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角膜・外眼部疾患

流行性角結膜炎(はやり目)

流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)は、アデノウイルス(adenovirus:AdV)感染によって発症する感染力の高い急性結膜炎である。俗に「はやり目」と呼ばれる。本邦では眼科領域で最も多い流行性疾病であり、アジア諸国でも公衆衛生学的に重要な疾患である1)

EKCは1889年にFuchsが「点状表層角膜炎」として最初に報告し、1938年に「流行性角結膜炎」の名称が用いられるようになった。その後1955年にJawetzらによってアデノウイルスとの直接的な病因関係が確定された1)。本邦では1959年の日本眼科学会総会のシンポジウムにおいて、epidemic keratoconjunctivitisを「流行性角結膜炎」とすることが決定された1)

当初、典型的なEKCは急性濾胞性結膜炎角膜上皮下混濁・耳前リンパ節症の3徴が揃ったときの臨床診断名とされ、原因はAdV8型に限定されていた。その後D種のAdV19・37型によるEKCも報告され、近年は新型のAdV53・54・56・64・85型による流行が確認されている1)

本邦では1981年から感染症発生動向調査(感染症サーベイランス)が継続されている。EKCは感染症法に基づく5類感染症で、全国約690の眼科定点医療機関から報告される1)。同じくアデノウイルス結膜炎である咽頭結膜熱PCF)は全国約3,100の小児科定点から報告される1)

ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版によれば、本邦では年間約70万〜130万人がEKCに罹患すると推計されている1)

期間EKC 定点あたり患者数(人/年)PCF 定点あたり患者数(人/年)
パンデミック前(2013-2019平均)34.8 ± 4.923.3 ± 3.2
パンデミック期(2020-2022平均)11.5 ± 1.6(約3分の1に減少)11.0 ± 0.17(約2分の1に減少)
2023年(ポストパンデミック)26.1556.7(通常の約2倍)

新型コロナウイルス感染症対策に伴う手指衛生・マスク着用などの一般的感染予防策により、2020〜2022年のパンデミック期にはEKC・PCFともに著明に減少した1,2)。2023年にはPCFが通常の約2倍の規模で再流行し、EKCもパンデミック前水準に近づいている1)

韓国の眼科定点サーベイランス(2013〜2022年)でも同様の傾向が確認されており、EKCの年間発生率は2018年の1,000人あたり22.5人をピークに、2022年には4.0人まで減少した2)。週単位の最大発生率は2016年の49.7から2022年の9.0に低下したが、8〜9月に集中する季節パターン自体は維持された2)

世界的にはAdV8がEKCの主要な原因型であるが、1997年以降AdV8の検出が減少し、これに代わってAdV54が2015〜2019年に最多の検出型となった1,18)。AdV54は国際的な報告例が少ない血清型であり、AdV53・56・64も継続的に検出され、2015年以降は新型のAdV85も発見・報告されている1,17)

年齢別では0〜6歳が最も高率で、7〜19歳・20歳以上の順に低下する。学校保健安全法施行規則では**第3種「その他の感染症」**に分類され、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。明確な日数規定はないが、おおむね2週間程度が目安とされる。

Q 「はやり目」はどのくらい感染力が強いのですか?
A

非常に強い感染力をもちます。アデノウイルスは乾燥した環境でも10日以上感染性を維持し、医療者の手指や眼圧計チップ、汚染された点眼瓶を介して院内感染の原因となります。家族内感染も多く、ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版でも家族内感染歴は臨床診断基準の補助所見の一つに位置づけられています。発症後約2週間、つまり臨床所見が治癒するまでは感染力があるため、眼脂や充血が消失するまで通学・通勤を控える必要があります。

流行性角結膜炎の角膜上皮下浸潤(治療前後比較)
Karaca EE, Çelik G, İdacı Koç Ş, Evren Kemer Ö. Evaluating the Efficacy of Topical Tacrolimus Alone and in Combination with Prednisolone for Treating Subepithelial Infiltrates in Epidemic Keratoconjunctivitis. Biomedicines. 2025;13(4):895. Figure 5. doi:10.3390/biomedicines13040895. PMCID: PMC12024548. License: CC BY 4.0.
治療開始前(左)の角膜には多発性の上皮下浸潤(SEI)が散在し、タクロリムス単独点眼3か月後(右)にはそれらが消退している。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱うアデノウイルス性角結膜炎角膜病変の経過に対応する。

