適応
簡易輪部上皮移植術(SLET)
1. 簡易輪部上皮移植術とは
Section titled “1. 簡易輪部上皮移植術とは”簡易輪部上皮移植術(simple limbal epithelial transplantation; SLET)は、片眼性の輪部幹細胞疲弊症(limbal stem cell deficiency; LSCD)に対する眼表面再建手術である。2012年にインドのSangwanらが初めて報告した2)。
SLETでは健側眼の上方輪部から約2mm(1時間幅)の輪部組織を採取する。採取した組織を6〜10個の小片に分割し、罹患眼の角膜上にヒト羊膜(HAM)を敷いた上に配置する。小片はin vivoで増殖し角膜上皮を再生する。
本手技の最大の利点は、CLETのような培養施設が不要であり、CLAuよりもドナー眼から採取する組織量が少ない点にある2)。自家移植であるため全身免疫抑制も不要である。
2. 適応と臨床的意義
Section titled “2. 適応と臨床的意義”
輪部幹細胞疲弊症(LSCD)の概要
Section titled “輪部幹細胞疲弊症(LSCD)の概要”LSCDは角膜上皮幹細胞の機能障害により角膜上皮の正常な恒常性が維持できなくなった状態である1)。輪部幹細胞はVogt柵(palisades of Vogt)と呼ばれる特殊な構造に存在する1)。幹細胞が損傷されると角膜上皮が結膜上皮に置換(結膜化)され、角膜の透明性が失われ視力が低下する1)。
LSCDの原因として化学外傷が最も多く、そのほか無虹彩症、コンタクトレンズ装用、Stevens-Johnson症候群が知られている1)。LSCDに対して角膜移植のみを施行しても、上皮の破綻が繰り返され移植片不全に至るため、輪部幹細胞移植による眼表面再建が必要である2)。
SLETの適応と禁忌
Section titled “SLETの適応と禁忌”禁忌
3. 手術手技
Section titled “3. 手術手技”移植幹細胞が増殖するための適切な環境を整備する。化学外傷後の症例では眼表面の炎症をSLET施行前に治療する。経口ドキシサイクリン、局所シクロスポリン、防腐剤無添加人工涙液を使用する。眼瞼の問題がある場合は術前に修正する。
手術ステップ
Section titled “手術ステップ”- 麻酔と準備:両眼に局所麻酔を行い、LSCD眼に球後麻酔(またはテノン嚢下麻酔)を追加する。小児では全身麻酔を用いる。0.15%ブリモニジンと5%フェニレフリンの術前点眼で術中出血を軽減する。
- ドナー組織の採取:健側眼の上方輪部から約2mm(1時間幅)の輪部組織を採取する。クレセントナイフで透明角膜内1mmまで剥離し、輪部組織を切除する。結膜はフィブリン糊または縫合糸で元に戻す。採取組織は生理食塩水中で保存する。
- レシピエント眼の準備:360度の結膜切開を行い、角膜上の血管性パンヌスを丁寧に除去する。ヒト羊膜(基底膜面を上に)で角膜と露出強膜を覆い、フィブリン糊で固定する。
- 輪部小片の配置:採取した輪部組織を羊膜上でヴァンナス剪刀を用いて6〜10個の小片に分割する。小片を角膜中間周辺部に円状に配置し(上皮面を上に)、各小片上にフィブリン糊を1滴垂らす。瞳孔領域や輪部上に配置しないよう注意する。
- コンタクトレンズ装用:フィブリン糊の重合後、大口径コンタクトレンズを装用させ、抗菌薬・ステロイド点眼を行う。
4. 術後管理と成績
Section titled “4. 術後管理と成績”術後1日目、1週目、1か月目に診察し、以降は必要に応じてフォローアップする。コンタクトレンズは7〜10日間留置する。術後2週までに角膜表面の完全な上皮化が得られ、8週までに移植片の透明化が期待される。羊膜は数週間で溶解する。小児では上皮化・透明化が成人より早い。
系統的レビューにおけるSLETの成績は以下の通りである2)。
| 術式 | 解剖学的成功率 | 機能的成功率 |
|---|---|---|
| SLET | 78% | 68.6% |
| CLAu | 81% | 74.4% |
| CLET | 61.4% | 53% |
SLETとCLAuの成績は同等であり、いずれもCLETより有意に良好であった(解剖学的成功 p=0.0048、機能的成功 p≤0.0001)2)。SLETとCLAuの機能的成功率の差は統計学的に有意ではなかった(p=0.27)2)。ドナー眼において重篤な有害事象は報告されていない2)。
系統的レビューでは解剖学的成功率(安定した上皮化角膜表面)78%、機能的成功率(最高矯正視力〔BCVA〕2段階以上の改善)68.6%と報告されている2)。CLAu(81%/74.4%)と同等であり、CLET(61.4%/53%)より有意に良好であった2)。
