上眼瞼結膜の所見
石垣状巨大乳頭:上眼瞼結膜に直径1mm以上の扁平な乳頭が密集し、石垣状を呈する。
活動性の指標:充血の程度と乳頭間の粘液性分泌物、乳頭頂部のフルオレセイン染色が活動性の指標となる。
観察法:上眼瞼翻転が必須であり、細隙灯顕微鏡で評価する。
春季カタル(vernal keratoconjunctivitis: VKC)は、I型アレルギー反応を主体とし、結膜に増殖性変化(結膜巨大乳頭、輪部増殖)を認めるアレルギー性結膜疾患である6)。日本アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第3版では、アレルギー性結膜疾患(allergic conjunctival disease: ACD)を「I型アレルギー反応を主体とした結膜の炎症性疾患であり、抗原により惹起される自覚症状・他覚所見を伴うもの」と定義し、VKCはその中で結膜増殖性変化と角膜病変を伴う重症型に位置づけられる6)。
「vernal」は春を意味し、春季に増悪しやすいことから命名された。しかし実際には通年性に経過する症例も多く、病態にはI型アレルギーに加えてCD4陽性2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)主導のIV型過敏反応が深く関与する。
アレルギー性結膜疾患は以下の4病型に分類される6)。
2017年に日本眼科アレルギー学会が日本眼科医会会員とその家族を対象に行ったWeb調査では、回答者におけるアレルギー性結膜疾患の有病率は**48.7%**であった6)。病型別の内訳は以下のとおりである6)。医療関係者を含む特定集団へのWeb調査であり、この数値を日本の一般人口の有病率としてそのまま外挿することはできない。
| 病型 | 有病率 |
|---|---|
| スギ・ヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎(SAC) | 37.4% |
| 通年性アレルギー性結膜炎(PAC) | 14.0% |
| スギ・ヒノキ以外による季節性アレルギー性結膜炎 | 8.0% |
| アトピー角結膜炎(AKC) | 5.3% |
| 春季カタル(VKC) | 1.2% |
| 巨大乳頭結膜炎(GPC) | 0.6% |
2017年に日本眼科医会会員とその家族を対象に行われたWeb調査では、VKCの有病率は20代で最も高かった6)。この特定集団の横断調査から、一般人口における発症年齢、ピーク年齢、成人期までの持続割合を推定することはできない。
日本国内では高温多湿な夏季や、スギ・ヒノキ花粉飛散時期にあたる春季に症状が増悪しやすい。ただし原因抗原としてはハウスダストやダニが多いため、通年性に経過する症例も少なくない。2017年の同じWeb調査では、アレルギー性結膜疾患全体は40代が最多で、10代にも小さなピークを認めた6)。調査対象と方法が異なる過去調査との単純比較から、一般人口での増減やその原因を結論づけることはできない。
VKCは病変部位により、上眼瞼結膜(上眼瞼瞼板結膜)の石垣状巨大乳頭を主体とする眼瞼型、角膜輪部の堤防状隆起やHorner-Trantas斑を主体とする眼球型(輪部型)、両者を併せもつ混合型に分類される。どの病型が多いかは地域・人種により異なると報告されている。これらの所見は単独または組み合わさって現れ、治療は病型と重症度に応じて選択する6)。
多くの患者に本人または家族のアトピー歴が認められる。一卵性双生児とその父親という1家系を扱った症例報告ではHLA型が解析されたが、一般集団における疾患感受性や原因遺伝子を示す研究ではない2)。
VKCは小児期に発症しやすく、結膜の増殖性変化や角膜病変を伴う疾患です。一方、アトピー性角結膜炎はアトピー性皮膚炎を伴い得る慢性の重症型です。両者は所見が重なることがあるため、年齢だけで区別せず、皮膚所見と眼表面所見を合わせて診断します6)。
