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屈折矯正

有水晶体眼内レンズ(ICL)

1. 有水晶体眼内レンズ(ICL)とは

Section titled “1. 有水晶体眼内レンズ(ICL)とは”

有水晶体眼内レンズ(Implantable Collamer Lens; ICL)は、後房型有水晶体眼内レンズ(posterior chamber phakic intraocular lens; pIOL)の一種である。自己水晶体を温存したまま、虹彩水晶体の間(毛様溝)にレンズを挿入して屈折異常を矯正する。白内障手術と同様に手術顕微鏡下で行う内眼手術であるが、水晶体は摘出しない。

中等度〜高度近視(特に6D以上)が主な適応であり、角膜を切除しないため角膜拡張症のリスクがない。調節力が保存され、可逆性に優れる点が特徴である。LASIKSMILEの適応外(角膜薄・高度近視)の症例に特に有用である。

ICLの手術適応の考え方(日常臨床での判断フロー)

Section titled “ICLの手術適応の考え方(日常臨床での判断フロー)”

ICL手術の適応決定は複数の要素を統合的に判断する必要がある。

  1. 矯正量の確認:等価球面度数−6D以上が主適応(ガイドライン第8版)2)。−3D〜−6Dは慎重適応
  2. 年齢:21〜45歳が原則。水晶体の加齢変化(老視進行・白内障のリスク)を考慮する
  3. 前眼部評価前房深度≥2.8mm(角膜内皮水晶体前面)、隅角間距離、角膜内皮細胞数≥2,300 cells/mm²(21歳以上)
  4. 角膜形状円錐角膜・LASIK後拡張症・不正乱視は除外または慎重適応
  5. 全身状態:妊娠・授乳中は禁忌。免疫抑制状態・結合組織疾患は慎重適応
  6. 患者のニーズと理解:内眼手術への同意・術後定期受診の遵守意志

これらを総合評価した上で、外来での詳細説明とインフォームドコンセントを経て手術を行う2)

1953年にStrampelliが最初の前房型pIOLを開発した。初期レンズは角膜内皮不全や緑内障などの合併症が多発したが、1977年にWorstが虹彩固定型を、1986年にFyodorovが後房型を開発し安全性が向上した。STAAR Surgical社は1993年に最初の後房型pIOLを発売し、2005年に米国FDA承認を取得した。2022年3月にはEVO/EVO+ ICLが米国でFDA承認を受け、世界で200万枚以上が使用されている1)

STAAR Surgical社が開発した「コラマー(collamer)」は以下の組成からなる特許素材である。

  • ポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA):約60%
  • 水分:約36%
  • ベンゾフェノン:3.8%(紫外線吸収剤)
  • 豚由来コラーゲン:0.2%

コラーゲン含有により生体組織との親和性が高く、ガスと代謝産物の透過性に優れ、炎症反応がきわめて少ない1)。フィブロネクチン等のタンパク吸着が少なく、スペキュラーマイクロスコピーとレーザーフレアセルメーターによる長期評価でも慢性炎症を認めない。

最新のEVO ICLは光学部中央に直径0.36mmのポート(KS-AquaPORT)を備える。これにより以下の利点が生まれた。

  • 従来モデルで必要だったNd:YAGレーザー虹彩切開術が不要
  • 後房から前房への生理的な房水循環が維持される
  • 前嚢下白内障瞳孔ブロックの発生率が低下
  • 術後眼圧上昇リスクの軽減

EVO+モデルは有効光学部が大きく(最大7.5mm)、瞳孔径の大きな若年世代のグレア・ハロー・高次収差を低減する効果が期待される。FDA臨床試験(中等度近視200眼)では99.7%の眼で適切なvaultが維持され、閉塞隅角・色素散布・前嚢下白内障の発生は0件であった1)

