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その他

超音波生体顕微鏡検査(UBM)(Ultrasound Biomicroscopy)

1. 超音波生体顕微鏡検査(UBM)とは

Section titled “1. 超音波生体顕微鏡検査(UBM)とは”

超音波生体顕微鏡(Ultrasound Biomicroscopy; UBM)は、眼の前眼部(Anterior Segment)の画像診断に用いる検査装置である。1990年代初頭にFosterとPavlinによって、顕微鏡レベルの解像度で眼の断面図を得る手法として初めて導入された。

30〜50 MHzの高周波超音波を用いることで、細隙灯顕微鏡では観察できない前眼部構造(毛様体虹彩裏面・隅角底)を高解像度で画像化する。高周波化により組織分解能は50〜100 μmに達し、前眼部の深さ5〜10 mmを評価するのに最適化されている。

一般的なBモード超音波(5〜10 MHz)と比較して、深達度は限られるが(5〜10 mm)、解像度が大幅に向上している。高周波は組織減衰が大きいため、脈絡膜より深い構造の評価には低周波Bモードが別途必要である。

UBMが特に有用な臨床場面を以下に示す。

  • 閉塞隅角緑内障PACG)の隅角形態評価瞳孔ブロック型・プラトー虹彩水晶体因性閉塞の鑑別
  • 悪性緑内障の診断毛様体前方回旋・硝子体前方偏位の確認
  • 毛様体腫瘍・虹彩腫瘍の評価:範囲・浸潤深度・後方境界の描出
  • ICL有水晶体眼内レンズ)挿入前後の評価:Vault(水晶体ICL の間隙)の計測
  • 前眼部外傷隅角解離・虹彩離断・毛様体解離の評価
  • ぶどう膜炎毛様体炎膜・毛様体浮腫の評価
  • 緑内障手術後:濾過胞の内部構造評価
Q 超音波生体顕微鏡と通常の超音波検査はどう違うか?
A

通常のBモード超音波は5〜10 MHzで眼全体(前後径や網膜脈絡膜など)を観察する。超音波生体顕微鏡は30〜50 MHzの高周波を用いることで、前眼部に特化した組織分解能50〜100 μmの高解像度画像を得る。ただし高周波ゆえ深達度は5〜10 mmに限られ、後部硝子体網膜の観察には通常の超音波が必要となる。

周辺虹彩前癒着(PAS)を示す超音波生体顕微鏡(UBM)画像
周辺虹彩前癒着(PAS)を示す超音波生体顕微鏡(UBM)画像
Dorairaj S, et al. Changing trends of imaging in angle closure evaluation. ISRN Ophthalmol. 2012. Figure 4. PMCID: PMC3914273. License: CC BY.
周辺虹彩前癒着PAS)を示す超音波生体顕微鏡像である。Sは強膜、CBは毛様体、ACは前房、Iは虹彩、Cは角膜を指し、黒い矢印はPASの範囲を示している。本文「2. 検査手技と手順」の項で扱う周辺虹彩前癒着に対応する。

UBM検査の基本手順を以下に示す。

  1. 点眼麻酔(0.4%オキシブプロカイン)を施行する
  2. アイカップ内に水またはスコピゾール(メチルセルロース等)を満たす
  3. 患者を仰臥位にし、目にアイカップを装着する
  4. プローブ先端を液体に浸してスキャンする(眼球に直接触れないよう注意)
  5. 各方向にプローブを向けて全周の隅角毛様体を撮影する
  6. 明所・暗所の条件で撮影し、散瞳による虹彩形状変化(機能的閉塞)を比較評価する

プローブキャップを装着し水を注入して行う方法もある(アイカップ不要)。どのような体位でも検査が可能なため、通常の仰臥位が困難な患者にも対応できる。

メンブレン方式の超音波生体顕微鏡(例:UD-8060、トーメーコーポレーション)はアイカップを必要とせず、メンブレン先端にスコピゾール®を塗布して検査部位に当てる。坐位での検査が可能となった。

