眼瞼縁所見
開口部閉塞所見:plugging(栓子)、pouting(開口部周囲の尖った隆起)、ridge(複数開口部を覆う堤状構造)を認める。
眼瞼縁血管拡張:開口部周囲の毛細血管拡張・テランジェクタジア。
粘膜皮膚移行部(MCJ)の移動:前方または後方への偏位。フルオレセイン染色で観察しやすい。
眼瞼縁不整:角膜と接触するラインの凹凸不整。
マイボーム腺機能不全(MGD: Meibomian Gland Dysfunction)は、マイボーム腺の慢性・びまん性の機能異常である。本邦のMGDワーキンググループ(2010)は「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり、慢性の不快感を伴う」と定義した4)。近年は、MGDが蒸発亢進型ドライアイの主因として位置づけられ、診断・検査・治療を包括的に整理する診療指針が公表されている3)。
国際的には、国際マイボーム腺機能不全ワークショップ(IWMGD 2011)が「終末導管の閉塞および/または腺分泌物の質的・量的変化を特徴とする慢性びまん性異常」と定義している1), 10)。TFOS DEWS III(2025)においてもMGDはドライアイの主要な寄与因子として位置づけられ、温罨法・眼瞼清拭・IPL・低レベルレーザー等のデバイス治療が管理アルゴリズムに組み込まれている8)。本邦のドライアイ研究会は「ドライアイ診療ガイドライン」(2019)を策定しており、蒸発亢進型ドライアイの原因としてMGDを重視している9)。
マイボーム腺は眼瞼の瞼板内に存在する大きな皮脂腺の一種である。非接触型マイボグラフィで観察すると、正常眼では上眼瞼に25〜30本、下眼瞼に15〜20本のマイボーム腺が存在する5)。各腺は中央の導管から枝分かれした多数の腺房(acinus)をもち、腺房上皮細胞(meibocyte)が全分泌(holocrine secretion)の様式でマイバム(meibum)を産生する。マイバムには100種以上の脂質(主にワックスエステル、コレステロールエステル、極性リン脂質、スフィンゴ脂質)と90種以上のタンパク質が含まれ、涙液膜最外層の脂質層(lipid layer)を形成して水層の蒸発を防ぎ、表面張力を下げて涙液膜の広がりを保つ1)。涙液油層厚(LLT: lipid layer thickness)は正常で60〜100nmとされ、MGDでは菲薄化する1)。
本邦のpopulation-based study(6〜96歳住民対象)では、年代別MGD有病率は以下の通りである3)。
| 年代 | MGD有病率 |
|---|---|
| 19歳以下 | 0% |
| 20代 | 11.8% |
| 30代 | 5.6% |
| 40代 | 21.6% |
| 50代 | 32.8% |
| 60代 | 41.9% |
| 70代 | 48.4% |
| 80代 | 63.9% |
加齢に伴いMGDが増加・増悪することが多くの研究で示されている。性別では男性と閉経後女性に多い3)。Aritaらの非接触型マイボグラフィを用いた研究は、ドライアイ患者の約86%にMGDが合併することを報告している5)。人種差も指摘されており、アジア人ではコーカサス人より高い有病率(3.5〜19.9%)が報告されている1)。本邦ではドライアイ研究会の推定で潜在患者を含め数千万人規模の患者がおり、日常診療で最も頻繁に遭遇する慢性疾患の一つである3)。
本邦MGDワーキンググループによるMGDの分類は以下の通りである4)。
臨床的には分泌減少型が多く、その中でも閉塞性MGD(oMGD: obstructive MGD)が最も一般的である。分泌減少型MGDの主病態は「導管上皮の過角化と腺房の萎縮」と整理される3)。萎縮性MGDは腺房がびまん性に萎縮した状態で、閉塞続発性と一次性腺細胞障害の両機序が提唱されている。
分泌増加型MGDには脂漏性マイボーム腺炎(seborrheic MGD: sMGD)が含まれ、閉塞性マイボーム腺炎との対比でも認識されている。上眼瞼の瞼板部を軽く圧迫すると正常者では透明なmeibumが出るが、脂漏性MGDでは分泌が異常に亢進し、下眼瞼縁に沿って涙液中に泡形成を認める。類縁疾患としては後部眼瞼炎、マイボーム腺炎、マイボーム腺炎関連角結膜上皮症(meibomitis-related keratoconjunctivitis: MRKC)があり、これらの概念整理が重要である3)。