潜伏期は7〜14日である1)。一般にまず片眼に発症し、数日をおいて他眼にも感染し両眼性となることが多い。両眼同時発症は1〜2割程度である1)

主な自覚症状は以下のとおりである。

  • 強い眼瞼腫脹(細菌性結膜炎より顕著)
  • 結膜充血
  • 流涙
  • 漿液線維素性の眼脂(水っぽく、一見「眼脂の少ない結膜炎」の様相)
  • 異物感
  • MSI出現後の羞明視力低下

細菌性結膜炎に比べ眼瞼腫脹が強いことが特徴である。眼脂は漿液線維素性であるため、粘液膿性の眼脂を呈する細菌性結膜炎との鑑別点となる1)。臨床症状は発症後5〜8日頃に最も強くなり、以後消退する。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

EKCは以下の3つを大きな特徴とする1)

  1. 濾胞性結膜炎:下瞼結膜から円蓋部にかけて濾胞が形成される
  2. 発症から1週前後に出現する多発性角膜上皮下浸潤(MSI)
  3. 耳前リンパ節の腫脹・圧痛

ただしこれら3徴がすべて同時に揃うわけではない。比較的炎症の強い濾胞性結膜炎でAdV結膜炎を疑い、経過中に典型所見が揃って結果的にEKCと診断される場合が多い1)

結膜・球結膜には強い充血がみられる。瞼結膜の濾胞は「濾胞性結膜炎」と診断する最も重要な所見であるが、結膜充血と混濁が強いと濾胞所見が取りにくいことがある1)。初期には上瞼結膜に**点状出血(小溢血点)**がみられることがあり、診断的価値が高い1)

重症例では発病から数日を経て瞼結膜偽膜が形成されることがあり、偽膜性結膜炎と呼ばれる1)。偽膜が形成されると眼脂は粘液膿性に近い外観を呈する。組織学的にはフィブリン・好中球・マクロファージ・リンパ球・樹状細胞を含む炎症産物である1)

結膜炎は通常2〜3週間で治癒するが、偽膜形成例では眼瞼腫脹・結膜充血・浮腫が遷延することがあり、炎症消退後に結膜に表在性の瘢痕が残ったり、高度の場合には結膜前垂を形成したりする1)

多発性角膜上皮下浸潤(MSI)と病期分類

Section titled “多発性角膜上皮下浸潤(MSI)と病期分類”

発病から4〜5日を過ぎると、フルオレセインに染まる点状の上皮性角膜炎が生じ、周囲に軽微な上皮内浸潤を伴いながら次第に点状〜小円形の上皮下浸潤へと進展する1)。これがMSIである。MSIは適切なステロイド治療がなされないと小円形〜斑状の上皮下混濁として数年以上残存し、視力障害(不正乱視羞明)の原因となる1)

ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版では、MSIの進展について以下の病期分類が示されている1)

MSIステージ 0〜Ⅱ(急性期)

ステージ0(発症2日):上皮性小水疱、大きさ25〜30μm。細隙灯顕微鏡でようやく観察可能

ステージⅠ(4〜5日頃):上皮性点状角膜炎(上皮表層)。点状隆起性病変で、フルオレセイン染色でグリーンの涙液フィルム中に小さなダーク・スポットとして観察される

ステージⅡ(6〜9日):上皮性点状角膜炎(上皮深層)。Ⅰの病変が融合し上皮深層まで変化が及ぶ。大きめの点状表層角膜症様にフルオに染色される

MSIステージ Ⅲ〜Ⅴ(亜急性〜慢性)

ステージⅢ(7日〜2週目):上皮下浸潤。Ⅱの病変に加えて上皮下に軽微な濁りを伴う

ステージⅣ(3週〜数か月):小円形上皮下混濁。フルオレセインに染まらない

ステージⅤ(数週〜数か月):顆粒状・小円形上皮下混濁。フルオレセインに染まらない。視力障害の原因となる

ステージⅢ以降がいわゆるMSIに該当する所見である1)

原因AdVの型により臨床像は異なる1)

