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その他

ゴールドマン動的視野検査(GP)

1. ゴールドマン動的視野検査(GP)とは

Section titled “1. ゴールドマン動的視野検査(GP)とは”

ゴールドマン動的視野計(Goldmann Perimeter: GP)は、一定の輝度と面積をもつ視標を視野の周辺から中心に向けて移動させ、被検者が初めて感知した境界点をつないでイソプタ(等感度曲線)を描出する視野検査法である。複数のイソプタを重ね合わせることで視野全体の感度分布を把握できる。

静的視野計(ハンフリー自動視野計:HFA等)が中心30°以内の局所異常の検出に鋭敏であるのに対し、GPは鼻側60°・耳側100°以上に及ぶ全視野の評価に優れる1)。また動的視野検査は定量的な進行評価が難しい反面、静的視野検査の施行が困難な患者層に適している1)

GPが特に推奨される患者像は以下のとおりである。

  • 高齢者・小児など持続的な注意保持が困難な被検者
  • 視力白内障などの中間透光体混濁により小さな視標の識別が難しい被検者
  • 中等度以上の進行緑内障で静的視野計の測定範囲を超えた広範囲異常が疑われる被検者
  • 網膜疾患・視神経疾患・頭蓋内病変など広範囲の視野異常が想定される被検者
  • 初めて視野検査を受ける被検者(静的視野計に未習熟な場合)
項目ゴールドマン動的視野(GP)静的視野計(HFA等)
測定原理等感度曲線(イソプタ)を描出固定点での閾値を測定
評価範囲全視野(耳側100°以上)中心30°または60°
局所異常検出静的視野より劣る鋭敏(緑内障早期)
疲労への対応検者が臨機応変に調節可能固定プログラムで調節困難
主な適応進行緑内障網膜疾患・神経眼科・小児緑内障早期・視野欠損の定量評価
心因性視野障害評価に有用評価困難
Q GPとHFA(静的視野検査)の使い分けは?
A

HFAは中心30°以内の局所的な視野障害(緑内障早期の弓状暗点・鼻側階段など)の検出に優れる。一方、GPは周辺視野を含む全視野の評価が必要な場合(進行緑内障網膜色素変性下垂体腺腫など)に適している。また高齢者・小児・低視力者・白内障患者では静的視野検査の施行が困難なことが多く、そのような症例にもGPが有用である。

2. 視標の種類と検査パラメータ

Section titled “2. 視標の種類と検査パラメータ”

GPの視標は「面積」と「輝度」の2つのパラメータで規定される。

6種類の面積が設定されており、大きい視標ほど感知しやすい(イソプタが外側に広がる)。

記号面積(mm²)備考
V64スクリーニングに使用
IV16補助的に使用
III4補助的に使用
II1補助的に使用
I1/4内イソプタの標準視標
O1/64高感度評価が必要な場合

0.5 logステップで4段階(明るいほうから4・3・2・1)が設定されている。さらに0.1 logステップの細分段階(e〜a: 5段階)も選択できる。

標準的な検査では以下の視標組み合わせを使用する。

  • スクリーニング: V/4e(大きく明るい視標で全視野の輪郭を把握)
  • 内イソプタ: I/4e → I/3e → I/2e → I/1e
  • 中心視野の詳細評価: 0/1e を追加
  • イソプタ間隔が広い場合: IV〜II 視標や 0.1 logステップ輝度(d〜a)を組み合わせる
ゴールドマン視野計を用いて患者の視野検査を行う様子。検者が視標を操作しながら被検者に応答を促している。
ゴールドマン視野計を用いて患者の視野検査を行う様子。検者が視標を操作しながら被検者に応答を促している。
RobertB3009. Goldmann perimeter in use. Wikimedia Commons. 2014. License: CC BY-SA 4.0. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Goldmann_perimeter_in_use.png
検者が患者に視標を提示しながらゴールドマン動的視野計で視野検査を実施している臨床写真。本文「3. 検査手技と注意点」の項で扱う検査手順・注意点に対応する。

