薬とステロイドによる治療に良好に反応する。ただし再発・遷延症例が一定数存在し、長期管理が必要。長期ステロイド使用による不可逆的眼圧上昇をきたした症例には線維柱帯切除術が必要になることがある。
Nguyenら(2024)は高眼圧性前部ぶどう膜炎の房水サイトカイン解析を行い、IL-1RA・MCP-1・IP-10・IL-8・IL-18が高値であることを報告した2)。機械学習モデルを組み合わせた眼内炎症の病因診断への応用研究が進んでおり、HSV・VZV・CMVの鑑別において診断精度の向上が期待されている。
Ortiz-Egeaら(2022)はPfizer-BioNTech COVID-19ワクチン接種後72時間以内にHSVによる角膜ぶどう膜炎を発症した2例を報告した3)。ワクチンのCD8+ T細胞活性化が眼組織に到達して炎症を惹起する機序、および正常な免疫監視の「注意散漫」によるヘルペス再活性化が考察されている。今後のmRNAワクチン普及に伴い、ワクチン接種後の眼症状への注意が必要とされている。