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小児眼科・斜視

内斜視

内斜視とは、片眼が固視目標を注視しているときに他眼が内側(鼻側)へ偏位している状態をいい、発症時期・調節性の有無・斜視角の変動・斜視角の程度などによって分類される。

生後6か月以内発症の内斜視は乳児内斜視(先天内斜視とも呼ぶ)に分類される。生後6か月以降の後天内斜視では調節(accommodation)が関与する調節性内斜視が最も多く、次いで急性後天共同性内斜視(AACE)、潜行性近視性共同性内斜視(IMCE)、周期性内斜視、続発性内斜視などがある。全斜視患者の約1/3を占め、有病率は人口の1〜2%と推定される。

  • 乳児内斜視:生後6か月以内発症。30Δ以上の大角度内斜視。海外報告で10,000出生に約25例、性差なし
  • 屈折調節性内斜視遠視完全矯正で正位。AC/A比正常。後天内斜視の大部分を占める
  • 屈折調節性内斜視:AC/A比高値(≥6PD/D)。近見>遠見の内斜視角差≥10PD
  • 部分調節性内斜視:完全矯正後も10PD以上残存。調節性と非調節性の混合型。両眼視不良
  • 急性後天共同性内斜視(AACE):年長児・成人。Burian分類で7型に細分化2)
  • 潜行性近視性共同性内斜視(IMCE)近視を伴い徐々に発症。内直筋付着部-角膜縁間距離の短縮が特徴6)
  • 周期性内斜視(隔日内斜視):3〜4歳頃発症。眼位の良い日と悪い日が約48時間周期で交代
  • 続発性内斜視外斜視術後内斜視(術後内斜視)、感覚性内斜視(視力0.2以下で融像不能)

乳児内斜視

発症:生後6か月以内。30Δ以上の大角度。

合併症DVD 46〜90%、IOOA 33〜78%、LN 30〜50%。

治療:手術(両内直筋後転術)が基本。超早期(≤8か月)が立体視獲得に最有利。

調節性内斜視

発症:後天内斜視の最多亜型。2〜3歳に多い。遠視+2D以上が主因。

3型屈折性(眼鏡で正位)・非屈折性(高AC/A比)・部分調節性(眼鏡下残余あり)。

治療:完全矯正眼鏡が第一選択。部分調節性のみ手術適応。

Q 乳児内斜視と調節性内斜視はどのように区別しますか?
A

乳児内斜視は生後6か月以内の発症と30Δ以上の大角度が特徴である。調節性内斜視遠視完全矯正眼鏡を3か月以上装用させて評価する。屈折調節性内斜視では斜視角が10PD以上減少し残余10PD未満となる。1歳未満でも遠視+2D超があれば眼鏡装用試行が鑑別の糸口となる。なお、1歳未満で調節性内斜視が発症することもあり、乳児内斜視との鑑別には調節麻痺下屈折検査と眼鏡装用試行が必須である。

内斜視の小児の眼位写真。上段で片眼の内方偏位がみられる。
Fuseya K, et al. Esotropia Missed During Pre-health Checkup Screening With the Spot Vision Screener: A Case Series. Cureus. 2026. Figure 3. PMCID: PMC13045761. License: CC BY.
小児の両眼写真で、上段では片眼が鼻側へ偏位しており内斜視が確認できる。眼位異常を直接示す画像であり、主な臨床所見の説明に適している。
  • 複視:成人・年長児の急性発症例で自覚。幼小児は抑制を学ぶため複視を訴えないことが多い
  • 抑制と弱視リスク:片眼の持続的抑制→斜視弱視への進行
  • 眼精疲労・頭痛:特に調節性内斜視遠視の過度な調節努力)に多い
  • 奥行き知覚の低下:階段の昇降やキャッチボールの困難など

大角度の内斜視が主所見であり、複数の随伴所見が高率に合併する。

乳児内斜視の主所見

大角度偏位:30Δ以上の内斜視。斜視角の変動はほとんどないが増加することもある。

交差固視:右眼で左視野、左眼で右視野を固視する。外転制限のように見えることがある。

弱視合併:約40〜50%に合併。固視の偏りで判定する。固視交代がなく偏りがある場合は弱視のリスクが高い。

乳児内斜視の随伴所見

分離垂直偏位(DVD:46〜90%に合併。遮閉時に非固視眼が上転する。通常1〜2歳以降に出現。

下斜筋過動(IOOA):33〜78%に合併。内転時の上転として観察される。

潜伏眼振(LN):30〜50%に合併。片眼遮閉で誘発される水平衝動眼振。急速相は非遮閉眼方向を向く。

OKN非対称性:耳→鼻方向の追従が持続して優位となる非対称を示す。

  • 屈折:完全矯正眼鏡で斜視角10PD以上減少、残余10PD未満。斜視角20〜40PD。AC/A比正常
  • 屈折性(高AC/A比):近見>遠見の内斜視角差10PD以上。+3Dレンズ負荷で近見内斜視が改善。Gradient法AC/A比が正常4±2PD/Dを超える(≥6PD/D)
  • 部分調節性:完全矯正眼鏡下でも10PD以上残存。両眼視機能は一般に不良

