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角膜・外眼部疾患

点状表層角膜炎(SPK)

点状表層角膜炎(superficial punctate keratitis / superficial punctate keratopathy:SPK)は、角膜上皮の最表層細胞が種々の原因により点状に脱落した状態である。フルオレセイン生体染色を行うと、上皮欠損部が点状または集簇した染色像として観察される。基底細胞層は保たれており、障害がさらに深層に及べば角膜びらん、実質まで及べば角膜潰瘍と呼ばれる。

重要な前提として、SPK はあくまで「所見」であり独立した疾患名ではない。眼科外来で異物感を主訴とする患者によくみられ、その背景には多彩な原因疾患が潜んでいる。したがって SPK の診療では原因検索が治療方針決定の第一歩となる。

一方で、例外的に独立した疾患単位として扱われるのが Thygeson 点状表層角膜炎(Thygeson superficial punctate keratitis:TSPK)である。TSPK は1950年に Phillips Thygeson により報告された、多くは両眼性で再発性の角膜上皮炎であり、明確な原因疾患が同定できない特発性の表層角膜炎として別項で記述される。

  • 涙液関連:ドライアイ(涙液分泌減少型・BUT 短縮型)、マイボーム腺機能不全(MGD)1)
  • 物理・機械的要因:コンタクトレンズ障害、睫毛乱生、眼瞼内反、結膜弛緩症
  • 化学的要因:点眼薬の薬剤毒性(防腐剤ベンザルコニウム塩化物を含む)、全身抗腫瘍薬の涙液移行
  • 炎症・アレルギー:アレルギー性結膜炎、春季カタル、上輪部角結膜炎(SLK)
  • 感染性:単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス
  • 神経・眼瞼障害:三叉神経麻痺、顔面神経麻痺、兎眼
  • 特発性:Thygeson 点状表層角膜炎
Q SPK は病名か、それとも所見か?
A

SPK は病名ではなく、角膜上皮が何らかの原因で障害された結果として観察される「所見」である。原因を特定しない限り根本的な治療はできないため、SPK を認めたら必ず原因検索を行う。Thygeson 点状表層角膜炎だけは例外的に独立した疾患単位として扱われる。

Thygeson表層点状角膜炎の細隙灯写真
Tang XJ, et al. Thygeson’s superficial punctate keratitis (TSPK): a paediatric case report and review of the literature. BMC Ophthalmology. 2021;21:64. Figure 1. PMCID: PMC7845125. License: CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/).
細隙灯顕微鏡写真に、複数の孤立した上皮病変(左眼)が示されている。本文「2. 主な症状と臨床所見」の項で扱う点状上皮病変に対応する。

患者が訴える症状は多彩であり、眼科疾患で生じるほとんどすべての症状が SPK により出現しうる。

  • 異物感:SPKでみられる代表的な症状の一つである。
  • 疼痛・眼痛:上皮障害の程度により軽度〜中等度の痛みを伴う。
  • 視力低下・霧視:瞳孔領に病変が及ぶと生じる。
  • 羞明:光に対する過敏性。増悪期に顕著となる。
  • 乾燥感:涙液機能低下型で顕著。
  • 充血:結膜充血の合併。
  • 疲労感・眼精疲労:慢性経過で持続する。
  • 眼脂・瘙痒感:アレルギー性や感染性で顕著。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

細隙灯顕微鏡検査では肉眼的に病変を観察できない例が多く、フルオレセイン生体染色による評価が診断の中核となる。染色像は点状・渦巻き状・クラックライン様など多様な形態を呈し、障害の程度により染色性は異なる。

