眼科検査
瞼球癒着
1. 瞼球癒着とは
Section titled “1. 瞼球癒着とは”瞼球癒着(symblepharon)は、球結膜と瞼結膜が互いに異常な癒着を形成する病態である。1892年にFuchsにより初めて記載された1)。ほとんどの症例は後天性であるが、潜眼症(cryptophthalmos)に伴う先天性の報告もある。
原因は多岐にわたる。球結膜と瞼結膜の上皮欠損が持続し、それに炎症反応が加わることで癒着が生じる。代表的な原因疾患を以下に示す。
| 分類 | 原因疾患 |
|---|---|
| 外因性 | 化学外傷、熱傷、手術外傷 |
| 免疫介在性 | Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症、眼類天疱瘡、移植片対宿主病 |
| 感染性 | トラコーマ、流行性角結膜炎 |
化学外傷は最も頻度の高い原因の一つであり、重症眼表面熱傷の最大18%に瞼球癒着が発生する3)。Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症後の重症眼合併は全体の4〜11.1%に認められ、瞼球癒着はその慢性合併症として生じる1)。眼類天疱瘡では自己免疫機転により慢性結膜炎が持続し、瞼球癒着が徐々に進行する。この疾患の病期分類ではIII期が瞼球癒着に相当する。
眼瞼癒着(ankyloblepharon)は上下眼瞼が瞼縁に沿って互いに癒着した状態であり、先天性のankyloblepharon filiforme adnatumや外傷・炎症による後天性のものがある。一方、瞼球癒着は球結膜と瞼結膜の癒着であり、両者は解剖学的に異なる病態である。ただし瞼球癒着が高度になると二次的に眼瞼癒着を生じることがある。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
- 異物感:初期には軽微であるが、進行に伴い持続する。
- ドライアイ感・灼熱感:円蓋部短縮による涙液貯留の減少に起因する。
- 視力低下:癒着が角膜上に進展した場合に生じる。
- 開瞼不全:高度の癒着により瞼裂が縮小する。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”- 結膜円蓋部の短縮・消失:瞼結膜と球結膜の癒着により円蓋部が浅くなる。涙液貯留量が減少し、瞬目機能が障害される。
- 眼球運動障害:癒着による機械的制限で外眼筋運動が制限される。複視を生じることがある。
- 瘢痕性眼瞼内反:瞼結膜の瘢痕収縮により睫毛が眼表面に接触する。
- 角膜上への癒着進展:結膜組織が輪部を越えて角膜上に侵入し、視軸を遮る。
- 眼表面の角化:円蓋部消失による慢性的な乾燥が角質化を招く。
瞼球癒着の重症度はKheirkhahの分類が用いられることがある4)。Grade I(瞼結膜と球結膜間の線状癒着)からGrade IV(円蓋部の完全消失)まで分類される。SJS後の重症例ではGrade IVc3+に達することがある1)。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”瞼球癒着は結膜上皮が広範に障害される病態に続発して生じる。
- 化学外傷:アルカリは脂溶性のため組織深部まで浸透し、酸より重症化しやすい2)。花火による化学外傷も原因となる4)。
- Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症:急性期の偽膜形成に続く慢性炎症により瞼球癒着が進行する1)。SJS後30〜50%の患者に慢性的な眼異常が残存する1)。
- 眼類天疱瘡:結膜の瘢痕性変化がI〜IV期に進行し、III期で瞼球癒着を生じる。
- 慢性移植片対宿主病(GVHD):骨髄移植後の慢性偽膜性結膜炎から瞼球癒着に至る。
- トラコーマ:慢性結膜炎による結膜の瘢痕化が原因となる。
- 手術外傷:翼状片手術後の再発性偽翼状片、緑内障手術後などでも生じうる。
若年であること、自己免疫疾患の合併、眼科手術の既往が再発のリスク因子となる3)。
急性期の徹底的な洗浄と消炎が基本である。抗菌眼軟膏の頻回塗布(1日4回)で結膜面間の潤滑を維持し、ステロイド点眼・内服で炎症を抑制する。広範囲の結膜上皮欠損がある場合は早期に羊膜移植を行い、治療用コンタクトレンズやコンフォーマを装用させることで癒着形成を防止する。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”全身検査
