眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)
1. 眼瞼痙攣とは
Section titled “1. 眼瞼痙攣とは”眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)は、眼輪筋をはじめとする閉瞼筋の不随意な過収縮によって、意図しない閉瞼が生じる病態である。両眼瞼の原因不明の間歇的な不随意閉瞼発作を**本態性眼瞼痙攣(benign essential blepharospasm; BEB)**という。
正常の瞬目では、眼瞼を前方に引く眼瞼前引筋群(眼輪筋・上皺眉筋・鼻根筋)と後方へ引く随意性眼瞼後引筋群(上眼瞼挙筋・前頭筋)は同時抑制されるが、患者ではこの2筋群間の同時抑制が消失している。眼輪筋をはじめとする閉瞼筋の間欠性あるいは持続性の過収縮によって不随意閉瞼が生じる。他の神経学的・眼科的異常が原因とならないものを本態性と定義する。
眼輪筋など顔面表情筋の不随意収縮は、病型によって眼瞼限局型・顔面半側型・顔面全体型に分類される。主要な病型を以下に示す。
| 疾患 | 側性 | 睡眠中 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 本態性眼瞼痙攣(BEB) | 両側 | 消失 | 羞明・乾燥感・知覚トリックで軽減 |
| Meige症候群 | 両側 | 消失 | 眼瞼 + 口唇ジスキネジアなど顔面全体 |
| 眼輪筋ミオキミア | 片側(限局) | — | 眼輪筋一部のみ・眉毛沈下なし |
| 片側顔面痙攣(HFS) | 片側 | 持続 | 顔面神経血管圧迫・流涙(→ 別記事) |
Meige症候群・Brueghel症候群
Section titled “Meige症候群・Brueghel症候群”口唇ジスキネジアなどの顔面不随意運動を伴うものをMeige症候群と呼ぶ。眼瞼痙攣と同じ局所ジストニアと考えられ、大脳基底核の障害が推定されている。
眼瞼に限局するものが本態性眼瞼痙攣、ほかの顔面筋に及ぶものをMeige症候群という。眼瞼+下顎・頤部に及ぶものはBrueghel症候群と呼ばれることがある。
眼輪筋ミオキミア
Section titled “眼輪筋ミオキミア”片眼性に眼輪筋の限られた部分に起こる収縮を眼輪筋ミオキミアと呼ぶ。本態性眼瞼痙攣とは異なり、同期的な眉毛の沈下を伴わない点が特徴である。また下眼瞼に限局する収縮は眼瞼振戦とも呼ばれ、開瞼障害はみられない。
片側顔面痙攣(HFS)との違い
Section titled “片側顔面痙攣(HFS)との違い”片側顔面痙攣(Hemifacial Spasm; HFS)は、顔面の片側の表情筋(第VII脳神経支配)に不随意の強直間欠性収縮が起こる運動障害である。BEBが両側性・中枢性(大脳基底核)の局所ジストニアであるのに対し、HFSは片側性で、顔面神経への血管圧迫という末梢性の機序による別疾患である。睡眠中の持続・患側の流涙・口角への波及がHFSの特徴で、BEBの鑑別上重要である。
眼瞼痙攣(BEB)は両側性で眼窩周囲が中心であり、羞明感・眼乾燥感を伴い、睡眠中には消失する。HFSは片側性で顔面下部にも広がり、睡眠中にも痙攣が継続する。患側の流涙はHFSに多く、羞明感・乾燥感はHFSでは少ない。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”本態性眼瞼痙攣は両側性で、瞬目が多く、羞明感や眼乾燥感を伴うことが多い。
自覚症状の特徴:
- 瞬目過多
- 羞明感・眼乾燥感(眼科受診のきっかけとなることが多い)
- けいれんと開瞼努力の拮抗による開瞼不能
増悪因子:明所、疲労、読書などで増悪する。
軽減因子:暗所、睡眠、臥床、眉毛部などの圧迫(知覚トリック)などで軽減する。
経過:慢性進行性で自然治癒はほとんどない。けいれんと開瞼努力の拮抗により、周囲組織の弛緩(眉毛下垂・眼瞼下垂・皮膚弛緩など)を併発し、開瞼不能による機能的な失明に陥ることがある。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”原因不明の本態性眼瞼痙攣は中高年女性に多く、60歳以上の女性での発症が特に多い。薬剤性(向精神薬常用者)・症候性(統合失調症)では若年者にもみられることがある。
大脳基底核の障害が推定されており、眼瞼ジストニアとも呼ばれる。光刺激に対する閾値が低下しているために瞬目過多になると推察されている。
薬剤性BEBの鑑別:ドパミン拮抗薬による遅発性ジストニアは、本態性眼瞼痙攣に類似する症状を呈することがあるため、薬物既往歴の聴取が重要である。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”瞬目テストによる誘発を試みることが診断に有用である。
- 速瞬テスト:軽くてできるだけ速い瞬目を10〜30秒持続させ、強い瞬目のみやほかの顔面筋の不随意運動・収縮がみられるかを確認する。
- 軽瞬テスト:随意瞬目中に、眉毛部が動いた瞬目そのものが不能になるかを確認する。
