この疾患の要点
ぶどう膜炎 患者の約20%に緑内障 が合併する1)
ウイルス関連前部ぶどう膜炎 では10〜40%が続発緑内障 を発症する
HS V・CMV・VZV・風疹が代表的なウイルス原因であり、急性眼圧 上昇を引き起こす2)
梅毒による間質性角膜 炎患者の20%が続発緑内障 を発症する1)
治療は抗微生物薬と抗炎症薬による原疾患治療に加え、抗緑内障 薬を併用する
レーザー線維柱帯形成術 は急性炎症期には避ける2)
感染症に伴う緑内障は、病原微生物(ウイルス・細菌・寄生虫・プリオン)の感染により引き起こされる続発緑内障 である。多くの場合、感染に伴うぶどう膜炎 が房水 流出路の障害を引き起こし、眼圧 上昇から緑内障 へと進行する。
炎症性緑内障 (ぶどう膜炎 性緑内障 )は、眼内炎 症が持続的または再発性の眼圧 上昇を引き起こし、視神経乳頭陥凹 の進行と網膜神経線維層 の喪失を生じる病態である1) 。ぶどう膜炎 患者の約20%に緑内障 が合併する1) 。
ウイルス関連の前部ぶどう膜炎 患者では10〜40%が続発緑内障 を発症すると報告されている。急性眼圧 上昇はPosner-Schlossman症候群 やHS V・VZV・CMV感染に特徴的であり、慢性眼圧 上昇はFuchs虹彩 異色性虹彩 毛様体 炎、サルコイドーシス 、梅毒などに特徴的である2) 3) 。
Q
感染症に伴う緑内障はどのくらいの頻度で発症するのか?
A
ぶどう膜炎 患者全体の約20%に緑内障 が合併する。ウイルス関連の前部ぶどう膜炎 に限ると10〜40%が続発緑内障 を発症する。特にヘルペス性角膜 ぶどう膜炎 では28%に眼圧 上昇、10%に緑内障 性損傷が認められる。
急性の眼圧 上昇では眼痛 、霧視 、虹視症、充血 を自覚する4) 。慢性のぶどう膜炎 に伴う緑内障 では自覚症状に乏しく、視野障害が進行するまで気づかないことがある。ヘルペス性角膜 ぶどう膜炎 では羞明 も生じる。
ウイルス性感染の眼所見
角膜 後面沈着物(KP) :ヘルペスウイルス感染では突起のある特徴的なKPを認める。Fuchs虹彩 異色性虹彩 毛様体 炎では角膜 後面全体に散在する白色星状KPがみられる。
前房 炎症 :フレア・細胞を認める。CMV感染では30 mmHgを超える急激な眼圧 上昇を生じることがある。
虹彩 所見 :虹彩 萎縮、結節、虹彩後癒着 を認めることがある。Posner-Schlossman症候群 では虹彩後癒着 を形成しない。
隅角 所見 :開放隅角 が多いが、周辺虹彩前癒着 や虹彩後癒着 による閉塞隅角 も生じうる1) 。
細菌性・寄生虫性感染の眼所見
梅毒性間質性角膜 炎 :深部角膜 間質の血管新生と混濁を認める。隅角 は開放隅角 で不均一な色素沈着と「汚れた外観」を呈する1) 。
結核性ぶどう膜炎 :肉芽腫性の前部ぶどう膜炎 を呈し、豚脂様KPや隅角 結節を認める。癒着性隅角 閉塞を伴うことがある。
リステリア眼内炎 :暗色の前房蓄膿 が特徴的である。眼圧 上昇は炎症・虹彩 壊死・色素散乱に起因する。
アカントアメーバ角膜炎 :線維柱帯 の慢性炎症により癒着と隅角 閉塞を生じる。
ヘルペス性角膜 ぶどう膜炎 では28%に眼圧 上昇を認め、10%に緑内障 性損傷が報告されている1) 。眼圧 上昇の持続期間は平均2か月である1) 。
感染症に伴う緑内障の原因病原体は多岐にわたる。
病原体分類 主な病原体 緑内障 発症機序ウイルス HS V・CMV・VZV線維柱帯 炎・TM損傷ウイルス 風疹 前部ぶどう膜炎 細菌 梅毒トレポネーマ 間質性角膜 炎→隅角 閉塞 細菌 結核菌 肉芽腫性ぶどう膜炎 寄生虫 アカントアメーバ TM慢性炎症→癒着
HS V・CMV・VZVはヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスであり、前部ぶどう膜炎 から続発緑内障 を引き起こす。CMVは30 mmHgを超える眼圧 上昇の原因として確立されており、眼圧 スパイクの回数が慢性緑内障 への移行の重要な指標となる。Posner-Schlossman症候群 の原因としてCMVやHS Vの関与が報告されている。
