Iluvien
フルオシノロンアセトニド(Iluvien・Yutiq)
1. フルオシノロンアセトニドとは
Section titled “1. フルオシノロンアセトニドとは”フルオシノロンアセトニド(fluocinolone acetonide; FA)は合成副腎皮質ステロイドの一種である。眼科領域では硝子体内に留置する持続放出型インプラントとして使用される。
現在FDA承認を受けた製剤は3種類存在する。IluvienとYutiqはいずれも非生分解性ポリイミドチューブ製で、長さ3.5 mm・直径0.37 mmの同一サイズである。1)硝子体内注射で投与でき、外科的埋植を要するRetisertとは投与法が異なる。
Yutiq
Retisert
含有量:0.59 mg
適応:非感染性後部ぶどう膜炎
承認年:2005年(FDA)
投与法:外科的埋植
インプラントは1日0.25 µg の初期放出量を維持し、36ヶ月間の持続的薬剤送達が可能である。2)Iluvienの対象患者は、以前にステロイド治療歴があり眼圧上昇を認めなかったDME患者に限定される。6)
含有量はIluvien 0.19 mg・Yutiq 0.18 mgとほぼ同一で、デバイスの物理的構造も同じである。1)承認適応が異なり、Iluvienは糖尿病黄斑浮腫、Yutiqは非感染性後部ぶどう膜炎に用いられる。4)
2. 適応疾患と対象患者
Section titled “2. 適応疾患と対象患者”FDA承認適応
Section titled “FDA承認適応”Iluvien(糖尿病黄斑浮腫):以前にステロイド治療を受け、かつ眼圧上昇を認めなかった糖尿病黄斑浮腫患者を対象とする。6)初回治療として抗VEGF薬が第一選択となるのが一般的であり、FAインプラントはその後の選択肢として位置づけられる。
Yutiq(NIU-PS):慢性の非感染性中間部・後部・汎ぶどう膜炎の患者に適応を持つ。4)再発性・難治性症例での有用性が報告されている。
オフラベル使用
Section titled “オフラベル使用”Irvine-Gass症候群(白内障術後嚢胞様黄斑浮腫):白内障術後に生じる嚢胞様黄斑浮腫で、発生率は0.1〜2.0%とされる。2)抗炎症治療への抵抗例にFAインプラントが使用されている。
Kiernan(2024)は持続性の術後嚢胞様黄斑浮腫に対するFAインプラントの2症例を報告した。2)症例1では中心窩網膜厚(CST)が668 µm から292 µm(56.2%減)へ、視力が20/70から20/25へ改善(15ヶ月追跡)。症例2では中心窩網膜厚 450 µm から293 µm(38.4%減)、視力は20/80から20/25へ改善(6週)した。
Marquesら(2021)は5眼3患者を対象に36ヶ月追跡し、CMT(中心黄斑厚)の減少が維持されたことを報告した。3)80%の眼で眼圧上昇を認めたが、いずれも点眼薬で管理可能であった。
匐行性脈絡膜炎:7年間の全身免疫抑制療法に不耐容だった1例にYutiqを使用し、投与後20ヶ月間の無再発が報告されている。5)
再発性両側NIU-PS:両眼性の非感染性後部ぶどう膜炎に対しYutiqを投与した症例では、最高矯正視力が右眼20/80から20/50、左眼20/70から20/40へ改善した。4)
以下の患者には投与しない。
- 眼または眼周囲の活動性感染症
- 視神経乳頭陥凹(C/D比)0.8を超える緑内障
- 薬剤成分に対する過敏症
- 後嚢欠損・破損のある患者(前房内迷入リスク)6)
全糖尿病黄斑浮腫に適応があるわけではない。Iluvienは以前のステロイド治療で眼圧上昇がなかった患者に限定される。6)糖尿病黄斑浮腫の初回治療では通常、抗VEGF薬が第一選択として用いられる。
3. 薬理作用・作用機序
Section titled “3. 薬理作用・作用機序”FAはステロイド共通の抗炎症作用機序を持ちつつ、持続放出型インプラントとして硝子体内に安定した薬物濃度を維持する。
- ホスホリパーゼA2阻害:アラキドン酸の放出を阻止し、プロスタグランジン・ロイコトリエンの産生を広範に抑制する。炎症カスケードの上流を遮断することで浮腫を軽減する。
- 血液網膜関門の安定化:タイトジャンクション構造を強化し、アデノシンシグナルを介した血管透過性を低下させる。
- 抗炎症メディエーターの抑制:サイトカインや炎症性タンパクの産生を幅広く阻害する。
FAはデキサメタゾンより力価が高い一方、Retisert(0.59 mg)より低用量での投与が可能であり、高力価維持と副作用軽減を両立している。4)
短時間作用型ステロイド(例:トリアムシノロン)は90〜140日で効果が消失する。2)これに対しFAインプラントは36ヶ月の安定した低用量送達を実現し、炎症再燃を抑制する。2)
抗炎症作用
ホスホリパーゼA2阻害:PG・LT産生を上流で遮断
炎症メディエーター阻害:広範なサイトカイン産生を抑制
浮腫軽減:炎症カスケードの根本を断つ
血液網膜関門の安定化
タイトジャンクション強化:関門構造を補強
血管透過性低下:アデノシンシグナルで制御
