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角膜・外眼部疾患

Stevens-Johnson症候群

Stevens-Johnson症候群(SJS)は、突然の高熱、結膜炎、皮膚の発疹に続いて全身の皮膚・粘膜にびらんと水疱を生じる急性の皮膚粘膜疾患である。中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis; TEN)はSJSの重症型を含んだ病型である。発症前に薬剤投与歴のある症例が多く、重篤な薬剤副作用でもある。本疾患は1922年に米国の小児科医Albert Mason StevensとFrank Chambliss Johnsonが発熱と結膜炎、皮膚および口腔粘膜のびらんを伴う2例の小児を報告したことで名付けられた。その後、1956年にAlan Lyellが中毒性表皮壊死症(TEN)を報告し、両者は同一スペクトラムの重症薬疹として整理されるに至った。

分類皮膚病変の面積
SJS体表面積の10%未満
SJS/TEN overlap体表面積の10〜30%
TEN体表面積の30%超

SJSとTENの眼所見は類似しており、眼所見のみで両者を鑑別することは困難である。このため眼科では、SJSとTENを包括して広義のSJSと呼ぶことが多い。発症機序や眼後遺症もほぼ共通のスペクトラムとして扱われる。

発症率は年間100万人あたり数人ときわめて稀な疾患であるが、小児を含めあらゆる年齢に性差なく発症する。米国では年間100万人あたり12.35例の発症率が報告されている8)。致死率はSJS 4.8%、TEN 14.8%と高く3)、TENでは最大30%に達するとの報告もある1)

SJS/TENにおける眼合併症の頻度は70%程度とされ、成人では53〜88%に生じる8)。特に偽膜と角結膜上皮欠損の両方を認める重篤な眼合併症は、SJS/TEN全体の約40%にみられる10)。致死率が高いため発症時は全身管理が主体となるが、後遺症として最も多いものが眼障害であり、高度の角膜混濁による視力障害とドライアイが生涯にわたって持続する11)角膜上皮幹細胞疲弊症に至った症例では、輪部から求心性に供給されるはずの角膜上皮細胞が不足し、結膜由来の血管を伴う組織が角膜表面を侵入する。この回復困難な変化が視力障害の中核を成すため、発症から数日以内の急性期治療の質が予後を大きく左右する13)

SJS/TENは小児科・皮膚科・救急科で発症が認識されることが多いが、眼症状が皮膚病変に先行する症例では初発症状として眼科を受診することもある。全身発熱と皮疹が合併する発症様式では、急性の両眼性結膜炎を呈する疾患との鑑別が常に問題となる。このため一般眼科医であっても、多職種連携を視野に入れた早期診断と集学的治療への橋渡しが重要となる。初診時に全身症状の評価と皮膚粘膜の観察を怠らず、両眼性の結膜炎で発熱を伴う場合は積極的に皮膚科・救急科と連携する必要がある。疑い症例では早期に入院加療を開始し、眼科では急性期の積極的介入を躊躇しない姿勢が視力予後の改善に直結する。

Q SJSとTENの違いは?
A

SJSとTENは同一スペクトラムの疾患であり、皮膚病変の面積で分類される。体表面積の10%未満がSJS、10〜30%がSJS/TEN overlap、30%超がTENである。眼所見は両者で類似し鑑別は困難であるため、眼科では合わせて広義のSJSと呼称する。致死率はSJS 4.8%、TEN 14.8%である3)。重篤な眼合併症の発生率はSJS/TEN全体で約40%である10)