3. 定量パラメータと所見の解釈

Section titled “3. 定量パラメータと所見の解釈”

超音波生体顕微鏡前房隅角の定量的測定が可能であり、以下のパラメータが標準的に用いられる。

パラメータ定義
AOD500(隅角開放距離)強膜突起から500 μm前方の線維柱帯虹彩間の垂直距離
ARA(隅角陥凹面積)AODラインと隅角陥凹に囲まれた三角形の面積
ACD(前房深度)中央角膜内皮から水晶体前面までの距離
レンズボルト左右強膜突起を結ぶ垂直線より前方に位置する水晶体の距離

AOD500の詳細定義は「強膜突起から500 μm前方の線維柱帯虹彩間の垂直距離」であり、強膜突起の正確な同定が測定精度を左右する。原発閉塞隅角緑内障PACG)では、AOD500と前房深度が有意に減少しており、診断の助けとなる。

角膜前後面・強膜表面・虹彩前後面は高輝度として描出される。角膜実質虹彩実質・毛様体低輝度である。正常眼では虹彩は前方に軽度凸状もしくは平坦で、毛様体突起との間に毛様溝が確認できる。

前房隅角の観察では、強膜突起(scleral spur)Schwalbe線の同定が不可欠である。強膜突起は前房内に突出した強膜の一部で、前方は線維柱帯に付着した構造であり、常に確認しうる重要な指標である。

4. 臨床的意義と主要疾患での所見

Section titled “4. 臨床的意義と主要疾患での所見”

瞳孔ブロック型閉塞隅角

虹彩前方膨隆:後房圧が高まり虹彩が押し上げられる形態。

全体的な隅角狭小:Schwalbe線の部分から角膜側へ虹彩が押し付けられる。

暗所で隅角閉塞が増強散瞳により悪化する様子を捉えられる。

プラトー虹彩

虹彩彎曲なし:中央部虹彩は平坦で瞳孔ブロックは伴わない。

毛様体前方偏位・毛様溝消失:特徴的所見。毛様体が前方偏位し虹彩根部を機械的に押し上げる。

散瞳時に虹彩根部が隅角を閉塞:暗所散瞳下で閉塞が確認できる。

プラトー虹彩では前房の中央は比較的深く、虹彩中央部は平坦、虹彩根部は厚くて前房側に屈曲し、隅角底はスリット状に狭窄している。毛様体の前方偏位および毛様溝の消失が特徴的な所見である。

超音波生体顕微鏡による観察はレーザー虹彩切開術後でも解除されないプラトー虹彩の確定診断にきわめて有用である。レーザー虹彩切開術を施行しても眼圧が下降せず、あるいは散瞳で術前同様の隅角閉塞が確認されればプラトー虹彩の確定となる。診断のためだけにレーザー虹彩切開術を行うことは水疱性角膜症などのリスクから慎むべきで、超音波生体顕微鏡観察が推奨される。

原発閉塞隅角緑内障治療のためのレーザー虹彩切開術を受けた患者の約33%にプラトー虹彩が認められ、このグループは周辺虹彩前癒着形成や更なる隅角閉塞のリスクが高い。2)

悪性緑内障毛様体前方回旋や硝子体腔内への房水異常流入などによって生じる硝子体の前方偏位に起因する閉塞隅角である。特発例もあるが、手術歴の有無とともにUBM所見を確認することが診断に不可欠である。

UBMでは以下の所見が認められる。

  • 毛様体前方回旋毛様体が前方へ偏位し、虹彩毛様体水晶体または硝子体を前方に押し出す
  • 硝子体前方偏位房水硝子体腔内に貯留し、硝子体全体が前方に移動する
  • 隅角全周閉塞瞳孔ブロックを呈しない形態で全周性に隅角が閉塞する

