この疾患の要点
紫外線(UV)曝露により角膜上皮 が障害される急性疾患である
溶接作業による電気性眼炎 と、スキー場などでの雪眼炎が代表的な病型である
曝露から30分〜24時間の潜伏期を経て激しい眼痛 を生じる
両眼性で、広範囲の点状表層角膜症 (SPK )が特徴的所見である
基本は自然治癒であり、角膜上皮 は通常24〜72時間で回復する
点眼麻酔薬を患者に渡してはならない(上皮障害を悪化させる)
光角膜炎は、保護具なしに紫外線(UV)を浴びた後に発症する急性の角膜上皮 障害である1 。眼の「日焼け」に相当する病態であり、紫外線角膜炎 とも呼ばれる2 。
紫外線は波長により以下の3種に分類される。
UVC(短波長紫外線) :最も傷害性が強い。太陽光には含まれないが、電気溶接・殺菌灯・水銀灯・アセチレン溶接などの人工光源から照射される
UVB(中波長紫外線) :太陽光に含まれる。DNAに直接吸収され損傷を与える
UVA(長波長紫外線) :太陽光に含まれる。酸化ストレス を介して間接的に細胞を障害する
光角膜炎は原因となる光源により2つの病型に大別される。
電気性眼炎 :UVCを含む人工光源(溶接アークなど)による曝露で発症する
雪眼炎(雪目 ) :太陽光中のUVB大量曝露により発症する。太陽光は人工光源より波長が長いため、一般に症状は軽度で発症までの時間も長い
ICD-10コード:H16.131(右眼)、H16.132(左眼)、H16.133(両眼)、H16.139(詳細不明)。
Q
電気性眼炎と雪眼炎はどう違うのか
A
原因となる紫外線の種類が異なる。電気性眼炎 は溶接や殺菌灯など人工光源のUVC(短波長紫外線)が原因で、傷害性が強い。雪眼炎は太陽光のUVB(中波長紫外線)が原因で、一般に症状は軽度であり発症までの潜伏期もやや長い。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項 を参照。
紫外線曝露から30分〜24時間の潜伏期を経て症状が出現する1 。日中に溶接作業やスキーをし、夜になって発症して救急受診するパターンが典型的である4 。
眼痛 :最も顕著な症状。自力で開瞼できない症例も多い
異物感 :角膜上皮 の脱落により生じる
流涙 :反射性に亢進する
羞明 (まぶしさ ) :光に対する過敏性が強い
視力 低下 :軽度〜中等度。痛みで検査困難なことも多い
眼瞼けいれん :疼痛に伴い出現する
通常は両眼性である。顔面や眼瞼の紅斑(紫外線による皮膚の日焼け)を伴うことがある。
点状表層角膜症 (SPK ) :角膜 全面にわたる広範囲の点状表層角膜症 が特徴的所見である。フルオレセイン染色 で確認する。重症例では点状表層角膜症 が融合し、角膜びらん となる
結膜 充血 ・結膜 浮腫 :球結膜 に充血 と浮腫を認める
眼瞼結膜 の保護 :眼瞼で紫外線が遮断されるため、眼瞼結膜 は比較的保たれる
虹彩炎 :時に合併する
眼瞼の発赤・腫脹 :紫外線による皮膚障害として生じることがある
Q
なぜ紫外線を浴びた直後ではなく数時間後に痛みが出るのか
A
紫外線は角膜上皮 細胞にアポトーシス (プログラム細胞死 )を誘導する。細胞が実際に脱落して上皮下の神経が露出するまでに時間差があるため、曝露直後ではなく30分〜24時間後に症状が出現する。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項 を参照。
電気性眼炎
アーク溶接 :最も代表的な原因。保護面なしの作業や、近傍での曝露で発症する。
殺菌灯・水銀灯 :短波長UVCを放射する。実験室・医療施設での事故的曝露がある。
アセチレン溶接 :UVCを含む人工光源の一つである。
雪眼炎
スキー場 :雪面の高い反射率により大量のUVBに曝露される3 。
高地登山 :大気が薄くUV散乱が減少する。降りたての雪のアルベド(反射率)は最大90%に達する1 。標高300 m上昇するごとにUV曝露量は約4%増加するとされる3 。
日焼けサロン・サンランプ :人工的なUVB/UVA光源による曝露。
その他の曝露源として、損傷したメタルハライドランプ(体育館などで使用)やハロゲンランプの破裂がある。
保護眼鏡やゴーグルをしないで、よく晴れた日に1時間半〜2時間を超えてスキー場にいると発症のリスクが高まる。実際、登山者・アウトドア活動従事者を対象とした検討では、UV角膜 炎発症例の約87%は保護眼鏡未着用、残りの症例も側面シールドを欠くサングラス装用であったと報告されている3 。
予防・日常のケア
光角膜炎は適切な紫外線保護で予防できる疾患です。
スキーや雪山登山では、UV カット機能付きゴーグル を必ず着用してください
溶接作業では、遮光度を調整できるフルフェイスシールド を使用してください
屋外での長時間活動には、UV カット機能付きサングラス を着用しましょう
