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緑内障

ステロイド緑内障

副腎皮質ステロイド薬は力価・用量・投与方法を問わず眼圧を上昇させうる。この薬剤性の眼圧上昇と、それに基づく視機能障害をステロイド緑内障(steroid-induced glaucoma)と呼ぶ。二次性(続発性)の開放隅角緑内障に分類される1)2)7)

ステロイド緑内障は、眼への点眼・眼軟膏・結膜下注射・テノン囊下注射・硝子体内注射に限らず、経鼻スプレー・吸入薬・皮膚外用薬・経口投与・静注投与など、あらゆる投与経路で生じうる2)6)7)。患者本人がステロイド使用を認識していないことも多く、問診漏れに注意を要する。

眼圧上昇のリスクはステロイドの化学構造(力価)、1日の用量、投与頻度、投与期間、投与経路に依存する2)6)。抗炎症作用が強いほど眼圧上昇作用も強く、デキサメタゾン≥ベタメタゾン>フルオロメトロンの順である。眼圧上昇は通常ステロイド開始後2〜6週間で発生するが、投与条件次第でいつでも生じうる2)7)

ステロイドに対する眼圧反応性には個人差が大きく、眼圧上昇を示す患者はステロイド・レスポンダーと呼ばれる。古典的な Armaly と Becker の一般集団を対象とした研究では、4〜6週間の0.1%デキサメタゾン点眼により、ベースラインから15 mmHg以上の高度眼圧上昇を示す者が約5%、6〜15 mmHg上昇の中等度レスポンダーが約30%、5 mmHg以下の非レスポンダーが約65%と報告されている11)12)。一方で原発開放隅角緑内障POAG)患者や第一度近親者にPOAGを有する者では、高度レスポンダーの割合が92%に達するとの報告もある4)7)

レスポンダー傾向は小児と若年者で特に顕著である2)9)。小児例では短期間・少量のステロイド点眼でも急峻な眼圧上昇を生じることがあり、慎重な経過観察が求められる。高齢者でも反応性が高まることが知られ、両年齢層ではステロイド開始前から眼圧測定の体制を整えておく必要がある。

ステロイドは点眼薬として眼科領域の多くの疾患(アレルギー性結膜炎春季カタル、前眼部ぶどう膜炎強膜炎角膜移植術後、内眼手術術後、ドライアイに伴う角膜上皮症など)で使用される。またぶどう膜炎黄斑浮腫加齢黄斑変性抗VEGF薬抵抗例)・糖尿病黄斑浮腫網膜静脈閉塞症などでは硝子体内注射・後部テノン囊下注射として使用されるため、ステロイド緑内障の発症機会は決して少なくない6)9)

Q ステロイドレスポンダーとは何ですか?
A

副腎皮質ステロイドの投与により眼圧上昇を示す体質の患者をステロイド・レスポンダーと呼ぶ。古典的な分類では、0.1%デキサメタゾン点眼を4〜6週間継続したときの眼圧上昇幅により、高度レスポンダー(15 mmHg以上上昇、一般集団の約5%)、中等度レスポンダー(6〜15 mmHg、約30%)、非レスポンダー(5 mmHg以下、約65%)に分けられる11)12)原発開放隅角緑内障患者やその第一度近親者では高度レスポンダーの割合が著しく高い4)。小児ではステロイド反応性が特に顕著であり、短期投与でも重篤な眼圧上昇を生じる可能性がある。レスポンダー性には遺伝的素因が関与すると考えられ、GPR158・HCG22などの薬理ゲノミクス研究が進んでいる10)

原発開放隅角緑内障と同様の経過をたどる。初期には眼痛充血視力低下などの自覚症状に乏しく、視野障害が進行して初めて視力低下や視野狭窄を自覚することが多い1)2)。急激な眼圧上昇を呈する症例では、眼痛・頭痛・霧視・虹視症が出現することもある。

眼圧上昇が主要所見である。隅角は開放しており、周辺虹彩前癒着PAS)・隅角の色素沈着・新生血管などの隅角異常を認めないことが特徴である1)2)眼圧上昇が長期間持続すると、視神経乳頭陥凹の拡大や網膜神経線維層欠損、これに対応するBjerrum暗点・鼻側階段・弓状暗点などの視野障害(緑内障視神経症)を生じる。

