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緑内障

緑内障の薬物治療・点眼薬の総合解説(Glaucoma Drug Therapy)

緑内障は進行性の視神経症であり、唯一の修正可能なリスク因子は眼圧である1)3)。現在の薬物療法は眼圧下降を目的とし、視神経障害の進行を抑制する。

慢性緑内障に対してはまず薬物療法を行うが、必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることが原則である。生涯にわたり点眼治療を継続することが前提となるため、「単剤から治療を開始し、可能な限り2剤までの併用でとどめる」ことが治療の基本的な考え方である。

緑内障点眼薬は房水産生を抑制するか、房水流出を促進することで眼圧を下降させる1)2)3)

作用機序薬剤クラス
房水流出促進(副経路)PGA(FP受容体作動薬)・EP2受容体作動薬
房水流出促進(主経路)ROCK阻害薬・縮瞳薬
房水流出促進(主経路+副経路)EP2受容体作動薬
房水産生抑制β遮断薬・CAI・α₂作動薬
房水産生抑制+流出促進α₂作動薬・α₁β遮断薬

眼圧下降作用が最も強く全身副作用の少ないプロスタグランジン関連薬(PGA)が第一選択となる1)2)3)。効果不十分な場合はβ遮断薬を追加し、さらにCAI・α₂作動薬・ROCK阻害薬のいずれかを追加する。高眼圧症の薬物治療もPOAGと同様のステップを踏むが、個々のリスク因子を考慮して治療開始の要否を判断する4)

多治見スタディによると、40歳以上の緑内障有病率は5.0%であり、そのうちの約7割は正常眼圧緑内障である1)原発開放隅角緑内障(広義)の有病率は3.9〜4.0%と報告されている。2020年時点で世界のPOAG患者は約5,300万人と推定される3)

慢性疾患で自覚症状に乏しい緑内障においては、点眼治療のアドヒアランスがきわめて不良であることが明らかになっている。初回緑内障点眼薬処方患者は治療開始約1年でその多くが脱落する1)。アドヒアランス向上には治療レジメンの簡素化(点眼回数の少ない製剤や配合剤の選択)、患者教育、効果的なコミュニケーションが推奨される2)

緑内障薬物治療は、ピロカルピン(副交感神経作動薬)が最初の点眼薬として長年使用されてきたことに始まる。1970年代にチモロール(β遮断薬)が登場し、全身副作用の問題がありつつも第一選択薬として広く使用された。1990年代にラタノプロスト(PGA)が承認されて以降、その強力な眼圧下降効果と1日1回投与の利便性により第一選択薬の座はPGAに移行した。2014年にはリパスジル(ROCK阻害薬)が世界に先駆けて承認され、2018年にはオミデネパグ イソプロピル(EP2受容体作動薬)が承認されるなど、薬剤の選択肢は拡大を続けている。

Q 緑内障の目薬は一生続ける必要がありますか?
A

原発開放隅角緑内障は慢性進行性の疾患であり、原則として点眼治療は生涯にわたって継続する必要がある。眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく治療であり、点眼中断により眼圧が上昇し視神経障害が進行するリスクがある。初回処方後約1年で多くの患者が脱落するとのデータがあり、アドヒアランスの維持がきわめて重要である。配合点眼薬の活用や正しい点眼法の習得が継続のために有効である。

薬物治療の対象となる主な病態は以下のとおりである。

治療開始前に眼圧隅角・眼底・視野などのベースラインデータを十分に把握しておくことが重要である1)

緑内障の病期目標眼圧
初期19mmHg以下
中期16mmHg以下
後期14mmHg以下

無治療時眼圧からの20〜30%の眼圧下降を目標として設定することも推奨される(2B)1)

目標眼圧は絶対的なものではない。目標眼圧を達成していても速やかに進行する例もあれば、目標眼圧を達成していなくとも進行しない、あるいはきわめて進行の緩やかな症例もある1)。十分な眼圧下降治療を行っても特に後期例では進行する例があるため、早期発見・早期治療が大切である(1A)1)

高眼圧症においては、中心角膜厚の薄さ、垂直C/D比の大きさ、高齢、高い眼圧値が緑内障への転化リスク因子とされ、これらを総合的に判断して治療開始を決定する4)

眼圧房水産生と房水流出のバランスで決定される。房水の排出経路には主経路と副経路がある。

  • 主経路(線維柱帯流出路)線維柱帯シュレム管 → 集合管 → 上強膜静脈。全房水流出の約80〜90%を担う
  • 副経路(ぶどう膜強膜流出路隅角虹彩根部 → 毛様体筋 → 上ぶどう膜腔 → 強膜・ぶどう膜