ガイドラインでは、VKCの主な自覚症状として強い瘙痒感、異物感、眼痛、羞明、流涙などが挙げられている。角膜病変を伴う場合は眼痛や視力低下をきたしうる6)。他のアレルギー性結膜疾患より眼痛が強い、または瘙痒感より眼痛が多いと一律に比較できる根拠は確認できていない。
活動性の高い状態では、起床時に激しい眼瞼痙攣と粘液性分泌物のため動けなくなることがあり、「モーニング・ミザリー(morning misery)」と呼ばれる。学業や日常生活への影響が大きく、不登校の原因となることもある。
**巨大乳頭、輪部増殖、シールド潰瘍(楯型潰瘍)**は、VKC診断の核となる特異度の高い他覚所見である6)。
上眼瞼結膜の所見
石垣状巨大乳頭:上眼瞼結膜に直径1mm以上の扁平な乳頭が密集し、石垣状を呈する。
活動性の指標:充血の程度と乳頭間の粘液性分泌物、乳頭頂部のフルオレセイン染色が活動性の指標となる。
観察法:上眼瞼翻転が必須であり、細隙灯顕微鏡で評価する。
角膜輪部の所見
角膜合併症は疾患の重症度に応じて段階的に進行する。点状表層角膜炎、落屑様点状表層角膜炎、上皮びらん、シールド潰瘍(楯型潰瘍)の順に重症度が増す6)。
VKC瘢痕期に視力回復手術を受けた3例4眼の角膜組織学的検討では、上皮過形成、Bowman層の消失、実質の硝子化および血管新生が確認された3)。免疫組織化学的にはABCG2(輪部幹細胞マーカー)が全検体で陰性で、p63αは程度の差を伴って発現しており、この限定された瘢痕期症例群では輪部幹細胞機能障害が部分的である可能性が示唆された3)。
まれな合併症として瞼板結膜の角化がある。長期罹患したVKC患者1例の両眼で瞼板結膜角化が報告され、病変切除と結膜自家移植後、4年間再発なく経過した4)。
好酸球から放出されるMBP(major basic protein)やECP(eosinophil cationic protein)が角膜上皮に直接的な細胞障害を与えます。これに巨大乳頭の機械的摩擦が加わり、上方角膜に楕円形の浅い潰瘍(楯型潰瘍)が形成されます。潰瘍底にフィブリンと粘液が沈着すると角膜プラークとなり、上皮の再生が妨げられます。
VKCではI型アレルギー反応に加え、CD4陽性2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)を中心とする慢性炎症が病像形成に関与する6)。
結膜巨大乳頭の病理組織像では、好酸球浸潤、線維芽細胞の増生、細胞外マトリックスの沈着に加え、多数のT細胞浸潤も認められる。すなわち、巨大乳頭の形成にはI型アレルギー反応のみならず、T細胞依存性の慢性炎症も関与している。
VKCの原因抗原はハウスダストやダニが多く、そのほか花粉、動物のフケなど多種類の抗原に反応することも少なくない6)。このため季節性のみならず通年性に症状が持続することがある。
正確な機序は解明されていません。性ホルモンなど内分泌的因子の関与が議論されていますが、男児に多い理由を特定の生活行動や抗原曝露量で説明できる根拠は確立していません。
診断は、臨床症状(A)、I型アレルギー素因(B:全身的+局所的)、結膜でのI型アレルギー反応(C)の3要素を用いて、以下の3段階で行う6)。
| 診断区分 | 要件 |
|---|---|
| 臨床診断 | A のみ(ACDに特有な臨床症状あり) |
| 臨床的確定診断 | A+B(臨床症状+涙液中総IgE陽性、血清抗原特異的IgE陽性、または皮膚反応陽性) |
| 確定診断 | A+B+C または A+C(上記に加え、結膜擦過物中好酸球陽性) |
VKCの重要な診断根拠には、巨大乳頭、輪部増殖、角膜病変(シールド潰瘍、角膜プラーク)、眼痛、眼脂、充血が含まれる6)。特徴的な臨床所見(石垣状巨大乳頭、Horner-Trantas斑、シールド潰瘍)と瘙痒感・眼痛の問診から臨床診断を行い、検査所見で確定診断に至る。
以下の検査を病型・重症度に応じて組み合わせる6)。