持続放出:36ヶ月の安定した薬効を維持
4. 臨床試験
Section titled “4. 臨床試験”FAME試験(Phase III・糖尿病黄斑浮腫)
Section titled “FAME試験(Phase III・糖尿病黄斑浮腫)”953名を対象としたシャム対照二重盲検RCTで、シャム:低用量(0.2 µg/日):高用量(0.5 µg/日)の1:2:2割付で実施された。7)
主要結果(24ヶ月時点)を以下に示す。6)7)
| 項目 | 低用量群 | シャム群 |
|---|---|---|
| 15文字以上改善 | 28.7% | 16.2% |
| 白内障手術率 | 80.0% | 27.3% |
| 緑内障手術率 | 4.8% | 0.5% |
3年時点では75%の患者が1回のインプラントのみで効果を維持した。6)
PALADIN試験(Phase IV・糖尿病黄斑浮腫)
Section titled “PALADIN試験(Phase IV・糖尿病黄斑浮腫)”95名115眼を対象としたオープンラベル試験。36ヶ月の追跡で以下の結果が得られた。6)
- 中心窩網膜厚改善:-60.69 µm(P<0.0001)
- 最高矯正視力改善:+3.61文字(P=0.0222)
- 治療負担の軽減:レーザー治療55%減、抗VEGF注射36%減、ステロイド注射78%減(いずれもP<0.0001)
- 眼圧管理:IOP>30 mmHgの発生率10.89%、緑内障手術率1.49%
PALADIN試験では、インプラント前後で抗VEGF注射は36%減少、ステロイド注射は78%減少し、治療負担の大幅な軽減が確認された。6)
Yutiq Phase 3試験(NIU-PS)
Section titled “Yutiq Phase 3試験(NIU-PS)”36ヶ月追跡の結果を以下に示す。2)
- 嚢胞様黄斑浮腫消失かつ非再発:34.5% vs シャム群2.4%
- 最高矯正視力 15文字以上改善:33.3% vs 14.7%
- IOP降下手術率:5.7% vs シャム群11.9%
インプラントは36ヶ月間薬剤を放出する。FAME試験では3年時点で75%の患者が1回のインプラントで効果を維持した。6)PALADIN試験でも36ヶ月時点で最高矯正視力改善が持続していることが確認されている。6)
5. 投与方法・用法用量
Section titled “5. 投与方法・用法用量”投与は外来での硝子体内注射として実施する。入院は不要である。手順の要点は以下の通りである。
- 挿入位置:角膜縁から耳下側4 mmの位置から刺入する
- 結膜の処置:結膜をずらして穿刺部位に重ならないよう配置する
- 理想的な配置:インプラントは視神経乳頭の下方かつ赤道部後方に位置するのが望ましい
- 位置確認:注射後、倒像検眼鏡でインプラントの配置を確認する
用量・放出プロファイル
Section titled “用量・放出プロファイル”6. 安全性と副作用
Section titled “6. 安全性と副作用”主要副作用の発生率
Section titled “主要副作用の発生率”主要な副作用の発生率を以下に示す。6)
| 副作用 | 発生率 | 管理方法 |
|---|---|---|
| 白内障(有水晶体眼) | 80.0% | 白内障手術 |
| IOP>30 mmHg | 10.89% | 点眼薬 |
| 緑内障手術 | 1.49〜4.8% | 切開手術 |
各副作用の詳細
Section titled “各副作用の詳細”白内障:FAME試験での有水晶体眼における白内障手術率は80.0%(vs シャム27.3%)と高率であった。6)投与前に患者への十分な説明が求められる。
眼圧上昇:PALADIN試験では10.89%でIOP>30 mmHg を記録した。6)多くは点眼薬で管理可能である。FAME試験での緑内障手術率は4.8%(vs シャム0.5%)、PALADIN試験では1.49%であった。6)
インプラント迷入:後嚢欠損やチン小帯断裂のある患者では前房内迷入のリスクがある。前房への迷入時は外科的除去が必要となる。6)
インプラント除去:除去適応は、コントロール不能な眼圧上昇・眼内炎・医原性網膜下注射・インプラント迷入などである。1)除去手技としては、25ゲージカニューラの弁を開放し硝子体腔内の圧力差を利用した吸引による非侵襲的な抽出法が報告されている。1)
インプラント除去が必要な場合、25ゲージカニューラの弁を開放し、硝子体腔内の圧力差を利用した非侵襲的手技で抽出が可能である。1)
オフラベル使用(Irvine-Gass症例)においても、5眼中4眼(80%)で眼圧上昇を認めたが、すべて点眼薬で管理可能であった。3)
7. 最新の研究と今後の展望
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望”進行中・予定の臨床試験
Section titled “進行中・予定の臨床試験”NEW DAY試験:Iluvien vs アフリベルセプト(抗VEGF薬)をDME未治療患者で直接比較する試験が進行中で、2025年に結果が予定されている。