染色部位は原因疾患の推定に有用であり、日常診療の基本アプローチである。

中央型

主な起因疾患:神経麻痺性角膜症、Thygeson 点状表層角膜炎、睫毛による機械的障害、ハードコンタクトレンズ(HCL)障害、ドライアイ。

観察のポイント:角膜知覚検査と睫毛の状態を確認する。

下方・瞼裂部型

主な起因疾患:ドライアイ、結膜弛緩症、兎眼、マイボーム腺機能不全(MGD)、ソフトコンタクトレンズ(SCL)障害、眼瞼内反、薬剤性。

観察のポイント:瞼裂幅、マイボーム腺開口部、涙液メニスカスを観察する。

びまん性・局所型

びまん性:薬剤毒性(点眼薬毒性、抗腫瘍薬副作用)、重症ドライアイ、SCL 障害、角膜上皮関連ジストロフィ(Meesmann など)。

局所型:結膜異物、ヘルペス感染、CL 装用者の3時9時ステイニング。

  • 軽症 SPK:散在する点状染色。自覚症状軽度〜中等度。
  • レイトステイニング(バスクリン角膜症):点眼後しばらくしてフルオレセインが染み込む所見。上皮バリア機能障害を示す。薬剤毒性で高頻度。
  • ハリケーン角膜上皮症:角膜中央部に渦巻き状の染色パターン。薬剤毒性の中等度所見。
  • 上皮クラックライン(epithelial crack line):ひび割れ様の線状欠損。薬剤毒性の重症型。
  • 遷延性上皮欠損:SPK が進展し広範な上皮欠損へ移行した状態。

TSPK は一般的な原因別 SPK とは異なる独立疾患であり、特徴的な臨床像を示す。

  • 両眼性・再発性:通常両眼性で、増悪と寛解を繰り返す経過をとる。
  • 角膜中央部の隆起病変:灰白色で類円形、わずかに隆起した点状混濁が複数散在する。
  • 結膜の静穏性:結膜充血や炎症反応を欠く点が鑑別の重要な手がかりである。
  • フルオレセイン染色:病巣中心部が点状に染色される。病変周辺の角膜上皮は正常である。
  • 角膜知覚:正常またはわずかに低下する程度にとどまる。
  • 自覚症状:羞明、霧視、異物感・刺激感などを呈する。総説レベルの記載では、1回の増悪あたり平均約20個の点状病変がみられ、増悪は1〜2か月持続し、寛解までに最長6週間を要するとされる。40例の後ろ向き症例系列では、疾患が年単位から数十年に及びうることが示されている12)。
Q 染色パターンから原因をどの程度絞り込めるか?
A

フルオレセイン染色の分布部位は原因推定の有力な手がかりである。上方であれば上輪部角結膜炎やアレルギー、中央であれば神経麻痺性・Thygeson SPK・HCL 障害、下方・瞼裂部であればドライアイや MGD、びまん性であれば薬剤毒性や重症ドライアイが疑われる。ただし染色部位だけで原因を確定することはできず、涙液機能・眼瞼・角膜知覚・使用薬剤・全身疾患の総合評価が必要である。

SPK の原因は多岐にわたる。以下に臨床的に頻度の高いものから順に列挙する。

  • 涙液分泌減少型ドライアイ:涙液の基礎分泌低下を伴う病型である。2016年版の国内診断基準は「眼不快感・視機能異常などの自覚症状」と「涙液層破壊時間(BUT)5秒以下」の両方を満たすことを求める。Schirmer 第Ⅰ法は涙液分泌量の評価に用いる補助検査であり、現行診断基準そのものではない8)。加齢、Sjögren 症候群、関節リウマチ、抗コリン薬内服などがリスク因子となる。
  • BUT 短縮型ドライアイ:涙液量は保たれるが涙液層の安定性が低下し、まばたき直後から涙液層が破壊される病型である。VDT 作業、エアコン、コンタクトレンズ装用などと関連する3)。
  • マイボーム腺機能不全(MGD):マイボーム腺開口部の閉塞や脂質分泌異常により涙液油層が障害され、蒸発亢進型のドライアイと難治性 SPK を呈する1,4)。下方〜瞼裂部の SPK が典型的である。
  • ハードコンタクトレンズ障害:角膜中央部に限局した SPK を生じる。装用時間の延長やレンズフィッティング不良がリスクとなる。
  • ソフトコンタクトレンズ障害:びまん性または下方の SPK を呈する。シリコーンハイドロゲルレンズ装用者を対象とした前向き研究では、ケア用品による角膜染色の発生率がレンズとケア用品の組み合わせにより異なり、レンズ素材・デザイン、ケア用品、両者の相互作用が有害事象に関与すると考察されている9)。
  • 睫毛乱生・眼瞼内反:睫毛が角膜面を擦過し機械的障害を生じる。
  • 結膜弛緩症:下方瞼裂部に弛緩結膜が入り込み瞬目時の摩擦を増加させる。
  • 薬剤毒性角膜症:点眼薬の防腐剤(ベンザルコニウム塩化物:BAC)が主たる原因で、主成分の毒性により生じる場合もある。抗緑内障薬、抗菌薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、NSAIDs 点眼、β遮断薬、点眼麻酔薬で報告が多い。軽症ではドライアイ類似の瞼裂部〜下方 SPK を呈し、重症化するとハリケーン角膜上皮症、上皮クラックライン、遷延性上皮欠損へと進行する。長期間の点眼毒性負荷は輪部機能不全や偽眼類天疱瘡の誘因となる。TS-1 などの抗癌薬全身投与では角膜上方の輪部から上皮障害が生じる。
  • アレルギー性結膜炎・春季カタル:上方型 SPK の代表であり、巨大乳頭や粘液性眼脂を伴う5)。
  • 上輪部角結膜炎(SLK):50歳以上に好発する上輪部の慢性炎症で、上方型 SPK と糸状角膜炎を生じる。
  • フリクテン角膜炎(マイボーム腺炎角結膜上皮症):マイボーム腺炎と関連する IV 型アレルギーによる両眼性再発性角膜炎。
  • 単純ヘルペスウイルス角膜炎(上皮型):片眼性、角膜知覚低下、樹枝状潰瘍が典型的である。初期には点状や星芒状の上皮所見を示すこともあり SPK との鑑別を要する7)。
  • アデノウイルス角膜炎:流行性角結膜炎に伴う多発性上皮下浸潤として観察される。先行する結膜炎の既往が鑑別点となる。
  • 神経麻痺性角膜症:三叉神経の障害により角膜知覚が低下し、上皮修復機能が破綻して中央型 SPK を生じる。角膜ヘルペス後、帯状疱疹眼症、三叉神経手術後、脳幹病変などが原因となる。
  • 兎眼性角膜症:閉瞼不全により角膜下方が乾燥する。顔面神経麻痺、甲状腺眼症、眼窩腫瘍、睡眠時閉瞼不全、昏睡などが背景疾患となる。
  • 糖尿病角膜症:糖尿病による神経障害と上皮接着性低下により生じる。

