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白内障・前眼部

単焦点眼内レンズ

単焦点眼内レンズ(Monofocal Intraocular Lens)は、光学部に単一の焦点距離を持つ眼内レンズであり、白内障手術で混濁した水晶体を除去した後に水晶体嚢内へ挿入する人工水晶体である。

IOLを挿入された眼を偽水晶体眼(pseudophakia)という。偽水晶体眼では像の拡大が生じないため片眼への使用も問題なく、眼鏡やコンタクトレンズと比較して最も自然で生理的な視機能が得られる。これは無水晶体用眼鏡が引き起こす約30%の像拡大とは対照的な特性である。

白内障手術は超音波乳化吸引術と foldable IOL による小切開(約2〜2.5 mm)手術によってほぼ完成された術式となっている。これにより白内障手術は「白内障を治療する開眼手術」から「より質の高い術後視機能を獲得する復眼手術」へとその意味合いが変化した。

単焦点IOLは健康保険の適用内で使用できる。多焦点IOLは選定療養であり患者負担が生じる。IOLの機能分類では ESCRS ガイドラインおよび ISO 11979-7:2024 に基づく4カテゴリ(Monofocal / Toric / SVL / Accommodating)の中の Monofocal に該当し、PARTIAL-RoF narrow に位置づけられる1)

世界全体で年間約2,000万件の白内障手術が施行されており2)、日本では年間150万件を超える。

Q 単焦点眼内レンズを入れると老眼鏡は不要になるか?
A

単焦点IOLは一定の距離にのみ焦点が合うため、遠方に合わせた場合は近方視に老視矯正眼鏡が必要になる。モノビジョン(片眼を軽度近視に設定)で眼鏡依存度を軽減できる場合がある。多焦点IOLへの変更により近方視力を確保することも可能だが、グレア・ハローのリスクや保険適用外の費用が伴う。

単焦点IOLは形状・素材・光学設計の3軸で分類される。

以前は光学部と支持部が異なる材質で構成される3ピース構造が主流であったが、現在はインジェクターを用いて挿入時の創口を小さくできる1ピース構造の使用が増えている。

1ピースIOL:光学部と支持部が同一素材で一体化。インジェクターによる小切開挿入に適し、現在の主流である。

3ピースIOL:光学部と支持部が異なる素材。嚢外固定(毛様体溝固定)が必要な症例で選択される。ただし1ピースアクリルIOL毛様体溝へ固定することは、偏心・虹彩擦過・色素散布・眼圧上昇・反復性前房出血のリスクがあるため禁忌である2)

疎水性アクリル

特徴:嚢との接着性が高く、現在の標準素材。

PCOリスク:シャープエッジ設計で最も低い2)

注意点:グリスニング(点状反射)が生じることがあるが、通常は視機能に影響しない2)

親水性アクリル

特徴:柔軟性が高い。

PCOリスク:疎水性アクリル・シリコーンより高い2)

注意点:カルシウム沈着(石灰化)リスクがある。角膜移植硝子体手術時の前房内ガス・エア使用症例では石灰化リスクが高まるため避けることが推奨される2)

シリコーン

特徴:低いPCO率。

PCOリスク:低い。

注意点硝子体手術後にシリコーンオイルを使用する症例では避ける。アクリル素材と比較してエンドフタルミティス(眼内炎)リスクが3.13倍(95% CI 1.47–6.67)高い1)

PMMA

特徴:硬性素材。折りたたみ不可。

PCOリスク:参照データ限定的。

注意点:大切開が必要なため、現在は特殊な状況を除きほぼ使用されない。

Q 眼内レンズの素材は何が最も良いか?
A

現在は疎水性アクリルが標準素材である。後発白内障の発生率が最も低く、折りたたんで小切開から挿入できる利点がある。親水性アクリルは石灰化リスク、シリコーンは硝子体手術時のシリコーンオイルとの相互作用に注意が必要である。

球面IOL:正の球面収差を持つ従来型の標準設計2)

非球面IOL角膜の正の球面収差を相殺する設計。瞳孔径依存的にコントラスト感度を向上させるが、偏心・傾斜の影響を受けやすく機能的利点については議論がある2)