緑内障点眼薬はこれらの経路への作用により、房水産生の抑制または房水流出の促進を介して眼圧を下降させる1)2)

開放隅角緑内障では主に主経路における流出抵抗の増大が眼圧上昇の原因と考えられている。加齢に伴う線維柱帯の変性・細胞減少・細胞外マトリックスの蓄積がシュレム管への房水流入を妨げる。副経路は加齢の影響を比較的受けにくいため、PGAが副経路を促進しても眼圧下降効果が減弱しにくい。一方、ROCK阻害薬は主経路の流出抵抗の主座に直接作用するため、病態機序に即した治療薬として注目されている。

多くの緑内障点眼薬に防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)が含まれている。BAKは長期使用により角膜上皮障害・結膜上皮障害・ドライアイ様症状を惹起する2)。複数の点眼薬を併用する緑内障患者はBAK暴露量が増加するため、眼表面障害のリスクが高まる。

防腐剤フリー製剤(タプロス®ミニ、アイファガン®など)やBAK以外の防腐剤を使用した製剤の選択は、眼表面障害のある患者において特に重要である。将来的に濾過手術が必要となる可能性がある患者では、術前からの眼表面の維持が手術成功率に影響するとされている2)

点眼薬の導入にあたっては、ベースライン眼圧を把握したうえで片眼にのみ投与し、点眼時間と眼圧測定時間の関係を考慮して眼圧下降効果と早期の副作用を判定する(片眼トライアル)。効果を確認したのち両眼への投与を開始することが望ましい(2C)1)

  • 片眼に4〜6週間投与し、眼圧下降幅と副作用を確認する
  • 非投与眼との比較により薬剤の効果を客観的に評価できる
  • 効果不十分と判定した場合は薬剤の変更(スイッチング)を検討する
  • 追加投与(ステップアップ)の場合も同様に効果を再評価する
Q 片眼トライアルとは何ですか?
A

片眼トライアルとは、緑内障点眼薬の導入時に片眼にのみ投与して効果と副作用を確認する方法である。ベースライン眼圧を把握した上で、片眼に4〜6週間投与し、非投与眼と比較して眼圧下降効果を客観的に判定する。効果が確認された後に両眼への投与を開始する。緑内障診療ガイドライン第5版では推奨度2Cとされている1)

プロスタノイド受容体関連薬(第一選択)

Section titled “プロスタノイド受容体関連薬(第一選択)”

FP受容体作動薬は経ぶどう膜強膜流出路(副経路)の房水流出を促進することで眼圧を下降させる1)2)3)。マトリックスメタロプロテアーゼの調節変化を通じて細胞外マトリックスの再構築と流出路の透過性向上が生じる。眼圧下降効果は全薬剤クラス中最強であり、約25〜35%の下降が得られる1)2)。1日1回(夜間推奨)の投与で24時間効果が持続する。

承認されているFP受容体作動薬の一覧を以下に示す。

一般名先発品名濃度点眼回数
ラタノプロストキサラタン®0.005%1回/日
タフルプロストタプロス®・タプロス®ミニ0.0015%1回/日
トラボプロストトラバタンズ®0.004%1回/日
ビマトプロストルミガン®0.03%1回/日
イソプロピルウノプロストンレスキュラ®0.12%2回/日

ラタノプロスト(キサラタン®)0.005%が最も広く使用されている。タフルプロスト(タプロス®ミニ)は防腐剤フリーのユニットドーズ製剤であり、眼表面障害を有する患者に有用である。

PGAの主な副作用

  • 結膜充血:最も一般的な副作用の一つ
  • 睫毛の異常:伸長・太化・増加
  • 眼瞼皮膚の色素沈着:点眼後の涙嚢部圧迫と皮膚付着薬液の拭き取りで軽減可能
  • 上眼瞼溝深化(DUES):PGA関連眼窩周囲症(PAP: prostaglandin associated periorbitopathy)の一表現1)
  • 虹彩色素沈着:メラノソーム数の増加による変化。不可逆的であるため投与前の説明が必須
  • 角膜上皮障害:防腐剤(BAK)による
  • 嚢胞様黄斑浮腫白内障術後の投与時に注意が必要3)

