3時9時染色(HCL)
部位:角膜輪部の3時・9時方向に限局
原因:瞬目時にHCLが約2mm上下動し、3時・9時方向から涙を吸い込む際に局所乾燥が生じる。スティープなフィッティングでも出現する。
経過:軽症は3〜5日で治癒。びらんに進行した場合は約1週間を要し角膜混濁を残しうる
コンタクトレンズ不耐症(contact lens intolerance)は、CL装用が原因または誘因となって眼表面障害・自覚症状が慢性的に持続・反復し、CL継続装用が困難となる状態の総称である。無症候性の軽微なものから角膜潰瘍に至る重症例まで程度はさまざまである。
CL装用は感染性角膜炎の最大の危険因子であり1)、米国では年間約71,000件の微生物性角膜炎が発生すると推計されている1)。CL装用者全体では、CL関連の角膜浸潤性イベント(CIE)の年間発症率は100人年あたり約3〜6件と報告されている5)。
CLが眼障害を誘発する主なメカニズムは以下の5つに大別される。
| メカニズム | 代表的病態 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 機械的障害 | 3時9時染色・SEAL | HCL瞬目時摩擦、SiHy硬さ |
| 低酸素障害 | 角膜新生血管・浮腫 | 低Dk/t、長時間装用 |
| 涙液不安定化 | スマイルマークSPK | ドライアイ背景、SiHy脂質汚れ |
| 免疫反応 | CLARE・CLPU・GPC | 細菌産物、タンパク沈着 |
| 感染 | 感染性角膜炎・AK | ケア不良、就寝時装用 |
シリコーンハイドロゲル(SiHy)レンズの普及により低酸素関連合併症は減少したが、脂質性汚れによる不耐症は増加傾向にある6)。CL装用はアカントアメーバ角膜炎(AK)の最大リスク因子の一つであり、AK患者の88%以上がCL装用者であったと報告されている3)。ワンデーディスポーザブル(DD)レンズはDW reusableレンズに比べてAKリスクを大幅に低下させ(OR 0.26; 約3.84倍の差)、DD切り替えで30〜62%のAK症例が予防可能と推計される3)。
ワンデーディスポーザブルレンズはレンズケア不要でケース汚染のリスクがなく、タンパク汚れの蓄積も最小限です。巨大乳頭結膜炎やケア剤関連の合併症が起きにくく、アカントアメーバ角膜炎のリスクも大幅に低下します。ただしドライアイ関連の上皮障害や、就寝時装用による合併症はワンデーレンズでも生じうるため、装用時間の管理と定期検査は引き続き重要です。

CL不耐症の主な自覚症状は以下のとおりである。
| 自覚症状 | 特徴 |
|---|---|
| 異物感・ゴロゴロ感 | 軽症では装用直後、重症では常時 |
| 充血 | 軽〜中等度。球結膜・毛様充血 |
| 眼脂 | 水様性〜粘液性。膿性は感染を疑う |
| 眼痛 | 軽〜中等度。強痛は感染性を疑う |
| 霧視・視力低下 | 上皮障害による光散乱 |
| 装用時間の短縮 | 以前より早くCLを外したくなる |
充血・眼脂・疼痛のすべてを併発した場合は感染性角膜潰瘍の可能性があり、とくに注意を要する。すべてのCLは角膜知覚を低下させる(hypoesthesia)。知覚低下によりCL装用者は角膜障害の初期症状を自覚しにくい場合がある1)。
フルオレセイン染色所見を広がり方(点状・面状・線状)と深さ(SPK・角膜びらん・角膜潰瘍)でパターン分類すると原因を推定しやすい。
3時9時染色(HCL)
部位:角膜輪部の3時・9時方向に限局
原因:瞬目時にHCLが約2mm上下動し、3時・9時方向から涙を吸い込む際に局所乾燥が生じる。スティープなフィッティングでも出現する。
経過:軽症は3〜5日で治癒。びらんに進行した場合は約1週間を要し角膜混濁を残しうる
スマイルマーク点状表層角膜症(SCL)
部位:瞳孔領下方(笑顔の口の形に一致)
原因:もともとドライアイのある患者でレンズ下涙液が減少して生じる。SCL装用者のドライアイに特有のパターン。
経過:ドライアイ用点眼薬で対応。夕方以降の早期脱離を指導する
びまん性点状表層角膜症(HCL/SCL)
部位:角膜全体にほぼ均一
原因:CL装用による酸素不足。レンズ汚れが機械的刺激を加え悪化する
経過:CL中止と点眼治療で4〜5日で治癒する
その他の点状病変パターンは以下のとおりである。
| パターン | 原因 | 特徴 |
|---|---|---|
| ドーナツ状点状表層角膜症 | カラーCLの色素露出・SiHy+PHMB | 中央部が少なく周辺に集中 |
