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眼形成

眼瞼下垂(原因別まとめ)

上眼瞼挙筋・腱膜(aponeurosis)・Müller筋の機能障害により、MRD-1(margin reflex distance-1:角膜中央光反射から上眼瞼縁までの距離)が3.5mm以下になった状態を眼瞼下垂という。MRD-1の正常値は3.5〜5.5mmである。

重症度はMRD-1で以下のように分類される。

重症度MRD-1上眼瞼の位置
軽度約2〜3.5mm角膜上半分の1/3程度を覆う
中等度約0〜2mm角膜上半分の2/3程度を覆う
重度0mm未満角膜中心を覆う

MRD-2は角膜中央光反射から下眼瞼縁までの距離であり、下眼瞼評価に用いる。瞼裂の縦幅ではなくMRD-1で評価することが重要である。

成人における眼瞼下垂の有病率は4.7〜13.5%とされ、加齢とともに発症率が上昇する2)

  • 上方視野狭窄:日常動作に支障をきたす。
  • 瞼の重い感じ:開瞼時の疲労感・眼痛
  • 肩凝り・頸部痛:前頭筋の代償収縮が持続することで生じる。
  • 下顎挙上頭位(chin-up position):補正姿勢として頸椎に負担をかける。
  • MRD-1低下:3.5mm未満。
  • 重瞼線の上昇・不整化・消失:腱膜伸展の指標。
  • 上眼瞼陥凹:腱膜性下垂で顕著。
  • 眉毛挙上・前額部しわ:前頭筋による代償。
  • Heringの法則:片側を挙上すると対側が下垂する現象。術前評価として重要。

以下の表に原因別の特徴的所見を示す。

原因特徴的所見
腱膜性重瞼線異常・眉毛挙上・前頭部しわ・上眼瞼陥凹
重症筋無力症日内変動(夕方増悪)・アイスパック試験陽性・疲労現象
動眼神経麻痺散瞳複視・外下斜視
Horner症候群縮瞳・眼裂狭小(約2mm下垂)・無汗
先天性下方視で瞼裂開大(上直筋遅動の合併)
Q 眼瞼下垂の原因にはどのようなものがあるか?
A

先天性(挙筋形成不全が90%)と後天性に大別される。後天性では加齢による腱膜性が最多で、他に動眼神経麻痺・Horner症候群・重症筋無力症慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)などがある。偽眼瞼下垂(皮膚弛緩・甲状腺眼症等)との鑑別も重要である。

先天性

挙筋形成不全:上眼瞼挙筋の先天的変性が90%を占める。片眼性が70%以上。

単純性:単独発症。

複合性:眼瞼縮小症候群・Marcus Gunn現象(三叉神経動眼神経共同運動)合併。

後天性(腱膜性)

最多原因:加齢・コンタクトレンズ(CL)使用・内眼手術後(開瞼器使用)。

病態:aponeurosisの菲薄化・伸展により瞼板への挙上力が低下。

特徴:重瞼線の上昇・不整化・消失・上眼瞼陥凹を伴う。

後天性(神経原性)

動眼神経麻痺散瞳複視合併。脳動脈瘤(IC-PC動脈瘤)を除外する。

Horner症候群:Müller筋麻痺により約2mm下垂。縮瞳・無汗を伴う。

Fisher症候群外眼筋麻痺・失調・深部腱反射低下の三徴。

後天性(筋原性・偽)

筋原性重症筋無力症(日内変動)・CPEO・筋緊張性ジストロフィ。

偽眼瞼下垂:皮膚弛緩症(MRD≥3.5mm)・甲状腺眼症(対側の眼裂拡大)・顔面神経麻痺・小眼球・無眼球。

腱膜性眼瞼下垂は後天性眼瞼下垂の多くを占め、60歳以上の女性に多い。コンタクトレンズ装用者・白内障術後に多く認める。重症筋無力症の初発症状の約7割が眼瞼下垂である2)

角膜中央光反射から上眼瞼縁までの距離を測定する。前頭筋の代償を排除するため、前額部を手指で軽く押さえて測定する。正常値は3.5〜5.5mmである。

挙筋機能検査(levator function test)

Section titled “挙筋機能検査(levator function test)”

患者に下方視してもらった状態の上眼瞼縁位置を0mmとし、上方視での位置を計測する。眉毛を上から押さえて前頭筋の代償を排除する。正常値は10mm以上であり、4mm未満は重度の挙筋機能低下を示す。