特発性:Thygeson 点状表層角膜炎

Section titled “特発性:Thygeson 点状表層角膜炎”

原因不明の再発性角膜上皮炎であり、免疫学的機序が仮説として検討されている。セリアック病との併存は20歳女性の1症例として報告されているが、単例から因果関係や一般的な併存頻度を結論づけることはできない2)。タクロリムスの有効性を検討した後ろ向き症例系列では、投与中の症状・所見の改善が報告された一方、中止時には再発し、根治療法とは示されなかった15)。

関節リウマチなどの膠原病、糖尿病、アトピー性皮膚炎は SPK の背景疾患となりうる。治療方針を立てる際には全身疾患の聴取が重要である。

SPK の診療は、所見の確認にとどまらず「何が原因で上皮が障害されているか」を体系的に検索することが治療方針決定の鍵となる。

  1. 問診:発症の急性/慢性、片眼性/両眼性、CL 装用歴、使用点眼薬・内服薬、外傷・異物暴露、全身疾患歴(関節リウマチ、糖尿病、アトピー、Sjögren 症候群など)を聴取する。急性・片眼性であれば外因性(異物・化学物質)、慢性・両眼性であれば内因性(ドライアイ・MGD・薬剤毒性)の可能性が高い。
  2. 細隙灯顕微鏡検査:上皮下浸潤などの炎症所見の有無、結膜充血、前房内炎症の有無を確認する。
  3. フルオレセイン生体染色:染色部位・パターンから原因を推定する(セクション2の CardGrid 参照)。
  4. 環境因子評価(6項目):涙液機能、眼瞼、角膜知覚、結膜、使用薬剤、全身疾患の各項目を評価する。
  5. 定量評価:染色の範囲と密度を記録し、同じ評価法を用いて経時変化を追跡する。
  • Schirmer テスト第Ⅰ法:涙液の基礎分泌および反射性分泌を測定する。5分値が5mm以下であれば涙液分泌低下を示唆するが、2016年版の国内ドライアイ診断基準は自覚症状と BUT 5秒以下の組み合わせであり、Schirmer 値は病型・涙液分泌量の補助評価として解釈する8)。
  • 涙液層破壊時間(BUT):フルオレセイン点眼後に開瞼を維持し、涙液層に乾燥斑が出現するまでの時間を測定する。5秒以下で異常と判定し、BUT 短縮型ドライアイの診断根拠となる3,8)。
  • 涙液メニスカス観察:下眼瞼縁の涙液三日月の高さを評価する。減少型ドライアイでは低値を示す。
  • Cochet-Bonnet 角膜知覚計:角膜ヘルペスや糖尿病角膜症、LASIK 術後、CL 長期装用者、顔面神経麻痺などで低下する。知覚低下は涙液の反射性分泌を低下させ、SPK を悪化させる。
  • 共焦点顕微鏡検査:TSPK 5例の研究では、細隙灯でみられる病変に対応した表層・基底上皮層の星芒状高反射性沈着物、上皮下混濁、基底上皮層のランゲルハンス細胞が報告された。3例にみられた Bowman 膜異常はいずれも1年を超える病歴を伴っていたが、小規模研究の所見である13)。
  • 涙液検査:ラクトフェリン定量、MMP-9 検査などが補助的に用いられる。
  • 全身疾患スクリーニング:抗 SS-A/SS-B 抗体、HbA1c、血清 IgE などを必要に応じて評価する。