白内障術後眼への投与で嚢胞様黄斑浮腫虹彩炎ぶどう膜炎の存在下での眼圧上昇、角膜ヘルペスの再燃の報告があり、これらの疾患を有する場合は慎重投与となる。

67,517人を対象とした多施設データベース研究(SOURCE研究)では、PGA使用後3ヶ月以内のぶどう膜炎発生率は0.32%であり、β遮断薬(1.95%)・α作動薬(1.63%)・CAI(1.68%)よりも有意に低かった6)。PGAの使用はぶどう膜炎リスクの増加とは関連しないことが示されている6)

EP2受容体選択性作動薬(エイベリス®)

Section titled “EP2受容体選択性作動薬(エイベリス®)”

FP受容体作動薬

作用経路:経ぶどう膜強膜流出路(副経路)を促進

代表薬:ラタノプロスト 0.005%、タフルプロスト 0.0015%

眼圧下降:約25〜35%(最強クラス)

主な副作用虹彩色素沈着(不可逆)、DUES、睫毛変化、眼瞼色素沈着

オミデネパグ イソプロピルエイベリス®)は2018年9月に承認されたEP2受容体選択性作動薬である1)。プロスタグランジンのFP受容体ではなくEP2受容体に結合し、ぶどう膜強膜流出路線維柱帯路の双方に作用する。FP受容体作動薬が効かない症例にも効果があるとの報告がある。

眼圧下降効果はラタノプロストに非劣性とされる1)。約25%の症例で結膜充血がみられるが、睫毛の異常や眼瞼皮膚の色素沈着は起きない。

重要な禁忌・注意事項

  • 眼内レンズ挿入眼には禁忌眼内レンズ挿入眼の半数で黄斑浮腫がみられたため白内障術後には使用できない1)
  • タフルプロストとの併用は禁忌
  • FP受容体作動薬との併用も推奨されていない1)

β遮断薬毛様体上皮のβ受容体を遮断して房水産生を減少させ、眼圧を約20〜25%下降させる2)3)

承認されているβ遮断薬の一覧を以下に示す。

一般名先発品名濃度点眼回数
チモロールマレイン酸塩チモブトール®0.25%, 0.5%2回/日
チモロールマレイン酸塩(持続型)チモブトールXE®、リズモンTG®0.25%, 0.5%1回/日
カルテオロール塩酸塩ミケラン®1%, 2%2回/日
カルテオロール塩酸塩(持続型)ミケランLA®1%, 2%1回/日
ベタキソロール塩酸塩(β₁選択性)ベトプティック®エス0.25%2回/日

チモロールマレイン酸塩が最も広く使用されている。夜間投与は効果が限定的であり、夜間の血圧低下を介して視野進行に寄与する可能性がある3)

カルテオロール vs チモロール:カルテオロール塩酸塩はβ受容体拮抗作用に加えてα₂受容体に対する刺激作用を有し、全身副作用が軽いとされる。チモロールに比較して角膜上皮障害が少なく、水溶性であるため中枢性副作用(うつ症状など)が起きにくい。

β₁選択性遮断薬(ベタキソロール)眼圧下降効果は非選択性β遮断薬より劣るが、禁忌がコントロール不良な心不全に限られるため、非選択性β遮断薬が禁忌の患者に対する代替選択肢となる。血圧低下に注意が必要である。

毛様体上皮の炭酸脱水酵素を阻害して房水産生を減少させる1)2)

点眼CAI

  • ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト®):0.5%・1%、1日3回。眼内移行を良くするため粘弾性剤を添加している
  • ブリンゾラミド(エイゾプト®):1%、1日2〜3回。懸濁液であるため点眼後の刺激感・べたべた感・霧視がみられる

いずれも眼圧を約15〜20%下降させる。重篤な腎障害は禁忌であり、高度の角膜内皮障害には慎重投与となる。

内服CAI(アセタゾラミドダイアモックス®):急性眼圧上昇の短期管理に用いられるが、代謝性アシドーシス・感覚異常・倦怠感などの全身副作用が頻度も高い。長期継続には向かず、内服が必要な症例は手術適応と考える1)

α₂作動薬(交感神経α₂受容体作動薬)

Section titled “α₂作動薬(交感神経α₂受容体作動薬)”

α₂アドレナリン受容体作動薬は房水産生抑制と経ぶどう膜強膜流出促進の二重作用で眼圧を約20〜25%下降させる2)3)

  • ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン®):0.1%、1日2回。防腐剤としてBAKではなく亜塩素酸ナトリウムを使用しているためBAKフリーである
  • アプラクロニジン塩酸塩(アイオピジン®UD):1%、レーザー施術前後の一過性眼圧上昇予防に限定使用