Stevens-Johnson症候群の眼表面写真
Wibowo E, Maharani RV, Sutikno NA. Symblepharon as Ocular Manifestation Post Stevens-Johnson Syndrome: A Rare Case. Romanian Journal of Ophthalmology. 2024 Oct-Dec; 68(466):$2. Figure 1. PMCID: PMC11809831. License: CC BY.
両眼は狭窄して十分に開くことができず、右眼前眼部は瘢痕や肉芽組織に覆われ、左眼には狭窄と眼瞼移植後の瘢痕が認められる。主な症状と臨床所見における、慢性期の重篤な眼表面変化を提示している。
  • 両眼の充血・異物感・眼痛:眼症状と同時あるいは数日以内に体幹を主体とした発疹を生じる。
  • 視力低下:急性期の角結膜上皮欠損と慢性期の角膜混濁により生じる。
  • 乾燥感・羞明:慢性期のドライアイに伴い持続する。
  • 倦怠感・咽頭痛:発症に先立つ感冒様の前駆症状として多くの症例で自覚される。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

急性期(発症時)

  • 両眼性の結膜充血:粘膜疹や皮疹とほぼ同時に生じる重度の充血である。
  • 偽膜形成:急性期の特徴的所見であり、翼状に結膜面へ付着する。
  • 結膜上皮欠損:広範囲に及ぶことがある。遷延性上皮欠損は角膜感染症や角膜融解・穿孔を合併しうる。
  • 眼瞼の発赤腫脹:重症では開瞼すらできない状態となる。睫毛の脱落もみられる。
  • 角膜偽膜:入院数日後に出現することがある4)
  • 急性期の眼所見は重症度分類に直結:Sotozono らによる急性期眼重症度分類では偽膜・上皮欠損・角膜上皮欠損の有無に応じてGrade 0〜3に分けられる11)

皮疹に気づく前に眼科を受診した場合、ウイルス性結膜炎と誤診されることがある。発熱と全身皮疹の有無を必ず確認する必要がある。

慢性期(瘢痕期)

  • 重篤なドライアイ:涙腺導管の閉塞による涙液分泌不全をほぼ全例に合併する。マイボーム腺機能不全を合併することも多い。
  • 睫毛乱生:長年続き、眼表面状態を悪化させる。毛周期に沿って月3〜4回の抜去を要することが多い。
  • 瞼球癒着(symblepharon):円蓋部が消失し瞼結膜と球結膜が癒着する。
  • 角膜への結膜侵入角膜上皮幹細胞が消失すると結膜組織が角膜表面を覆い視力障害をきたす。
  • 上皮角化:重症例では角結膜表面が皮膚のように角化する。
  • POV(palisades of Vogt;Vogtの角膜輪部柵)消失輪部に存在する角膜上皮幹細胞が消失した臨床サインである。

眼合併症の重症度は皮膚病変の範囲と必ずしも相関しない。点眼薬を投与していない眼に対側よりも重篤な障害が生じた症例も報告されており、SJS/TENは根本的に全身性の免疫疾患であることを示している1)

眼合併症の発症予測には急性期の偽膜形成・角膜上皮欠損結膜充血の有無が重要な因子となる。日本の多施設共同研究では、急性期に偽膜形成や角膜上皮欠損を認めた症例で慢性期の重症眼後遺症が高率に生じると報告されている11)。そのため急性期には毎日〜数日ごとに眼所見を詳細に記録し、グレーディングを経時的に追跡する必要がある。

SJS/TENは薬剤の投与が誘因となって発症することが多い。小児ではマイコプラズマ感染が先行することが多いとされる。発症に先立ち倦怠感や咽頭痛などの感冒様症状を自覚していることが多く、何らかのウイルス感染が契機になると考えられているが、発症機序の詳細は不明である。薬剤投与開始から発症までの潜伏期間は多くの場合4日〜1か月程度と比較的短く、特に被疑薬の投与開始後2〜3週間以内の発症が最頻である。ただし長期投与後の発症例もあり、投与期間だけで因果関係を否定することはできない。

原因分類代表的薬剤・因子
抗菌薬サルファ薬(ST合剤など)が最多
抗てんかん薬カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギン
鎮痛解熱薬ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
高尿酸血症治療薬アロプリノール
抗腫瘍薬免疫チェックポイント阻害薬(ICI
感染症マイコプラズマ感染(特に小児)、単純ヘルペスウイルス