検査の精度を担保するため、以下の輝度チェックを必ず実施する。前提条件が崩れていては視野の経過観察が不可能となる。

  1. 視標輝度: V/4e 視標を輝度計に照射し 1000 asb に調整する
  2. 検査面輝度: V/1e 視標を測定板に投影し、背面輝度調整器で視標と等輝度に調整する
  1. 矯正レンズを設定する(検査ボウルまでの距離30 cmで適切な矯正)
  2. 非検査眼をアイパッチで遮閉する(眼球を圧迫しない)
  3. 眼瞼下垂がある場合は上眼瞼皮膚を絆創膏でテーピングして挙上する
  4. 固視灯の注視を指示し、「光が見えたら合図する」と声をかける
  5. マリオット盲点(生理的盲点)を最初に測定し、固視の確認を行う
  6. V/4e 視標でスクリーニングを行い、大まかな視野の輪郭を把握する
  7. 内イソプタ(I/4e 等)で詳細に評価する
  8. 問診と所見から当たりをつけ、必要な視標を選択する
  9. 被検者が「見えた」合図を示したら、直ちに視標を視野外へ移動する
注意点詳細
屈折矯正老視遠視近視乱視に対して矯正レンズを適切に設定する
眼瞼挙上上眼瞼のたるみは視野を遮蔽するためテーピングで対処する
非検査眼の遮閉アイパッチを使用し、眼球を圧迫しないように注意する
姿勢調整苦しい姿勢は集中力の低下を招く。楽な姿勢で実施する
声掛け固視点への注視を常に確認し、繰り返し声かけを行う
Bjerrum領域中心30°以内・盲点から続く弓状領域の暗点に注意する
Q GPの検査精度を上げるポイントは?
A

まず検査前の輝度チェック(V/4e→1000 asb)を必ず行うことが基本である。検査中は固視確認を怠らず、マリオット盲点を最初に確認することで固視不良を早期に察知できる。眼瞼下垂屈折異常の矯正漏れも測定結果に大きく影響するため、事前確認が重要である。また検者の経験によって精度が変わるため、視標移動速度の均一化と手順の標準化が求められる。

4. 結果の解釈と典型的パターン

Section titled “4. 結果の解釈と典型的パターン”
ゴールドマン視野計による右眼の視野記録用紙。複数のイソプタ(等感度曲線)が同心円状に描かれ、視野全体の感度分布を示している。
ゴールドマン視野計による右眼の視野記録用紙。複数のイソプタ(等感度曲線)が同心円状に描かれ、視野全体の感度分布を示している。
Pignol23. Goldmann visual field record sheet. Wikimedia Commons. 2014. License: CC BY 3.0. https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Goldmann_visual_field_record_sheet.jpg
右眼のゴールドマン視野記録用紙に複数のイソプタが描出されたチャートの写真。本文「4. 結果の解釈と典型的パターン」の項で扱うイソプタの読み方・視野異常パターンに対応する。

正常視野では中心ほど感度が高い「鐘状感度分布」を示す。各イソプタの間隔・形状・左右対称性を評価することで視野異常の部位と性状を特定できる。

スクリーニングの段階では特に以下の3パターンを見落とさないことが重要である:半盲・求心性視野狭窄・輪状暗点

半盲(hemianopsia)

耳側半盲下垂体腺腫など視交叉正中の圧迫による両耳側半盲が代表的。鼻側の神経線維が交叉するため耳側視野が欠損する。

同名性半盲視交叉後方(視放線・後頭葉)の病変による患側同名性の視野欠損。脳血管障害・脳腫瘍で生じる。

求心性視野狭窄・輪状暗点

輪状暗点網膜色素変性RP)の初期に見られる特徴的なパターン。中心視野と周辺視野は保たれつつ、中間の環状領域が欠損する。

求心性視野狭窄RPの進行とともに輪状暗点が拡大・融合し周辺から視野が縮小する。末期緑内障でも同様のパターンをとる。

緑内障性視野欠損

中心暗点:Bjerrum領域(中心30°以内の弓状領域)に生じる暗点。盲点から始まり弓状に拡大する。

鼻側階段:鼻側視野に生じる水平の段差状欠損。早期〜中期緑内障で特徴的なパターン。

視神経・頭蓋内疾患

中心暗点視神経炎中毒性視神経症・Leber遺伝性視神経症で見られる中心部の暗点。固視が困難な場合に静的視野計の代替としてGPが有用。

脳腫瘍・脳血管障害:病巣部位により多様な視野パターン。視交叉では異名性半盲、後方では同名性半盲。

  • 網膜色素変性RP: 輪状暗点から求心性視野狭窄への進行を全視野で評価できる。視機能補助機器の適応評価にも使用
  • 進行緑内障(MD < −20 dB 程度): 静的視野計で測定不能な広範囲異常が生じた際にGPに切り替える
  • 視神経疾患: 中心暗点が広く固視が困難な場合に有用
  • 頭蓋内疾患(下垂体腺腫・脳腫瘍・脳梗塞): 視交叉〜後頭葉にかけた視路全体の評価に適している
Q 求心性視野狭窄と半盲の違いは?
A