| ビッグマウス点状表層角膜症 | プリズムバラスト型SCLの酸素不足 | 角膜下方2/3に限局 |
| リング状ステイニング | SiHyとケア剤の不適合 | 2010年頃に問題化、現在は激減 |
面状・線状の病変として以下が重要である。
まずCLを直ちに外してください。痛みが軽度で視力低下がなければ、翌日まで装用を中止して様子をみることもできます。ただし充血・眼脂・強い疼痛を伴う場合は感染性角膜炎の可能性があるため、速やかに眼科を受診してください。外したCLは破棄せず、原因検索のため受診時に持参するとよいでしょう。
各CLタイプと典型的な合併症の関係を以下に示す。
| CL種別 | 典型的合併症 | 主な原因機序 |
|---|---|---|
| HCL(RGP) | 3時9時染色、角膜浸潤 | 機械的摩擦、局所乾燥 |
| HEMA系SCL | びまん性SPK、角膜新生血管 | 低Dk/tによる低酸素 |
| SiHy SCL | SEALs、脂質汚れ関連 | 素材の硬さ、疎水性 |
| カラーCL | ドーナツ状SPK、感染 | 色素露出、Dk/t低下 |
| オルソケラトロジー | 感染性角膜炎 | 就寝時装用、複雑形状の汚染 |
| DD SCL | AK(使用方法誤り時) | 就寝時装用、再使用 |
主なCLケア剤の特徴と注意点を以下に示す。
| 種別 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|
| MPS/MPDS | 一液で洗浄・消毒・保存が可能 | 真菌・ウイルスに対する消毒効果が弱い |
| 過酸化水素製剤 | MPSより消毒効果が高い | 中和不適切で角結膜障害の可能性 |
| ポビドンヨード製剤 | 最も消毒効果が高い | ヨードアレルギーでは使用不可 |
消毒効果がいかに高くても、基本のこすり洗い・すすぎ・レンズケースの洗浄と乾燥などのケアを怠ると、角膜潰瘍などの重篤な眼障害を起こす7)。
AKはCL装用者に多い重篤な感染症である。DDレンズ装用者でも以下のリスク因子が同定されている3)。
| リスク因子 | オッズ比(95% CI) |
|---|---|
| 定期検診を受けていない | 10.12 |
| レンズの再使用 | 5.41 |
| 就寝時装用 | 3.93 |
| シャワー中の装用 | 3.29 |
DW reusableレンズからDDレンズへの切り替えにより、AK症例の30〜62%が予防可能と推計される3)。
CL不耐症の診断には、CL種類・レンズケア方法・装用時間の詳細問診が不可欠である。CLによる角膜障害の診断には細隙灯顕微鏡検査が必須であり、上皮欠損のパターン判定にはフルオレセイン染色が有用である。HCL装用眼ではフルオレセイン染色前にレンズ表面の汚れや水濡れ性を観察することがポイントである。
| 検査 | 目的・適応 |
|---|---|
| フルオレセイン染色 | 上皮障害パターン判定(必須) |
| 角膜培養・グラム染色 | 感染性角膜炎の除外(充血・眼脂・疼痛の三徴がある場合は必須)8) |
| 共焦点顕微鏡 | AK初期診断・角膜神経評価 |
| 前眼部OCT | SEAL・角膜浮腫の評価 |
| シルマー試験・BUT | ドライアイ背景の評価 |
| レンズ表面観察 | 汚れパターン・脂質付着の確認 |
染色部位・形態・範囲から原因を推定する。
| 染色パターン | 推定原因 | 推奨される対応 |
|---|---|---|
| 3時9時(輪部限局) | HCLドライアイ・ステープフィット | ドライアイ点眼、フィット調整 |
| スマイルマーク(下方) | SCL+ドライアイ | ドライアイ治療、早期脱離指導 |
| びまん性均一 | 低酸素・汚れ | CL種類変更、Dk/t向上 |
| 上方弧状(SEAL) | 硬いSiHy素材 | 素材変更 |
| 周辺部単発浸潤(CLPU) | 細菌産物免疫反応 | CL中止、抗菌薬±ステロイド |
| 角膜中央浸潤 | 感染性角膜炎 | 緊急培養+抗菌薬 |
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 上輪部角結膜炎(SLK) | 結膜上皮も染色される(SEALsでは結膜染色なし) |
| 感染性角膜潰瘍 | 充血・眼脂・疼痛の三徴、培養で確定 |
| 角膜ヘルペス | 樹枝状潰瘍(偽樹枝状はCL関連) |
感染性と非感染性の鑑別では、充血・眼脂・疼痛の三徴と前房炎症の有無が重要である。CLPUは上皮欠損を伴わないこともあり、感染性角膜炎との鑑別に注意が必要である6)。