国際的にはIWMGD 2011が分泌低下型(low-delivery)・分泌過多型(high-delivery)の枠組みで整理しており、分泌低下型の中で閉塞性が最多とされる1)。
MGDは蒸発亢進型ドライアイの最も一般的な原因である。マイボーム腺の機能低下により涙液脂質層が菲薄化すると、涙液の蒸発が亢進し、涙液浸透圧が上昇して眼表面に炎症が生じる。MGDからドライアイが発生し、慢性の眼不快感を起こすことがある。

MGDでは、以下のような自覚症状を丁寧に聴取する3)。
「ねちゃねちゃする感じ」と表現される粘稠感も特徴的である4)。症状は朝方に強いことが多く、視機能の変動を訴える場合もある。ただし、MGDと他の眼表面疾患を鑑別する特徴的な自覚症状は現時点で特定されていない3)。自覚症状の評価にはOSDI(Ocular Surface Disease Index)問診票が広く用いられる。MGDの症状はQOLに大きく影響し、眼刺激のみならず視機能の低下を引き起こすため、生活上の支障度を系統的に把握することが重要である1)。
MGD診断では、マイボーム腺開口部閉塞所見・眼瞼縁血管拡張・粘膜皮膚移行部の移動・眼瞼縁不整の4所見が有用である3)。
眼瞼縁所見
開口部閉塞所見:plugging(栓子)、pouting(開口部周囲の尖った隆起)、ridge(複数開口部を覆う堤状構造)を認める。
眼瞼縁血管拡張:開口部周囲の毛細血管拡張・テランジェクタジア。
粘膜皮膚移行部(MCJ)の移動:前方または後方への偏位。フルオレセイン染色で観察しやすい。
眼瞼縁不整:角膜と接触するラインの凹凸不整。
マイバム・腺の評価
マイバム性状:正常は透明な油脂。MGDでは混濁・粒状・練り歯磨き状を呈する。
島崎分類:母指による中等度圧迫での圧出性を grade 0〜3 で評価し、grade 2以上を異常とする。
マイボグラフィ:赤外線カメラで腺の消失(dropout)・短縮・屈曲を観察する。
涙液脂質層の菲薄化:干渉計で lipid layer thickness(LLT)を評価できる。
島崎のmeibum gradeは以下のとおり4段階で評価される4), 12)。
Aritaらが2008年に開発した非接触型マイボグラフィは、細隙灯顕微鏡に赤外線透過フィルター(700〜850nm)と小型赤外線CCDカメラを付属させるだけの低侵襲装置である5), 11)。赤外光は瞼板を透過しマイバムに反射されるため、マイボーム腺は高反射(白)として観察される。MGD患者ではマイボーム腺の消失(dropout)、短縮、屈曲、まだら化、拡張などさまざまな所見が混在する5)。
腺消失の程度はAritaマイボスコアで以下の4段階に分類される5)。
| マイボスコア | 腺消失面積 |
|---|---|
| grade 0 | 脱落なし |
| grade 1 | 全体の1/3以下 |
| grade 2 | 1/3〜2/3 |
| grade 3 | 2/3以上 |
コンタクトレンズ装用者では、非装用者よりマイボーム腺脱落が多いことが報告されている。装用年数が長いほど変化が目立ち、ソフトCL・ハードCLのいずれでも観察される16)。
MGDの発症には、以下の因子が関連する3)。
加齢とホルモン要因
眼部因子・外的因子
全身疾患
ニキビダニ(Demodex)感染
Demodex folliculorumは睫毛根部に、Demodex brevisはマイボーム腺・脂腺内に寄生する1)。加齢とともに寄生率は増加し、70歳以上では100%に達する1)。150例のコホート研究では前部眼瞼炎患者の90%、MGD患者の60%にDemodexが検出された1)。D. folliculorum は毛包基底細胞を直接障害し反応性の角化亢進を起こして円柱状フケを形成する。D. brevisはマイボーム腺を物理的に閉塞し肉芽腫反応を誘導して霰粒腫の発症を促進する1)。Demodexはまた細菌のベクターとして炎症を惹起し、酒皶を有する患者では遅延型過敏反応を引き起こしうる1)。Zhangらは、外部所見に乏しくても圧出meibum中に Demodex brevis が15匹検出された46歳男性のMGD症例を報告し、meibum直接検鏡の有用性を示した6)。
ソフトコンタクトレンズ装用はMGDのリスク因子の一つとされる。装用による瞬目時の機械的摩擦でマイボーム腺が短縮・脱落し、開口部が閉塞する可能性がある。CL不耐症の一因がMGDである場合もあり、MGD治療により装用の快適性が改善することがある。