  • AdV8(古典型):世界的にEKCの主要型とされてきたが、1997年以降検出が減少している。偽膜形成が多い
  • AdV54:発症初期の結膜炎は中等度、偽膜合併率は低いが、MSI合併率が**70〜80%**と高く、治癒後に上皮下混濁を残す例も多い。耳前リンパ節腫脹合併は約50%1,18)
  • AdV85:重症結膜炎で、眼瞼腫脹・結膜の点状出血・耳前リンパ節腫脹が約70%の高頻度に認められる。点状上皮性角膜炎・MSIなどの角膜合併症も多い1,17)
  • AdV4(マイルドEKC):軽症の結膜炎像を呈し、角膜炎合併頻度は約30%と低い1)
  • 乳幼児型:腺様組織が未発達なため濾胞形成が乏しく、強い充血と浮腫、偽膜が主体となる。耳前リンパ節腫脹も生じにくい。半数以上で発熱・咽頭炎・気管支炎・中耳炎・下痢・嘔吐などの全身症状を伴う。重症の上皮性角膜炎や角膜びらんを生じることがあり、細菌の重複感染で角膜潰瘍を起こしうる1)
  • 慢性乳頭性結膜炎:AdV結膜炎発症から1か月以上を経過しても異物感・眼脂を訴える型。瞼結膜には軽度の充血と乳頭増殖を認め、ビロード状を呈することもある。AdV3・5・7・8・19などが原因1)
  • AdV尿道炎合併型:AdV37・53・56は男性尿道炎の原因にもなる。AdV尿道炎患者の約半数が結膜炎を同時期に発症しているという報告があり、性感染症を介した感染経路も指摘されている1)
Q 角膜上皮下浸潤(MSI)はいつ頃出現しますか?
A

発病後4〜5日に角膜表層に点状の上皮性角膜炎が出現し、6〜9日でフルオレセイン染色される深層性の点状角膜炎へと進展、7日以降〜2週目に上皮下浸潤を形成します。3週以降は小円形〜顆粒状の上皮下混濁となります。MSIはアデノウイルス抗原に対する遅延型過敏反応と考えられており、ステロイド点眼に良く反応しますが、早期に中止すると再燃する場合があり、漸減や弱いステロイドへの段階的変更が必要です。視力低下や羞明が数か月〜数年持続することもあります。

アデノウイルス科(Adenoviridae)はエンベロープを持たない正20面体構造(直径70〜90 nm)の二本鎖DNAウイルスである。種A〜Gの7種に分類される。かつては中和反応により血清型として分類されていたが、AdV52型以降は遺伝子配列に基づく**遺伝子型(genotype)**として番号付けされている1)。現在はAdVゲノムの可変領域であるペントン(penton)・ヘキソン(hexon)・ファイバー(fiber)の各領域の配列で型を決定する1)

主な型主な疾患
A12, 31感染性胃腸炎
B13, 7急性呼吸器感染症、咽頭結膜熱
B211出血性膀胱炎
C1, 2, 5, 6急性呼吸器感染症
D8, 37, 53, 54, 56, 64, 85流行性角結膜炎
E4急性呼吸器感染症、結膜炎(マイルドEKC)
F40, 41感染性胃腸炎
G52感染性胃腸炎

EKCを起こすのは主にD種である1)。型とレセプターの関係が臨床像の差異を規定している1)

2012年、ZhouらによりAdV19の標準株はEKCを起こさず、EKCを起こすのはAdV19の変異株であることが明らかになった12)。この変異株はペントン領域がAdV22型・ファイバー領域がAdV37型のキメラ型であり、AdV64として再定義された1,12)

2015年以降、日本のEKC患者から新たに同定されたAdVがAdV85として報告されている17)。AdV85は組換え型の新型ヒトmastadenovirus Dに分類され、海外のEKC症例からも検出報告がみられる1,17)

最も重要な感染経路は手指を介する接触感染である1)。アデノウイルスは非常に強い生物学的性質をもち、多様な感染経路がある。

  • 医療者の手指:診察・処置を介した院内感染の主因
  • 眼圧計チップ:完全に眼球に接するため感染リスク高
  • 汚染された点眼瓶:処置用点眼薬は多数患者に使用されるため、不適切な使用法によって感染源となる
  • 環境表面:ドアノブ・台・椅子など。アデノウイルス浮遊液は自然乾燥下でも10日以上感染性を維持

家族内感染も多く、ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版では家族内感染歴を臨床診断基準の補助所見として採用している1)

AdV結膜炎は強い感染力により院内感染を引き起こすため、迅速かつ的確な診断が求められる1)。受付・視能訓練士・看護師が結膜充血・違和感などについて患者から聞き取りし、感染が疑われる患者には速やかに迅速診断キットで確定診断を試みることが重要である1)。病棟内で2人以上の患者が発生した場合は院内感染と判断し、新規入院患者の制限や1週間以上を目安とした病棟閉鎖措置をとる1)

