眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:上方球結膜のひだ・充血・弛緩・糸状物形成を確認する。上眼瞼の翻転が不可欠である。
生体染色検査:フルオレセイン(ブルーフリーフィルター併用推奨)、ローズベンガル、リサミングリーンで上方球結膜・輪部・角膜上方の点状染色を評価する5)。
インプレッションサイトロジー:結膜上皮の角化を証明する確定診断検査である。蛇行した核クロマチン濃縮像(snake-like appearance)と瞼結膜の杯細胞消失が特徴的である。
上輪部角結膜炎(superior limbic keratoconjunctivitis: SLK)は、上方の球結膜および輪部を主座とする限局性の慢性炎症性眼表面疾患である。1963年にFrederick Theodoreにより初めて報告された1)。本症は、(1)上眼瞼結膜の炎症、(2)上方球結膜の炎症、(3)上方角膜・輪部に点状の生体染色陽性像、(4)上方輪部の増殖、(5)上方1/4の角膜または輪部の糸状角膜炎、の5つを特徴とする。
50歳以上に好発し、男女比は1:3で女性に多い。両眼性であることが多いが、左右差を伴うことがある2,13)。SLKの20〜50%に甲状腺疾患が合併する2)。ただし甲状腺眼症からみたSLKの合併率は約3%と低い。逆に甲状腺機能異常を有する患者の約8%に本症がみられるとの報告もある。涙液減少型ドライアイは約25%に認められ、マイボーム腺機能不全(MGD)を含む摩擦関連疾患がドライアイ重症度を増悪させることが日本人集団で示されている3)。
コンタクトレンズ(CL)装用者で同様の所見を呈する場合はcontact lens related SLK(CL-SLK)として区別される。フィッティング不良や上眼瞼圧の上昇が原因となる。
甲状腺機能亢進症に伴う眼球突出では、上眼瞼の圧が相対的に高くなる。この結果、上眼瞼裏面と上方角結膜の摩擦が亢進し、SLKが惹起される。SLK患者の20〜50%に甲状腺疾患が合併するため、SLKと診断した場合は甲状腺機能検査を行うことが推奨される。

病因は不明である。最も支持されている仮説は、上方球結膜の機械的摩擦に起因する多因子性の病態を提唱したCherの摩擦説である4)。上方球結膜の弛緩により、瞬目時に上眼瞼結膜と上方球結膜の間に絶え間ない摩擦が生じる。この摩擦が初期要因となりSLKが発症すると考えられている。
摩擦亢進の上流には以下の因子が関与する。
| 要因 | 機序 |
|---|---|
| 上方球結膜の弛緩 | 瞬目時の摩擦面積と摩擦強度が増大 |
| 甲状腺機能亢進症 | 眼球突出による相対的眼瞼圧上昇 |
| 涙液減少 | 潤滑不足による摩擦亢進 |
| 高い眼瞼圧 | 眼瞼下垂手術後にも生じうる |
| マイボーム腺機能不全 | 涙液油層機能低下と摩擦亢進の二次的悪化3) |
病変部では上皮の分化障害が扁平上皮化生を招き、杯細胞が減少する。杯細胞減少は眼表面のムチン層を薄くし、これがさらなる摩擦亢進を生じ、炎症が遷延する悪循環が形成される。
眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:上方球結膜のひだ・充血・弛緩・糸状物形成を確認する。上眼瞼の翻転が不可欠である。
生体染色検査:フルオレセイン(ブルーフリーフィルター併用推奨)、ローズベンガル、リサミングリーンで上方球結膜・輪部・角膜上方の点状染色を評価する5)。
インプレッションサイトロジー:結膜上皮の角化を証明する確定診断検査である。蛇行した核クロマチン濃縮像(snake-like appearance)と瞼結膜の杯細胞消失が特徴的である。
全身検査
甲状腺機能検査:T₃・T₄・TSHに加え、甲状腺刺激抗体・抗ペルオキシダーゼ抗体・TSHレセプター抗体を検査する。
シルマー試験:涙液減少型ドライアイ合併の評価に有用である。
自己免疫検査:Sjögren症候群や関節リウマチが疑われる場合に抗SS-A・抗SS-B抗体等を検討する。
