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眼外傷

紫外線角膜炎(雪目・電気性眼炎)

1. 紫外線角膜炎(雪目・電気性眼炎)とは

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紫外線角膜炎は、紫外線が生体中の核酸や芳香族アミノ酸に吸収されることで遺伝子やタンパク質を変性させ、角膜上皮に障害をきたす疾患である。急性の角膜上皮障害として発症するほか、慢性曝露では白内障瞼裂斑翼状片・扁平上皮化生・扁平上皮癌を誘発する。

紫外線角膜炎は原因となる紫外線の波長と曝露源によって2型に区別される。

病名原因主要紫外線特徴
電気性眼炎電気溶接・アセチレン溶接・殺菌灯・水銀灯UVC(100〜280nm)症状が重い。発症が速い
雪眼炎(雪目)スキー場・高山での太陽光曝露UVB(280〜315nm)症状は比較的軽度。発症まで時間が長い
波長区分波長範囲眼への主な影響
UVA(長波長紫外線)315〜400nm眼への急性障害は比較的少ない。皮膚への影響が主
UVB(中波長紫外線)280〜315nm雪眼炎・日焼けの主要因。角膜水晶体で吸収される
UVC(短波長紫外線)100〜280nm最も傷害性が強い。太陽光には含まれない。人工光源から照射される

UVCは太陽光には含まれないが、電気溶接・アセチレン溶接・殺菌灯・水銀灯などの人工光源から照射される。このためUVCによる電気性眼炎は溶接作業者における職業性外傷として重要である。

電気性眼炎は保護眼鏡を装用せずに人工光源を直接見た際に生じる。スキー場や高山での観光客がゴーグル・サングラスを着用せずに長時間外出した際には雪眼炎が発症する。日中の溶接作業やスキーの後、夜間になってから激しい眼痛で救急受診する経過が典型的である。両眼性に発症することが多い12

野外活動者を対象とした前向き調査では、UV曝露条件下の参加者における雪眼炎の発症率は0.06%で、発症例の87%はサングラスを装用していなかった2。標高が高くなるほど大気によるUV減衰が少なく、海抜5,000mでは海水準より40%程度UV量が増加するため、登山者の雪眼炎リスクが高まる2

Q 電気性眼炎と雪眼炎はどう違うのか?
A

最大の違いは原因となる紫外線の波長と光源である。電気性眼炎はUVCを含む人工光源(溶接・殺菌灯)への曝露で生じ、症状が重く発症が速い。雪眼炎は太陽光のUVBによるもので、症状は比較的軽度で発症までの時間も長い。太陽光に含まれる紫外線は人工光源より波長が長いため、生体への傷害性が相対的に低い。

保護眼鏡をしないで人工光源を直接見たり、よく晴れた日にゴーグル・サングラスをせずに1時間半〜2時間以上スキー場にいたりすると、30分〜24時間の潜伏期を経て症状が現れる。この潜伏期の存在が紫外線角膜炎の特徴的な臨床像であり、患者が曝露の事実を自覚していない場合もある。

症状は角膜上皮障害を反映したものである。

  • 眼痛:著明。自力で開瞼できない症例が多い
  • 異物感:眼内に砂が入ったような強い感覚
  • 流涙:反射性に大量の涙液が分泌される
  • 羞明(光過敏):強い光への過敏性
  • 結膜充血結膜浮腫:球結膜充血と浮腫
  • 眼瞼痙攣:疼痛と羞明に伴う不随意の瞼の収縮
  • 視力低下角膜上皮の広範な障害による
  • 時に虹彩炎・眼瞼の発赤・腫脹を伴う

電気性眼炎は雪眼炎と比較して症状が重く、発症までの時間も短い傾向がある。

電気性眼炎

原因: UVC(溶接・殺菌灯・水銀灯)

症状重症度: 重い

発症速度: 比較的速い(曝露後数時間以内)

眼所見: 広範囲SPK角膜びらん虹彩炎を伴う場合あり

雪眼炎(雪目)

原因: UVB(太陽光・スキー場・高山)

