DVDの眼球運動の特徴
遮閉時の動き:非固視眼がゆっくりと上転する。同時に外方回旋および外転を伴う。
遮閉解除時の動き:遮閉を外すと遮閉されていた眼が上から下へゆっくりと戻る。
程度の変動:短時間の遮閉では程度が小さい。長時間遮閉で明確化する。注意力によっても斜視角が変動する。日によって斜視角が変わることも多い。
交代性上転斜位(dissociated vertical deviation: DVD)とは、非固視眼が上転する間欠性上斜視である。片眼を遮閉したときに遮閉されたほうの眼(非固視眼)が上斜位になり、Heringの法則(両眼に等量の神経支配が送られるという法則)で説明できないような異常眼球運動を呈する。
DVDは程度の差はあれど、必ず両眼性に生じる。典型的には非固視眼が遮閉されるとゆっくりと上転し、外方回旋するとともに外転する。遮閉を外すと、眼球は上から下へゆっくりと戻る動きをする。
DVDに関連する概念として、交代性斜視複合(dissociated strabismus complex: DSC)がある。これはDVDのほか、固視眼によって内斜視と外斜視のどちらにもなる交代性水平斜位(dissociated horizontal deviation: DHD)、回旋偏位、および潜伏眼振をあわせた一連の異常眼球運動群の総称である。
DVDは水平斜視に合併してみられることが多い。Helvestonは、内斜視患者の14%、外斜視患者の8.7%、上斜視患者の7.2%にDVDが合併すると報告している1)。乳児内斜視では46〜90%にDVDが認められる。両眼視機能が不良な症例が多いが、すべての症例で両眼視機能が不良なわけではない。下斜筋過動との合併頻度も高く、両者が同時に存在することがある。

小児では自覚的訴えは少ない。保護者が「上目遣いをする」「目がずれている」ことに気づいて受診するケースが多い。顕性DVDでは疲労時やぼんやりしているときに非固視眼の上転が明らかになる。不顕性DVDは片眼遮閉時のみに出現するため、日常生活での訴えはさらに少ない。両眼視機能が不良な場合が多いが、すべての症例でそうとは限らない。
顕性DVDでは顎上げ頭位をとることがある。
DVDの眼球運動の特徴
遮閉時の動き:非固視眼がゆっくりと上転する。同時に外方回旋および外転を伴う。
遮閉解除時の動き:遮閉を外すと遮閉されていた眼が上から下へゆっくりと戻る。
程度の変動:短時間の遮閉では程度が小さい。長時間遮閉で明確化する。注意力によっても斜視角が変動する。日によって斜視角が変わることも多い。
合併所見
DVDには顕性と不顕性の2種類がある。顕性DVDは両眼を開けているときにも観察され、疲労時などに非固視眼の上転が明らかになる。不顕性DVDは片眼を覆ったときにのみ現れ、両眼を開くと消失する。日常生活では目立たなくても、遮閉試験で初めて確認されるケースも多い。
DVDの眼球運動メカニズムについては決定的なものはない。現在主に以下の2つの仮説が提唱されている。
Guyton(潜伏眼振)仮説:潜伏眼振を減弱させるために固視眼が内転・下転・内方回旋する方向への駆動が生じる。Heringの法則に従い、非固視眼は外転・上転・外方回旋という連動運動を示す2)。潜伏眼振の存在がDVDの発現に密接に関連すると考えられる。
Brodsky(背光反射)仮説:両眼視機能の欠如により、魚類・甲殻類にみられる原始的な背光反射(dorsal light reflex)が脱抑制される3)。通常は両眼視機能により抑制されている系統発生的に古い前庭-眼球反射が表面化し、片眼遮閉による両眼視の破綻により遮閉眼が上転すると説明される。
どちらの仮説も部分的にDVDの特徴を説明できるが、単一の機序では説明できない側面も残る。
交代遮閉試験が基本的な診断法である。遮閉を外すと遮閉されていた眼が上から下へゆっくり動く所見が特徴的である。
DVDは日によって斜視角が変動するため、正確な定量は容易でない。
下斜筋過動との合併が多く、鑑別が困難な場合も少なくない4)。
| 特徴 | DVD | 下斜筋過動 | 真の上下斜視 |
|---|---|---|---|
| 両側性 | 必ず両側(左右差あり) | 片側または両側 | 通常片側 |
| 誘発条件 | 遮閉で誘発 | 内転位で上転過剰 | 恒常性 |
| Heringの法則 | 不適合 | 適合 | 適合 |
| Parks 3段階法 | 適用不可 | 参考になる | 有用 |
| 回旋偏位 | 外方回旋を伴う | 伴わないことが多い | 原因による |
Parks 3段階法(上斜視の原因筋を特定するための診断法)は、DVDが存在すると誤った結論が出てしまう。DVDでは3段階法を適用することができない。DVDを含む症例を評価する際は、まずDVDの有無を確認したうえで3段階法の結果を解釈する必要がある。
プリズム長時間遮閉法が用いられる。測定したい眼の前にプリズムを置き、長い時間遮閉した後に外したときに眼球が動かなくなる度数を求める。ただし、DVDは日によって斜視角が変わることが多く、注意力によっても変動するため、正確な定量は容易ではない。複数回の測定値を総合的に判断することが重要である。
日常生活で上下斜視が目立つ場合に手術を考慮する。具体的には以下のような場合が適応となる。
不顕性DVDで日常生活への影響が少ない場合は経過観察でよい。なお、DVDに対する決め手となる術式は現時点では確立していない。
| 術式 | 適応 | 利点 | リスク |
|---|---|---|---|
| 下斜筋前方移動術(IOAT) | DVD + 下斜筋過動合併例 | DVD・IO過動を同時矯正 | 抗挙筋症候群 |
| 上直筋後転術(SR recession) | 単独DVDで中〜大程度 | 古典的・実績あり | シーソー現象・下転制限 |
| 後部縫着術(ファーデン法) | 軽〜中等度DVD | 安定眼位を変えない | 強膜菲薄例では困難 |
DVDと下斜筋過動が同時に存在する場合に特に有効とされる5)。下斜筋の新付着部を眼球回旋点より前方に移動させることで、下斜筋の上転機能を失わせ、下転機能に変換する原理である。乳児内斜視の水平斜視手術の際に同時施行されることが多い。