ICL(Implantable Collamer Lens)挿入後のVault(ICL水晶体前面の間隙)はUBMで定量評価する。適正Vaultの範囲は機種・眼軸長によって異なるが、不足(<250 μm)では白内障進行リスクが、過剰(>1000 μm)では角膜内皮傷害・前房浅小化リスクが増加する。長期経過中のVault変化モニタリング(年1〜2回)にもUBMが用いられる。3)

外力による急激な前房内圧上昇により、隅角解離・虹彩離断・線維柱帯損傷・毛様体解離などが生じる。毛様体解離では上脈絡膜腔に房水が貯留していることが超音波生体顕微鏡で明瞭に描出される。

Yeiltaらは、超音波生体顕微鏡により5×3×2 mmの虹彩毛様体メラノサイトーマを描出し(境界が比較的明瞭な病変として確認)、臨床診断・管理に活用した症例を報告した。1) 高密度に色素沈着した腫瘍や前房内腫瘍で角膜混濁がある場合でも、後方境界を特定できるため隣接構造への浸潤検出精度が向上する。

Q プラトー虹彩はなぜ診断が難しいのか?
A

プラトー虹彩前房が浅くなく(中央前房深度は正常)、細隙灯顕微鏡でも虹彩が前膨隆せず平坦なため、瞳孔ブロック型閉塞隅角との鑑別が困難である。暗所散瞳下の超音波生体顕微鏡毛様体前方偏位と毛様溝消失を確認することが診断の鍵となる。

超音波生体顕微鏡自体は検査装置であり、治療を行うものではない。超音波生体顕微鏡で診断された疾患の治療を以下に示す。

閉塞隅角緑内障(瞳孔ブロック型)

Section titled “閉塞隅角緑内障(瞳孔ブロック型)”
  • レーザー虹彩切開術LPI/LI):第一選択。後房と前房を連通させ、房水流の圧較差を解消する
  • 白内障手術水晶体IOLに置換することで前房深度が増加し、隅角の開大効果が期待できる
  • レーザー隅角形成術(LGP:第一選択。虹彩周辺への熱収縮で隅角を開大する
  • レーザー虹彩切開術(LI)瞳孔ブロック機序が疑われる場合に先行して施行し、その後LGPを追加する
  • 白内障手術白内障を合併する場合に適応
  • ピロカルピン点眼:保存的治療。効果は不確実で長期使用による副作用(散瞳不良・虹彩後癒着白内障進行)に注意が必要
  • 毛様体光凝固(毛様体破壊術毛様体前方回旋が確認された場合
  • 硝子体手術硝子体前方偏位が主体の場合。硝子体を切除することで房水の正常流路を再建する

超音波生体顕微鏡で診断された毛様体解離は、原則として保存的治療または外科的再縫合・毛様体固定術が選択される。

  • Vault不足ICL交換(サイズアップ)または早期白内障手術
  • Vault過剰ICL交換(サイズダウン)またはICL摘出
Q UBM検査で見つかった異常はどのように治療されるか?
A

閉塞隅角緑内障瞳孔ブロック型)にはレーザー虹彩切開術白内障手術が、プラトー虹彩にはレーザー隅角形成術(LGP)が選択される。悪性緑内障毛様体前方回旋)には毛様体光凝固や硝子体手術が適応となる。ICL後のVault異常ではICL交換またはICL摘出が検討される。治療方針は超音波生体顕微鏡で確認された閉塞機序に応じて決定される。

超音波生体顕微鏡の物理的原理

Section titled “超音波生体顕微鏡の物理的原理”

超音波生体顕微鏡は高周波超音波(30〜50 MHz)を利用する。物理的原理を以下に示す。

  • 波長:50〜30 μm(30〜50 MHzに対応)
  • 組織分解能:50〜100 μm(軸方向)
  • 信号の発生原理:組織の音響インピーダンス差で反射強度が変化し、断層像を構成する
  • 前眼部に最適化:深さ5〜10 mmの評価に最適な周波数帯
  • 深達度の制限:高周波は組織内で減衰が大きいため、脈絡膜より深い構造の評価には5〜10 MHzの低周波Bモードを使用する