AACE症例では急性発症の複視と内斜視が特徴的であり、最大10%に頭蓋内疾患が潜在する2)。IMCE症例では内直筋付着部-角膜縁間距離の短縮(5.2〜5.3mm)が確認されている6)

  • 乳児内斜視のリスク因子:未熟児・水頭症・脳性麻痺・てんかん・発達遅滞・斜視家族歴・低出生体重。原因は未解明
  • 遠視調節性内斜視の主因):+2D以上の遠視が発症に関与。屈折調節性内斜視の平均遠視度は+5.43D±2.25D。+8D以上の強度遠視ではかえって発症がまれになる
  • 高AC/A比(非屈折性の原因):単位調節量あたりの輻湊反応が過大。近見で著明な内偏が生じる
  • AACE誘因:片眼遮蔽・外傷・発熱・心的ストレス。COVID-19パンデミック中の過剰近業でのAACE誘発も報告されている2)
  • デジタルデバイス過剰使用:スマートフォン6時間/日以上の使用とIMCEとの関連が示されている6)
  • 感覚性内斜視の原因視力0.2以下で融像が困難となり内偏位が生じる
Q スマートフォンの使用で内斜視が起こることがありますか?
A

スマートフォンを1日6時間以上使用する過度な近業が、IMCE(潜行性近視性共同性内斜視)やAACE(急性後天共同性内斜視)と関連するとの報告がある2, 6)。過剰な近方凝視が内直筋の短縮・付着部前方移動を引き起こすという仮説が提唱されている。

完全眼科検査(視力・両眼視・立体視・眼球運動・斜視角・調節麻痺下屈折検査)を実施する。

内斜視ではアトロピン硫酸塩点眼による調節麻痺が第一選択である(0.5%を1日2〜3回・5〜7日間)。最大遠視度数の検出に優れる。シクロペントラート1%+フェニレフリン2.5%混合液が代替として使用される場合もある。調節麻痺下に完全矯正した後、眼位を測定して手術量を決定する。

検査方法と評価
Hirschberg法角膜反射で概算:瞳孔縁=15°、虹彩上=30°、角膜縁=45°
遮閉試験カバーテスト遠見5m・近見33cmで実施。固視交代の有無→弱視リスク評価
交代プリズム遮閉試験(APCT)近見・遠見それぞれで偏位量をPD単位で定量化
Bruckner法(red reflex)乳幼児に適した評価法。不同視白内障の検出にも有用

遠見と近見の斜視角差≥10PDは高AC/A比を疑う。

測定法方法正常値
Gradient法+3D加入後の斜視角変化量÷34±2 PD/D
Heterophoria法遠近の斜視角差+瞳孔間距離を加味4±2 PD/D

調節性内斜視の診断には完全矯正眼鏡を3か月以上装用させてから評価することが必須である。

  • 屈折:10PD以上減少+残余<10PD
  • 屈折:近見>遠見10PD以上、+3D加入で改善
  • 部分調節性:10PD以上減少+残余≥10PD
疾患鑑別ポイント
偽内斜視内眼角贅皮・扁平鼻根。遮閉試験で眼位ずれなし。鼻根部をつまむと真の斜視でないことがわかる
外転神経麻痺外転制限あり(人形の目現象で外転不可)
Duane症候群(I型)内転時の眼瞼裂狭小・眼球後退
Möbius症候群第VI・VII神経麻痺の合併
先天性外眼筋線維症人形の目現象で外転制限の有無を確認
Ciancia症候群60°超大角度・外転制限・内転位固視・同側顔回転
眼振阻止症候群外転時に衝動性眼振が出現。ENGで速度減弱型緩徐相波形

乳児内斜視では眼球頭位反射(oculocephalic reflex)を応用した「人形の目現象」で外転制限のないことを確認し、外転神経麻痺やDuane症候群との鑑別を行う。

AACE疑い時:MRI が必須。最大10%に頭蓋内疾患(後頭蓋窩病変が最多)が潜在する2)

弱視治療:約40〜50%に弱視が合併する。健眼遮閉が治療の基本である。偏心固視弱視網膜対応異常が疑われる場合は弱視治療を手術に先行させる。

眼鏡矯正:+2D以上の遠視があれば完全矯正眼鏡で調節性要素を評価する。+3D以上の遠視は調節麻痺下完全矯正後に眼位を測定して手術量を決定する。術後約60%で調節性内斜視が合併するため、継続的な屈折管理が必要である。