原因疾患の鑑別:Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症や化学外傷は既往歴から判断する。中高年女性で外傷・手術既往がなく両眼性の慢性結膜炎と瞼球癒着を認めた場合、眼類天疱瘡を第一に考える。
自己免疫検査:眼類天疱瘡が疑われる場合は結膜生検による免疫組織化学検査を検討する。
瞼球癒着は診察所見であり、その原因疾患の鑑別が重要である。偽翼状片は角膜外傷や周辺部角膜潰瘍の修復過程で結膜組織が角膜に侵入するが、瞼球癒着とは病態が異なる。眼類天疱瘡と偽眼類天疱瘡の鑑別は、全身症状の有無と抗緑内障点眼薬の長期使用歴で行う。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”保存的治療(予防・軽症例)
Section titled “保存的治療(予防・軽症例)”急性期の瞼球癒着予防として、抗菌眼軟膏を1日4回塗布し結膜面間の潤滑を維持する。炎症抑制にステロイド点眼(0.1%フルオロメトロンまたは0.1%ベタメタゾン)を併用する。広範囲の結膜上皮欠損には治療用ソフトコンタクトレンズやコンフォーマを装用させる。人工涙液の頻回点眼でドライアイ症状を管理する。
眼類天疱瘡では免疫抑制薬(シクロスポリン、シクロホスファミド)の内服やステロイド内服による原疾患の制御が必要である。消炎せずに手術を行うと術後に癒着・角化が急激に進行する。
癒着による瞼裂の変形・眼球運動障害・視力低下をきたした場合に手術適応となる。手術の基本は癒着組織の剥離・除去と、露出した強膜面への組織移植である。
羊膜移植
適応:軽度〜中等度の瞼球癒着。円蓋部再建において上皮細胞の遊走・接着・分化を促進し、抗炎症・抗線維化作用も有する2)。
限界:重症例では残存する結膜上皮細胞が不足し、再発率が6〜40%と高い4)。Case 2では羊膜移植後8年間で7回の再発を認めた3)。
口腔粘膜移植
適応:重症の瞼球癒着。採取が容易で十分な組織量を確保できる。杯細胞を含むためムチン分泌による涙膜改善効果がある4)。
成績:7眼に口腔粘膜自家移植を強膜に縫着し、3年間再発なし4)。KPro前のCase 1でもOMAU後2年間再発なし3)。
Martinez-Osorioら(2021)は重症瞼球癒着7眼に対し口腔粘膜自家移植(OMAU)を強膜に縫着する手法を実施した。全例でOMAUの完全な生着と解剖学的な円蓋部の回復が得られ、3年間の追跡で再発は認められなかった4)。
Kateら(2022)はKPro前の瞼球癒着管理において、OMAUを使用した症例(Case 1)では2年間再発なしであった一方、羊膜移植を使用した症例(Case 2)では8年間で7回の再発を認めた。両眼性病変でも口腔粘膜は対側眼結膜に依存しない利点がある3)。
その他の手術手技として、Z形成術や対側眼からの結膜移植による結膜囊形成術がある。ただし涙腺や結膜が高度に障害されて涙液分泌がない場合、粘膜移植は無効であることが多い。
急性期の羊膜移植(化学外傷)
Section titled “急性期の羊膜移植(化学外傷)”Lamら(2023)はアルカリ外傷後の35歳男性に対し、大型(5cm×10cm)の外縫合式羊膜とカスタム瞼球癒着防止リング(静脈輸液チューブで作成)を使用した。術後4か月で角膜上皮欠損は消失し、視力は20/25に改善した2)。
Gore-texの使用
Section titled “Gore-texの使用”Venugopalら(2022)はGrade 4の化学外傷による瞼球癒着に対し、瞼球癒着解除・羊膜移植に加えてGore-texシートを円蓋部に留置する手法を報告した。Gore-texは癒着の再発を物理的に防止する障壁として機能する5)。
羊膜移植は上皮細胞の遊走を促進する優れた基質であるが、重症例では残存する結膜上皮細胞が不足するため上皮化が完了せず再発しやすい。口腔粘膜移植は上皮層を直接移植するため、結膜と同等の上皮で露出強膜を被覆できる。杯細胞を含むためムチン分泌にも寄与する。また両眼性病変でも下唇から十分量を採取できる利点がある3)4)。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”結膜上皮の損傷と異常治癒
Section titled “結膜上皮の損傷と異常治癒”瞼球癒着は結膜上皮の広範な損傷後に生じる異常な創傷治癒の結果である。球結膜と瞼結膜の両面から上皮細胞が失われると、露出した結合組織同士が接触し線維性癒着が形成される。この過程には炎症反応が不可欠であり、炎症細胞浸潤と線維芽細胞の活性化が癒着の成熟を促進する。
線維化と再発のメカニズム
