一次性HFS
定義:脳幹出口部(REZ)での顔面神経への血管圧迫が原因。最多責任血管はAICA(前下小脳動脈)。
圧迫部位の内訳:REZ圧迫94.6%、単純遠位圧迫0.7%、混合圧迫4.7%2)。
二重圧迫(DC型):REZとCP(大脳脚)の両方が圧迫される型。MVD再手術率が高い1)。
稀な圧迫部位:内耳道(IAC)内での迷路動脈圧迫も報告されている2)。
眼輪筋をはじめとする顔面表情筋の不随意収縮は、病型によって眼瞼限局型・顔面半側型・顔面全体型に分類される。主要な疾患単位を以下に示す。
| 疾患 | 側性 | 睡眠中 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 本態性眼瞼痙攣(BEB) | 両側 | 消失 | 羞明・乾燥感・知覚トリックで軽減 |
| Meige症候群 | 両側 | 消失 | 眼瞼 + 口唇ジスキネジアなど顔面全体 |
| 片側顔面痙攣(HFS) | 片側 | 持続 | 顔面神経血管圧迫・流涙 |
| 眼輪筋ミオキミア | 片側(限局) | — | 眼輪筋一部のみ・眉毛沈下なし |
両眼瞼の原因不明の間歇的な不随意閉瞼発作を本態性眼瞼けいれんという。正常の瞬目では、眼瞼を前方に引く眼瞼前引筋群(眼輪筋・上皺眉筋・鼻根筋)と後方へ引く随意性眼瞼後引筋群(上眼瞼挙筋・前頭筋)は同時抑制されるが、患者ではこの2筋群間の同時抑制が消失している。
眼輪筋をはじめとする閉瞼筋の間欠性あるいは持続性の過収縮によって不随意閉瞼が生じる。他の神経学的・眼科的異常が原因とならないものを本態性と定義する。
口唇ジスキネジアなどの顔面不随意運動を伴うものをMeige症候群と呼ぶ。眼瞼痙攣と同じ局所ジストニアと考えられ、大脳基底核の障害が推定されている。
眼瞼に限局するものが本態性眼瞼けいれん、ほかの顔面筋に及ぶものをMeige症候群という。眼瞼+下顎・頤部に及ぶものはBrueghel症候群と呼ばれることがある。
片側顔面痙攣(Hemifacial Spasm; HFS)は、顔面の片側の表情筋(第VII脳神経支配)に不随意の強直間欠性収縮が起こる運動障害である。ICD-10コードはG51.3。
1905年にJoseph Babinskyが”hemifacial spasm”の用語を初めて使用した9)。1947年にCampbellとKeedyが一次性HFSを初めて記述し、1975年にJannettaが蛇行拡張動脈による神経圧迫メカニズムを明らかにした。
有病率は米国で10万人あたり8〜15人とされる。罹患率は約0.78/10万人との報告もある2)。女性が男性の約2倍多く、典型的な発症年齢は50〜60歳で中高年に多い。経過は慢性進行性である。
分類:一次性(血管圧迫による)と二次性(神経損傷・炎症後の異常再生、腫瘍、脱髄疾患など)に大別される。
片眼性に眼輪筋の限られた部分に起こる収縮を眼輪筋ミオキミアと呼ぶ。本態性眼瞼けいれんとは異なり、同期的な眉毛の沈下を伴わない点が特徴である。また下眼瞼に限局する収縮は眼瞼振戦とも呼ばれ、開瞼障害はみられない。
HFSは片側性で顔面下部にも広がり、睡眠中にも痙攣が継続する。眼瞼痙攣(BEB)は両側性で眼窩周囲が中心であり、羞明感・眼乾燥感を伴い、睡眠中には消失する。患側の流涙はHFSに多く、羞明感・乾燥感はHFSでは少ない。
BEBは両側性で、瞬目が多く、羞明感や眼乾燥感を伴うことが多い。
自覚症状の特徴:
増悪因子:明所、疲労、読書などで増悪する。
軽減因子:暗所、睡眠、臥床、眉毛部などの圧迫(知覚トリック)などで軽減する。
経過:慢性進行性で自然治癒はほとんどない。けいれんと開瞼努力の拮抗により、周囲組織の弛緩(眉毛下垂・眼瞼下垂・皮膚弛緩など)を併発し、開瞼不能による機能的な失明に陥ることがある。
初期には下眼瞼の軽微な痙攣(ピクつき)から始まることが多い。次第に眼瞼部・口角部・広頸筋など表情筋全体に広がる。眼瞼部と口角部の痙攣は同期(同じリズム)で発生する。
HFSは睡眠中にも認められる。これが眼瞼痙攣との重要な鑑別点である。眼瞼痙攣は睡眠中には消失するが、HFSは睡眠中も継続する。
原因不明の本態性眼瞼けいれんは中高年女性に多く、60歳以上の女性での発症が特に多い。薬剤性(向精神薬常用者)・症候性(統合失調症)では若年者にもみられることがある。