禁忌:低出生体重児・新生児・乳児・2歳未満の幼児への使用。CNS抑制作用のため傾眠・無呼吸のリスクがある3)

副作用の特徴アレルギー性結膜炎眼瞼炎が10〜25%にみられ、使用直後ではなく3ヶ月以上経ってから出現するのが特徴的である。全身吸収による起立性低血圧・めまい・眠気・徐脈にも注意を要する。

ROCK阻害薬(Rhoキナーゼ阻害薬)

Section titled “ROCK阻害薬(Rhoキナーゼ阻害薬)”

ROCK阻害薬線維柱帯細胞・細胞外マトリックス・シュレム管内皮細胞に作用し、主経路(線維柱帯流出路)からの房水流出を直接促進する1)房水流出路の主経路をターゲットとした全く新しいクラスの薬剤であり、今後の位置づけに注目される1)

  • リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック®):0.4%、1日2回。2014年に世界で初めて承認された

副作用の特徴:点眼後の結膜充血は約90分間で消失するが、プロスタグランジン関連薬と異なり点眼を続けていても充血が消失することはない。投与後2時間で最大の眼圧下降効果が得られる。結膜炎眼瞼炎がみられることもある。

配合点眼薬を使用することにより、点眼薬数・点眼回数を増やすことなく複数の薬剤を使用でき、アドヒアランスの維持に有利である(1B)1)。2成分含有の配合製剤のみが存在する1)

主な配合点眼薬を以下に示す。

先発品名成分点眼回数
ザラカム®ラタノプロスト 0.005% + チモロール 0.5%1回/日
タプコム®タフルプロスト 0.0015% + チモロール 0.5%1回/日
デュオトラバ®トラボプロスト 0.004% + チモロール 0.5%1回/日
コソプト®ドルゾラミド 1% + チモロール 0.5%2回/日
アゾルガ®ブリンゾラミド 1% + チモロール 0.5%2回/日
ミケルナ®カルテオロール 1% + ラタノプロスト 0.005%2回/日

PGA+チモロール配合剤は、理論上チモロールの効果が本来の2回/日から1回/日に減少するように思われるが、点眼を忘れがちな患者では配合剤に変更したほうが治療効果は向上する。

重要な注意点:現在処方できる配合剤にはすべてβ遮断薬が含まれている。したがってβ遮断薬の禁忌疾患(気管支喘息・COPD・心不全・徐脈・房室ブロック等)を有する患者には配合剤も使用できない。

  • α₁遮断薬(ブナゾシン塩酸塩、デタントール®):副経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させる。β遮断薬より眼圧下降効果は劣るが全身副作用がない。術中虹彩弛緩症候群(IFIS)を引き起こすことがあるため、白内障手術前にこの薬剤の使用歴を確認することが重要
  • 縮瞳薬(ピロカルピン塩酸塩)毛様体筋を収縮させ房水流出抵抗を減らして眼圧を下降させる。縮瞳による暗所視力低下・近視化の副作用がある。現在は閉塞隅角緑内障の急性発作時に使用される以外はほとんど使われない

緑内障薬物治療の段階的アプローチは以下のとおりである。

  • ステップ1:PGA(FP受容体作動薬)単剤で開始。第一選択はラタノプロスト(キサラタン®)0.005% 1日1回。PGAが使えない場合(禁忌・副作用不耐・局所副作用への不同意など)は他のクラスから開始
  • ステップ2(単剤で目標眼圧達成不十分な場合)β遮断薬の追加。β遮断薬禁忌の場合はCAI・α₂作動薬・ROCK阻害薬のいずれか
  • ステップ3(2剤でも不十分な場合):配合剤への変更または第3の薬剤追加。3剤併用でも不十分な場合は手術を検討する

高齢者やβ遮断薬の全身副作用が危惧される症例では、PGAに続いてCAI・α₂作動薬・ROCK阻害薬から選択する1)

正常眼圧緑内障NTG)の薬物治療も第一選択はPGAであり、次いでβ遮断薬やCAIを用いる。無治療時眼圧から20〜30%の下降を目標とし、点眼で十分な効果が得られない場合は手術療法を行う。

遅発型発達緑内障では、眼瞼周囲の色素沈着などの副作用を考慮してβ遮断薬の使用から開始する場合がある。ただし視神経・視野障害が軽度であっても眼圧が25mmHgを超える場合には最初からPGA(ラタノプロスト)を使用する。