ステロイド投与の既往があり、他の眼圧上昇をきたす病態(ぶどう膜炎落屑症候群・色素散乱症候群・血管新生緑内障など)がなければ本症を強く疑う。ステロイド中止により眼圧が正常化すれば診断は確定する1)2)

副腎皮質ステロイドの投与経路と眼圧上昇リスクの関係を以下に示す2)6)7)9)

投与経路発症時期リスク備考
点眼・眼軟膏2〜6週間中〜高(力価依存)デキサメタゾン・ジフルプレドナート・プレドニゾロンで高い
結膜下注射2〜4週間中等度水溶性ステロイドでも注意
テノン囊下注射数週〜数ヶ月デボ型トリアムシノロンは3か月滞留
硝子体内注射2〜4週間最も高いトリアムシノロン約50%、9〜12か月持続13)
全身投与(経口・静注)3〜6週間用量依存長期投与で発症
経鼻・吸入・皮膚外用数ヶ月以降まれ認識されにくい

点眼薬では力価の高いステロイドほど眼圧上昇リスクが高い。薬剤の眼圧上昇作用は抗炎症作用に比例し、用量依存性が認められる6)7)。一般に高力価(デキサメタゾン0.1%・ベタメタゾン0.1%・ジフルプレドナート0.05%)、中力価(プレドニゾロン1%)、低力価(フルオロメトロン0.1%・ロテプレドノールエタボナート0.5%)に分類される。

硝子体トリアムシノロンアセトニド4 mg注射では50%以上の確率で眼圧上昇を生じるが、手術介入を要するのは1〜2%とされる13)トリアムシノロンによる眼圧上昇は9〜12か月持続することがあり、長期管理を要する6)

硝子体ステロイド徐放剤では、投与後数週から数か月にわたり眼圧上昇を監視する必要がある。薬剤の種類、投与回数、既存緑内障の有無によりリスクは異なる。

近年はトリアムシノロン硝子体内注入・後部テノン囊下注射による症例が増加している。後部テノン囊下注射では薬剤が3か月テノン囊下に滞留し、眼圧上昇をきたした場合は結膜側から見える範囲のトリアムシノロンを物理的に除去するだけでも眼圧コントロールが得られることがある。吸入薬・点鼻薬・皮膚外用薬による全身吸収を介した眼圧上昇もまれながら報告されており、投与経路を問わず経過観察が必要である2)7)

また、アレルギー性結膜炎・花粉症に対する点鼻ステロイド、気管支喘息に対する吸入ステロイドを長期使用している患者、アトピー性皮膚炎で顔面にステロイド軟膏を連用している患者では、眼科受診時に薬歴の聞き取りから本症を疑う必要がある7)9)。特に小児では吸入ステロイド長期使用例で眼圧上昇が報告されており、眼科的スクリーニングを定期的に行うことが望ましい9)

高リスク群

原発開放隅角緑内障POAG:既存のPOAG患者はステロイド反応性が著しく高く、高度レスポンダーの割合が92%に達する4)7)

POAGの第一度近親者:家族歴を有する場合、レスポンダー率が上昇する4)

薬理ゲノミクスGPR158・HCG22などの遺伝子座とステロイド反応性の関連が研究されている10)

強度近視眼圧上昇感受性が高く、緑内障合併頻度も高い4)

1型糖尿病ステロイド反応性との関連が報告されている7)8)

その他のリスク因子

小児・高齢者:特に小児ではステロイド反応性が顕著で、短期投与でも重篤な眼圧上昇を生じうる9)

結合組織疾患:全身性ステロイドの長期使用に伴うリスク

全層角膜移植角膜内皮変性症や円錐角膜を有する眼で高リスク

ステロイド高眼圧症の既往:過去の反応歴は将来のリスク指標となる

ぶどう膜炎治療中:炎症性緑内障との合併・鑑別が難しい1)

Q どの投与経路のステロイドが最もリスクが高いですか?
A

硝子体内投与が最も眼圧上昇リスクが高い。硝子体トリアムシノロン注射では50%以上で眼圧上昇が生じ、約1〜2%が手術介入を必要とする13)。次いでテノン囊下注射・球後注射などの眼周囲投与、点眼の順にリスクが高い。点眼でも高力価ステロイド(デキサメタゾン0.1%・ジフルプレドナート0.05%)の長期使用では高い眼圧上昇リスクがある。全身投与(経口・静注)や非眼局所投与(点鼻・吸入・皮膚外用)でも眼圧上昇が生じうるため、投与経路を問わず開始後2〜6週間を中心にモニタリングが重要である2)7)8)