本邦MGDワーキンググループが2010年に提唱した分泌減少型MGD診断基準は、以下の3項目がすべて陽性であることを要求する4)。この基準は国内で広く用いられている3)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1. 自覚症状 | 眼不快感・異物感・乾燥感・圧迫感などがある |
| 2. 開口部周囲異常所見 | 血管拡張・粘膜皮膚移行部の移動・眼瞼縁不整のうち1項目以上が陽性 |
| 3. 開口部閉塞所見 | plugging/pouting/ridgeなどの閉塞所見と、島崎 grade 2以上の圧出低下の両方を満たす |
MGDの評価では、以下の検査を組み合わせる3)。
生体共焦点顕微鏡、涙液蒸発量測定、涙液中炎症性バイオマーカー、細菌学的検査、meibumの生化学的解析は、いずれも現時点でルーチン検査としての位置づけは限定的である3)。涙液中のIL-1α・IL-1β・MMP-9の上昇は病態機序的には重要だが、検査機器と条件が標準化されていないため臨床応用には至っていない1)。
本邦の外来では、非接触型マイボグラフィを細隙灯顕微鏡のワークフローに組み込む方法が推奨されている5)。
一連の検査は通常3〜5分以内で完了し、患者の負担も少ない。マイボグラフィは患者への視覚的フィードバックとなり、治療モチベーションの向上に寄与する5)。
MGDの治療では、ゴールドスタンダードとなる単一治療は存在せず、段階的・併用的アプローチが基本である1,3)。本邦のドライアイ診療ガイドライン 2019 でもMGDを蒸発亢進型ドライアイの主因とし、温罨法とlid hygieneを第一選択とする治療アルゴリズムが示されている9)。TFOS DEWS III 管理・治療報告(2025)では、MGDへの標準的アプローチとして温罨法、in-office デバイス治療、IPL、低レベル光線療法(LLLT)、lid scrub、抗Demodex療法、blepharoexfoliationを組み合わせた段階的管理が提唱されている8)。
保存的治療(第一選択)
温罨法:眼瞼温度をmeibum融点以上に上げて分泌を促進する。市販の温熱アイマスクを用いて1日2回、5分以上継続することが推奨される。
眼瞼清拭:水で湿らせた綿球または市販クレンジング剤で瞼縁を清拭する。毎日の継続が原則。
meibum圧出:有田式マイボーム腺圧出鑷子を用いて10日〜1か月間隔で外来処置として実施する。閉塞性MGDが良い適応である。
人工涙液:涙液補充と眼表面保湿に用いる。
薬物治療(保険適用に注意)
| 治療法 | 診療上の位置づけ | 本邦保険 |
|---|---|---|
| 温罨法 | 基本治療 | 適用 |
| 眼瞼清拭 | 基本治療の補助 | 適用 |
| meibum圧出 | 閉塞性MGDで検討 | 眼処置 |
| ジクアホソル点眼 | MGD単独では通常実施しない。ドライアイ合併例では改善を期待できる | MGD単独では適用外 |
| アジスロマイシン点眼 | 症状・meibum所見改善を目的に検討 | MGD単独では適用外、眼瞼炎では効能・効果あり17) |
| ステロイド点眼 | 眼瞼炎合併時に短期併用 | 眼瞼炎合併時のみ |
| シクロスポリンA点眼 | MGD単独では通常実施しない | 適用外 |
| オメガ3内服 | 補助療法として検討 | サプリ |
| 抗菌薬内服 | 炎症が強い例で検討 | 適用外 |
| IPL | 専門施設で適応を確認して検討 | 承認・保険適用の確認が必要 |
| Thermal pulsation | 専門施設で適応を確認して検討 | 適用外 |
| Probing | 侵襲性があり通常実施しない | 適用外 |
Intense pulsed light(IPL)療法:500〜1200nmの広帯域高輝度非レーザー光を眼瞼周囲に照射する1), 8)。皮膚表面の血管内オキシヘモグロビンに吸収された光エネルギーが熱を発生させ、異常血管の熱凝固、細菌減少、Demodex駆除、meibum液化、上皮ターンオーバー抑制、線維芽細胞活性化、コラーゲン合成促進を誘導する1)。88眼のRCTでは3セッション(4週間隔)の連続治療で涙液中IL-17α・IL-6が有意に減少したと報告されている1)。自覚症状・開口部所見・meibum grade・BUT・角膜上皮障害の改善が複数のRCTで示されているが、国内での承認・保険適用の有無を確認したうえで専門施設で検討する必要がある。有害事象は眼瞼発赤・腫脹が最大13%で、いずれも軽度・可逆的である1)。