特に抗てんかん薬による症例が多数報告されている。カルバマゼピンとフェニトインの併用で35日後に発症した症例3)や、ラモトリギンへの切り替え後にTENを発症した症例7)が報告されている。NSAIDs の発症寄与についてはプロスタグランジン産生抑制作用が機序として推定されている。

近年では免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるSJS/TENも報告されている。Tislelizumabの市販後調査では3,795件の有害事象中3例のTENが同定された5)。ICI誘発SJS/TENの発症中央値は32日であり、305例の追跡で69例が死亡したとの報告がある4)

点眼薬でもSJS/TENを誘発しうる。スルホンアミド系炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミド点眼薬により、全身性のSJS/TEN overlap(体表面積99%)を発症した症例が報告されている1)結膜・鼻粘膜を介した全身吸収が、遺伝的に感受性が高い個体では全身免疫反応を引き起こしうると考えられている。

COVID-19ワクチン接種後のSJS/TENも報告されている2)。ワクチン誘発SJS/TENは薬剤誘発性(2〜3週間)より短い1〜8日で発症する傾向がある2)

HLA遺伝子型がSJS/TEN感受性に強く関連する。アロプリノール投与前にはHLA-B*58:01、カルバマゼピン投与前にはHLA-B*15:02の検査が推奨されている8)。さらに重篤な眼合併症を伴う日本人SJS/TENではHLA-A*02:06が強い関連を示すことが報告されている12)。こうしたHLA多型の解析は原因薬剤の同定と投薬前スクリーニングにおいて重要な役割を果たす。

Q どのような薬剤がSJS/TENの原因となるか?
A

最も一般的な原因薬剤はサルファ薬(抗菌薬)と抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギン)であり、NSAIDsとアロプリノールがこれに続く。近年ではICI免疫チェックポイント阻害薬)による報告も増加している5)6)。点眼薬(ブリンゾラミド)でも全身性SJS/TENを誘発しうる1)。COVID-19ワクチン接種後の発症も報告されている2)。HLA-B*58:01・HLA-B*15:02・HLA-A*02:06など特定のHLA多型が感受性を規定する8)12)

診断基準

SJS診断基準(必須3項目)10):(1) 皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変(出血性または充血性)、(2) びらんまたは水疱が体表面積の10%未満、(3) 38℃以上の発熱。主要3項目をすべて満たす場合にSJSと診断する。副所見として非典型的ターゲット状多形紅斑、両眼性の非特異的結膜炎角膜上皮障害と偽膜形成のいずれかまたは両方)、病理組織での表皮壊死性変化を伴う。

TEN診断基準(必須3項目)10):体表面積の10%を超える水疱・表皮剥離・びらん、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)の除外、38℃以上の発熱を満たす。

SJSと診断された症例でも極期にTENへ移行しうるため、初期評価後に再評価が必要となる10)

眼合併症のグレーディング

Grade 0:眼病変なし。予防的人工涙液を用いる11)

Grade 1結膜充血のみで角膜病変なし。抗菌薬点眼1日3回、ステロイド点眼1日6回を用いる8)

Grade 2角膜病変あり、偽膜なし。上記に加え羊膜移植(Prokera または amniotic membrane transplant; AMT)を検討する8)

Grade 3:偽膜を伴う角膜病変。AMTを含む積極的治療を検討する8)

SCORTENによる全身的重症度評価:SCORTEN(SCORe of Toxic Epidermal Necrosis)はSJS/TENの予後予測に広く用いられるスコアリングシステムであり、年齢40歳以上、悪性腫瘍合併、心拍数120/分以上、表皮剥離面積10%以上、血清尿素窒素高値、血糖高値、血清炭酸水素イオン低値の7項目を評価する。スコアが上昇するほど死亡率が高まり、集中治療と全身管理の必要性を客観的に判断する指標となる。眼科医は皮膚科・救急科と連携しSCORTENを共有することで治療方針決定に貢献する。