大脳基底核の障害が推定されており、眼瞼ジストニアとも呼ばれる。光刺激に対する閾値が低下しているために瞬目過多になると推察されている。
薬剤性BEBの鑑別:ドパミン拮抗薬による遅発性ジストニアは、本態性眼瞼けいれんに類似する症状を呈することがあるため、薬物既往歴の聴取が重要である。
一次性HFS
定義:脳幹出口部(REZ)での顔面神経への血管圧迫が原因。最多責任血管はAICA(前下小脳動脈)。
圧迫部位の内訳:REZ圧迫94.6%、単純遠位圧迫0.7%、混合圧迫4.7%2)。
二重圧迫(DC型):REZとCP(大脳脚)の両方が圧迫される型。MVD再手術率が高い1)。
稀な圧迫部位:内耳道(IAC)内での迷路動脈圧迫も報告されている2)。
二次性HFS
神経損傷後の異常再生:ベル麻痺などからの異常再生。
血管病変:動脈硬化・動静脈奇形・動脈瘤。
腫瘍:耳下腺腫瘍・小脳橋角部腫瘍。
その他:脳幹病変(脳卒中含む)、脱髄疾患(多発性硬化症)、四丘体槽くも膜嚢胞4)、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)9)、稀に遺伝性。
後頭蓋窩で顔面神経や橋が脳底動脈・AICAなどの血管、まれに腫瘍や動脈瘤に圧迫されることが主因である。
リスク要因:顔面外傷、第VII脳神経損傷、ベル麻痺の既往、動脈硬化、家族歴。高齢化・高血圧が血管の蛇行拡張を進行させ、合併症候群(三叉神経痛との合併など)のリスクを高める5)。
瞬目テストによる誘発を試みることが診断に有用である。
ドライアイとの鑑別:自覚症状が類似するが、眼所見やけいれんの誘発で鑑別する。
症候性・薬剤性の除外:
診断は主に臨床症状・所見に基づく。
脳幹部の画像検査を行い、圧迫原因を確定することが重要である。
主要な鑑別疾患を下表に示す。
| 疾患 | 側性 | 睡眠中 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 片側顔面痙攣 | 片側 | あり | 流涙・口角まで波及 |
| 眼瞼痙攣(BEB) | 両側 | なし | 羞明・乾燥感・知覚トリックで軽減 |
| Meige症候群 | 両側 | なし | 眼瞼 + 口唇ジスキネジアなど顔面全体 |
| 眼輪筋ミオキミア | 片側 | — | 眼輪筋一部のみ・眉毛沈下なし |
| 顔面神経麻痺後共同運動 | 片側 | — | 麻痺の既往歴あり |
その他の鑑別:顔面チック(トゥレット症候群)、遅発性ジスキネジア、てんかん発作。
主な治療選択肢を下表に示す。
| 疾患 | 治療法 | 有効率 | 持続期間 | 適応 |
|---|---|---|---|---|
| BEB | ボツリヌス毒素注射 | 約90% | 3〜4か月 | 第一選択 |
| BEB | 内科的治療 | 約15% | — | 補助・保険適用外 |
| BEB | 外科的治療 | — | — | 難治例 |
| HFS | ボツリヌス毒素注射 | 約90% | 3〜4か月 | 第一選択 |
| HFS | 微小血管減圧術(MVD) | 約90% | 長期 | 難治例・若年者 |
| HFS | 薬物療法 | 限定的 | — | 補助・一時的 |
眼輪筋を標的としたA型ボツリヌス毒素の眼瞼皮下注射を行う。有効率は約90%である。
作用機序:神経終末のアセチルコリンの放出を抑制する。
有効率・持続期間:
注射部位:上・下眼瞼の内眼角・外眼角付近、外眼角の耳側、下眼瞼眼窩縁の耳側1/3の位置に筋注する。上眼瞼挙筋や下斜筋に誤注入しないよう、刺入した針先を浮かせるようにして注入する。
薬物治療は、本態性眼瞼けいれんに関する3つの薬理学的仮説(コリン過多・GABA低下・ドパミン過多)に基づいている。ロラゼパム、クロナゼパム、トリヘキシフェニル(いずれも保険適用外)が使用されるが、効果は個人差が大きく、反応性は15%程度で、経験のある神経内科医に任せる。
難治例や薬物療法・ボツリヌス毒素療法に反応不良な場合に検討される。
**A型ボツリヌス毒素(ボトックス(R)注用)**は、日本で眼瞼けいれん・片側顔面けいれんに保険適用がある。根治的には脳外科手術(後頭蓋窩神経血管減圧術)が著効するが、現在ではボツリヌス毒素療法が治療的第一選択と考えられている。
注射部位と用量:皺眉筋、眼輪筋(偏りなく分散)、大頬骨筋、鼻翼口唇挙上筋。各2.5単位。上眼瞼挙筋への誤注入を避けることが重要。
