抗炎症薬
副腎皮質ステロイド点眼:1%酢酸プレドニゾロンを1日4回が標準。炎症レベルが低いため高頻度投与は不要。
散瞳薬:通常は不要。虹彩後癒着を形成しない疾患である。
ポスナー・シュロスマン症候群(Posner-Schlossman syndrome: PSS)は、片眼性・再発性に急激な眼圧上昇を伴う虹彩炎で、原因不明の疾患である。緑内障睫状体炎発作(glaucomatocyclitic crisis)とも呼ばれる。1948年にPosnerとSchlossmanが9例の症例を最初に報告し、「緑内障睫状体炎発作」の用語を提唱した7)。
眼圧上昇を伴う片眼性再発性の虹彩毛様体炎であり、急激な高眼圧(40〜60 mmHg)の発作を繰り返す。発症年齢は20〜50歳代に多い。炎症と眼圧上昇は同時にみられるが、発作は数日で寛解することが多い。発作間隔は数か月から1〜2年であり、寛解期には前房炎症も眼圧上昇も認めない。
最大の臨床的特徴は、前房炎症の程度が軽微であるにもかかわらず、眼圧が40〜60 mmHg以上にまで急激に上昇する点にある。この「炎症と眼圧の不均衡」がPSSの診断における最重要の手がかりとなる。角膜浮腫も眼圧上昇の割にごく軽度であることが多く、角膜内皮障害を伴わないことから、従来は「予後良好な疾患」と位置付けられてきた。しかし近年の長期追跡研究では、繰り返す発作による続発緑内障や角膜内皮細胞の進行性減少が明らかとなり、良性疾患という認識は見直されつつある。
ぶどう膜炎の全国疫学調査(3060例)では、PSSは57例(1.9%)および69例(1.8%)を占め、ぶどう膜炎全体のなかで比較的頻度の高い疾患として上位10疾患に位置する1)。やや男性に多く、人種差やHLA関連は明確ではないが、日本人コホートでHLA-Bw54との関連が41%に報告されている6)。フィンランドの人口統計研究では罹患率が10万人あたり0.4人、有病率が1.9人と報告されている。通常は20〜50歳代の成人に発症するが、13歳の症例報告もあり、若年発症例も存在する。
PSSとPOAG(原発開放隅角緑内障)の併発は最大45%に達するとの報告がある。発作間欠期においても患眼の眼圧がやや高値を維持し、対側眼でも眼圧上昇がみられる症例が存在することから、PSSの背景にPOAGが潜在している可能性が指摘されている。
近年、患者前房水からサイトメガロウイルス(CMV)が検出されるという報告が蓄積されており、CMV虹彩炎と同一あるいは一部オーバーラップする疾患ではないかという考えが広まっている。前房炎症が軽度で眼圧上昇を伴うことなど、両者には共通点が多い。CMV前部ぶどう膜炎の有病率が高い地域では、ウイルス性前部ぶどう膜炎の最大66%をCMVが占めるとされ11)、PSS表現型を呈する患者の約50%にCMV陽性が認められる報告もある。
根治は困難であり、数か月〜数年の間隔で発作を繰り返す経過をたどることが多い。ただし、発作の頻度は加齢とともに減少する傾向がある。各発作自体は数日で自然寛解し、適切な治療により後遺症なく回復する例が大半である。一方、長期に発作を繰り返すと緑内障性の視神経障害を来すことがあるため、定期的な経過観察が不可欠である。
発作時の自覚症状は比較的軽微であることが多い。
経過は多様であり、生涯に1〜2回しかエピソードを経験しない患者もいれば、何度も再発を繰り返す患者もいる。発作の頻度は加齢とともに減少することが多い。発作に先行する誘因や前兆は通常認めない。
代表症例として、40歳男性が右眼の霧視のみを主訴に「緑内障の疑い」として紹介され、65 mmHgの著しい高眼圧を呈していたことが報告されている1)。毛様充血や角膜内皮浮腫の所見はなく、軽度の前房細胞がみられた。隅角は健眼に比べ患眼の色素が減少しており、眼底や硝子体に異常所見はなかった。ステロイド点眼薬、眼圧降下薬、炭酸脱水酵素阻害薬内服を開始し、3日後には眼圧正常化、眼内炎症もほぼ消失した。しかし4か月後に同様の発作を再発している1)。
前房炎症の程度に対して眼圧上昇が不釣り合いに高いことが最大の臨床的特徴である。
長期に発作を繰り返し、炎症や眼圧上昇が慢性化すると視神経乳頭陥凹が拡大し、緑内障性視野障害がみられる1)。
PSSの正確な病因は不明である。サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、その他の感染症が病因として報告されているが、確定には至っていない。