ステロイド緑内障の診断には問診が最も重要である。全身疾患を含めた詳細な問診を行い、ステロイド投与歴を網羅的に確認する。確認すべき項目は、眼科領域の点眼薬・眼軟膏・結膜下注射・テノン囊下注射・硝子体内注射に加え、内服・静注・吸入・点鼻・皮膚外用・関節内注射など全身領域のステロイド使用である1)2)9)

診断基準:以下をすべて満たした場合に本症と診断する1)2)7)

  • ステロイド投与の既往がある
  • 開放隅角で、隅角検査にて隅角異常(周辺虹彩前癒着新生血管・色素沈着・落屑物質など)を認めない
  • 他の眼圧上昇をきたす病態が除外されている
  • ステロイド中止または減量により眼圧が正常化する

眼圧正常化までの期間は通常ステロイドの投与期間に比例する。トリアムシノロン硝子体内注射によるものは9〜12か月程度眼圧上昇が持続することがある6)13)。長期使用では線維柱帯の組織変化が不可逆的となり、ステロイド中止後も眼圧が正常化しない例もある。

ステロイド負荷試験:事前に眼圧反応性を評価する方法として、0.1%デキサメタゾン点眼を1日3〜4回4週間施行し眼圧変動を観察する方法がある。ただし陰性であっても投与条件次第で眼圧上昇をきたすことがあり、基本的には誰にでも起こりうる11)12)

標準検査法

  • 眼圧測定ステロイド開始後2週以内に初回測定、その後月1回を目安に
  • 隅角検査ゴニオスコピー:開放隅角隅角異常なしの確認
  • 視野検査:Humphrey静的自動視野計による緑内障性視野変化の検出
  • 光干渉断層計OCT網膜神経線維層厚(RNFL)、乳頭周囲・黄斑神経節細胞複合体(GCC)の評価
  • 眼底検査視神経乳頭陥凹拡大、神経線維層欠損の観察

鑑別診断ぶどう膜炎の治療ステロイドを使用している場合、ぶどう膜炎緑内障との鑑別が最も問題となる1)。炎症産物による線維柱帯閉塞、周辺虹彩前癒着の形成、慢性炎症による瘢痕化など、ぶどう膜炎自体も眼圧上昇を起こしうるため、両者が共存する症例も少なくない1)ステロイドを減量して炎症が再燃し眼圧が上昇する場合はぶどう膜炎緑内障の可能性が高く、ステロイド減量で眼圧が低下する場合はステロイド緑内障を示唆する。

その他、落屑緑内障瞳孔縁・水晶体表面の落屑物質沈着)・色素緑内障虹彩裏面からの色素散乱・Krukenberg紡錘)・血管新生緑内障隅角新生血管周辺虹彩前癒着)・原発開放隅角緑内障ステロイド歴なし)との鑑別も必要である。小児例では原発先天緑内障や若年性開放隅角緑内障との鑑別を要し、角膜径・眼軸長角膜浮腫・Haab線条の有無を確認する。

治療の第一選択はステロイドの減量または中止である1)2)6)。原疾患の状況により完全な中止が困難な場合は、以下のような段階的対応を取る。

  • 低力価ステロイドへの変更:0.1%フルオロメトロン点眼液(フルメトロン®、フルオロメトロン®)1日4回への切り替えを考慮する2)7)。フルオロメトロンは抗炎症作用が中等度で眼圧上昇作用が弱く、軽〜中等度の前眼部炎症コントロールに有用である。
  • ステロイド温存療法:全身性ステロイドが投与されている場合、原疾患治療科と連携して免疫抑制薬・生物学的製剤によるステロイド減量を検討する14)

眼圧下降薬は原発開放隅角緑内障に準じて使用する1)4)。以下を適宜組み合わせる。

  • プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト0.005%・トラボプロスト0.004%・タフルプロスト0.0015% 1日1回):ぶどう膜強膜流出を増加させ、25〜33%の眼圧下降が期待できる4)
  • β遮断薬(0.5%チモロール 1日2回):房水産生を抑制し20〜25%の眼圧下降
  • 炭酸脱水酵素阻害薬点眼ドルゾラミド1%・ブリンゾラミド1%、1日3回)
  • α2作動薬(0.1%ブリモニジン 1日2〜3回)
  • ROCK(Rhoキナーゼ)阻害薬(0.4%リパスジル 1日2回):線維柱帯細胞の細胞骨格に直接作用し、線維柱帯流出路の機能改善が期待される。病態機序との親和性が高い
  • 内服アセタゾラミド250 mg を1日2〜4回(短期使用、電解質・腎機能モニタリング必須)
  • 高浸透圧薬点滴:急激な眼圧上昇時の緊急対応

