内眼角贅皮(蒙古ひだ)
1. 内眼角贅皮(蒙古ひだ)とは
Section titled “1. 内眼角贅皮(蒙古ひだ)とは”内眼角贅皮(epicanthus)は、内眼角部が皮膚・眼輪筋の上眼瞼からの半月状のひだに覆われた状態である。東洋人では必ずしも異常ではなく、思春期において鼻骨が成長するとほとんどが消失し、残存するのは2〜3%にとどまる。先天性眼瞼異常の1つとして分類されるが、アジア系乳幼児では生理的変異として広く認められる。
内眼角部のひだの走行方向によって2型に分類される(Verdin H, et al. GeneReviews. 2022)。
| 型 | 走行方向 | 主な背景 |
|---|---|---|
| epicanthus(正内眼角贅皮) | 外上方→内下方 | 東洋人に多い生理的変異 |
| epicanthus inversus(逆内眼角贅皮) | 外下方→内上方 | 眼瞼縮小症候群・眼瞼下垂に合併しやすい |

逆内眼角贅皮は内眼角贅皮に眼瞼下垂が合併する際に形成されることが多い。東洋人では眼瞼縮小症候群(blepharophimosis syndrome)との鑑別が重要となる。
眼瞼縮小症候群は、瞼裂の縮小(狭小)に加えて眼瞼下垂・逆内眼角贅皮・内眼角間乖離(telecanthus)・涙点の外側偏位の4徴を示す常染色体優性遺伝疾患である。その基本的病態は眼瞼部組織の先天性低形成と眼瞼下垂であり、鼻骨の発育不良が加わることで内眼角贅皮をきたしやすい。
内眼角贅皮(蒙古ひだ)は東洋人に多い生理的変異であり、必ずしも異常ではない。思春期に鼻骨が成長するとともにほとんどが自然消退し、残存率は2〜3%程度である。ただし、眼瞼縮小症候群に伴う逆内眼角贅皮は弱視リスクを有するため、専門的な評価と管理が必要である。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”正内眼角贅皮(epicanthus)の所見
Section titled “正内眼角贅皮(epicanthus)の所見”- 内眼角部を外上方から内下方に向かう半月状のひだが覆う(「目頭が隠れる」外観)
- 外観上の変化が主体であり、整容上の問題となりうる
- 鼻側強膜がひだによって遮蔽されるため、偽内斜視(pseudoesotropia)を呈することがある
- Hirschberg テストでは角膜光反射が正位を示し、真性内斜視との鑑別が可能
- 思春期以前の乳幼児では広く認められ、成長に伴い自然消退する。中国人小児を対象とした研究では、内眼角間距離/瞳孔間距離(EFDPD)比が 7〜12 歳の間で急速に低下し、それ以降に安定することが示されている(Wei N, et al. Aesthetic Plast Surg. 2019; PMID: 30627812)
逆内眼角贅皮(epicanthus inversus)の所見
Section titled “逆内眼角贅皮(epicanthus inversus)の所見”- 外下方から内上方に向かうひだが特徴的な外観を形成する
- 眼瞼縮小症候群に合併する場合は以下の4徴が揃う
合併所見と客観的評価
Section titled “合併所見と客観的評価”内眼角部の異常は単独で生じることもあるが、眼瞼下垂・内眼角贅皮・眼瞼縮小に合併することも多い。以下の計測値が診断・経過観察に用いられる。
- 内眼角間距離(ICD): 出生時 20±2 mm、2歳 26±1.5 mm が正常値とされる
- 瞳孔間距離(IPD): 出生時 39±3 mm、2歳 48±2 mm が正常値とされる
眼瞼縮小症候群合併例では、眼瞼下垂による上方視野遮蔽が弱視を引き起こすことがある。内反症・眼瞼贅皮(epiblepharon)の合併時には角膜上皮障害(点状表層角膜症:SPK)がみられる場合がある。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”発生学的因子
Section titled “発生学的因子”内眼角贅皮の形成には、胎児期の顔面発生過程における鼻骨の未発達が深く関わる。前頭鼻突起と上顎突起の癒合後に、鼻骨が低い時期は上眼瞼内側の皮膚が余剰となり、内眼角部を覆うひだを形成する。思春期以降の鼻骨成長に伴って皮膚が牽引・伸展されることで、多くは自然消退する。
