加齢・機械説
主張:結膜の加齢性変化に眼球運動・瞬目・Bell 現象といった機械的影響が重なる
根拠:組織学的なマトリックス変性と,加齢に伴う発生率の直線的増加が対応する
結膜弛緩症は,球結膜の張りが失われて皺襞となった状態である。中高年に好発し,さまざまな眼不定愁訴の原因となる。加齢に伴い頻度が増加し,70歳以上ではほぼ全例に程度の差はあるものの存在する。通常は両眼性であり,下方耳側結膜に好発する。
日本のドライアイ患者を対象とした京都府立医科大学からの報告では,有病率が54%に達するとされている1)。日本の病院ベース大規模観察研究でも,加齢とともに弛緩の程度が直線的に増加することが示されている2)。
結膜弛緩症に類似する所見として眼瞼平行結膜皺襞(LIPCOF)がある。LIPCOF は下眼瞼縁に平行な規則的で細かい襞であり,断面積も結膜弛緩症より小さい。一方,結膜弛緩症はより広範かつ不規則な襞を呈し,管理法も異なるため両者の鑑別が重要である3)。
無症状例も多いが,不定愁訴を訴える中高年患者では本症の有無を必ず確認する必要がある。
結膜弛緩症は無症状であれば治療の必要はありません。しかし異物感・流涙・乾燥感などの症状がある場合には点眼治療を行い,改善しなければ手術を検討します。結膜弛緩症はドライアイと似た症状を呈するため,見逃されていることも少なくありません。不定愁訴がある中高年の方では結膜弛緩の有無を確認することが重要です。

結膜弛緩症自体は無症状のことも多いが,有症状例では症状は以下の3機序に大別される。
| 機序 | 主な症状 |
|---|---|
| 涙液層の不安定化 | 乾燥感・霧視 |
| 摩擦の亢進 | 異物感・充血 |
| 涙液流の遮断 | 間欠性流涙 |
弛緩結膜が下方の涙液メニスカスを占拠すると,その上に異所性のメニスカスが形成され,隣接する涙液層の安定性が低下する。また瞬目時に弛緩結膜が角膜や眼瞼縁に接触して摩擦が亢進する。鼻側に弛緩結膜がある場合は涙点への涙液の流れが抑制され,間欠性の流涙をきたしうる。
通常のドライアイでは一日の後半に症状が悪化するのに対し,結膜弛緩症では起床時に眼不快感が強い点が特徴である。下方視で症状が増悪し,読書時に霧視・灼熱感・乾燥感が増える。
合併症として特発性結膜下出血がある。これは摩擦亢進のメカニズムにより生じる。耳側球結膜の弛緩例では外側の皮膚弛緩を合併して外眼角部の皮膚炎を来すこともある。
鼻側に結膜弛緩症を有する患者ではドライアイ症状がより強く,Schirmer 試験値の低下やマイボーム腺脱落の増加が報告されている4,9)。
細隙灯顕微鏡検査で下眼瞼縁を越える余剰結膜を認める。程度はさまざまで,5時・7時方向にのみ認めるものから,6時方向にひだ状に波打つ高度のものまである。
フルオレセイン染色では弛緩結膜上の異所性涙液メニスカスが明瞭に観察される。弛緩結膜に隣接する部位では涙液層が菲薄化し,上皮障害を起こしやすい。
結膜弛緩症の中等度〜重度例ではドライアイ症状が有意に増加し,涙液層破壊時間(TBUT)も有意に低下する3)。患者の生活の質(QOL)も重症度および涙液異常と有意に相関することが地域コホート研究で示されている11)。
結膜弛緩症の病因は完全には解明されていない。病理組織学的には結膜上皮下のマトリックスを構成する膠原線維や弾性線維が疎となり,弾性線維に断裂像が認められる。これらの所見から結膜マトリックスの変性が発症に関与すると考えられている。発症機序には主に2つの仮説がある。
加齢・機械説