Q ICLとLASIK・SMILEはどう違うのですか?
A

LASIKSMILE角膜実質を削って屈折を矯正する。ICL角膜を温存してレンズを眼内に挿入する。ICLには可逆性があり(取り出し可能)、ドライアイ角膜拡張症のリスクがない。高度近視(6D以上)ではICL視力の質(コントラスト感度・高次収差)でも優れているとされる1)

屈折矯正手術のガイドライン(第8版)では有水晶体眼内レンズ手術の適応を以下のとおり規定している2)

項目基準
年齢原則21〜45歳(老視年齢は慎重)
矯正量6D以上の近視を主対象
中等度近視(3D以上6D未満)慎重適応
強度近視(15D超)慎重適応
前房深度≥2.8mm(角膜内皮から3.0mm以上)
Toric ICL適応乱視1.0D〜4.0D

米国FDA承認(EVO ICL)に基づく適応は21〜45歳・眼鏡面で−3.0D〜−20.0D・前房深度3.0mm以上である1)

検査項目目的
裸眼・矯正視力ベースライン評価
自覚的・他覚的屈折検査(散瞳下含む)度数決定
角膜形状解析(トポグラフィー)円錐角膜の除外
角膜内皮細胞検査≥2300 cells/mm²(21歳以上)の確認
前眼部OCT/UBM前房深度・隅角間距離の計測
眼底検査散瞳下)網膜裂孔格子状変性の確認
眼圧測定緑内障除外
瞳孔径測定夜間視覚症状の予測

前眼部OCTまたは超音波生体顕微鏡UBM)による前房深度・隅角間距離の測定が必須であり、レンズサイズ決定に重要である2)

ガイドライン(第8版)では以下が絶対的禁忌とされる2)

  • 活動性の外眼部・内眼部炎症(ぶどう膜炎強膜炎含む)
  • 白内障水晶体混濁・亜脱臼含む)
  • 進行性円錐角膜
  • 浅前房角膜内皮障害(年齢別最低基準値未満の内皮細胞密度)
  • 妊娠中または授乳中
  • 重症糖尿病・重症アトピー性疾患(創傷治癒に影響する全身疾患)

慎重事項としては、緑内障正常眼圧緑内障・全身性結合組織疾患・ドライアイ・非進行性軽度円錐角膜疑い症例が含まれる2)

Q ICLの適応と禁忌を教えてください。
A

主な適応は6D以上の近視で21〜45歳、前房深度が十分あること。禁忌は進行性円錐角膜・活動性眼炎症・白内障・妊娠中・授乳中・浅前房角膜内皮障害など。3D以上6D未満の中等度近視と15D超の強度近視は慎重適応とされる2)

前房隅角支持型

代表例:AcrySof(Alcon)

前房隅角に支持部を置く設計。角膜内皮細胞の慢性減少・瞳孔楕円化・核白内障が問題となり、現在は市場から撤退している。若年の屈折矯正には推奨されない。

前房虹彩固定型

代表例:Artisan/Verisyse(Ophtec/Abbott)、折りたたみ可能版Artiflex/Veriflex

虹彩中周辺部にクローで固定する。角膜内皮細胞の慢性減少が懸念されるが、隅角支持型より安全性が高い。大切開が必要であり術後乱視に注意を要する9)

後房型(ICL)

代表例:Visian ICL(STAAR Surgical)

毛様溝に設置する。角膜内皮から離れており内皮細胞減少リスクが低い。EVO/EVO+では中央孔により瞳孔ブロックと前嚢下白内障のリスクが軽減されている。3.0mmの小切開で挿入可能。

ESCRSガイドラインでは、前房型pIOL挿入後に白内障手術が必要となった場合の術前評価として、虹彩損傷の有無・周辺虹彩切開の開通性・角膜内皮細胞密度と形態の確認を推奨している9)

4. 診断と処方(レンズサイズ決定)

Section titled “4. 診断と処方(レンズサイズ決定)”

レンズサイズの正確な決定は術後成績に直結する。ICLのサイズは13.2mm・13.7mm・14.0mm・14.5mmの4種類があり、適切なサイズ選択がvault管理の鍵である。