エビデンスの拡大
Section titled “エビデンスの拡大”ネットワークメタ解析:YutiqはOzurdex(デキサメタゾンインプラント)と6ヶ月時点で同等の有効性を示し、長期評価においてより高いランクに位置するとの報告がある。4)
抗VEGF不応糖尿病黄斑浮腫:抗VEGF薬に十分な治療反応を示さない糖尿病黄斑浮腫症例への持続放出型ステロイドの使用が検討されている。6)
オフラベル適応の報告
Section titled “オフラベル適応の報告”Irvine-Gass症候群(白内障術後嚢胞様黄斑浮腫)への使用が複数の症例報告で示されており、2)3)難治性・再発性の術後嚢胞様黄斑浮腫における有用な選択肢として注目されている。また、全身免疫抑制療法に不耐容の匐行性脈絡膜炎への長期有効性も1例で報告されている。5)
インプラント除去技術の発展
Section titled “インプラント除去技術の発展”不要になったインプラントや迷入インプラントの除去に関する低侵襲手技の開発が進んでいる。1)硝子体腔内圧力差を利用した25ゲージカニューラによる抽出法は、切開を最小限にとどめる手技として有望視されている。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Valikodath N, Vajzovic L. Fluocinolone Acetonide Implant Removal From the Vitreous Cavity. Journal of vitreoretinal diseases. 2023;7(6):533-535. doi:10.1177/24741264231200730. PMID:37974914; PMCID:PMC10649446.
- Kiernan DF. SUSTAINED-RELEASE LOW-DOSE FLUOCINOLONE ACETONIDE INTRAVITREAL IMPLANT FOR CHRONIC POSTOPERATIVE CYSTOID MACULAR EDEMA: TWO CASE REPORTS. Retinal cases & brief reports. 2024;18(4):421-427. doi:10.1097/ICB.0000000000001404. PMID:36657153; PMCID:PMC11302583.
- Marques JH, Abreu AC, Silva N, Meireles A, Pessoa B, Melo Beirão J.. Fluocinolone Acetonide 0.19 mg Implant in Patients with Cystoid Macular Edema Due To Irvine-Gass Syndrome. Int Med Case Rep J. 2021;14:127-132. doi:10.2147/imcrj.s295045. PMID:33664598; PMCID:PMC7924132.
- Babel AT, Chin EK, Almeida DRP. Long-Acting Fluocinolone Acetonide Intravitreal Implant for Recurrent Bilateral Non-Infectious Posterior Uveitis. International medical case reports journal. 2022;15:665-669. doi:10.2147/IMCRJ.S384356. PMID:36444172; PMCID:PMC9700445.
- Siddiqui Y, Adams OE, Simmons MA, Yamanuha J, Koozekanani DD.. Sustained Control of Serpiginous Choroiditis with the Fluocinolone Acetonide 0.18 mg Intravitreal Implant. Case Rep Ophthalmol Med. 2022;2022:3962221. doi:10.1155/2022/3962221. PMID:36582298; PMCID:PMC9794418.
- Lim JI, Kim SJ, Bailey ST, et al. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2025 Apr;132(4):P75-P162. doi:10.1016/j.ophtha.2024.12.020. PMID:39918521.
- Flaxel CJ, Adelman RA, Bailey ST, et al. Diabetic retinopathy preferred practice pattern. Ophthalmology. 2024;131(1):P99-P168.