主張:結膜の加齢性変化に眼球運動・瞬目・Bell 現象といった機械的影響が重なる
根拠:組織学的なマトリックス変性と,加齢に伴う発生率の直線的増加が対応する
炎症説
主張:結膜下線維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)産生亢進がマトリックス分解を促進する
根拠:MMP とその阻害因子(TIMP)のバランス崩壊の所見がある
臨床的には結膜弛緩症が必ずしも炎症を伴うわけではなく,むしろ弛緩結膜の機械的作用が二次的に非特異的炎症を引き起こす場合が多いと考えられている。
結膜弛緩症のリスク因子として,加齢・女性・コンタクトレンズ装用・ドライアイ・遠視・瞼裂斑・紫外線暴露・眼瞼疾患が報告されている4)。
東京大学からの大規模観察研究(600名のコンタクトレンズ装用者と579名の非装用者)では,装用者で結膜弛緩症の頻度と重症度が有意に高く,特にハードコンタクトレンズ(RGP)装用者で顕著であった2)。RGP レンズの剛性が結膜に対する慢性刺激を増強するためと考えられている3)。
結膜弛緩症はマイボーム腺機能不全(MGD)やマイボーム腺脱落とも密接に関連する。脂質層の欠乏が潤滑低下を介して摩擦を亢進させ結膜組織の牽引を生じるとの仮説と,逆に結膜弛緩症が瞬目の完全性を低下させて二次的にマイボーム腺脱落を引き起こすとの仮説が併存している4)。
細隙灯顕微鏡で診断は概ねつく。下眼瞼縁を越える余剰結膜の範囲と程度を観察する。初期には弛緩結膜が間欠的にしか出現しないことがあり,強制瞬目試験(強く瞬目させて余剰結膜を顕在化させる)が有用である。
フルオレセイン染色を行えば結膜弛緩症の診断は容易になる。染色後に下方メニスカスを占拠する弛緩結膜の状態を観察し,強い瞬目により弛緩結膜の動きと角膜への接触の有無を確認する。鼻側では半月ひだによる涙液メニスカスの途絶との鑑別が必要である。
前眼部光干渉断層計(AS-OCT)は涙液メニスカス高(TMH)の定量評価に有用であり,結膜弛緩症による涙液メニスカスの減少が客観的に評価できる4)。
手術を念頭に置く場合,以下を細隙灯で評価する。
流涙症状を呈する結膜弛緩症では,手術前に涙道洗浄を行い,導涙系に通過障害がないことを必ず確認する。わずかでも通過障害があると,結膜弛緩症手術を行っても流涙症状は改善しない。結膜弛緩症は流涙症の鑑別として日本の外来診療でも見逃されやすい病態の一つである。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| ドライアイ | 夕方に悪化,BUT 低下,Schirmer 低値 |
| LIPCOF | 規則的・平行な襞,断面積が小さい3) |
| マイボーム腺機能不全 | 眼瞼縁所見・マイボーム腺圧出 |
| 半月ひだ(鼻側) | 通常構造物,涙液メニスカス途絶と誤認しやすい |
結膜弛緩症とドライアイは症状が重なることが多く,しばしば合併します。ドライアイは涙液の質・量の異常が主因で,通常は一日の後半に症状が悪化します。一方,結膜弛緩症は余剰結膜が涙液メニスカスを物理的に阻害するため,起床時に症状が強い傾向があります。フルオレセイン染色で弛緩結膜の有無を確認することが鑑別に有用です。
無症状の結膜弛緩症は治療を要しない3,5)。有症状例ではまず点眼治療を約1か月行い,効果が不十分な場合に手術を考慮する。
結膜弛緩症の症状は涙液層の不安定化や摩擦亢進による非特異的炎症で増強しうるため,まず防腐剤無添加人工涙液・粘膜上皮修復薬・低力価ステロイドの組み合わせで1か月程度治療する。