涙液総IgE検査は、VKCを含むアレルギー性結膜疾患で局所のI型アレルギー素因を調べる補助検査です6)。陽性なら診断を支持しますが、陰性でもVKCは否定できません。感度・特異度や病型別陽性率の数値は、元研究の対象集団と判定基準を直接確認できていないため、ここでは一般化しません。
VKCの治療は、日本アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第3版(2021)に基づく6)。VKCはTh2細胞が病態形成の中心的役割を果たすことから、T細胞抑制能を持たない抗アレルギー点眼薬のみではコントロールできない。T細胞の機能を制御する免疫抑制点眼薬やステロイド点眼薬の併用が必要となる。
春季カタルでは、重症度と角膜病変の有無に応じて以下の薬剤を組み合わせる6)。ガイドラインでは、推奨の強さとエビデンスレベルが介入ごとに異なる。
| 治療介入 | 推奨の強さ | エビデンスレベル | 診療上の位置づけ |
|---|---|---|---|
| タクロリムス点眼薬 | 強 | A | 重症例に対する主要な選択肢 |
| シクロスポリン点眼薬 | 弱 | B | 病状に応じて検討 |
| ステロイド点眼薬 | 強 | B | 重症炎症や角膜病変で検討し、眼圧等を監視 |
| 免疫抑制点眼薬とステロイド点眼薬の併用 | 弱 | C | 病状に応じて検討 |
タクロリムス点眼薬に関するメタアナリシスでは、角膜上皮障害スコアの標準化平均値差は-0.89(95%信頼区間 -1.32〜-0.46)であった。一方、眼瞼乳頭スコアは-0.83(95%信頼区間 -1.68〜0.03)で、信頼区間がゼロをまたぐため、乳頭所見については改善の可能性を示唆する結果にとどまる6)。
抗アレルギー点眼薬
メディエーター遊離抑制薬:マスト細胞膜を安定化しヒスタミンの遊離を抑制する。クロモグリク酸ナトリウムなど。
H1受容体拮抗薬:ヒスタミンの受容体結合を競合的に阻害する。オロパタジン、エピナスチンなど。瘙痒感が強い場合に選択する。季節前からの初期治療として予防投与する。
免疫抑制点眼薬
シクロスポリン点眼薬とタクロリムス点眼薬は、抗アレルギー点眼薬だけでは十分にコントロールできない増殖性変化を伴うVKCで検討される。どちらを用いるかは、上記の推奨強度の違いに加え、重症度、角膜病変、既往治療、有害事象などを踏まえて眼科医が判断する6)。両薬の病型別の優劣や一律の切り替え順は確立していない。
抗アレルギー点眼薬を基盤とし、重症度や角膜病変に応じて免疫抑制点眼薬やステロイド点眼薬を追加する6)。改善後の減量・中止や再燃時の再開は、眼圧、角膜所見、有害事象を確認しながら眼科医が個別に調整する。商品番号に基づく固定的な切り替え順や、患者自身による点眼回数の変更は行わない。
VKCは若年者に多い疾患であり、若年者ほどステロイドレスポンダー(ステロイド緑内障)の割合が高い点に注意が必要である。定期的な受診・眼圧測定が必須である。高力価ステロイド(リンデロン®)は速やかな効果が得られる反面、軽快時に自己中止して悪化する悪循環に陥るリスクがある。特に投薬が保護者から本人に移行する10歳以降は自己管理能力の低下に注意する。
ステロイド点眼薬の使用中は、眼圧上昇、白内障、感染症などの有害事象に注意し、定期的に眼科で評価する6)。
予防・セルフケアでは以下を重視する6)。
どちらも、抗アレルギー点眼薬だけでは十分にコントロールできないVKCで検討される免疫抑制点眼薬です6)。ガイドラインの推奨はタクロリムスが「強/A」、シクロスポリンが「弱/B」です。病型だけで一方が優れるとは確立していないため、重症度、角膜病変、これまでの治療反応、有害事象などを踏まえて眼科医が選択します。点眼回数や切り替えは自己判断で変更しないでください。
VKCの病態はI型アレルギー(即時型)とIV型過敏反応(遅延型)の両方が関与する複合的な免疫反応である。
I型アレルギーでは、涙液中に侵入した抗原がIgEを介してマスト細胞の脱顆粒を引き起こす。即時相ではヒスタミンが遊離され充血と瘙痒を生じ、遅発相ではロイコトリエンなどの新規合成メディエーターが炎症を増幅する。
Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-13などを産生し、好酸球の動員・活性化を促進する。活性化した好酸球はMBP、ECPなどの細胞障害性蛋白を放出し、角膜上皮障害に関与する6)。
近年、Th2サイトカインのシグナル伝達にJAK/STAT経路が重要な役割を果たすことが注目されている。JAK1はIL-4、IL-5、IL-13、IL-31およびTSLP(thymic stromal lymphopoietin)のシグナル伝達を媒介し、アレルギー性炎症の中心的な経路となっている1)。このため、JAK阻害薬が難治性VKCに対する新たな治療選択肢として注目されている。
結膜巨大乳頭の病理組織像では、好酸球浸潤、線維芽細胞の増生、細胞外マトリックスの沈着に加えて、数多くのT細胞浸潤も認められる。乳頭の基本病態は血管新生反応であり、結膜上皮の肥厚と上皮下の炎症細胞増殖を伴い、線維性組織が乳頭状に隆起する。中心に血管があり、その周囲にリンパ球や形質細胞を主体とした細胞浸潤を認める。硬い瞼板の上で生じるため上眼瞼結膜に好発する。
VKC瘢痕期に視力回復手術を受けた3例4眼の角膜組織では、上皮過形成、Bowman層の消失、間質の硝子化および血管新生が確認された3)。ABCG2は全検体で陰性で、p63αは程度の差を伴って発現していたことから、この限定された瘢痕期症例群では輪部幹細胞機能障害が部分的である可能性が示唆された3)。
重症VKCとアトピー性皮膚炎を合併した18歳女性1例で、アトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブ開始後2か月以内に、巨大乳頭と周辺角膜血管新生が平坦化し始めたと報告された1)。開始前からシクロスポリン・タクロリムス点眼による治療歴があり、対照のない1症例であるため、改善をウパダシチニブ単独の効果または特定の併用効果と断定することはできない。
JAK1はTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、IL-31)およびTSLPのシグナル伝達に関与する1)。この報告は治療仮説を示す段階であり、VKCに対する有効性と安全性を確立するには、症例の蓄積と比較研究が必要である1)。
一卵性双生児とその父親という1家系を扱った症例報告でHLA型が解析された2)。著者らはVKCを発症した一卵性双生児の初報と位置づけているが、1家系の観察から特定HLA型と一般的なVKC感受性との関連を結論づけることはできない2)。
VKC瘢痕期に視力回復手術を受けた3例4眼の角膜組織を検討した研究では、上皮過形成、Bowman層消失、間質硝子化、血管新生が確認された3)。ABCG2陰性とp63α発現から、著者らはこの瘢痕期症例群における部分的な輪部幹細胞機能障害の可能性を示した3)。
長期罹患したVKC患者1例の両眼に瞼板結膜角化が認められ、病変切除と結膜自家移植後、4年間再発なく経過した4)。著者らはVKCに伴う瞼板結膜角化の初報と位置づけている4)。
成長ホルモン欠損を併存した11歳男児1例では、タクロリムス点眼とフルオロメトロン点眼への変更後6週間でVKC所見が改善した5)。同報告が確認した先行報告は6例で、成長ホルモン欠損の有病率上昇や因果関係を示すものではない。成長ホルモン療法後のIL-6・CRP低下も別集団で統計学的に有意ではなく、VKCへの影響は不明である5)。
タクロリムス点眼薬は、長期の使用期間について十分な根拠が乏しく、今後の検討が必要である6)。
ウパダシチニブ開始後にVKC所見が改善方向へ推移した1症例報告があります1)。ただし、対照のない1例で、従来の眼科治療の影響も分離できないため、有効性は確立していません。VKCに対する適応承認もなく、標準治療に代わるものではありません。現時点では、ガイドラインに基づく点眼治療が中心です6)。