AdV結膜炎の診断では、急性濾胞性結膜炎の所見とウイルス学的検査、または特徴的な臨床所見を組み合わせて判断する1)

区分項目
A. 微生物学的検査A-1. AdV迅速抗原検出キットによるAdV抗原陽性
A-2. PCR法によるAdV遺伝子検出
B. 他覚所見B-1. 急性濾胞性結膜炎
B-2. 結膜出血点
B-3. 結膜偽膜
B-4. 角膜のびまん性表層角膜炎ないし多発性角膜上皮下浸潤
C. 耳前リンパ節所見腫脹ないし圧痛がある
D. 全身所見発熱・咽頭痛・気管支炎のいずれか一つがある
E. 家族内感染ある
  • 確定診断:A のいずれか一つを満たし、B-1 を認めるもの
  • 臨床診断:B-1 および B-2 がいずれもあり、さらに B-3, B-4, C, D, E のいずれか一つが陽性であることを満たすもの

微生物学的検査が実施できない施設や微生物学的検査が陰性であってもEKCを強く疑う症例があるため、ウイルス学的検査と相関が強い臨床所見である結膜出血点・結膜偽膜・家族内感染を組み合わせた臨床診断基準が併設されている1)

イムノクロマト法(迅速抗原検出キット)

Section titled “イムノクロマト法(迅速抗原検出キット)”

イムノクロマト(IC)法を用いたAdV迅速抗原検出キットは、抗原検出キットと呼ばれ、迅速かつ簡便にAdV抗原の同定が可能な唯一の検査法である1)。臨床現場でのAdV結膜炎診断に欠かせない必須の検査であり、眼科外来に常備しておくことが望ましい。

検査法感度特異度判定時間特徴
イムノクロマト法(結膜擦過)約70〜80%ほぼ100%5〜15分陽性で確定。結膜擦過を綿棒で行う必要
イムノクロマト法(涙液採取)約70〜80%ほぼ100%5〜15分ろ紙5×5 mmを下眼瞼に当て低侵襲、小児に有用3)
銀増幅型自動化IC法上昇ほぼ100%約15分標識金コロイドを銀で約100倍拡大、現在最高感度4)
PCR法高感度当日〜翌日型同定可能、保険適用なし
ウイルス分離培養標準法標準法数週間ゴールドスタンダードだが時間要

結膜擦過検体の場合は、点眼麻酔を行ったうえで瞼結膜を綿棒で数回強く擦過する。検体量の少ないことが検出感度低下の一因であるため、十分な擦過が必要である1)。採取した綿棒は抽出液チューブで攪拌し、内壁に十分擦りつけて綿棒のウイルスを抽出液内に落とす1)

涙液採取は2018年以降に導入された手法で、付属のろ紙を下眼瞼に当てて結膜滲出液を含む涙液を採取する1,3)結膜を擦る必要がないため低侵襲で、小児症例にも有用である。2024年4月時点で涙液採取に対応する抗原検出キットは「クイックチェイサー® Adeno 眼」「クイックチェイサー® Auto Adeno 眼」「富士ドライケム IMMUNO AG カートリッジ Adeno OPH」の3キットである1)

特異度はほぼ100%であるため陽性であればAdV感染と確定できる。一方、検出感度は約**70〜80%**であり陰性でもAdV感染を完全には否定できない1)

感染性結膜炎診療に熟練した眼科医が採取した検体であっても、PCR法でAdV-DNAが検出できたのは約半数であった1)。さらに検出感度が80%程度であるため、PCR陽性検体すべてがIC法で陽性となるわけではない。実臨床では、抗原検出キットが陽性になるのは10〜20%程度であり、多くは陰性の結果となる1)。しかし陽性であればAdV感染が確定できるため、検査を実施する意義は大きい。

PCR法は配列特異的なプライマーとDNAポリメラーゼで標的DNA領域を数百万倍に増幅する遺伝子検査法で、抗原検出キットよりも高感度にAdVを同定できる1)。保険適用はなく、検査機関への外注または地方衛生研究所などの専門機関への依頼となる。

ヘキソン領域の塩基配列から血清型の同定が可能であり、ペントン・ヘキソン・ファイバーの各領域配列で型を決定する1)。臨床現場では型の違いで感染対策方針は大きく変わらないが、型によって結膜炎の重症度や角膜合併症の頻度に差があるため、型を知ることは治療や経過観察を行ううえで参考になる1)