手術治療

術式は両内直筋後転術が基本。大角度には外直筋短縮を追加(3筋手術)する1)。40PD以上の内斜視は自然消退しないため、手術適応の判断を速やかに行う。PEDIG研究では生後2〜4か月に40PD以上と確認された乳児のうち、自然消退例は0/45例・0/21例であった1)

手術量定の目安(内斜視角と後転量):

内斜視角(Δ)後転量 筋付着部起点(mm)後転量 角膜輪部起点(mm)
153.0
254.08.5
355.09.5
456.010.5
55+7.011.5

月齢別後転上限(角膜輪部起点):6か月未満→10.0mm、1年未満→10.5mm、24か月未満→11.0mm。

手術時期と両眼視結果:

手術時期近見融像遠見融像立体視(+)
超早期(≤8か月)93.8%93.8%75.0%
早期(9〜24か月)81.0%57.0%19.1%
晩期(>24か月)38.9%27.8%11.1%

p<0.001(超早期 vs 晩期)。Birch & Stager(2000)は6か月未満手術で立体視100%、1歳半以降手術では8%と報告した。

術後眼位目標:ARCが成立するのは8Δ以内の微小斜視または10Δ以内の単眼固視症候群に持ち込むことが最低条件。術後8Δ以上の残余斜視→膜プリズム装用。DVD・斜筋異常の顕性化→適宜再手術。再手術率は15〜30%1)

Ciancia症候群:60°超の大角度・外転制限・内転位固視・顔回転を特徴とする。通常量より多く後転量を設定する。

Q 乳児内斜視の手術はいつ行うのがよいですか?
A

生後8か月以前の超早期手術が融像能(近見融像93.8%)と立体視(75.0%)の獲得に最も有利とされる。2歳までの早期手術でも良好な成績が期待できる。40Δ以上の大角度内斜視は自然消退しないため、手術適応の判断は小児眼科専門医と早期に相談することが重要である1)

Q 手術後に再手術が必要になることはありますか?
A

乳児内斜視では再手術率が15〜30%とされている1)。術後にDVD・斜筋異常が顕性化した場合には適宜追加手術を検討する。残余内斜視(8Δ以上)は膜プリズムで対応する。成人期まで長期管理が必要であり、手術成功率は1回目で約80%、再手術含めると95%超とされる8)

屈折調節性内斜視遠視完全矯正眼鏡が第一選択であり手術は不要。眼鏡装用3か月以内に眼位安定。約15%のみが最終的に眼鏡不要となる。6〜7歳頃に遠視度数がピークとなるため定期的な調節麻痺下屈折検査が必要。終日装用が必須であり、眼鏡枠がずれ落ちないよう注意する。

屈折調節性内斜視:+2.5〜+3.0D加入の二重焦点レンズまたは累進屈折力レンズを処方する。8〜12歳頃に37〜62.5%で二重焦点→単焦点変更が可能となる。コリンエステラーゼ阻害薬のジスチグミン臭化物点眼液(ウブレチド1%)がAC/A比減少に有効な場合がある。

部分調節性内斜視:完全矯正眼鏡装用下で10PD以上残存する場合は手術適応。眼鏡装用下の斜視角のみに対して手術を行う。約30%が手術を必要とする。7歳以下では手術前に再調節麻痺下屈折検査を行い、遠視増加による低矯正がないか確認する。術式は両眼内直筋後転術、単眼の後転・短縮術、後方固定術(Faden法:高AC/A比に有効)。

Q 調節性内斜視は眼鏡だけで治りますか?
A

屈折調節性内斜視遠視完全矯正眼鏡のみで正位を達成できる。ただし最終的に眼鏡不要になるのは約15%のみであり、多くは継続装用が必要である。部分調節性内斜視では眼鏡だけでは不十分であり、残余偏位に対する手術が必要となる。

  • 急性内斜視:原因不明なら数月経過観察→膜プリズムで複視軽減→6か月以上安定後に手術2)。保存的治療(眼鏡・プリズム・パッチ・ボツリヌス)→手術(片眼後転・短縮術または両眼内直筋後転術)
  • 周期性内斜視:内斜視時の斜視角に対して内直筋後転→術後良好な眼位を維持
  • 続発性内斜視:術後内斜視(外斜視術後に多い)、感覚性内斜視(視力0.2以下)それぞれに対応
  • IMCE:両眼内直筋後転5.5mm(Parks式+0.5mm増量)で術後正位・立体視40秒回復6)