アデノウイルスは流行性角結膜炎 の原因となるが、緑内障 との関連は稀である。動物モデルでは房水 流出能の低下が示されている。
梅毒では15%に間質性角膜 炎が生じ、そのうち20%が続発緑内障 を発症する1) 。開放隅角 型が多く、隅角 は「汚れた外観」を呈し、抗緑内障 薬への反応が不良である1) 。
H. pylori感染は、炎症・血管活性因子の放出・酸化ストレス を介した線維柱帯 機能不全により、正常眼圧緑内障 を含む開放隅角緑内障 との関連が指摘されている。
結核菌は慢性前部ぶどう膜炎 から癒着性隅角 閉塞や瞳孔ブロック を生じる。らい菌も眼内炎 症による続発閉塞隅角緑内障 と関連する。
アカントアメーバ角膜炎 では線維柱帯 の慢性炎症から癒着と隅角 閉塞を生じる。顎口虫は前房 内に侵入し急性前部ぶどう膜炎 を引き起こす。
プリオン病では正常タンパク質PrPCの構造変化により細胞外マトリックスが不安定化し、線維柱帯 の抵抗増大から開放隅角緑内障 を生じる。
予防・日常のケア
ヘルペスウイルス感染後に眼痛 ・充血 ・霧視 がある場合は速やかに眼科を受診してください
コンタクトレンズの適切な管理はアカントアメーバ角膜炎 の予防に重要です
結核やHIVなどの全身感染症がある場合は、定期的な眼科検診をお勧めします
Q
どのウイルスが最も緑内障を引き起こしやすいのか?
A
CMVは続発緑内障 の原因として最も確立されており、30 mmHgを超える急激な眼圧 上昇を引き起こす。HS VやVZVも急性眼圧 上昇の原因となる。ヘルペス性角膜 ぶどう膜炎 では28%に眼圧 上昇が認められている。
眼圧測定 、前眼部検査、隅角検査 が基本となる。ぶどう膜炎 による緑内障 では隅角検査 による周辺虹彩前癒着 の評価と閉塞隅角 の程度判定が治療方針の決定に不可欠である1) 。
KPの性状による原因鑑別が重要である。豚脂様KPは肉芽腫性ぶどう膜炎 (サルコイドーシス 、結核、ヘルペス感染)を示唆し、微塵様KPは非肉芽腫性ぶどう膜炎 を示唆する。突起のあるKPはヘルペス性虹彩炎 などの感染性ぶどう膜炎 を疑う所見である。
ウイルス感染が疑われる場合には房水 分析が推奨される2) 。前房穿刺 によりPCR検査や抗体検査を行い、HS V・CMV・VZVなどの原因ウイルスを同定する。ウイルスの確認・除外は適切な抗ウイルス治療の開始に必要である2) 。
眼圧 上昇が診断時に存在する場合は、炎症が眼圧 上昇に寄与している可能性が高い1) 。ステロイド 誘発性緑内障 との鑑別には、慎重な経過観察と治療歴の確認が重要である1) 。
感染症に伴う緑内障の治療は、原疾患の治療と眼圧 コントロールの両立が原則である。
ウイルス感染が疑われるまたは房水 分析で確認された場合は、全身的な抗ウイルス治療を行う2) 。細菌感染には適切な抗菌薬を使用する。抗炎症治療としてステロイド 点眼・散瞳薬 を併用し、炎症のコントロールを最優先する1) 。
降圧点眼薬としてβ遮断薬 および炭酸脱水酵素阻害薬 が第一選択となる2) 。プロスタグランジン関連薬 は炎症がコントロールされた眼に使用可能であるが、炎症を惹起する可能性があるため注意が必要である2) 。
点眼・内服で眼圧 コントロールが得られない場合は手術を検討する4) 。
レーザー線維柱帯形成術 は急性炎症期には避ける2) 3) 。ぶどう膜炎 に伴う続発緑内障 では線維柱帯切開術 が有効であり、特にステロイド緑内障 に有効である。線維柱帯切開術 で眼圧 下降が不十分な場合は濾過手術 を行う。チューブシャント 手術も選択肢となる1) 。
注意点
抗炎症治療と抗緑内障 治療を同時に行う必要があり、ぶどう膜炎 専門医との連携が推奨されます2)
ステロイド 薬自体が眼圧 上昇の原因となりうるため、定期的な眼圧 モニタリングが必須です
梅毒性間質性角膜 炎に伴う緑内障 は抗緑内障 薬への反応が不良であり、手術が必要となることが多いです1)
Q
感染症に伴う緑内障と通常の緑内障で治療は異なるのか?