臨床的にAdV結膜炎が疑われた患者の眼脂塗抹標本をギムザ染色し、単核球(リンパ球)優位であればウイルス感染が疑われ、AdVを含むウイルス性結膜炎を示唆する補助診断法となる1)

急性濾胞性結膜炎を呈する感染性疾患との鑑別が必要である。ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版には結膜炎鑑別診断のフローチャートが掲載されており、瞼結膜の濾胞・乳頭の有無、眼脂の性状、角膜・眼瞼などの付随所見、全身症状の有無から診断する1)

疾患臨床病型眼脂角膜所見耳前リンパ節全身症状
AdV結膜炎(EKC)濾胞性漿液線維素性上皮性角膜炎・MSI腫脹・圧痛PCFでは咽頭痛・発熱
細菌性結膜炎カタル性粘液膿性上皮性なしなし
エンテロウイルス(AHC濾胞性漿液線維素性上皮性・球結膜下出血時に+なし
HSV結膜炎濾胞性粘液膿性樹枝状・地図状時に+初感染で発熱
クラミジア結膜炎(成人)濾胞性粘液膿性点状浸潤腫脹・圧痛尿道炎
アレルギー性結膜炎春季カタル乳頭性粘液性輪部腫脹・シールド潰瘍なしアトピー皮膚炎

特にHSV結膜炎との鑑別は困難である。HSV結膜炎は片眼性が多く約7日と比較的短期間で軽快するが、樹枝状角膜炎などの典型像を呈することはまれで、AdV迅速抗原検出キット陰性例に一定数含まれていると考えられる1)。眼瞼や皮膚に病変を合併することがあるため、皮膚所見にも注意する。

クラミジア結膜炎は片眼性で2週間以上持続し、尿道炎・子宮頸部炎の既往が参考になる。エンテロウイルスによる急性出血性結膜炎AHC)は両眼同時急性発症と球結膜下出血が特徴である1)

EKCは感染症法5類感染症で、眼科定点医療機関は週単位で報告を行う。学校保健安全法施行規則では**第3種「その他の感染症」**に分類され、医師が感染のおそれがないと認めるまで出席停止となる。明確な日数規定はないが、臨床経過からおおむね2週間程度が目安とされる。

Q 迅速検査が陰性なら流行性角結膜炎ではないと言えますか?
A

言えません。2025年版のウイルス性結膜炎診療ガイドラインによれば、迅速抗原検出キットの感度は約70〜80%であり、陰性でもAdV感染を完全には否定できません。感染性結膜炎診療に熟練した眼科医が採取した検体でもPCR法でAdV-DNAが検出できるのは約半数で、PCR陽性検体のすべてがIC法陽性になるわけではありません。陰性でも臨床所見と経過から強くEKCが疑われる場合は、結膜出血点・偽膜・家族内感染といった臨床診断基準を組み合わせて診断します。

現時点でアデノウイルスに対する特異的な抗ウイルス薬はなく、EKCの根本治療はできない1)。治療の対象は急性期の消炎とMSIの治療であり、ステロイド点眼・ヨード製剤・免疫抑制薬点眼はいずれも病期や重症度に応じて慎重に検討する1)

治療フローの全体像(2025年版GL 図32)

Section titled “治療フローの全体像(2025年版GL 図32)”

ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版に示された治療フロー1)を以下にまとめる。

  1. 急性期(発症〜7日)
    • 感染予防指導(最重要)
    • 上皮障害が高度な場合:短期抗菌薬点眼で二次感染予防
    • 高度炎症(偽膜・糸状角膜炎角膜上皮欠損)の場合:ステロイド点眼で消炎
    • ヨード系点眼(OTC医薬品)を3日〜1週間程度併用することも一つの選択肢
  2. 再診時(発症7日程度)
    • MSI 出現あり:ステロイド点眼を開始(重症ではヨード系併用も考慮)
  3. 慢性期(MSI遷延時)
    • ステロイド漸減で再燃する症例・ステロイド抵抗性のMSI・ステロイドによる眼圧上昇例:免疫抑制薬点眼(OTC医薬品)を考慮

ウイルス性結膜炎には本来抗菌薬点眼は無効であり、病初期の高度の角膜上皮障害時に限り使用する1)。D種などの重症EKCでは細菌の重複感染がある頻度でみられるため、抗菌薬点眼が必要な場合がある。

本邦におけるキノロン耐性コリネバクテリウムの急増という現状から、第一選択はセフメノキシム点眼が望ましい1)。アミノグリコシド系の点眼薬は角膜上皮障害を生じやすく避けるべきである1)。いずれの抗菌薬も適正使用を念頭に短期間投与とする。