フルオレセイン染色の広がりと点状病変の密度を記録する。施設や診療場面で採用する尺度は異なりうるため、同じ患者では同一の評価法を継続して用い、治療前後の変化を比較する。

鑑別対象鑑別のポイント
角膜ヘルペス(上皮型)片眼性、知覚低下、樹枝状潰瘍
アデノウイルス角膜炎先行結膜炎、多発性上皮下浸潤
Thygeson SPK両眼・中央・結膜静穏・隆起病変
ドライアイ/MGD下方 SPK、BUT 短縮、涙液異常
薬剤毒性角膜症点眼歴、瞼裂部 SPK、レイト染
アレルギー性角結膜炎上方 SPK、巨大乳頭、瘙痒
神経麻痺性角膜症中央 SPK、角膜知覚低下
兎眼性角膜症閉瞼不全、下方 SPK
Q SPK の重症度評価にはどのような方法があるか?
A

フルオレセイン染色の範囲と点状病変の密度を記録し、治療前後で比較する。評価尺度は施設や診療場面で異なりうるため、経過観察では同じ方法を継続して用いることが重要である。

SPK の治療の大原則は 「原因の除去」と「角膜上皮の保護・修復」の併用である。原因疾患によって治療戦略が大きく異なるため、原因別のアプローチを以下に示す。

涙液補充・保護

ヒアルロン酸ナトリウム点眼:眼表面の保水と角結膜上皮障害の改善を目的に用いる。Sjögren 症候群に伴うドライアイを対象とした国内ガイドラインの CQ では、治療選択肢として弱く提案されている3)。

人工涙液:防腐剤フリー製剤が望ましい。軽症例や薬剤毒性例で第一に選択する。

眼軟膏:就寝中の乾燥や曝露が問題となる例で、角膜保護を目的とした眼軟膏を検討する。

涙液動態の改善

ジクアホソルナトリウム点眼:水分およびムチン分泌を促進する。Sjögren 症候群に伴うドライアイを対象とした国内ガイドラインの CQ では、涙液安定性、角結膜上皮障害、自覚症状を改善する治療選択肢として強く推奨されている3)。

レバミピド点眼:ムチン産生促進作用を有する。Sjögren 症候群に伴うドライアイを対象とした同 CQ では、角結膜上皮障害と自覚症状を改善する治療選択肢として弱く提案されている3)。

  • 涙液層の不足成分と重症度を評価し、人工涙液、ヒアルロン酸、ジクアホソル、レバミピドなどから個別に選択する。
  • Sjögren 症候群に伴うドライアイについて、国内ガイドラインはジクアホソルと涙点プラグを強く推奨し、ヒアルロン酸、レバミピド、副腎皮質ステロイドを弱く提案している3)。
  • 原発性 Sjögren 症候群42眼を対象に涙点プラグと人工涙液を比較した無作為化研究では、3か月後に両群で症状、角膜フルオレセイン染色、Schirmer 値、BUT が治療前より改善した。群間比較では涙点プラグ群の Schirmer 値と BUT の改善が大きかったが、症状・角膜染色を含む全アウトカムで優越したわけではない11)。
  • 副腎皮質ステロイド点眼を用いる場合は眼圧上昇、感染症などを監視する3)。

マイボーム腺機能不全(MGD)による SPK

Section titled “マイボーム腺機能不全(MGD)による SPK”
  • 温罨法:現行の MGD 診療ガイドラインは、自覚症状と meibum の質を改善する治療として強く推奨している1)。ただしガイドラインは温度・時間・回数を規定しておらず、採用研究のデバイスと加温条件も一様ではない。具体的な条件は製品の使用法と眼科医の指示に従う。
  • 眼瞼清拭:眼瞼縁の状態に応じて併用する1)。
  • ドライアイを合併する場合は涙液層の状態に応じた点眼治療を行う。抗菌薬、副腎皮質ステロイド、抗菌薬内服などは炎症所見・病型・適応を確認して個別に判断し、画一的なレジメンとして用いない1)。