トリアムシノロン注射による眼圧上昇で、硝子体内あるいはテノン囊下に残留したトリアムシノロン塊が確認できる症例では、塊の物理的除去が有効なこともある6)硝子体内残留薬剤は前部硝子体切除により洗浄除去し、テノン囊下の薬剤は結膜切開による塊摘除を行う。結膜側から視認できる範囲のトリアムシノロンだけでも除去すると眼圧が下がる例が報告されている。

薬物コントロール不良で視機能障害が進行しており、ステロイドの減量・中止による眼圧下降を待てない場合は手術治療を考慮する1)6)。ステロイド緑内障に対しては、線維柱帯房水流出抵抗の主因であるため、流出路再建術が特に奏効しやすいという特徴がある。

流出路再建術(第一選択)

線維柱帯切開術トラベクロトミー:ステロイド緑内障に対して特に有効性が高い1)。日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン第5版では、「原発開放隅角緑内障に対してよりも大きな眼圧下降効果が得られる」とエビデンスレベル1Bで示されている1)

術式の選択肢:眼外法のほか、マイクロフックトラベクロトミー、眼内法(Kahook Dual Blade、Trabectome、iStent)などが広く行われる

第一選択の根拠:若年例が多く合併症が少ない、安全性が高い、術後管理が容易、将来の追加手術の選択肢を残せる

レーザー線維柱帯形成術:選択的レーザー線維柱帯形成術SLT)も有効との報告がある1)

濾過手術・その他

線維柱帯切除術トラベクレクトミー:より低い術後眼圧が必要な進行例に選択する1)代謝拮抗薬(マイトマイシンC 0.02〜0.04%)を併用し成功率を高める

チューブシャント手術:難治例・再手術例にAhmed バルブ・Baerveldt インプラントを適応2)3)

アルゴンレーザー癒着解離術トラベクレクトミー後の内部開口部閉塞(周辺虹彩前癒着形成)に対する低侵襲な代替法として報告されている5)

眼内ドレーン併用白内障手術PreserFloマイクロシャントなどMIGS併用も選択肢となりうる

春季カタルに伴うステロイド誘発性高眼圧症の15歳男児に対し、トラベクレクトミー後の周辺虹彩前癒着によるブレブ機能不全に対し、アルゴンレーザー癒着解離術が成功した症例が報告されている5)。アルゴンレーザー治療は外来で局所麻酔下に施行でき、再手術と比較して出血・感染・周囲組織損傷のリスクが低い5)

Q ステロイドを中止すれば眼圧は必ず下がりますか?
A

通常はステロイド中止後に眼圧は緩徐に正常化する2)7)。回復までの期間はステロイド投与期間におおむね比例し、数日〜数週で改善する例が多い。トリアムシノロン硝子体内注射によるものでは9〜12か月程度眼圧上昇が持続することがある6)13)。しかし長期使用により線維柱帯の組織変化が不可逆的となっている場合は、ステロイド中止後も眼圧が正常化しないことがある。このような症例では流出路再建術や濾過手術が必要となる1)ステロイド開始後2週間以内に眼圧チェックを行い、早期に反応性を把握することが重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ステロイド緑内障の主要な病態は線維柱帯における房水流出抵抗の増大である2)6)10)副腎皮質ステロイド線維柱帯細胞の細胞外マトリックス(extracellular matrix: ECM)成分の産生を亢進させ、房水流出路の透過性を低下させる。ECM成分の増加はフィブロネクチン・IV型コラーゲン・ラミニン・ミオシリンを含み、これらが線維柱帯細胞間隙に沈着することで流出抵抗が増大する2)10)

グルココルチコイドは線維柱帯細胞の細胞骨格に重大な影響を及ぼす。代表的な変化を下表に示す2)6)10)

分子変化作用結果
ミオシリン(MYOC/TIGR)発現増加細胞外分泌・凝集流出路閉塞
フィブロネクチン増加ECM沈着亢進流出抵抗増大
架橋アクチンネットワーク(CLANs)形成アクチン細胞骨格の架橋線維柱帯硬化
RhoA/ROCK経路活性化ストレスファイバー形成細胞収縮
MMP発現低下ECM分解の低下沈着物の蓄積