患側の上眼瞼を用手的に挙上した際に対側の眼瞼が下垂してくる現象を確認する。片側手術後に対側の下垂が顕在化するリスク評価として重要である。

  • ドライアイ評価:術前必須。術後の閉瞼不全によるドライアイ悪化リスクを評価する。
  • 眼球運動検査動眼神経麻痺の除外。
  • アイスパック試験(ice test):アイスパックを上眼瞼に2分間当て、2mm以上改善で陽性(MG疑い)。感度80〜92%、特異度25〜100%2)
  • テンシロンテスト:エドロホニウム塩化物(アンチレクス®)10mgを2.5mgずつ静注し、眼瞼下垂の改善を観察する。
  • 上方注視負荷試験:1分間上方注視後に眼瞼下垂・複視の増悪があればMGを疑う。
  • 抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体:全身型MGでは約85%が陽性、眼筋型では50%以下。
  • CT/MRI/MRA動眼神経麻痺眼窩病変の除外、脳動脈瘤の検出に有用。
  • 眼瞼皮膚弛緩症:MRD正常・挙筋機能正常。
  • 重症筋無力症:日内変動・テンシロン試験で鑑別。
  • 動眼神経麻痺散瞳複視で鑑別。
  • 急性発症の眼瞼下垂:脳動脈瘤(IC-PC動脈瘤)を準緊急で除外する。
Q 突然まぶたが下がった場合はどうすればよいか?
A

急性発症の眼瞼下垂は脳動脈瘤(特にIC-PC動脈瘤)の可能性があり、散瞳複視を伴う場合は準緊急対応が必要である。速やかに眼科・神経科を受診する。

先天性眼瞼下垂の手術適応

  • 上眼瞼が瞳孔領にかかる場合
  • 上眼瞼による眼球圧迫で乱視が強い場合(両眼視機能・視力発達に影響)
  • 弱視予防の観点から片眼性で高度の例は1歳以降の比較的早期に手術も考慮する
  • 弱視管理自体は保存的にも可能であり、通常2歳以降〜就学前に手術を検討する

後天性眼瞼下垂の手術適応

他覚所見(MRD-1低下、重瞼線異常、眉毛挙上、前額の皺)と自覚症状(瞼の重さ、上方視野狭窄、眼痛、肩凝り)が一致し、手術により両者の改善が見込まれる場合。

挙筋機能による術式選択が基本原則である。

挙筋機能≥10mm → 挙筋前転術(挙筋腱膜前転術)

  • アプローチ対象:aponeurosis / Müller筋 / aponeurosis+Müller筋の3パターン
  • アプローチ方法:経皮的 / 経結膜の2パターン
  • 皮膚弛緩・一重まぶたがある場合は皮膚切除と重瞼作製を併施することが多い

挙筋機能4mm未満 → 前頭筋つり上げ術(frontalis sling)

使用材料は以下のとおりである。

  • 自家筋膜(大腿筋膜・側頭筋膜)
  • ゴアテックス®シート
  • ナイロン糸
  • シリコンロッド

小児では成長に伴い再手術が必要なことが多く、合併症が少なく抜去すれば手術前の状態に戻るナイロン糸がよい適応となる。骨格・筋の状態が安定している成人に対しては、ゴアテックス®シートを用いることが多い。

先天性(小児)の術式

  1. 前頭筋吊り上げ術:自家大腿筋膜(幅2mm、長さ40mm)またはナイロン糸。眉毛上1カ所・瞼縁に2カ所の小切開。手技が比較的容易で効果も高い。
  2. 上横走靭帯吊り上げ術(Whitnall’s sling):1歳代から実施可能。重度・早期手術例に選択。術後下方視での瞼裂開大が顕著。
  3. 眼瞼挙筋短縮術:軽症例向き。
Q 眼瞼下垂の手術はどのように決めるのか?
A

挙筋機能により術式を選択する。挙筋機能10mm以上では挙筋前転術、4mm未満では前頭筋つり上げ術を選択する。先天性小児例では成長に伴い再手術が必要なこともあり、初回はナイロン糸でのつり上げが選択されることが多い。

保存的治療:Oxymetazoline 0.1%点眼液

Section titled “保存的治療:Oxymetazoline 0.1%点眼液”

oxymetazoline 0.1%点眼液はα1-アドレナリン受容体部分作用薬として上眼瞼のMüller筋を収縮させ、後天性眼瞼下垂を矯正する保存的治療薬である。

後天性眼瞼下垂(軽度・中等度・重度を含む)を適応とし、原因が神経疾患・腫瘍・外傷の場合は原因疾患の評価・治療を優先し、本剤投与により原疾患が不明とならぬよう注意する1)