緑内障は自覚症状に乏しい慢性疾患であるため、薬物治療の継続(アドヒアランス)が臨床上の大きな課題である1)2)。以下の対策が推奨される。

  • 治療レジメンの簡素化:点眼回数の少ない製剤(1日1回製剤)や配合剤の活用
  • 患者教育:疾患の進行性と不可逆性、治療の目的(眼圧下降による進行抑制)を十分に説明する
  • コミュニケーション:オープンな質問で患者の状況を把握し、アドヒアランス不良の原因を特定する
  • リマインダー:アラーム・メッセージ・点眼アプリの活用
  • 副作用への対応:副作用が出現した場合は速やかに薬剤を変更し、中断を防ぐ

配合点眼薬の使用は特にアドヒアランス向上に有効である(1B)1)。点眼薬数と点眼回数の減少により患者の負担が軽減されるだけでなく、逐次点眼による「洗い流し効果」が排除されるため、別々に投与するより良好な眼圧制御が得られる場合がある。

Q PG関連薬の副作用で眼の周りが黒くなると聞きましたが、やめたら戻りますか?
A

眼瞼皮膚の色素沈着は多くの場合、中止後に改善する傾向がある。一方、虹彩色素沈着はメラノソーム数の増加による変化であり不可逆的である。DUES(上眼瞼溝深化)や睫毛の変化は中止により改善する傾向がある。色素沈着の予防には、点眼後の涙嚢部圧迫と皮膚に付着した薬液の拭き取りが有効である。これらの副作用については投与前に十分な説明を行い、患者の同意を得ることが求められる。

Q ROCK阻害薬はどのような位置づけですか?
A

ROCK阻害薬線維柱帯網とシュレム管を介した主経路流出を直接促進する新しいクラスの緑内障治療薬である。リパスジル(グラナテック®)が2014年に世界で最初に承認された。現時点では第一選択薬ではなく、PGAやβ遮断薬による治療で目標眼圧に達しない場合の追加薬として使用されることが多い。他の薬剤クラスとは異なる作用点(主経路の直接的流出促進)を持つ点が特徴的である。

6. 病態生理学・各薬剤クラスの作用機序の詳細

Section titled “6. 病態生理学・各薬剤クラスの作用機序の詳細”

房水毛様体無色素上皮から1日約2〜3μLの速度で産生され、主に2つの経路で流出する7)

主経路(線維柱帯流出路)では、房水線維柱帯網 → シュレム管 → 集合管 → 上強膜静脈を経て排出される7)。全房水流出の80〜90%を担う圧依存性の経路である。副経路(ぶどう膜強膜流出路)では、房水毛様体筋の間隙を通って脈絡膜上腔へ流出する。全房水流出の10〜20%を担う圧非依存性の経路である。

薬剤クラス主な眼圧下降機序眼圧下降率
FP受容体作動薬(PGA)経ぶどう膜強膜流出促進25〜35%
EP2受容体作動薬経ぶどう膜強膜流出+線維柱帯路流出促進ラタノプロストに非劣性
β遮断薬房水産生抑制20〜25%
CAI(点眼)房水産生抑制15〜20%
α₂作動薬房水産生抑制+経ぶどう膜強膜流出促進20〜25%
ROCK阻害薬線維柱帯路流出促進(直接)主に追加効果
α₁β遮断薬房水産生抑制+副経路流出促進β遮断薬と同等
ピロカルピン線維柱帯路流出促進(間接・縮瞳)15〜25%

PGA(FP受容体作動薬)はプロスタグランジンF₂α誘導体であり、毛様体筋の細胞外マトリックスを再構築することで副経路の透過性を向上させる2)3)。EP2受容体作動薬は副経路に加えて線維柱帯の弛緩・シュレム管の拡張による主経路の流出促進も有し、二重の流出促進機序を持つ1)

β遮断薬毛様体上皮のβ₂アドレナリン受容体を遮断し、cAMPの産生を抑制することで房水産生を減少させる2)3)。CAIは毛様体上皮の炭酸脱水酵素II型を阻害し、重炭酸イオンの輸送を抑制して房水産生を減少させる。

ROCK阻害薬線維柱帯細胞のアクチン-ミオシン系を弛緩させ、シュレム管内皮細胞のバリア機能を調節することで、主経路からの房水流出抵抗を直接的に低下させる1)。他の薬剤クラスが主に副経路や房水産生に作用するのに対し、ROCK阻害薬緑内障における流出抵抗の主座である線維柱帯に直接作用する点で独自の位置を占める。