ミオシリン(MYOC)/TIGR遺伝子:TIGR(trabecular meshwork inducible glucocorticoid response)とも呼ばれ、ステロイドにより発現が誘導されるタンパク質である2)10)。MYOC変異は一部の原発開放隅角緑内障で知られるが、ステロイド反応性との直接因果は未確立である。近年の薬理ゲノミクス研究では、GPR158・HCG22などがステロイドレスポンダー性に関与する可能性が示されている10)

架橋アクチンネットワーク(CLANs)線維柱帯細胞内のアクチンがゲオデシックドーム状に架橋された構造で、ステロイド曝露で特徴的に出現する。CLANs形成は線維柱帯細胞の収縮性と機械特性を変化させ、流出路の機能を障害する10)

グルココルチコイド受容体と食作用

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グルココルチコイドは核内受容体であるGRα(グルココルチコイド受容体α)およびGRβに結合する。GRβはGRαのドミナントネガティブ抑制因子として働き、ステロイド抵抗性に関与する10)線維柱帯のECM変化と細胞骨格変化が重なることで、房水流出抵抗が増大する。

近年のモデルではALK5(TGF-β受容体)/VEGFC経路を介したシュレム管内皮細胞の変化が示されており、流出抵抗変化のさらなる機序が研究されている。

Q ぶどう膜炎性緑内障とステロイド緑内障はどう鑑別しますか?
A

鑑別には詳細な病歴聴取と経過観察が重要である1)ぶどう膜炎緑内障では炎症細胞や蛋白が線維柱帯に蓄積し、線維柱帯層板の浮腫や周辺虹彩前癒着が生じる。一方、ステロイド緑内障では線維柱帯の細胞外マトリックス変化(ミオシリン発現増加・CLANs形成・フィブロネクチン沈着)が主な機序として論じられる10)ステロイドを減量・中止して眼圧が低下すればステロイド緑内障を示唆する。一方、ステロイド減量で炎症が再燃し眼圧が上昇する場合はぶどう膜炎緑内障の可能性が高い。両者が合併している場合もあり、前房内細胞数・フレア値・隅角所見・眼底の炎症所見を総合して判断する。鑑別が難しい活動性炎症例では、線維柱帯切除術より流出路再建術が選択されることがある1)

ステロイド緑内障の研究は以下の分野で進展している。

  • 発症予測マーカー前眼部OCT線維柱帯形態の定量評価は、事前リスク評価の候補として研究されている
  • 硝子体ステロイド徐放製剤の比較:デキサメタゾン0.7 mgインプラントとフルオシノロンアセトニド0.59 mgインプラントでは眼圧プロファイルが異なり、リスク層別化と治療選択に役立つ13)
  • 薬理ゲノミクスGPR158・HCG22などの新規遺伝子座の同定が進み、ステロイドレスポンダーの遺伝的背景の全容解明が期待されている10)
  • ROCK阻害薬線維柱帯細胞の細胞骨格に作用するROCK阻害薬(リパスジル)は、ステロイド緑内障の分子病態との親和性が高く、臨床応用が広がっている
  • 低侵襲緑内障手術MIGS:マイクロフックトラベクロトミー、Kahook Dual Blade、iStent などが流出路再建術の選択肢として広がり、術後管理の容易さと合併症の少なさから第一選択として位置づけられつつある
  • 術後合併症への低侵襲対応トラベクレクトミー後の内部開口部閉塞に対するアルゴンレーザー癒着解離術の有効性が報告されている5)
  • 新規低力価ステロイド眼圧上昇作用を抑制した新規ステロイド(ロテプレドノール徐放製剤・フルオロメトロン誘導体)の開発

今後の課題として、ステロイドレスポンダーの遺伝的背景の完全解明、投与経路別の至適モニタリング間隔の標準化、新規低力価ステロイド製剤の開発、および硝子体内投与後の長期眼圧管理プロトコルの整備が挙げられる。臨床現場ではステロイド使用の開始前に十分なインフォームド・コンセントを行い、眼圧上昇のリスクと定期検査の必要性を患者に説明することが重要である。また他科(リウマチ科・皮膚科・呼吸器科・耳鼻科)と連携し、ステロイド投与を受けている患者への眼科定期スクリーニングを制度化することが望まれる。

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