手術・外傷関連
結膜ケロイド
1. 結膜ケロイドとは
Section titled “1. 結膜ケロイドとは”結膜ケロイド(conjunctival keloid)は結膜に生じるケロイド性瘢痕であり、結膜線維化(conjunctival fibrosis)とも呼ばれる。結膜の損傷や手術後に異常な創傷治癒反応が起こり、コラーゲン線維が過剰かつ持続的に増殖する良性疾患である。
結膜ケロイドは極めて稀である。皮膚ケロイドの好発因子と同様に、遺伝的素因を有する個人に好発する。遺伝性の角結膜ジストロフィに伴う結膜ケロイドが家系報告として記載されている。
結膜ケロイドは良性の瘢痕性病変であり、癌ではありません。ただし結膜の扁平上皮癌や母斑など他の結膜腫瘤と外観が類似することがあるため、正確な鑑別のために眼科での精査(場合によっては生検)が推奨されます。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”ケロイドの大きさ・位置・範囲により症状は異なる。眼刺激症状(異物感・痒み・灼熱感)が主訴となることが多い。角膜近傍や視軸上に位置する場合は霧視や乱視を生じうる。整容的な問題を主訴に受診することもある。
細隙灯顕微鏡検査では結膜上に白色〜ピンク色の隆起性腫瘤を認める。表面は平滑で硬く、瘢痕様の外観を呈する。周囲の結膜充血を伴うことがある。病変は輪部近傍に好発するが、結膜のいずれの部位にも発生しうる。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”結膜ケロイドの正確な原因は完全には解明されていない。身体の創傷治癒過程が過剰に反応した結果と考えられている。
遺伝的素因を有する個人では輪部領域の細胞分化過程に固有の異常があり、結膜上皮が皮膚様の増殖を示すことが示唆されている1)。長期間装用していたハードコンタクトレンズによる慢性機械的刺激と、皮膚ケロイド体質との合併から結膜ケロイドが形成された症例も報告されている2)。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”細隙灯顕微鏡検査
Section titled “細隙灯顕微鏡検査”結膜上の隆起性病変の範囲・色調・表面性状・血管パターンを評価する。ケロイドは白色〜ピンク色の硬い瘢痕様腫瘤として観察される。結膜ケロイドは結膜悪性腫瘍(扁平上皮癌・メラノーマ)と外見上類似することがあり、悪性腫瘍を疑わせる外観を呈した症例が報告されている1)。
確定診断は組織学的検査による。コラーゲン線維の過剰な増殖と線維芽細胞の増生を認め、ケロイドに特徴的な所見を確認する。悪性腫瘍を除外するためにも生検は重要である。
| 鑑別疾患 | 主な鑑別点 |
|---|---|
| 結膜母斑 | 色素性・平坦・安定 |
| 結膜乳頭腫 | 乳頭状・HPV 関連 |
| 扁平上皮癌 | 不整・浸潤性・潰瘍 |
扁平上皮癌は不整形で浸潤性の増殖を示し、結膜ケロイドとは治療方針が大きく異なるため、迅速な鑑別が不可欠である。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”軽度の症状には潤滑点眼薬(人工涙液)や眼軟膏により眼刺激を緩和する。嚢胞自体の縮小効果は限定的である。
ステロイド注射
Section titled “ステロイド注射”ケロイド内にコルチコステロイドを直接注射し、炎症を抑制して病変のサイズを縮小させる。トリアムシノロンアセトニド(TAC)が一般的に使用される3)。皮膚ケロイドのデータでは TAC 単独で 50〜100% の縮小効果と1年再発率約33%・5年約50%が報告されている3)。
保存的療法が無効な場合に切除が検討される。単純切除のみでは再発率が高いため、補助療法の併用が重要である3)。
切除後の再発予防として術後トリアムシノロンアセトニド注射、冷凍凝固療法(液体窒素による凍結)、放射線療法、5-FU 併用などが用いられる。皮膚ケロイドのメタ解析では TAC+5-FU が TAC 単独より縮小効果(92% vs 73%)が高いと報告されている3)。
結膜ケロイドは外科的切除後に再発しやすい疾患です。皮膚ケロイドと同様に、切除単独では再発率が高いため、ステロイド注射や冷凍凝固、放射線療法などの補助療法を併用する集学的治療が一般的に推奨されます。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”コラーゲンの異常増殖
Section titled “コラーゲンの異常増殖”結膜ケロイドの病態は皮膚ケロイドと共通する機序に基づく。創傷治癒過程において線維芽細胞が過剰に活性化され、I 型・III 型コラーゲンが異常に産生・蓄積される。正常な創傷治癒ではコラーゲンの産生と分解が均衡するが、ケロイドではこの均衡が産生側に偏る。
ケロイド体質は家族集積性を示し、遺伝的素因が強く関与する。遺伝性の結膜角膜ジストロフィに合併する結膜ケロイドの家系が報告されており、輪部領域の細胞分化過程に固有の異常が存在する可能性が示唆されている。
炎症と線維化
Section titled “炎症と線維化”慢性炎症は線維芽細胞の持続的な活性化を促し、ケロイド形成の促進因子となる。TGF-β などのサイトカインがコラーゲン産生を亢進させ、異常な瘢痕形成に寄与する。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Parikh JG, Khurana RN, Lai MM, Rodriguez A, Rao NA. Keloid of the conjunctiva simulating a conjunctival malignancy. The British journal of ophthalmology. 2007;91(9):1251-2. doi:10.1136/bjo.2006.112227. PMID:17709591; PMCID:PMC1954903.
- Zola E, van der Meulen IJE, Lapid-Gortzak R, van Vliet JM, Nieuwendaal CP. A conjunctival mass in the deep superior fornix after a long retained hard contact lens in a patient with keloids. Cornea. 2008;27(10):1204-1206. doi:10.1097/ico.0b013e318180e5b9.
- Morelli Coppola M, Salzillo R, Segreto F, Persichetti P. Triamcinolone acetonide intralesional injection for the treatment of keloid scars: patient selection and perspectives. Clinical, cosmetic and investigational dermatology. 2018;11:387-396. doi:10.2147/CCID.S133672. PMID:30087573; PMCID:PMC6063260.