α₂作動薬(ブリモニジン)は房水産生の抑制と副経路からの流出促進の二重作用を有する。また、ブリモニジンについてはLow-pressure Glaucoma Treatment Study(LoGTS)において、チモロールと比較してブリモニジン群で視野進行が有意に少なかった(9.1% vs 39.2%)との報告があり、眼圧非依存的な神経保護効果が示唆されている7)。ただし現時点では神経保護効果を目的とした治療は確立されていない2)

α₁β遮断薬(ニプラジロール、ハイパジール®)は房水産生抑制と副経路からの流出促進の双方により眼圧を下降させる。眼圧下降効果はβ遮断薬と同等であり、全身禁忌もβ遮断薬と同じである。無水晶体眼や眼底疾患に長期投与すると黄斑浮腫を起こすことがあるため注意を要する。

薬剤選択にあたっては眼圧下降効果に加えて、以下の患者因子を総合的に考慮する。

  • 全身合併症:心疾患・呼吸器疾患があればβ遮断薬は回避
  • 眼局所の状態ドライアイ角膜上皮障害があれば防腐剤フリー製剤を優先。眼内レンズ挿入眼ではエイベリス®は禁忌
  • 年齢:小児ではα₂作動薬は禁忌。高齢者ではβ遮断薬の全身副作用に注意
  • アドヒアランス:点眼回数の多い薬剤は脱落リスクが高い。1日1回製剤や配合剤を積極的に選択
  • 美容上の懸念:PGAの眼瞼色素沈着・睫毛変化・DUESを受容できない場合はEP2受容体作動薬やβ遮断薬を検討
  • 費用:後発品(ジェネリック)の活用。ラタノプロストには後発品が存在する

選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)の一次治療としての台頭

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LiGHT試験の6年成績では、選択的レーザー線維柱帯形成術SLT)を一次治療とした群で69.8%の眼が追加の薬物療法や手術なしに目標眼圧を維持した5)

LiGHT試験(633名、6年追跡)では、SLT群と点眼群を比較した。SLT群では疾患進行がより少なく(19.6% vs 26.8%、P=0.006)、線維柱帯切除術の必要が有意に少なかった(13眼 vs 32眼、P<0.001)。白内障手術もSLT群で少なかった(57眼 vs 95眼、P=0.03)。重篤なレーザー関連合併症は認められなかった5)

欧州緑内障学会(EGS)およびAAOのガイドラインでは、SLT開放隅角緑内障高眼圧症の一次治療オプションとして推奨されている2)3)。アドヒアランスの問題がある患者や副作用で点眼継続が困難な症例では、SLTが有力な選択肢となる。

  • ラタノプロステンブノド:PGAと一酸化窒素(NO)供与体の二重作用を持つ。NO放出により線維柱帯網とシュレム管を弛緩させ、副経路に加えて主経路からの流出も増加させる。2017年にFDA承認済み
  • ネタルスジル/ラタノプロスト配合剤ROCK阻害薬とPGAの配合剤であり、主経路と副経路の両方に作用する。各単剤より優れた眼圧下降を示している。1日1回投与
  • 防腐剤フリー製剤の普及:長期使用による眼表面障害(角膜上皮障害・ドライアイ)の軽減。将来の緑内障手術の成功率にも影響するため眼表面の維持は重要
  • 持続放出型(徐放型)薬物送達システムの開発:毎日の点眼を不要にする持続放出製剤の開発が進行中
  • ROCK阻害薬の神経保護効果眼圧下降に加え、視神経乳頭血流の増加を介した神経保護効果が動物モデルで示されている。TGF-βの抑制を通じて線維芽細胞増殖と筋線維芽細胞分化を抑制するため、緑内障濾過手術後の瘢痕化抑制にも応用が期待される
  • 個別化治療に基づく最適な薬剤選択戦略の確立
Q レーザー治療(SLT)は点眼薬の代わりになりますか?
A

LiGHT試験の6年成績では、SLTを一次治療とした群の69.8%が追加の点眼薬や手術なしに目標眼圧を維持した。SLT群は点眼群と比較して疾患進行が少なく、線維柱帯切除術の必要性も有意に低かった。欧州緑内障学会とAAOSLTを一次治療オプションとして推奨している。ただしSLTはすべての症例に適応があるわけではなく、重症例やぶどう膜炎の既往がある場合は適応外となる。担当医と相談のうえ、個々の病態に応じた治療法を選択することが重要である。

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