市販品:Botox(R)、Dysport(R)、Xeomin(R)。
有効率・持続期間:
後頭蓋窩神経血管減圧術。責任血管と顔面神経の間にテフロンフェルトを配置して血管を離す。
カルバマゼピン、クロナゼパム、フェニトイン、ガバペンチン、バクロフェン。効果は限定的で副作用が顕著。IIHに伴うHFSではトピラマート(50mg×2/日)で奏効した報告がある9)。
効果持続は約3〜4か月である。神経側副枝発芽により神経筋伝達が再開するため、効果が薄れると繰り返し注射が必要となる。高用量・頻回の治療では長期的に効果が減弱することがある。
ボツリヌス毒素に反応不良な難治例や若年者が主な適応である。改善率は約90%で長期成績も良好である。高齢者でも合併症がなければ若年者と同等の成績が期待できる5)。
眼瞼ジストニアとも呼ばれ、瞬目がリズミカルに行われずに瞬目過多になっている状態で、大脳基底核の異常とされている。光刺激に対する閾値が低下しているために瞬目過多になると推察されている。
大脳基底核の障害が推定されており、眼瞼痙攣(BEB)と片側顔面痙攣(HFS)は機序が根本的に異なる。BEBは中枢性(大脳基底核)の問題であるのに対し、HFSは末梢神経(顔面神経)への機械的圧迫による。
一次性HFSの基本メカニズムは、血管圧迫→脱髄→エファプス伝達(偽シナプス伝達)である。一つの神経の電気活動が近接する神経の活性化を誘発する。
顔面神経の脆弱部位:根出口点(RExP)から移行帯(TZ)まで約10mmの中枢性ミエリン部分が血管圧迫に脆弱である。この部分に含まれるObersteiner-Redlich帯(中枢性ミエリンから末梢性ミエリンへの移行部)が特に脆弱とされる7)。
Sanoら(2022)は3D-MRI融合画像(DTI+MRA)を用いてMVD前後を評価した。顔面神経のTZは約0.96mm(範囲1.9〜2.86mm)であることを報告し、REZのAS部を正確に同定できることを示した7)。
二重圧迫(DC型)のメカニズム:DC型HFSではREZ減圧がCP側の圧迫を増悪させる「てこの原理」が働くことがある。動脈硬化性の太いVAの転位がAICAを押し上げ、CP部での顔面神経圧迫を増悪させる1)。
Fujiiら(2024)はDC型HFS 35例のレビューで、REZ減圧後にAMRが消失しない場合にCP側のAICA圧迫を確認してテフロンを追加することで術後成績が向上すると報告した1)。
IIH関連HFS:髄液圧の変動(絶対値ではなく変化量)が顔面神経の過興奮を引き起こすと考えられている。腰椎穿刺後の起立時にHFS発作が誘発されたことが根拠とされる9)。
三叉神経痛との合併(combined HDS):全HDS患者の約3%。加齢・高血圧による動脈硬化性血管変化で血管が伸長し、近接する複数の神経を圧迫することで生じる5)。
一般的に最初の5年間は症状が進行するが、その後は落ち着くことが多い。10%はけいれんが治まるが、15%は機能的な失明状態となる。
効果を維持するために高用量頻回治療を求められることが多いが、長期的に効果が減弱していくことがあるため注意を要する。
心身の安静にて軽快することが多いが、精神安定薬を使用することもある。
3D-MRI融合画像はREZの正確な描出と術前シミュレーション・術後評価に有用である。顔面神経のAS部を同定し、責任血管との位置関係を可視化できる7)。
デュアルブランチモニタリング(顔面神経側頭枝刺激→オトガイ筋記録+下顎辺縁枝刺激→眼輪筋記録)の導入により、MVD術後有効率98%が報告されている2)。AMRが消失しない場合は、REZ以外(CP、IAC内)の責任血管を探索することが重要である。
Guoら(2025)はIAC内で迷路動脈が顔面神経を圧迫した初の症例を報告し、デュアルブランチモニタリングにより従来のREZ探索では見逃されていたIAC内圧迫を検出できたことを示した2)。
従来見過ごされていたIAC内の血管圧迫がHFSの原因となりうる。AMRが消失しない場合、REZ→CP→IAC全体の系統的探索が必要である2)。
髄液圧変動がHFSを誘発しうるという新たな病態概念が提唱されている。トピラマートによる髄液圧管理が有効な場合があり、IIH関連HFSの診断・治療への応用が注目されている9)。