- 強瞬テスト:強閉瞼後の開瞼を反復させ、開瞼不能になったり強い顔面筋のけいれん収縮がみられるかを確認する。
ドライアイとの鑑別:自覚症状が類似するが、眼所見やけいれんの誘発で鑑別する。
症候性・薬剤性の除外:
- パーキンソン病・進行性核上性麻痺などの錐体外路障害による続発性眼瞼痙攣は、けいれんのないときの開瞼失行が特徴的である。
- 基底核や高位中脳の脳梗塞・多発性硬化症などによる症候性眼瞼痙攣の除外が必要である。
- ドパミン拮抗薬による遅発性ジストニアの可能性を除外するため、薬物既往歴を詳細に聴取する。
主要な鑑別疾患を下表に示す。
| 疾患 | 側性 | 睡眠中 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 眼瞼痙攣(BEB) | 両側 | なし | 羞明・乾燥感・知覚トリックで軽減 |
| Meige症候群 | 両側 | なし | 眼瞼 + 口唇ジスキネジアなど顔面全体 |
| 眼輪筋ミオキミア | 片側 | — | 眼輪筋一部のみ・眉毛沈下なし |
| 片側顔面痙攣 | 片側 | あり | 流涙・口角まで波及・睡眠中も持続 |
| 顔面神経麻痺後共同運動 | 片側 | — | 麻痺の既往歴あり |
その他の鑑別:顔面チック(トゥレット症候群)、遅発性ジスキネジア、てんかん発作。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”主な治療選択肢を下表に示す。
| 治療法 | 有効率 | 持続期間 | 適応 |
|---|---|---|---|
| ボツリヌス毒素注射 | 約90% | 3〜4か月 | 第一選択 |
| 内科的治療 | 約15% | — | 補助・保険適用外 |
| 外科的治療 | — | — | 難治例 |
ボツリヌス毒素療法(第一選択)
Section titled “ボツリヌス毒素療法(第一選択)”眼輪筋を標的としたA型ボツリヌス毒素の眼瞼皮下注射を行う。日本では眼瞼けいれんに保険適用がある。有効率は約90%である。
作用機序:神経終末のアセチルコリンの放出を抑制する。
有効率・持続期間:
- 有効率約90%。
- 効果発現まで2〜3日の潜時を要する。
- 効果持続は約3〜4か月。繰り返し注射が必要となる。
- 効果を維持するために高用量頻回治療を求められることが多いが、長期的に効果が減弱していくことがあるため注意を要する。
- まれにA型毒素の遮断抗体が生じた患者にはF型毒素が有効であるが、持続期間が短い。
注射部位:上・下眼瞼の内眼角・外眼角付近、外眼角の耳側、下眼瞼眼窩縁の耳側1/3の位置に筋注する。上眼瞼挙筋や下斜筋に誤注入しないよう、刺入した針先を浮かせるようにして注入する。
内科的治療(保険適用外)
Section titled “内科的治療(保険適用外)”薬物治療は、本態性眼瞼痙攣に関する3つの薬理学的仮説(コリン過多・GABA低下・ドパミン過多)に基づいている。ロラゼパム、クロナゼパム、トリヘキシフェニル(いずれも保険適用外)が使用されるが、効果は個人差が大きく、反応性は15%程度で、経験のある神経内科医に任せる。
- 顔面神経部分切除術(Reynold法)
- 眼輪筋切除術(Anderson法、protractor myectomy)
難治例や薬物療法・ボツリヌス毒素療法に反応不良な場合に検討される。
その他の補助療法
Section titled “その他の補助療法”- 感覚刺激(感覚トリック):ヘッドバンドや窮屈めの眼鏡による感覚刺激で軽減する例がある。眉毛部などの圧迫で軽減する知覚トリックも同様の機序と考えられる。
- 遮光眼鏡:光線で誘発される例や羞明を訴える例には遮光眼鏡を試みてよい。
効果持続は約3〜4か月である。神経側副枝発芽により神経筋伝達が再開するため、効果が薄れると繰り返し注射が必要となる。高用量・頻回の治療では長期的に効果が減弱することがある。
6. 病態生理
Section titled “6. 病態生理”眼瞼ジストニアとも呼ばれ、瞬目がリズミカルに行われずに瞬目過多になっている状態で、大脳基底核の異常とされている。光刺激に対する閾値が低下しているために瞬目過多になると推察されている。
大脳基底核の障害が推定されており、眼瞼痙攣(BEB)と片側顔面痙攣(HFS)は機序が根本的に異なる。BEBは中枢性(大脳基底核)の問題であるのに対し、HFSは末梢神経(顔面神経)への機械的圧迫による。片側顔面痙攣の病態生理については片側顔面痙攣の記事を参照されたい。
7. 予後・経過
Section titled “7. 予後・経過”本態性眼瞼痙攣の予後
Section titled “本態性眼瞼痙攣の予後”一般的に最初の5年間は症状が進行するが、その後は落ち着くことが多い。10%はけいれんが治まるが、15%は機能的な失明状態となる。
効果を維持するために高用量頻回治療を求められることが多いが、長期的に効果が減弱していくことがあるため注意を要する。
眼輪筋ミオキミアの予後
Section titled “眼輪筋ミオキミアの予後”心身の安静にて軽快することが多いが、精神安定薬を使用することもある。