  • 細隙灯顕微鏡検査:偽膜・結膜充血・角結膜上皮欠損・瞼球癒着の評価を行う。
  • フルオレセイン染色:角結膜上皮欠損の範囲を可視化する。
  • 結膜嚢培養:慢性期の感染増悪例ではMRSAやMRSEの保菌確認を行う。
  • インプレッションサイトロジー結膜上皮の角膜侵入と杯細胞の存在を確認する。
  • 前眼部OCT・in vivo共焦点顕微鏡:POVや角膜上皮の評価、輪部幹細胞疲弊症の診断補助となる8)
  • HLA遺伝子型検査:原因薬剤の同定や投薬前スクリーニングに用いられる8)12)
  • ウイルス性結膜炎:急性期に眼症状のみで来院した場合に誤診されることがある。全身発熱と皮疹の有無に注意する。
  • 眼類天疱瘡(ocular cicatricial pemphigoid):慢性期の瘢痕性角結膜症として類似する。自己免疫疾患であり経過は緩徐で両疾患の鑑別にはインプレッションサイトロジー・免疫組織化学が有用である。
  • ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS):TENの診断基準で除外が必要である。SSSSは主に小児に発症し、表皮の剥離は顆粒層レベルで起こる表層性の病態であり、真皮までの壊死を起こすTENとは病理組織学的に区別される。
  • 化学外傷・熱外傷後の輪部幹細胞疲弊症:病歴で鑑別する8)
  • 急性出血性結膜炎:ウイルス性の両眼性結膜炎として急性期SJSと類似するが、全身発熱と皮疹を伴わない点で鑑別できる。
  • 眼瞼炎マイボーム腺:慢性期の瞼縁変化として鑑別対象となるが、瘢痕化の有無で区別される。

急性期の治療

全身治療ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 500〜1,000 mg/日×3日間×1〜2クール)を発症早期より行う10)。重症例ではIVIG療法(0.4〜1.0 g/kg/日×3〜5日間)や血漿交換療法を追加する。全身状態が許す限り早期大量投与により眼表面炎症の進行を抑制することが重要である。シクロスポリン(3〜5 mg/kg/日)、エタネルセプト、インフリキシマブなどのTNF-α阻害薬を追加する選択肢もあり、特にステロイド抵抗例や遷延例で効果が報告されている。全身管理では熱傷室・集中治療室での体温管理・輸液管理・栄養管理・感染予防が不可欠であり、多職種チームによる集学的治療が行われる。

眼局所治療:ベタメタゾン点眼液または眼軟膏を1日6〜10回と頻回に点入し、瞼球癒着の形成を防ぐ。感染予防のため抗菌薬の点眼を併用する。角膜上皮幹細胞を温存できるかどうかが慢性期の視力予後を決定する最大の要因である11)13)

早期羊膜移植(AMT):Grade 2以上で検討する8)。極めて重症の10例中9例でBCVA 20/20が達成されたとの報告がある8)。感染性角膜炎も35%に生じるため追加の抗菌薬予防が必要である8)。発症から24〜48時間以内の眼科的評価と早期AMT介入が視力予後を改善する13)羊膜移植には縫合により球結膜・円蓋部・眼瞼結膜を全面被覆する方法と、Prokeraのような縫合不要の輪状デバイスを装着する方法がある。Prokeraは処置室での装着が可能で、急性期の侵襲的手術を回避できる点で臨床現場での使用が拡大している。羊膜は抗炎症・抗血管新生・抗瘢痕化の性質を持ち、成長因子と抗炎症サイトカインを徐放することで眼表面の創傷治癒を促進する。

慢性期の治療

ドライアイ管理:防腐剤を含まない人工涙液の頻回点眼、ヒアルロン酸点眼、レバミピド点眼(ムチン産生亢進と抗炎症作用)、ジクアホソル点眼(水分およびムチン分泌促進)、涙点プラグを併用する。SJS慢性期のドライアイは単純な涙液量減少にとどまらず、マイボーム腺機能不全による脂質層異常、杯細胞減少によるムチン欠乏、結膜上皮の角化を伴う複合型の重症ドライアイである。このため1剤のみでは管理が困難であり、涙液層の各成分を補う多剤併用戦略が必要となる。防腐剤は角結膜上皮障害を悪化させるため、すべての点眼薬は可能な限り防腐剤フリー製剤を選択する。