アジア系(モンゴロイド)においては、相対的に鼻骨が低く扁平な顔面構造をもつ時期が長く続くため、乳幼児ではほぼ全例に内眼角贅皮が認められる。
遺伝的・症候群的因子
Section titled “遺伝的・症候群的因子”- 眼瞼縮小症候群(blepharophimosis syndrome): 常染色体優性遺伝を示す先天性眼瞼疾患。FOXL2(3q23)遺伝子変異が原因遺伝子として同定されており、眼瞼部組織の先天性低形成と眼瞼下垂が基本病態である。FOXL2 変異による眼瞼縮小症候群には、卵巣機能不全を伴う type I と卵巣機能が正常な type II がある(Méjécase C, et al. Genes. 2021; PMID: 33806295)。
- 染色体異常症候群: Down 症候群・Turner 症候群・Williams 症候群などで内眼角贅皮の合併頻度が高い。
- 鼻骨低形成を伴う先天奇形: 鼻骨・頬骨の発育不全を伴う先天奇形全般が内眼角贅皮のリスク因子となる。
その他のリスク因子
Section titled “その他のリスク因子”- 早産(鼻骨の発達が出生時に未成熟)
- 両親に内眼角贅皮の遺残がある場合(家族集積あり)
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”視診と形態評価
Section titled “視診と形態評価”診断は主に視診によって行う。内眼角部のひだの有無・走行方向(正型 vs 逆型)・程度(軽度・中等度・高度)を評価する。瞼裂の水平径も同時に確認し、瞼裂縮小の有無を記録する。
- 内眼角間距離(ICD): 定規またはキャリパーで両内眼角間を計測。年齢別正常値(出生時 20±2 mm、2歳 26±1.5 mm)と比較し、telecanthus の有無を判定する。
- 瞳孔間距離(IPD): telecanthus(ICD 拡大・IPD 正常)と hypertelorism(ICD・IPD ともに拡大)の鑑別に必須。出生時 39±3 mm、2歳 48±2 mm が正常値。
- MRD-1/MRD-2: 眼瞼下垂合併の有無と重症度を評価。MRD-1 が 3.5 mm 以下の場合、眼瞼下垂として管理する。
- 挙筋機能検査: 先天性眼瞼下垂の重症度評価に必要。眼瞼縮小症候群合併例では挙筋機能が低下していることが多い。
合併病変の検索
Section titled “合併病変の検索”- 細隙灯顕微鏡: 内反症・epiblepharon 合併時の角膜上皮障害(SPK)の有無を確認する。
- 屈折検査・視力検査: 眼瞼縮小症候群合併例では弱視スクリーニングが必須である。眼瞼下垂を伴っている場合は視力検査を行い、不同視・廃用性弱視の有無を評価する。
- 家族歴聴取: 眼瞼縮小症候群は常染色体優性遺伝を示すため、両親・きょうだいの眼瞼形状を確認する。
| 鑑別疾患 | 主要所見 | ICD | IPD |
|---|---|---|---|
| 内眼角贅皮(生理的) | 半月状のひだ、成長で消退 | 正常〜やや拡大 | 正常 |
| 眼瞼縮小症候群 | 逆内眼角贅皮+眼瞼下垂+瞼裂縮小+telecanthus の4徴 | 拡大 | 正常 |
| 内眼角解離症(telecanthus) | 内眼角間距離拡大・内眼角靭帯延長、瞳孔間距離は正常 | 拡大 | 正常 |
| 両眼隔離症(hypertelorism) | 眼窩間距離拡大を伴う | 拡大 | 拡大 |
| 乳児眼瞼贅皮(epiblepharon) | 下眼瞼皮膚余剰によるまつ毛の角膜接触 | 正常 | 正常 |
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”保存的管理(経過観察)
Section titled “保存的管理(経過観察)”生理的内眼角贅皮に対しては、思春期まで経過観察が基本方針である。鼻骨の成長に伴って自然消退することが多く、残存率は2〜3%程度にとどまる。
偽内斜視が疑われる場合は、保護者への十分な説明(真性内斜視との違い)と定期的な斜視評価を行う。内斜視が発症していないかを確認するため、6か月〜1年ごとの経過観察が望ましい。
治療は「形成手術のみ」であり、薬物療法は適応外である。
内眼角形成術の主な術式