術後合併症として抗挙筋症候群(anti-elevation syndrome:上転制限を生じる状態)のリスクがある点に注意を要する6)。
DVDに対する古典的術式である7)。両眼の上直筋を後転させる。術量は通常5〜8mmで、DVDの程度により調整する。大量後転(7mm以上)では下転制限のリスクがある。
筋の付着部から10〜12mm後方で筋腹を強膜に縫いつける術式である。安定眼位を変化させずに過剰な作用のみを減弱させるのが特徴で、上直筋後転術と併用されることもある。
DVDは必ず両眼性だが、程度に左右差があることが多い。程度の強い側のみ手術することもある。ただし、片眼手術後にシーソー現象として他眼のDVDが目立つようになることがあり、その場合は追加手術を検討する。最終的に両眼の手術が必要になる場合も少なくない。
DVDはHeringの法則(両眼に等量の神経支配が送られる)に従わない異常眼球運動の代表例である。通常の垂直斜視は一方の眼の上転筋過動または下転筋麻痺として説明できるが、DVDでは遮閉される眼がどちらであっても上転するため、この法則では説明できない。
Guytonは、DVDの発現メカニズムとして潜伏眼振に基づく仮説を提唱した2)。片眼を遮閉すると潜伏眼振の方向が変化し、固視眼がより安定した眼位を保つために内転・下転・内方回旋の方向に動く。Heringの法則に従い、非固視眼(遮閉眼)は外転・上転・外方回旋の連動運動を示す。この機序では、潜伏眼振の強さとDVDの程度が相関することが予測される。
Brodskyは、DVDを系統発生的に古い反射の脱抑制として説明した3)。両眼視機能の欠如により、魚類・甲殻類にみられる原始的な背光反射(dorsal light reflex:光の方向に応じて背部を上に向ける反射)が脱抑制される。通常は両眼視機能により抑制されているこの系統発生的に古い前庭-眼球反射が、片眼遮閉によって両眼視が破綻することで表面化し、遮閉眼が上転すると考えられる。
DVD・DHD・回旋偏位・潜伏眼振は独立した現象ではなく、両眼視機能不全に起因する一連の異常眼球運動群として理解される。乳児内斜視による早期の両眼視発達障害がDSCの根底にある病態と考えられており、これらの現象が高頻度に合併することを統一的に説明する。
乳児内斜視においてDVDが46〜90%という高い頻度で認められることは、DVDの発現に両眼視機能の欠如が中核的な役割を果たしていることを示唆する。一方で、両眼視機能が比較的保たれている例にもDVDが生じることがあり、単一の機序では説明できない側面が残る。
乳児内斜視に対する手術時期がDVDの発現に影響する可能性が報告されている。矢ヶ崎らは、超早期手術(生後8か月以前)を受けた群ではDVDがすべて不顕性にとどまったのに対し、晩期手術群では38.9%が顕性DVDに至ったと報告した8)。さらに、Shinらは晩期手術が顕性DVDの発症リスクと関連し、オッズ比8.23(P<0.001)であったと報告している9)。
これらの知見は、乳児内斜視の早期手術介入がDVDの重症度を軽減できる可能性を示唆するが、現時点では前向き比較試験のエビデンスは十分ではなく、今後の多施設研究による検証が求められる。
下斜筋前方移動術(IOAT)はDVDと下斜筋過動の同時矯正に有効とされているが5)、抗挙筋症候群の発生率とその対策については継続的な検討が進められている6)。長期成績に関するエビデンスの蓄積が今後の課題である。
Helveston EM. Dissociated vertical deviation: a clinical and laboratory study. Trans Am Ophthalmol Soc. 1980;78:734-79.
Guyton DL. Dissociated vertical deviation: etiology, mechanism, and associated phenomena. J AAPOS. 2000;4(3):131-44.
Brodsky MC. Dissociated vertical divergence: a righting reflex gone wrong. Arch Ophthalmol. 1999;117(9):1216-22.
Santiago AP, Rosenbaum AL. Dissociated vertical deviation and inferior oblique overaction. J Pediatr Ophthalmol Strabismus. 1998;35(5):293-8.
Kraus DJ, Helveston EM. Inferior oblique anterior transposition for dissociated vertical deviation. J AAPOS. 2005;9(4):341-8.
Stager DR, Parks MM. Inferior oblique anteriorization in the treatment of dissociated vertical deviation. Ophthalmology. 1995;102(8):1206-11.
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Yagasaki T, Yokoyama Y, Maeda M, et al. Influence of timing of initial surgery for infantile esotropia on the severity of dissociated vertical deviation. Jpn J Ophthalmol. 2011;55(4):383-8.
Shin KH, Paik HJ, Kim SJ, et al. Factors associated with the development of manifest dissociated vertical deviation in patients with infantile esotropia. J AAPOS. 2014;18(6):549-53.