コンテンツにスキップ
緑内障

色素緑内障・色素散乱症候群

1. 色素緑内障・色素散乱症候群とは

Section titled “1. 色素緑内障・色素散乱症候群とは”

色素散乱症候群(PDS)と色素緑内障(PG)は同一疾患のスペクトラムを構成する2)

  • PDS:両眼性の虹彩色素散布を特徴とし、眼圧上昇を伴うことがある
  • PGPDS緑内障視神経症を伴ったもの

PGは全緑内障の1〜1.5%を占める2)。白人の近視男性に好発し、30〜50歳での診断が典型的である2)3)PDS患者がPGに進行するリスクは診療所ベースの報告で10〜50%とされるが、眼圧上昇のあるPDS患者に偏った集団である可能性がある2)3)。地域ベースの研究では5年で約10%、15年で約15%のPG転換率が報告されている。

Q PDSとPGはどう違いますか?
A

PDS虹彩色素の散布と前眼部への色素沈着を特徴とする状態であり、眼圧が正常でも上昇していても診断される。PGはPDSの所見に加えて緑内障性の視神経乳頭陥凹拡大や視野欠損を伴ったものである2)。すなわちPDS緑内障の前段階であり、すべてのPDS患者がPGに進行するわけではない。

色素散乱症候群・色素緑内障でみられるKrukenberg spindleのスリットランプ写真
Bhallil S, et al. Pigment dispersion syndrome: An atypical presentation. Oman J Ophthalmol. 2010. Figure 1. PMCID: PMC2886225. License: CC BY.
スリットランプ写真で、角膜内皮に縦紡錘状に集まる微細な色素沈着がみられる。Krukenberg spindleを示す代表的所見であり、色素散乱症候群・色素緑内障の臨床所見の説明に適する。

PDSは多くの場合無症状である。運動後や散瞳時の眼圧スパイクによる一過性の霧視が特徴的な症状である2)3)。光輪(ハロー)がみられることもある。視野欠損が自覚されるのはPGが進行した段階である。運動に伴って霧視を自覚する症例では、運動直後に隅角眼圧を確認することが診断の手がかりとなる。

前眼部の三徴

Krukenberg紡錘体角膜内皮中央部に垂直方向に沈着した紡錘状の色素。対流により垂直配向する。PDS/PG患者の約90%に認められるが、病的特異的ではない2)3)

虹彩中間周辺部の透照欠損:車輪のスポーク状(放射状)のパターンを呈する。虹彩色素上皮と水晶体チン小帯の接触が最大となる部位に一致する2)3)

線維柱帯の高度色素沈着隅角鏡検査線維柱帯が均一な濃褐色を呈する2)3)

その他の所見

Scheie線(Zentmayer輪)水晶体後嚢のチン小帯付着部沿いの色素沈着2)3)

深い前房:周辺虹彩の後方湾曲(逆瞳孔ブロック)を伴う2)3)

色素逆転徴候:高齢者の「燃え尽きた」PGで上方の線維柱帯色素沈着が下方より強い

不同瞳孔虹彩異色:左右差がある症例で色素消失側の瞳孔が大きくなることがある

メラニン色素は虹彩色素上皮から放出される2)3)水晶体チン小帯虹彩後面の摩擦が原因である。「逆瞳孔ブロック」と呼ばれる虹彩の後方湾曲が多くのPDS/PG眼で認められる2)3)

瞬目により房水が後房から前房へ押し出され、前房圧が後房圧を上回る圧力勾配が生じる。この結果、虹彩が後方に凹状化し水晶体との接触範囲が広がる。散瞳・調節・激しい運動も色素放出を促進する。

因子詳細
性別男性に好発(男女比2:1〜5:1)
屈折中等度近視(-3〜-4 D)が最多
人種白人に多い

発症年齢は男性で30代、女性では約10年遅れる。扁平角膜・凹状虹彩・後方虹彩付着部も関連因子である。不完全浸透を伴う常染色体優性遺伝が示唆されており、GPDS1座位(7q35-q36)が連鎖解析で同定されている。