角膜は正の球面収差を持ち、若年者の水晶体は負の球面収差を有して眼球全体の球面収差を相殺している。加齢により水晶体の球面収差が正に転じると眼球全体の正球面収差が増大する。非球面IOLは各屈折面の傾斜を変化させ、周辺光線と近軸光線とを同一点に集光させるよう設計されている。

着色IOL(ブルーライトカット):ヒト水晶体に近い分光透過率を持ち、短波長光(網膜光障害の原因となる可能性がある)の透過率を低下させる。2018年のコクランレビューでは黄斑保護効果が明確には示されていないが、色覚への悪影響もない2)

トーリックIOL:柱面度数を追加して角膜乱視を矯正する。白内障患者の15〜29%が1.5 D以上の角膜乱視を有する2)。メーカーのオンラインカリキュレータで使用するモデル・度数・固定軸・切開位置を算出し、手術終了時に角膜の強主経線にIOLの弱主経線を合わせる。

Enhanced monofocal IOL(機能強化型単焦点):標準非球面単焦点IOLと比較して中間・近方の矯正視力が有意に向上(P < 0.001)し、遠方矯正視力と異常光視現象は同等とする218例(435眼)のRCTがある1)。ESCRS機能分類では PARTIAL-RoF enhance に該当する1)

多焦点IOLとの相違点:単焦点IOLは理論上光のエネルギー損失がない。回折型多焦点IOLでは光が複数の焦点に分割されるため、グレア・ハロー・コントラスト感度低下のリスクが生じる2)

Q 非球面レンズと球面レンズはどちらが良いか?
A

非球面IOL角膜の球面収差を補正しコントラスト感度を向上させるが、機能的利点は議論がある。偏心や傾斜の影響を受けやすい面もある。現在の多くのIOLは非球面設計を採用している。

白内障は世界で「予防可能な失明」の最大の原因であり、世界人口の約0.6%に相当する約3,700万人が失明し、その約半数が白内障による2)。欧州で年間700万件、米国で370万件、世界全体で年間約2,000万件の白内障手術が施行されている2)

日本では白内障手術は最も多く行われる手術の一つであり、年間150万件を超える。単焦点IOLが現在も最多使用レンズである。多焦点IOLは選定療養であり患者負担が生じる。

白内障の有病率(初期混濁を含む)は50歳代で約45%、60歳代で約75%、70歳代で約85%、80歳以上で100%に達する。

IOL度数計算に必要な術前検査として、眼軸長角膜曲率半径(K値)・前房深度の測定が必須である。

眼軸長測定:光学式バイオメトリー(IOLMaster等)が標準。浸漬式A-scanより良好な屈折成績を示す2)。光学式で測定不能な場合(高度核白内障角膜混濁など)に超音波A-scanを用いる。

角膜曲率半径測定:ケラトメーターまたは角膜トポグラファー。涙液 BUT が10秒未満の場合はケラトメトリの精度が低下するため、術前ドライアイ治療が必要な場合がある。

前房深度測定IOL挿入後の位置予測に使用する。

18,501例の大規模比較における予測誤差の標準偏差(SD)を以下に示す1)

計算式予測誤差 SD順位
Barrett Universal II0.4041
Olsen0.4242
Haigis0.4373
Holladay 20.4504
Holladay 10.4535
SRK/T0.4636
Hoffer Q0.4737

計算式の世代的変遷は以下のとおりである。第1世代(Fyodorov / Binkhorst / Colenbrander 式)は前房深度の個人差のため誤差が大きかった。第2世代の SRK 式(1980年)とその改良型 SRKⅡ 式は眼軸長に応じて定数を補正する。第3世代の SRK-T 式・Holladay 1 式は現在も臨床で広く使用されている。第4世代の Holladay 2 式は眼軸長・K値・年齢・角膜径・水晶体厚・術前前房深度・術前屈折度数の7因子を使用する。

949眼の比較(Barrett Universal II vs Hill-RBF vs 術中収差計測)では、Barrett Universal II の MAE 0.29 D(±0.5 D 以内 84%)、Hill-RBF の MAE 0.31 D(±0.5 D 以内 83%)、術中収差計測の MAE 0.31 D(±0.5 D 以内 82%)であり、3者間に有意差はなかった(P > 0.05)1)