本邦では2015年にA型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®)が斜視治療に承認された(保険適応は12歳以上)9)。承認後4年間で約1,500件の施行実績がある9)。施行医基準:日本眼科学会専門医+講習受講+50筋以上の手術経験9)

小児急性第VI神経麻痺への内直筋注入(推奨用量2.5〜5単位/筋)では、50PDが1週で20PD、8週で正位に改善した報告がある7)乳児内斜視では偏位角30〜35Δ未満でより効果的とされる1)。50PD超の斜視・拘束型斜視・Duane症候群外直筋弱化型には安全性が確立されていない。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

遠視(+2D以上)は中心窩に鮮明な像を結ぶために調節を必要とし、調節増大に伴い調節性輻湊が増大する。正常では融像性開散がこの輻湊を代償するが、代償能力を超えた時点で内斜視が顕性化する。屈折性ではAC/A比は正常範囲(4±2PD/D)だが調節量が過多となる。非屈折性(高AC/A比)ではAC/A比が≥6PD/Dに達し、近見での調節に伴う輻湊が過大となり近見で著明な内斜視が生じる。

遠視の経年変化も重要である。新生児は+2D程度の遠視を有し、7〜8歳頃まで遠視が増加する傾向がある。この増減が調節性内斜視の発症・経過に影響する。

乳児内斜視の発症機序(仮説)

Section titled “乳児内斜視の発症機序(仮説)”

乳児内斜視の原因は未解明であり複数の仮説がある。

  • Worth説(先天的視覚系欠陥→両眼視不成立)
  • Chavasse説(一次的眼球運動異常が先行→超早期手術の理論的根拠)
  • Guyton説(融像不全眼振の輻湊抑制→内直筋短縮)
  • Brodsky説(皮質下運動路の代償不全)

Richards(2007)の報告では、6か月以上内斜視が持続すると単眼接続が両眼接続の3倍に増大することが示された1)。霊長類モデルでは早期眼位矯正により正常眼球運動・両眼視が回復し、遅延矯正では内斜視・LN・DVD・OKN非対称性が残存した1)

病型主なメカニズム
屈折調節性内斜視遠視→調節増大→輻湊反射→融像性開散の代償不全→内斜視
屈折調節性内斜視高AC/A比(≥6PD/D)→近見での過剰輻湊
乳児内斜視融像不全・視運動非対称(原因不明)。感受性期の両眼視発達障害
眼振阻止症候群乳児眼振を輻湊で抑制→過剰輻湊→内斜視。ENGで速度減弱型緩徐相波形
IMCE近方凝視持続→内直筋短縮・付着部前方移動。外直筋萎縮の病理報告あり6)
AACE type V後頭蓋窩病変→第VI神経圧迫2)

弱視の発症機序:恒常性内斜視では偏位眼からの像が大脳皮質で抑制される。固視眼が一方に偏ると非優位眼への持続的抑制が生じ斜視弱視に至る。交代固視がある場合は両眼とも視力が同等に発達する。

超早期手術に関する多施設研究のエビデンスが蓄積されてきた。

研究主な知見
Birch & Stager 20001)6か月未満手術:立体視100% vs 1年超:8%
ELISS 20051)早期群13.5% vs 晩期群3.9%(p<0.01)
Yagasaki 20201)超早期77% vs 早期20% vs 晩期13%
Yagasaki 20111)超早期はDVD全例latent vs 晩期38.9%がmanifest
Shin 20141)晩期手術→自発性DVD OR=8.23(P<0.001)
Gerth 20081)11か月未満手術→正常mVEP vs 11〜18か月→異常mVEP残存
Drover 20081)術後に感覚運動・粗大運動の発達促進を確認

Ghobrial & Kuwera(2023)は神経嚢虫症後の両側水平注視麻痺と内斜視を呈した症例に非対称後転・短縮術を施行し改善を報告した3)。注視麻痺と外転神経麻痺の術前鑑別が困難な場合はrecess-resect術が推奨される。

Negishiら(2024)はナノフタルモス眼軸15.5mm)の内斜視手術を報告した5)。内直筋6mm後転で期待矯正量25PDに対し実測12PDにとどまり、小眼球における生体力学的特殊性とプーリー効果の影響が示唆された。

デジタルデバイス過剰使用によるAACEおよびIMCEの増加が近年注目されており、近業制限の公衆衛生的意義が議論されている2, 6)。両眼視機能を改善させる新たなアプローチ(バイノキュラー治療:弱視眼への注意を促す両眼分離刺激法)が斜視弱視に対しても開発されている4)。成人の調節性内斜視に対してLASIK/PRKで遠視を矯正し眼鏡離脱を目指す試みがあるが、小児への適応は未確立である。成人における手術成功率は1回目で約80%、再手術含めると95%超とされる8)

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