睫毛乱生管理:月3〜4回の毛周期ごとに定期抜去する。細く脱色素した睫毛はチタン材鑷子や縫合鑷子が有効である。再発性例では睫毛毛根切除の眼形成手術や睫毛電気分解(毛根破壊手術)を追加する。SJS後の睫毛乱生は通常の加齢性内反とは異なり、瞼縁後端部の軽度内反(marginal entropion)が毛根部の瘢痕組織に波及し、睫毛の生える方向が変化することが原因とされる。このため単なる抜去だけでなく、原疾患である瞼縁の瘢痕化に対する積極的な治療が必要となる。長年の睫毛乱生を放置すると、偽翼状片角膜乱視角膜混濁の原因となるため早期介入が望ましい。

炎症管理:低濃度ステロイド点眼で慢性炎症を抑制し瘢痕性変化の進行を抑制する。MRSA/MRSEの保菌に注意し、培養に基づいた適切な抗菌薬を選択する。重症眼後遺症を伴うSJS/TEN患者では結膜嚢のMRSA・MRSEの保菌率が高く、これが眼表面炎症の再燃や感染性角膜炎の誘因となるため、定期的な結膜嚢培養と必要時のバンコマイシンやリネゾリドなどMRSA有効抗菌薬の使用が考慮される。慢性期のステロイド点眼では眼圧上昇や二次性緑内障に注意し、定期的な眼圧測定を行う。

強膜レンズと視力リハビリテーション輪部支持型ハードコンタクトレンズや強膜レンズは重症ドライアイと不整な眼表面に対して視機能改善に有効である。

視力改善のための強膜レンズ角膜表面が不整な重症ドライアイ例に対しては、強膜レンズ(scleral lens)やBostonSight PROSE(Prosthetic Replacement of the Ocular Surface Ecosystem)などの輪部支持型大径コンタクトレンズが有用である。レンズと角膜の間に緩衝液を保持することで角膜の微細不整を光学的に補正し、持続的な湿潤環境を確保することで上皮障害の進行を抑制できる。両眼性SJS患者の多くで屈折矯正だけでなく疼痛・羞明・異物感の軽減が得られる。

角膜への結膜組織侵入による高度の視力障害に対しては、輪部幹細胞移植(limbal stem cell transplantation; LSCT)や培養粘膜上皮移植が行われる。輪部幹細胞移植には術式の違いによって3種類が存在し、自家輪部幹細胞移植のシステマティックレビューでは結膜輪部自家移植(conjunctival-limbal autograft; CLAu)の anatomical/functional success率は81%/74.4%、simple limbal epithelial transplantation(SLET)は78%/68.6%、cultivated limbal epithelial transplantation(CLET)は61.4%/53%と報告されている9)。CLAuとSLETはCLETに対して有意に優れた成績を示した(p=0.0048)9)

培養粘膜上皮移植には自家口腔粘膜上皮シートを用いる方法があり、自家口腔粘膜上皮移植は日本において先進医療として認定されている13)。両眼性SJSなどで自家輪部組織が得られない症例では、患者自身の口腔粘膜をわずかに採取し、培地で上皮シート状に展開したうえで羊膜やフィブリン糊をキャリアとして角膜表面へ移植する。培養上皮シート作製時にはレチノールとEGFを添加した培地が異種由来物質を排除するために用いられる。マイトマイシンCの併用による線維芽細胞活性の抑制を組み合わせることもある。移植後は眼表面炎症の再燃を防ぐため、ステロイド点眼と免疫抑制薬の併用が継続される。