Q 最新のIOL度数計算式では何が最も正確か?
A

大規模比較では Barrett Universal II が予測誤差 SD 0.404 と最も精度が高い。ただし特殊な眼(急峻な角膜屈折矯正手術後眼など)では最適な計算式が異なるため、症例に応じた使い分けが重要である。

屈折矯正手術後眼(LASIK・PRK後):通常の計算式では角膜屈折力を過大評価し遠視化する。Barrett True-K が最良であり、±0.5 D 以内 67.4%・±1.0 D 以内 93%の精度を示す1)

強い角膜曲率(K > 46.00 D):Hill-RBF が最良(±0.5 D 以内 83.0%)1)

平坦な角膜(K < 42.00 D):Barrett Universal II が最良(±0.5 D 以内 96.7%)1)

眼軸眼軸長 > 25 mm):Wang-Koch 調整が推奨されるが、Barrett Universal II や Hill-RBF では不要2)

目標屈折の選択は患者の職業・ライフスタイルに合わせて行う。

正視狙い(0 D)

ターゲット:術後屈折度数を 0 D に設定。

メリット:裸眼遠方視力が良好。

デメリット:近方視に老視矯正眼鏡が必要。

軽度近視狙い(−0.5〜−1.0 D)

ターゲット:術後を軽度近視に設定。

メリット:裸眼で近業作業が可能。

デメリット:運転等の遠方に眼鏡が必要になる場合がある。

ミニモノビジョン

ターゲット:優位眼を 0 D、非優位眼を −0.25〜−0.75 D に設定1)

メリット立体視を保ちながら眼鏡依存度を軽減。

デメリット:全例で受容されるわけではない。

フルモノビジョン

ターゲット:非優位眼を −1.75 D 以上に設定。受容率は約90%2)

メリット:裸眼近方視力が良好。

デメリット:潜伏斜視黄斑疾患・視神経疾患がある場合は不適2)

毛様体溝固定の場合は、嚢内固定と比較して 0.5〜1.0 D 減じた度数を選択する2)

超音波乳化吸引術(phacoemulsification)+IOL 嚢内挿入が現在の標準術式である。約2〜2.5 mm の小切開で foldable IOL をインジェクターで挿入する。麻酔は点眼麻酔または球後麻酔テノン嚢下麻酔が用いられる。

後房IOLの嚢内固定が最も多くの症例で推奨される2)。前囊切開(連続円形切囊切開: CCC)が IOL 光学部の全周を覆うと後発白内障の発症が抑制される2)。foldable IOL はインジェクター(プレロード含む)で挿入することで術中の微生物接触リスクを低減できる2)。プレロードインジェクターは IOL 装填不良(傷・ハプティック変形・反転)のリスクを低減する2)

メーカーのオンラインカリキュレータで度数・モデル・固定軸・切開位置を算出し、手術終了時に角膜の強主経線に IOL の弱主経線を合わせる。後部角膜乱視(PCA)を考慮したカリキュレータの使用で残余乱視が有意に低減する1)トーリックIOLの軸ずれは3度ずれるごとに矯正効果が約10%減弱する。8,229例の検討では≥5°の軸ずれは全体の0.89%であった1)

データベース症例数CDVA 20/40以上CDVA 20/20以上
欧州レジストリ368,256例94.3%61.3%
IRIS レジストリ33,437眼81.7%(術後1ヵ月)
眼合併症なし症例95%以上

(AAO PPP 2021より)2)

術後 CDVA が悪化したのは全体の1.7%のみであった2)。重篤合併症(眼内炎駆逐性出血網膜剥離等)の1年発生率は 0.5%(眼内炎 0.16%・駆逐性出血 0.06%・網膜剥離 0.26%)であった2)

Q 手術の成功率はどの程度か?
A

欧州レジストリ約37万例では94.3%が矯正視力 20/40 以上を達成し、術後に視力が悪化したのは1.7%のみである。重篤合併症(眼内炎網膜剥離等)の1年発生率は0.5%であり、全般的に安全性が高い術式である。