Thermal pulsation therapy(LipiFlow等):LipiFlow®(TearScience社)は瞼結膜側からの42.5℃加熱と外眼瞼側からの遠位→近位方向への拍動的圧迫を12分間同時に加える vectored thermal pulsation(VTP)デバイスである1)。瞼板内面に直接熱を加えられる唯一のデバイスで、上眼瞼温度を36.9℃から41.1℃へ、下眼瞼温度を37.0℃から42.0℃へ上昇させる1)。単回治療でmeibum分泌スコア・OSDI・SPEED・TBUTが1か月後に有意に改善し、3年持続の長期成績も報告されている1)。400眼のRCTでは単回LipiFlowが毎日2回10分間の温罨法+眼瞼清拭より有意に優れ、12か月時点で86%が追加治療不要であった1)。ドキシサイクリン3か月内服と比較しても同等以上の効果が確認されている1)。新型の半透明アクチベーター(Activator Clear)では装着位置確認が容易となり治療完遂率100%が報告されている2)。本邦では保険適用なし。類似機器のMiBo Thermoflo®は外部パドル42.2℃で加温するが瞼温度上昇効果は小さい1)。
Intraductal probing:閉塞導管にMaskinプローブ(1mm→4/6mmと段階的)を挿入し物理的に開通させる1)。25例のコホートで96%が即時症状改善を得たが、49例RCTでは客観所見の改善は限定的であった1)。侵襲的で他覚所見改善に乏しいため、通常は実施しない3)。
外来で施行される主な処置は以下のとおりである。
テトラサイクリン系:ドキシサイクリン・ミノサイクリンはテトラサイクリンよりも脂溶性が高く、低用量で眼組織と眼瞼に集積する1)。抗菌作用よりも抗炎症作用を主目的として使用し、MMP-8・MMP-9・TNF-αの抑制、リパーゼ産生抑制、遊離脂肪酸産生抑制を介して炎症を制御する1)。60例のRCTでミノサイクリン併用群は対照群と比較し全臨床指標とIL-6、IL-1β、IL-17α、TNF-α、IL-12p70が有意に改善したと報告されている1), 13)。副作用は光線過敏症・消化器症状で、妊婦・小児には禁忌である14)。
アジスロマイシン:マクロライド系で50Sリボソーム23S rRNAに結合し細菌タンパク合成を阻害する。抗菌作用に加え、NF-κB、IL-6、IL-8、TNF-α、MMP-9の発現抑制と抗炎症性TGF-β1の誘導作用を有する1)。点眼用として1%製剤(AzaSite®、米国)が利用され、短期投与で3か月持続する治療効果が報告される。経口アジスロマイシンは500mg×3日間を3サイクル(間隔7日)または週1回1g×3週間のレジメンが使用されるが、QT延長のリスクがあり心疾患既往例では注意が必要である1)。
シクロスポリンA 0.05%点眼:Restasis®として米国で涙液減少型ドライアイに承認されている。T細胞IL-2産生を阻害し抗炎症作用を発揮する1)。MGD単独への有効性は限定的であり、単独治療としては通常実施しない3)。
Lifitegrast 5.0%点眼:LFA-1拮抗薬で米国FDAのドライアイ承認薬。MGDへの専用エビデンスは未確立1)。
オメガ3脂肪酸内服:EPA/DHAの補充がmeibumの脂肪酸組成を変化させる1)。DREAM試験(n=499)ではオメガ3群と対照群でOSDI・Schirmer・BUTに有意差なしとの結果が2018年に報告され、エビデンスは相反する1)。本邦ではサプリメント扱いである点を踏まえて補助的に検討する3)。
ニキビダニ感染は加齢とともに増加し70歳以上では100%に達する1)。Demodex folliculorum は睫毛根部に、Demodex brevis はマイボーム腺・脂腺に寄生し、前者は反応性角化亢進を起こし円柱状フケ(cylindrical dandruff)を形成、後者は腺閉塞と肉芽腫反応を起こす1)。