Q 逆瞳孔ブロックとはどのような状態ですか?
A

通常の瞳孔ブロックでは後房圧が前房圧を上回り虹彩が前方に膨隆する。逆瞳孔ブロックはその逆で、瞬目などにより前房圧が後房圧を上回り虹彩が後方に凹状化する状態である2)3)。この虹彩の後方湾曲により虹彩後面と水晶体チン小帯の接触が増加し、虹彩色素上皮からの色素放出が生じる。レーザー虹彩切開術により前後房の圧力差を解消できる可能性がある1)

PDSの診断は以下の3所見に基づく2)3)

  1. 虹彩中間周辺部の透照欠損(放射状パターン)
  2. 角膜内皮の色素沈着(Krukenberg紡錘体)
  3. 線維柱帯の高度で均一な色素沈着

外傷・後房IOLぶどう膜炎などの他の原因がない状態で3所見すべてが揃えばPDSが強く疑われる。PGの診断にはPDSの基準に加え視神経乳頭陥凹拡大や視野欠損を要する。

疾患PDSとの鑑別点
偽落屑症候群TM色素は斑状分布。Sampaolesi線(Schwalbe線を越える色素沈着)を伴う。高齢者
ぶどう膜炎前房炎症細胞・KP
続発色素散布毛様溝IOL・外傷・虹彩メラノーマなど誘因あり

ぶどう膜炎・外傷・毛様溝IOL配置・虹彩メラノーマも重度の線維柱帯色素沈着を呈しうる4)隅角鏡検査散瞳前に実施し、線維柱帯の色素沈着の分布パターンを確認する1)

UBMAS-OCTによる虹彩の凹状化の評価も可能であるが、診断に必須ではない。

PGの治療は原発開放隅角緑内障に準じる1)2)3)。PGに特異的な治療は存在しない2)3)

原発開放隅角緑内障に使用する点眼薬(プロスタグランジン関連薬β遮断薬炭酸脱水酵素阻害薬・α2作動薬)が用いられる1)。ピロカルピンは虹彩の凹状化を軽減し運動誘発性の眼圧上昇を抑制するが、近視化・調節痙攣・網膜剥離リスク(格子状変性が最大20%に存在)に注意が必要である。

レーザー治療

レーザー線維柱帯形成術:薬物治療と同等の有効性があるが、線維柱帯の色素沈着が高度であるため術後眼圧スパイクが生じやすい2)3)。通常より低出力で施行し、眼圧スパイク予防の前処置を行う1)2)3)

レーザー虹彩切開術:逆瞳孔ブロックを解消し虹彩チン小帯の接触を減少させる目的で検討される1)。ただし有効性は議論がある3)。若年で活動的な色素放出がある患者では有益な可能性がある

手術治療

水晶体摘出術:逆瞳孔ブロックを解消し色素散布を減少させる1)。不可逆的な線維柱帯障害の予防に有用とされる

房水流出路再建術線維柱帯切開術などが奏功する1)

濾過手術:薬物治療・レーザー治療が不十分な場合に適応となる1)

Q 色素緑内障に対するレーザー線維柱帯形成術の注意点は何ですか?
A

色素緑内障では線維柱帯の色素沈着が高度であるため、レーザーエネルギーの吸収が大きく術後の眼圧スパイクが生じやすい2)3)。通常より低出力で施行し、眼圧スパイク予防のための前処置(α2作動薬やβ遮断薬の予防投与など)を行うべきである1)。なお眼圧下降効果は数年後に減弱する可能性がある2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

虹彩色素上皮からのメラニン色素放出は、水晶体チン小帯虹彩後面の機械的摩擦により生じる2)3)。「逆瞳孔ブロック」形態により虹彩が後方に湾曲し、虹彩チン小帯の接触が増大する2)3)

瞬目による前房への房水押し出し(burp現象)が前後房の圧力勾配を生み、虹彩の凹状化を維持する。散瞳・調節・激しい運動も色素放出を促進する。PDS/PG眼の房水中色素顆粒濃度は正常対照の15倍に達する。