サイズ決定方法の比較:

方法測定値特徴
WTW+ACD法水平角膜径+前房深度簡便だが精度は中等度
前眼部OCT STS法毛様溝間距離(sulcus-to-sulcus)直接計測でより精度が高い
UBM STS法超音波生体顕微鏡で毛様溝径前眼部OCT不適例に使用

前眼部OCTまたはUBMによる毛様溝径(STS)の直接計測はWTWよりもvault予測精度が高く、術前の標準的評価として推奨される4)

理想的なボルト(vault)ICL水晶体前面の間隙)は250〜750μmである2)

ボルト状態リスク
250μm未満(低ボルト)水晶体との接触→前嚢下白内障
250〜750μm(適正)最良の安全域
750μm超(高ボルト)虹彩を前方に押し出す→隅角狭小化・色素散布・瞳孔ブロック
ICL術後の前眼部OCT(ボルト計測)
Igarashi A, Kumegawa K, Kamiya K. Comparison of Vault Measurements Using a Swept-Source OCT-Based Optical Biometer and Anterior Segment OCT. Front Med (Lausanne). 2022;9:865719. Figure 1. PMCID: PMC9259877. License: CC BY.
前眼部光干渉断層計AS-OCT)による水平断面像で、角膜内皮からICL前面までの距離(C-ICL)、ICL後面から水晶体前面までのボルト(vault)、および前房深度(ACD)が計測されている。本文「4. 診断と処方(レンズサイズ決定)」の項で扱うボルト値(250〜750μm)の術後評価に対応する。

前房型ではVan der Hejdeノモグラムを使用し、屈折値・角膜屈折力・前房深度から度数を計算する9)。術後vaultは年単位で経時的に低下する傾向があり(水晶体の加齢性膨隆による)、定期的な前眼部OCT評価が重要である4)

Q ボルト(vault)とは何ですか?なぜ重要ですか?
A

ボルトはICL水晶体前面の間隙(距離)のことで、前眼部OCTで測定できる。適正範囲は250〜750μm。250μm未満だと水晶体との接触で前嚢下白内障が生じうる。750μm超だとICL虹彩を前方に押し出して隅角を狭小化させ、眼圧上昇や色素散乱のリスクが上昇する2)

5. 標準的な治療法(手術手技)

Section titled “5. 標準的な治療法(手術手技)”

EVO/EVO+ ICLでは周辺虹彩切開は不要である。従来型Visian ICLを使用する場合は、手術2〜3週間前に上方2箇所にYAGレーザー虹彩切開術を施行していた1)

術後に一過性の眼圧上昇が生じることがあるため、手術日には術後2時間以上の経過観察が望ましい2)

  1. 点眼麻酔(前房内リドカイン併用)下で施行する
  2. 1%トロピカミドと2.5%フェニレフリンで散瞳する
  3. 3.0〜3.2mmの耳側角膜切開を作成する
  4. 凝集型粘弾性物質(HPMC 2%)を前房に注入する
  5. ICL虹彩面の前方に注入し展開させる
  6. ハプティクスのフットプレートを虹彩下の毛様溝に配置する
  7. 粘弾性物質を完全に除去する(残留は術後眼圧上昇の主原因)
  8. 縮瞳剤を注入し、創口閉鎖を確認する

両眼同時手術も可能だが、感染リスクが高い症例では片眼ずつの施術が望ましい2)

米国FDA臨床試験の中等度近視群(200眼)における6か月時の成績を示す1)

指標EVO ICLSMILETopo-LASIK
UDVA 20/20以上94.5%84.2%88.9%
±0.50D以内91.5%93.7%93.0%
CDVA維持率98.0%
安全性指数1.21

EVO ICL角膜屈折矯正術と同等以上の有効性と安全性を示している1)

眼圧上昇

OVD残留:最も頻度が高い。術後1〜6時間で18%に一過性上昇1)。数日以内に自然改善。

ステロイドレスポンス:0.5%に発生。ステロイド減量で対応1)