症状重症度: 比較的軽度

発症速度: やや遅い(より長い潜伏期)

眼所見: SPK角膜びらんは比較的軽度。症状は電気性眼炎より穏やか

電気性眼炎・雪眼炎の角膜病態は、広範囲に及ぶ点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy: SPK)および角膜びらんという角膜上皮障害である。フルオレセイン染色によって緑色の点状・びまん性染色が確認される。

Q なぜ曝露の直後ではなく、数時間後に症状が出るのか?
A

紫外線は曝露直後から角膜上皮細胞のDNAやタンパク質に損傷を与えるが、細胞変性が進行し炎症カスケードが活性化されるまでに時間的な遅れがある。この細胞変性→炎症反応活性化の時間差が、30分〜24時間の潜伏期として現れる。溶接中やスキー中は症状を感じず、数時間後に急激に発症するのはこのためである。

  • 電気溶接・アセチレン溶接:アーク溶接では強力なUVCが放射される。溶接用遮光眼鏡を正しく装用しない場合に発症する1
  • 殺菌灯(UV-C灯):医療・食品・水処理施設で使用される紫外線殺菌灯。誤操作や不適切な使用で眼に直接照射される場合がある。韓国の鶏処理場で殺菌灯の自動シャットオフ故障により41人中26人(63.4%)が角膜上皮症を発症したとの報告がある3
  • 水銀灯:工場・屋外照明に使用される
  • 近年、家庭用UV-C除菌製品の普及により、家庭内での誤曝露事例が増加している4
  • スキー場・ゲレンデ:雪面はUVBを高率に反射する。高所では大気による紫外線減衰が少なく、地上の数倍の紫外線量となる
  • 高山登山:標高が高くなるほど大気が薄くなり、UVBの減衰が少ない
  • 砂浜・雪原:UVBの反射率が高い環境
  • 保護眼鏡・遮光ゴーグル・サングラスの非着用
  • 人工光源の長時間・近距離の直接曝露
  • スキー場・高山での長時間の屋外活動(1.5〜2時間以上の連続曝露)
  • 不適切な機器操作(殺菌灯の室内使用中の在室など)

診断の第一歩は曝露歴の詳細な問診である。

  • 溶接作業・殺菌灯使用・スキー・高山登山などの曝露歴
  • 曝露から症状出現までの時間(30分〜24時間の潜伏期の確認)
  • 保護眼鏡・ゴーグルの着用状況
  • 両眼性かどうか(片眼性なら異物・感染など他疾患を考慮)

フルオレセイン染色を用いた細隙灯顕微鏡検査が診断の確定手段である。

  • フルオレセイン染色:コバルトブルー光で角膜全体を観察する。広範囲の点状表層角膜症SPK)または角膜びらんが確認できれば診断確定となる
  • びまん性・点状の染色は紫外線障害に特徴的であり、単純な機械的外傷による線状傷や感染性角膜炎とは異なるパターンを示す
  1. 曝露歴(溶接・スキー)の聴取
  2. 両眼性の発症(一側性であれば他疾患を考慮)
  3. 30分〜24時間の潜伏期
  4. 広範囲SPKまたは角膜びらんフルオレセイン染色で確認)
疾患鑑別のポイント
角膜異物症状が片眼性・局所性。異物の存在を細隙灯で確認
感染性角膜角膜浸潤・前房炎症を伴う。両眼性でない場合が多い
ドライアイによるSPK慢性経過。下方角膜に好発。潜伏期なし
化学外傷(酸・アルカリ)曝露直後に発症。潜伏期なし