ステロイド点眼は軽症の場合は必須ではないが、強い炎症に伴って偽膜形成や糸状角膜炎角膜上皮欠損を生じている場合や、早期の症状緩和目的に有用である1)

しかしステロイド点眼投与による緑内障白内障の副作用に加え、ウイルスクリアランスの遅延が指摘されている1)。したがって、ウイルス増殖の盛んな急性期では、ステロイド点眼はヨード製剤との併用が望ましい1)

MSI出現時のステロイド点眼は、AdV抗原に対する遅延型過敏反応により生じた細胞浸潤に対して有用である。代表的処方例として、0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(サンベタゾン®)などの強めのステロイドを使用すると、かなり強い混濁でも軽快・消失させることができる。早期に点眼をやめると再び混濁が増強してくる場合もあり、点眼回数の漸減や弱いステロイドへの順次変更などの方策が必要である。長期使用時は眼圧モニターが必須である。

3歳以下の点眼が困難な高度炎症例では、ステロイドの内服も考慮される1,9)

ヨード製剤は遊離したヨウ素が微生物の表面蛋白質を酸化変性させ殺菌作用を発揮する1)。ポビドンヨード(PVP-Ⅰ)は in vitro の検討で多くのAdV型に対し1〜5分で有効であり、AdV-1, -2, -3, -4, -5, -6, -7, -8, -11, -37, -53, -54, -56, -64, -81, -85 に対する有効性が確認されている1)

ただしPVP-Ⅰは原則として眼粘膜への使用には推奨されておらず、本邦では同様の不活化効果をもつ**ヨウ素・ポリビニルアルコール(PVA-Ⅰ)**の希釈液が用いられる1)

  • PA・ヨード点眼・洗眼液:生理食塩水で4〜8倍に希釈して使用。角膜ヘルペスおよび洗眼殺菌の適応で眼表面に対する安全性・有効性が認められている
  • サンヨード®点眼液:2022年に上市されたOTC医薬品。保険適用外、患者全額負担、開封後3日以内の限定使用、刺激あり

EKC発症後1週の症例を対象とした検討では、6倍希釈のPVA-Ⅰ・0.1%フルオロメトロン点眼(フルメトロン®0.1%)併用で、レボフロキサシン水和物・0.1%フルオロメトロン点眼併用に比してMSI発症を抑制する効果が示された6)。来院時の1回投与のみでも初期の症状抑制に有効であったとする報告もある5)

免疫抑制薬点眼(保険適用外)

Section titled “免疫抑制薬点眼(保険適用外)”

ステロイドの免疫抑制薬として、シクロスポリンとタクロリムスが用いられる。いずれもカルシニューリンを阻害し、T細胞増殖に必要なIL-2産生を抑制する1)

  • シクロスポリン点眼 0.05% / 0.5% / 1% / 2%MSIの急性期発症予防と改善、慢性期遷延化に対して有効との報告がある1,7)ステロイドに比して中止後の再燃が少ない利点がある1)。動物モデルではMSIを抑制する一方でウイルス力価を増加させることが知られている1)
  • タクロリムス点眼 0.03%:慢性期のMSI遷延例に対し、MSIの大きさと数を減少させ視力予後改善につながる1,8)ステロイド抵抗性MSIに対しても有効でステロイド漸減が期待できる。副作用は17.8%(灼熱感・発赤・異物感が主)で、眼圧上昇を引き起こさないことは大きな利点である1)

これらは、ステロイド抵抗性あるいはステロイド漸減で再燃するMSI症例、ステロイド点眼で眼圧上昇をきたした症例に対して使用を考慮する1)

偽膜はフィブリン・好中球・マクロファージ・リンパ球・樹状細胞を含む炎症産物であることが組織学的に示されており、結膜の線維化や角化による癒着・瘢痕化を防ぐために早期に除去する必要がある1)。剝離処理に際しては感染対策に十分配慮し、無理に剝がすことのないよう留意する。

AdV結膜炎による角結膜障害の悪化やウイルスの伝播を予防するために、コンタクトレンズの装用中止を指導する。ウイルス排出期間を考慮して発症後約2週間、つまり臨床所見治癒まで中止とする1)。その後は遷延化MSIの有無により決定する。

院内感染対策(2025年版GL 第Ⅵ章)

Section titled “院内感染対策(2025年版GL 第Ⅵ章)”

手指を介する感染経路が主体であるため、手洗いと手袋着用が重要である1)