求心性視野狭窄は視野全周が同心円状に縮小するパターンで、網膜色素変性や末期緑内障に特徴的である。中心から周辺に向けて全方位で視野が失われる。一方、半盲は垂直または水平の境界線で視野が左右・上下どちらかに欠損するパターンで、視交叉視放線・後頭葉の病変に起因する。GPでは両者のイソプタの形状が明確に異なるため鑑別が比較的容易である。

GPで検出された視野異常パターンに応じて、以下の臨床的対応を取る。

求心性視野狭窄(網膜色素変性

  • 視野の残存範囲を評価し、視機能補助機器(拡大鏡・スマートグラス等)の適応を検討する
  • RPB65変異など遺伝子治療の対象となる遺伝型か確認する
  • 定期的な視野面積の経時測定で進行速度を把握する

半盲(脳腫瘍・脳梗塞疑い)

  • 頭部MRI/CTを緊急で施行する
  • 神経内科または脳神経外科へ紹介する
  • 両耳側半盲の場合は下垂体ホルモン検査も実施する

進行緑内障

心因性視野障害

  • GPではらせん状視野・管状視野(距離が変わっても視野角度が変化しない)・同心縮小などの非器質性パターンを示す
  • 視野欠損が解剖学的に説明できない場合に疑う

動的視野測定(Kinetic Perimetry)では、一定の輝度・面積をもつ視標を視野の周辺から中心に向けて一定速度で移動させる。被検者が初めて視標を感知した点がイソプタ上の一点となる。複数の方向から同じ操作を繰り返すことで、一つのイソプタ(等感度曲線)が完成する。視標の輝度や面積を変えることで複数のイソプタを描出し、視野全体の感度マップを構築する。

静的視野計が固定した検査点での閾値を測定するのに対し、GPは等感度曲線そのものを直接描出する。静的視野計は局所的な閾値低下の検出に鋭敏だが、周辺視野の広範囲評価には限界がある。GPはその補完的役割を果たしており、中等度以上の進行緑内障では「GPのみで視野評価可能」な唯一の手段となる場合がある。

正常視野では中心ほど感度が高い鐘状感度分布(island of vision)を示す。視標が大きく・明るいほどイソプタが外側に広がり、視野の「高さ」を異なる切り口で測定できる。マリオット盲点(生理的盲点)は視神経乳頭に対応し、中心固視点から耳側約15°・やや下方に存在する絶対暗点として確認される。

特性GP(動的)HFA(静的)
測定対象等感度曲線(イソプタ)各点の閾値(感度)
視標の動き周辺→中心へ移動固定点で点滅
得られる情報視野全体の輪郭中心30〜60°の感度マップ
再現性検者技術に依存高い(自動化)
適応範囲全視野(進行例・神経眼科)中心視野(早期〜中期緑内障

Octopus 900などの自動視野計にはKinetic modeが搭載されており、コンピュータ制御による動的視野測定が可能である。検者の技術依存性を低減し、測定の標準化と再現性の向上が期待されている。ただし従来の手動GPと同等の臨床的価値が確立されるためには、さらなる臨床研究の蓄積が必要である。

網膜色素変性の視野面積測定と進行評価

Section titled “網膜色素変性の視野面積測定と進行評価”

RP患者の視野面積を定期的に計測・記録することで、進行速度の個別評価や遺伝子治療・薬物療法の効果判定への応用が研究されている。視野面積の標準化手法と測定値の統計的評価基準の確立が今後の課題である。

進行緑内障HFA等の静的視野計が測定困難になった症例において、GPは視野評価の唯一の手段となりうる。末期緑内障の残存視野・中心固視保護の評価にGPを用いる臨床的意義は今後も高まると考えられる1)

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

  2. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.

  3. Barnes CS, Schuchard RA, Birch DG, Dagnelie G, Wood L, Koenekoop RK, et al. Reliability of Semiautomated Kinetic Perimetry (SKP) and Goldmann Kinetic Perimetry in Children and Adults With Retinal Dystrophies. Transl Vis Sci Technol. 2019;8(3):36. PMID: 31211001.

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