色素散布・隅角狭小化:ボルト過剰による虹彩前方偏位。ICLサイズ変更・交換が必要な場合がある1)

感染・炎症

TASS毒性前眼部症候群:発生率0.24%。術後1週間前後に遅発性発症。プレドニゾロン0.5 mg/kg内服+1%点眼1時間毎で4〜5週間治療6)

眼内炎:発生率0.017〜0.036%。バンコマイシン1 mg+セフタジジム2 mg硝子体注射ICL保存が可能な場合がある7)

その他

前房出血虹彩毛様体嚢胞破裂により発生。保存的治療(トブラマイシン・デキサメタゾン点眼+アトロピンゲル)で治癒しうる8)

前嚢下白内障:vault低下時に水晶体と接触して発生。EVO ICLではFDA試験で発生率0%1)

網膜剝離:高度近視眼の術前素因に注意。術前散瞳眼底検査網膜裂孔格子状変性を確認する2)

ガイドライン(第8版)に基づく術後モニタリング項目:視力屈折・vault・角膜内皮細胞密度眼圧・眼底を術後1日・1週間・1か月・3か月・6か月に確認し、以後6〜12か月ごとに生涯継続する2)。Vaultが250μm未満になった場合はICLサイズ変更・交換を、750μm超の場合も隅角鏡検査で評価を行う。

術後早期の眼圧上昇の原因は複数考えられる3)

Moshirfarら(2024)が報告した症例では、術後IOP上昇に対し粘弾性物質残留と早期ステロイドレスポンスが原因と推定された3)。6週間の経過観察とステロイド減量により、レンズ摘出や虹彩切開を要さず正常化した。

6か月時の角膜内皮細胞減少率は平均2.2%であった1)。長期研究では術後早期のリモデリング後に安定化し、8年後の減少率は3.6±7.9%と報告されている1)前房型pIOLは後房型より内皮細胞の慢性減少リスクが高く、長期経過でのモニタリングが重要である9)

Liら(2023)はICL手術後1週間で発症した遅発性TASS 2例を報告した6)角膜後沈着物(KP)と前房内フィブリン形成を認めたが、プレドニゾロン0.5 mg/kg内服+1%点眼1時間毎を4〜5週間行い、視力前房所見ともに改善した。発生率は0.24%(827眼中2眼)であった。

Zhangら(前房出血症例報告)はICL術後に虹彩毛様体嚢胞の破裂により前後房出血をきたした23歳女性を報告した8)。0.3%トブラマイシン・0.1%デキサメタゾン点眼(1日4回)と1%硫酸アトロピン眼用ゲル(1日2回)による保存的治療を17日間継続し、ICL摘出なしで治癒した。

Zhengら(2023)はICL術後20日目に発症したStaphylococcus epidermidis眼内炎の1例を報告した7)硝子体注射(バンコマイシン1 mg+セフタジジム2 mg)を2回施行し、ICL摘出や硝子体手術なしで裸眼視力22/20まで回復した。ICL術後の眼内炎発生率は約0.017〜0.036%と推定されている。

Q 術後に眼圧が上がった場合はどうしますか?
A

最も多い原因は粘弾性物質の残留で、数日以内に自然改善する。ステロイド点眼の減量やIOP降下薬の追加で対応する。瞳孔ブロックやレンズサイズ不適合が原因の場合は、虹彩切開やレンズ交換が必要となることがある3)

7. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “7. 病態生理学・詳細な発症機序”

コラマーはきわめて高い生体適合性を持つ。スペキュラーマイクロスコピーとレーザーフレアセルメーターによる検査で炎症反応がないことが確認されている1)。コラーゲン含有により生体組織との親和性が高く、ガスと代謝産物の透過性に優れている。表面エネルギーが低くフィブロネクチン等のタンパクを吸着しにくい特性が、長期の低炎症状態を維持する理由とされる。