メラニン顆粒は房水流出路に沈着し流出抵抗を増大させる2)3)線維柱帯細胞が色素を貪食し、その後細胞死に至る2)3)。これが現在のPGの発症機序の中心的理解である。線維柱帯板の崩壊・遊離色素顆粒・色素貪食マクロファージ・変性した線維柱帯内皮細胞が病理組織学的に認められる。

加齢に伴い水晶体が前方に移動し虹彩チン小帯の接触が減少するため、高齢者では色素放出が減弱する。しかし線維柱帯の不可逆的損傷は残存するため、高齢者で新たにPGが顕在化することがある。

近年、美容目的の光切除虹彩形成術(photoablative iridoplasty)後に両眼性の重度色素緑内障が発症した症例が報告されている5)。32歳女性が虹彩色変更のレーザー治療後に眼圧50/42 mmHgとなり、緊急両眼線維柱帯切除術を要した5)。傍中心急性中層黄斑症(PAMM)も合併し、不可逆的な視機能障害が残存した5)

毛様溝への大径(7 mm)眼内レンズ配置後にPDSが発症した症例も報告されている6)虹彩IOL光学部エッジの摩擦が原因であり、強膜IOL固定術への変更により改善した6)

単純ヘルペスウイルス-1前部ぶどう膜炎から急性虹彩透照欠損様症候群へ移行し、色素緑内障を発症した症例が報告されている7)。抗ウイルス薬なしのステロイド単独治療がウイルス複製を増悪させ、虹彩色素上皮の破壊を促進した可能性が示唆されている7)

連鎖解析によりGPDS1座位(7q35-q36)がPDSと関連する遺伝子座として同定されているが、責任遺伝子はまだ特定されていない。PDSからPGへの転換予測バイオマーカーの開発も今後の課題である。

Q 医原性色素緑内障にはどのようなものがありますか?
A

主に2つの機序が報告されている。1つは美容目的の虹彩色変更レーザー(photoablative iridoplasty)であり、大量の色素放出により重度の色素緑内障網膜障害(PAMM)を引き起こした症例がある5)。もう1つは白内障手術時の後嚢破損に伴い毛様溝に大径IOLを配置した際に虹彩との摩擦によりPDSが発症するもので、IOL固定位置の変更により改善しうる6)。いずれも本来のPDS/PGとは病因が異なるが、色素散布による眼圧上昇という共通の機序を有する。

  1. 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  2. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021 Jun;105(Suppl 1):1-169. doi:10.1136/bjophthalmol-2021-egsguidelines. PMID:34675001.
  3. Pazos M, Traverso CE, Viswanathan A; European Glaucoma Society. European Glaucoma Society - Terminology and guidelines for glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. doi:10.1136/bjophthalmol-2025-egsguidelines. PMID:41026937.
  4. Gedde SJ, Vinod K, Wright MM, et al. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021 Jan;128(1):P71-P150. doi:10.1016/j.ophtha.2020.10.022. PMID:34933745.
  5. Liu J, Korban S, Moster MR, Rhéaume MA, Wang Q. Bilateral severe iatrogenic pigmentary glaucoma following laser treatment for cosmetic iris color change. American journal of ophthalmology case reports. 2023;32:101927. doi:10.1016/j.ajoc.2023.101927. PMID:37771388; PMCID:PMC10522941.
  1. Nagata M, Matsushima H, Senoo T. A Case of Pigment Dispersion Syndrome after Placement of Sulcus Intraocular Lens with 7-mm Optic Diameter after Posterior Capsule Rupture. Case reports in ophthalmology. 2022;13(3):1003-1009. doi:10.1159/000527750. PMID:36605041; PMCID:PMC9808161.
  1. Radmilovic M, Maric G, Vukojevic A, et al. An unusual manifestation of 単純ヘルペスウイルス-1 uveitis transforming into an acute iris transillumination-like syndrome with pigmentary glaucoma. Life. 2025;15:1164.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます