グラム陽性球菌
ブドウ球菌:小円形で境界が比較的明瞭な灰白色の限局性膿瘍を典型とする1)。進行は緩徐であるが、MRSAでは重症化しやすく、感染病巣より大きい上皮欠損を伴いやすい1)。アトピー性皮膚炎症例では高率にMRSAが検出される。
肺炎球菌:匐行性角膜潰瘍と呼ばれる特徴的な所見を示す。病変の一端が改善し他端が進行するため、這うように移動して見える1)。莢膜により好中球の貪食に抵抗し、深部に進展して角膜穿孔を来しうる1)。
細菌性角膜炎は、細菌が角膜実質に侵入・増殖して生じる化膿性炎症である。別名として細菌性角膜潰瘍、とりわけ肺炎球菌では匐行性角膜潰瘍(serpiginous corneal ulcer)とも呼ばれる。感染性角膜炎のなかで最も頻度が高く、初期診断や治療を誤ると重篤な視力障害を引き起こす疾患である1)。
本邦における感染性角膜炎発症者の年齢分布は、20代と60代の2峰性を示す1)。若年側のピークはコンタクトレンズ(CL)装用を契機とする感染が大部分を占める。発症率に明らかな性差はないが、外傷による感染は男性に多く、CL装用に関連する感染は女性に多い1)。
大規模コホート研究の報告によると、先進国の年間発症率は人口10万人あたり数人から数十人、発展途上国では数百人にのぼる1)。感染性角膜炎の原因微生物は細菌が最多で、以下ウイルス、真菌、アカントアメーバの順とされる1)。米国では年間約71,000件の微生物性角膜炎(細菌・真菌・アカントアメーバを含む)が発生すると推定され、近年増加傾向にある7)。視機能予後の観点では、治癒後も不正乱視や角膜瘢痕で視力が回復しない症例があり、特に中央部潰瘍では視機能障害が残りやすい1)。
本邦の発症誘因としてはCL装用が最多であり、他の先進国と同様の傾向である1)。重症CL関連角膜炎では2週間頻回交換ソフトCL(frequent replacement soft CL:FRSCL)や従来型SCLの装用者が多く、ケア不良によるレンズ汚染が重要なリスク因子となる1)。CL装用による感染性角膜炎は両眼性の頻度が高い点にも留意する。米国ではCL装用、発展途上国では外傷が最大の誘因とされる7)。
細菌性角膜炎の4大起炎菌は、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、緑膿菌、モラクセラである。なかでもブドウ球菌属の頻度が最も高く、緑膿菌はCL装用関連角膜炎の主要な原因菌である1)。モラクセラ桿菌は近年国内外で報告が増加しており、眼表面疾患・眼手術既往・糖尿病が誘因となる1)。眼表面の常在菌であるコリネバクテリウムも比較的頻度が高い起炎菌である1)。
混合感染も無視できない頻度で、AAO PPPは培養陽性例の約43%で2種以上の細菌が検出されると報告している7)。混合感染の最多誘因は外傷であり、Staphylococcus epidermidis と Fusarium 属の組み合わせが多い7)。Ung らは感染性角膜炎を「継続する臨床課題」と位置付け、微生物学的検査の迅速化、新規抗菌薬、耐性株の地域差監視の重要性を強調している11)。
匐行性角膜潰瘍 serpiginous corneal ulcer という名称は19世紀から用いられている古典的呼称で、病変が這うように角膜表面を移動する特徴からつけられた。本邦においても感染性角膜炎診療ガイドラインは2007年に初版が日眼会誌に掲載されて以来、2013年の第2版12)、2023年の第3版と改訂を重ねており、エビデンスに基づく診療の標準化が進められてきた1)。

急激に発症する眼痛が特徴である。軽症では眼異物感、重症では強い眼痛を訴える1)。疼痛のほか、充血、視力障害、流涙、粘液膿性分泌物、羞明が出現する1)。症状の進行速度は起炎菌の毒性に相関し、緑膿菌では発症から24時間以内に急速に悪化しうる7)。
細菌性角膜炎の初期病変は、浸潤と上皮欠損、前房内炎症細胞の出現、および毛様充血である。ただし真の初期病変を観察することはまれで、通常は円形膿瘍を呈した状態で受診することが多い。角膜所見はグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌で大きく異なり、臨床像から起炎菌を推測する重要な手がかりとなる1)。
重症例では前房蓄膿やフィブリン析出を認め、虹彩後癒着を起こす可能性が高い。角膜後面沈着物(KP)は角膜浸潤・膿瘍・潰瘍に一致した後面に出現する1)。
細隙灯顕微鏡による観察では、ディフューザー光で全体の混濁を把握し、反帰光で細胞浸潤の状態や前房内炎症(特にKP)を確認する。幅広いスリット光で角膜表面を、細いスリット光で病巣深度と前房内炎症を評価し、フルオレセイン染色で上皮障害を描出する流れが有用である。
グラム陽性球菌
ブドウ球菌:小円形で境界が比較的明瞭な灰白色の限局性膿瘍を典型とする1)。進行は緩徐であるが、MRSAでは重症化しやすく、感染病巣より大きい上皮欠損を伴いやすい1)。アトピー性皮膚炎症例では高率にMRSAが検出される。
肺炎球菌:匐行性角膜潰瘍と呼ばれる特徴的な所見を示す。病変の一端が改善し他端が進行するため、這うように移動して見える1)。莢膜により好中球の貪食に抵抗し、深部に進展して角膜穿孔を来しうる1)。
グラム陰性桿菌
緑膿菌:輪状膿瘍を伴い、周囲角膜はすりガラス状に混濁する1)。プロテアーゼによる角膜融解で急速に進行し穿孔に至りやすい。SCL関連が多く、オルソケラトロジーとSCLの長期併用例でも輪状潰瘍を生じた報告がある3)。
モラクセラ:角膜中央に限局性で境界鮮明な潰瘍を形成する1)。CL装用者、糖尿病などの基礎疾患がリスク因子となる1)。比較的進行は緩徐で多くの抗菌薬に感受性を示す。
セラチア:軽症の浅い潰瘍から広範な膿瘍まで多彩で、プロテアーゼ産生量の多寡が重症度に関係する1)。
特殊な起炎菌
グラム陽性球菌(ブドウ球菌・肺炎球菌)では小円形〜楕円形で辺縁整の限局性膿瘍を呈する。一方グラム陰性桿菌(緑膿菌・モラクセラ・セラチア)では周囲実質にすりガラス状の混濁と強い浮腫を伴い、重症例では角膜実質融解による輪状膿瘍を形成する。感染性角膜炎診療ガイドライン第2版の角膜炎診断フローチャートでは、限局性膿瘍からグラム陽性球菌を、輪状膿瘍からグラム陰性桿菌を推定する方針が示されている1)。
正常角膜は重層扁平上皮と涙液中の防御物質(リゾチーム、ラクトフェリン、IgA)によって感染から守られている。したがって細菌性角膜炎は、外傷、CL装用、手術、眼表面疾患、全身疾患などで防御機構が破綻した状況で発症する1)。AAO PPPは、CL装用を米国における最大のリスク因子とし、世界の多くの地域では外傷が主因であると整理している7)。
コンタクトレンズ関連
就寝時装用:日中装用と比較し感染リスクが大幅に上昇する。オルソケラトロジーを含む夜間装用は特に重要な危険因子である7)。
不適切なケア:洗浄液の継ぎ足し、ケースの汚染、水道水での保管・すすぎが典型的な誘因となる1)7)。
レンズ種別:2週間FRSCLや従来型SCLで緑膿菌・モラクセラ・セラチアなどグラム陰性菌感染が多い1)。
装飾用CL:医師の処方を経ないインターネット・店頭購入のレンズは感染リスクが高い7)。
外傷・手術関連
眼表面・全身因子
眼表面疾患:ドライアイ、角膜ヘルペス、水疱性角膜症、Stevens-Johnson症候群、神経栄養性角膜症が素因となる1)。汚染された人工涙液から広範囲薬剤耐性緑膿菌が検出された事例もある2)。
全身因子:糖尿病、免疫抑制、アトピー性皮膚炎、膠原病が挙げられる1)7)。
薬剤関連:ステロイド点眼の長期使用、汚染点眼液、NSAIDs点眼がリスクとなる。フルオロキノロン系抗菌薬の長期点眼下ではMRSAの検出率が上昇する1)。
CL関連以外では、角膜移植後、眼表面疾患、フルオロキノロン系抗菌薬の長期点眼下でのMRSAが重要な課題となる1)。ステロイド薬長期連用例や免疫抑制薬投与患者では真菌感染(特に酵母様真菌)やヘルペスウイルスとの鑑別も要する1)。高齢者かつ長期臥床の患者で難治性角膜炎が見られる場合、緑膿菌、MRSA、真菌の可能性を考慮する必要がある1)。
診断は問診、臨床所見の読み取り、検査を総合して行う1)。感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)のクリニカルクエスチョン1(CQ-1)では、細菌性角膜炎の診断には塗抹検鏡と培養検査を強く推奨する(エビデンスレベルC) とされている1)。
CL装用歴(種類・使用期間・ケア方法・誤使用の有無)、外傷歴、眼科手術歴、既存の角膜疾患(角膜ヘルペスなど)、使用中の点眼薬、ステロイド長期連用や免疫抑制薬の投与歴、全身既往(糖尿病・アトピー性皮膚炎・MRSA感染歴)を確認する1)。経過として、進行が早ければ緑膿菌やレンサ球菌を、長期臥床の高齢者で難治性であれば緑膿菌・MRSA・真菌の可能性を考慮する1)。
角膜浸潤の部位・大きさ・深さを記録し、フルオレセイン染色で上皮欠損を評価する。前房内炎症(細胞・フレア・フィブリン・前房蓄膿)、角膜後面沈着物、角膜知覚、眼瞼閉鎖不全、涙道系の評価を並行する1)。後極部の観察が困難であれば超音波Bモード検査を追加する。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)は角膜病変の深さ、角膜厚の増大、菲薄化、前房内炎症細胞、フィブリン、KP、endothelial plaque などを客観的に描出する1)。治療前後の比較で治療効果を評価できる。ただし感染性角膜炎に対する保険適用はない1)。
生体内共焦点顕微鏡(in vivo confocal microscopy:IVCM)は非侵襲的に角膜内の細胞・神経線維・真菌・アカントアメーバの栄養体とシストを観察できる1)。
確定診断には角膜病巣の擦過による塗抹検鏡と培養検査を行う1)。抗菌薬投与前に検体を採取することが極めて重要で、感染性角膜炎GL第3版のCQ-1では、検査前に抗菌薬が投与されていない症例の培養陽性率は77.3%、投与後では37.8%と報告されている1)。
点眼麻酔下に滅菌スパーテルで潰瘍辺縁部を含めて擦過する。穿孔の危険がある場合は滅菌綿棒を用い、固定は火炎またはアルコールで行う1)。検体採取方法の検討では、検体採取用スワブの培養陽性率50%、23G針35%と報告されており、スワブによる擦過が簡便で推奨される1)。また固形培地への直接接種の陽性率は61%、輸送用培地を介した間接接種では44%であり、可能であれば固形培地への直接接種が望ましい1)。
感染性角膜炎GL第3版では、培養陽性率37.6〜74.3%、塗抹検鏡陽性率58.1〜73.7%、細菌の塗抹検鏡における起炎菌検出率は60〜75%と報告されている1)。塗抹陽性例での培養陽性率は57.1〜82.4%と高く、両者の併用が望ましい1)。
主な染色法を以下に示す。
| 染色法 | 対象 | 所要時間 |
|---|---|---|
| Gram染色(フェイバーG) | 細菌・真菌・アメーバ | 3分 |
| Giemsa染色(ディフ・クイック) | 細菌・真菌・Chlamydia | 15秒 |
| ファンギフローラY | 真菌・アメーバシスト | 蛍光顕微鏡 |
Gram染色では細菌、真菌、アカントアメーバの感染が疑われる場合に実施する1)。簡易迅速染色液セットのディフ・クイックはGiemsa染色と等価な像を短時間で得られる1)。ファンギフローラY染色はβ構造を持つ多糖類のキチン・セルロースを特異的に染色し、真菌とアメーバシストを鋭敏に検出する1)。
培養には血液寒天培地、チョコレート寒天培地、サブロー培地、液体培地(チオグリコレートブイヨン)、輸送用培地(シードスワブ®、トランスワブ®)を用いる1)。血液寒天培地では溶血性を判定でき、チョコレート寒天培地はV因子とX因子を含むため、Haemophilus属や淋菌の増殖に適する1)。培養判定には48時間を要し、感受性結果は3〜4日かかる1)。
なお、眼表面には常在菌が存在するため、培養で分離された細菌が必ずしも起炎菌とは断言できず、塗抹結果との相同性、眼所見との整合性、薬剤感受性と治療効果から総合的に判断する1)。McLeod らは市中感染の多くが経験的治療のみで軽快する一方、中央部の大きな病変・実質融解・前房蓄膿例・角膜手術既往例・非典型例では塗抹培養の施行が強く推奨されると報告した10)。AAO PPP は以下の状況で塗抹・培養を明示的に推奨している7)。
PCRは微生物DNAを増幅する迅速検査であるが、本邦の感染性角膜炎GL第3版では、角膜擦過物のPCRのみで細菌性角膜炎を診断することは推奨されていない1)。PCRは眼表面常在菌を検出する可能性があり、塗抹検鏡と培養検査の補助と位置づけられている1)。
カタル性角膜浸潤(ブドウ球菌菌体外毒素に対するⅢ型アレルギー)、真菌性角膜炎(羽毛状浸潤・satellite lesion・endothelial plaque)、アカントアメーバ角膜炎(放射状角膜神経炎・輪状浸潤・偽樹枝状病変)、ヘルペス角膜炎(terminal bulbを持つ樹枝状病変)との鑑別が重要である1)。角膜生検は、培養陰性でありながら感染が強く疑われる場合に考慮する7)。
まず抗菌薬投与下であれば一時中断のうえ再培養を検討する。感染性角膜炎GL第3版では、抗菌薬投与前の培養陽性率77.3%に対し、投与後では37.8%まで低下すると報告されている1)。それでも陰性の場合は角膜生検を考慮し、非結核性抗酸菌・ノカルジア・アカントアメーバ・真菌など特殊な病原体を再評価する1)。並行して広域抗菌薬による経験的治療を継続し、48時間ごとに治療反応を評価する7)。
感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)は、細菌性角膜炎の治療を起炎菌に有効な抗菌薬の選択が必須とし、早急かつ確実な起炎菌同定を求めている1)。同ガイドラインの治療方針フローチャート(図10)は以下の方針を示す1)。
感染性角膜炎GL第3版の初期治療薬の例は以下の通りである1)。
| 疑う起炎菌 | 第一選択(2剤併用) |
|---|---|
| グラム陰性桿菌 | フルオロキノロン系+アミノグリコシド系 |
| グラム陽性球菌 | フルオロキノロン系+セフェム系 |
起炎菌を推測できない場合は、ニューキノロン系とβラクタム系を併用する1)。起炎菌は同定次第、塗抹結果・培養結果・薬剤感受性を踏まえて治療を再評価する1)。
本邦で使用可能な市販抗菌点眼薬には、フルオロキノロン系(第3世代のオフロキサシン=OFLX、レボフロキサシン=LVFX、トスフロキサシン=TFLX、第4世代のガチフロキサシン=GFLX、モキシフロキサシン=MFLX)、セフェム系(セフメノキシム塩酸塩)、アミノグリコシド系(トブラマイシン、ゲンタマイシン、ジベカシン、フラジオマイシン)、マクロライド系(エリスロマイシン)、クロラムフェニコールなどがある。グリコペプチド系のバンコマイシンは自家調整点眼として用いられる。
第3・4世代フルオロキノロン系は組織移行性が向上しレンサ球菌にも効果が強くなっている。高濃度のレボフロキサシン水和物点眼ではグラム陰性菌への治療効果が向上した1)。一方セフメノキシム塩酸塩点眼はレンサ球菌に奏効するが緑膿菌には効果が乏しく、アミノグリコシド系は緑膿菌に有効だがレンサ球菌には無効である1)。第4世代フルオロキノロン系は緑膿菌に対する効果が弱くなっている点にも注意を要する。
主要な起炎菌群と薬剤系統の感受性の一般的な対応を以下に示す。
| 系統 | ブドウ球菌 | 連鎖球菌 | 緑膿菌 |
|---|---|---|---|
| β-ラクタム系 | 有効 | 有効 | 弱い |
| フルオロキノロン系 | 有効 | 有効 | 有効 |
| アミノグリコシド系 | 有効 | 無効 | 有効 |
| マクロライド系 | 弱い | 有効 | 弱い |
点眼は1回1〜2滴で、重症度と薬剤の post-antibiotic effect(PAE)を考慮する1)。重症例や刺激による流涙が強い場合は30分〜1時間ごとの頻回点眼を行う1)。PAEはアミノグリコシド系とフルオロキノロン系で認められるが、セフメノキシム・クロラムフェニコールでは短く頻回点眼が必要となる1)。
米国AAOのBacterial Keratitis PPP(2023)では、中心部大病変や前房蓄膿を伴う視機能脅威例に対し強化抗菌薬の使用を提案している7)。具体的な調製法は以下のとおりである7)。
重症例ではセファゾリン50 mg/mL+トブラマイシン14 mg/mL、MRSA疑いではバンコマイシン25〜50 mg/mLを併用する7)。強化抗菌薬は自家調整剤として用いられ、調製の安全性や保存安定性の問題から感染性角膜炎GL第3版は「安易な使用を避ける」と注意喚起している1)。
市販薬に感受性がない場合、注射用薬剤を生理食塩水で希釈して自家調整点眼液として用いることを検討する1)。MRSA・MR-CNSに対してはクロラムフェニコール点眼、自家製アルベカシン点眼(保険適用外)の有用性が報告されている1)。広範囲薬剤耐性(XDR)緑膿菌に対してはセフィデロコルなど新規抗菌薬の全身投与が報告されている2)。
近年、眼科領域で汎用されるフルオロキノロン系に対する感受性低下が問題となっており、MRSA・MRSE・ペニシリン耐性肺炎球菌などの多剤耐性菌の検出が増加している1)。点眼薬中の薬剤は高濃度であるため、感受性検査で耐性と示されても、臨床的に効果が得られていればそのまま継続して差し支えない場合もある1)。
感染性角膜炎診療ガイドライン第3版では、細菌性角膜炎に対するステロイド併用は病態と治療反応を見極めて慎重に判断する位置づけである1)。 Steroids for Corneal Ulcer Trial(SCUT)の本体試験ではプレドニゾロンリン酸塩1%点眼と広域抗菌薬併用で視力転帰に有意差を認めなかったが、サブグループ解析では緑膿菌性や重症例における早期ステロイド併用の視力改善効果が示唆された9)。この結果を受けてAAO Bacterial Keratitis PPP 2023では「起炎菌同定後かつ抗菌薬への反応確認後(通常48時間以降)にステロイド併用を考慮してもよい」とされている7)。ただしアカントアメーバ・ノカルジア・真菌感染では禁忌である7)。
治療方針の決定にあたっては、感染性角膜炎診療ガイドライン第3版の推奨を参照しつつ、重症例では個別の病態に応じて判断する必要がある。
AAO PPPは治療開始48時間以内に改善傾向が認められない場合、治療レジメンの見直しを勧めている7)。感染性角膜炎GL第3版も、改善しない場合は患者背景・治療経過を見直し、混合感染(細菌+真菌、まれに細菌+ヘルペス)の可能性や患者の点眼アドヒアランスを確認することを求めている1)。
薬物療法に反応しない場合や角膜穿孔例では外科的介入を行う。感染性角膜炎GL第3版は、前房消失が続くなどやむを得ない場合には治療的角膜移植を行うが、可能であれば感染鎮静化後の待機的角膜移植が望ましいとしている1)。全層角膜移植(PKP)または深層層状角膜移植(DALK)が選択され、重症緑膿菌角膜炎後にDALKで良好な視力回復を得た症例も報告されている6)。小穿孔(<2 mm)にはシアノアクリレート系角膜接着剤と治療用CLを用いる。SMILE後の重症感染ではcapをflapに変換して壊死組織を除去し抗菌薬で洗浄する手法が報告されている5)。C. bovisによる穿孔例ではGundersen結膜弁手術が行われた4)。
感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)CQ-5は「細菌性角膜炎の治療に副腎皮質ステロイド点眼は併用しないことを弱く推奨する」と明記している1)。これは原因菌が同定されない症例が多く、耐性菌の増加を踏まえた安全性重視の推奨である1)。SCUT試験のサブグループ解析やAAO PPPでは起炎菌同定後かつ抗菌薬への反応確認後(通常48時間以降)に限り慎重に併用を考慮する立場もあるが、アカントアメーバ・ノカルジア・真菌感染は禁忌である7)。
正常角膜は重層扁平上皮とBowman膜で構成されるバリアを有し、涙液中のリゾチーム、ラクトフェリン、IgAなどの防御物質により微生物の侵入を阻んでいる1)。この防御機構が外傷、CL装用、ステロイド点眼、眼表面疾患などで破綻すると細菌が角膜実質に侵入可能となる。
細菌が角膜内で増殖すると、好中球を主体とする炎症細胞が浸潤して化膿性病変(浸潤・膿瘍・潰瘍)を形成する1)。浸潤した好中球が放出する蛋白分解酵素と活性酸素により角膜実質の破壊が進行し、治癒後には組織の菲薄化が残る1)。感染が長期化あるいは重症化すると、角膜内皮細胞数の著明な減少から水疱性角膜症へ移行することもある1)。
近年、眼科領域のフルオロキノロン系に対する感受性低下が問題となっており、MRSA・MRSE・ペニシリン耐性肺炎球菌などの多剤耐性菌が増加している1)。2005年から2015年にかけて、MRSAと緑膿菌のフルオロキノロン耐性化が進行したと報告されている7)。耐性の背景には過剰な抗菌薬使用、CL装用者の汚染ケース環境、遺伝子水平伝達などが関与する。Austin らのレビューも、耐性菌対応としてローカルな疫学データに基づく経験的治療と迅速な感受性試験の重要性を指摘している13)。
緑膿菌は角膜上皮のアシアロガングリオシドなどの細胞表面糖脂質に付着し、III型分泌系を介してエフェクター分子を宿主細胞に注入する。これにより角膜上皮細胞のアポトーシスと好中球誘引が惹起される。引き続き菌が放出するエラスターゼ、アルカリプロテアーゼ、プロテアーゼIVなどのプロテアーゼ群が角膜実質のコラーゲンとプロテオグリカンを分解し、急速な組織融解を起こす1)11)。一方、宿主側の好中球由来のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-2, MMP-9)も角膜破壊に寄与し、感染制御後も瘢痕形成の主因となる。こうした感染成立と組織破壊のカスケードは、単に抗菌薬で病原体を除去するだけでなく、宿主の過剰炎症をいかにコントロールするかが治療上の課題となる理由である11)。