  • 医療者の手指:流水で物理的にウイルスを除去後、消毒用エタノールや速乾性手指消毒薬を手指になじませ乾燥させる。ウイルス感染が疑われる患者にはディスポーザブル手袋を使用
  • 眼科診察器具(細隙灯顕微鏡・間接倒像鏡・非接触型レンズ・検眼枠・検眼レンズ):使用後に80%アルコール清拭
  • 完全に眼球に接する器具(接触型レンズ・開瞼器・眼圧計チップ):十分な水洗後に80%アルコールに5分間浸漬
  • 環境表面(ドアノブ・台・椅子・受付窓口):80%アルコール清拭
  • 最強消毒薬:0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ただし皮膚障害・金属腐食性があり手指・診療器具には使用不可)
  • マルチパーパス消毒薬(MPD):ルビスタ®(Virkon®)などが80%アルコール清拭の代替として使用可能で、各種ウイルス・細菌の不活化に高い効果を示す1)

病棟内で2人以上の患者が発生した場合は院内感染と判断し、新規入院制限・1週間以上の病棟閉鎖措置をとる1)

薬剤分類薬剤・濃度用法位置づけ
抗菌薬セフメノキシム点眼短期上皮障害高度時の二次感染予防(第一選択)
ステロイドフルメトロン®0.1%(フルオロメトロン)1日4〜5回急性期高度炎症・偽膜合併例
ステロイドサンベタゾン®(ベタメタゾン0.1%)1日5回MSI治療(強めのステロイド
ヨード製剤PA・ヨード点眼(PVA-Ⅰ)生食4〜8倍希釈急性期ウイルス不活化を目的に検討
ヨード製剤サンヨード®点眼液(OTC)開封後3日以内急性期ウイルス不活化を目的に検討
免疫抑制薬シクロスポリン点眼 0.05〜2%1日数回ステロイド抵抗MSIで検討(保険適用外)
免疫抑制薬タクロリムス点眼 0.03%1日2回慢性期MSI遷延例で検討(保険適用外)
Q ステロイド点眼はいつ使いますか?
A

ステロイド点眼は全例に用いるものではなく、強い炎症や偽膜形成・糸状角膜炎角膜上皮欠損を伴う場合、多発性角膜上皮下浸潤(MSI)が出現した場合に検討される。急性期の使用ではウイルスクリアランスが遅延するため、ヨード製剤との併用が望ましいとされる。MSIに対する0.1%ベタメタゾンなどの強めのステロイドは奏効するが、早期中止は再燃を招くため漸減や弱いステロイドへの段階的変更が必要で、長期使用時は眼圧モニターが必須である。ステロイド抵抗例や眼圧上昇例では、保険適用外であることを踏まえてシクロスポリンやタクロリムス点眼を考慮する。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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アデノウイルスの構造と感染機序

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アデノウイルス科(Adenoviridae)はエンベロープを持たない正20面体構造(直径70〜90 nm)の二本鎖DNAウイルスで、分子量は20〜25×10⁶である。結膜上皮細胞のレセプターに親和性をもつアデノウイルスのファイバーが接着して感染が始まる。レセプターは型により異なっており、結膜炎症状の強いEKCタイプと全身症状が前面に出るPCFタイプの臨床像の差は、レセプターとウイルスファイバーの関係に規定されている。

かつてはAdVの型は培養ウイルスを用いた中和反応により**血清型(serotype)**として決定されていた1)。しかし入手可能な中和用抗血清の型が限られていたため、すべての型の決定は困難だった。

その後、遺伝子検査法の進展により中和の遺伝子であるヘキソン領域の塩基配列から血清型の同定が可能となった。さらにAdVゲノムの構造が明らかとなり、型間の組換えウイルスの存在が明らかになった1)。AdV1〜51は中和法による血清型であるが、AdV52以降は塩基配列に基づく**遺伝子型(genotype)**として番号付けされる1)。現在はペントン・ヘキソン・ファイバーの各領域配列で型を決定する。

2012年、ZhouらはAdV19の標準株がEKCを起こさないこと、EKCを起こすのはペントン領域22型・ファイバー領域37型のキメラ型AdV19変異株であることを明らかにし、これをAdV64として再定義した12)

本邦の南九州における2011〜2014年のAdV結膜炎臨床所見の検討では、AdV8・37・54はAdV53・56よりも有意に高頻度に角膜合併症を引き起こし、感染期間も長いことが報告されている16)。型を正確に知ることが臨床的・疫学的に有意義であることを示唆している。