水晶体嚢の支持が不十分な場合(Zinn小帯断裂・後囊破損など)は嚢外固定を検討する。毛様体溝固定には3ピースIOLが適切である(1ピースアクリルIOLの溝固定は禁忌)2)強膜内固定(Yamane 法等)後のIOL偏位・傾斜の発生率は0.1〜1.7%と報告されている1)

最多の術後合併症であり、残存水晶体上皮細胞が後囊に増殖・遊走することで生じる。Nd:YAGレーザー後嚢切開術で治療できる。

Nd:YAGレーザー施行率は報告によって 5% 未満〜54% まで幅がある2)IOL素材別では疎水性アクリル(シャープエッジ)が最も PCO 率が低く、9 RCTの2013年メタ解析では疎水性シャープエッジ > 親水性シャープエッジの順に PCO 率が低い2)。高齢者では PCO 率が低い傾向がある2)。12年追跡の RCT では、シャープエッジ疎水性IOLの保護効果は PCO 発症の遅延にとどまる可能性が示唆されている2)。前囊研磨は PCO を増加させ、YAGレーザーの必要時期を早める可能性が高い2)

疎水性アクリルIOLの光学部にみられる点状反射であり、深層に発生するものをグリスニング(glistenings)、表層にみられるものを subsurface nano glistenings(SSNG)という。通常は視機能に影響はないが、まれに IOL 摘出・交換が必要となる2)

6-3. カルシウム沈着(IOL石灰化)

Section titled “6-3. カルシウム沈着(IOL石灰化)”

親水性アクリルIOLに特徴的な合併症。強い混濁を生じ IOL 交換が必要となる。角膜移植硝子体手術時の前房内ガス・エア使用が石灰化を誘発する2)

発生率は 0.1〜1.7% と報告されている1)。リスク因子として、硝子体手術既往・加齢・強度近視・炎症・網膜色素変性・糖尿病・成熟白内障・急性閉塞隅角発作既往・結合組織疾患が挙げられる1)

6-5. 異常光視現象(ダイスフォトプシア)

Section titled “6-5. 異常光視現象(ダイスフォトプシア)”

正のダイスフォトプシア(グレア・ハロー):単焦点IOLでは多焦点IOLより発生率が低い2)

負のダイスフォトプシア(三日月状の暗い影):シャープエッジIOLで報告されることがある。

発生率は 0.16%2)。シリコーンIOLはアクリルIOLと比較してリスクが 3.13 倍(95% CI 1.47–6.67)高い1)

Enhanced monofocal IOL(機能強化型単焦点):標準非球面単焦点IOLと比較して中間・近方の矯正視力が有意に向上する(P < 0.001)。遠方矯正視力と異常光視現象の発生率は標準単焦点と同等との218例(435眼)のRCTがある1)。保険適用内で使用可能であり今後の普及が期待される。

光調節型IOL(Power Adjustable IOL:紫外線照射で未重合フォトセンシティブシリコーンマクロマーを移動させ、術後に球面・柱面度数を調整できる技術2)。術後の屈折誤差を最小化する手段として注目されている。

屈折率変更技術(Refractive Index Shaping)フェムトセカンドレーザーでアクリルIOLの化学的性質を局所的に変化させ、屈折率を変更して度数を修正する技術2)。術後の屈折調整への応用が期待される。

AI駆動IOL度数計算:Barrett Universal II や Kane 式に加え、機械学習ベースの新世代計算式が開発・臨床評価中である1)。特殊な眼軸長角膜曲率を持つ症例での精度向上が目標とされている。

新世代IOL素材:含水量を変化させた疎水性表面IOLの臨床導入が進んでいる1)。グリスニング発生を低減しつつ疎水性の利点(低PCO率)を保つことを目指している。

  1. European Society of Cataract and Refractive Surgeons (ESCRS). ESCRS Guideline for Cataract Surgery. https://www.escrs.org/escrs-recommendations-for-cataract-surgery
  2. Miller KM, Oetting TA, Tweeten JP, et al. Cataract in the Adult Eye Preferred Practice Pattern®. Ophthalmology. 2022;129(1):P52-P94.

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