Section titled “線維化と再発のメカニズム”癒着組織にはTGF-βシグナルの上方制御が認められ、結膜下の線維芽細胞反応が促進される3)。癒着部には筋線維芽細胞が存在し、瘢痕組織の収縮に関与する4)。このため手術で癒着を解除しても、残存する線維化傾向により再発が生じやすい。
手術後の再発防止には、瘢痕組織とテノン囊を十分に切除して強膜を露出させ、口腔粘膜や結膜移植片で隙間なく被覆することが重要である4)。術前3か月間と術後のステロイド投与による炎症制御も予後を改善する4)。
癒着解除後の露出した強膜面に十分な上皮化が得られないと、球結膜と瞼結膜の結合組織が再び接触し癒着が再形成される。TGF-βシグナルの上方制御による線維芽細胞反応の亢進と、筋線維芽細胞による瘢痕収縮が再発を促進する3)4)。重症例では結膜上皮の幹細胞も減少しているため、自力での上皮再生が困難になる。
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”瞼球癒着の外科的治療では、移植組織の選択と再発防止策が研究の中心である。
Martinez-Osorioら(2021)は口腔粘膜自家移植を強膜に直接縫着する手法で7眼全例に解剖学的成功を達成し、36〜44か月の追跡で再発を認めなかった4)。OMAUは過去に再発翼状片に使用されていた古い手技であるが、近年その有用性が再評価されている。
Kateら(2022)はKPro前の段階的アプローチを報告し、OMAUが羊膜移植より長期的に優れた成績を示した3)。角膜輪部疲弊症を伴う重症例では、瞼球癒着解除→眼表面安定化→KProまたは角膜輪部移植という段階的戦略が推奨される。
Venugopalら(2022)はGore-texシートを円蓋部に留置する新たな手法を報告した5)。Gore-texは術後の結膜再癒着を物理的に阻止する障壁として機能し、翼状片再発予防での使用実績がある。
培養角膜輪部幹細胞移植や培養口腔粘膜上皮シート移植など、再生医療的手法も重症例への応用が期待されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Wibowo E, Maharani RV, Sutikno NA. Symblepharon as Ocular Manifestation Post Stevens-Johnson Syndrome: A Rare Case. Romanian journal of ophthalmology. 2024;68(4):466-469. doi:10.22336/rjo.2024.84. PMID:39936062; PMCID:PMC11809831.
- Lam SS, Sklar BA, Schoen M, Rapuano CJ. Severe ocular alkali injury managed with an externally sutured amniotic membrane and customized symblepharon ring. Taiwan journal of ophthalmology. 2023;13(1):101-105. doi:10.4103/2211-5056.362597. PMID:37252174; PMCID:PMC10220433.
- Kate A, Doctor MB, Shanbhag SS. Management of Symblepharon Prior to Keratoprosthesis in Chronic Ocular Burns: A Sequential Approach. Cureus. 2022;14(4):e24611. doi:10.7759/cureus.24611.
- Martinez-Osorio H, Schellini SA, Marin-Muñoz LS. Long-term follow up of oral mucosa autograft sutured to the sclera in severe symblepharon. Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;23:101099. doi:10.1016/j.ajoc.2021.101099.
- Venugopal A, Ravindran M. Gore-tex a magic sheet for symblepharon prevention! Indian J Ophthalmol. 2022. DOI:10.4103/ijo.IJO_515_22.