Sjögren症候群では強い球結膜上皮障害を認めるが、SLKと異なり輪部の肥厚や充血を伴わないことが多い。CL-SLKはCL装用者に生じるSLK類似病変である。その他、アレルギー性結膜炎、甲状腺眼症、フロッピーアイリッド症候群、lid-wiper epitheliopathy(LWE)、トラコーマとの鑑別が必要である。眼瞼下垂手術後には眼瞼圧の上昇によりSLK類似病変を生じうる点にも留意する。
日本のドライアイ診療ガイドラインでは、SLKはlid-wiper epitheliopathy・糸状角膜炎・結膜弛緩症とともに「瞬目時の摩擦亢進」というコア・メカニズム②に属するドライアイ関連疾患として位置づけられている5)。
上眼瞼を十分に翻転させて上方球結膜を観察することが最も重要である。SLKの病変は上方に限局するため、翻転なしでは見逃しやすい。フルオレセイン染色(ブルーフリーフィルター使用)またはリサミングリーン・ローズベンガル染色で上方球結膜の上皮障害を確認する。
SLKの治療にゴールドスタンダードはない2)。段階的に治療を組み合わせる。
軽症例:防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア点眼液 1日6回)とヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレイン0.1% 1日6回)を単独または併用し、必要に応じて低力価ステロイド(フルオロメトロン0.1% 1日2回)を加える。
軽〜中等症:ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス3%、1日6回)またはレバミピド点眼液(ムコスタUD 2%、1日4回)を主軸とする。レバミピドによる摩擦軽減と粘膜修復作用が有効である。
重症例:レバミピドまたはジクアホソルにフルオロメトロンを併用する。炎症が強い場合は、ベタメタゾン点眼液(リンベタPF 0.1%、1日1〜2回)に切り替える。ステロイド点眼使用時は眼圧上昇(ステロイドレスポンダー)に注意する。
糸状角膜炎合併例:ジクアホソル点眼は角膜糸状物を増加させることがあるため、レバミピドを優先する。角膜糸状物は点眼麻酔後に無鉤ピンセットや綿棒で機械的に除去する。
シクロスポリン点眼:長期フォローアップ研究において、局所シクロスポリンはSLKの眼表面炎症を軽減し、症状および臨床所見の改善をもたらすことが示されている6)。本邦では保険適用外であるが、難治例での選択肢となる。
涙液減少型ドライアイの合併例では上・下涙点プラグ挿入術が有効である。涙液減少がなければ流涙を訴えることがあるため、上方涙点のみの挿入にとどめることが推奨される2)。
治療用ソフトコンタクトレンズ(バンデージコンタクトレンズ:BCL)は上輪部への瞬目時摩擦を機械的に軽減する9)。1982年のMondinoらによる圧迫パッチとソフトCL併用の報告以来、摩擦軽減の代表的治療として位置づけられている9)。
自己血清点眼(50%希釈)はビタミンA、上皮成長因子(EGF)、TGF-β、インスリン様成長因子、サブスタンスPなどの栄養因子を供給し、眼表面上皮の増殖・分化を維持する。坪田らにより重症ドライアイに対する有効性が報告され7)、後藤らはSLKに対する自己血清点眼の有効性を明示した8)。50%濃度は100%希釈と比べて抗増殖作用を有するTGF-βの過剰作用を避けつつ、十分な修復効果を得られる実践的な濃度である12)。
近年ではBCLと50%自己血清点眼の併用療法が、ドライアイとMGDを合併した難治性SLKにおいて2年間の寛解をもたらしたとの症例報告もある10)。この症例では、シリコーンハイドロゲルCLを日中6〜8時間装用し、自己血清点眼を在宅で1日6回以上使用した。
上記の保存的治療で改善が得られない場合、上方球結膜弛緩を伴っていれば、上方の結膜弛緩症手術(結膜切除術)の適応がある。本術式は病変部の結膜下テノン嚢の除去と弛緩結膜の切除からなり、球結膜と強膜の炎症性癒着を図る方法である。術後の再発が少なく、長期予後は良好である2)。