CL不耐症の予後は原因・重症度により異なる。軽症の点状表層角膜症(SPK)では、CL中止後3〜5日で上皮が回復し、点眼治療の追加で完全治癒が期待できる。SEALsや3時9時染色のびらんでは7〜10日程度を要し、混濁を残すことがある。
感染性角膜炎が重症化した場合には、抗菌薬治療と入院管理が必要となることがあり、治癒後に角膜瘢痕や不正乱視が残存することがある。アカントアメーバ角膜炎は治療に1年以上を要することもあり、角膜移植が必要となる重症例もある。
非感染性角膜浸潤(CLPU・CLARE)の予後は概ね良好で、適切な管理で通常1〜2週間以内に治癒する9)。ただし再発を繰り返す場合は、CL装用のあり方を根本的に見直す必要がある。再発が多い症例では、DDレンズへの変更・装用スケジュールの変更・ドライアイ治療の強化・MGD管理を組み合わせた包括的アプローチが求められる。
巨大乳頭結膜炎(GPC)の予後は適切な治療と原因(タンパク汚れ・CL素材)の排除により良好だが、CL種類変更をしないと再発しやすい。GPCの改善には数週〜数カ月を要することがある。GPC再燃を繰り返す難治例では、眼鏡への完全移行や、ICL・LASIK・SMILE等の屈折矯正手術への移行も長期的な選択肢として検討対象となる。
CL装用の中止と原因除去が基本である。角膜所見から原因を推測し、治癒期間・後遺症の有無・CL変更の要否を個別に説明する。
治癒後は原因に応じたCL変更を行う。3時9時染色ではSCLへの変更、SEALsでは安全なSCLの選択、スマイルマーク点状表層角膜症では保水性に優れたシリコーンハイドロゲルレンズへの変更が有効である。
点眼薬治療:
CL装用中止と抗菌薬+低濃度ステロイド(0.1%フルオロメトロン)点眼で治療する。浸潤病巣が混濁として残ることがあるためステロイド使用が望ましいが、感染が完全に否定できない段階での使用は慎重に判断する。感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)では細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用は「併用しないことを弱く推奨」としており8)、原因菌同定前の安易な使用は控えるべきである。
視力脅威なし
対象:浸潤2mm以下かつ視軸から3mm以上離れた小さな非中心性潰瘍
治療:フルオロキノロン系点眼による経験的治療(エンピリックセラピー)。0.5%レボフロキサシン・0.5%モキシフロキサシン等1日4〜6回
視力脅威あり
対象:浸潤2mm超、視軸から3mm未満、または治療開始48時間後の悪化例
治療:角膜培養+グラム染色を施行し、バンコマイシン(25〜50 mg/mL)+強化トブラマイシン(14 mg/mL)点眼を1時間毎に開始。培養結果に応じて薬剤変更1)
CLの即時中止が必須である。アカントアメーバ角膜炎には、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、イセチオン酸プロパミジンなどの多剤併用が行われる。
CL装用中止またはワンデータイプへの変更が基本である。0.1%フルオロメトロン1日4回を1〜2週間使用する。症状改善後に元のレンズに戻しても再発することが多く、CL種類の変更が望ましい。
微小嚢胞性・水疱性角膜上皮症の疼痛緩和にBCLを使用する場合は、高含水・高Dk値の薄型レンズが安全とされる2)。使用時には二次感染予防のため予防的広域抗菌薬の併用が推奨される2)。BCLは角膜浮腫の長期的な解決策とはならない2)。
シリコーンハイドロゲルレンズは従来のHEMAレンズに比べ酸素透過性が飛躍的に向上しており、低酸素関連の合併症は大幅に減少しました。ただし素材の疎水性から脂質性汚れが付きやすく、ケア剤の適切な選択が重要です。素材の硬さからSEALsを生じることがあり、一部のケア剤との不適合でリング状ステイニングが報告されています。どのCLでも適切なケアと定期検査が欠かせません。
CLは角膜への大気中酸素供給を制限する。酸素透過率(Dk/t)の低いレンズでは角膜上皮の嫌気性代謝が亢進し、乳酸蓄積による浸透圧上昇から上皮浮腫が生じる。1990年頃まで主流であったHEMAの従来型SCLでは酸素不足による急性上皮浮腫が頻発したが、現在はSiHyレンズが主流となり低酸素障害は減少している。慢性的な低酸素状態は角膜新生血管を誘発し、長期装用者では潜在的な輪部幹細胞欠損を反映している可能性がある。