超音波生体顕微鏡前眼部光干渉断層計AS-OCT)は、どちらも前眼部画像診断装置として相補的に用いられる。

項目UBMAS-OCT
原理超音波(30〜50 MHz)光(0.7〜1.3 μm)
接触接触(感染リスクあり)非接触
体位仰臥位(基本)坐位(基本)
毛様体虹彩裏面観察可能不明瞭
眼底周辺部脈絡膜まで観察可能困難
圧迫隅角検査アイカップで可能不可
角膜表層・涙液不向き有用
手術直後困難可能
組織分解能(軸方向)50〜100 μm5〜10 μm
熟練者の必要性高い低い

超音波生体顕微鏡の最大の強みは虹彩後方・毛様体を含む構造の可視化である。AS-OCTと比較した欠点は、水浴浸漬法による眼への接触が必要なこと、画像取得に時間がかかること、熟練した検者が必要なことが挙げられる。

腫瘍評価においての違いとして、眼表面扁平上皮腫瘍(OSSN)ではAS-OCTが病変内部の詳細を示す点で優位性がある。一方、無色素性の虹彩腫瘍では超音波生体顕微鏡の方が病変の後方境界を特定する能力に優れ再現性も高い。

閉塞隅角緑内障の発生機序と超音波生体顕微鏡の役割

Section titled “閉塞隅角緑内障の発生機序と超音波生体顕微鏡の役割”

閉塞隅角緑内障の発生機序には主に2つがある。

  • 相対的瞳孔ブロック:後房圧が高まり虹彩が前方へ彎曲し隅角が閉塞する。UBM虹彩前方膨隆と全体的隅角狭小を確認。
  • プラトー虹彩機序毛様体の先天的前方偏位により虹彩根部が機械的に押し上げられる。UBM毛様体前方偏位・毛様溝消失を確認。

超音波生体顕微鏡によりこれら2つの機序を術前に鑑別することで、治療方針(レーザー虹彩切開術単独 vs. LI+LGP)を最適化できる。

超音波生体顕微鏡画像の自動定量解析ソフトウェアが開発され、隅角開放距離・前房深度・レンズボルト等のパラメータを自動計測できるようになっている。検者間・検者内ばらつきの低減と診断精度の向上が期待される。

メラノサイトーマの管理における超音波生体顕微鏡

Section titled “メラノサイトーマの管理における超音波生体顕微鏡”

Yeiltaらの症例報告では、壊死性虹彩メラノサイトーマに続発した色素散布性緑内障に対し、超音波生体顕微鏡で病変サイズ(5×3×2 mm)を評価し、虹彩毛様体切除術と緑内障シャント術を組み合わせた外科的管理が有効であったことが示された。1) 細針吸引生検(FNAB)の診断率は88〜95%とされており、メラノサイトーマとメラノーマの鑑別に超音波生体顕微鏡所見が補助的役割を果たす。

ディープラーニングを用いたUBM画像の隅角分類・自動診断の研究が進行中である。閉塞隅角緑内障の早期スクリーニングへの応用が期待されているが、臨床実装には至っていない。4)


  1. Yeilta YS, Oakey Z, Brainard J, Yeaney G, Singh AD. Necrotic iris melanocytoma with secondary glaucoma. Taiwan J Ophthalmol 2025;15:135–137.

  2. Ritch R, Tham CC, Lam DS. Plateau iris syndrome. Ophthalmology 2004;111:1244–1246.

  3. Gonzalez-Lopez F, Bilbao-Calabuig R, Mompean B, et al. Assessing vaulting changes after phakic collamer lens implantation by ultrasound biomicroscopy and optical coherence tomography. Eur J Ophthalmol 2016;26:36–41.

  4. Jiang H, Wu Z, Lin Z, et al. Machine learning approaches to distinguish angle-closure from open-angle glaucoma using anterior segment features: a systematic review. Br J Ophthalmol 2022;106:1452–1458.

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