抗アレルギー点眼薬を基本とし、角膜病変を伴う場合は重症度に応じて副腎皮質ステロイド点眼を検討する。眼圧上昇などを監視し、漫然と継続しない。タクロリムスなどの免疫抑制点眼薬は、単純なアレルギー性結膜炎一般に追加するのではなく、重症・難治のアトピー性角結膜炎または春季カタルで専門医が検討する5)。

  • 原因薬剤の中止または変更:抗緑内障薬、NSAIDs、抗菌薬などの候補点眼を中止する。
  • 防腐剤無添加製剤への変更:同一薬効で防腐剤フリー製剤がある場合はそちらを選択する。
  • 補充療法:防腐剤フリーの人工涙液を頻回点眼する。
  • 補助:充血や濾胞性結膜炎が顕著な場合は低濃度ステロイド点眼を考慮するが、創傷治癒遅延に留意する。

神経麻痺性角膜症・糖尿病角膜症・兎眼性角膜症

Section titled “神経麻痺性角膜症・糖尿病角膜症・兎眼性角膜症”
  • 強制閉瞼(メパッチクリアなど)、保護用ソフトコンタクトレンズの装用を行う。
  • 眼表面の乾燥・曝露と上皮障害の程度に応じ、潤滑・保護目的の点眼薬や眼軟膏を個別に調整する。
  • 抗菌薬は定型的に投与せず、感染が疑われる、または診断された場合に限り、推定・同定病原体の感受性と添付文書に沿って必要最小限に用いる。
  • 重症・遷延例では羊膜移植、自家血清点眼、神経栄養因子関連治療などが検討される。
  • 定期的な睫毛抜去、電気分解を行う。
  • 根治のため眼瞼形成手術を施行する。
  • 軽症例:TSPK は増悪と寛解を繰り返す良性・自己限定性の疾患であり、通常は瘢痕を残さず治癒する。症状が軽ければ人工涙液による症状緩和にとどめる12)。長期のステロイド点眼には眼圧上昇・白内障のリスクがあるため、軽症・無症状例では経過観察を選ぶ判断もありうる。なお40例の症例系列では経過中いずれかの時点で97.5%がステロイド点眼を受けており、無治療で経過観察された例は1例のみであった12)。
  • 有症状例:副腎皮質ステロイド点眼が治療の中心となるが、薬剤、濃度、回数、漸減期間は病変と副作用リスクに応じて個別に決める12)。
  • 再発例・ステロイド依存例:シクロスポリンまたはタクロリムスによる免疫調節療法が選択肢となりうる。ただし根拠は症例報告・後ろ向き症例系列に限られる。タクロリムスを用いた14例の系列では、投与中は改善したものの中止時に再発し、根治性は示されなかった2,15)。
  • 治療用コンタクトレンズ:40例の症例系列では二次治療として使用されたのは1例であり、一般的な標準治療とはせず、難治例で専門医が個別に検討する12)。
Q ドライアイによる SPK で、ジクアホソルとレバミピドはどのように使い分けるか?
A

両薬は作用点が異なるため、涙液層の状態、上皮障害、自覚症状を評価して選択する。国内ガイドラインの推奨強度は Sjögren 症候群に伴うドライアイを対象とした CQ に基づき、ジクアホソルは強い推奨、レバミピドは弱い提案である。これをすべてのドライアイ病型に一律に当てはめず、主治医が個別に判断する3)。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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角膜上皮ターンオーバーの破綻

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角膜上皮は基底細胞層からのターンオーバーにより恒常的に更新されている。SPK は、最表層細胞の脱落亢進 または 基底細胞からの細胞供給低下 によりターンオーバーのバランスが崩れた初期状態として理解される。実際には多くの症例で前者、すなわち脱落亢進が主因となる。

  • ドライアイ:涙液層の不安定化により眼表面が乾燥し、上皮細胞にストレスが加わる。炎症性サイトカイン(IL-1、TNF-α)と MMP-9 の活性化が上皮バリアを破壊する6)。
  • マイボーム腺機能不全:マイボーム腺脂質の質的・量的異常により涙液油層が機能低下し、蒸発亢進と涙液層不安定化を生じる1)。慢性炎症により瞼板内脂腺の閉塞が進行する悪循環が形成される。
  • 薬剤毒性:防腐剤ベンザルコニウム塩化物(BAC)が角膜上皮細胞膜のリン脂質層を破壊し、バリア機能を障害する。軽度の上皮障害でもフルオレセインが染み込みやすくなるレイトステイニング像として可視化される。長期暴露は輪部幹細胞機能低下を招く。
  • 神経麻痺性角膜症:三叉神経支配の喪失により神経栄養因子(サブスタンス P、CGRP、NGF)の供給が途絶え、上皮の接着性と創傷治癒能が低下する。