人工涙液・涙液分泌促進
防腐剤無添加人工涙液:1日7回
ジクアホソルナトリウム(3%):1日6回。涙液分泌低下例に有用
粘膜上皮修復
レバミピド(2%):1日4回
異物感に対する効果が期待できる
抗炎症
フルオロメトロン(0.1%):1日2回
低力価ステロイドとして,上記のいずれかに併用する
実際の処方は「人工涙液・粘膜上皮修復薬・涙液分泌促進薬のいずれか」に「低力価ステロイド」を加えた2剤併用を1か月試行することが推奨される。ステロイドを併用する場合は眼圧上昇に注意する。
点眼治療の臨床エビデンスでは,等張グリセロールと0.015%ヒアルロン酸ナトリウムを含む人工涙液の3か月投与で結膜弛緩症グレードが3から2以下へ有意に減少し,OSDI・TBUT・角膜染色も改善したと報告されている3,10)。一方で,0.5%ケトロラクと0.15%ヒアルロン酸ナトリウムの併用では OSDI は改善するものの結膜弛緩症グレード自体には有意な変化が得られなかった3)。
点眼治療で改善しない慢性症状(特に異物感・間欠性流涙・再発性の特発性結膜下出血)がある場合に手術を考慮する。手術療法では弛緩結膜の切除・縫縮・焼灼・高周波電気手術(HFR-ES)など複数の術式が用いられ,症例の弛緩程度や緑内障合併の有無に応じて選択する5,6,13)。日本では涙液メニスカス再建術(3ブロック切除法)が広く行われており,Tenon嚢を含む結膜下線維組織を切除して強膜との癒着を得る方法である。
| 術式 | 特徴 | 主な適応 |
|---|---|---|
| 涙液メニスカス再建術(3ブロック切除法) | Tenon 嚢を含む結膜下線維組織を切除し強膜との癒着を得る術式 | あらゆるバリエーションに対応 |
| 縫合法 | 弛緩結膜を円蓋部方向に擦り寄せ強膜に縫着 | 将来濾過手術の可能性がある緑内障合併例 |
| 焼灼法 | 弛緩結膜を焼灼し収縮させる | 軽度例 |
| 高周波電気手術(HFR-ES) | 4.0MHz ラジオ波で組織炭化なく縮小 | 非侵襲的治療を希望する例 |
結膜と強膜の癒着を強力に促す方法であり,弛緩のバリエーションに広く対応できるとされる切除法である。手順は以下のとおりである。
本術式では Tenon 嚢を含む結膜下線維組織を切除することで結膜が強膜組織に密着し,術後にはタイトな癒着が得られるため再発はまれである。
将来濾過手術(緑内障)を施行する可能性がある症例では切除法は適切ではなく,弛緩結膜を円蓋部方向に擦り寄せて強膜に縫着する縫合法を選択する。結膜下のリンパ管拡張が残存するため,3ブロック切除法に比べ完全な平坦化は得られにくい。
軽度例に対しては弛緩結膜を焼灼して収縮させる方法が用いられる。術後の結膜余剰消失率は80.6%と報告されている3)。Paste-pinch-cut 法や超音波式焼灼など派生術式も報告されている6)。
4.0MHz ラジオ波システム(Ellman International)を用いた新しい治療法であり,細い電極で弛緩結膜を縮小させる。組織炭化を伴わないため従来法より合併症が少ない。Youm らは韓国からの20眼の報告で90%の完全消失と OSDI スコアの有意改善を示した7)。Trivli らの40眼の報告でも有意な改善が得られ,術後合併症は軽度の結膜充血のみであった12)。Ji らの40眼の報告では全例で完全消失が得られ,OSDI・TBUT・角膜染色・涙液メニスカス面積すべてに有意改善が認められた8)。