実施医の基準1):①日本眼科学会専門医または日本専門医機構眼科専門医、②副作用対応能力を有すること。

使用法:罹患眼に1日1回1滴点眼する(使い捨て個別バイアル製剤)。効果は点眼後約8時間持続する。一時的な改善であり根治療法ではない3)

コンタクトレンズ使用時:点眼前にCLを外し、再装着まで15分以上空ける。他の点眼薬との併用時も15分以上の投与間隔を確保する。

効果が認められない場合は漫然と継続せず、原因検索・他の治療法を検討する1)。美容目的使用は不可である。

2つの第3相RCT(計304例、2:1ランダム化二重盲検プラセボ対照)でUpneeqの有効性が検証された。LPFTのポイント変化量(プラセボとの差)を以下に示す3)

評価時点試験1試験2
1日目6時間後差3.7ポイント差4.2ポイント
14日目2時間後差4.2ポイント差5.3ポイント(いずれもp<0.01)

MRD1も同様に有意な改善が認められた3)

Q オキシメタゾリン点眼は手術の代わりになるか?
A

根治療法ではなく、1日1回点眼で約8時間の一時的改善をもたらす保存的治療である。手術を希望しない場合や手術までの橋渡しとして使用される。効果が認められない場合は漫然と継続せず、手術を含む他の治療法を検討する。

神経原性・筋原性眼瞼下垂の治療

Section titled “神経原性・筋原性眼瞼下垂の治療”
  • 重症筋無力症ステロイド・免疫抑制薬・コリンエステラーゼ阻害薬が第一選択。眼形成手術は原疾患が安定してから行う。
  • 動眼神経麻痺:原疾患治療を優先。半年間改善がなければ手術を検討する。
  • Horner症候群:Müller筋切除術が選択肢となりうる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

加齢による退行変化・長期CL装用による機械的刺激でaponeurosisが伸展・菲薄化(筋の線維化)する。皮下穿通枝が引き込まれなくなり重瞼線が消失する。前頭筋の代償収縮が持続することで緊張型頭痛・頸肩部痛の原因となる。

Whitnall靭帯のやや遠位部から起始する前層(厚い)と後層(薄く瞼板下1/3に停止)の二層構造を有する。皮下穿通枝が重瞼線を形成する。

上眼瞼挙筋の先天的変性(線維化)により挙上力が低下する。下方視で瞼裂が開大するのは上眼瞼の追従不良(lid lag)によるものであり、Marcus Gunn現象を合併する場合がある。

Müller筋は交感神経支配の平滑筋であり、約2mmの眼瞼挙上作用を担う。Horner症候群ではこの筋の麻痺により2mm程度の下垂が生じる。

α1-アドレナリン受容体作動薬として上眼瞼のMüller筋のα受容体に結合し、筋収縮を促進してまぶたを挙上する。退行性下垂では挙筋腱膜が主に障害されるがMüller筋の機能が残存していることが多く、代償的な挙上効果をもたらす。これはHorner症候群に伴う下垂にMüller筋切除術が有効な原理と同一である。

  • 腱膜性:挙筋前転術で予後良好。
  • 先天性:成長に伴い再手術が必要なことも多い。前頭筋つり上げ術後は下方視で瞼裂開大が残る。
  • 重症筋無力症:原疾患治療が必須。
  • 動眼神経麻痺眼球運動障害が先行し、改善後に手術を検討する。
  • Oxymetazolineの長期安全性:6週間超の長期使用における安全性・有効性データはエビデンスが不十分である。
  • 特定集団への適用:妊婦・授乳婦・13歳未満の小児における安全性データは未確立である。動物実験では授乳中ラットの乳汁にoxymetazolineが検出されている。
  • PTOSISスコアリングシステム:画像解析による自動化評価ツールの開発が進んでいる。
  • 術後QOLアウトカム:患者報告アウトカム(PRO)を用いた手術成績の評価研究が継続されている。
  1. 石川均, 渡辺彰英. 後天性眼瞼下垂に対するoxymetazoline(0.1%)点眼療法に関する治療指針. 日眼会誌. 2025. DOI: 10.60330/nggz-2025-054.
  2. Slonim CB, Foster S, Jaros M, et al. Association of oxymetazoline hydrochloride, 0.1%, solution administration with visual field in acquired ptosis: a pooled analysis of 2 randomized clinical trials. JAMA Ophthalmol. 2020;138:1168-1175.
  3. Wirta DL, Korenfeld MS, Foster S, et al. Safety of once-daily oxymetazoline HCl ophthalmic solution, 0.1% in patients with acquired blepharoptosis: results from four randomized, double-masked clinical trials. Clin Ophthalmol. 2021;15:4035-4048.

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