5. 合併症と限界
Section titled “5. 合併症と限界”- 羊膜下出血:術後早期の最も一般的な合併症である。羊膜の脱落・転位の原因となる。
- LSCD再発(結膜化の再発):最も多く報告されている晩期合併症である2)。SLET 4研究で局所的LSCD再発が報告されている2)。
- 持続性角膜上皮欠損:まれに穿孔や感染性角膜炎に至ることがある2)。
- 感染性角膜炎:術後免疫抑制状態での二次感染として生じうる2)。
失敗に関連する因子
Section titled “失敗に関連する因子”酸外傷、重度の瞼球癒着、角膜移植術との併用、術後の移植片喪失が失敗と関連する。
SLETの限界
Section titled “SLETの限界”CLETのようにドナー細胞の温存ができないこと、フィブリン糊と羊膜のコスト・入手性が制限要因となりうることが挙げられる2)。結膜病変が軽度の症例にはSLET、重度の瞼球癒着を伴う症例にはCLAuが推奨される2)。
6. 病態生理学・作用機序
Section titled “6. 病態生理学・作用機序”輪部幹細胞の生物学
Section titled “輪部幹細胞の生物学”角膜上皮幹細胞は輪部のVogt柵に存在する1)。これらの幹細胞は求心性に移動しながら基底上皮細胞に分化し、増殖して表層に向かい最終的に脱落する1)。輪部は結膜上皮の角膜への侵入を防ぐバリアとしても機能する1)。
LSCDでは部分的または完全に角膜上皮が結膜上皮に置換される1)。残存する輪部幹細胞がわずか7%でも、現代の外科的手技により角膜上皮を再生させることが可能とされている1)。
SLETの作用機序
Section titled “SLETの作用機序”SLETでは少量の輪部組織を小片に分割して角膜上に配置し、各小片からin vivoで幹細胞が増殖・遊走して角膜上皮を再生する。羊膜は幹細胞の増殖を促進する足場として機能し、炎症抑制作用も有する。フィブリン糊は小片と羊膜を固定するとともに、生理的な足場としても作用する。
輪部移植術の発展
Section titled “輪部移植術の発展”輪部幹細胞移植(LSCT)は3つの術式が発展してきた2)。1989年にKenyonとTsengがCLAuを報告し、1997年にPellegriniらがCLETを報告した2)。2012年にSangwanらがSLETを報告し、CLETの培養工程をin vivoでの増殖に置き換えることで手技を簡略化した2)。
輪部幹細胞には自己複製能と分化能がある1)。SLETでは輪部組織を小片に分割して広い範囲に分散配置することで、各小片からの幹細胞が同時に増殖・遊走して角膜表面を被覆する。羊膜が幹細胞の増殖に適した環境を提供することで、わずか2mm程度の輪部組織から角膜全体の上皮再生が可能となる。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Jennifer C. W. Hu, Danielle Trief. A narrative review of limbal stem cell deficiency & severe ocular surface disease. Ann Eye Sci. 2023;8:13-13. doi:10.21037/aes-22-35.
- Shanbhag SS, Nikpoor N, Rao Donthineni P, Singh V, Chodosh J, Basu S. Autologous limbal stem cell transplantation: a systematic review of clinical outcomes with different surgical techniques. The British journal of ophthalmology. 2020;104(2):247-253. doi:10.1136/bjophthalmol-2019-314081. PMID:31118185.
- Sharma N, Venugopal R, Mohanty S, Priyadarshini K, Nagpal R, Singhal D, et al. Simple limbal epithelial transplantation versus cultivated limbal epithelial transplantation in ocular burns. Ocul Surf. 2024;34:504-509. PMID: 39442877.