ティーツリーオイル(TTO: Melaleuca alternifolia 由来)による駆虫が有効である1)。具体的には50% TTO lid scrubをクリニックで週1回、10% TTOを毎日自宅で1か月使用するプロトコルで、眼瞼縁の炎症軽減、涙液中IL-1β・IL-17の低下、眼表面刺激症状の改善が報告されている1)。TTOの殺ダニ活性本体は terpinen-4-ol であり、Cliradex®等の市販製品が利用可能である1)。オラルイベルメクチン200μg/kg単回(day 0とday 7)で難治性後部眼瞼炎のDemodex数とSchirmer・BUTが改善したとの報告もある1)。
Zhangらは外部所見に乏しく睫毛引抜検査でDemodexが検出されなかった46歳男性MGD症例で、瞼縁消毒後に圧出meibum中から15匹のD. brevisを直接検出し、TTO lid scrubで症状が軽快した事例を報告した6)。meibum直接検鏡がDemodex検出に有用であることを示す重要な症例である。
本邦MGDワーキンググループ2010の診断基準では、(1)眼不快感等の自覚症状、(2)開口部周囲異常所見(血管拡張・MCJ移動・眼瞼縁不整の1項目以上)、(3)開口部閉塞所見(plugging等と島崎 grade 2以上の圧出低下の両方)の3項目すべてが陽性であることを要求する。補助検査としてマイボグラフィとmeibum観察も有用である。
清潔なタオルを濡らして電子レンジで温める、または市販の温熱アイマスクを両眼に5〜10分間当てる。眼瞼温度を40℃程度に保つことが重要で、ホットタオルは気化熱で温度が下がりやすい点に注意する。1日2回、5分以上の継続が目安となる。温めた後にやさしく眼瞼をマッサージすると融解したmeibumの排出が促進される。
分泌減少型MGDの主病態は「導管上皮の過角化と腺房の萎縮」と整理される3)。腺房の萎縮は、マイボーム腺閉塞からの続発性の場合のみならず、加齢などによる腺細胞の一次的な障害の場合もある。
導管閉塞から腺房萎縮への進行
導管上皮の過角化とmeibum粘稠度の上昇が終末導管の閉塞を引き起こす1)。閉塞は腺房内圧の上昇を招き、腺房の萎縮・消失へと進行する。腺消失により脂質分泌が減少し、涙液脂質層が菲薄化する。
meibumの融点上昇
正常のmeibumは19〜32℃程度の融点をもち、33〜37℃の眼表面温度で流動状態を保つ1)。MGDではセラミド等スフィンゴ脂質の増加によりmeibumの融点が上昇し、重症例では40℃以上の加熱がなければ液化しない状態となる1)。これが温罨法・thermal pulsationの治療根拠である。
性ホルモンの影響
アンドロゲンはmeibocyte(マイボーム腺細胞)で脂質合成遺伝子を活性化し、角化関連遺伝子を抑制する1)。アンドロゲン欠乏・受容体機能不全・抗アンドロゲン薬の投与は閉塞性MGDと関連する。一方エストロゲンは脂質異化を促進し、IL-6やTNF-α等炎症性サイトカインの産生を刺激する1)。閉経後ホルモン補充療法とドライアイの関連は視床下部-下垂体-副腎軸抑制による副腎アンドロゲン産生低下で部分的に説明される1)。
細菌・炎症の寄与
眼瞼縁の常在菌(主にブドウ球菌)が産生するリパーゼはmeibumの脂質を分解し、遊離脂肪酸の増加が炎症を惹起する1)。眼瞼炎患者ではリパーゼ活性の増加とマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)産生が確認されている。MGD患者涙液中ではIL-1α、成熟型IL-1β、MMP-9、IL-6、IL-8、TNF-αの濃度が上昇しており、眼表面上皮障害の重症度と相関する1)。IL-1は上皮細胞の増殖と角化亢進を促進し、閉塞性MGDの悪循環を形成する。
PPAR-γ(peroxisome proliferator-activated receptor γ)は核内受容体スーパーファミリーに属し、転写因子として脂質合成や脂腺細胞の分化に関わる。meibocyteでは細胞分化と脂質合成で重要な役割を果たすと考えられており、MGDの病態解明ターゲットとして注目される3)。
スフィンゴ脂質と融点
MGDではmeibum中のセラミド・スフィンゴ脂質の割合が増加し、meibum lipid filmの安定性が低下する1)。セラミド含量の上昇はmeibum融点の上昇に直結し、40℃以上の加温でなければ液化しない状態を作る。スフィンゴ脂質はmeibumの物理化学的性質を変化させるのみならず、細胞増殖・分化・アポトーシス・炎症の細胞プロセスを制御しており、MGDの病態をさらに複雑化させている1)。