若年者や将来濾過手術を必要とする可能性がある緑内障合併例では、手術の適応を慎重に決定する。高齢者で上方結膜弛緩があり緑内障がない例は良い適応である。
甲状腺機能異常がある場合、内科での加療を並行して行う。甲状腺機能のコントロールに伴いSLK症状が軽減することが多い。
上方球結膜の弛緩により、瞬目時に上眼瞼裏面と上方球結膜・輪部の間に機械的摩擦が生じる。この摩擦が炎症を惹起し、上皮の過増殖と分化障害を招く。分化障害により扁平上皮化生が生じ、杯細胞が減少する。杯細胞の減少は眼表面のムチン層を薄くし、さらに摩擦を亢進させる。このようにして悪循環が形成される4)。
日本のドライアイ診療ガイドラインは、「開瞼維持時の涙液層の安定性低下」と「瞬目時の摩擦亢進」をドライアイの2つのコア・メカニズムと定義する。SLKはlid-wiper epitheliopathy・糸状角膜炎・結膜弛緩症とともに摩擦亢進に直接関与する代表疾患とされ、Kessing space(瞼結膜と球結膜の間の微小間隙)における摩擦亢進が病態の中心と位置づけられている5)。
SLK罹患結膜では以下の分子変化が報告されている。
上皮角化:サイトケラチン10・13・14の発現増加と増殖細胞核抗原(PCNA)の発現増加が認められ、結膜上皮の異常分化と過剰増殖が示されている。
TGF-β2・テネイシン・インテグリンβ1の発現上昇:松田らの本邦研究では、SLK罹患結膜においてこれら機械的外傷により誘導される因子の発現が上昇しており、SLKの起源としての微小外傷説を分子レベルで支持している11)。
ムチン様糖タンパク質の減少:角化した上方球結膜上皮ではムチン様糖タンパク質のレベルが低下している。ビタミンA点眼やバンデージコンタクトレンズによる治療後にこれらのレベルが正常化する。
上皮細胞の角化、角化不全(dyskeratosis)、棘細胞増殖(acanthosis)、核のバルーン様変性が認められる。実質には多核白血球、形質細胞、肥満細胞、リンパ球の浸潤がみられる。インプレッションサイトロジーでは球結膜上皮細胞に蛇行した核クロマチン濃縮像(snake-like appearance)が特徴的で、瞼結膜では杯細胞の消失と炎症細胞の増加が観察される。
上眼瞼は下眼瞼より眼球への圧迫力が強い。さらに上方球結膜に弛緩があると、瞬目のたびに上眼瞼裏面と弛緩結膜の間に顕著な摩擦が生じる。甲状腺機能亢進症による眼球突出がある場合はこの摩擦がさらに増強する。これにより上方に限局した慢性炎症が惹起される。
近年のSLK治療研究では、摩擦軽減と眼表面修復を組み合わせた複合療法が注目されている。2022年にLahotiらが発表したcomprehensive reviewでは、SLKの病態・診断・治療をめぐる最新知見が整理され、非手術療法(人工涙液、ビタミンA、シクロスポリン、リフィテグラスト、自己血清、治療用CL)と手術療法(結膜切除、焼灼術、凍結療法)が系統的にレビューされている2)。
自己血清点眼については、50%希釈がさまざまな眼表面疾患に対して有効であることがSemeraroらによる前向き研究で示されている12)。また、Noorらは難治性SLKに対しBCLと自己血清点眼50%を併用し、強膜IPL(intense pulsed light)療法によるMGD治療を組み合わせることで2年間の寛解を達成した症例を報告した10)。
日本人集団を対象とした川島・山田らの研究では、MGDや摩擦関連疾患の合併がドライアイ重症度を直接的に増悪させることが示され、SLKを含む摩擦関連疾患の早期検出と介入の重要性が強調されている3)。
今後は、ドライアイ治療薬として普及しているレバミピド・ジクアホソルに加え、難治例に対するシクロスポリン点眼6)、自己血清点眼、BCL併用療法が標準的選択肢となる可能性が高い。また、SLKを摩擦関連眼表面疾患という統一的枠組みで捉えるアプローチは、日本のドライアイ診療ガイドラインの考え方と整合しており5)、今後の診療ガイドライン改訂でも重視される見込みである。