全層角膜移植(penetrating keratoplasty; PKP)は角膜瘢痕例で検討されるが、輪部幹細胞が喪失している状態では上皮化不全を生じやすく単独での予後は限定的である8)。このため重症LSCDではまず輪部幹細胞移植または培養粘膜上皮移植により眼表面を安定化させ、その後に角膜混濁に対して層状角膜移植または全層角膜移植を段階的に行う二段階手術が選択されることが多い13)

ボストン人工角膜(Boston keratoprosthesis; KPro)は他の治療で視力回復が困難な重症例の選択肢として用いられる8)。特に両眼性SJSで自家移植片源がない症例では、チタン製光学部と組織部を用いるタイプII(mucous membrane-covered)が慢性的な結膜化と眼瞼癒着を克服する手段として報告されている。ただし緑内障網膜剥離・感染・デバイス露出などの長期合併症が少なくなく、生涯にわたる厳密な管理が必要となる。ブリンゾラミド誘発SJS/TEN症例では瞼球癒着角膜瘢痕に対しPKPを施行し、視力0.05に改善した1)

白内障手術など眼科手術を契機に眼表面炎症が再燃するため、軽症例でも手術後にステロイド内服による十分な消炎が必要である。術前には結膜嚢培養でMRSAやMRSEなどの保菌を確認し、必要に応じて抗菌薬点眼の前投与を行う。白内障手術では創口を小さくし、粘弾性物質で眼表面を保護した上で可能な限り短時間で手術を終える工夫が推奨される。

Q 急性期の治療で最も重要なことは何か?
A

急性期の眼表面の十分な消炎が最も重要である。全身的なステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 500〜1,000 mg/日×3日間)10)に加えて眼局所のベタメタゾン点眼薬の頻回投与が必要である。急性期に角膜上皮幹細胞を温存できれば角膜の透明性は維持できる可能性が高い。Grade 2以上では早期の羊膜移植を追加することで重症例でも良好な視力予後が期待できる8)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

SJS/TENの病態生理は、遺伝的素因を背景とした薬剤代謝物への過剰な細胞性免疫応答と、それに続く広範な上皮細胞アポトーシスおよび二次的な炎症・組織障害によって説明される。表皮・粘膜上皮細胞が標的となる点では全身共通であるが、眼表面では輪部幹細胞の立地・血流・涙液構成成分の組み合わせから、炎症が長期化しやすく組織再生能の喪失に直結しやすい。

SJS/TENはIV型(遅延型)過敏反応として分類される。薬剤代謝物がMHCクラスI分子上に提示されることで、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が中心的役割を果たす5)。活性化したCD8+ T細胞はTNF-αとIFN-γを分泌し、ケラチノサイトに一酸化窒素(NO)を産生させる。このNOがFas/Fas ligand経路を介してケラチノサイトの死を促進する5)。ケラチノサイトの広範なアポトーシスは表皮全層の壊死と剥離を引き起こし、これがSJS/TENの病理組織学的特徴である表皮基底層の完全な壊死として観察される。皮膚生検でNikolsky sign陽性と表皮基底層の壊死を確認することは、SSSS等との鑑別に有用である。

グラニュリシン(granulysin)がSJS/TENにおけるケラチノサイト死の主要メディエーターとして同定されている5)NK細胞もCD94/NKG2C受容体がケラチノサイト上のHLA-E分子に結合することでケラチノサイト死を媒介する5)。TNF-αは表皮の細胞死関連分子発現を上方制御し、最終的に広範な表皮剥離をもたらす5)

さらに、皮膚・粘膜の上皮下血管壁への免疫複合体沈着による血管炎が関与するとの考えもあり、微小循環障害がびらん形成と創傷治癒遅延の一因とされる。NSAIDs の共通機序であるプロスタグランジン産生抑制もSJS/TEN発症への関与が推定されている13)