AAO PPPは細菌性角膜炎の病期を、進行性浸潤、活動性潰瘍形成、退行、治癒の4段階に分けている7)。適切な治療を受けた場合も、角膜瘢痕や不正乱視で視機能障害が残存することがあり、早期診断と抗菌薬の早期投与が予後を左右する最大因子となる1)。未治療または重症例では24時間以内に角膜穿孔に至り、眼内炎から眼球喪失となることもある7)。
Morelli MK らは、市販の人工涙液(EzriCare)から分離された広範囲薬剤耐性(XDR)緑膿菌による角膜潰瘍に対し、シデロフォアセファロスポリンであるセフィデロコルを全身投与し、局所イミペネム・ポリミキシンBの併用で治療に成功した症例を報告した。全ゲノム解析でblaVIM-80およびblaGES-9が同定された2)。
Kikuchi らは、オルソケラトロジーとソフトCLを10年間併用していた63歳男性に発症した緑膿菌角膜炎を報告した。角膜全面の浸潤と輪状潰瘍を呈し、レボフロキサシン・セフメノキシム・ゲンタマイシン点眼にイミペネム点滴を併用して治癒したが、角膜混濁が残存した3)。
Elsheikh M らは、帯状疱疹角膜炎を背景に Corynebacterium bovis による重篤な角膜感染から穿孔を来した89歳女性を報告した。近隣での牛との接触が感染経路と推定され、バンコマイシンとシプロフロキサシンの併用とGundersen結膜弁手術で管理された4)。
Li J らは、SMILE後に発症した細菌性角膜炎5例(7眼)を報告した。術後1〜3日で発症し、Staphylococcus epidermidis と Streptococcus pneumoniae が培養された。重症例ではcapをflapに変換して壊死組織除去と抗菌薬洗浄を行い、全例で最終矯正視力20/32以上を達成した5)。
Arun K と Georgoudis は、32歳CL装用男性の緑膿菌角膜炎に対し、急性期の抗菌薬治療後にDALKを施行して良好な視力回復を得た症例を報告した6)。
抗菌薬耐性問題への対応として、光活性化角膜クロスリンキング(Photoactivated Chromophore for Keratitis-Corneal Cross-linking:PACK-CXL)が注目されている。2008年、円錐角膜治療のDresdenプロトコル(0.1%リボフラビン点眼30分+UVA 3 mW/cm² 照射30分、総エネルギー5.4 J/cm²)が感染性角膜炎治療に応用された8)。2013年の国際会議でPACK-CXLの名称が正式に採用されている8)。
Kowalska らのスコーピングレビューは233件の前臨床研究を解析し、PACK-CXLが角膜ストローマの酵素分解への抵抗性を高め、細菌・真菌・アメーバを含む病原体を殺滅する作用を持つことをまとめた8)。中等症までの細菌性角膜潰瘍で良好な結果が報告されているが、Dresdenプロトコルでは効果不十分とされ、加速型・高フルエンスプロトコルへのシフトが見られる8)。FDA未承認の適応であり、本邦でも研究段階である7)。
薬剤耐性菌の増加は世界的な課題であり、MRSA角膜炎やフルオロキノロン耐性菌への新規治療戦略が求められている7)。今後はPACK-CXLの標準プロトコル確立、既存抗菌薬の新規調製法、菌種特異的迅速診断の発展が期待される。
MRSAにはバンコマイシン点眼(25〜50 mg/mL)や自家製アルベカシン点眼が選択肢となる1)7)。フルオロキノロン耐性株にはアミノグリコシド系やセフェム系への変更、クロラムフェニコール点眼を検討する1)。広範囲薬剤耐性(XDR)緑膿菌に対してはセフィデロコルなど新規抗菌薬の全身投与が報告されている2)。いずれの場合も感受性試験に基づく治療薬選択が不可欠であり、塗抹・培養検査の重要性が改めて強調される1)。PACK-CXLは耐性菌への代替手段として研究が進められているが、標準治療ではない8)。