紫外線角膜炎は通常24〜48時間以内に自然治癒する15。急性期治療の目的は疼痛管理と二次感染予防である。

治療内容注意点
点眼麻酔オキシブプロカイン塩酸塩等を診察時に使用反復使用は禁忌。繰り返し使用すると上皮修復が遅延し、角膜毒性が生じる
抗菌薬点眼レボフロキサシン(0.5%)等のニューキノロン系を1日4〜6回二次感染予防が目的。角膜上皮欠損があれば感染リスクが高まる
NSAIDs点眼ジクロフェナクナトリウム0.1%またはブロムフェナクナトリウム0.1%を1日2〜4回疼痛軽減に有効。長期使用は角膜上皮障害に注意
治療用ソフトコンタクトレンズバンデージコンタクトレンズを装用疼痛軽減と上皮治癒促進。抗菌薬点眼と併用する
眼帯・暗室安静必要に応じて施行羞明眼瞼痙攣の強い症例に有用
  • 軽症(SPKのみ):12〜24時間で上皮回復
  • 中等症(広範囲SPK角膜びらん):24〜48時間で自然治癒
  • 重症例(深い角膜びらん):48〜72時間かかる場合がある。ただし重篤な視力障害を残すことはまれ
Q 紫外線角膜炎は治療しなくても治るのか?
A

通常は24〜48時間で角膜上皮が自然に再生し治癒する。しかし、治療なしで放置するのは望ましくない。二次感染(細菌性角膜炎)のリスクがあるため抗菌薬点眼は行うべきである。また疼痛が非常に強い場合が多く、NSAIDs点眼や治療用ソフトコンタクトレンズによる対症療法で患者の苦痛を軽減することが重要である。

再発防止と職業・レクリエーション上のリスク管理として、以下を指導する。

  • 溶接作業:適切な遮光度(シェードナンバー10〜14程度)の溶接用保護マスク・遮光眼鏡を常に着用する
  • スキー・高山活動:UV400対応のゴーグルまたはサングラスを着用する。特に晴天・新雪時は反射UVBが強い
  • 殺菌灯:使用中は必ず室外に退避する。タイマー使用が推奨される

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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紫外線は生体中の核酸や芳香族アミノ酸に直接吸収され、遺伝子(DNA)やタンパク質を変性させることで障害をきたす。角膜上皮細胞における主な損傷機序は以下のとおりである。

  • DNA損傷:UVBおよびUVCが角膜上皮細胞のDNAに吸収され、チミン二量体(シクロブタンピリミジン二量体)などの光産物を形成する。この損傷がDNA複製・転写を障害し、細胞死を誘導する
  • タンパク質変性:芳香族アミノ酸(チロシン・フェニルアラニン等)が紫外線を吸収しタンパク質立体構造が変性する。酵素・構造タンパクの機能喪失が生じる
  • 活性酸素種(ROS)の産生:紫外線は間接的にROSを産生し、脂質過酸化・タンパク酸化・DNA酸化損傷を引き起こす

紫外線曝露から症状出現までの30分〜24時間の潜伏期は、以下の経緯で生じる。

  1. 紫外線曝露 → DNA損傷・タンパク変性が開始
  2. 損傷を受けた角膜上皮細胞が脱落・アポトーシスへ移行
  3. 細胞変性産物が炎症メディエーター(プロスタグランジン・サイトカイン等)の放出を誘導
  4. 炎症カスケードの活性化 → 疼痛・充血・浮腫・眼瞼痙攣として症状発現

この時間的遅れが潜伏期として現れる。細胞変性が進行すれば進行するほど、より広範な炎症反応が生じる。

  • UVC(100〜280nm):ほぼ全量が角膜上皮で吸収される。前眼部への傷害性が最も高く、電気性眼炎の主因となる
  • UVB(280〜315nm):一部が角膜を透過し水晶体にも到達する。急性障害では雪眼炎・角膜障害。長期慢性曝露では白内障のリスクを高める
  • UVA(315〜400nm):眼内に到達しやすい。急性角膜障害は比較的少ないが、長期的には水晶体網膜への影響がある
  1. UVB・UVC曝露角膜上皮細胞のDNA損傷・タンパク変性
  2. 細胞脱落角膜上皮の欠損。広範囲SPK点状表層角膜症
  3. SPK進展角膜びらん(上皮の連続性断絶)
  4. 炎症カスケード → 疼痛・充血・浮腫・眼瞼痙攣
  5. 自然修復 → 24〜48時間で角膜上皮幹細胞(輪部幹細胞)により再生