眼では免疫細胞の浸潤前から上皮剥離とヘミデスモソームの喪失が生じうる8)。初期のケラチノサイトには免疫細胞が存在しないにもかかわらず基底部の空胞化が認められ、免疫浸潤前のサイトカイン調節異常が示唆される8)。このことは、眼表面の炎症が全身の薬剤反応に先行する、あるいは同時進行することを示唆し、急性期の局所ステロイド頻回投与が単なる対症療法ではなく病態介入として重要な意味を持つ根拠となっている。

後期にはCD8+細胞傷害性Tリンパ球が浸潤しケラチノサイトを標的とする8)。慢性期には結膜組織に好中球が持続的に存在し、免疫調節異常を駆動して輪部幹細胞の障害につながる可能性が示唆されている8)。慢性炎症の持続は結膜の線維化と瘢痕化を進行させ、杯細胞の減少、副涙腺の閉塞、マイボーム腺機能不全を介して涙液層の破綻を固定化しうる。こうした慢性期の連鎖を断ち切るため、軽微な炎症に対しても低濃度ステロイド点眼で長期的に抑制をかける場合がある。

角膜上皮幹細胞の解剖と喪失機序

Section titled “角膜上皮幹細胞の解剖と喪失機序”

角膜上皮幹細胞は輪部(limbus)上皮の基底細胞に存在し、その割合は全基底細胞の1%以下とされる。これらの幹細胞は角膜中心部に向かって求心性に移動しながら増殖・分化し、角膜上皮全体のターンオーバーを維持する。輪部上皮の解剖学的特徴としてpalisades of Vogt(POV)と呼ばれる放射状の襞構造が存在し、そこには豊富な血管・神経と幹細胞ニッチを構成する特殊な微小環境が形成されている。POVは正常では上下方で観察しやすいが、10歳以下や70歳以上の健常眼では明瞭に観察できないこともあるため、診断にあたってはPOVの消失単独ではなく、結膜上皮侵入や上皮の染色性差などの所見と組み合わせて評価される。

急性期に広範囲の角結膜上皮欠損を生じて輪部幹細胞が消失すると、結膜由来の上皮が角膜表面を被覆して不透明化と血管新生が生じる。この過程は輪部幹細胞疲弊症(limbal stem cell deficiency; LSCD)と呼ばれる8)。SJSは慢性LSCDの主要な原因の1つであり、単一施設738眼の検討では10.4%がSJSを原因としていた8)。近年ではインプレッションサイトロジーによる杯細胞の同定、in vivo共焦点顕微鏡によるPOV基底細胞の直接観察、前眼部OCTによる上皮厚の層別評価などを組み合わせ、LSCDの重症度と分布を客観的に診断する試みが進められている8)

HLA-A*02:06は日本人の重篤な眼合併症を伴うSJS/TENと強く関連する12)。HLA-B*58:01(アロプリノール)、HLA-B*15:02(カルバマゼピン)、HLA-B*57:01(アバカビル)など薬剤ごとに感受性HLAが同定されており、投薬前スクリーニングにより発症予防が可能となる領域が増えている8)。これらのHLA多型はTCR(T細胞受容体)と薬剤/薬剤代謝物との相互作用を規定するキー分子として機能する。薬剤分子自体あるいはその反応性代謝物がHLA分子のペプチド結合溝に直接結合し、自己ペプチドの提示を変化させることで異常な自己反応性T細胞応答が誘発されるというhapten仮説およびp-i(pharmacologic interaction)仮説が提唱されている。これらの分子機序の解明は、将来的な発症予防戦略と安全な薬剤選択の基盤となる。

PD-1阻害薬誘発SJS/TENでは、正常皮膚で通常検出されないPD-L1の発現がリンパ球とケラチノサイトで有意に上方制御される5)。この結果、活性化CD8+ T細胞によるケラチノサイト死が引き起こされる5)

Q なぜ角膜に永続的な障害が残るのか?
A

急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底細胞に存在)が消失すると、角膜上皮の再生が不可能となる。角膜表面は血管と結合織を伴った結膜組織で被覆され、不透明で凹凸不整となる。慢性期には好中球の持続的存在が免疫調節異常を駆動し幹細胞障害を維持する8)。涙腺導管の閉塞による涙液分泌不全も加わり、ドライアイ角膜混濁は生涯持続する。