KanekoらはAdV54の分子疫学的検討から、AdV54がAdV8に進化的に近縁であり、本邦で1997年以降AdV8の検出減少と入れ替わるように流行するようになった経緯を示している18)。AdV54は海外からの報告がほとんどなく、本邦独自の流行型である1,18)

MSIは角膜実質の最表層において、AdV抗原に対する遅延型過敏反応が生じて起きた細胞浸潤であり、ウイルスの増殖によるものではないと考えられている1)。1959年の杉浦清治による古典的研究以来、この概念が定着している。ただしアデノウイルスが潜伏感染している可能性も完全には否定されていない。

発症後10日前後には型特異的な中和抗体価が上昇し、臨床症状の軽快と一致する。中和抗体は型特異的で、たとえばAdV8感染ではAdV3の中和抗体を持たないため、臨床的な再感染がありうる。一方、同一種内には交差反応があるため、AdV37既往症例はAdV8にも罹患しにくい。

ただし中和抗体は終生産生維持されない可能性が指摘されており、小児期に罹患した症例が壮年期以降に同一型に再感染する可能性は否定できない。

Ariciら(2022)はSEI(subepithelial corneal infiltrates)罹患眼33名66眼の検討で、先行眼の中心角膜厚(CCT)が526.1±28.1μmと対照群(557.0±38.1μm)に比べ有意に薄いことを報告した(p=0.003)13)。先行眼の最良矯正視力(logMAR)は0.20±0.29と対照群(−0.01±0.05)より有意に低下しており、SEI密度とIOPg・IOPccの間に負の相関が認められた(r=−0.479, p=0.006)13)。SEI罹患眼での中心角膜厚低下は、ステロイド治療中の眼圧測定値を過小評価させる可能性があることに注意が必要である。

ウイルス性結膜炎診療ガイドライン2025年版によれば、新型コロナウイルス感染症対策によりパンデミック期にはEKCの定点あたり報告数がパンデミック前の約3分の1まで減少したが、2023年にはほぼ通常水準まで回復している1)PCFは2023年に通常の約2倍の規模で再流行しており、今後EKCもパンデミック前の水準を超える流行が起こる可能性に留意が必要である1,2)

特に保育所・幼稚園・学校など、過去に高い発生率を示した年齢層での動向監視が重要である2)

特異的抗ウイルス薬の開発は進行中である。ガンシクロビルゲルポビドンヨードは急性EKCの期間短縮と上皮下浸潤発現リスク低減が報告されているが、最適濃度・用量は確立されていない5,10,11)。Cochraneレビュー(Liu 2022)では、現時点でEKCに対する局所薬理学的介入のエビデンスは限定的であり、対照群と比較して臨床的に確固たる有益性を示した薬剤はないと結論されている15)

シクロスポリンおよびタクロリムス点眼はMSIの治療において有望視されており、特にステロイド抵抗例・ステロイド漸減で再燃する症例で検討される1,7,8)

検証中の抗ウイルス薬として、シドフォビル点眼は細胞内でウイルスDNAポリメラーゼを阻害するが、無作為化比較試験では臨床経過改善に有意性はなく、涙道狭窄・結膜炎症などの副作用も報告されている。トリフルリジン点眼はAdV8・19・13に対し in vitro でのウイルス量減少を示すが、ヒト臨床試験での治療期間短縮は認められていない。ファムシクロビル経口はAdVの強力な阻害薬として第Ⅱ相試験の候補となっている。

涙液採取によるイムノクロマト法、銀増幅型自動化IC法など、低侵襲かつ高感度な迅速診断キットが導入されている1,3,4)。これらは特に小児症例での負担軽減と、後発眼など従来感度が低かった症例での検出率向上が期待される。

EKCに続発する急性涙腺炎は成人では極めてまれな合併症である。Takahashiら(2022)はEKCに関連した成人急性涙腺炎を報告し、血清検査でアデノウイルス3型IgM陽性が確認された14)。涙腺への直接侵入または角結膜病変からの二次波及が機序として考えられており、成人例は4〜5例のみの報告にとどまる14)

2015年以降、本邦で新型ウイルスAdV85が同定され、福島県内の5症例を含む報告がなされている17)。AdV85は組換え型のヒトmastadenovirus Dで、典型的なEKCの臨床像(重症結膜炎・点状出血・耳前リンパ節腫脹・MSI)を示す1,17)。今後の流行動向に注意が必要である。

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