日焼けサロンでは必ず専用のアイプロテクターを使用してください
Q
どのくらいの時間紫外線を浴びると発症するか
A
保護具なしの場合、晴天下のスキー場で約1時間半〜2時間を超える曝露が発症の目安とされる。ただし溶接アークなどUVCを含む人工光源では、ごく短時間の曝露でも発症しうる。
病歴聴取が最も重要である。紫外線曝露歴と症状出現までの潜伏期が診断の鍵となる。
細隙灯顕微鏡検査 :角膜 全面の観察を行う
フルオレセイン染色 :点状表層角膜症 (SPK )または角膜びらん を検出する。コバルトブルーフィルターで励起し、観察系にフルオレセイン フィルターを入れるとより明瞭に描出できる
両眼性の確認 :光角膜炎では通常両眼に同程度の所見を認める。片眼性であれば他の原因を検索する
両眼性の充血 ・疼痛・羞明 を呈する他の疾患との鑑別が必要である。
疾患 鑑別のポイント ウイルス性結膜炎 片眼から発症、眼瞼結膜 にも充血 CL過装用 CL使用歴あり ドライアイ BUT 短縮、UV曝露歴なし薬物毒性 点眼薬使用歴あり 化学物質曝露 化学物質の接触歴 上眼瞼異物 片眼性、垂直線状擦過傷
光角膜炎は基本的に自然治癒する疾患である。角膜上皮 は通常24〜72時間で再生する1 。治療は支持療法が中心となる1 ,4 。
抗菌点眼薬 :感染予防目的で処方する。上皮欠損部からの二次感染を防ぐ
ヒアルロン酸点眼薬 :角膜上皮 の再生を促進する
眼軟膏 :塗布により眼表面を保護し、快適性を高める。エリスロマイシン軟膏を1日4回、2〜3日間塗布する方法がある
経口鎮痛薬 :疼痛管理に使用する。局所NSAIDs点眼薬より費用対効果に優れる
局所NSAID点眼薬 :ケトロラクやジクロフェナクなどの使用は議論がある。2017年のコクランレビュー(637例・9試験)では外傷性角膜 擦過傷の疼痛に対する臨床的に意義のある効果は示されず、経口鎮痛薬使用量が減る可能性に留まった5
眼帯 :角膜 擦過傷の治癒を遅らせる可能性があり、推奨されない
調節麻痺薬 :シクロペントラートやホマトロピンの有効性は証明されていない
コンタクトレンズ装用者は、角膜 が治癒するまで装用を中止する。
初診から1〜2日以内に再診し、症状と所見の改善を確認する。新たな痛みの出現や悪化があれば速やかに再評価する。
Q
痛み止めの目薬を処方してもらえないのはなぜか
A
点眼麻酔薬は角膜上皮 の修復を妨げ、障害を悪化させるため、患者への処方は禁忌とされている。診察時の一時的な使用にとどめ、自宅での使用には経口鎮痛薬を用いる。
角膜 は透明であり、可視光(400〜700 nm)を透過させる一方、紫外線(10〜400 nm)を吸収する。角膜上皮 は厚みでみれば角膜 全体の10%程度に過ぎないが、上皮細胞には核酸・蛋白質が高密度に存在するため、UV吸収の大部分を担っている1 。
紫外線は生体中の核酸や芳香族アミノ酸に吸収され、遺伝子や蛋白質を変性させることで細胞障害を引き起こす。なかでもUVB照射により生じるシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)が最も頻度の高いDNA損傷であり、修復が追いつかない場合にアポトーシス を誘導する6 。
紫外線の波長による角膜 への影響の違いを以下に示す。
UV種別 波長 主な作用機序 UVC 10〜280 nm 上皮に直接吸収。最強傷害性 UVB 280〜320 nm DNA直接損傷 UVA 320〜400 nm 酸化ストレス (間接的)
角膜上皮 細胞が紫外線を吸収すると、アポトーシス (プログラム細胞死 )が誘導される2 。動物実験では波長300 nmのUV照射後、5時間以内に角膜 の3層すべてでアポトーシス が観察されている2 。損傷を受けた上皮細胞は時間差をもって脱落し、上皮下に存在する角膜 神経叢が露出する。この神経露出が激しい疼痛の原因である1 。
曝露から症状発現までの潜伏期(30分〜24時間)は、上皮細胞のアポトーシス と脱落に要する時間を反映している1 。
電気性眼炎 はUVCを含む短波長紫外線が原因であり、傷害性が強く潜伏期が短い傾向がある。一方、雪眼炎は太陽光由来のUVBが主因であり、波長が相対的に長いため症状は軽度で、発症までの時間も長い傾向にある。
大量の紫外線曝露では、上皮を越えて角膜実質 や内皮にも損傷が及びうることが動物実験で示されている。
生涯にわたる紫外線曝露の蓄積は、翼状片 ・紫外線関連角膜 変性・悪性黒色腫・非黒色腫性皮膚がんなどのリスク因子となる2 。また慢性的なUV曝露は角膜内皮 細胞や水晶体 にも酸化ストレス を与え、角膜内皮 障害や白内障 の一因となることが知られている2 ,6 。
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