糖尿病と眼表面変化
2型糖尿病はMGDの増悪因子である。Haoらの302眼横断研究は、DED-DM群がDED単独群と比較し上眼瞼縁不整、眼瞼縁血管拡張、開口部pluggingグレード、眼瞼縁肥厚、上眼瞼マイボーム腺脱落、毛様充血、非侵襲的BUT(NIBUT)で有意に悪化しており、血糖値がNIBUT・眼瞼縁肥厚・眼瞼縁不整と有意な相関を示したと報告した7)。慢性炎症と微小血管障害が眼瞼縁と腺組織に及ぶ病態機序が提唱されている。
LipiFlow Translucent Activator:LipiFlowの新型半透明アクチベーター(Activator Clear)は、半透明素材により装着位置確認が容易となり、Huらの研究では治療完遂率100%が報告されている2)。治療後3か月までの自覚症状・meibumスコアの改善が確認されている。Blackieらの長期観察研究では単回LipiFlow治療で12か月にわたりmeibum分泌とドライアイ症状の改善が持続し、86%が追加治療を要しなかった15)。
鼻腔内神経刺激(intranasal neurostimulation):鼻腔内前部篩骨神経のパルス刺激は鼻涙液反射経路を介して涙腺分泌を誘導する。動物実験では1日3分・3週間の連日刺激で涙液量、脂質・タンパク濃度が増加し、涙液浸透圧が低下した1)。ヒト対象のRCTではAllergan TrueTear® Intranasal Tear Neurostimulator(ITN)が結膜杯細胞の脱顆粒、涙液メニスカス高上昇、下眼瞼中央のマイボーム腺温度上昇、涙液油層厚の増加を誘導することが報告されている1)。180日間・1日4回以上の使用でSchirmer値、角結膜染色、自覚症状がいずれも改善したとの非ランダム化オープンラベル試験も報告される1)。鼻腔内刺激によりマイボーム腺の形態(面積・周囲長)が即時に変化する所見も示されており、神経調節によるmeibum分泌促進の新たな治療戦略となりうる1)。
性ホルモン療法:Schiffmanらの多施設ランダム化試験では、局所テストステロン点眼液(0.03%)が6か月治療後にマイボーム腺分泌物の粘稠度を対照群と比較し有意に改善したとするARVO abstract段階の報告がある1)。局所アンドロゲンにより涙液油層厚とBUTが増加したとする研究もあるが、現時点で本邦・米国を含め承認された点眼製品は存在しない1)。5%テストステロンクリームの閉経期女性への応用(OSDI改善)、閉経後患者における経皮DHEA、女性ホルモン補充療法の眼科応用も議論されるが、いずれもエビデンス不十分で日常臨床には導入されていない1)。
IL-1受容体拮抗薬(Anakinra):組換え型ヒトIL-1RA(Kineret™)はリウマチで承認されている生物学的製剤で、ドライアイでのオフラベル使用で有効性が示されている1)。MGD患者涙液中のIL-1が病態形成に中心的な役割を果たすことから有望な治療標的だが、MGDへの臨床試験結果はまだ発表されていない1)。
IPLによる腺形態変化誘導:35例コホート研究でIPLが腺房longest diameter増加とunit density増加を誘導し、腺周囲の炎症細胞を減少させたとの報告がある1)。単なる対症療法を超えた組織修復効果の可能性が示唆される。
マイボーム腺遺伝子発現プロファイル:MGDではマイボーム腺の400以上の遺伝子発現変化が報告されている。アンドロゲン応答性遺伝子・角化関連遺伝子・脂質合成関連遺伝子が主要なターゲットとされ、分子標的治療の可能性が模索されている1)。
Mibo Thermoflo®・IRPL・低レベルレーザー:外部加熱デバイスやIRPL(broadband light)、低出力レーザーなど新規機器の比較試験が進行中だが、LipiFlowを超える有効性を示したデバイスは現時点で報告されていない1)。
MGD治療ではエビデンスに限界がある領域も多く、本邦主導のRCTによるエビデンス蓄積が今後の課題である3)。特に日本で実施可能な保存的治療(温罨法・眼瞼清拭・meibum圧出)の標準化プロトコルの確立、ドキシサイクリン・アジスロマイシン等の保険適用拡大のための国内試験、IPL・LipiFlow の薬事承認に向けた多施設試験が必要である。
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