免疫チェックポイント阻害薬誘発SJS/TEN

Section titled “免疫チェックポイント阻害薬誘発SJS/TEN”

ICIの使用拡大に伴いSJS/TEN報告が増加している。Tislelizumab誘発SJS/TENの13例(中国)の検討では、9名が男性、平均年齢は73.15±7.13歳であった5)。治療レジメンはステロイド単独、ステロイド+IVIG、ステロイド+IVIG+シクロスポリンなど多様であり、12名が改善した5)

ステロイドIVIGによる初期治療で改善しなかったtislelizumab誘発SJS/TEN症例に対し、TNF-α阻害薬(組換えヒトTNF受容体II-抗体融合蛋白)と血液浄化を併用し改善が得られた5)。TNF-α阻害薬のSJS/TEN治療への応用は新たな治療戦略として注目されている。

培養角膜上皮シートと再生医療

Section titled “培養角膜上皮シートと再生医療”

輪部幹細胞疲弊症に対する再生医療は近年大きく進歩した。培地にレチノールとEGFを添加することでフィーダー細胞と血清を用いずに角膜上皮シートの作製が可能となり、異種由来物質を排除した移植材料が臨床応用されつつある13)。自家口腔粘膜上皮移植は両眼性のLSCDに対しても自己細胞源として利用でき、SJSなど重症眼表面疾患に適応される13)SLETはLSCTの中でも操作が簡便で低コストの術式として普及しつつあり、既存研究のレビューではCLETよりも優れた成績が示されている9)。さらに羊膜基質に口腔粘膜由来上皮細胞シートを接着させた製品が再生医療等製品として上市されており、両眼性LSCDに対する臨床応用が進展している。iPS細胞由来角膜上皮細胞シートの臨床研究も日本で実施されており、自己細胞源が得られない両眼性疾患患者に対する次世代治療として期待されている。

スルホンアミド系点眼薬でも全身性SJS/TENが生じうることが報告された。ブリンゾラミド点眼開始6日後に体表面積99%の全身性反応を発症した1)結膜や鼻粘膜からの吸収経路が遺伝的に感受性の高い個体では全身性免疫応答を誘発しうることが示されている1)。この知見は、眼科領域で使用される点眼薬であっても全身性重症薬疹の誘因となりうることを示しており、薬剤アレルギー歴を有する患者への処方には慎重な判断が求められる。

SJS/TENが劇症1型糖尿病を合併した症例が報告されている3)。全身性の免疫応答が膵β細胞を破壊する機序が推定されており、SJS/TEN管理中の血糖モニタリングの重要性が示された3)。このほかSJS/TENの全身合併症として急性間質性肺炎、急性腎障害、肝機能障害、凝固異常などが報告されており、全身管理では多臓器の継続的モニタリングが不可欠となる。

長期フォローアップ体制の整備

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重症眼後遺症を残したSJS/TEN患者は、角膜移植輪部幹細胞移植・人工角膜強膜レンズなど複数の治療を生涯にわたり組み合わせて受けることになる。これに加えてドライアイ睫毛乱生・慢性結膜炎の継続治療、定期的な視野・眼圧評価、二次的な緑内障白内障への対応も必要となる。このため一施設・一診療科のみでは対応が困難であり、角膜専門医を中心とした長期フォローアップ体制と、皮膚科・膠原病内科・歯科口腔外科・リハビリテーション科との多職種連携が不可欠である。患者QOLの維持のためにはロービジョンケアや就労支援も重要であり、視覚リハビリテーションの早期導入が推奨される。医療費助成制度については、SJS/TENに伴う重症眼後遺症は指定難病「重症多形滲出性紅斑(急性期)」および後遺症としての角膜疾患の枠組みで一部対象となりうるため、医療ソーシャルワーカーと連携して情報提供を行うことが望ましい。

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