Section titled “内眼角形成術の主な術式”- Y-V 形成術: 最も基本的な術式。Y 字状に切開し V 字に縫合することでひだを解除する。シンプルで瘢痕が比較的目立ちにくい。
- Z 形成術: Z 字状の切開で2つの皮弁を入れ替える。皮膚の向きを変えることができ、瘢痕拘縮の解除にも有用。切開角度・方向で効果を調整できる。
- Mustardé 法: 逆内眼角贅皮に対する古典的術式。Y-V 形成術と組み合わせて用いられることもある。眼瞼縮小症候群を対象とした症例集積では、Mustardé 法の double Z-plasty と経鼻骨間 prolene 縫合により術後内眼角間距離が 41.2 mm から 31〜34 mm に短縮し、瞼裂水平径も延長したと報告されている(Mandal SK, et al. J Clin Diagn Res. 2017; PMID: 28511421)。
- 内眼角靭帯縫縮術: telecanthus 合併時に内眼角靭帯を短縮して内眼角間距離を矯正する。
- 皮膚再配置法(skin redraping): アジア人内眼角形成における近年の主流術式。156 例の集積では瘢痕視認率 0.5%・再発率 1% 未満と低侵襲性が報告されている(Mo YW, Jung GY. Ann Plast Surg. 2021; PMID: 34559709)。
眼瞼縮小症候群の手術方針
Section titled “眼瞼縮小症候群の手術方針”内眼角靭帯を縫縮し、内眼角の軟部組織を形成外科的に短縮する。眼瞼下垂や内反症が合併した場合は、同時または時期をずらして合併症に対する手術を行う。
手術の時期については、弱視リスクがある眼瞼下垂を伴う場合は3〜5歳での早期手術が推奨される。整容目的のみの場合は就学前後を目安とすることが多い。
合併症への対応
Section titled “合併症への対応”- 内反症合併: 睫毛が角膜に接触する場合は内反症手術(Hotz 法等)を行う。
- 角膜上皮障害合併: 点状表層角膜症(SPK)に対しては人工涙液・角膜上皮保護点眼(ヒアルロン酸ナトリウム点眼液など)を使用する。
- 弱視合併: 屈折矯正・アイパッチによる弱視訓練を並行して行う。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”発生学的背景
Section titled “発生学的背景”胎児期の顔面発生では、前頭鼻突起と上顎突起が癒合して鼻・上唇・上眼瞼の構造が形成される。この過程で鼻骨の発育が不十分な時期には、上眼瞼内側の皮膚が余剰となって内眼角部を覆うひだを形成する。思春期に鼻骨が成長・突出すると皮膚が鼻背方向に牽引・伸展され、ひだが解消される。東洋人(モンゴロイド)では相対的に低い鼻骨構造が持続する傾向があり、乳幼児期に内眼角贅皮が広く認められる。
鼻骨と内眼角贅皮の関係
Section titled “鼻骨と内眼角贅皮の関係”鼻根部が低い状態では内眼角部周囲の皮膚に弛緩・余剰が生じる。この余剰皮膚が内眼角部で折り畳まれることでひだを形成する。鼻骨高径の増加(思春期成長)によって皮膚が牽引され、ひだが平坦化・消失する。
眼瞼縮小症候群の病態
Section titled “眼瞼縮小症候群の病態”眼瞼縮小症候群では、眼瞼部組織の先天性低形成(挙筋・前頭筋の機能不全を含む)と鼻骨の発育不良が共存する。これにより逆内眼角贅皮・眼瞼下垂・瞼裂縮小・内眼角間乖離の4徴が同時に発現する。
FOXL2(forkhead box L2)遺伝子は3q23に位置し、眼瞼・卵巣の発生に関与する転写因子をコードする。FOXL2 変異による眼瞼縮小症候群は、卵巣機能不全を伴う type I と卵巣機能が保たれる type II に分類される。家族性・散発性の両形式がある。
偽内斜視の機序
Section titled “偽内斜視の機序”内眼角のひだが鼻側強膜(白目)を遮蔽することで、眼球は正位を維持しているにもかかわらず、角膜(黒目)が鼻側にずれているように見える。これが偽内斜視(pseudoesotropia)の機序である。真性内斜視との鑑別にはHirschberg テストまたは交互遮蔽試験が有用で、眼位が正位であることを確認する。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”内眼角贅皮・眼瞼縮小症候群の研究分野では、以下の進展が報告されている。