瞬目時のCLと眼表面の摩擦が上皮障害を引き起こす。HCLでは瞬目のたびにレンズが約2mm上下に移動し、3時・9時方向から涙液を吸い込む際に局所乾燥と点状表層角膜症が生じる。SCLではSEALsが上眼瞼がCLを押さえている部位に発生し、レンズの角膜側表面が不整である場合にとくに起きやすい。
SiHyレンズは素材が疎水性であるため、表面にプラズマ処理等で親水性を改質している。従来のハイドロゲルレンズとは異なり脂質性汚れを起こしやすく、MPSに含まれる洗浄剤も脂質性汚れへの対応が必要となる。脂質性汚れが蓄積すると免疫反応を惹起し、GPCや角膜浸潤の原因となる6)。
CL装用による慢性的な機械的刺激や細菌内毒素が免疫反応を惹起し、無菌性浸潤を生じる9)。消毒不十分なSCLやレンズケース内のバイオフィルムが原因となることが多い10)。レンズケース内のバイオフィルム形成は感染性角膜炎の重要なリスク因子であり、バイオフィルム内の細菌は消毒剤に対する耐性が高い10)。GPCではCL表面に沈着したタンパク質に対するI型アレルギー反応が関与する。
AKはCL装用者に特有の重篤な原虫性角膜炎である。Acanthamoeba は水道水・プール・土壌等に広く存在し、CL装用者の角膜に侵入する。CLによる角膜上皮の微小損傷がAKの侵入門戸となる。疼痛が強く(特に夜間増悪)、角膜神経に沿った放射状角膜神経炎がAKの早期サインである。治療にはPHMB・イセチオン酸プロパミジン等の多剤併用が必要で、長期治療(1年以上)を要する重症例もある。
多焦点ソフトCLは近視進行抑制を目的として使用されることがある。Level Iエビデンスを有する複数のRCTで、単焦点レンズや眼鏡と比較して近視進行の有意な抑制が示されており、SE変化は多焦点CL群で-0.22〜-0.81 D、対照群で-0.50〜-1.45 Dと報告されている4)。重篤な有害事象の報告はないが、長期的な効果・最適な治療期間・装用終了後の反跳効果は未確立である4)。CL不耐症を有する小児での多焦点CL使用は、CL不耐症管理と近視抑制効果のバランスを慎重に評価する必要がある。
DDレンズへの切り替えによるAKリスク低減は公衆衛生上の意義が大きい。DW reusableレンズからDDレンズへの移行により、AK症例の30〜62%が予防可能と推計されており3)、患者教育とともに処方方針の見直しが求められる。
2021年に発表されたTFOS CLEAR(Contact Lens Evidence-Based Academic Reports)は、CL合併症の分類・疫学・リスク因子・予防策を体系化し6)、CL不耐症を含む炎症性合併症の国際的な標準参照となっている。レンズ素材・装用スケジュール・ケア製品の組み合わせによるリスク層別化と個別化管理の重要性が強調されている6)。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はCL表面・レンズケースに定着しやすく、CLPU・CLAREの主要な原因菌の一つである。Jalbertらの研究ではCLPU発症時にCL表面から黄色ブドウ球菌が分離され、菌体成分(ペプチドグリカン・リポタイコ酸)が角膜上皮のToll様受容体を介した免疫反応を引き起こすことが示された11)。SiHyレンズでの連続装用(30日)では、非感染性角膜浸潤の年間発症率は100人年あたり約20件に達し、低酸素関連合併症は減少したもののCIEリスクは依然として高い12)。
Steeleらの最新総説によれば、CL関連浸潤性イベントの疫学は素材・装用スケジュール・ケアにより大きく変動する13)。DDレンズはCIEリスクを有意に低下させ、CL不耐症管理における重要な予防戦略の一つである。
TFOS DEWS IIIに基づく段階的ドライアイ治療は、CLIDEを含むCL関連眼表面障害の基盤にあるドライアイを是正することで、CL不耐症全般の予後改善につながる14)。人工涙液・ジクアホソル・レバミピド等の涙液分泌促進薬がCLIDE症状を改善し、CL装用継続率を高める可能性がある。
世界のCL装用者数は約3億人に達し、CL関連合併症の予防は公衆衛生上の重要課題である15)。CL不耐症の予防・管理を通じて、CL装用者のQOLと眼の健康を長期にわたって維持することが眼科医の重要な役割である。
使用中のレンズケースの30〜80%に細菌汚染が認められるという報告があり10)、こすり洗いとケースの定期交換・乾燥が不可欠である。次亜塩素酸ナトリウム製剤(プロージェント等)による定期洗浄(2週間に1回程度)がバイオフィルム除去に有効であることが報告されており、オルソケラトロジーガイドラインでも推奨されている。