Thygeson 点状表層角膜炎の免疫学的機序

Section titled “Thygeson 点状表層角膜炎の免疫学的機序”

TSPK の免疫学的機序は確定していない。小規模研究・症例報告から得られた所見として、以下が挙げられる。

  • ランゲルハンス細胞:3例4眼の共焦点顕微鏡研究では、病変部の基底上皮層と Bowman 膜でランゲルハンス細胞が増加していた。この小規模研究は炎症の関与を示唆するが、原因を確定するものではない14)。
  • 自己免疫疾患との併存:本稿で確認できた原著はセリアック病を併存した1症例であり、アジソン病、Sjögren 症候群、全身性エリテマトーデスまで一般化しない2)。
  • 免疫調節薬への反応:シクロスポリンの症例報告とタクロリムスの後ろ向き症例系列があるが、薬剤反応だけで T 細胞介在性病態を証明することはできない2,15)。

TSPK の共焦点顕微鏡研究では上皮、上皮下、Bowman 膜、実質に微細構造変化が報告されているが、対象は5例であり、持続期間との関係を一般化するには限界がある13)。40例の症例系列では、多くが初診時に両眼20/30以上で、疾患は年単位から数十年に及びうると報告された12)。

Thygeson SPK とセリアック病の免疫遺伝学的関連

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Tagmouti らは、セリアック病歴を有する20歳女性に TSPK が発症した1症例を報告した。この症例ではシクロスポリン A 2% 点眼を1日3回から6か月かけて漸減し、3年間の追跡で再発を認めなかった2)。ただし単例報告であり、両疾患の因果関係、TSPK 患者に対する一律のセリアック病スクリーニング、治療効果の一般化を支持するものではない。

TFOS DEWS II(2017年)は、ドライアイの定義・分類と管理・治療を、涙液層不安定化の要因や重症度に応じて組み立てる考え方を示している6,10)。SPK は所見であるため、ドライアイを一律に扱わず、涙液不足、涙液層不安定化、MGD、炎症などの背景を評価して治療を選択する。

  1. マイボーム腺機能不全診療ガイドライン作成委員会. マイボーム腺機能不全診療ガイドライン. 日本眼科学会雑誌. 2023;127(2):109-228.
  2. Tagmouti A, Lazaar H, Benchekroun M, Boutaj T, Benchekroun S, Amazouzi A, et al. Association Between Thygeson Superficial Punctate Keratitis and Celiac Disease. Cureus. 2025;17(3):e80252. doi:10.7759/cureus.80252. PMID:40196095; PMCID:PMC11975144.
  3. ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会. ドライアイ診療ガイドライン. 日本眼科学会雑誌. 2019;123(5):489-592.
  4. 天野史郎, 有田玲子, 木下茂, ほか. マイボーム腺機能不全の定義と診断基準. あたらしい眼科. 2010;27(5):627-631.
  5. 日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会. アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版). 日本眼科学会雑誌. 2021;125(8):741-785.
  6. Jones L, Downie LE, Korb D, Benitez-Del-Castillo JM, Dana R, Deng SX, et al. TFOS DEWS II Management and Therapy Report. The ocular surface. 2017;15(3):575-628. doi:10.1016/j.jtos.2017.05.006. PMID:28736343.
  7. 日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 日眼会誌. 2023;127(10):859-895.
  8. 島﨑潤. ドライアイの定義と診断基準(2016年版). あたらしい眼科. 2017;34(3):309-313.
  9. Carnt NA, Evans VE, Naduvilath TJ, Willcox MDP, Papas EB, Frick KD, Holden BA. Contact lens-related adverse events and the silicone hydrogel lenses and daily wear care system used. Arch Ophthalmol. 2009;127(12):1616-1623. doi:10.1001/archophthalmol.2009.313. PMID:20008717.
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  11. Qiu W, Liu Z, Ao M, Li X, Wang W. Punctal plugs versus artificial tears for treating primary Sjögren’s syndrome with keratoconjunctivitis SICCA: a comparative observation of their effects on visual function. Rheumatol Int. 2013;33(10):2543-2548. doi:10.1007/s00296-013-2769-1. PMID:23649850.
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