ICLの光学部は水晶体の上方にアーチ状に架かる形で配置される。水晶体との間のボルトが適切に維持されることで、房水水晶体表面を流れ、水晶体への栄養供給が維持され白内障形成を防ぐ。

EVO ICLの中央孔(KS-AquaPORT)は、後房から前房への生理的な房水の流れを可能にする。これにより以下の効果が得られる。

  • 瞳孔ブロックの予防(従来型で必要だったYAGレーザー虹彩切開が不要になった根拠)
  • 水晶体への代謝産物・栄養の供給維持
  • 前嚢下白内障リスクの低減

vault過剰(>750μm)ではICL虹彩を前方に押し出し、虹彩毛様体との接触により色素が遊離し色素散布緑内障を引き起こす。続いて隅角が狭小化し閉塞隅角緑内障へ進展する可能性がある3)。vault不足(<250μm)では代謝産物が水晶体前嚢下に蓄積し、前嚢下白内障を形成する。FDA試験では99.7%の眼で満足なvaultが得られ、閉塞隅角・色素散布・前嚢下白内障の発生は0件であった1)

前房型pIOLでは、レンズが角膜内皮に近接することで微小動揺が内皮細胞に機械的ストレスを与える。慢性的な細胞障害により内皮細胞密度が経年的に低下し、最終的に角膜内皮不全(水疱性角膜症)に至る可能性がある。後房型ICL角膜内皮から離れているため、このリスクが大幅に低い9)。Kohnenらの長期データでは、前房型pIOLの年間内皮細胞減少率は後房型の2〜3倍高いと報告されている9)

pIOLは眼内に追加的な屈折力を持つレンズを設置することで、網膜上の焦点位置を調整する。近視では凹(マイナス)レンズにより光線の収束を遅らせ、網膜前方の焦点を網膜上に移動させる。眼鏡と異なり眼球の主点に近い位置にあるため像の拡大・縮小がほとんどなく、生理的な視覚を提供する。コントラスト感度が良好に保たれる点もICLの特徴である。

Igarashiらによる8年間追跡では、等価球面度数は安定しており(−10.3Dから+0.09D変化のみ)、角膜内皮細胞密度の減少率は3.6±7.9%と後房型ICLは長期安定性に優れる5)。5年間追跡でも有効性・安全性の維持が確認されている10)。アルフォンソらの5年追跡(Toric ICL含む)でも屈折誤差の経年的増加は認めなかった10)

7b. ICLと他の屈折矯正手術の比較

Section titled “7b. ICLと他の屈折矯正手術の比較”

LASIK角膜実質を切除して屈折矯正を行うため、術後に角膜構造が不可逆的に変化する。ICL角膜を温存するため、以下の点で優位性がある。

  • 可逆性ICLは取り出し可能。白内障発症時にICLを摘出して通常の白内障手術が可能
  • ドライアイ:LASIK角膜神経を切断するためドライアイが多発(術後6か月で30〜40%)する。ICLでは角膜を温存するため発症率が低い
  • 角膜拡張リスク:LASIK角膜バイオメカニクスを変化させ、残存実質床が薄い場合に角膜拡張症リスクがある。ICLにはそのリスクがない
  • 将来の白内障手術のIOL計算:LASIK角膜曲率を変化させるためIOL度数計算に誤差が生じやすい。ICLIOL計算に影響しない
  • 高度近視矯正:LASIKは10D程度が限界。ICLは20Dまで対応可能

Wang Yらのエビデンスに基づくガイドラインでは、角膜バイオメカニクスを保存する点でICRLex(ICL)がLASIKより優れた特性を持つことが示されている12)

SMILE(小切開レンチキュール摘出術)はLASIKより角膜フラップがないため、フラップ関連合併症がない。しかしICLと比較すると以下の差異がある。

比較項目ICL(EVO ICLSMILE
可逆性ありなし
適応近視3〜20D最大10D
ドライアイ低リスクLASIKより低いが発生あり
角膜バイオメカニクス完全保存LASIK比で保存
UDVA 20/20達成94.5%(FDA試験)1)約84〜90%

8. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “8. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

2020年7月にCEマーク承認を取得した焦点深度拡張型(EDOFICLである。非球面光学系により近方・中間視力の矯正を提供し、有水晶体眼および偽水晶体眼(単焦点IOL挿入後)の両方に適応がある。対象年齢は21〜60歳で、米国ではFDA承認待ちの段階にある。

従来は6D以上の強度近視を主な対象としていたが、EVO ICLの安全性向上により中等度〜低度近視にも適応が拡大しつつある。FDA臨床試験では被験者の約3分の1が6D未満の中等度近視であり、全範囲の近視で安全性と有効性が一貫していることが示された1)

波長掃引型前眼部OCTの登場により、隅角間距離や毛様溝径の精密な測定が可能となった。術後ボルトの予測精度が向上し、白内障や閉塞隅角のリスク低減に貢献している。Igarashiらの研究では、swept-source OCTベースの光学生体計測装置と前眼部OCTのvault計測値は良好な相関を示したが、系統的な差異があるため術後モニタリングではデバイスを統一することが推奨されている4)

近視管理における高近視への対応

Section titled “近視管理における高近視への対応”

近視の世界的蔓延は深刻な公衆衛生問題となっており、2050年には世界人口の49億人が近視、9.4億人が強度近視となると予測されている11)強度近視(−6D以上)では網膜裂孔緑内障黄斑変性などの眼科的合併症リスクが増大する。ICLは6D以上の高度近視の標準的な外科的矯正として、長期的な安全性と有効性エビデンスが蓄積されている。

Packerによるメタアナリシス(2016年)では、中央孔設計のICLが非中央孔設計と比較して前嚢下白内障・閉塞隅角瞳孔ブロックのリスクを有意に低減することが確認された13)

Sunら(2023年)は術後vault過剰(高vault)症例に対しICLを90°回転させることでvaultを低下させる手技を報告した14)。平均vaultが1,249μmから459μmに改善し、隅角角度・眼圧も正常化した。ICL交換を避けた非侵襲的な管理法として注目されている。ESCRSガイドラインでは前房型pIOL挿入後の白内障手術において、虹彩損傷・周辺虹彩切開の開通性・角膜内皮細胞の評価を推奨している15)

Q 老視も矯正できますか?
A

EVO Vivaという老視矯正用ICLが開発されており、欧州ではCEマーク承認を取得している。EDOF光学系により近方・中間視力を改善する設計だが、米国ではFDA承認待ちの段階である。現時点では標準治療ではない。

ICLの適応拡大と低度近視への対応

Section titled “ICLの適応拡大と低度近視への対応”

従来は6D以上の強度近視を主な対象としていたが、EVO ICLの安全性向上により中等度〜低度近視にも適応が拡大しつつある。FDA臨床試験では被験者の約3分の1が6D未満の中等度近視であり、全範囲の近視で安全性と有効性が一貫していることが示された1)屈折矯正手術のガイドライン(第8版)では3D以上6D未満は慎重適応としており2)近視の程度・角膜形状・患者のニーズを総合的に考慮して適応を判断する。

低度近視(6D未満)ではLASIKSMILEが一般的な選択肢となるが、角膜が薄い場合やコンタクトレンズ装用困難・ドライアイを有する場合にはICLが選択肢となる。ICLの可逆性という特徴は、将来的に術後の屈折変化(近視進行・老視の影響等)に対応できる点でも優れている。

EVO ICL FDA臨床試験では、97.6%の患者が手術に満足しており、視覚の質においてもコントラスト感度・高次収差・夜間視機能に良好な成績が示されている1)。眼鏡・コンタクトレンズからの解放、スポーツ・水中活動の自由など生活の質(QOL)改善が高い満足度につながっている。ただし、術後早期のグレア・ハロー(特に暗所での光輪)は一部の患者で問題となるため、術前の暗所瞳孔径測定と十分な説明が重要である。


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