提唱されている病因仮説には以下がある。
特発性PSSとウイルス性PSSを区別することは治療方針に直結するため、臨床的に重要である。CMV陽性例では抗ウイルス療法の追加が必要となり、長期予後も異なる可能性がある。
前房水を採取し、PCR検査でCMV-DNAの有無を調べることで鑑別する1)。CMV陽性であれば抗ウイルス薬(ガンシクロビルやバルガンシクロビル)を治療に追加する判断材料となる。PCR陰性であっても偽陰性の可能性があるため、臨床経過を含めた総合的な判断が必要となる。検査にあたっては、前房穿刺(房水の採取)が必要である。
PSSの明確な診断基準は確立されていない。1948年のPosnerとSchlossmanによる最初の報告の定義が参考にされることが多い7)。
片眼性で、発作性の高眼圧、散在性で白色の色素を伴わない角膜後面沈着物、開放隅角、隅角の色素脱失、および軽度の前房内細胞がみられる場合に本症を考える1)。
臨床的に重視される三徴は以下のとおりである。
片眼性・高眼圧を伴う虹彩炎を呈する以下の疾患との鑑別が重要である1)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 原発開放隅角緑内障(POAG) | KP・前房内細胞なし。40 mmHg以上の発作性高眼圧はまれ |
| VZV虹彩毛様体炎 | 限局性虹彩萎縮・麻痺性散瞳がみられる |
| CMV虹彩毛様体炎 | 所見的にPSSと区別困難。PCRでCMV-DNA検出により鑑別 |
| サルコイドーシス | 両眼性が多い。全身所見、特徴的な硝子体混濁・眼底所見 |
| Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎 | 虹彩異色、びまん性萎縮、隅角新生血管 |
| ステロイドレスポンダー | ステロイド使用歴。KP・前房細胞なし |
原発開放隅角緑内障との鑑別は臨床的に難しいことがあるが、PSSでは角膜後面沈着物と前房内細胞がみられ、POAGでは40 mmHg以上の発作性高眼圧がまれである点が鑑別の手がかりとなる1)。PSSとPOAGの併発は最大45%と報告されており、両疾患が共存する可能性にも注意が必要である。
治療の原則は、炎症の鎮静化と眼圧のコントロールである。自然緩解傾向があるため、必要以上の治療は行わない1)。
抗炎症薬
副腎皮質ステロイド点眼:1%酢酸プレドニゾロンを1日4回が標準。炎症レベルが低いため高頻度投与は不要。
散瞳薬:通常は不要。虹彩後癒着を形成しない疾患である。
眼圧降下薬
避けるべき薬剤
ピロカルピン:線維柱帯炎を悪化させる可能性があるため使用を避ける4)。
プロスタグランジン製剤:炎症の増悪やCMV前部ぶどう膜炎の誘発が懸念されるため、炎症活動期には慎重に使用する4)。
炎症と眼圧のコントロールが重要であり、副腎皮質ステロイド薬の点眼と、β遮断薬点眼、炭酸脱水酵素阻害薬の点眼か内服を行う。高眼圧が持続して薬物治療に反応しない場合には手術治療を行う。寛解期は無治療でよい。
寛解期にステロイド点眼を継続する必要はない1)。一過性の経過をとることが多いため、通常は長期の治療を必要としない。
前房水PCRでCMV-DNAが検出された場合は、抗ウイルス薬の追加を検討する。
国際的なデリファイ調査(TITAN Report 2)では以下のコンセンサスが得られている4)。
ステロイド点眼(1%酢酸プレドニゾロン、1日4回、1〜2週間)は抗ウイルス薬投与下で使用し、臨床反応に応じて最長12か月かけて漸減する4)。全身ステロイドや眼周囲ステロイドは避けるべきとされる(88%合意)4)。
システマティックレビューでは、急性高眼圧型CMV前部ぶどう膜炎に対して0.15%ガンシクロビル点眼ゲルを1日5回以上、2週間以上使用する治療レジメンが提示されている10)。
Suら(2014)はCMV陽性のPSS患者を対象に局所ガンシクロビル治療の有効性を検討し、臨床的改善が得られたことを報告した9)。
β遮断薬(チモロール等)の点眼を第一選択とし、炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド点眼またはアセタゾラミド内服)を併用する。副腎皮質ステロイド点眼(1%酢酸プレドニゾロン 1日4回)で前房炎症を鎮静化させる。ピロカルピンは線維柱帯炎を悪化させる恐れがあるため使用を避ける。多くの場合、数日以内に眼圧は正常化する。