A
最も大きな違いは原疾患(感染症)の治療を同時に行う必要がある点である。抗ウイルス薬や抗菌薬による感染コントロールと、ステロイド による炎症の鎮静が優先される。眼圧 降下薬の選択でもβ遮断薬 ・炭酸脱水酵素阻害薬 が第一選択となり、プロスタグランジン関連薬 は炎症コントロール後に使用する。レーザー線維柱帯形成術 は急性期に避ける点も異なる。
感染に伴う眼内炎 症が開放隅角緑内障 を引き起こす主要機序は以下の通りである1) 。
線維柱帯 閉塞が最も多い機序であり、血液房水 関門(BAB)の破綻により炎症細胞が房水 中に侵入し、房水 流出路に捕捉される1) 。線維柱帯 層板の浮腫と内皮細胞の変化は物理的に小柱間隙を狭窄させ、最終的に永続的な損傷と瘢痕形成に至る1) 。
BAB破綻に伴う房水 蛋白濃度の上昇は房水 粘性を増加させ、流出抵抗を高める1) 。
線維柱帯 炎はPosner-Schlossman症候群 やウイルス性角膜 ぶどう膜炎 で提唱されており、前眼部の炎症所見に比して不釣り合いに高い眼圧 上昇を説明する機序である2) 。
房水 中の炎症細胞と蛋白が虹彩 ・水晶体 間の癒着(虹彩後癒着 )を形成し、瞳孔ブロック からiris bombé、さらに周辺虹彩前癒着 形成に至る1) 。続いて隅角 の血管新生とその線維血管性閉塞が生じることもある1) 。
結核やらい菌感染では肉芽腫性炎症による癒着性隅角 閉塞が主要機序となる。
プリオン(PrPSc)は正常なPrPCタンパク質の構造変化を引き起こす。この構造変化により細胞外マトリックスが不安定化し、線維柱帯 の流出抵抗が増大する。結果として房水 排出が減少し、眼圧 上昇から視神経 変性に至る。
CMVは線維柱帯 を直接損傷するほか、感染中に生じるフィブリンや炎症細胞が房水 粘性を上昇させる。感染中の眼圧 スパイクの回数が蓄積的な線維柱帯 損傷の程度と慢性緑内障 への移行リスクを反映する。
近年の研究では、細菌(黄色ブドウ球菌やカンジダ・アルビカンスなど)が網膜 血管内皮細胞への接着を増加させ、トランスサイトーシスを介して神経網膜 に到達し、外側血液網膜関門 を障害することが示されている。3次元モデル(RPE 、ブルッフ膜 、脈絡膜 を統合したモデル)による研究が今後の課題である。
血液網膜関門 の破綻が自己免疫性ぶどう膜炎 の発症と密接に関連していることが示されている。眼内の自己抗原への免疫応答が制御不能となることで慢性炎症が持続し、続発緑内障 に至る経路の解明が進められている。
SonamA Bodh, Vasu Kumar, UshaK Raina, B Ghosh, Meenakshi Thakar. Inflammatory glaucoma. Oman J Ophthalmol. 2011;4(1):3. doi:10.4103/0974-620x.77655.
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日本緑内障 学会緑内障 診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障 診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
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