術後2週で抜糸を行い,それまでは感染予防と消炎を徹底する。創離開防止のため眠前の眼帯装用を1週間行い,洗眼は術後3日後から許可する。点眼時に目を擦らないよう指導する。
術後処方は以下が推奨される(Tenon 嚢切除を行った場合)。
Tenon 嚢切除が不要であった場合は,ベタメタゾンの代わりにフルオロメトロン(0.1%)1日4回を用いる。抜糸後1週間は漸減しながらレボフロキサシン1日2回とベタメタゾン1日4回を充血消失まで継続する。
術後合併症として続発性リンパ管拡張症と縫合糸に対する肉芽腫がまれにみられる。前者は注射針穿刺で排液し,後者はステロイド点眼で対応,効果がなければ切除する。
3ブロック切除法(涙液メニスカス再建術)で Tenon 嚢を含む結膜下線維組織を切除し強膜にタイトな癒着が得られれば,再発はまれとされています。一方,縫合法のみでは弛緩結膜下のリンパ管拡張が残存するため,再発や球結膜の完全な平坦化が得られないことがあります。術式の選択は症例ごとの弛緩の程度や緑内障合併の有無に応じて判断されます。
病理組織学的には結膜上皮下のマトリックスを構成する膠原線維や弾性線維が疎となり,弾性線維に断裂像がみられる。重度例から採取した検体では,炎症所見を伴わない結膜下微小毛細血管拡張が一部に認められ,断裂した弾性線維と疎なコラーゲン線維の集合が多くの検体に認められる。下眼瞼と結膜の間の機械的な力が徐々にリンパ流を阻害し,リンパ管拡張と臨床的な結膜弛緩を生じるとの機序が提唱されている。
結膜弛緩症は涙液動態の3つの段階で障害を生じる。
第一に,円蓋部から涙液メニスカスへの涙液の流れを妨げ,円蓋部の涙液貯留槽を枯渇させる。有症状患者では無症状患者に比べて涙液メニスカスの回復速度が有意に遅い1)。
第二に,弛緩結膜が下方涙液メニスカスを占拠し,正常なメニスカスが消失して異所性メニスカスが形成される。これが涙液層の安定性を二次的に低下させる9)。
第三に,鼻側の弛緩結膜は涙点への涙液の流れを遮断して流涙をきたす。手術的除去によりこの流涙症は改善することが多い4)。
日本のドライアイ診療ガイドラインでは,上方の球結膜が強膜と離開する加齢性の結膜弛緩症や上輪部角結膜炎において,上眼瞼結膜と球結膜の間の Kessing space にも瞬目時の摩擦亢進が生じ,眼瞼結膜と球結膜の両者に上皮障害や炎症が生じうると述べられている。このため上方結膜弛緩を伴う上輪部角結膜炎では,上方の結膜弛緩症手術が奏効する。
結膜弛緩症はマイボーム腺機能不全やマイボーム腺脱落と密接に関連している。脂質層の欠乏による潤滑低下が摩擦亢進と結膜組織の牽引を生じるとの仮説と,結膜弛緩症が瞬目の完全性に影響してマイボーム腺脱落を二次的に引き起こすとの仮説が併存している4)。結膜弛緩症に対する結膜切除後に OSDI・TBUT・角膜染色・涙液メニスカス面積がいずれも3か月後に改善したとの報告もある4)。
高周波電気手術(HFR-ES)は従来の焼灼法や切除法と比べ組織炭化を伴わずに余剰結膜を縮小でき,完全消失率が90〜100%と報告されており術後合併症も少ないことから注目されている3,7,8,12)。プラズマベース結膜形成術やアルゴンレーザー光凝固術,paste-pinch-cut 法など新たな低侵襲治療も報告されている6)。
LIPCOF と結膜弛緩症の基礎的な生物学的メカニズムや両者の境界についてはなお不明な点が多く,標準化された評価法を用いた大規模多施設前向き研究が求められている3)。