最大用量の薬物療法を用いても眼圧がコントロールできない場合、および緑内障性の視神経障害や視野変化の兆候が現れた場合に手術適応となる。術式としては線維柱帯切除術(代謝拮抗薬併用)やチューブシャント手術が行われる2)。レーザー線維柱帯形成術は無効なことが多い2)。
発作を繰り返し緑内障性の視野変化を呈する場合、または薬物療法で眼圧コントロールが不十分な場合に手術適応となる。
PSSの病態生理は未解明な部分が多い。眼圧上昇の直接的な機序としては、以下の2つが提唱されている。
線維柱帯切除術を受けたPSS患者の術中標本では、線維柱帯に長い偽足をもつ単核細胞が介在し、房水の流出を物理的に妨げている可能性が示された3)。炎症細胞による線維柱帯の閉塞(trabeculitis)がPSSにおける眼圧上昇の主要な機序と考えられている。
発作中の房水からプロスタグランジンE2(PGE2)が高濃度に検出され、PGE2レベルと眼圧は正の相関を示す3)。PGE2による毛様体上皮からの房水分泌亢進が、流出抵抗増大と相まって急激な眼圧上昇を引き起こすと考えられている。
CMVはPSS類似の急性高眼圧型、またはFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎類似の慢性型として前部ぶどう膜炎を呈しうる4)。ウイルスの前眼部における活性化、あるいはウイルスに対するマクロファージなどの局所免疫応答が虹彩・線維柱帯の炎症を惹起すると推定されている。定量PCRによるCMV関与のエビデンスが蓄積されている8)。
CMV前部ぶどう膜炎の有病率には地域差があり、ウイルス性前部ぶどう膜炎の最大66%をCMVが占める地域もある11)。免疫正常者においてもCMVは前眼部に潜伏感染し、再活性化により炎症を引き起こしうる4)。
視神経乳頭の形態と血流についても研究が進んでいる。ハイデルベルク網膜断層計(HRT)による測定では、発作中に陥凹容積と面積が一過性に増加するが、発作前後の測定値は同等である。血流計測では、発作中に視神経灌流の低下が認められることがあり、特に乳頭周囲の耳側・鼻側セクターで顕著である。
Schulteら(2023)は、26歳女性にPSS発作に続発したNAIONが発生した症例を報告した5)。急激な眼圧上昇(38 mmHg)による視神経乳頭灌流の低下が虚血・腫脹・梗塞を引き起こしたと推定された。小さな乳頭陥凹比(“disc at risk”)がリスク因子として挙げられた。PSSにおける予防的眼圧降下薬の使用がNAION発生率を低下させる可能性が示唆されている。
ぶどう膜炎命名標準化(SUN)ワーキンググループは2021年にCMV前部ぶどう膜炎の分類基準を公表し、研究目的では房水PCR陽性を必須要件としている。臨床診断基準としてはより感度重視のアプローチが検討されている4)。
CMV陽性PSS患者において、抗ウイルス薬の長期維持療法(最長12か月)の有効性が検討されている。国際コンセンサス(TITAN Report 2)では、年2回以上の再発例に対して88%の専門家が長期維持抗ウイルス薬の使用を支持している4)。ただしガンシクロビルはvirostatic(ウイルスの増殖を抑制するが排除はしない)であるため、投薬中止後の再発が問題となる。薬剤耐性CMV株の出現も懸念されている。
PSSは長い間「良性」の疾患と認識されてきたが、近年の長期フォローアップ研究では、発作を繰り返す患者の約1/4に緑内障性視神経症が発症し、進行性の角膜内皮細胞減少も重要な構造的合併症として報告されている。角膜内皮の障害は発作回数および罹患期間と相関する可能性がある。スペキュラーマイクロスコピーによる経時的な角膜内皮細胞密度の評価が推奨されつつある。
CMV陽性例では角膜内皮障害がより顕著である可能性が指摘されており、CMV前部ぶどう膜炎におけるcoin lesion型の角膜後面沈着物は内皮障害と関連する。TITAN Report 2の調査では、42.7%の専門家が「角膜浮腫が持続する場合は、眼内炎症と眼圧が正常化していても治療を継続する」と回答しており、角膜内皮代償不全が単回の発作後であっても生じうることが指摘されている4)。眼圧の正常化(77%)と前房炎症所見の消退(96%)が治療効果の主要な判定基準とされるが、角膜内皮の長期的モニタリングも予後管理上重要な位置を占める4)。