- FOXL2 変異解析の進歩: 眼瞼縮小症候群における FOXL2 の遺伝子型と表現型の相関研究が蓄積されており、卵巣機能不全(type I)の有無を遺伝子変異の種類から予測する研究が進んでいる。
- 内眼角形成術の術式改良: 微小切開アプローチや瘢痕最小化技術の開発により、術後の瘢痕形成を軽減する術式が報告されている。特に整容目的の手術では、術後美容的仕上がりに対する需要が高まっている。
- 眼瞼縮小症候群の一期的修復: 内眼角形成術と眼瞼下垂手術を同時施行(一期的修復)する術式の成績評価が継続されている。段階的手術と比較した安全性・有効性の検討が行われている。
- 3D シミュレーション: 術前に3Dシミュレーションを用いた手術計画立案の可能性が検討されており、適切な術式選択と患者への術後予測の説明に活用される可能性がある。
- epiblepharon の自然経過研究: 内眼角贅皮と合併することも多い乳児眼瞼贅皮(epiblepharon)の自然消退率・角膜障害リスクに関するアジア圏の大規模研究が報告されており、手術適応の基準化に貢献している。
今後は遺伝子診断と表現型予測の統合、低侵襲手術技術のさらなる洗練、弱視管理との連携プロトコルの確立が課題となる。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Wei N, Qian X, Bi H, et al. Pseudoesotropia in Chinese Children: A Triphasic Development of the Interepicanthal Folds Distance-to-Interpupillary Distance Ratio and Its Changing Perception. Aesthetic Plast Surg. 2019;43(2):492-499. PMID: 30627812. PubMed
- Méjécase C, Nigam C, Moosajee M, Bladen JC. The Genetic and Clinical Features of FOXL2-Related Blepharophimosis, Ptosis and Epicanthus Inversus Syndrome. Genes (Basel). 2021;12(3):364. PMID: 33806295. PubMed
- Verdin H, Matton C, De Baere E. Blepharophimosis, Ptosis, and Epicanthus Inversus Syndrome. In: GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington; 2004 Jul 8 [updated 2022 Mar 10]. NCBI Bookshelf
- Mandal SK, Mandal A, Fleming JC, Goecks T, Meador A, Fowler BT. Surgical Outcome of Epicanthus and Telecanthus Correction by Double Z-Plasty and Trans-Nasal Fixation with Prolene Suture in Blepharophimosis Syndrome. J Clin Diagn Res. 2017;11(3):NC01-NC04. PMID: 28511421. PubMed
- Mo YW, Jung GY. Surgical Results and Patient Satisfaction After A New Surgical Technique for Asian Medial Epicanthoplasty: A Modified Skin Redraping Method Using a Horizontal Point Incision and Staged ‘Y-Shaped’ Dog Ear Correction. Ann Plast Surg. 2021. PMID: 34559709. PubMed