角膜上皮は再生能力が高く、二次感染がなければ1〜2日での完全修復が期待できる。

繰り返しの紫外線曝露は急性角膜炎のみならず、以下の慢性疾患リスクを高める。

  • 白内障水晶体タンパク(主にクリスタリン)の酸化変性によるもの。UVBが主因とされる
  • 翼状片角膜縁から結膜組織が角膜に侵入する変性疾患。紫外線曝露が主要なリスク因子
  • 瞼裂斑角膜縁近傍の球結膜に生じる白色〜黄色の結節。紫外線曝露と乾燥が誘因
  • 扁平上皮化生・扁平上皮癌結膜角膜上皮の悪性変化。長期的な紫外線曝露が関与する

家庭用UV-C除菌製品による新たな曝露リスク

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近年、COVID-19パンデミックを契機として家庭用UV-C除菌ランプ・除菌装置が急速に普及した。医療・業務用として設計されたUV-C光源が一般家庭に広まることで、適切な知識のない使用者が誤って眼に照射してしまう事例が増加している。中国・蘇州での観察研究では、パンデミック前(2019年10〜12月)の31例から後(2020年2〜4月)には109例へと紫外線角膜炎が急増し、原因も溶接(68%)から殺菌灯の不適切使用(57%)へと劇的に変化した4。電気性眼炎の原因として、従来の職業性曝露(溶接など)に加え、家庭内事故が無視できない割合を占めるようになっている。

従来の水銀灯UV-C光源に代わり、UV-C LED(波長260〜280nm付近)の産業利用が急速に拡大している。水殺菌・空気殺菌・表面殺菌への応用が進む一方、UV-C LEDは小型・軽量で設置が容易なため、不適切な環境での使用による眼障害リスクが懸念されている。

繰り返し曝露による発癌リスクの評価

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紫外線による角膜結膜上皮の**扁平上皮癌(OSSN: Ocular Surface Squamous Neoplasia)**との関連について研究が続いている。特に屋外活動が多い職種(農業・建設・溶接作業者など)での長期的なUV曝露が眼表面腫瘍の発症率を高めるとされており、定期的な眼科検診と遮光対策の重要性が再認識されている。

UV-C除菌施設での眼科的保護に対応した新たな遮光性保護具・透明フィルム素材の開発が進んでいる。また、UV吸収性の接触レンズ素材が通常のソフトコンタクトレンズ装用者での紫外線防護効果を持つ可能性についての研究もある。

  1. Willmann G. Ultraviolet Keratitis: From the Pathophysiological Basis to Prevention and Clinical Management. High Alt Med Biol. 2015;16(4):277-282. doi:10.1089/ham.2015.0109. PMID: 26680683. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26680683/ 2 3

  2. McIntosh SE, Guercio B, Tabin GC, Leemon D, Schimelpfenig T. Ultraviolet keratitis among mountaineers and outdoor recreationalists. Wilderness Environ Med. 2011;22(2):144-147. doi:10.1016/j.wem.2011.01.002. PMID: 21396859. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21396859/ 2 3

  3. Kwon DH, Moon JD, Park WJ, et al. Case series of keratitis in poultry abattoir workers induced by exposure to the ultraviolet disinfection lamp. Ann Occup Environ Med. 2016;28:3. doi:10.1186/s40557-015-0087-7. PMID: 26779342. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26779342/

  4. Wang Y, Lou J, Ji Y, Wang Z. Increased photokeratitis during the coronavirus disease 2019 pandemic: Clinical and epidemiological features and preventive measures. Medicine (Baltimore). 2021;100(24):e26343. doi:10.1097/MD.0000000000026343. PMID: 34128883. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34128883/ 2

  5. Izadi M, Jonaidi-Jafari N, Pourazizi M, Alemzadeh-Ansari MH, Hoseinpourfard MJ. Photokeratitis induced by ultraviolet radiation in travelers: A major health problem. J Postgrad Med. 2018;64(1):40-46. doi:10.4103/jpgm.JPGM_52_17. PMID: 29067921. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29067921/

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